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2019-nCoVについてのメモとリンク

リンク集目次

時系列メモ目次

Made by Minato Nakazawa, since 6th January 2020, updated on 23rd January 2024.

Contact address is minatonakazawa[at]gmail.com ([at] should be replaced by "@").

鐵人三國誌から,2019-nCoVについてほぼ時系列でつけたメモを採録し,若干補足しています(最新の更新だけ見たい方は,こちらではなく鐵人三國誌をご覧いただく方が便利だと思います)。なるべく公式発表や一次情報へリンク(以下のリンク集)するようにしています。後日整理するかもしれませんが,時間がないので,あまり期待しないでください。専門用語については感染症予防についての講義資料や,10年前に書いた「新型」インフルエンザ対策の公衆衛生学的視点が参考になるかもしれません。

筆者(プロフィール)は医療専門職者ではなく臨床は知りませんが,マラリアの感染症疫学についてはいくつか原著論文を書いていて,長年にわたり公衆衛生学と疫学を講義で教えています。2020年1月に出版された『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂)で,「感染症の疫学」という章を分担執筆しました。

(2020年4月5日記)2020年3月30日時点での,この文書の日本語まとめ(2020年4月11日追記:日本語まとめ第2版;2020年7月17日追記:日本語まとめ第3版;2020年7月25日追記:微修正した日本語まとめ第3-1版)を作りました。短時間で概要だけ把握したい方はそちらをご覧ください。英語まとめも作成予定です(2020年4月11日追記:Summary in Englishも作りました)。

(2020年5月15日記)30年以上前からの友人である作家でジャーナリストの川端裕人君からこのページの内容についてインタビューを受け,彼の言葉でわかりやすく紹介してくださった「研究室」に行ってみた特別編がWebナショジオで連載されています。無料公開ですので,このページだけではとっつきにくいという方は併せてお読みください。

(2020年10月14日記)2020年10月11日に神戸大学大学院保健学研究科の市民講座の1つとして,対策と患者数推移の国際比較について喋ったので,そのスライドもリンクしておきます。

(2020年12月26日記)2020年12月25日時点でのこのページ内容を,pandocを使ってそのままepub形式の電子ブック化しました(2022年1月14日追記:2022年1月14日アップデート版)。まとめて読みたい方には便利かもしれません。スマホのKindleアプリで読みたかったので,Amazon Direct Publishingを使ってKindle本にもしましたが,仕様上無料にできなかったので,99円になっています。内容はここで無料公開しているものと同じなので,買う必要はまったくありません。ただ,99円のうち32円(?)が著者に分配されるらしいので,もしある程度売れてしまったら,COVID-19対策関係で役に立ちそうなところに寄付する予定です(どこに寄付すると最も有効かがわからないのが問題で,RのCOVID19パッケージやそのデータを開発しているところは寄付の受付先が見当たりませんし,政策比較データベースを作っているCORONANETも寄付の受付先が見当たりません……今のところWHOを考えています)。

(2021年1月13日記)寄付先としては,ここが良いかもしれないと思いました。

(2022年2月4日記)I have briefly summarized the basics from the perspective of public health and human ecology as a presentation slides (in pdf) for the talk at the kick-off meeting of Campus-Asia on 15 Feb 2022.

(2022年12月10日記)2022年10月1日に行われた個体群生態学会のシンポジウムで、これからのCOVID-19対策、という題で喋ったので、プレゼン資料を公開しています。既に下の経時的なメモからリンクしていますが、ここからもリンクしておきます。

(COI表示)なお,筆者はこの文書による経済的利益は一切得ておらず,政府機関とも企業とも利害関係はありません。

(2020年7月19日追記)これまで一切の金銭的利益は得ず,招待講演の謝金もその学会に寄付などしてきたのですが,断りにくい筋からの依頼で断りきれず引き受けてしまった次の週末25日の「2020 糖尿病・内分泌疾患ジャンプアップセミナー」講演は謝金が出るそうです。また,1月発行予定の医学系の雑誌「内科」からの依頼原稿(「感染対策の数理モデル」)は,数理モデルについての解説で,主な読者が臨床医だということなので引き受けましたが,やはり謝金が出るそうです……とはいえ,既に日本内科学会雑誌第109巻第11号「新型コロナウイルス感染症特集」が公開されていて,その中には西浦さんが鈴木絢子さんとの共著で書かれた感染症の数理モデルと対策がありますし,たぶんモデルそのものについては他にもいろいろな方が書かれることは予想できていたので,この「感染対策の数理モデル」は,これまで数理モデルがどのように実際の対策に生かされてきて,COVID-19についてはどうなのか,という視点で書きました。元々そういう依頼だったので引き受けたのですが。

リンク集

MediaWiki版を作成中です。

国内外の状況

■国際的な状況
●感染状況:
●政策比較:CoronaNet(参考:Nature Human Behaviorの論文
■国内の状況
東洋経済の特設ページが見やすいと思う。簡易的な方法とされているが,西浦さんのモデルと監修に基づく実効再生産数(Rt)が推定され,報告されている。
●上述COVID19パッケージを使って日本の都道府県別新規報告数を描くサンプルコード
◎2023年5月8日以降、厚生労働省の全数報告は止まってしまい、5000定点からの週単位の報告(かなり時間遅れがある)はあるし、感染研も新型コロナウイルス感染症サーベイランス速報・週報:発生動向の状況把握(これも1週間以上遅れる)を出しているが、公式な新規発生数推計は存在しなくなった。西浦さんたちがメタコビというボランティアベースの報告集計プロジェクトをやっているが、システマティックではない。おそらく、全国約4000定点からの報告数を元にして新規患者数の推計値を毎日更新しているモデルナのサイトが、2023年夏現在、比較的信頼性が高いリアルタイム現状把握になると思われる。

Googleとハーバード大学国際保健研究所が,AIを使って,USA日本についての28日間の予測を日々更新しているが(説明),宮田さんがコメントされている通り,トレンド予測として目安にはなると思う。ただ,国内の状況については,検査体制と報告体制に起因する週間変動が入っていないように思われるので,一日単位での予測値にはあまり意味が無いと思うが。

政府機関・国際機関等

学術情報

疫学論文

分子生物学/ウイルス学論文

臨床医学論文

インフォデミック関連

ワクチン関連

出口戦略としてのワクチン

国内の承認について

国産ワクチン開発について

接種状況について

有効性の持続期間について

副反応について

変異株関連

情報源

概要

呼び方について

変異株別の感染報告数推移

国によるVOI/VOC指定の違い

時系列のメモ

以下は,ところどころ筆者のspeculationも入った,未整理の情報です。

新型コロナウイルス(2020年1月6日,11日追記 - 当該鐵人三國誌

日本ではあまり報道されていないように思うが,中国での原因不明の肺炎(リンク先はWHOのリリース)は,この段階での封じ込めに失敗するとPHEICになりかねないので,注意しておく必要があると思う。

大晦日の初発報告から1週間ちょっと経って,SARSともMERSとも異なる新型コロナウイルスが原因と確定し,とうとう死者が出た(1月11日初報)。大変心配。

インペリグループによる患者数推定(2020年1月18日 - 当該鐵人三國誌

毎日新聞でWuhanの新型コロナウイルスについて「英研究チーム」が感染者数が報告数よりずっと多いと推計したという記事が出たようだ(有料記事なので後半は読めていない)。発表したのはImperial CollegeのFergussonのグループでこれ。いくつかのシナリオで数理モデルで感染者数を推定しているが,おそらく1000人以上で,もっとも控えめな推計シナリオの95%信頼区間下限でも190人と書かれていた。筆頭著者のNatsuko Imaiさんは,感染症疫学の論文をいろいろ書かれている。二日熱マラリアの論文も書いてるのか。

患者数急増,西浦さんたちの論文(2020年1月20日, 23日追記 - 当該鐵人三國誌

中国当局が新型コロナウイルス感染者が200人を超えたと発表したそうだ(ProMEDによると患者198名,うち3名死亡だが)。たぶん隠していたわけではなく,発症と検出と報告には時間差があるということだと思う。インペリグループの発表が的中していたのは,ある意味当然か。

たぶん北大の西浦さんのグループも今頃は夜を徹して論文書いているだろうなあ。→(追記20200123)やはりそうで,インペリグループと類似の手法で中国国内での22日までのincidence推定をした論文がアクセプトされたそうだ。凄いなあ。

WHOはPHEIC宣言せず(2020年1月23-24日 - 当該鐵人三國誌

WHOはPHEICをまだ宣言しなかった。この文書によると予備的に計算したヒト=ヒト感染のR0が1.4-2.5,CFRは発表とともに変化しているが概ね2-3%くらいだから,どちらもSpanish Fluと同レベル。中国以外で患者が確認された国(タイ,日本,韓国,シンガポール,ベトナム)の患者は,これまでのところすべて中国で感染して移動してきた人で,まだ中国以外では持続的なヒト=ヒト感染が確認されていないからPHEICにならなかったが,ここに至って封じ込めはかなり難しくなってしまったように思う。

絶対リスクと相対リスク(2020年1月26日 - 当該鐵人三國誌

たしかギーゲレンツァーの本に書いてあったと思うが,絶対リスクと相対リスクの違いは重要だ。

統計学的には5%未満の確率しかない現象は滅多にないことだから偶然で起こるとは考えられない,という判定が下されることが普通だった。これは,逆に言えば,5%未満の稀な例外だったら判断が間違っていても諦めましょうという合意とも言える。医薬品の臨床試験で,副反応のリスクを評価する際に,有意水準を5%として検定し,有意差がないから実質的には安全と判定してしまうとしたら,そういう判定を下していることになる(2020年4月8日補足:厳密に言えば,副反応のリスク自体の大きさが許容可能かどうかについては,統計的有意水準とは別の,臨床的に意味のある基準値,例えば0.1%とか1%を超えないかどうかを調べるために十分大きいサンプルサイズでの臨床試験を行って,検定や区間推定を行う。ここでいう臨床的に意味のある基準値の設定は,その医薬品がもたらすメリットとのバランスも考える必要があり,例えば軽微な副反応リスクが10%あったとしても,がんが90%完治するような医薬品ならば許容可能であろう)。

しかし,化学物質の安全性などでは少し厳しい基準がとられていて,10万分の1とか100万分の1未満のリスクを許容可能とすることが多かった。急性感染症の重篤度の評価は,確定診断がついた患者中その感染によって死亡転帰に至った割合,即ちCFR(致命割合)で示されることが多いが,100%の狂犬病とか,数十%以上の高病原性鳥インフルエンザやエボラウイルス感染症に比べると,スペイン風邪や,現在流行中の2019-nCoV肺炎の2-3%という値は小さく感じられるかもしれない。けれども,まあ流行が根絶できなくても仕方ないかと思えるのは,CFRでいうと0.001-0.01%レベル=1万分の1から10万分の1レベルで,季節性インフルエンザとか普通の風邪くらいの低さが社会的に要求されると思う。

しかも,これらはすべて相対リスクの話であり,実際にそれらによって増加する死者の人数は,それらに曝露し(て発症し)た人口を掛けた値になる。それが絶対リスクである。分母が小さい高病原性鳥インフルエンザやエボラウイルス感染症に比べるとCFRはずっと低いが,世界に広まったスペイン風邪による死者は2500万人と言われている。

新興感染症(それまでヒトの病気としては存在しなかった感染症なので,誰も抗体を持っていない)がどれくらい広まるかはR0(基本再生産数: Basic Reproduction Number,周囲の人が全員その感染症への免疫がない状態で,一人の患者から平均何人の二次感染者が生まれるかを意味する値)によって予測できるが,エボラウイルス感染症やMERSではR0が1未満なのでパンデミックには至っていない。WHOが2019-nCoVの中国国内のヒト=ヒト感染におけるR0を1.4-2.5と推定したということから考えると,よほど迅速に隔離とか行動制限とかワクチン開発して大勢の人に接種するなど感染リスクを下げる対策がドラスティックにとられない限り(もちろん衛生水準や行動パタンが異なる他国ではR0はもっと低いかもしれず,1未満にできるならばパンデミックには至らない可能性もある。麻疹のように飛沫核感染するためR0が10を超えるような感染力だったら,ワクチンができてR0でなくRt[=実効再生産数]を1未満にすれば良い状況にもっていけない限り,ほぼ制御不能だが,このウイルスの感染力はそこまで高くない),このウイルスが広まってしまう可能性が高いことを意味する。

米国CDCは,CFRが季節性インフルエンザと同じ程度だった2009年のA型インフルエンザ(H1N1)pdmについて,米国内の1年間の累積罹患率が6100万人,死者が12470人という推定値を出しているが,これだけ多くの人が罹患してもそれほどインパクトが大きくなかったのは,ひとえにCFRが小さかったからだ。もしあの時と同様なパンデミックが起き,大雑把に考えて人口の1/5が罹患するとしたら,世界人口のうち14億人が罹患することになり,CFRが2%もあったら死者は2800万人という,それこそスペイン風邪に匹敵する大惨事になってしまう。R0をこれまでの推定値より小さくできてヒト=ヒト感染を抑え込むことができればまだ良いが,そうでなかったら,現在は存在しない治療薬を早急に開発してCFRを下げないと,絶対リスクとしてはスペイン風邪に匹敵する大惨事に至る危険がある。WHOは10日以内に再びPHEICにするかどうかの会議を開くとしているが……。

研究ラッシュが起こるかも(2020年1月27日(1) - 当該鐵人三國誌

今の感じからすると,A型インフルエンザH1N1pdm2009のときのような研究ラッシュが起こるだろう。

まだWHOが2019-nCoVと仮称で呼んでいて,正式名称が決まっていないので仕方ないのかもしれないが,Natureの動画がWuhan Coronavirusと呼んでしまっているのはまずい気がする。

ただ,NatureもScienceも特設ページは作っていないのは,正式名称が決まっていないからだと思う。それでも,NatureはEditorialといくつかのニュース,JAMAはViewpointを1つ掲載している。

BMJは既に特設ページを開設している。NEJMにはEditorial原著論文が掲載されている。Lancetも特設ページはないが,患者の臨床的特徴についての原著論文家族集積性があることからヒト=ヒト感染が示されるとした原著論文が載っている。

なぜ新感染症でなく指定感染症なのか? なぜ厚労省令でなく閣議決定なのか?(2020年1月27日(2) - 当該鐵人三國誌

日本政府は2019-nCoV感染症を指定感染症にする方針だという報道があった。

指定感染症に指定された疾病はほとんどないはずで(高病原性鳥インフルエンザくらいか),感染症法の第6条8『この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。』によれば,「既に知られている」ものでなくてはならず,今回の場合は,これまでの新興感染症がそのカテゴリに入ることが多かった新感染症(感染症法第6条9『この法律において「新感染症」とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。』)の方が適切だと思う(まだ中国以外ではヒト=ヒト感染が起こっている証拠はないけれども,中国では人から人へ伝染することが明らかだし)。

敢えて指定感染症にするとしたら,たぶん第7条で指定感染症は他の条文を準用すると書かれているからか。

新感染症だと第15条で検体採取は知事の権限で強制できるし,第46条で入院勧告もできるが,第18条の就業制限が適用できないということなのか(そうだとすると,なぜ新感染症に対して就業制限できるという条文を作っておかなかったのかが謎だが)。厚労省のこのページだと新感染症が直ちに全数報告するカテゴリに書かれていないが,感染症法では新感染症も直ちに全数報告することになっているから,情報把握の面では指定感染症と変わりないしなあ。

しかし閣議決定すると報道されているが,厚労省の指定感染症についてという2007年の文書や,感染症の範囲及び類型についてというプレゼン資料でいう,厚生科学審議会の意見を聞いて「政令で定める」というときの「政令」って,厚生労働省令だと思うんだが。なぜ閣議決定なのだろう?

法律通りに考えたら厚生労働大臣の権限のはずだが。忽那賢志さんのような感染症専門医も指定感染症にすることに異を唱えていないので,何かぼくが勘違いしているのかもしれないが,素人代表としてこの2点(なぜ新感染症指定でないのか? なぜ厚生労働省令でなく閣議決定なのか?),メディアから質問してくれないかなあ。

コロナウイルスに対する個人防御(2020年1月27日(3) - 当該鐵人三國誌

TWEEDEESの沖井さんが2019-nCoVへの感染防御手段を知りたいとTweetしていたので,WHOのイラスト入り資料とハフィントンポストの高山先生の記事を紹介した。

ちなみにWHOのイラスト入りメッセージを簡単に日本語訳すると,

ということで,まあ当たり前のことばかりだが。

国内ヒト=ヒト感染発生(2020年1月28日 - 当該鐵人三國誌

2019-nCoVを指定感染症にすると閣議決定されたという報道。昨日書いた疑問はどのメディアも突っ込んでくれない。疑問に思わないのか?

