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Woodの名著(1994)"Dynamics of Human Reproduction"のChap.7がわかりやすいですが、訳は受胎確率か受胎能力(雑ですが出生についての人口学講義資料として10年ちょっと前にまとめたもののp.10参照)です。Giniが「出産抑制がない既婚女性が1ヶ月で受胎する確率」と定義したのが始まりです。
受胎の中には本人も気づかないうちに自然流産する早期胎児損失(EFL=Early Fetal Loss)もかなりあるので,女性が妊娠に気づくまで生きていた受胎の月当たり確率を見かけの受胎確率(apparent fecundability)と呼びます(注:尿中のEarly Pregnancy FactorやhCGのモニタなどにより本人が気づかないうちに自然流産したものまで含めたすべての受胎の月当たり確率が総受胎確率となります)。ちなみに出生に至る受胎確率を有効受胎確率(effective fecundability)と呼びます。
当該グラフはWoodのテキストではFig.7.5にありますが,16-24歳は台湾,25歳以上は北米ハテライトという,2つの出産抑制をしていない集団における出産間隔データから推定された,見かけの受胎確率のモデルです。
性交頻度が25歳のままならピークが25歳で落ち方も緩やかというモデルもFig. 7.10に載っています。Fig.7.10は,それでも見かけの受胎確率が落ちていくのはEFLの増加によることも示しています。ただ40代になると総受胎確率自体急低下します。
ぼくは1996年にWoodの研究室に留学して彼らと一緒に研究していましたが,(文科省資料で引用されている)Kathyの論文はたぶんあのときやっていた閉経研究(米国の大勢の40代女性の尿を週2回ずつ集めてホルモンレベルの変化を追跡するという気の遠くなりそうなもの)の一環(女性のreproductive life courseを解明するという,広い意味で)だったと思います。だからこそWoodの本にも載っているapparent fecundabilityのモデルを引用したのであって,文科省資料の意図での引用元として適切ではないと思います。
性交頻度やEFLや授乳による産後無月経など(意図的避妊以外の)すべてをひっくるめた「妊娠のしやすさ」と考えれば,嘘とまではいえないかもしれませんが,誤解されやすい(あるいはそれを狙っているのか疑ってしまうような)表現ですね。もう少し丁寧な説明が欲しいし,Kathyたちもこの使われ方は不本意でしょう。
ちなみに、ぼくの後輩で東京大学助教の小西祥子さんを中心にして,出生の生物人口学的な研究が進められています。Woodの本のTable 7.1にもあるように集団間差も大きいので,現代日本について語るには現代日本のデータが必要です。
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