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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『路上日記』

書名出版社
路上日記ペヨトル工房
著者出版年
野村誠1999



Aug 26 (thu), 1999, 13:59

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

これは,著者が「生活のために,かつ芸術のために」196回にわたる路上演奏をすることを通じて出会った人々や町の描写を通じて,路上で演奏するとはどういうことか,果ては人が生きるとはどういうことかにまで思いを馳せさせずにはおかない傑作である。鍵盤ハーモニカ(正式名称はそういうらしい。小学校ではピアニカとして習うが)がここまで凄い音を出せるのか,と圧倒されるベートヴェンの「テンペスト」をも含む路上録音のCD付きなので,演奏の雰囲気を体験できる。作曲家である野村さんのオリジナル曲「神戸のホケット」には,何というのだろう,本物に接したときにだけ味わえる,背筋がぞーっとするあの感覚を感じた。いや,サザエさんやUFOやウィンター・ワンダーランドもいいんだけど。

凄いのはCDだけではない。ここで触れられている路上演奏の舞台は主に東京(山手線全駅制覇している!)だが,演奏をしているからこそ見えてくる町の雰囲気というものがきっとあって,それが実に生き生きと迫ってくる。CDを聞きながら,一気に最後までページを繰らずにはいられなかった。音楽好きならもちろん,東京の町に関心のある人には,是非読んで欲しい。筆者は,路上演奏を聴いてくれる「お客さん」に元気をあげるため,夢を諦めることはない,と何度も繰り返す。きっと,人間が好きなんだろうな,と思う。もう一つ書いておくと,すばらしい仲間たちとの出会いが胸を打つ。類は友を呼ぶんだよなあ,やっぱり。

是非一度,実際の路上演奏を聴いて,投げ銭してみたいなあ,と思うのである。チャンスがあれば鍵盤ハーモニカ教室に入れて貰えたら最高だろうなあ。

●税別2800円,ISBN 4-89342-239-1(Amazon | honto


Aug 31 (thu), 2000, 18:23

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

本書出版元のペヨトル工房が4月30日をもって解散し,在庫も処分するのだそうだ。ということは,本書を買うなら今のうちだということだ。詳細はhttp://www.tctv.ne.jp/members/peyotl/index.htmlをご覧頂きたい。


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