国内でのヒト=ヒト感染が起こったという厚労省発表があった。これでWHOもPHEICを宣言せざるを得ないだろう。

関連して,本日18:00から,厚労省にコールセンターが設置された

今夜22:00からのクローズアップ現代+は新型ウイルス肺炎 封じ込めはできるのかという緊急特番で,既に患者数推定の論文を発表している,北大の西浦さんの研究室も出るとのこと。

内閣官房「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について」からリンクされている関係省庁による対応一覧の厚労省のところを見ると,「1月28日 新型コロナウイルス感染症を指定感染症及び検疫感染症と定める政令を閣議決定」と書かれているので,やはり厚生労働省令には違いないようだ。普通は閣議決定ではなく,厚生科学審議会の意見を聞いて厚生労働大臣が発令するものだと思うがなあ。

クロ現を視聴。北大取材は録画だったようで,今日の国内のヒト=ヒト感染例の話はスタジオでしか語られなかった。西浦さんたちのモデルによると,27日までに感染者数は2万人を超えている可能性が高いと語られていたが,モデルの外挿期間を延ばしただけなのか,新たなデータも加えて推定し直したのかは説明がなかった。たぶん後者と思うが。

西浦さんは,積極的疫学調査により感染した可能性が高い人を追跡することの重要性に触れた上で,中国ではそれが不可能なフェイズに入っているのではないかとコメントしていたが,今日発表された国内感染の方も,風邪様の症状が出てからもなかなか診断がつかず10日ほど仕事を含めて動き回っているので,接触した可能性がある人をすべて探すのは不可能に近いのではないか,とも思う。押谷さんが言われていたように,不顕性感染や軽症例が多く(つまり感染発症指数が高くなくて),そのような上気道感染している状態でも感染力があるのだとして,たぶんその後20%くらいの確率で重症化して肺炎を起こし,その10分の1くらいが死に至るという話なのだとすると最悪だ。その場合,スペイン風邪レベルの災厄にならないためには,かなりの社会インフラの制約をするか,早急に治療薬かワクチンを実用化するしかないだろう。押谷さんはSARSの場合にR0が高かったのはスーパースプレッダーのせいとも言っていて,そういう人への迅速な対処が大事と説明していたように思う。仮にスーパースプレッダーというハブホストが存在するのなら,ネットワークトポロジーとしてはスケールフリーネットワークだから,ハブホストをネットワークから取り除けばネットワークは容易に崩れるのだが,ランダムリンクなのにR0が1を超えているのだとしたら,その方が対処は難しい。

フォローアップセンター設置,緊急避難等(2020年1月29日 - 当該鐵人三國誌

渡航歴のない国内患者発生の意味についての忽那賢志先生の記事。ただ,この患者自身へのリンクは確かに辿れるだろうが,症状が出てから結構動いているので,積極的疫学調査によって接触した可能性がある人を同定・フォローするというのは,かなり難しいのではないだろうか。中国からの帰国者のうち武漢滞在歴がある人についてはフォローアップセンターで継続対応することにしたようだが。

フランスのevacuation。日本の緊急避難についての情報は,大変探しにくいが外務省のサイトにあった

北大西浦研からの2019-nCoVについての論文2本目についてのtweet。こういう状況だと新しい情報をフォローアップするだけでも大変なのに,こうやって世界と競って論文を出していくのは凄いなあ。

神戸大学の拡大防止のための対処。Twitterでも広報された。自宅待機を容易にすることは感染拡大防止のために有効だと思う。

2019-nCoVの検査キットについてWHOが1月14日付けで出した中間ガイドラインと,リアルタイムRT-PCRによる検出プロトコル

CDCに2019-nCoVの特設ページができていた。

文部科学省に新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応についてというページができた。今後は,大学の学生対応も,基本的にはここの指示に従うことになるはず。

岩田健太郎先生がtweetされているように,患者の人権は守られねばならない。公衆衛生学講義の「感染症とその予防」の回でも,最初のスライドで強調している点。

メルボルン大学Doherty研究所のチームが2019-nCoVの培養に成功したというニュースリリース会見動画

Johns Hopkins大学の患者マップと,その説明文

NY Timesの記事に載っているEcoHealth AllianceのDr. Peter Daszekの談話によると(その根拠となる原著論文は見つからなかったが),これまでタケネズミとかヘビという説もあった2019-nCoVの感染源は,SARSと同じくキクガシラコウモリであるという「やや強い証拠がある」とのこと。

厚労省の2020年1月のリリース一覧からリンクされているが,2019-nCoVの無症状キャリアの情報については,報道機関の情報よりもこのページの方が詳しいように思う。1月29日時点の世界の感染者情報もリンクしておく。

PHEICの宣言(2020年1月31日 - 当該鐵人三國誌

今朝のハフィントンポストの高山先生の記事をリンクしておく。

テレビで,WHOが2019-nCoVのアウトブレイクについてPHEICを宣言したという報道(それを受けた厚労省のリリース)。時間の問題だったが。

PHEICはIHR2005で規定された概念で,IHRの枠組みについてはこの厚労省の資料が参考になると思う。加盟各国政府は,ここからリンクされている附録に書かれている体制と能力を備えなくてはならず,日本は達成していると評価されているが,すべての国で2012年までに整備するという目標は達成できなかった。

去年のエボラもPHEIC宣言されたし,CFRが高いのでアフリカでは大きな問題だったが,それほど感染力が強くなくてパンデミックになる可能性は低かったので,たぶん多くの先進国にとっては,IHR2005に基づいた対応は続けていても,どこか対岸の火事だったと思う。2019-nCoVはCFRはエボラよりずっと低いが(とはいえ,現在の推定値だと季節性インフルエンザより2,3桁大きくスペイン風邪と同等),感染力が強いので,パンデミックになる可能性が高く,世界中どこの国にとっても他人事では済まされない。

メディアが死亡率とか致死率とか呼ぶことが多い指標,何度かCFRという略称を書いているが,正しくは致命割合(確定診断がついた患者のうち,その疾病で亡くなる割合)という。以前はCase Fatality Rateと呼ばれていた。しかし定義から明らかなようにRateではないので(分母が人時ではないので),最近の疫学者はRatioを推奨する人が多かったように思う。2009年のパンデミックインフルエンザのときは,分母を確定診断がついた患者で計算した場合をcCFR,症状がある患者で計算した場合をsCFRと区別しようという話もあった。2019-nCoVについて最近出た西浦さんたちの論文では,Riskとなっている。確かにRiskは疫学的にCumulative Incidenceと同じで,要因に曝露した人のうち観察期間内にイベントが起こった人の割合を示す用語なので,Ratioよりも正しい。

新感染症にしておけば新型インフルエンザ等対策特措法が適用できるのに(2020年2月2日 - 当該鐵人三國誌

新型インフルエンザ等対策特別措置法という法律が2012年成立2013年公布され,2018年改正が2019年6月から施行されていて,かなりラジカルな対処がとれるようになっているが(日本ウイルス学会のサイトにある,成立時の説明),この法律の対象は新型インフルエンザ等感染症と全国的に急速に蔓延する可能性がある場合の新感染症となっている。先日,2019-nCoVは指定感染症よりも新感染症にする方が筋なのではないかと書いたが,この特措法を使えば就業制限どころではない本格的な対策がとれるのだから,厚労省は新感染症に指定し直すべきと思う。未だにいろいろな性状が研究されている最中で,明らかになっていないことも多いのだから。

公衆衛生における社会防衛のための規制行政的活動は,個人の基本的人権の制限を含む場合も多いので,民間には許されず,都道府県知事など公権力によってしか実施されないし,その発動は法律で厳しく管理されている。現政権周辺の口からは緊急事態法を制定して迅速な対処などという世迷い言が出てくるが,それでは政権中枢が恣意的かつ選択的に広範囲に個人の人権を抑圧することが可能になってしまう。問題は全国的に急速に蔓延することによって社会システムの維持を危機にさらす可能性がある感染症への対処なのだから,既に成立している新型インフルエンザ等対策特別措置法が適用できるようにするのが筋だろう。なぜそうしないのか。

内閣官房の組織体制を強化する方針という報道だが,本当に専門家を呼ぶなら,政治家主導で制御しようとせず,その専門家が能力を発揮できる体制を与えてあげて欲しい(もっとも,現状への対処のためには,国際保健,災害対策,感染症の臨床を含む広い視野を保ちつつ,システマティックな考え方が迅速にできる,高山先生のような人が必要で,そういう人材は日本には少ないのだが)。そういう専門家を,内閣官房が「やってる感」を出すための権威付け用アドバイザーとしてしか使わないなら,無駄づかいになってしまう。個別分野の第一線の専門家は,疫学だったら研究を進めて信頼できるCFRやR0やRtや検疫のための隔離が必要な期間の推定値を出すことに貢献してもらうべきだし,ウイルス学だったらウイルスの遺伝子解析や病原性,このウイルスがどういう条件で上気道から肺に移行するのかといったメカニズムの解析,ワクチン開発などを進めて貰うべきだし,臨床だったら症例検討や治療法の検討を進めて貰うべきだろう。それら個別分野についての専門家を呼ぶなら,第一線を退いた方が良いと思う。

中国でA型インフルエンザウイルスH5N1亜型が感染した鶏が4500羽死んだというニュースが流れているが,H5N1は鶏から人に感染した場合のCFRが60%に達することから,「高病原性鳥インフルエンザ」として感染症法の2類に規定される全数報告疾患となっているものの,基本的に鳥類の病気であって稀にしか鶏から人には感染しないし,人から人への感染は一例もないのでR0が0であり,それほど恐れる必要はない。詳しくは10年前に作った講義資料「新型」インフルエンザ対策の公衆衛生学的視点をご覧いただきたいが,変異してヒト=ヒト感染を起こす可能性に対する警戒を怠ってはいけないが,鶏でのアウトブレイクだけならば,鳥類との濃厚接触を避ければ,まず安全である。現在の状況で,新型コロナウイルスよりも鶏でのH5N1の危険を煽るようなことを言う人は,まず間違いなく,感染症の素人である(あるいは,何か別の意図があるのか)。公衆衛生学の「感染症とその予防」の資料に載せたWolfe et al. 2007のフレームワークで言えば,高病原性鳥インフルエンザは第2段階なので,比較的対策は容易である。新型コロナウイルスはたぶん第4段階になってしまったので,対策はずっと難しいし,社会介入が必要になる。

1月28日に厚生労働省令が公布され,当初は10日が経過した2月7日施行予定だったが前倒しで2月1日(昨日)から施行されたことで,新型コロナウイルス感染症は,指定感染症であるだけでなく,検疫法2条3号による検疫感染症となった。このファイル中の参考資料にある通り,新感染症に指定しておけば検疫法34号2号により検疫時に隔離・停留もできるのだが,検疫法2条3号によるのでは,チクングニア熱,デング熱,マラリア,H5N1またはH7N9による高病原性鳥インフルエンザと同様,質問・診察・検査・消毒はできるが,隔離・停留は強制できない。どう考えても新感染症にするのが筋だったと思うが。

パニックやフェイクニュースに惑わされてはいけない(2020年2月3日 - 当該鐵人三國誌

感染症学会が1月29日付けで新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症への対応についてという文書を出している。感染症の専門家である会員に冷静な対応を求めるメッセージ。

Lancetに1月30日付けで載っている2019-nCoVのゲノム解析の論文はわかりやすい。

今朝のテレビニュースで話題になっていたフェイクニュースや不正確な情報に伴うパニックや差別や偏見の件,BMJに1月31日付けで載っている2つのOpinionでも取り上げられていた(Coronavirus -- we need to contain the parallel epidemics of xenophobia and misinformationIs reporting of the coronavirus producing viral panic?)から,日本だけの問題ではない。

中国以外での死者がまだ出ていないからと言って,病原性が高いのは中国固有の事情と判断することは(そういう言説を流している医師が散見されるが),まだできない。中国でも初の死者が出たのは1月11日のことで,当時の確定診断がついた患者数は41人だったので,CFRが2~3%という推定値と矛盾していないし,それは初発報告から10日以上経ってからのことだった。感染者が何十人というレベルに到達した国はまだ中国以外に無いし,国内二次感染者が出てから10日以上経った国もないので,日本で治療してもCFRが2~3%である可能性は,まだ否定できない(CFRが3%だとしても,20人中1人も死亡しない確率は18.3%ある)。先日書いた通り,この値はエボラやSARSよりずっと小さいが,季節性インフルエンザのCFRより2桁大きく,スペイン風邪レベルなので,決して病原性が弱いとは言えない(風邪の原因となるタイプのコロナウイルスとは全然違う。Lancetのゲノム解析論文の結果から見ても,遺伝的にはSARSコロナウイルスに近い)。

Johns Hopkinsのサイトがアクセスできなくなっている。代わりになりそうな患者数の時空間分布情報はEuropean Center for Disease Control and Prevention (ECDC)のページが見やすいように思う。WHOが毎日出している状況報告(リンク先は昨日付のもの)も参考になる。

コウモリに感染していたウイルス由来という論文(2020年2月4日 - 当該鐵人三國誌

昨日付けでNatureに載っていた論文(Zhou, P., Yang, X., Wang, X. et al. A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2012-7)は,2019-nCoVの起源について,患者5人から得られたウイルスの全ゲノム解析の結果,SARSコロナウイルス(SARS-CoV)とは約8割相同,コウモリに感染していたコロナウイルスの中に96%相同なものが見つかったので,たぶんコウモリ由来の新しいウイルスだろうとする論文。細胞に侵入するためのレセプターとしてはSARS-CoVと同じくACE2を利用していることも確認したとのこと。

多くの医師が軽症患者が見つかるようになるからCFRが下がると思っていて,メディアやSNSでそのようなコメントを拡散しているのが目に付くが,発症と死亡のタイムラグもあるので,中国と日本の治療水準(コロナウイルス肺炎に効く薬があるかどうかはまだ研究中で不明だし,重症化したときの全身管理の良さとかの話になると思うが)に大きな違いがないなら,CFRはそんなに変わらない可能性も小さくない。何度も書いたように2-3%というCFRは季節性インフルエンザより2桁以上大きいので,仮に1/10になったとしても,R0が2前後のまま広がってしまったら,社会には絶対リスクとして大きな影響がでる。これは当時既にインフルエンザウイルスに効く薬が存在し,CFRが季節性インフルエンザと同じかむしろ小さいくらいだったInfluenza(A)H1N1-2009pdmとはまったく違う点だ。感染症専門医の中でも,この辺りを正しく認識されているのは高山先生の発言しか目に付かない。

2019-nCoVのメモとリンク,先頭のリンク集と,後半の時系列メモの間に,感染症疫学の基礎の基礎みたいな説明を図入りでしておきたいところだが,今そんな時間はない。

WHOが状況報告第14報2019-nCoV患者の空間分布についてのダッシュボードを開発したことを報告した。Johns Hopkinsが既に開発して公開しているものと同じく,ArcGISのサーバを使ったシステムだが,微妙に数値が異なるのはソースにしているデータが違うのだろう。

指定感染症も全数報告なので症例の届出基準を定める必要がある。医師の届出基準の新旧対照表が出ていた。

北大の西浦さんのPress Conferenceがあった(20200428追記:すぐにvimeoからは消えてしまったが,YouTubeにはずっと残っている。"Asymptomatic ratio: 50.0%"と30分頃に出てくるスライドに表示されている)。英語だがわかりやすい発表だったと評判。(以下多少誤解していたので修正)従来のCFRに代えて感染致命割合(Infection Fatality Risk)の推定値が0.3-0.6%とのことで(JCMに掲載された第2弾によると,伝統的なCFRであるcCFRや,発症した人だけを分母とするsCFRでは,感染の半分が不顕性感染者から起こっているという推定結果からすると(20200228修正:この部分,この論文に書かれていたことではなかったので削除します)ナンセンスなので,不顕性感染者も含めた全感染者数を分母として計算された新しい指標値であり,実はCFRが低かったのだというわけではない),相対リスクとしてはあまり大きな値と感じないかもしれず,臨床のセンスだと大部分は軽症だと判断してしまうかもしれないが(無闇に検査対象を広げるなとか指定感染症の指定を外せという岩田健太郎先生や堀成美さんのtweetはそういうことだろう),この数字はアジアかぜと同等で,季節性インフルエンザや2009年の新型インフルエンザとは桁違いに大きい。IFRやCFRは医療水準の違いも吸収する数字なので,スペインかぜやアジアかぜの時とは医療水準が違うということは気休めにもならない。仮に5000万人感染してIFRが0.3%だったら15万人が亡くなることになり,一気に死因のトップ5に入ってしまう。ともかくリンクを辿れる間は封じ込めの努力を続けながら(もっとも,不顕性感染や軽症でも感染力があるという知見は確からしいので,公衆衛生行政としては,現状の水際作戦や移動制限にはあまり意味が無いと思われ,そのうちリンクを辿れなくなる前提で対策を考えておくべきだろう。たぶん高山先生ならその辺りわかっておられると思う),治療薬やワクチン開発の努力もし,重症化因子を特定し,重症化した人を収容できるだけの医療施設の体制を整える必要がある。現段階で2009年の新型インフルエンザレベルと思ってしまうのは間違っている。公衆衛生的には,こういう数字の感覚が大事だ。

香港の死亡例とクルーズ船の感染者報告(2020年2月5日 - 当該鐵人三國誌

香港でも1例死者が出たので,昨日の西浦さんたちの推定値は大きく変わる可能性がある(と思ったが,JCMの短報を見る限りではIFRの分子で中国の国内外で区別した推定をしているわけではなさそうなので,ほとんど影響なさそう)。流行初期には1例でも推定値に大きく影響する。

クルーズ船の乗客のうち10人から2019-nCoVが検出されたと厚労省からの発表があった。まだ検疫中なので,もっと増えるかもしれない。Johns HopkinsやWHOの時空間情報で,中国以外の患者数増加にはブレーキが掛かり始めたかのように見えたのは,一時的なギャップだったのかもしれない。引き続き注意が必要。とはいえ,一般人ができることは,人混みを避けること,なるべく不特定多数が触る可能性があるものには触らないこと,外出から戻ったら必ず石鹸で手洗いすること,体力を落とさないように節制した生活をすること(だから自分も食事と睡眠は最低限確保している),くらいしかないのだが。

さっき書き忘れていたが,もちろん,『病気は社会が引き起こす』の著者である木村知先生が言われる通り,風邪様症状があったら学校や会社を休んで自宅療養し(これは勤務先や学校が認める社会的コンセンサスさえできれば即時実行可能),重症化の兆しがあったら医療機関に電話で確認してから受診する(ここの部分はもっと医療側の体制強化が必要)のは前提。

IHR2005はグローバリゼーション前提で,人やモノの移動なしには世界中の人々の生活が成り立たないので,貿易や交通の制限は必要最小限に抑えつつ,犠牲者を増やさないために有効な対策をうつ,というものなので,WHO事務局長の発言は当然そういうスタンスになる。西浦さんの発表にあったように,既に半分くらいの感染が不顕性感染者から起こっているとしたら,症状がある人だけの移動を止める対策の効果はほとんど無いし,症状がない人まですべての中国との人口移動と物流を止めることはデメリットの方が大きいだろう(もっとも,もし,今後も世界的にCFRが2-3%であると判明したら,その限りではないが)。

「ただの風邪」言説はデマ。ヒトに感染する既知のコロナウイルスは6種類あって,うち4種類が「ただの風邪」の原因となり,残りのSARSとMERSが高い確率で急性の重症の肺炎を起こすものだった。2019-nCoVは新たにヒトに感染するようになった7種類目のコロナウイルスで,上気道にとどまって風邪症状で治る場合もあれば,肺に移行して肺炎になる場合もあるので,ただの風邪でもないし,SARSやMERSのようなものでもない。何度も書いているが,IFRが0.3-0.6%としても,風邪やインフルエンザより2桁大きい値である。ぱっと見ただけの一般人や臨床医は100人に1人より少なければ低リスクという印象を受けてしまうのかもしれないが,公衆衛生的には小さくない。

ゲイツ財団が新型コロナウイルス対策に1億ドル提供すると表明した。眠る前にWHOの記者会見のライブ中継を見ていたら,Tedros事務局長が歓迎の意を表していた(Tweetもしていた)。全速力でやるべき研究は,どういう条件で肺炎に移行するのかとそれをどうすれば防げるのかの解明と,肺炎になったときに効く薬の開発であろう。長期的にはワクチン開発が望ましいが,短期間では無理と思う。どれも巨額の金がかかるはずなので,ゲイツ財団の決定は大きい。Tedros事務局長は,いま対策を進めれば奏功する可能性もある,という主旨のことを何度も言っていた。

