最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
天の瞳 少年編 I,II | 角川書店 |
著者 | 出版年 |
灰谷健次郎 | 1998,1999 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
さて少年編である。少年編では,小瀬倫太郎と仲間たちの小学校高学年から中学校前半の姿が描かれている。思春期前期,といった位置づけか。たぶん,時代背景は10年くらい前のものと思う。なぜなら,新幹線のホームの売店でマンガ週刊誌を立ち読みする場面が出てくるし,登校拒否や校内暴力が問題になっているし,外食中食化も取り上げられているけれども,学級崩壊はないし,なにより,テレビゲームがでてこないからである。
少年編Iで最も印象に残るのは,後半で登校拒否を起こした友達のリエに対する,倫太郎の呼びかけのデリケートさである。ここまで心が練れている小学生がいたら凄いと思う。ヤマゴリラという教師の描かれ方も面白い。はじめは箸にも棒にもかからない権威主義の塊のようだが,実は市井の植物学者であるということがわかり,しかも偶然フィールドで子どもたちと出会ってから,微妙に変化を見せる。少年編IIの最後で,傷ついた小瀬倫太郎とフィールドのヤマゴリラが出くわす場面は感動を誘う。ヤマゴリラを通して作者が描きたかったのは,一期一会を大事にすれば人は変わるということではなかったか。いや,ヤマゴリラだけでない。先入観にとらわれることなく,虚心坦懐に人に接しようというのは,本作品を通しての,作者の一貫した主張である。
一つわからないのは,浮気に対する考え方である。納得していればそれでいいっていうのか? なんか違うんじゃないかと思う。タケやんは悪くないけど,妻を悲しませるウエハラさんは,やっぱり最低の奴と思う。しかし,これも一つの原風景なのかもしれない。昔の映画によくこういう駄目駄目男が出てくるから。
なお,本書の思想的背景には,少林寺拳法の考え方が大きく反映されているらしい。全面的に賛同するわけではないが,自立と自律が大事だという基本には共感した。
●税別各1500円,(I) ISBN 4-04-873100-9(Amazon | honto),(II) ISBN 4-04-873100-9(Amazon | honto)