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【第759回】 人口学会1日目と大学院オープンキャンパス(2021年6月5日)
- 6:00起床。82.15 kg。
- 今日は9:00からずっと人口学会(プログラム;要旨へのリンク付き)で,終わった後の17:30からオープンキャンパスの研究室紹介をする。
- メディアのウイルス変異株の呼び方の適当さが気になって仕方がない。とくにPango Lineageの命名法の"."を省略するのは止めて欲しい。あれはRのバージョンと同じく"."で区切られた整数に意味があるので,B.1.1.1.36だったC.36をC36と書いてはいけない。TBS NEWSの記事には「国内では見つかっていなかった」とあるが,Pango Lineageによると去年の春にはエジプトで報告されていて,日本国内報告も6例あるらしいのだが,この6例って全部最近なのか?
- よく参照される命名法には,Pango Lineageのものの他にNextstrainのものもあるが,2021年5月31日に,名称が複雑でわかりにくいからメディアなど非科学者コミュニティが参照しやすいようにということで,WHOがギリシャ文字のラベルを付け始めた。このWHOのラベルは,系統関係とも含まれている変異とも関係が無く,VOCとVOI別々に検出順に付けられているので(VOCについてみると,変異株として世界的に最初に注目された「英国で最初に見つかった変異株」ことB.1.1.7がAlpha,次に注目を浴びた「南アフリカで最初に見つかった変異株」ことB.1.351がBeta,次に注目を浴びた「ブラジルで最初に見つかった変異株」ことP.1がGammaとなっている),WHOの表を参照しないと何なのかがわからない(例えば,VOIであるB.1.617.1がKappa,系統的には近いがVOCであるB.1.617.2がDelta)。それでも,初めて検出された国の名前を使って「○×株」と呼ぶのに比べると,差別や偏見を避けることができるから,良いラベルなのかもしれない(VOCとVOI別々に報告順にAlpha-DeltaとEpsilon-Kappaになっているから,ずっとフォローしていればわからないこともないかもしれないし)。ただ,VOIからVOCに指定が変わったり,新たにVOCにしたい株が出てきたらどうするのだろう?
- 人口学会シンポジウムを聞きながらメモを少ししておく。考古人口学における骨からの死亡年齢分布の推定,かつてはLovejoy (1985)が標準的に使われていたが,高齢で亡くなった方の死亡年齢を過小評価する傾向があり,その後に提案されたBuckberry and Chamberlain (2002)も骨の状態と年齢を一対一対応させていた(ChamberlainはDemography in archaeologyの著者)。実は骨の状態ごとに確率的に年齢分布があるので,参照標本と事前確率を使ってベイズ推定した,というのが今日のシンポジウムで2人目に喋った長岡さんの発表だった(Chamberlainのテキストにもベイズ推定の話は説明されているが)。オホーツク文化人の死亡年齢分布において,これまで数パーセントしかないと言われていた55歳以上の人も20-40%あると推定されたとのこと。PubMed上でLovejoy (1985)のcitationを見ると,実はこの分野,最近の発展が著しくて,脊椎骨からの年齢推定の新しい数式とか,安定同位体を使ってみたり,歯のDNAのメチル化を使ってみたり,いろいろ新しい方法が提案されているのだなあ。とりあえず2019年のレビュー論文を読んでみよう。次の蔦谷さんの発表も古人骨のコラーゲンの窒素安定同位対比を調べて,授乳中はδ15Nが上昇し,離乳すると下がることを使って離乳年齢を推定し,離乳年齢が高いほど出産間隔は長くなるであろうから出生力が低くなるはず,というアクロバティックなロジックだが,大変面白い。推定された年齢ごとの安定同位対比の変化から離乳年齢を推定するためのRのパッケージを開発されているのが素晴らしい(これ,現代の途上国小集団の研究ならば,子供のδ15Nよりも出生間隔との関連が近いはずの,授乳中の女性のホルモンレベルの変化にも使えそうな気がする)。最後の井原さんの話は,Ihara and Feldman (2004)だな(それを引用している最近の論文だと,Fogarty et al. (2019)やCollins and Page (2019))。Boyd and Richersonよりは数式化されているので定量的な議論が可能ではあるが,Monique Borgerhoff-Mulder (1998)が指摘している,仮定の蓋然性というか妥当性の検証は依然として不十分なように思った(実はそこが結構大事なところで,低出生の方が社会経済的成功を収めやすいという仮定は社会のあり方に依存していて,そういう社会はたぶん福祉が不十分な冷たい社会なので,それがトレンドセッターたりうるという出発点を所与の物として肯定するのは危険な考え方だと思う)。
- 会長講演で触れられていたHatch et al. (2021)というのは,この論文だな。低BMIというから痩せた男性に限ってのことかと思ったら,BMI<25なので,過体重や肥満でない男性では,という意味だった(スマホをズボンの前ポケットに入れると受胎確率が落ちるという話)。COVID-19の出生力低下影響については,UNFPAのレポートやUKのCPCという研究所のワーキングペーパーなど,いろいろ報告がでている。
- 総会が早めに終わった(来年度の開催校挨拶で6/11-12という日程を言っておいた方が良かったのではないかと思ったが,質問が出なかったからいいのか)後,NPBをチェックしたら4-3で勝っていたところから,8回裏に4番ビシエド選手と5番髙橋周平選手の連続ホームランが出て6-3と差を広げ,9回表を又吉投手がきっちり抑えて快勝だった。髙橋周平選手のホームランは物凄い弾丸ライナーで,まるで大谷選手の15号の再現のようだった。
- 17:30からの大学院オープンキャンパスは1人だけ,検査専攻の3年生が来てくれて,博士後期のネパール人留学生も来てくれたので30分ほどいろいろ喋った。イメージ湧いただろうか。
- 昼で食材が尽きたのでLIFEに買いに行き,晩飯を済ませた後で,20:00から再びオンライン会議の予定。明後日締め切りなのだが査読がなかなか進まない。もちろん火曜の保健行政論の講義準備も忘れてはならない。この通知は見逃していたが,この辺りも目配りして資料に入れなくては。
- 20:00から1時間ほどCOVID-19関係でオンラインのディスカッションをしたら疲れ果てていることに気づいたので,先日通販で買ったAWAJI BEER Altを飲みながら「コントが始まる」を見てすぐに眠ってしまった。
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