昨日の西浦さんの会見を取材して書かれた毎日新聞の記事がミスリードで,それがYahooニュースに載ったことから,臨床医などが「ただの風邪だった」という誤解を広めている。WHOがどういう対応を取っているかを見れば,「ただの風邪」でないし,2009年のパンデミックインフルエンザとも全然違うことは明らかだろうに。

2月4日付けで,2009年のパンデミックインフルエンザ流行時も示唆に富んだコラムを書いていたリスクコミュニケーションの専門家,Peter Sandmanが「封じ込めについてのリスクコミュニケーション―2019年新型コロナウイルス」というコラムを公開していた。

某新聞記事(2020年2月6日 - 当該鐵人三國誌

某新聞の1面に,この2日ほど取材協力していた記事が出たが,ぼくからの情報は3行しか使われず(名前も出てなかったし,別にいいのだが),臨床の専門家の情報の方が大きく使われていた。

なぜ数人しか診ていないのに100人中たぶん10人未満しかいない重症化について,普段健康な人なら心配ないと言ってしまえるのか謎だし,最初の41例についてLancetに載っていた臨床論文(この人たちは全員肺炎にはなっていた。うち27人は市場に行ったことがあるが,binom.test(27, 41, 0.5)でp=0.06なので,海鮮市場に行っていたかそれ以外での感染かも有意差はない)のTable 1を見れば,

はわかるので,この論文を読んでいれば,重症化するのは決して高齢者や持病のある人だけではないとわかるはず。

西浦さんが出した0.3-0.6%という値がIFRであって,これまで,ほとんどすべての場合,確定診断がついた患者数を分母,そのうちその疾患で死亡した数を分子とした割合またはリスクとして計算されてきたCFR(致命リスク。メディアや臨床の人は死亡率とか致命率とかいうが,疫学でいう率ではないので,疫学研究者なら,致命割合または致命リスクというはず)とは違うのだということを踏まえていない記述だったのも残念。

2009年のパンデミックインフルエンザのCFRの値が0.5%未満という書き方も嘘ではないがミスリードで,もっとずっと低いし。

メールで説明したのだが,従来のCFRであるcCFR,病院に行くほどではなくても症状があって感染力もある人を分母としたsCFR(これは2009年のパンデミックインフルエンザの場合に大きな意味をもっていた),無症状でも感染力があるということからすべての感染者を分母として今回定義したIFRの違いは,結局,記者の方に理解していただけなかったようで残念。この段階で臨床家に意見を求めるのは筋が悪いと思うがなあ。

タイではメディアに取材された場合,報道前のものを見せてくれて,サインしないと報道されないというルールなのだそうだ。日本もそうして欲しいなあ。新聞は見せられないのが慣例だそうだし,今回のように複数人に取材した結果を記者が取捨選択して記事にする場合は(正しく取捨選択する能力があるかは別にして),他の取材対象者が語ったことを見せられないのはもっともなのだが。

クルーズ船の乗客から新たに10人の検査陽性者が見つかったという報道(厚労省発表)。

クルーズ船ではアウトブレイクしていた(2020年2月7日 - 当該鐵人三國誌

クルーズ船の乗客中,新たに検査結果が判明した171名のうち41名が2019-nCoV陽性だったという厚労省のリリース。クルーズ船で検査を受けた合計273名のうち,61名が陽性だったということで,濃厚接触がなくてもかなりの確率で感染が広がる(追記:または,これまでの推定よりR0が高い場合がある)ことは明らかになったといえるだろう。封じ込めの難しさが明らかになった。

沖縄での検疫強化というニュース。日本国際保健医療学会西日本地方会の共同世話人の一人である垣本先生の写真が出ていた。検疫官を含め現場の人は大変なので,メディアは,こういう人たちが雑音に邪魔されず仕事しやすい環境を作ることに気を遣って欲しい。

(変異してさらに感染力が強いウイルスが広まること)それ自体はありうることです。一度感染すれば免疫ができ,かつ変異前のウイルスに対してもその免疫が有効ならば(cross immunityがあるならば),感染力が強い(おそらく患者の症状が軽くて動き回るからと考えられるため弱毒な)ウイルスの方が早く広まる可能性もあります。

ただし,2019-nCoVについて,感染後免疫がどれほどか,まだはっきりわかっていません。もし治癒後も再感染するなら,感染力が強い変異が起こっても,そちらが広まることと,現在の2019-nCoVの広がり方はほぼ無関係です。ましてやcross immunityについては変異が起こってみないとわかりません。この両方の条件を満たす可能性はあまり高くないと思います。

(…中略…)今回,感染力としてR0は1.4-2.5くらいで(人の集団の中で感染が継続するには1よりは十分に大きく),これが例えば4とか5であるような変異ウイルスが出現するとしたら感染拡大速度は高まりますが,そのメカニズムとしては,不顕性で排出するウイルスの量が多くなることによる可能性が高いと思われます。が,単位時間内にたくさんのウイルスが出るとしたら宿主に負荷がかかるので症状も出やすくなるはずなので,それはありそうになく,不顕性の時間が長くなるか割合が増える可能性しかないので,定義により弱毒化していることになりますから,感染力が高まることについては,あまり警戒しなくても良いのではないかと思います。

むしろ,現在メカニズムは未知ですが,不顕性感染者のうち重症化する確率が増えるような変異が起こる方が,IFRが上がるので被害は大きくなる可能性があって恐ろしいと思います。

とメールには書いたのだが,今日出たこの記事の最後の2行のようにまとめられてしまうのか……。最初の「どういう人が肺炎へと移行し重症化するのかまだわかっていない」は,確かにそう伝えたが。

ソロモン諸島の研究者仲間からの情報によると,1例でも新型コロナウイルス陽性者が出た国から,PNG経由でソロモン諸島へ入国することができなくなったそうだ(ここの情報によると,ヴァヌアツの方がまだ若干規制が緩そうだ)。ブリスベン経由なら今のところOKらしいが,今後どうなるかわからない。ミクロネシア連邦は緊急事態宣言を出していて,ここに書かれているように,日本から行こうと思うと,入国前に非汚染国で14日以上滞在する必要がある。SIDS外務省の説明)に含まれている太平洋島嶼国は,全身管理ができるような医療資源が整っているところは少ないので,本気で侵入防止するためには,症状の有無を問わず潜伏期間が過ぎるまで安全なところで待機,というのは合理的な対策のような気もするが,ハワイとかグアムがいつまで患者ゼロを保てるかは不明だし,保てなくなったとき安い米やラーメンの輸入が止まっても食糧不足に陥らないのか,という対策を各国が考えておく必要があるだろう。WHO西太平洋地域事務局(WPRO)の公式ジャーナルWPSARが2019-nCoVのSpecial Issueを出すということで,Call for Papersが出ていたが,たぶんこういう視点での論文も必要なはず。

Lancet Infectious DiseasesへのCorrespondenceで,Rが2.2という推定なら半分より少し多くの感染を防げばRを1未満にでき,もし症状が出る前に感染力があるのが本当ならそれは困難だけれども,その証拠はあまりなくて,仮に感染の20%が発症前の患者から起こっているとしても,80%の症状がある人を素早く隔離すればRを1未満にするのは可能だろうから,早期発見と隔離を効果的にやればパンデミックは防げるだろう,という意見が出ている。西浦さんたちの第2報では感染の半分が発症前の患者から起こっていて(20200229削除),不顕性の患者は発症した患者の10倍いてもおかしくないとされているのだが,読まれていないようで触れられていなかった。NEJMとScienceとProNASしか引用されておらず,JCMは(IFは5以上あるのだが)publicityが不十分なのだろう。しかしクルーズ船での陽性者数を見ると,このCorrespondenceは甘いと思う。

SEIRモデルでの推定(2020年2月8日 - 当該鐵人三國誌

昨日付でJCMに載っていたTang, B.; Wang, X.; Li, Q.; Bragazzi, N.L.; Tang, S.; Xiao, Y.; Wu, J. Estimation of the Transmission Risk of the 2019-nCoV and Its Implication for Public Health Interventions. J. Clin. Med. 2020, 9, 462.。SEIRのコンパートメントモデルで2019-nCoVのRを推定しているが,6.47 (95% CI 5.71–7.23)という高い値で,これは春節というイベントがあったことと符合しているとのこと。しかし接触者追跡をして検疫や隔離という効果的な介入を続ければ1月23日から2週間後にピークアウトし,介入しない場合よりずっと低い患者数にとどまるだろうし,北京への移動制限をすると,しない場合に比べて,北京の患者数は7日間で91%減るだろう,と書かれている。このモデルはEからIへの移行が固定パラメータなので,不顕性だったり症状が軽いのに感染力がある場合を考えていないのだが,Table 4によるとそれまでのデータを使って,このモデルで推定された1月23日から1月29日までの確定患者数は,実際の確定患者数と非常に良く合っている。逆に考えると,症状がなくても感染力がある,という人がかなりいることを仮定しない限り,中国での爆発的な広がりを説明するには,これほど高いレベルのRが必要になるということでもある。ただ,春節が終われば感染拡大は多少鈍化する可能性もあるし,そこで効果的な接触制限をすればRを1未満にできるという主張でもあるわけだが。

クルーズ船で新たに検査結果が出た6人のうち3人が陽性だったという厚労省のリリースが出た。

NHKスペシャルと東京新聞(2020年2月10日 - 当該鐵人三國誌

NHKスペシャルを見た。

忽那先生の数例しか診ていない時点での臨床的な印象に対して,東大のウイルス研究者や押谷先生が,大半の人は軽症なので診た症例が偶然軽症例ばかりだったのだろう,という含みで,重症化する人も間違いなくいるのだからまだ楽観視は早いと言われていたのは重要だし,西浦さんのコメントにあった潜伏期間中でも感染3日目くらいから感染力があると推定されるという話も重要だし,WHOの進藤さんが生中継でコメントされたのには驚いたが重要なコメントであった。

火曜深夜に再放送があるそうなので,2019-nCoVについて正しく理解したいと思うなら,見逃した人は見るべき。

普通に生活している人が予防としてできることが風邪予防と同じことしかない,ということを知らしめるのも重要かもしれないが,全世界的な公衆衛生対策の必要性を軽視させるようなコメントは,この時点では軽率と思う。

武漢以外では2019-nCoVのCFRが0.17%でインフルエンザの倍という東京新聞の記事だが,直接インフルエンザによる死亡数は年間1000-2000人程度と推定されている。インフルエンザの年間推定受診者数は1000万人程度(概ね確定診断がついた患者数と思って良いと思う)なので,インフルエンザのCFRは0.01-0.02%という計算になるが(おそらくIFRにしたらもう1桁小さい),どうして2倍と言えるのか? 津田さんのコメント「武漢の致死率が高い一番の要因は、多くいる軽症者が把握されていないからだ」は,むしろ武漢のCFRが普通のCFRに近いことを意味しているのではないか(もちろん医療体制が不十分で,それが整えば多少は改善するかもしれないが,Nスペで押谷先生が言われていたように,武漢の医療水準はそこまで低くないはず)。武漢以外では積極的に検査しているから軽症の人も無症状の人も把握されて,IFRに近い値になっているとも考えられるし,発症からの経過日数が武漢より短いから,まだ死者が少ないだけかもしれない。

この記事の「倍程度」は記者が考えたようだが(さすがに津田さんはそんなことは言わないはず),「厚生労働省によると、日本国内のインフルエンザ感染者数(推定)は、年間一千万人規模。感染がもとで死亡する人は約一万人とされ、致死率は0・1%程度となる」は,感染者数と推定受診者数を混同しているし,「感染がもとで死亡する人」というのは,インフルエンザの流行によって間接的に増える死亡をすべて含めて推定された超過死亡の話なので,2019-nCoVのIFR(に近い値)と比較するのはナンセンス(そもそも,超過死亡数を確定診断がついた患者数で割った0.1%という値には何の意味も無い)。

何日か前の日経の記事,英語版にもなっているとは知らなかった。

クルーズ船で新たに検査結果がわかった57名中,陽性は6名だったという,厚労省からのリリースが出ていた。

病床とか検査のインフラ(2020年2月11日 - 当該鐵人三國誌

Disaster Medicine and Public Health Preparednessというジャーナルから2019-nCoVについてのCall for paperメールが来た。特集号のエディタはDr. Stephen S. Morse

大学生を集めたNHKの2019-nCoV番組,無意味どころか有害な気がする。これならクロ現プラスとNスペの再放送をする方がずっと良い。

1月17日に厚労省が出した通知の附録に「疑似症サーベイランスチェックリスト」がついていた。

2月4日付けで更新された「病原体検出マニュアル 2019-nCoV」(国立感染症研究所)を見ると,ポジコンと特異的プライマーさえあれば,BSL2以上で扱えるし(三種病原体並みということか),RT-PCRの設備を持っている研究室(大学ならたくさんあるはず)なら検査可能に思われるが,守秘義務とか安全管理上の問題があるから簡単に委託はできないということなんだろう(自分でPCRやったことはないから確信はないが)。もし衛生研究所だけでは手が足りないというのが事実であれば,平時からバックアップ可能にするような協定を結んでおくと良いのではなかろうか。

厚労省は2月9日に自治体向け日本医師会向けに病床確保の協力依頼を出している。原則として感染症指定医療機関の感染症病床に入院させることは変わっていないが,緊急時その他やむを得ない場合には,個室(2019-nCoV患者同士は同室でも良い),トイレ別を条件として,それ以外の病床でも受け入れられる体制を作るようにという依頼。日本での封じ込めに失敗して数理モデルで予測される最悪の事態が起きたときに,医療体制がパンクしないために準備が必要。最終的には封じ込めできないとしても,そのための努力を続けることによって,ピークを後方シフトさせピーク患者数を少なく抑えることはできるはずなので,体制整備と封じ込め努力の両方が重要。

病名決定とインペリグループ第4報の衝撃(2020年2月12日 - 当該鐵人三國誌

2019-nCoVによる病名が「COVID-19」となった(WHOのtweet,このことを含むTedros事務局長からのメディアブリーフィング)。Johns Hopkinsの患者時空間情報のタイトルもCOVID-19になっていた。

クルーズ船第7報の厚労省リリース。

インペリグループの第4報が公開された。ちゃんと読んでみないとモデルの仮定などわからないが,これまで想定していたより高すぎ,この推定値が正しかったら大変なことになる。発症から治癒または死亡までの期間が平均約22日(右裾が長いので95%信用区間18-83日と18-82日)であることを考慮してパラメトリックなモデルを当てはめると,湖北省でのCFRが18%(95%信用区間11-81%),中国本土以外でのCFRがパラメトリックなモデルで5%を超え,ノンパラメトリックなモデルで1.2%(95%信用区間が0.9%から26%),たぶんIFRに相当する値を2つのモデルで推定し,0.9%と0.8%としている。

外務省の海外安全ホームページ>感染症危険情報>詳細。短期留学や研究者派遣・招聘などの国際学術交流はこの情報によって影響を受け,危険度2以上だと学生支援機構からの資金による事業はすべて停止されるとのこと。これも判断が難しいところだが,学生支援機構が少しでも安全な方に振った方針をとるのも理解できるから仕方ないか。航空券のキャンセル代が学生持ちになるのは気の毒なので,何か支援策が必要だろう。今後はそこをカバーできる保険に入っておくべきかもしれない。

先日の日経の記事は中文版もあるのか。

2019-nCoVはウイルス系統分類名としてはSARS-CoV-2と呼ぶことにしようと提言する論文。2019-nCoVだってユニークな名前だから,たかだか80%程度の相同性で,SARSとの近縁性を強調した名前にする必要はないと思うがなあ。ウイルスのtaxonomyってそういうものなんだろうか。

昨日付けで,西浦さんがEditorになったJCMのSpecial Issueに,Editorialの第3弾と原著論文1つが増えていた。

BMJのニュースが,英国政府が「2019-nCoVは公衆衛生への差し迫った重大な脅威」と宣言したことと,インペリ第4報を紹介している。

JAMAの2019-nCoV特設ページができていた。2月7日に出たClinical Characteristics of 138 Hospitalized Patients With 2019 Novel Coronavirus–Infected Pneumonia in Wuhan, Chinaは,武漢でCOVID-19になって,1月1日から1月28日の間に武漢大学中南病院に入院した138人全員の臨床的な特徴を調べた論文だが,うちICUに入ったのは36人だったという。感染者中どれくらいの割合が肺炎になって入院するのかは,こういう臨床研究では不明だが,理論疫学の論文だとインペリグループも西浦さんも感染者のうち確定診断がつくのが1割くらいと考えているようで,1月に武漢で確定診断がついた患者は,たぶん,だいたい肺炎になった人ではなかったかと思う。まとめると,感染者の1割が肺炎になり,そのうち4分の1が重症化し,重症化したうちの1割弱が死亡する可能性があると考えると,IFRが0.25%となって辻褄が合う。インペリグループ第4報が正しかったらもっと高い推定値になってしまうのだが。

ハーバードSPH・Lipsitch教授のグループの報告から(2020年2月13日 - 当該鐵人三國誌

De Salazar PM et al. "Using predicted imports of 2019-nCoV cases to determine locations that may not be identifying all imported cases."(2020年2月11日掲載)は,中国以外での2019-nCoVによるCOVID-19症例が中国からの一日当たり旅客数の線型モデルで表せるという仮定と症例報告数がポアソン分布に従うという仮定に基づいたモデルを当てはめた結果,タイの症例数とインドネシアの症例ゼロという値が回帰モデルの予測区間より下に外れることを示し,タイを除いた当てはめ結果でもインドネシアは下に外れることから,未発見の症例があるのではないか(推定患者数は5人)と論じている。

この研究グループのリーダーは,インペリアルカレッジのProf. Neil M. Ferguson,北大の西浦博教授と並んで活発に感染症疫学研究を展開している,ハーバード大学SPHのProf. Marc Lipsitchで,1月28日に,感染症疫学における鍵となる課題と用語についてQ&A形式で提供した連ツイがtweetorialとしてハーバードSPHのサイトにまとめられていて参考になると思う。とりあえずざっと訳しておく(訳が変だなと思ったら原文をご覧ください)。

