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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『十二国記』

書名出版社
十二国記講談社X文庫ホワイトハート
著者出版年
小野不由美



Apr 18 (tue), 2000, 14:44

KAZU <intpro.hbi.ne.jp> website

ごくごく普通の高校生陽子は普通の日常を生きながらも自分の居る世界でどこか違和感を感じていた。そんな彼女のもとにある日タイホと名乗る人物、そして、異形の獣達が現れる。タイホは陽子の前にひざまずき、そして、獣達に追われる彼女を連れ出すのだった・・・異世界へ。

このシリーズ一作目である「月の影 影の海」はこんなオープニングで始まる。

私たちがいる世界とあるきっかけでつながる別世界。そこには十二の国が存在している。この世界での王は麒麟と呼ばれる一国唯一の神獣が王としての素質を本能的に悟ったものを王として選び、選ばれた王は王としての資格を失うまで不老不死となる。

しかし、この世界での王は神獣に絶対的な素質を認められ選ばれたものであるのにも関わらず実に不完全で人間的であるのが印象的だ。不完全であるからこそ、人民のため、国のために悩み努力する。この悩むことができることこそがある意味においても「素質」「器量 」になってくるというのがおそらくこの作品のなかでの理想の王の形なのだろう。

また、王は王にふさわしくなくなった時点で国は荒れ、麒麟は病み、いつしか、王も病む。麒麟と王はこの点において契約した時より生死を共にしたといっていい。麒麟は血を嫌い、平和を好む。しかし、情けだけでは国は治めることが出来ず、王は時には非常な手段を執らざる終えない。とはいっても、国の侵略という概念はこの世界に存在せず許されぬ 事であり、他のファンタジーでありがちな国盗り合戦的なものは全く無く、王の担う最大の任務はいかに国を広げ勢力を広げるかではなく、いかに国を繁栄させ納めていくかという点に終始し、よって、起こる戦は外国との物ではなく、国内の謀反などということになる。このあたりの視点が今まで読んできた物とは違い面 白い。とても政治的なのである。政治的でありながらも何から何まで私たちの住むこの世界とは違う異世界であるのだ。

そんな十二の国それぞれの王、王になる人々、麒麟そしてこの世界に暮らす人々とそして「国を治めていくこと」を描いた物語である。

どの物語も、非常に重く痛々しい。国を「治めていく」ということはこれほどまでにもつらく厳しい事なのだ。しかし、それぞれの国王達はいかにもその国王らしい形で国政を敷いていく。この国王達(麒麟たちにおいても)が全く違う個性を持ちながらも、「選ばれた」王であるだけあり、それぞれが、様々な問題に突き当たりながらも、最終的には優れた采配を下していくのも印象的。

「ホワイトハート」で出版されているということで、抵抗を感じている人も多いかもしれないが、架空歴史物、もちろん本当の歴史物など硬質なものが好きな方にも安心してお勧めできる。講談社文庫でも発売になったのでこの機会に読み始めてみてはいかがだろうか?また、番外編として「魔性の子」というこちらの世界の物語がある。こちらは新潮社から出版されており、ホラー、神隠しという形態をとってはいるが、十二国記とつながっている物語である。この作品単品でも十分に読み応えがあるが、十二国記を知っている人が読むとさらに別 の世界が広がることになる。


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