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【第336回】 領域会議など(2020年3月11日)
- 7:05起床。今日は2011年3月11日に東日本大震災が発生してから9年目。個人的な27年目の記念日でもあるのだが,地震と津波を思い出すと喜べない。
- 鶏もも肉とカット野菜をごま油で炒め,レトルトご飯と合わせて朝食。
- 注意深く厚労省のサイトや論文を見ていれば公表されていることでも,記者会見などでメディアが騒ぐまでは半月から1ヶ月近くのタイムラグがあるのは,リスコミ戦略なのだろうか(対策がうまく行かなかったらスペインかぜ規模のパンデミックになるという予測は1月末時点で立っていたことだ。このメモのその頃の記述を見ればわかる)。それってリスコミとして筋が良いとは個人的には思わないのだが。例えば,クラスター対策班が3月3日にプレプリントサーバにアップロードした論文(3月9日に紹介した)には,クラスター発生の場所として「室内環境(フィットネスジム,屋形船,病院,雪まつりの換気の悪いテントの食事スペースを含む)」と,「病院(hospitals)」が含まれているのだが,メディアが注目していないので,これもきっと半月後くらいになってから騒がれるのだろう。しかし,ぼくでさえクラスター対策が始まった直後の2月28日に考えたことだから,クラスター対策班や専門家会議は当然考えているだろう。入口なども含めた他の患者との完全分離は可能だろうか? もちろん患者自身が受診時点でわかっているはずはないのだから,何度か書いているように,個人的には,線引きとしては「肺炎外来」のような形にするしかないような気がするが,この「どこで線を引くか」という議論を,十分な情報共有をした上で,さまざまな分野の専門家や実務者がオープンに議論して摺り合わせて行くことが本来のリスコミの役割だと思う。
- 検査よりも大切なのは,情報の集約公表体制の整備と迅速化だと思う。何度も書いているように(昨日もtweetしたが),感染症法で1類から4類は全数報告することになっているので,COVID-19も指定感染症になった時点で(もちろん新感染症になっていたとしても同じ),全数報告疾患として医療機関→保健所→都道府県感染症情報センター→国立感染症研究所で集約してIDWRとして毎週発表というサーベイランスシステムは存在している(感染症サーベイランス事業)。しかし,この仕事は他の仕事もしている職員が兼務しているのが普通で,その人手も圧倒的に少なく,しかも手作業がほとんどであるため,例えば3月10日に最新のデータとして公表されたのが3月1日までの1週間であるという遅さになってしまっている。検査は都道府県衛生研究所や,今後は民間でもされるかもしれないが,そこから検査を依頼した医師にデータが戻ったら,自動的にオンラインで全国規模のデータベースにアップロードされ,即時に集計結果が公表されるというシステムを作ることは可能だったはずだ。それをすぐに実現することは難しいだろうが,医師から保健所への報告をオンラインにして(なっているかもしれない。現状は知らない),保健所や都道府県感染症情報センターに専従者を配置し,感染研の担当者を増やせば,毎日CSV更新くらいは可能ではなかろうか。
- もう十年以上前から思っているが,もう一つ情報の集約と公表体制を強化して欲しいのは,人口動態統計である。日本は,海堂尊『死因不明社会』に書かれているように,死後死因究明が積極的になされない場合が多いので,死因統計の信頼性は欧米に比べると低いが(とはいえ,全国がん登録が始まる前,地域がん登録への協力に地域差が大きかった頃には,DCO [Death Certificate Only] 割合という,死亡時に初めてその人のがん罹患が報告された割合を,がん罹患者数の推定の補正に使っていたくらいなので,そこそこ信頼できる),死亡届は必ず市区町村に提出されるので,数としての死者数については信頼できる統計がある。しかし,これも公表が遅くて,しかも個人レベルのデータを使うための手続きは,米国などに比べるとずっと面倒なのが欠点だ。2020年3月6日に公表された最新の人口動態統計月報は,2019年10月のデータなのである。これを見ると2019年10月の日本の死者数が113,257人だったことがわかるが,日ごとの値が知りたかったら死亡小票を請求して自分で集計するしかない(公衆衛生分野では随分前からNational Death Indexを作るよう求めているが,実現に向かうような動きは見られない)。人手が足りないのだとは思うが,半年前の値しかわからないのは,さすがに時間が掛かりすぎと思う。例えば,仮に,既にCOVID-19で亡くなっているのに検査されず診断されていないための過小評価があるとしたら,1月以降の日ごとの死者数が,発症間隔推定値である5日か6日ごとに指数的に増加しているはずであり,その増加分がCOVID-19による超過死亡と考えられるだろう(前年同時期と比べて季節性変化成分がないか検討が必要だが)。人口動態統計についても,その気になればオンライン即時集計システムもハードウェアとしては構築できるはずだが,政府はその辺りに力を入れてくれていないのが大変残念(それでも,医療現場やコミュニティレベルでとられているデータが自治体や全国レベルではまともに集計されない,というかつて途上国でよく見られた状況よりはマシなのだが,例えば戦闘機1台分の資金をこちらに振り分ければ,システム開発と運用に必要な専従職員の雇用くらいできるのではないか?)。
- インフルエンザについては,WHOがFluNetという世界規模のサーベイランスの仕組みを作っているが,それでも途上国からの報告値の信頼性が低いことは,予測を難しくしている。COVID-19については,流行早期からJohns Hopkins大学やWHOのArcGISを使ったサービスなどの形で感染者数と死亡者数の情報が提供されてきたし,日本でも多くの方がボランティアで情報収集し可視化してくれているが,おそらく情報収集部分が手作業なので,持続可能性に限界があると思う。地球規模で正確なデータを迅速に(できるだけ自動化して)集約し整理し,情報密度が低い国や地域からの情報については空欄が多くても良いので統一フォーマットの,CSVやXMLやJSONのような機械可読な形で公表する仕組みを確立することが必要だろう。それこそWHOが音頭をとってやったら良いと思うし,パンデミックになってしまった現在,GAFAなど巨大IT企業の協力を得たら可能と思うが。