このアウトブレイクは,いつ,どうやって始まったのか?
  • nCoVのウイルス自体の解析から,2019年11月か12月に人に感染し始めたことが示唆される。ウイルス間の相同性から,動物から人に感染するようになったウイルスが1つかごく少数であることが示唆される。
  • 人々の旅行歴と曝露のデータと組み合わせると,ゲノムデータは輸入症例と国内感染例を区別する助けになる。中国以外の症例の大半は輸入症例だが,国内感染が報告され始めている。
患者数はどうやったらわかる?
  • 鍵となる情報源は医療施設と政府当局からの報告だが,アウトブレイク当初はたとえ診断が迅速に利用できても(nCoVについてのように),総患者数ははっきりしない。
  • アウトブレイクの流行中心地(武漢)で多くの患者が見逃されているけれども,海外旅行者ではほぼ100%検出されていると仮定すると,旅行者の症例発生率を一日当たり旅行確率と検出までの平均時間の組み合わせが,流行中心地における総患者数の推定に使える。
  • 症状を呈している集団の(理想的な代表的な)サンプルの検査を含む積極的サーベイランスは,総患者数の推定に使える。
R0は何を意味していて,それで何がわかるのか?
  • R0即ち基本再生産率または基本再生産数(訳注:かつては率としている教科書や論文が多かったが,最近の理論疫学では,数とするのが普通)とは,ある病原体がどれくらいの感染力をもっているかをまとめて示す値である。
  • R0は,全員が感受性である集団に1人の患者が入ったときに,その患者から感染が起こる平均人数である。もしR0>1なら感染者それぞれから1人より多い人への感染が起こるので,流行が起こる可能性がある。
  • R0は,現在感染している人々の総数については何の情報ももたない。病気の重症度の尺度でもない。たんに平均して1人から何人に感染が起こるかを教えてくれるだけで,その感染がどれほど重症化するかについては教えてくれない。
  • アウトブレイクの開始時点では,限られたデータに基づいて推定するので,推定が難しい。
どうやってアウトブレイクを封じ込める? 封じ込めを難しくしたり容易にしたりするのは何?
  • ワクチンや治療が利用可能になるまでは,薬剤によらない介入に頼るしかない。それには,症状のモニタリング,隔離,検疫のような,(患者と非患者の)接触を減らすための方法が含まれる。
  • 発症前あるいは症状がない状態で感染力があると,制圧は難しくなる。伝播が起こる前に同定されていなかったり,あるいは完全に見逃されている患者からでも感染が起こるかもしれないからである。接触者の検疫によってこの影響は減らせるかもしれないが,実現可能性と社会的自由という対価を払わねばならない。
新しい感染性病原体の重症例から軽症あるいは無症状の患者まで多様な臨床像全体を理解することが,なぜアウトブレイクへの公衆衛生対応に関連しているのか?
  • 入院や潜在的な致死につながるかもしれない重症例は,もっとも見つかりやすいし報告されやすい。無症状あるいは軽い症状の感染者は知られないままになりやすい。もしこれらの人(訳注:無症状や軽症の患者)が伝播に寄与しているなら,アウトブレイクの制圧は,より難しくなる。
  • 他方,もし軽症や無症状の患者が多くても,伝播にあまり寄与していないなら,ケアを要する患者数が減るし,感染したことによって少なくとも暫くの間は再感染に対する免疫が与えられるので,軽症や無症状の人は制圧の助けになるだろう。

ただの風邪という臨床医の言うことを信じる一般人が,手洗いなどできる防御への熱意を失うことで感染速度が上がることがまずいので,矢原さんがtweetされたことは的外れと思う。そう反論しておいた。

岩田健太郎先生のブログ? 記事だが,リンクが辿れているという前提でしか検査していなかったことによる報告漏れと潜伏期間の長さを無視しているのであまり意味のない計算と思う。

今日の散発的な報告例(厚労省のサイトにはまだない)から考えると,既に市中感染が起こっていてリンクが辿れなくなっている可能性は高いが,それでもなお,人混みを避けることや手洗いを励行することの継続によってRをできる限り下げ,ピークの高さを下げ時期を遅らせることが重要。

ぼくは医師でも放射線技師でもないから画像の見方は知らないし,この件はあまり自信はないが,武漢での病院の検査データから,肺炎を検出できるのは高解像度なCTでも半分強,普通のレントゲンでは1割ちょっとという報告も出ているので(流行初期に出た論文でもX-rayでは陰性だったという症例は多数あった),患者との接触の心当たりがあって38℃以上の発熱が続いているのに普通のレントゲンで肺炎の所見がないから2019-nCoVの検査をしないという医療機関(に対応した保健所?)の判断は不合理と思う。せめてCTを撮るべきではないのか。

死亡数の意味と重症化リスク研究への期待(2020年2月14日 - 当該鐵人三國誌

テレビをつけていたら,渡航医学の濱田先生が,COVID-19の致命割合がインフルエンザと変わらないという誤った情報を語っていた。その後の番組のコメンテータの玉川氏も同じ誤情報を語っていた(本当は2桁違う)。

岩田先生が死亡数で語るべきとtweetしているのは,そういう誤解やデマを避けるためには正しい方針と思う。ただし,死亡数は絶対リスクであって公衆衛生政策上重要だが,「感染者総数×IFR」か「確定診断がついた患者数×CFR」の結果として出てくる数字なのだから,それ自体を直接予測することはできないし,相対リスクがどうでもいいわけではない(絶対リスクと相対リスク参照)。

臨床の生データが論文でオープンにされているわけではないから,たぶん臨床論文を書いている著者グループにしかできないのだが,診断時または入院時のさまざまなデータ(白血球数とかCRPとかサイトカイン類とか,もちろん年齢とか基礎疾患の有無も含めて)から,ロジスティック回帰分析などで,その後重症化してICUに入るリスク因子や死亡転帰を辿るリスク因子を特定できるのではないだろうか。回帰式からROCをやって,AUCが十分に大きければ,診断時または入院時の血液検査データから重症化リスクが高い人を見つけるための最適カットオフ値も求められる可能性がある。誰かやってないだろうか。AUCが0.99くらいになる方法が見つかれば凄く意味は大きいはずなんだが。

厚労大臣が今日の会見で,「咳や発熱等の症状がある方で、特に高齢者の方、基礎疾患のある方についてはなおさらでありますが、症状に不安がある場合には、まずそれぞれの地域にあります帰国者・接触者相談センターにご相談いただきたい」と述べた。2009年のパンデミックインフルエンザのときに発熱外来に人が殺到して対応に時間が掛かってしまったことを反省し,外来窓口は公表せず,相談センターに電話連絡すると教えてくれる対応にしたとのこと(県の保健所のそれぞれ,地方中核市や政令指定都市の市保健所,県の疾病対策課に1つずつ回線が用意されているようなので,概ね二次医療圏単位での対応ということを意味する)。フリーダイヤルにした方が良いと思うが,現在は普通の電話だなあ。

クルーズ船の陽性者は昨日付けで公表された第8報によると,延べ713名を検査したうち218名とのこと。死亡後に感染が判明した80代女性,その方の娘婿であるタクシー運転手(発症は80代女性の方が早いが,人によって潜伏期間は違うので,この2人の間で感染が起こっていたとしても,向きは特定できない),和歌山県の医師千葉県の20代男性の情報も公表された。既にメディアでも言われているように,検査の範囲を広げたことによって一気に見つかっただけで,もっと広まってしまっている可能性は高いだろう。

官房長官もそうなのだろうと思うが,知らない人のために書いておくと,リンクが辿れない症例が見つかることは,流行していることのエビデンスとなる。厚労省サイトは消し忘れているだけだと思うが,まだ「我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません」という文章が残っているからといって,それを根拠に青梅マラソンのようなマスギャザリングイベントを開くのは悪手過ぎる。少しでも感染者が含まれている可能性がある状態でマスギャザリングイベントをやったら,Rが高くなることは考えなくても明らかだろう。それによって患者数増加速度が高まり,重症化する人数もそれに比例して増えるはずなので,医療施設の収容能力を危険に曝すことになる。厚労省のサイト管理者は早く修正した方がいいし,青梅マラソン運営者は中止の決断をすべきと思う。

何度も書いているが,高齢者や基礎疾患がある方は,COVID-19に限らず,すべての病気が重症化しやすいハイリスクグループなのであって(もっといえば,免疫が弱かったら感染自体もしやすくても不思議はない),COVID-19の重症化に気をつけなくてはいけないのは,この方たちだけではない臨床系の論文から,高齢者でなくても,基礎疾患がなくても,無視できない割合で重症化してICUに入っていることは,1月24日時点で既にわかっている。専門家としてメディアに登場する方や政治家は,「高齢者や基礎疾患がある方はとくに気をつけて」というのではなく,すべての人の感染リスクを減らすような行動を呼びかけるべき。人混みに行かない(マスギャザリングイベントは緊急性がなければ中止するかオンライン化する。延期するだけでもエピデミックカーブのピークを後ろにずらせるしピークの高さを下げることができるので,医療施設のキャパシティを超える患者増加の回避に寄与する)とか,風邪様症状がある方は,できる限り外出を避ける(公共交通機関の利用やイベント参加はしない。仕事も休む。どうしても外出しなくてはいけないときは鼻と口を覆うマスク必須)とか,石鹸での手洗いやアルコール含浸シートで手を拭うとかいったことを継続するのが大事。

専門家会議とパンデミック予測(2020年2月15-16日 - 当該鐵人三國誌

官邸の新型コロナウイルス感染症対策本部で,2月14日に開催された第9回会議(議事次第と資料)で,漸く専門家会議の招集が承認された。構成員は決まったが,まだ会議自体は行われていない(Skypeなどオンラインでいいので迅速にやった方が良いと思う)。東北大学の押谷先生がメンバーに入っているので,専門家として必要なことを主張してくださるだろう。政府は専門家の発言を正しく受け止めて必要な対策をとってほしい。できれば,C型肝炎を専門とするウイルス学者である脇田先生よりも,尾身先生か押谷先生が座長をされた方が良かったと思うが。

ハーバードSPHの感染症疫学のMarc Lipsitch教授が,パンデミックの結果,世界の人口の40-70%が感染するという予測(このtweetから始まる連ツイで理由を説明している)を出している。

パンデミックが起こると予測する理由として挙げているのは,

(1)既に中国の多くの場所と世界の多くの国で二次感染がかなり起こっている,

(2)例えばSARSよりも感染規模は遥かに大きい,

の2点で,まあそれはたぶんそうだろう。それどころか,既に(未検査の人も含めた確定診断がついていない感染者も含めれば)パンデミックになっていると言えるだろう。

40-70%の根拠としては,単純すぎる数理モデルでR0が2-3という条件で推定される80-90%という範囲は現実的でなく,より現実的なミキシング(人々の混ざり方)を想定し,おそらく季節性の助けも借りれば,もう少し下がるだろうが,CDCが2007年に出したパンデミックインフルエンザの影響緩和のためにコミュニティがとるべき戦略についての文書(このFigure 1に挙げられている,コミュニティの緩和目標は重要。なぜ完全にはできなくても封じ込め努力も続けるべきかわかるはず)によると,1968年のパンデミックインフルエンザは世界人口の40%が発症し,1918年のパンデミックインフルエンザ(スペインかぜ)は30%と推定されているが,これらのR0は2019-nCoVより低いと思われる,という点を挙げている【注:Lipsitch教授は書いていないが,IFRが西浦さんたちが示した0.3-0.6%,あるいは有効な治療が見つかるか,他地域では武漢よりうまく全身管理ができると期待して0.2%まで下がるとしても(途上国では逆に全身管理がうまくできず救命可能性が下がってIFRが高くなる可能性もあるが),世界の人口の半分が感染したら,35億人×0.2%=700万人の命がCOVID-19で失われることになる。仮にインペリの第4報で示されているIFRが1%(0.5-4%)という値が正しいとすると,CDCの分類でカテゴリー4であり,死者3,500万人となってスペインかぜを超えることになる。それは絶対に避けねばならない】。

Lipsitch教授は,続けて,40-70%が感染するシナリオを起こらなくするのは何か? についてもtweetしている。

(1) 武漢の状況が他の場所の状況とはいくつかの点で本質的に違っている場合(その可能性があると信じる理由はないが)。

(2) R0の分散が大きくスーパースプレッダーが存在した場合,武漢以外の場所では運良くR0が1未満になるかもしれない(Grantz K, Metcalf CJE, Lessler J (15th Feb 2020) Dispersion vs. Control.参照),もしそうならパンデミックは避けられる可能性が高い。Lipsitchのグループの論文に示したように,輸入症例が出ていてもおかしくないはずなのに未報告の国もある。

(3) 準備期間が十分にあった国々で,対策手段がきわめて効果的に働く場合。そういう国は少しはあるかもしれないが,すべての国で可能とは思われない。

(4) 現在予測しているよりも季節性要因が強力に伝播を減らす場合。しかし南半球の国には意味が無いし,中国の現状と合わない。

以上4点の可能性が低いことから,Lipsitch教授は40-70%という予測を出している。同時に,予測は間違っているかもしれないし,そうなることを強く望んでいるが,準備はしておいた方がいい(Predictions can be wrong and I very much hope this is, but better to be prepared.),とも書いている。次のステップとしてできることは,患者追跡,さらなる伝播を防ぐための介入などの緩和方策(人道的な方法で安全になされなくてはいけないが旅行制限なども含む)を通して時間を稼ぎ,治療法やワクチンが開発されるのを待つことだとも言っている。概ねその通りと思う。

それにしても,厚労省も対策本部も動きが遅すぎる。青梅マラソン京都マラソン北九州マラソンのようなものもそうだが,岡山で行われた「はだか祭」のような伝統行事は,運営者の中に中止すべきと思う人がいても声を上げにくい空気があるだろうし,これまで開催のための準備を多方面で進めてきた努力を無駄にするなといったことを含めたさまざまな開催圧力があるので,何か強力な根拠がないと中止しにくい。当局が迅速に市中感染が起こっている状況を認め,少しでも感染拡大を遅くするために,マスギャザリングイベントはできる限り中止または半年くらいの延期をするように提言すべきだろう。専門家会議を16日夕方に開いてから状況判断するというのは,いくら何でも遅い。ビデオ会議くらいできるだろうに。

Facebookに高山先生が書かれた記事と図は見やすいと思う。専門家会議の構成員名簿に名前は載っていないが,高山先生も招集されているようだ。

インペリグループ第5報(2020年2月15日)は,SARS-CoV-2(2019-nCoV)の既発表53サンプルの遺伝子配列データを系統解析した結果から,これらのウイルスの共通祖先は2019年12月8日(95%CIが11月21日~12月20日)に発生したと推定されたと書いている。さらに,系統解析の結果と指数成長を仮定した集団遺伝学的モデルと整合性があり,さらにSEIRモデルを当てはめる際のIにおいて感染力に大きなばらつきがあるとすれば,2月3日時点までの感染者数は,R0の過分散の水準がどれくらいかによって大きく変わる,とも書かれていた。もしR0のばらつきが大きいなら,Lipsitchのtweetで40-70%のパンデミックが起こらない条件の(2)が満たされる可能性があるという意味で,多少希望がもてる報告と思う。

今日行われた対策本部の第10回会議資料(15分しかされていないので,厚労省提出資料のブリーフィングがされただけのようだ)。専門家会議の資料や議事録が出てくるのを待ちたい。

厚労大臣と専門家会議座長の会見動画を見たが,意思疎通が不十分だし,座長がC型肝炎ウイルスの専門家であるせいか,各専門家から出た話を未整理なままに羅列しただけであるために,会見内容が内部矛盾を含んでいてリスコミとしてダメダメな感じ。やはり座長は尾身先生か押谷先生がされるべきだった。

JCM論文でもcCFR推定値が高かった(2020年2月17日 - 当該鐵人三國誌

JCMの特集号にJung, S.-M.; Akhmetzhanov, A.R.; Hayashi, K.; Linton, N.M.; Yang, Y.; Yuan, B.; Kobayashi, T.; Kinoshita, R.; Nishiura, H. Real-Time Estimation of the Risk of Death from Novel Coronavirus (COVID-19) Infection: Inference Using Exported Cases.(2020年2月14日掲載)が出ていた。2つのシナリオ([1]12月8日に1人だけの発症者から流行開始,[2]2020年1月24日までに報告された20人の輸出症例に基づいた他のパラメータも利用)でMCMCで推定しているのだが,cCFRが[1]で5.3% (95%CI: 3.5-7.5%,以下同じ),[2]で8.4%(5.3-12.3%)と,インペリグループの第4報告に近い高レベルだし,R0も[1]で2.1(2.0-2.2),[2]で3.2(2.7-3.7)と推定されている。このことから,COVID-19はパンデミックを起こすかなりのポテンシャルがある,と結論している。

ちなみにパンデミックとは,疫学講義の資料の3枚目のスライドに書いたが,疫学辞典では「世界中あるいは数カ国の国境をまたぐ非常に広い範囲で起こる流行(epidemic)で,通常,多くの人々に影響するもの」と定義されている(epidemicは常在している状態のendemicに対比される語で,普段はないか非常に稀な病気の発生数が急に増えることを指し,アウトブレイクは規模の大きいepidemicという定義が普通である)。ちなみに,WHOの定義は,2009年のパンデミックインフルエンザ流行前は,誰も免疫をもっていない新しいウイルスの出現により世界中で同時に流行が起こり,膨大な死者と有症状者が出ることとなっていたが,2009年のパンデミックインフルエンザはCFRが低く重症化した人も少なかったため,流行後,「膨大な死者と有症状者が出ること」は定義から削除されている。

Lancetに2月12日付けで載っていた2019-nCoVに罹った妊婦と新生児9組についての臨床報告は,数が少ないし,全例が妊娠後期で帝王切開での出産例。だから著者もタイトルを「子宮内の母子垂直感染の潜在的可能性について」としているし,要旨にも,限られた数のデータだが9例いずれも臍帯血や母乳などを含め2019-nCoVは検出されなかった,と書かれている。この報告からは,途上国で妊婦が感染した場合のリスクについてはほぼ何も言えない点に注意。

BMJのプレプリントサーバのコロナウイルステーマの論文集。さっき見たら77論文もあった。西浦さんもシリアルインターバルの推定値についての論文を出していた。

2019-nCoVの検査対象が拡大された(厚労省からの各都道府県,政令市,中核市,特別区の衛生局宛て通知,2020年2月17日付け)。条件追加によって事実上地域縛りを外したのは正しいし,フローチャートになっていて見やすい。

検査対象拡大もそうだが,専門家会議を踏まえて出てきた,相談・受診の目安も良いと思う。テレビや新聞でCOVID-19を扱うときは,いつも最初にこれを流すべき。今日厚労省サイトに掲載されたこれに書かれていることも悪くないが,「新型コロナウイルスを防ぐには」というタイトルは変。

