Latest update on 2021年7月4日 (日) at 18:43:39.
【第334回】 好天(2020年3月9日)
- 6:30起床。今日は好天。いろいろな相談メールに返事をしていたら時間が無くなったので,朝食はレトルトご飯とレトルトカレーとせとか1個で済ませた。
- 名谷キャンパスに出勤し,10時から1時間半ほど院生の論文投稿準備の相談。昼飯は米を炊く。人口分析本の校正刷りが届いたので校正作業開始。
- 英国の医療システムは,GPと呼ばれるかかりつけ医が通常の一時診療をし,入院や高度な医療が必要なら病院へ紹介するという点が確立しているが,GP向けのCOVID-19対応実践ガイド(2020年3月6日,BMJ)を見ると,咳,熱,息苦しさの症状が1つ以上あれば,(通常通り)GPに電話相談すること,となっている。その上で,発症14日以内にハイリスク国から帰ってきたか,COVID-19感染が既にわかっている人と濃厚接触があったら,直接地域のHealth Protection Teamに報告することとなっている。GPは重症と判断したら999に電話,軽症なら自己隔離を勧める,など,GPが果たすべき役割が細かく規定されている。GPは住民2000人当たり1人くらいの割合で存在しているはずなので,保健所のコールセンターよりずっと相談しやすいはず。やはりプライマリケアは大事だと思う。もちろん,GPを特徴とする英国NHSだって欠点がないわけではないが。
- 西浦さんたちのNishiura H et al. "Serial interval of novel coronavirus (COVID-19) infections", IJID, DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijid.2020.02.060(2020年2月27日受理)は,世界で既に発表されている28組の感染者=被感染者ペアデータの分析から,COVID-19のシリアルインターバル(最初の感染者の発症時から二次感染者の発症時までの時間。発症間隔という日本語を西浦さんは使っている)を推定した論文。中央値4日で,潜伏期間の中央値より短いことから,かなりの感染が未発症時に起こっていることを示唆している,と書いている。シリアルインターバルが短いので接触者追跡が難しいとも書いている。この論文が投稿されたのは2月14日だから,西浦さんがクラスター対策を着想したきっかけとなった論文が出た前日のことだ。
- 日本でも感染者1人から発生する二次感染者数のばらつきが大きいことは,3月2日の時点でNHKニュースにもなっていたし,厚労省のQ&A(3月2日にはQ12だったが,今はQ14になっている)にも載っていたが,プレプリントサーバにはNishiura H et al. "Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)."(2020年3月3日)としてアップロードされていた。著者はクラスター対策班のメンバーとなっている。伝播リスクが高い状況を同定するため,2020年2月26日までの11のクラスターの110症例を調べている(東京の4つのクラスター,愛知,福岡,北海道,石川,神奈川,和歌山からそれぞれ1つのクラスターを含んでいると書かれているが,残り1つはどこなんだろうか? 数え間違い? 書き忘れ?)。すべてのクラスターが室内環境(フィットネスジム,屋形船,病院,雪まつりの換気の悪いテントの食事スペースを含む)での濃厚接触と関連していたというのはNHKでの発表の通り。110症例のうち二次感染者を生み出していたのは27例(24.6%)しかいなかったというのもNHKでの発表の通り。この二次感染者数分布は,平均0.6,分散2.5で,閉鎖環境にいた感染者は,オープンエアの環境にいた感染者に比べて,18.7倍(95%CI: 6.0, 57.9)のオッズを示したこと,この分布の95パーセンタイルを超える(この場合,3人以上に感染させる)のをスーパースプレッディングイベントとすると,そういうイベント絡みの感染者は11人いて(=10%,というのは95パーセンタイルと矛盾するような気もするが,2人以上の感染者が絡むイベントがあるということだろう),そのうち9人は閉鎖環境で感染を発生させていたことから,閉鎖環境でのスーパースプレッディングイベントのオッズ比は29.8(95%CI: 5.8, 153.4)であったというのは顕著な結果だ(フィクションだが,川端裕人『エピデミック』の終盤で,フィールド疫学者島袋ケイトが真の感染源に気づいた場面で出てきたオッズ比より高い)。