- ハーバードSPHのProf. Lipsitchが3月9日に,感染拡大させそうなマスギャザリングイベントとしてボストンのSt. Patrick's paradeに反対していたが,今年は中止になったと発表されて良かった。
- 20年近く前に「マスメディアへの要望」という文章を書いたが,取材対象の「専門家」を正しく選んでほしいという項目を追加すべきかもしれない。Prof. Marc Lipsitchのこのtweetと,そこへのコメントによると,Washington PostやWall Street JournalはCOVID-19関連の記事は無料提供する仕組みを作ったらしい。COVID-19は人類共通の敵なので,学術誌の多くもCOVID-19関連論文をオープンアクセスにしているように,メディアもこれだけは無料(あるいは格安)にしたらどうか。そうすると,受けを狙う記事を出す必要がなくなり,結果として情報としての質も上がると思う。まあ,民放テレビは広告で回っていて,そもそも視聴者は金を払っていないから,そこには応用できないが。
- Prof. Lipsitchが指導している大学院生が筆頭著者になっている論文,Li R et al. "The demand for inpatient and ICU beds for COVID-19 in the US: lessons from Chinese cities"(2020年3月)が,ハーバードの機関リポジトリで公開されている。武漢市と広州市のデータから,米国においてCOVID-19の患者とICUベッドの需要がどうなるかを予測した論文。武漢のようなアウトブレイクが米国の都市で起こったら,年齢分布の違いを考慮すると,ピーク時には成人1万人当たり2.1-4.0人という重篤患者数が予測されるし,基礎疾患として高血圧がある人が多いことを考慮すると,その数字は成人1万人当たり2.6-4.9人になるだろうとし,それは米国の医療の許容量を超えると論じている。また,都市封鎖(lockdown)をしても,潜伏期間や入院から治癒あるいは死亡までの期間がかなり長いためもあって,武漢では1ヶ月後,広州では2週間後が入院患者や重症者のピークだったので,すぐに患者が減るわけではない,という点も指摘している。インペリグループの研究もそうだが,迅速性を考えると,重要な論文を大学の責任において公開するというやり方もありかもしれない。
- 安倍政権は非正規労働者にも日額4,100円出すとアピールしているが,賃貸集合住宅住まいで月収10万円で都市部に住んでいたら,その額ではとても憲法25条が保証する「健康で文化的な生活」はできないだろう。それよりも,一斉休校要請は取り消し,クラスター発生状況から休校の必要がある場合のみ休校(ただし学童保育も含めてすべて休み,屋外の散歩やジョギングは良いが人混みに行くのは禁止,と徹底する)とすれば,休校数が減る分,その間の生活保障として,政府が,全世帯均等に日額15,000円くらい出し,休校によって給食の納入をしている酪農家など一次産業従事者と食品加工業者,教職員にも政府が金を出す,くらいのことは同じ額でできるのではないか(試算したわけではないので自信はないが)。しかしどこかの世論調査で一斉休校を評価している人が6割以上いるという報道を見たので,安倍政権は取り消さないだろうなあ。なぜ明らかに不合理な施策を支持してしまう人がいるのか不思議でならないが。
- 14:46になるので黙祷。
- 神戸市は小中学校の休校を3月25日まで延長するという報道があった。COVID-19の流行が現在の神戸の状況なら,小中学校だけの休校には意味ないんだがなあ。
- 選抜高校野球中止が発表されたが,甲子園での野球は,選手にとってはクラスターが発生しやすい3条件に一つも当てはまらないので,無観客なら問題ないと思う。何の根拠もない全校休校なんてさせるから「選手の健康が第一」などという建前を押し通さねばならなくなる。はっきり言って安倍首相の暴挙と,それに逆らえない高野連のせいと思う。
- WHO神戸センターのCOVID-19特設ページに,2月24日に発表されているWHOと中国の合同ミッションによる報告書の,有志による邦訳が載った。
- JAMAのWang CJ et al. "Response to COVID-19 in Taiwan: Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing"(2020年3月3日掲載)はViewpointであって原著論文ではないが,Supplementとして提供されている表(いつ何をしたかの時系列一覧)が情報多くて良い。台湾がどうやってCOVID-19に対処してきたかをまとめたもの。
- 暫く前から注目しているクロロキンだが,Yao X et al. "In Vitro Antiviral Activity and Projection of Optimized Dosing Design of Hydroxychloroquine for the Treatment of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)" Clin Infect Dis(2020年3月9日掲載)が出ていた。培養細胞での実験だが,ヒドロキシクロロキン硫酸塩の方がリン酸クロロキンよりもEC50が小さいので低用量でSARS-CoV-2に効く可能性ありという主旨。
- Windows Updateで自動再起動が掛かって焦ったが,無事に1909の累積更新プログラム(KB4540673)の適用が完了した。
- メディア対応を含むメールの返事を打っていたら,『Rで学ぶ人口分析』の校正作業が進まないうちに23:30を過ぎてしまった。空腹だし帰るか。
- 帰宅後もメールの応答が必要で,2:00就寝。
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