JCMの特集号,さらに今日付けで原著論文Linton NM, Kobayashi T, Yang Y, Hayashi K, Akhmetzhanov AR, Jung S-M, Yuan B, Kinoshita R, Nishiura H. Incubation Period and Other Epidemiological Characteristics of 2019 Novel Coronavirus Infections with Right Truncation: A Statistical Analysis of Publicly Available Case Data. Journal of Clinical Medicine. 2020; 9(2):538.も出ていた。これも西浦さんのグループの研究。RとJuliaとStanを使って,発症から入院までの日数にガンマ分布,発症から死亡までの日数に対数正規分布,入院から死亡までの日数にワイブル分布を当てはめたようだ。すべての解析コードはhttp://github.com/aakhmetz/WuhanIncubationPeriod2020で入手できると書いてあるのだが,まだ掲載されていないのは若干残念(2020年3月31日追記:論文発表の数日後には掲載されていた。わかっていたが追記し忘れていた)。この研究のポイントは,要旨にも書かれているように,潜伏期間が平均5日(95%CI:2-14日)と推定されるので,検疫期間は少なくとも14日とるべきと示唆している点と,発症から死亡までの日数の中央値が13日(右側切り捨てを考慮すると17日)あるので,(とくに流行初期は)ある時点での死者数を確定患者数で割るのではCFRを過小推定してしまうという点。これは査読付き原著論文なので掲載までに時間が掛かっていて,IFRが0.3-0.6%という推定をした研究は,時期的にはこれより後だと思われる。

都道府県別新型コロナウイルス感染症患者数マップというページを大濱崎卓真さんという方が作っていらっしゃるのだが,これは本来なら厚労省が作るべきページではないか。これまでも厚労省サイトに載るよりもメディアが報じる方が早く,数時間から1日程度の遅れがあったが,信頼できるデータ公開チャネルは公的機関に集約された形で備えるべき。他に二次公開されるのは構わないが,ここを見れば信頼できる最新の情報が入手できるというデータベースを,厚労省か感染研の感染症情報センターが公開し,リアルタイム更新して欲しい(できれば日本語と英語で)。IHR2005のためWHOとの情報交換を24時間やっているはずなので,それを同時に登録するデータベースを作ってアクセス可能にしておけば良いだけだと思うんだが。

第1回専門家会議の厚労省提出資料と,会議で出た意見を反映させた議論の方向性等。議論の方向性に関して,前者では「国内発生早期」と書かれているが,後者ではその文言が消えている。たぶん尾身先生や押谷先生がコメントされたのだと思うが,こういう議論になったのであれば,昨日の座長のコメントはおかしいし,内閣官房や厚労省のページから「我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません」という文言は可及的速やかに削除すべきだろう。

米国インフルエンザはコロナではない(2020年2月18日 - 当該鐵人三國誌

CDCの2月14日のpress briefingを聴くか読むかして,米国のインフルエンザ流行が実は新型コロナかも?という見出しは酷い。2つのメッセージを混同している。CDCからの発表は,これまで封じ込めには成功しているが,今後の感染拡大に備えて,(中国渡航歴や感染者との接触がなくても)インフルエンザ様症状を呈する人に検査できるようにするため,5カ所の保健センターに検査できる仕組みを整備したという話と,12月はB型,途中からA(H1N1)が主なインフルエンザによる患者や死者が増えていて,公衆衛生上の大きな危機であるという話。2つは別の話だ。そもそも2800万人は確定診断がついた人の推定人数だから,もし全員がCOVID-19だったなら死者は56万人を超えるはずで,14000人では済まない。CFRが0.05%というのも,日本のインフルエンザのCFRである0.01-0.02%よりは高いが,米国は格差が大きくまともに医療を受けられない人もたくさんいるので,乳児死亡率も高いし平均寿命も短い国なので,インフルエンザのCFRとしても不思議はない。もちろん,1月中旬以降にインフルエンザ患者と診断された中に2019-nCoV感染者が少しはいるかもしれないが。

アジア人男性が重症化ハイリスクとわかったという話も見かけるが,元になった論文は,成人8人の肺の細胞43,134個それぞれについてRNA発現を調べた研究で,2019-nCoVが細胞に侵入するときのレセプターとなるACE2を発現している細胞の割合が,細胞ドナーの年齢や喫煙とは関係なく,男性2人では1.66%であったのに対して女性6人では0.41%(U検定でp=0.07。なぜ二項検定でなくU検定なのか不明だが)であり,1人のアジア人男性ドナーで2.50%だったのに対して白人とアフリカ系アメリカ人では0.47%だったから,この違いが新型コロナウイルスパンデミックとかつてのSARS-CoVパンデミックがアジアに集中していることを説明するかもしれない,と書いているものだ。この結果からアジア人男性がハイリスクという一般化をすることが馬鹿げているのは,説明するまでもないと思う。

専門家会議の意見がやっと反映されたのか,官邸や厚労省の「国民の皆様へ」から,「我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません」が削除された。

岩田先生がダイヤモンドプリンセスに乗り込んで追い出された経緯を日本語と英語でYouTubeで報告されていて,凄い勢いで拡散されている。ダイヤモンドプリンセス内の指揮系統が混乱しているというか,システマティックに対処できていないことはわかる。東日本大震災のとき,石巻市の医療がうまく運営し続けられたのは,事前に業務分担してシステマティックに動ける組織を作って訓練していたから,と石井正先生の著書に書かれていたが,感染症アウトブレイクは一種の災害なので(という視点ではDMATが入るのはわからないでもないが,通常DMATは発災後2~3日以内の超短期対応を担当するので,現状ダイヤモンドプリンセスにDMATが対応するのは原則的にはおかしい),組織的対処が必要だ。しかし,FETP修了者のネットワークがそのように活用できるのかといえば,たぶん権限も無ければ指揮系統が独立して動ける形になっていなくて,岩田先生の動画から推察されるように,政治家から厚労官僚を通じた横やりが随時入るのだろうから期待は薄い。公的資料に名前が出てこないのに厚労省に招集されているらしい高山義浩先生は,たぶん対策本部に毎回厚労省から提出している資料をまとめる作業をさせられているのだろうが(政治家しかいない対策本部に,この資料が15分だけ毎日報告されているという事実は,災害にも感染症にも素人で,自分の言葉も持っていない政治家たちが,専門家より上の立場で指揮を執りたがっていることを意味する。人間は権力に従って黒いものを白く塗ることさえするかもしれないが,ウイルスは忖度もしてくれなければ命令にも従わないので失敗はそのまま露呈する),もし本当にその仕事をさせられているのだとしたら(憶測に過ぎないが),高山先生には役不足も甚だしい。以前から書いているように,佐久総合病院で地域に寄り添う医療を実践され,世界中の被災地や紛争地での救援医療にも長年携わってきているのでギリギリの状態での交渉もできれば臨機応変の判断もでき,沖縄県立中部病院で感染症専門医としても経験があって,それらの経験を語る言葉ももっている高山先生こそ,この場の指揮者に相応しいと思う。事前準備がないし組織もない状態で指揮をとれと言われても困るかもしれないが,下働きをするよりは指揮権をもつ方が,高山先生の力を生かせると思う(SNS等で,元厚労省,とするコメントが散見されるが,2009年の新型インフルエンザのとき,佐久総合病院から対策室に呼ばれて出向していただけで,官僚ではないし医系技官でもない。今回も招集されて出向しているだけで,本当は沖縄に戻りたいだろう。そう思ってこれまであまり触れずにいたが,ご本人がFacebookで岩田先生の乗船に際して果たした役割を発表され,「権限はない」と繰り返されていた点から考えると,たぶん覚悟を決められたのであろう。大御所や官僚や政治家とも喧嘩をせずに対話ができ,最悪の事態を常に視野に入れながらネゴシエーションができる専門家として,国は高山先生に指揮権を委ねるべきだと思う。昔の政治家だったら,信頼できる専門家に全権委任して,責任は自分が取る,というような人がいたと思うが,今の政治家は逆なのが悲劇だ)。

西浦さんがFacebookで,Grantz K, Metcalf CJE, Lessler J (15th Feb 2020) Dispersion vs. Control.を紹介して,パンデミックを避けられる可能性が出てきたかも,と評価しているのだが,ハーバードのLipsitch教授は,同じ論文を見た上で,武漢以外ではR0<1にできる可能性があることを踏まえた上で,その可能性は低いので世界人口の40-70%が感染するパンデミックになるだろうと2日前に書かれているので,まだどちらに転ぶかわからず,対処の手を緩めてはいけない。蔓延期になってからマスギャザリングを止めるのでは遅く,蔓延状態になるのを防ぐためにマスギャザリングはできる限り避けるべきだと思う。

感染研で公開されたDP乗客乗員データ(2020年2月19日 - 当該鐵人三國誌

昨日付でプレプリントサーバに公開されていたWang Q et al. Clinical diagnosis of 8274 samples with 2019-novel coronavirus in Wuhan。武漢大学人民医院を1月20日から2月9日までに受診した濃厚接触者8274人の臨床診断結果をまとめた論文。検査を受けた人の年齢中央値は47歳(範囲は32-62歳)で,男性が37%。鼻咽腔塗抹標本は全員から採取し,63人(年齢中央値62歳,65.1%は男性)からは同日の喀痰標本も採取している。613人(年齢中央値51歳,49.5%は男性)については,13種類の疑わしい呼吸器感染症病原体についても検査し,そのうち316人(年齢中央値56歳,男性51.6%)については同時に2019-nCoV検査もしている。リアルタイムRT-PCR検査の結果,2745人が2019-nCoV陽性,5277人が陰性であった。残り252人は2つの2019-nCoV遺伝子のうち片方しか検出されなかったので診断がつかなかったため,不確定群とした。陽性群,陰性群,不確定群のそれぞれについて,年齢中央値は56,40,52歳であり,ダネットの多重比較で,陰性群の年齢は陽性群,不確定群のどちらと比べても有意に低かったが,陽性群と不確定群の年齢に有意差は無かった(注:ずっと中央値で話をしているのに,しかも3群のうち2群ずつ総当たりで比較しているのに,ダネットを使うのは不適切で,Rならばpairwise.wilcox.test()を使うべきだろう)。男女別の情報が謎で,男性2485人のうち陽性882人,不確定61人,女性3376人のうち陽性999人,不確定74人で,男性の方が女性よりも有意に陽性割合が高かった,と書かれているのだが,病院サンプルで性別不詳がそんなに多いとは思われないので,どうも数字が信用できない。というわけで,これ以降は読むのを止めた。たぶん修正されるだろうから更新を待つべきだろう。

時間もなかったし,学術的な報告もなかったし,詳細な状況も公開されていなかったので,これまでダイヤモンドプリンセスというクルーズ船の乗客についてはあまりちゃんと見ていなかったのだが,感染研のサイトで(いまのところポータルページからはリンクされていないのだが),"Diamond Princess"とsite:niid.go.jpでGoogle検索すると見つかるField Briefing: Diamond Princess COVID-19 Casesというページが2月19日付けで公開されている。

この船は1月20日に横浜を発ち,鹿児島,香港,ベトナム,台湾,沖縄に寄港し,2月3日に横浜に帰ってきたが,1月25日に香港で降りた乗客が,実は1月19日から咳の症状があり,2月1日に2019-nCoVに感染していたことが確認されたことから,2月3-4日に全乗客・乗員の健康状態が検疫官によって質問紙調査され,症状のある乗客・乗員及び彼らとの濃厚接触者については呼吸器からの試料が採取された(2月11日以降,検査能力と検疫官の拡充により,80歳以上の高齢者と基礎疾患がある人から順に検査対象を拡大した)。2月5日にラボで確定診断がついたCOVID-19症例が出たため,当日午前7時から14日間の検疫のため,乗客は船室にとどまるよう求められた。以上の経緯はよく知られているが,この報告は,検査対象者や陽性者の年齢や検出日などを初めてまとめて報告したものになる。

2月5日時点で乗船していた3711人(乗客2666人,乗員1045人)の14.3%にあたる531人が,2月18日時点で2019-nCoV陽性であった(有症状276人,無症状255人。年齢別陽性割合を見ると,50代以上で10%を超え,70代と80代では20%を超えている)。そのうち発症日がわかっているのは184人で,うち33人は2月6日より前に発症していた。残り151例のCOVID-19患者について,乗客と乗員別々に,発症日順の発症数の棒グラフが載っていて,エピデミックカーブはピークを超えて,ほぼ終息しているように見えるし,このField Briefingの予備的な結論でも,船内での感染の多くは検疫が始まった2月5日より前に起こった明白なエビデンスが得られたとされている。

もっとも,今日も新たに陽性と診断がついたケースが607名分のサンプルのうち79例あったと報告されていて,そのうち68例は無症状だったとのことだが,11例の有症状の方がいつ発症したのかはわからないので,Field Briefingで発表されている情報だけでは,本当に2月5日以降の感染を止めることができているのか,それとも感染が継続していたのかはわからない(西浦さんがNスペで言っていたように感染後3日目くらいから感染力があるとしたら,五次感染くらいまで起こっていても不思議はない)。無症状でも感染力があることを考えると,通常の発症日順のエピデミックカーブの解釈は難しい。かといって,不顕性感染については,毎日サンプルを取っておいたのでもなければ,感染日の推定は不可能である。

2月5日以降に感染したのかどうかにかかわらず,下船した人の中に,無症状で,かつ2月5日時点では検査陰性だったけれども,実は感染していて,今後その人から感染が始まる,という事例が出てくる可能性はゼロではない。たぶん,既に日本では市中感染が起こっているので,市中感染がまだ起こっていないとされている欧米と違って,既に2週間の検疫を終えた乗客をさらに2週間隔離することによって得られるメリットは,その人たちの人権を制約することが正当化されるほど大きくはない,という判断がされたということではなかろうか(もしそうだとして,それが正しいかどうかはわからない。無症状感染者からの平均感染者数は,軽症者からの平均感染者数よりさらに低いだろうから,もしそれが1を下回るなら,その人たちをフォローアップする必要もないことになる)。ただし,このレポートに書かれているところでは,2月14日以降の系統的な検査で無症状でも陽性とわかった人と同室だった人については2週間の検疫期間は,陽性者が上陸した日でリセットされるとのこと。もっと前に上陸させても同じことだったかもしれないが,見かけのエピデミックカーブがほぼ終息しているグラフを見せることで大義名分が立つと考えたのかもしれない。蔓延を遅くするための手段としては,手洗いの徹底,風邪様症状があったら外出しない,マスギャザリングの制約の方が効果は大きいだろう。とりあえず,現在のところは,これくらいしか言えない。

誰でも使える形で生データ(個人情報は削除するとして)を出してくれたら,数理モデルの当てはめとか分析がしやすいんだが。

中国CDCからの患者データサマリー(2020年2月20日 - 当該鐵人三國誌

2月17日付けで中国CDCから数万人規模の患者のデータのサマリーが出ていることをGigazineの記事で知った(それ以前にtwitterで見かけたような気もするがリンクを見つけられなかった。Gigazineはソースへのリンクがあるのが素晴らしい)。これで漸く重症化リスクについて定量的なことが少しはわかりそうだ。

Table 1を見ると,全体のCFRが2.3%とこれまで言われてきた通りだ。確かに高齢者でCFRが高い傾向は顕著にある。10歳未満は死者ゼロで,10代から40代では0.2%~0.4%にとどまり,50代で1.3%,60代で3.6%,70代で8.0%,80歳以上では14.8%である。0.2%というと低い気がするかもしれないが,10代や20代で感染したら確定診断がついたら1000人に2人亡くなるというリスクが,風邪のように普通に罹る感染症によってもたらされるとしたら,社会的ダメージが大きすぎる。男性のCFRが2.8%,女性のCFRが1.7%で,Rでprop.test(c(653, 370), c(22981, 21691))を実行すると,男性の方が統計的に有意にCFRが高いことはわかる。ただし男女別年齢分布がわからないので(なぜクロス集計を出してくれていないのか謎だが),もしかしたら男性患者の方が高齢者が多いのかもしれない。湖北省のCFRが2.9%(979/33367),それ以外のCFRが0.4%(44/11305)というのは,これまで言われてきた通りだ。Figure 1によると武漢,湖北省,中国全体で,COVID-19確定症例の年齢分布や性比はほぼ同様なので,武漢や湖北省の患者に男性が多いとか高齢者が多いということはない。基礎疾患として高血圧がある人はCFRが6.0%,糖尿病がある人は7.3%,心疾患がある人は10.5%,慢性呼吸器疾患がある人は6.3%,がんがある人は5.6%と高いのもこれまで言われてきた通りだが,何も基礎疾患がなくても0.9%というのは高いと言わざるを得ない。発症日別のCFRが2019年12月31日以前で14.4%,2020年1月1日-10日で15.6%と高く,そこから10日ごとに5.7%,1.9%と低下し,2月1日以降発症の人では0.8%となっているのは,時間が経つほど適切な全身管理により救命に成功する症例が増えてきたのかもしれないし,発症から回復して退院または死亡までの時間がかなり長いためにまだ亡くなっていないということなのかもしれない。後で発症した人の方が湖北省以外で多いことも関係しているかもしれない(ヘルスワーカーについてはTable 2に武漢,武漢以外の湖北省,湖北省以外の中国で発症日別にCFRを計算しているのだが,同じ形の表を確定症例全体について提供すれば良いのに)。これの生データを使ってロジスティック回帰分析をすれば,どの要因が相対的に強く死亡に影響しているかについて推論が可能なはずなので,是非やって欲しいものだ。ていうか,簡単にできるので,データを匿名化して公開してくれればいいのだが。

ちなみに,2010年に厚労省がまとめた資料の22ページ右の図に2009年のパンデミックインフルエンザの致命割合が,確定患者数1万人当たり死者数の形で掲載されているが,CFRにすれば全年齢で0.001%,40歳未満はそれ以下で,40代で0.0031%,50代で0.0066%,60代で0.0147%,70歳以上で0.0282%だった。2009年のパンデミックインフルエンザの致命割合は日本ではとくに低かったことは考慮しなくてはいけないが,この数字と比べると,COVID-19の致命割合がいかに高いかわかるだろう。

NEJMに載っていた今後の研究展望(2020年2月21日 - 当該鐵人三國誌

NEJMの特設ページ(厳密に言えばコロナウイルスのページなので,下の方にはMERSの論文も載っている)をフォローしていなかったが,2月19日付けのSARS-CoV-2 Viral Load in Upper Respiratory Specimens of Infected PatientsというCorrespondenseは17例の症状のあったケースと1人の無症状のケースについて,毎日鼻と喉からサンプルをとって2019-nCoVの量を調べた,一種のウイルス排出研究(viral shedding study)で,発症直後にウイルス量が多く,かつ鼻の方が喉より多い点がSARS-CoVとはまったく違うと報告している。無症状のケースも症状のあったケースと同様のウイルス量が検出されたと書かれているが,1例なので定量的な評価はできない。

