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【第774回】 正当な読み筋が大事(2021年6月20日)
- 6:30起床。81.65 kg。
- 部分部分は正しくても,読み筋が間違っていると主旨が変わってしまうことには注意が必要という例に出会った。ぼくがtwitterでフォローしている方の何人かがRTしていたので知った,このtweetだが,ProNASがそんな(防疫にはPCRが不適当で簡易抗原検査しかないなんていう)論説載せるかなあと思って原文を読んでみたら,まったく主旨が違っていた。おそらく"If serial RT-PCR–based viral load measurements are not feasible for population screening at a given location, then high-specificity assays that are simpler and of lower sensitivity—so that SARS-CoV-2 is only detected at viral loads that are capable of transmission—are needed for repeat testing and SARS-CoV-2 pandemic control."という一文を拡大解釈しているのだろうが,コメンタリー全体から言えば末節だし,「もしスクリーニングのために継続的なRT-PCRに基づいたウイルス負荷量の測定が受け入れにくい場所があったら,」に続く代替案が,感染力があるウイルス排出を検出するために,特異度が高くて感度が低い簡易検査を繰り返し実施することだと主張しているに過ぎない。
- 原文は,ぼくも先月触れた,無症状の大学生と発症した病院サンプルで大規模に実施したRT-PCR検査でCt値を使って,無症状でも症状があってもウイルス負荷の分布には差が無くて,ウイルス存在量の90%は2%の人に存在しているとしたYang et al.の論文へのコメントとして書かれたもので,ウイルス負荷の個人差と時間経過に伴う変化から考えて,一時点で採取されたサンプルで陽性/陰性という二値判定をするのではなくCt値を使ってウイルス負荷を調べるべきと主張すると同時に,大量のウイルスが体内に存在していても発症しないdisease tolerance(疾病耐性)現象の重要性に注目して,そのメカニズムが炎症性サイトカイン抑制にあるのか,組織修復能力の高さにあるのか,ILCs(自然リンパ球)の作用なのか,などを調べることが新しい抗ウイルス療法の鍵になるのではないかと提言していた。イントロ部分で,PCRや次世代シークエンサーといった技術革新のおかげでウイルスによるパンデミックへの対応は大きく変わり,スペインかぜの病原体はアウトブレイクの後何年も経ってやっと見つかり,HIV-1はAIDS初報後2,3年で見つかったのに比べると,SARS-CoV-2は原因不明の致死的な肺炎が報告されてから何週間も経たないうちにゲノム配列がインターネットで誰でも入手できる状況になったという迅速さが,研究者やワクチン製造業者や診断ラボの活動に弾みをつけた,と書いて,Yang et al.の論文に触れるための導入部としているのが格調高くて,ProNASへのコメンタリーはこういう感じで書けばいいのかと勉強になった。
- まったく関係ないが,久々にProNASのトップページを見たら,Perri AR et al. "Dog domestication and the dual dispersal of people and dogs into the Americas"(ProNASのPerspective,2021年2月9日号)という大変面白いものが載っていた。ミトコンドリアDNAなどの遺伝子系統関係と分子時計から考察すると,ありそうなシナリオとしては23000年前にヒトとオオカミがシベリアで孤立したときにオオカミが家畜化されて犬が誕生し,その後に人が犬とともにアメリカ大陸に渡ったのだろう,と主張している。
- ドラゴンズは2-1で負けた。勝野投手は7回ツーアウトまでノーヒットピッチングだったのに,代打2人に打たれて負けという残念な負け方。
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