閉鎖環境がスーパースプレッディングイベントを起こすのは,フランスのスキーバンガローや韓国の教会や病院関係のクラスターを考えればありそうなことで,Disperson vs. Controlを考えれば,閉鎖環境での不要な濃厚接触を減らすことで,日本におけるRを1未満にするのに十分であると期待する,という主旨になっている。論文の主旨が,概ね3月2日から3日にメモした読み通りで良かった。クロ現プラスではオッズ比11というパネルが出ていたが,あれはデータが違うのだろうか。なお,たぶん,クラスター対策でこれくらい減るというシミュレーションの論文を別途投稿していると思うのだが,それはまだ見つからない。
- 北海道でも,東京都のオープンソースのコードを使って,道内の最新感染動向というページができた。ただ,少し残念なのは,本家の東京都はデータをCSVで公開しているのに,北海道はCSVでダウンロードする仕組みがない(少なくとも簡単には見つからない)点(もっと残念なのは,道庁の新型コロナウイルス感染症についてからリンクされていない点。都内の最新感染動向は東京都のドメインなので信用できるが,道庁がリンクしてくれないと真正性がわからない)。47都道府県で統一フォーマットでCSV公開されれば,厚労省がやらなくても自動集計できるのに。今後に期待か。
- Gigazineが新型コロナウイルス対策はとにかく「手洗い」に尽きるとWHOが様々な噂をメッタ斬りと題して,WHOのCoronavirus disease (COVID-19) advice for the public: Myth bustersを日本語でわかりやすく紹介している。これは良い仕事と思う。
- 帰宅後,行われたばかりの専門家会議についての報道を見たところ,3月19日までに北海道のクラスター対策がうまくいったかどうか評価するという見通しが示されたようだ。ただ,クラスター発生予防はそこで終わりではなく,ワクチンか治療薬が見つかるか,国内終息まではずっとやらなくてはいけないはず。テレビの報道は19日までは,みたいな伝え方をしているのが怖い。尾身先生が説明された,「換気が悪い」「多くの人が密集」「近距離で会話や発声あり」という条件は,クラスターが発生しやすい条件なので,この3条件が重なる場を避けることは,少なくとも,その地域の新規感染者がゼロの状態が2週間続くまでは必要になるだろう(新規感染者が1人検出されることは,おそらくその10倍は感染者がいることを意味するので)。
- 逆に大型イベントでも,換気が良く,声を出さず,密集しないなら,WHOのイベント実施ガイドラインに従ってやって良いという話になっていくのではないか。スポーツだと卓球やバドミントンは換気と両立しにくいので,やり方が難しいかもしれないが,野球やサッカーは観客の入れ方を工夫すれば実施可能であろう。
- ライブハウスや屋形船は(あるいは,北大の岸田直樹さんがさきほどtwitterで指摘していたようにお通夜などは),この3条件を避けるような営業形態を工夫しなくては,なかなか難しいだろう。演劇や音楽演奏は有料配信にする試みも始まっているし,スポーツジムは個室化とかインストラクターがインカムで指導するとか,やりようがありそうだ。夏になったら減るという言説も否定されていたが,夏になって減るという発想が間違っているのは,熱帯でも流行していること,COVID-19同様に新興感染症であった2009年の新型インフルエンザは日本でも夏から本格的に流行したことを考えれば最初から明らかだったのに,減ると思いたがっている人が多かったのは不思議だった。
(list)
▼前【333】(冷たい雨(2020年3月8日)
) ▲次【335】(カンボジア調査会議(2020年3月10日)
) ●Top
Notice to cite or link here | [TOP PAGE]