1月30日に出たTransmission of 2019-nCoV Infection from an Asymptomatic Contact in GermanyというCorrespondenseでも,無症状の人から感染した患者は報告されていたが,2月19日の論文は,無症状であっても鼻水や唾に2019-nCoVが感染を起こしうる量,含まれている場合があることの証拠となる。

しかしそれ以上に注目したいのは,同じく2月19日にPerspectiveとして掲載されていたハーバードSPHのMarc LipsitchらのDefining the Epidemiology of Covid-19 — Studies Neededである。COVID-19の疫学的特徴を明らかにしなくてはいけない,として4つの決定的なポイント(重症度に大きな幅があるこの病気の全体像,感染力はどれくらいなのか,感染力に影響する要因は何か,重症化あるいは死亡につながる要因は何か)を挙げ,これらの疑問へのエビデンスと,それを得るために必要なアプローチを表にまとめている。それぞれのアプローチは,MERSや2009のパンデミックインフルエンザなど,これまでのアウトブレイクで成功したことがわかっているとしている。わかりやすい表なので意訳しておく。

必要なエビデンスアプローチ(研究タイプ)
軽症例を含む患者数症例ベースのサーベイランスとターゲットを絞ったウイルス検査
伝播のリスク因子とタイミング世帯ベースの研究
重症化率と罹患率コミュニティベースの研究
重症化の「ピラミッド」複数のソースとデータ型をもつ研究の統合
感染,重症化,死亡のリスク因子症例対照研究
感染力のタイミングと感染強度ウイルス排出研究

WHOのマスギャザリングへのガイドライン(2020年2月22-23日 - 当該鐵人三國誌

WHOがマスギャザリングについての暫定指針(2020年2月14日付け)を出していることを知った。この数日,3月に開催が予定されている,オセアニア学会とか国際保健医療学会西日本部会とか人口学会関西部会について検討が進められてきたのだが,これは一つの拠り所になるか? が,ざっと目を通してみたところ,これらの規模ならたぶんあまり関係ない気がする。けれどもマラソン大会やドームでのライブとかを企画する際には,計画段階から地区の公衆衛生当局と国の公衆衛生当局(日本の場合は都道府県衛生局と厚労省が該当する)と連携することとか,事後のフォローアップまで含めて,この暫定ガイドラインを踏まえてやるべきであろう。かなり大変なことのように見えるが。

希望がもてる情報(2020年2月24日 - 当該鐵人三國誌

漸くテレビに出ているコメンテータも,感染速度を下げることによってピークを下げピークを後方シフトさせることが必要(community mitigationの目的)という,まともなことを言うようになってきたが,まだいろいろ認識が甘かったり間違っていたりする(急に重症化しないのか,という話で,玉川氏が基礎疾患のない若い人は自宅で,と言っているが,そこは相変わらず誤解していて,若くて基礎疾患なしでも重症化する人もいる。つまり,高齢者と基礎疾患のある人が重症化しやすい,という情報を,それ以外の人は重症化しにくい,と誤解しているコメンテータなどがあまりにも多すぎる。日経新聞の取材に答えてそこだけ記事になったときと事情は変わっておらず,ウイルス検出時点でAUCが0.99になるようなROCが得られる検査項目は,いまだに見つかっていない。むしろ,COVID-19でなくても肺炎だったら入院するのは当然なので,肺炎かどうかを基準にすることはできないのだろうか?)。情報バラエティは全部やめて,NHKが1月28日に放映した「クローズアップ現代プラス」2月9日に放映した「NHKスペシャル」を再放送するとか,いっそ特例で動画公開するとかしてくれた方が,まともな認識が広まると思う。報道は淡々と新しい事実だけ伝えてくれれば良い。

新薬は安全性の治験が間に合わないだろうが,クロロキンが有効in vitroではウイルスの細胞への侵入を低濃度でもブロックすることがわかり(ウイルス学者に頑張って貰ってメカニズムも明らかにして欲しいが),いま中国の多施設で大規模治験中)という報告には期待が持てる。クロロキンは安いし,マラリア予防で週1回内服して血中濃度を保つという使い方も長くされてきたし,副作用もほとんどないし。大規模治験の結果が待たれる。

どこまでオープンにしていいかわからないが,Facebookで西浦さんと渋谷先生の対話を見ていたら,これからの対応に希望がもてた。専門家会議で尾身先生と押谷先生がリーダーシップをとってくださり,新しい組織作りが進行中とのこと。ここで政治家(+そこに付き従う普通の官僚組織)は変な横やりを入れず,新組織が存分に動けるようにバックアップして欲しいし,世間一般の人たちも,そういう方向で政治家を監視するべきだろう。

検査性能(2020年2月25日 - 当該鐵人三國誌

検査性能について

検査性能の指標として感度と特異度が基本であることは確かだし,実際にそれを使って検査をしたときの偽陽性については有病割合が影響するから陽性的中率を考えなくてはいけないというのも基本ではあるが(感度や特異度が100%近くあっても,有病割合がきわめて低かったら陽性的中率が低くなるから,そういう集団に対するスクリーニングは推奨されない。この辺りの基本は,どの教科書にも書いてあるが,疫学講義の中でスクリーニングについて喋った回や,検査情報解析学の講義の資料をご覧いただくと良いかもしれない),COVID-19の場合,話はそんなに簡単ではない。この点,そこそこ疫学を勉強していそうな人でも誤解している場合があるので,説明してみる。

通常の感度と特異度の計算は,既に確定診断がついている患者群をある検査法で検査したときに陽性という結果が出る割合が感度(sensitivity),患者でないことがわかっている群をその検査法で検査したときに陰性という結果が出る割合が特異度(specificity)となる。

ところが,COVID-19をリアルタイムRT-PCRで検査するという方法は,確定診断の手段なので,原理的に,既に確定診断がついている患者群を検査することができない。従って感度も特異度も求められない。リアルタイムRT-PCRで2019-nCoVが検出されたらCOVID-19の患者と判定され,検出されなかったらCOVID-19の患者ではないと判定されるのだから,無理矢理計算すれば,感度も特異度も100%になるはずである。症例定義の要件に含まれる検査項目について感度や特異度を考えることは原理的にはおかしい。

ではなぜ,感度が30%から50%だとか,特異度が90%とか99%と言われるのかといえば,時間をおいて何度か検査すると,最初陰性だった人が陽性になる場合が多々あることから,本当は感染していたのに最初はそれを検出できなかったと推論するからだろう。しかし,1回目に測ったときは本当に感染していなくて,後で感染したのかもしれない,という可能性も同等に存在するので,この推論は万全ではない。厳密な感度や特異度は,後付けでは計算できない。もちろん,その推論が正しい可能性もあるが。

仮に推論が正しかったとした場合,複数の検査の組み合わせによって,感度か特異度を上げることはできる。ただしトレードオフである。例えば,2つの検査がともに陽性だった場合のみ陽性と判定する,としたら,特異度は上がるが感度は下がる。逆に,どちらか1つでも陽性なら陽性とする,としたら,感度は上がるが特異度は下がる。現状,2019-nCoVのRNA検出のプローブは2つ使われていて,1つは2019-nCoVに特異的な配列で,もう1つは他のウイルスでももっている可能性が多少はあるものらしい(この辺,ちゃんと文献を読み込んでいないので間違っているかも。ただ,この流行初期にHIVのRNAが入っているとした誤報は,HIVだけではなく,コロナウイルスにも元々あって不思議はない配列を検出のターゲットにしてしまったことによるので,2019-nCoVなら共通して持っているが他のウイルスは持っていない,という配列を決めるのは,そう簡単なことではないようだ)。少なくともいくつかの論文では,ともに検出されたときのみ陽性と判定されていたので,その分,特異度は上がるが,感度は低くなる。

もっと難しいのは,すべての検査には検出限界があるということだ。狂牛病が流行したとき,日本の農水省は,人々の「安心」を重視して全頭検査を実施したが,生後1年未満の仔牛ではプリオン濃度が検出限界以下なので,検査しても検出される可能性がなく,生後1年以上の牛だけ検査すれば十分だという批判はあった。あの全頭検査には,確かに安心を与える以上の意味はなかった。ただ,検出限界以下のプリオンしか含まれていない肉であれば,nvCJDを起こす可能性はほとんどないと考えられたので,一様に検査することで「安心」は得られた。2019-nCoVの場合,咽頭や鼻腔からのスワブの濃度が検出限界以下(おそらく無症状の人に多いと思われる)であっても,その人に感染力がないとは限らない(病原体の常識に反しているが)。微量なままでも,唾液などに混じって飛んだウイルスが,飛んだ先の人の体内に入って増殖してしまうかもしれない。検出限界以下である可能性が高い人についての2019-nCoVの検査には,早期発見しても有効な重症化防止の治療法があるわけでもないのはもちろんのこと,感染拡大防止の意味もないことになる(トートロジーのようでくどいが,敢えて書いておく)。

しかも,リアルタイムRT-PCRをBSL2以上のラボで実施できる検査能力が限られた施設にしかなく,感染が広がらないような対策や患者の生命を維持できるための設備を備えたベッド数も限られているという現実があり,すぐにはその増設ができない(前者は民間検査会社や大学と協定を結べば物理的には増やせるかもしれないが,後者はすぐには無理だろう。厚労省は既にどうしても足りない場合は一般病床でも受け入れられるように通知を出しているが,日本の病院の病床稼働率はかなり高いので,他の病気で入院中の人を追い出すこともできないとすれば,「スクリーニングで検査陽性=病院に隔離」としたら,高い確率で病床がパンクする。そうなったら,COVID-19以外の病気による死者も増えてしまう可能性があって,最悪の場合,医療が崩壊する)。そう考えてみると,ある程度症状がある人しか検査しない,というのは,合理的な判断といえるだろう。

基本指針は「今後」の肺炎による線引きに期待

問題は,どこで線を引くかだと思う。4日以上37.5℃以上の熱が続くという条件は,重症化リスクの判定基準としては限定されすぎているし,エビデンスも乏しい。もちろん,以前から提案している症例対照研究がなされていないので,もっと感度の良い重症化基準は見つかっていないということなのだが,短期で重症化する場合もあるのだから,昨日も書いたように,とりあえず,肺炎になったかどうかを重症化リスクの判定基準にしたら良いのではないかと思う(1月末のクローズアップ現代プラスで田代先生が図解されていたように,おそらく無症状だったり軽症のまま治る人の多くは,ウイルスが上気道にとどまっていて,肺に到達していないということだとすれば)。以前,岸田直樹さんがtweetで提案されていたが,パルスオキシメータでSpO2を測ることは自分でもできるので,自衛のためなら,95%以下が続くなら(成人市中肺炎診療ガイドラインによれば90%以下でA-DROPのスコアが上がるが,COVID-19はそもそも非定型肺炎として報告されたことを思い出せば,あまりそこに拘らず,肺炎の可能性が高ければ,という基準で良いように思う),受診相談の電話を掛けて良いのではないだろうか。

そう思っていたら,今日発表された新型コロナウイルス感染症対策の基本方針(それを含む厚労省から対策本部に提出された資料)に重要な情報が載っていた(失望したというtweetが多いが,いくつか重要なポイントが,政治家に気づかれないように,こっそり書かれているように思う)。「現行」では,「感染症法に基づく医師の届出により疑似症患者を把握し,医師が必要と認めるPCR検査を実施」+「積極的疫学調査により濃厚接触者を把握」となっていて,リンクが辿れなくなった現在,地域クラスターを過小評価する危険があるのだが,「今後」は,地域クラスターと認定されれば「入院を要する肺炎患者の治療に必要な確定診断のためのPCR検査に移行」なので,中等度以上の肺炎の可能性があれば4日待機しなくても入院治療を受けつつ検査できるようになる。さらに重要なポイントとして,地域クラスターは,新たに設置された「クラスター対策班」(リンク先を見ると,これが本気で作られた組織であることがわかる。昨日触れた「新組織」はこれだった)が検出することになっている。このチームならば,数理モデルを使って,不十分な検査データからでも検出してくれるだろう。たぶん,この移行により,検査とベッドの制約条件下での最適配分が行われると期待する。

大変難しい仕事だと思うが,このチームが力を発揮できれば不可能ではないと思う。逆に,最終的な死者数を最小限に抑えること以外の視点から,このチームに政治圧力が掛かって力を制約されてしまったら,医療がもちこたえられる可能性が大きく低下する。世間一般の人たちは,そこを監視して欲しい。

新たな論文

国内患者について未検査コンパートメントを含むモデルを作って真の感染者数を推定する,という研究はまだ見当たらないが,西浦さんのグループの誰かはきっとやっているところだろう。この数日忙しくて,新しい論文がフォローできていなかったので,ざっと見てみた。

インペリグループの第6報は,ハーバードのMarc Lipsitch教授のグループが2月11日に出した論文と同様な手法で同様な結果が得られ,中国以外の国に,おそらく未報告の感染者がかなりいるのだろうと論じている。

西浦さんのグループからJCM特集号のEditorialとして出たKobayashi T et al. "Communicating the Risk of Death from Novel Coronavirus Disease (COVID-19)"(2020年2月21日掲載,https://doi.org/10.3390/jcm9020580)は,感染症の重症度の指標としてCFRがよく使われるが,感染から死亡までのタイムラグのため過小評価されやすいこと,無症状や軽症の人が報告されないため観察されたデータが感染者全体を代表していないこと,限られたウイルスが検出できる期間に感度の低い検出方法で推定された死亡リスクは本当はもっと小さいこと,の3点が問題で,保健当局は死亡リスクの不確実さに対処せねばならないし,これら3点に正しくアドレスできるアプローチを使ってハイリスクな人を同定しなくてはいけない,と書いている。また,多くは軽症だが,季節性インフルエンザよりも若年成人の死亡リスクは高い,とも書いている。同じくJCM特集号に原著論文として出た,Anzai A et al. "Assessing the Impact of Reduced Travel on Exportation Dynamics of Novel Coronavirus Infection (COVID-19)"(2020年2月24日掲載,https://doi.org/10.3390/jcm9020601)は,1月2月の中国の旅行制限によるCOVID-19へのインパクトを統計モデルで評価している。アウトカムとしては,輸出症例数,大流行の確率,大流行までの時間遅れ,の3つを使っている。症例数については,57日目までの輸出症例数にポアソン回帰を当てはめ,58日目から67日目まで外挿して推定される輸出症例数と,実際のその期間の輸出症例数の差を合計して,旅行制限による減少とみなしている。1人の輸出感染者からの二次感染者数の分布を負の二項分布として絶滅確率πを求め,追跡不能例数がnとして,1-π^nを大流行の確率とし,旅行制限による減少があった場合の輸出症例と減少がなかったという反事実モデルでの輸出症例による大流行の確率の差を,旅行制限による大流行の確率の減少としている。時間遅れは指数関数を当てはめて計算している。結果として,1月28日から2月7日の間に,旅行制限によって226の輸出症例(中国の外での症例の70.4%)が防がれ,日本での大流行の確率が7-20%減少し,2日の遅れ(モデルによっては1日)であることがわかったので,制限による経済損失とバランスするくらいのインパクトではなかったかと結論している(20200226注:結果のところ,若干見間違いというか誤読していたので修正しました)。

なぜクラスター対策が重要か(2020年2月26日 - 当該鐵人三國誌

なぜクラスターへの重点対策が有効と考えられるのか。これは,暫く前に西浦さんが注目していたGrantz K, Metcalf CJE, Lessler J (15th Feb 2020) Dispersion vs. Control.が鍵で,R0の分散が非常に大きいことから,おそらくこのウイルスは集団内を均質に広がるのではなく,クラスターを作りながら広がり,クラスター内にはR0が非常に高い状況が生まれるが,それ以外では1未満である可能性がある。そこで地域クラスターを検知して集中的に対策することで,Rtを1未満にできれば,全体としてのアウトブレイクは終息に向かうはずだということだ。数理モデルでは可能性が示されている。あとはそれが実行可能かどうかだ。

窓口が保健所であることについては,感染症のアウトブレイクが,広域での対処と専門的な能力が必要なためと,給付行政よりも規制行政的側面が強いためと,医療が入院施設ベースでしか意味がないので,病床配備の基本単位である二次医療圏ベースで対処する必要があるため(現状,普通は二次医療圏の方が保健所管区より広域だが),などの理由が考えられる。医療法地域保健法に書かれていることを併せて考えれば自然な帰結である。保健所は地域保健法第5条で,政令指定都市,地方中核市,特別区は独自に設置できる他,都道府県が概ね二次医療圏に近い水準で設定した保健所管区ごとに1つ設置されている(医療法第30条の四の2の第12項「主として病院の病床(次号に規定する病床並びに精神病床、感染症病床及び結核病床を除く。)及び診療所の病床の整備を図るべき地域的単位として区分する区域の設定に関する事項」が二次医療圏のことで,地域保健法第5条の2で,二次医療圏及び「介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十八条第二項に規定する区域を参酌して、保健所の所管区域を設定しなければならない」と書かれている)。感染症病床は三次医療圏ベースの計画なので都道府県単位の計画に基づいて設置されるはずで,そういう意味ではCOVID-19の治療ができる施設の計画について,都道府県ベースで割り振られるのは法的に正しいし,窓口が保健所であることも正しい。けれども,実際に感染したかもしれないと悩んで相談したい住民に対して,相談というサービスを提供する必要があるという視点に立てば,これは給付行政なので,地域保健法第18条で「住民に対し、健康相談、保健指導及び健康診査その他地域保健に関し必要な事業を行うことを目的とする」として市町村ごとに設置されている市町村保健センターを窓口にすることも考えるべきかもしれない。医療機関からの受付は保健所や地方衛生研究所で良いとして,住民からの最初の相談窓口は市町村保健センターごとに設置する方が良いのではなかろうか。そこで必要と判断されたものだけを医療機関や保健所につなぐことにすれば,住民への対応は大きく改善すると思う。

Lancet Respiratory Medicine(Lancetの姉妹誌)に2月13日付けでCorrespondenceとして,Zhang J et al. "Therapeutic and triage strategies for 2019 novel coronavirus disease in fever clinics"が掲載されている。武漢でのアウトブレイクに対処した経験に基づき,成人発熱クリニックでの臨床戦略フローチャートを提案している。寒気,喉の痛み,咳などの風邪様症状で来院した人に対して,まずSpO2が93%未満かどうかをチェックすることを勧めている。微妙に基準値は違うが,簡単に自分でも測れるSpO2低下を検査の入口にするのは,昨日も書いたように岸田さんも勧めていたし,うまいやり方なんじゃないだろうか。

