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【第345回】 長野へ移動(2020年3月20日)
- 深夜,途中からだがネット中継で専門家会議の記者会見を見ていたら(リリース;「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(3月19日)」本文;数日前に専門家会議から厚労省に出されていた輸入症例の増加が見込まれることから検疫体制を強化して欲しいという要望),大阪と兵庫の移動制限の件,専門家会議は知らないということだった。その後,大阪府知事から出てきた話では,大阪と兵庫でR>1になっていて,リンクが追えない例もあり,放っておくと1週間で4倍増するという数値予測を貰ったということだったので,理論疫学的な根拠があることがわかった。ということは,クラスター対策班の誰かが計算した結果を見て大阪が決断したという経緯なのだろう(兵庫県知事は何も聞いていないと言っていたことから考えると,何か正式に提案する予定があったとしても,それがされる前に先走ったということではないかと思われる)。会見で西浦さんが,北海道の場合も,知事の緊急事態宣言における外出自粛要請から,後に解析結果に基づいたクラスターが発生しやすい3条件が揃う場所を避けて欲しいという詳しい説明をしに行って理解して貰ったという話をしていたので,たぶんそれと同じ感じなのだろう(最初から正確な条件を知事から発表して貰うわけにはいかなかったのか,という記者からの質問に対する返答としてこの経緯を説明していたので,ケースバイケースになるということなのだろう)。あまり憶測を書いても良くないと思うが,結果的に,前回の週末前の北海道の外出自粛要請によって,クラスターの連鎖を防ぐことができたのと同様,今回も大阪と兵庫で大雑把に「3連休中の往来自粛要請」をすることで,市中感染者からの見えない感染がつながって同時多発的な感染者増加が起こること(これはたぶん,スーパースプレッディングイベントによるクラスター発生とは異なる。2日か3日ごとに,ある程度広い範囲で感染者が倍増していくような状況「オーバーシュート」が起こる構成要素の一つと考えられる。もしかすると,それが起こる条件がまだ良くわかっていないのかもしれない)が防げれば,それで良いということかもしれない。
- 発症間隔が5日程度なのに,2日か3日ごとに倍増という状況が意味するところは,複数の感染ネットワークが同時多発しているということだ。おそらく,3条件によるクラスター発生,マスギャザリングによるメガクラスター発生,リンクが追えない市中感染者からのR>1な感染の同時多発という3つのどれか,あるいは複数の組み合わせによって,感染者数の爆発的増加が制御不能になって医療的対処能力の上限を超えてしまった状態を「オーバーシュート」と呼ぶことにしたのだと思う。感染症疫学で確立した定義がある用語というわけではない(追記:Sakino Takahashiさんからの指摘からのスレッドで,保全生態学での個体数増加が土地の人口支持力を超える状況,もう少し遡るとマルサスが人口増加が資源増加を上回ることを指して使っていたらしいことに気づき,さらに,川端君がDiekmann and Heesterbeekの理論疫学のテキストでも使われていると指摘してくれた。うーん,この言葉に対してinsensitive過ぎたのかもしれないが,記憶になかった。ただ,Diekmann and Heesterbeekを確認したところ,人口規模とアウトブレイク後に残っている感受性の人の割合(感染しなかった人の割合)の関係式で,人口規模が大きいほどR0が大きくなり,この割合が小さくなることが"overshoot phenomenon"である、と書かれていて、若干意味が違いそうだった……適切な用語設定は難しい)。
- 専門家会議の分析・提言は,リンクした本文をちゃんと読めば良いと思うが,ざっくりまとめると,現状何とかもちこたえていること,北海道でのクラスター対策に一定の成果があったこと,オーバーシュートを防ぐことの重要性,地域ごとの感染状況(Rtの値,新規発生者数の変化傾向,リンクの追えない感染者数の変化傾向により総合的に判断する)に応じた対応をすべきこと,クラスター発生防止のための一人一人の協力の必要性(どこまでの行動変容や社会的規制なら持続可能なのか一緒に考えて欲しいと,西浦さんは何度も言われていたが,その点こそマスメディアがやるべき役割だろう)が要点だったと思う。オーバーシュートを除けば,概ね思っていた通りだった。オーバーシュートの危険が強調されていたのは,武漢だけでなく,欧米でもオーバーシュートが起こったのが,それだけ衝撃的だったということだろう。あと,マスギャザリングイベントについては専門家の間でも意見が割れているそうだ。現在の世界の状況では,国際的に人が集まるイベントをやったらオーバーシュートの引き金になる可能性は非常に高いので,オリンピックは止めろと言いたいに違いないのだが,それを明言しなかった(専門家会議では議題に出ていないとのこと)のは,相当強い圧力が掛かってでもいるのか?
- それにしても,西浦さんが相当お疲れのようで心配になった(逆に,ああいう場面での尾身先生の強さには恐れ入った)。クラスター対策班や保健所,地方衛生研,臨床医療従事者といった最前線の方々のsustainabilityも考えていかないと(専門家会議の分析・提言にも滲み出ていたが)。それは医療行政の仕事で,官僚の皆さんはそういう面をバックアップして欲しいところだが,急に充実させられるものでもないような気がするし,難しいところか。英国でやっているように,定年退職後の方を緊急再雇用するとかいったことは,日本はやっていないのだろうか。
- レトルトカレーとレトルトご飯で朝食を済ませ,浴槽に湯を張って入浴後,残り湯で洗濯中。干してから名谷キャンパスに行き,夜は黙って大阪駅に行き(兵庫からの往来自粛要請は出ているが,レジャーではないので仕方がない),夜行バスで長野に帰り,4月から就職する娘の引っ越しにかかわる,いろいろなことの手伝いをする予定。
- 尾辻かな子議員のtweetで,第9回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議から,大阪・兵庫にクラスター対策班が西浦さんの名前で提案した資料(Word形式)がリンクされていることを知った。とすると,やはり西浦さん本人からの提案だったのか(追記:このtweetによると,西浦さんの提案先はクラスター対策班であり,大阪・兵庫への提案という書類ではないらしい)。大阪,兵庫内外の3週間の往来自粛要請は,クラスターの連鎖を分断するための第1段階としての提案と書かれていたのは,少し意外だった(しかし大阪・兵庫間の往来自粛要請ではないし,3日間でもなかったので,そこは大阪府知事の勇み足なのではなかろうか)。クラスターではない同時多発的な市中発生からの感染を抑制するためではなかったようだ。深夜に書いたことは深読みしすぎだったかもしれない。
- さてしかし,大阪と兵庫がこの状況だと,ある程度のsocial distancingはしなくてはなるまいな。昨日の教員会議で主張した通り,4月20日になっても状況が好転していると期待できる根拠はないので,むしろ講義日程は予定通りにしておいて遠隔講義を進める方が良いと思うし,休校するなら全体的なsocial distancingの一環としてやらないと意味がないが。
- いかん,精神的にだいぶ疲れてきたな。
- 今日はNPB開幕予定日だったが,延期されていて(これも日数の決め方の根拠が良くわからないが),カープとドラゴンズはマツダスタジアムで練習試合だった。柳投手が6回1失点の好投で,打線も集中打により4点を挙げ,最後のクローザー岡田投手の2失点は不安だが,勝ったのは良かった。
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