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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『聖域』

書名出版社
聖域講談社文庫
著者出版年
篠田節子1997(単行書は1994年)



May 07 (fri), 1999, 18:42

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

最近,未読の篠田節子作品を見かける度に買ってしまうのだが,期待を裏切らないのはさすがである。

この作品は,文芸誌編集者が,たまたま手に取った未完の作品「聖域」に惚れ込んで,作家を捜し,完成させることを追求するという筋である。求道者の話ともいえ,その点は「カノン」に通じている。全編を通じて問い続けられるテーマが死生観であるという点でも,文芸作品の力という点でも,川又千秋の「幻詩狩り」を思い起こさせる。「幻詩狩り」のテーマが言葉の魔力そのものであった(その点で宗田理「ぼくらのグリム・ファイル」と相通じるものがある)のに対して,この作品は言葉を通じて描かれる世界の中身の方に重点がおかれていて,そこに日本人の源流といった要素がオーバーラップしてくる点が特徴的である。提示されるビジョンそのものはそれほど目新しいとは思わないが,物語の構成力が秀逸なので最後まで一気に読まされてしまった。

ただ,「老化と遺伝子」なんか読んでいると,こういうビジョンには共鳴しにくいんだよな。「幻魔大戦」に熱中していた高校生のぼくだったら,もっと大きな感銘を受けたのかもしれない。


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