Prof. Marc Lipsitchの新しい小論(2020年2月23日付け,SciAmのブログ)。後で読む。

レビュー論文2つ。Zhang L, Liu Y: "Potential Interventions for Novel Coronavirus in China: A Systematic Review" Journal of Medical Virology(2020年2月13日付け,https://doi.org/10.1002/jmv.25707)も,Lai C-C et al. "Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) and coronavirus disease-2019 (COVID-19): The epidemic and the challenges" International Journal of Antimicrobial Agents(2020年2月17日付け,https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2020.105924)。ざっと見た感じだと,どちらも良くまとまっていると思う。

クロロキンが使える可能性は,Letter to Editorだが,Wang M et al. "Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro" Cell Research(2020年2月4日付け,https://doi.org/10.1038/s41422-020-0282-0)で,既に示されていた。多施設治験の結果が出るのが待たれる。

今朝書き忘れたが,逆に言うと,クラスター対策班は最後の希望に近いのだ(まだクロロキンが効くとか他の新薬が見つかるとかワクチン開発に成功するという可能性もあるが)。これに失敗するとLipsitch教授の予測の通り世界人口の40-70%が感染し,日本でも例えば40%が感染してIFR推定値の下限の0.3%が亡くなる,つまり,15万人が亡くなるという最悪シナリオが現実味を帯びてくる。残念ながら日本はシンガポールほど徹底した管理はできなかったし,感染症のサーベイランス体制も公開体制も不十分なので(シンガポールのデング熱患者のデータを見て,ブロックごとの発生日別の患者数が公開されているのに驚いたことがある),積極的疫学調査でリンクを辿ることによる封じ込めには失敗した。

おそらく再感染ではなく再燃(2020年2月27日 - 当該鐵人三國誌

いったん陰性になっていた大阪の女性や中国の初期の退院患者の14%で2019-nCoVが再度検出されたという話について,再感染と再燃の可能性があるという報道について。おそらく再感染の可能性は低いから再燃だろうという方が多いが,そうとも限らない。ヘルペスウイルスにはリンパ節に潜んで再燃するものがある(帯状疱疹とか)が,コロナウイルスではそういう性質をもつものは知られていない。もちろん,陰性になったというのが,リアルタイムRT-PCRの検出限界以下になったことを意味するだけで,そこから再び増える可能性はあるので,そういう意味での再燃はありうる。ただ,治ったら免疫がついているはずだから再感染はないだろうというのは早計である。自然治癒力で治ったからといって,液性免疫ができている保証はなく,細胞性免疫や非特異的免疫によって治っただけかもしれない。例えば,治療薬ができる前の熱帯熱マラリアはそういう病気だった。熱帯熱マラリア原虫は煙幕抗原を作ってホストの血中にばらまくことと,いくつかの異なる抗原性をもつ原虫が同時に流行していることから,一度治っても何度でも罹る(それを凌いで原虫本体を攻撃する抗体を作らなくてはいけないので,ワクチン開発がきわめて難しい)。また,B型肝炎ウイルスのように慢性化するウイルスには免疫寛容が成り立っているわけで,これもたぶんこれまでコロナウイルスでは知られていないが,ないとも限らない。もしそうだとしたら,あまりに最悪すぎるウイルスと言える。まあ,たぶん再燃なのだろうが……で,調べていたら,Zhang W et al. "Molecular and serological investigation of 2019-nCoV infected patients: implication of multiple shedding routes"という論文が2月17日に出ていた。鼻腔スワブで2度陰性でも,腸や血液には残っていて便中排出継続の可能性があるので,血清抗体検査の併用を勧めている。これが正しいなら,再発例は,腸や血液に残っていたウイルスが再燃したものと考えられる。テレビでコメントしている人たちは,この論文を踏まえて欲しいし,退院の基準を考え直さなくてはいけない。

2019-nCoVの検査施設は,感染研のマニュアルではBSL2+(BSL2施設の安全キャビネット内)となっているが,WHOはBSL3推奨。一つ興味深いことは,WHOのreferral laboratoryのリストを見ると,日本のreferral labは感染研ではなく長崎大の熱研になっているのだな。BSL3施設を備えたラボは多くはないだろうが,ウイルス学の研究をしているラボならどこでもBSL2施設はあっても不思議はないから,物理的には検査ができるラボはいくらでもあると思う。本当に感染研や地方衛生研究所の検査能力が足りないのに大学に依頼しないでいるのだとしたら,やはり守秘義務とか責任の所在とかいう話なのだろう。

BioScience TrendsというジャーナルがSong P, Karako T "COVID-19: Real-time dissemination of scientific information to fight a public health emergency of international concern"というEditorialで,PHEICに対しては科学的情報のリアルタイムの拡散が重要なので,本誌は重要な論文を公開していく,と宣言している。クロロキンがvitroで有効性を示し中国で治験中という論文もこのジャーナルだったが,Wang Z et al. "Clinical characteristics and therapeutic procedure for four cases with 2019 novel coronavirus pneumonia receiving combined Chinese and Western medicine treatment"(2020年2月9日公開)も,4人の患者について新薬と漢方薬を併用した臨床報告のようだ。最悪シナリオを考えた場合,治療薬の開発は急務なので頑張って欲しい。

クロ現プラスは2月18日にもCOVID-19をテーマにしていたのか。この回は見逃したが、リンク先に詳しい内容が載っているのは素晴らしい。1/28の回も詳しい内容紹介をウェブで見ることができる。ただ,できれば、この2つは動画で丸ごと公開してもらえないものか? 2/9のNスぺも併せて。

クラスター対策,西浦さんのフェイスブックへの書き込みによると,既に1か所目のミッションは終わったらしい。そこでRt<1にする局所封じ込めに成功していれば今後に期待を持ち続けることができる。逆に失敗していたらProf. Lipsitchの読みの方が正しかったことになり、かなり悲観せざるを得ない。

全国一律休校はなぜ愚策か(2020年2月28日 - 鐵人三國誌2月27日分2月28日分

エコヘルス研究会,国際保健医療学会西日本地方会(厳密に言えば,集会が中止になっただけで,既に抄録集はできているので,誌上発表とのことだが)に続き,オセアニア学会も中止になってしまった。3月のスケジュールに余裕ができたともいえる。

しかし,数千人以上の不特定多数が集まり,閉鎖空間で唾を飛ばす可能性があるマスギャザリングイベントと,100人未満の,知り合いに限定された,注意深い運営が可能な講演のようなものを一緒に扱うのは,まったく乱暴な話で,これはたんに自粛ムードに抗えないということだよなあ。まあ出張禁止する大学もあるし,仕方ないのだろう。自分が責任者だったら数十人の会議は実行するんだが。いま,人口学会の関西部会を実施するかどうかの相談をしていて,部会長宛に以下の提案をしてみたのだが,さてどうなるか。

といった配慮をした上で,懇親会なしなら,数十人規模の研究会を実施しても,そこでの感染リスクはほぼゼロと考えます。

ミーティングが終わって研究室に戻った後,情報をチェックしたら,驚愕のニュースが流れていた。地域クラスターを早期発見して集中的に対策するという手法と相容れないと思う。子供が広げているという論文もないし,学校だけ休みにしても成人が広げたら意味ないし,全国一律の休校は専門家が関与していない政治の暴走なのでは? あまりに乱暴すぎる。はっきり言って,安倍内閣が「やってる感」を出すためのパフォーマンスに過ぎない。政治が専門家会議やクラスター対策班の足を引っ張らないで欲しい。

北海道では小学生の兄弟とか,学校関係で感染が広まっているデータがあったので,即時休校はクラスターへの介入として意味がある。たぶん,冬季の北海道は暖房を利かせるため,校舎や乗り物の密閉性が高いといった,特殊事情もあるのではなかろうか。2009年のパンデミックインフルエンザのとき,H5N1新型インフルエンザ対策として決まっていた,都道府県ごとに1例でも患者が出たらその都道府県の学校は全校休校という措置(CFRがめちゃくちゃ低かったので,結局兵庫と大阪でしか実施されなかった)は,フランスのデータに基づいた数理モデルで,患者を最小限にするために有効という根拠があったが,COVID-19はインフルエンザとはまったく性状が違い(インフルエンザは学童への集団予防接種を事業としてやっていて,herd immunityをつけていた頃は,それによって流行を抑えることができていた証拠もある),休校が有効という根拠はない。例えば,R0の分散が大きくなくて,期待値が10とかあるような感染症だったら,ライフラインを除いて全部休業とするなら意味はあるが,その場合でも高校までの学校教育機関だけ休みにするのでは意味がない。COVID-19はR0の分散が大きいから地域クラスターへの介入で抑え込もうとしているのに,全国一斉休校は真逆の愚策だ。取り下げるべき。

病院などライフラインは,災害時に人員が減っても運営できるようなシフトを組めるマニュアルができているはずで,帯広の病院のように,休校によって子供の面倒を見るために仕事を休まねばならない医療関係者が2割いてシフトを組み替えねばならないとしても,たぶん回るだろう。もっと問題なのは,そういうライフラインそのもの,とくに病院で感染が広まっているという状況が検出された場合,どうするかだ。COVID-19による死者の減少よりも他の死因による死者が増えては意味がないので,休業しなくてもRtを下げるような策があるか。仮に休業しかRtを下げる手がないときに,数理モデルでRtを下げるため必要という予測が出たらどうするべきか。これには簡単に答えは出ないので,今から考えておく必要があるだろう。

2月3日にプレプリントサーバにアップロードされていた論文は,季節性コロナウイルス(普通の風邪)に罹っても,その大多数は無症状で,医療的ケアを求める人は4%しかいないという結果を報告し,多くの人が無症状か軽症な2019-nCoVの広がりを理解する上での参考になるだろうと書いている。

2月20日にウイルス学研究には5000万円出すことが決まっていたんだな。ELISAみたいな迅速検査の開発とか感染源探索が主な目的らしいが,5000万で足りるんだろうか(昨日触れた論文で,中国の研究者が既に血液で抗体検査する方法を開発したことはわかっているから,それを参考にできれば,意外に早く開発可能かもしれないが)。重症化要因の解明も熱研の長谷部先生の役割に入っているので,ウイルス学的なアプローチで重症化する場合のメカニズムが明らかになったらいいなあとは思う。これとは別に薬剤の研究には金を出しているのだろうか? これ以上に金がかかると思うんだが。その点,理論疫学は,臨床データを適切に公表さえしてもらえれば,必要なのはほぼ人件費とコンピュータだけだから,それほど資金が要らないのも優れていると思う(これまで何年も西浦さんたちが夏の集中コースで育成してきた人たち,一部は戦力になっていると思うが,それでも専門家がまだまだ少ないのが残念だ)。

2020年2月27日付けでJAMAに載った研究報告,Lan L et al. "Positive RT-PCR Test Results in Patients Recovered From COVID-19"は,平熱3日,呼吸器症状の解消,CT画像改善,少なくとも1日空けた2回のRT-PCR陰性,という条件を満たした4例の回復患者で,全て軽症か中等度症例で,医療専門職者ばかりで,退院後も新たな感染リスクがほとんどないはずの人たちから,5-13日後に再度SARS-CoV-2が検出されたので,退院基準を再考する必要があるとしている。昨日触れたZhang W et al. "Molecular and serological investigation of 2019-nCoV infected patients: implication of multiple shedding routes"は引用していないが,おそらく体内に残っていたウイルスの再燃だろうという結論は共通している。やはり血液検査か肛門スワブでの陰性を退院基準に加えるべきではないだろうか。

人口学会の東日本部会と関西部会も延期が決定してしまった。出張を事実上禁止している大学などが増えてきたので仕方ないか。というわけで,サイトを更新した。

WHOのGlobal Level危険度がVery Highに(2020年2月29日 - 当該鐵人三國誌

ウェークアップ? とかいうテレビ番組を流していたら,関西福祉大学の勝田教授が,再燃は一例報告というコメントをしていたが,たぶん大阪の女性の話しか知らないのだろう。JAMAの4例は出たばかりだから知らなくても仕方ないが,中国での14%(論文や公式発表が見当たらないが,広東省CDCのSong Tie氏が語ったというロイターの記事があった)とかZhang W et al.の論文を知らないでいて,よくコメンテータをする度胸があるなあ,と思う。専門は渡航医学の方らしいが。

WHOのCOVID-19日報におけるGlobal Levelの危険度が2月27日のHighから2月28日にはVery Highに変わっていた。

論文ではないので信憑性がわからないし,期間も書かれていないのが情報としての価値を落としているが,この情報によれば,北京と広東省の135人(130人は軽症,5人は重症)にクロロキンを投与した結果,130人は誰も重症化しなかったし,5人の重症者のうち4人は退院し,1人は軽症化したという,俄には信じがたい報告がされている。これが本当なら,物凄い朗報である。それを受けての反応なのか,これも信憑性は不明だが,UKは潜在的な治療薬としての国内供給を守るため,クロロキンを含むいくつかの薬剤の並行輸出を禁止したというニュースも出ている。安いし合成も難しくないから利権にはならないと思うが,暫く品薄になる可能性はあるからだろう。クロロキンは,これまで,熱帯の多くの国でOTCとして空港の売店やドラッグストアなどで処方箋なしで買える薬だったし,個人輸入もできたのだが,今後,UK以外でもそういう動きが出ても不思議ではない。中国で進行中の多施設治験の結果が待たれる。クロロキンが有効な治療薬になるなら,この病気はまったく怖がる必要はないことになるのだが,まあ,そんなにうまい話はないだろうなあ……。ただ,たぶんNCGMにはクロロキンは備蓄されていると思うので,治験とまではいかなくても,培養細胞を使ってテストすることくらいはできるんじゃないだろうか。誰かやらないだろうか。

NHKの「かんさい熱視線」という番組で,若い女性患者で何日も症状が続き,レントゲンで肺炎であることを医師が診断して大阪市保健所に検査依頼しても,先に他の肺炎でないことを確認してから依頼して欲しいと断られた,という事例が報道されていた。こういう事例がいくつあるのか,集計して公開するシステムができないだろうか。それがあれば,未検査で感染している可能性があるコンパートメントを見積もることが,よりやりやすくなり,推定値の信頼性が高まるので,それこそ医師会とかで集計したら良いのではないか。前にも書いたが,肺炎であって医師が必要と判断したら検査というのは合理的な線引きだと思うので,これは大阪市保健所の対応が悪いと思う。専門家委員会が出した方針によれば,大阪が地域クラスター認定されたら,検査しなくてはいけないのだから,90検査/日しかできないというのは理由にならない。肺炎がないのに検査するのはデメリットの方が大きいと思うが,現在若年成人が肺炎症状を呈しているならば,他の肺炎よりも先にCOVID-19の可能性を疑うべきだろうし,そこまで含めた鑑別を保健所や地方衛生研究所で受け持つことも可能だろう(ぼくは医師ではないし臨床のことは知らないので自信はないが,文献上の知識からはそう思う)。

新型コロナウイルスに関する誤情報をSNS上で広めるボットが数多く暗躍しているという記事が,昨日のGigazineに載っていた。2009年のパンデミックインフルエンザのときもそうだったが,感染症と闘わなくてはいけないときに,どうして便乗犯罪者が出てくるのか。パンデミックになったら犯罪者自身も感染するかもしれないし,世界恐慌になったら,仮に自分だけ多少儲けたとしても,幸せになれるわけがないのに。自爆テロのような意図なのだろうか。

2月12日に風邪様の症状があって病院を受診し,抗生物質を処方されたのに翌日ライブを見に行った人が叩かれているが,勤務先とかライブハウス名とかを大阪府知事が公開するのはまずいと思う(この件に触れる方も,そういう個人情報に繋がることはリンクしない方が良いと思う。同じライブに行ったかもしれない人が自ら感染しているかもしれないと疑うことができるという効果はあるかもしれないが)。2月13日にtweetしたように,その頃はまだテレビや新聞やSNSでは,臨床医を中心に,ただの風邪だから心配するなというデマを撒き散らす人がたくさんいたのだ。少なくとも,そういうスタンスをとっていたメディアが,愚かだといってこの方を責めることは,フェアではないだろう。そういうことが起きないように1月から情報発信していたのだが,伝わらなかったのが悔しい。ぼくは2月14日にマスギャザリングイベントは止めるべきと書いているが,その週末,はだか祭も青梅マラソンも熊本マラソンも京都マラソンも北九州マラソンも普通に行われてしまったのは,世間の多くの人がCOVID-19を甘く見ていたことを意味する。後付けで個人を叩くべきではないし,追い詰めてはいけないと思う。

西浦さんがJCMのEditorial第4弾(2020年2月29日付け)で,クルーズ船内での罹患率の逆算結果を報告している。クラスター対策班で忙しいだろうに,いつ眠っているのか心配になるほど八面六臂の活躍をされていて凄いと思う。結果は,2020年2月2-4日に感染のピークがあって,その後,罹患率が急に減少したこと,濃厚接触がなかった乗客には,移動制限が導入された2月5日以降の新規感染数はきわめて少ないと考えられること,もし移動制限が導入されなかったら,濃厚接触ありの人での累積罹患数は1373人,濃厚接触なしの人で766人になるはずだったところ,実際にはそれぞれ102人と47人にとどまったことであり,定性的には感染研が出した報告と一致していた。

WHOと中国の共同報告書(2020年3月1日,- 当該鐵人三國誌

「サンデーLIVE」という番組がパルスオキシメータに触れた(追記:軽症なら自宅療養の方が良い,という文脈で,じゃあ,どういうときに病院を受診したら良いのか? ということから,自覚症状の話を先にして,でもそれではわかりにくいので,何か数字でわかるものはないの? ということで紹介されたのであって,とある医療系tweetが誤解して流したような,それでCOVID-19感染がわかるなどというトンデモではなかったことは付言しておきたい)。岸田さんが随分前にtweetしていたが,テレビでは初めてではなかろうか。あの時点では良かったが,関係ないものまで買い占めが起きている今,テレビで流すのは良いかどうか微妙。ただ,併せてSpO2が91-95%のときの自覚症状の目安として,歩くと息切れすること,90%未満の目安としてじっとしていても息切れすることを挙げていたのと,換気を勧めていたのは良い。トイレットペーパーやコメが売り切れたことに関連して,外出しない方が良いという町の人の声を流していたが,ここは「外出しない」ではなくて「人混みにいかない」であることをコメントして欲しかったところ。昨日の大阪府知事会見とライブハウスの外観を流したのは止めて欲しかった。首相談話にあった15分の検査って,先日産総研が発表したやつだろうが,RT-PCRだったらChain Reactionのために一定時間は要するはずなので,何か違う原理を使うのだろうか。仮にそうだとしても,問題は時間ではなく,検出限界が現状より低いところまでいくかどうかで,検出系よりもサンプリング方法の問題であるような気もするので(体内のどこかに存在するが,鼻腔スワブや咽頭スワブの中に偶々ウイルスが含まれていなかったら,増幅できない),検査上の問題解決にはつながらないだろう。文科省から5000万円の資金をもらって長崎大学熱研を中心とするウイルス学者のグループが取り組んでいるのは,たぶんELISAで血液検査をする簡易検査方法(いわゆるPOCTの1つで,マラリアやデングのRDTとかA型インフルエンザのクイックテストのように,サンプル採取したその場で結果がでるもの)だが,それとも違うのだろうなあ。産総研の発表はスルーしていたが読んでみないと……検索してみたら,ブログで解説している方がいて,その記事によると,RT-PCRという原理は変わらず,Chain Reactionを高速化する技術のようだ。サンプリング方法や輸送方法の新技術はないのだろうか。

テレビでもSNSでも昨日の首相会見で全国一斉休校の根拠が示されなかったのは不満とするコメントが多いが,根拠などないのだから示せるわけがない。台湾のようなクラス単位や学校単位の休校基準の決め方なら合理的だが,それは元々日本の学校保健法でも休校は学校単位で判断されるものとなっているし,2009年のパンデミックインフルエンザ流行の前に定められたH5N1を想定した行動計画でも1例でも患者が出た都道府県という単位であった。今回全国一斉休校とすることで,逆に,感染者が出ている地域でさえ自由登校とか学童保育で引き受けるとかしてしまっては,感染拡大防止のためにはむしろマイナスだろう。

「サンデーモーニング」に出ている上氏,感染研の過去の成り立ちまで持ち出して不信を煽ってどうする。病院に行くことによって感染するリスク,検査を受けに行くことで手すりとかドアノブを介して接触感染するリスクを考えたら,風邪症状はあるが肺炎に至っていない人は,自宅で静養する方が良いのは明らかであろう。サンデーモーニング,再燃の問題について扱っているが,コメントした医師が肛門スワブの検査での陰性を退院基準に入れるべきとする論文に触れないのは残念。さっき見た「サンデーLIVE」の方がずっとマシな情報を伝えていた。

日経新聞は専門家会議メンバーの鼎談を報じてくれているが,ここで押谷先生が語っていることが本当なら,西浦さんが触れていた「最初のミッション」は北海道ではなくて和歌山だったのかもしれない。

堀口逸子先生のtweet。効果的なリスコミ方法を探る試みの一つ。良いことを思いついた方は,是非ご協力頂きたい。

WHOが中国とのジョイントミッションで,COVID-19についての報告書(2020年2月25日)を公開していた。岸田さんがNHKによるこの報告書の紹介記事を紹介してくれていて知った。原文が公開されているのだから,NHKもpdfへのリンクをしておいて欲しいところ。ざっと目を通したが,データから見える傾向は,先日の中国CDCの報告と同様だった(80歳以上の高齢者のCFRは,先日の報告書よりさらに高く20%を超えていたが)。概ね良いまとめだとは思うが,2つ以上の要因の組み合わせによる重症化リスクや致命リスクへの影響評価が分析されていないのと,CFRのバイアスに触れていながらIFRに触れてくれていないのが残念だった。

WHOの個人防護用具の合理的な利用についての中間報告(2020年2月27日)が,日報No.40からリンクされている。既に亀田病院のICUの林先生が一部訳されているとのこと。

London School of Hygiene and Tropical Medicine (LSHTM)が3月23日から始める無料のオンライン講義COVID-19: Tackling the Novel Coronavirus - Find out more about the outbreak of the novel coronavirus and its implications around the world.。扱う内容は,COVID-19はどのように出現してどのように同定されたか,世界のCOVID-19に対する公衆衛生学的指標,COVID-19対策を進めるためには何が必要か,といったことで,想定受講者は,ヘルスケア従事者と,我々がこのアウトブレイクにどう対処すべきかに関心がある人,とのこと。

感染研へのデマが広まっていてまずいと思っていたが,所長名できっぱり否定した文書が出た。

理論疫学の行政への反映(2020年3月2日,- 当該鐵人三國誌

既に書いたように,クラスター対策班の設置は,理論疫学研究に基づいた政策判断であり,これまでのところ,専門家会議がやったことの中で,最大の意義はこれだと思う。そのクラスター対策班から,日本でもR0のばらつきが大きいという分析結果(NHKの記事とその英語版はあるが,学術媒体にはまだ見当たらない)を出し,それに基づいたメッセージが厚労省のサイトで公表され(家族に感染が疑われた場合の8つの注意も,クラスター発生を抑える視点で書かれている。狭小な居住環境ではかなり難しいのが問題なのと,休校になってしまったことにより軽症の子供が在宅で過ごす場合にどうすべきかのメッセージも必要と思うが),厚労大臣からも発表されたのは大きい。疫学の知見が政策実装される大きな一歩(まだ初めの一歩だし,本当はすべての公衆衛生政策は疫学や医療経済学や行動経済学などの科学的知見に基づいて行われるべきだと思う。英国ではかなりそうなっているが,これまで日本ではほぼ皆無だった)。クラスター対策班がやっている対策が奏功して流行が終息すれば,世界の疫学や公衆衛生学の教科書に載るくらいの偉業。人は必ずしも合理的に行動しないし,全国一斉休校みたいな政治の暴走が邪魔をする可能性もあるので,油断はできないが。

岸田さんがこのtweetで紹介している,渋谷先生が作られた「感染予防のために、できること」というポスター(?)は良いデザインと思う。きれいなので,多くの人に届きそうな気がする。あと2パネル,換気と人混みを避けることを追加したら完璧かと思うが。

英国の保健大臣のCOVID-19と政府戦闘計画についてのプレスリリース。英国はまだリンクを追えている段階なので,封じ込めに全力を挙げているが,そのためにも20秒の手洗いが重要とか,パンデミックインフルエンザとCOVID-19の違いを踏まえてパンデミックインフルエンザ対策計画を修正して作るので,効果的なCOVID-19対策計画を迅速に作れる予定だとか,「政府とNHSは24時間週7日間体制でウイルスと闘っているが,それだけではウイルスと闘うことはできない。全ての個人がウイルスの拡散を制圧する助けになるための役割をもっている。もっと頻繁に手を洗うとか,くしゃみを捕まえる(訳注:咳エチケットのこと)とか,症状があったら救急に行くのではなく,NHSの111番に電話して得られる臨床的なアドバイスに従うとか」といった内容だが,日本にない動きとしては,引退した医療従事者を緊急登録すると言っている。在宅勤務を奨励したり,不要な旅行を控えて貰うことで,アウトブレイクのピークを遅らせるといったことも言っている。COVID-19を制圧するためには,英国でも,個人個人の協力が必要,と訴えるスタンスは日本と同じ。

北海道での確定診断がついた人77人に対してシミュレーションで求めた感染者数推定値940人というNHKニュース(西浦さん,とうとう論文発表よりも国民への周知を優先することにしたのだろう)だが,JCMのEditorial第2弾(IFRが0.3-0.6%と推定したもの)でも,感染者の10%程度が確定診断されているということだったので,割合としてはそう大きく変わらない(20200303注:これ,見出しに引っ張られてしまったが,2月25日時点での北海道の確定数は35人だったので,3%程度で,3倍違っていた)。物凄く大雑把に言えば,たぶん現在の日本の感染者数は数千人のオーダーだと思う(肺炎なのに検査されていない割合が他より高かったら,もう少し多いかもしれないが,たぶん桁は変わらないのではないか)。ただし,マスギャザリングなどで既に感染していた人が急に発症し始めたりしたら,実はもっと多かったのだと,翌週になってからわかるという可能性はあるかもしれないが。

ぼくは会員ではないが(かつて査読したり研究会に呼ばれて喋ったことはある),日本疫学会が新型コロナウイルス感染症特設サイトを2020年3月2日付けで公開した。まだ立ち上げたばかりでこれから充実させる予定らしい。基礎知識として用語解説を丁寧に書いているのはありがたい。これから期待したいのは,FergusonやLipsitchや西浦さんのグループの理論疫学研究の紹介や,用語解説のところに,感染症疫学用語だけでなく,検査性能についての臨床疫学用語も追加してくれること。

厚労省のサイトに,「新型コロナウイルス感染症対策の見解」と,新型コロナ いま、広げないためにというポスターが掲載されている。前者は北海道の特徴や必要な対策について突っ込んだ提言をしている。北海道を地域クラスターとして認識し,できる限り多くの人に,「軽い風邪症状(のどの痛みだけ、咳だけ、発熱だけなど)でも外出を控えること」と「規模の大小に関わらず、風通しの悪い空間で人と人が至近距離で会話する場所やイベントにできるだけ行かないこと(例えば、ライブハウス、カラオケボックス、クラブ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会など)」を呼びかけ,同時に「症状のない方にとって、屋外での活動や、人との接触が少ない活動をすること(例えば、散歩、ジョギング、買い物、美術鑑賞など)、手を伸ばして相手に届かない程度の距離をとって会話をすることなどは、感染のリスクが低い活動」とも書いている。最後に,全国の10代から30代に向けて(念のため書いておくと,症状があまり出なくて感染を広げる「若年層」というのはこの世代のことで,小学生ではないので,休校要請とは何の関係もない。その点,誤解やデマを広げないように注意されたい),人が集まる風通しの悪い場所を避けることも求めている。ポスターはリスコミの手段の1つとして作られたのだと思われる。

クラスター発生を予防できる可能性(2020年3月3日,- 当該鐵人三國誌

何だか軽く受け止められているが,「主な参加者が10代から30代である」(←注:この点は専門家会議の発表に基づいた推測で,詳細は論文待ち)「風通しの悪い空間」「人と人が至近距離で会話する場所」というクラスターに共通する特徴を見つけ([20200319追記] 後に明らかになったが,10代から30代にはあまり意味がなく,「換気が悪い」「多くの人が密集」「近距離で会話や発声あり」の3条件が重なることが重要だった。詳しくは後述),それを避けるように,と呼びかけることの意味は,クラスター発生を予防することにある。人々がこれを守ってくれないと効果は出ないし,守ってくれても,潜伏期間があるので,新規感染者数の減少という形で効果が見えるまでには1~2週間かかる。もちろん,クラスター発生を見つけて積極的疫学調査で接触者追跡し,感染者を隔離していくことも,感染拡大防止のためには重要だし,それも必死になされている。しかし,クラスター対策班の真骨頂は,クラスターに共通する特徴を見つけることにあったのだ。クラスターの連鎖でR0が高まるからクラスター対策すればR0<1にできるかも,という可能性は2月15日に発表された論文で示されていたし,パンデミック予測をしたProf. Lipsitchもわかっていたが,それでもパンデミックを防ぐのは難しいだろうとしていたのは,クラスターに共通する特徴を見つけてクラスター発生を予防するという発想がなかったからだと思う。ぼくもこの発表があるまで気づかなかったが,最初からそこまで読んでやっていたなら,前から天才だとは思っていたが,西浦さんは本当に凄い。メディアに数字が入っていないグラフだけ紹介されている研究は,それを考えたシミュレーションだと思う。NEJMとかJAMAとかLancetに投稿中なのではないだろうか。JCMもIFが5以上はあるが,あの結果が出たなら,ぼくだってトップジャーナルに投稿したくなるし,海外の多くの理論疫学研究者が無視できない成果となるためには,トップジャーナルに載せなくてはいけない。たぶん欧米もこのやり方に追従することを検討し始めるはずだし,本当に2週間後に北海道のエピデミックカーブが終息に向かっていたら,COVID-19に対して大きな希望となる。

このことを対策班が強く言っていないように見えるのは,やったとしても成功するとは限らないので,失敗したときの反動が怖いからだろう。モデルは完璧では無いし,ヒトの行動も理屈に合わない場合も多々あるので,仮に失敗してもクラスター対策班への信頼は失わないで欲しい。川端君の『エピデミック』に出てきたフィールド疫学者グループのように,彼らは確率の雲の中で踏みとどまりながら最善手を探して対策を取り続けているのだから。

首相周辺の暴走に過ぎない全国一斉休校を,やらないよりは感染防御になるだろうとか,他国はやっているとか,社会へのインパクトがあったので価値があったと賞賛するコメントを見かけるが,すべて間違っている。まず,インフルエンザとは違い,小学生が広げている可能性は低い。行動範囲がほぼ近隣に限られている小学生集団では,仮に1人の感染者が入ったとしても,他校に広がる可能性はほぼないので,感染者が出た時点でその学校だけ休校する方が感染拡大防止には合理的である。また,小学生は風通しの悪い場所で至近距離での会話を好まないのでクラスターを形成しにくいと思われる。さらに,ある程度席間が開いていて,授業していれば勝手に隣同士で喋ったりすることはある程度抑制できるが,自由登校で自習とか,学童保育に朝から行けるとかしてしまったら,感染者が1人いた場合に感染拡大するリスクはむしろ上がってしまう可能性がある。やるなら完全に休校して人と人の接触を減らさないと逆効果である。COVID-19で休校が感染拡大防止に役立つなどという研究は,ぼくの知る限り存在しない。インフルエンザとCOVID-19は感染症としての特性がまったく違うので,インフルエンザの知見を利用可能と思い込んでしまうのは大きな誤解である。次に,全国で1ヶ月も休校を続けているのは中国と香港だけだし,他の社会活動制限も強化されているので,流行が終息に向かっているように見えても,休校が感染制御に役立っているという証拠はない。イタリアでもアウトブレイク中の場所だけ休校だし,台湾の新しい休校基準でも,アウトブレイクになるまでは休校の判断は学校単位でなされる。社会へのインパクトは,間接効果として在宅勤務しやすい環境がもたらされたというプラスもあるが,それができる職種や規模は限られているし,全国一斉休校しなくても,在宅勤務を推奨してそれをした企業に補助金を出すことでも可能なはずだ。有給休暇以外の休業補償を100%(ただし日額上限8000円ちょっと)出すという今のやり方だと,安倍政権下で増え続けた非正規労働者が救われない。それに,根拠がなく結果の評価もないアクションが賞賛されてしまうと,首相周辺が余計に調子に乗って暴挙を重ね,緊急事態宣言ができるような立法とか改憲とか言い出す(既に言い出している)。さらに,この暴挙を専門家委員会やクラスター対策班や感染研の活動と結びつけた誤解やデマを広げる人が存在し,それに煽られた市井の人々が,この件とはまったく関係がない専門家委員会やクラスター対策班や感染研への信頼を失うという事態が起こりつつあるので,その意味でも首相の暴挙はマイナスでしかない。専門家委員会が何もしていないという誤解も見かけるが,専門家委員会はちゃんと活動している(第1回会議後の座長発表は失礼ながら酷かったが,それ以後は尾身先生や押谷先生が説明するようになって,情報発信面でも改善された)。専門家委員会の意見を求めすらせず,首相の独断で全国一斉休校要請を出したという暴挙でもわかるように,政策実施権力をもつ首相周辺が専門家委員会の提言を聞く耳をもっていないことこそが問題なのだ。今回やっと厚労省が専門家の意見を聞いてアクションをとってくれたのは,その意味でも大きい。

マスクが品薄という問題だが,クラスター発生中以外は,症状がなければ,どうしても至近距離での会話をしなくてはいけない時や,近くに咳をしている人がいるような場合を除き,する必要はないのだ,ということが共通認識になれば,品薄は解決するのではないか。トイレットペーパーすら店頭から消えるのは,たんなる群集心理で,マスクが品薄になる原因としては,必要ないときまでするから,という側面があると思う。ぼくは今のところ普段はしていない。

北大の学生への通知。専門家会議の北海道在住者宛のメッセージと同様だが,地域クラスターが発生したら,たぶんどこの大学でもこれをやらなければならないだろう。

神戸大も全学の学位記授与式は中止という通知が来た。学部ごと,研究科ごとの対応は未定。

クロ現プラスは,西浦さんのところまでは良かったが(アナウンサーがオッズ比11の出し方を尋ねてくれたらもっと良かった),大阪でCOVID-19だとしたら市中感染したらしい若い女性が,38℃以上が6日続き肺炎で医師が鑑別のため検査を依頼しても断られた映像は,2月29日の「かんさい熱視線」の使い回しだった。そのときも書いたが,これは当然検査すべきだし,こういう事例がどれくらいあるのか,医師会ごとにデータをとって公表すると,未検査のため見逃されているケースがどれくらいあるのか見積もれるはず。次の和歌山の例はクラスター対策のための接触者追跡をしての検査だからまったく意味が違っているのに,そこに触れず,偽陰性の話もせず,優先順位をつけて広く検査すべきという筋にもっていった賀来先生には失望した。

良いサイトが増えてきた(2020年3月4日,- 当該鐵人三國誌

一昨日触れた日本疫学会のサイトもそうだし,昨日の北大のアナウンスもそうだが,良いサイトが増えてきたように思う。

北大医学科の学生によるシミュレーション。若者と高齢者という2つのコンパートメントで,それぞれの間の接触を減らすとR0がどう変わるか,を数値計算している。思考実験としてわかりやすく書かれており良い試みと思う。

東北大学の新型コロナウイルス感染症への対応については,構成員向けのメッセージを日本語,英語,中国語で提供しているのが凄いと思う。留学生も多いのでどこの大学でも必要だろう。神戸大学もアナウンスは出しているが英語のメッセージは2月6日以降出ていない。東北大にお願いして使わせて貰うとかリンクするとかしたらどうだろうか。

プレプリントサーバから論文2つメモしておく。

Lymphopenia predicts disease severity of COVID-19: a descriptive and predictive studyは,リンパ球減少が重症化の予測因子になるというタイトルで,重要な研究かもしれないので後で読む。

An R package and a website with real-time data on the COVID-19 coronavirus outbreakも,中身をまだ見ていないが、データをRのパッケージにした人たちがいるようだ。

学会が中止になったり渡航制限がかかったりして,科研費が執行できなくなった場合,令和元(2019)年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)新型コロナウイルスを事由とした繰越申請の例についてに書かれている通り,3月6日(金)締め切りだが繰越申請できる。申請できるのは代表者なので,分担者は執行残を代表者に伝える必要があり,最近それ関連のメール連絡が多い。

COVID19医療翻訳チームからの発信というサイトがあって,WHOやCDCの発信やJAMAなどの論文の翻訳が公開されている。「本HPは有志医療者が中心となり新型コロナウイルス感染症の診療について現時点で公表されている情報をまとめる目的で作成されました」とのこと。意義ある活動と思う。

Tang X et al. "On the origin and continuing evolution of SARS-CoV-2" National Science Review, nwaa036(2020年3月3日)。ウイルスゲノム解析から,このウイルスが変異を続けていて,L型とS型が流行していると主張し,ゲノムデータと疫学データを結合した包括的モデルが緊急に必要と提言している。このジャーナルはOUPがホストしているオープンアクセスなオンラインジャーナルだが,中国及び世界中の科学技術の最先端の発展を報告するピアレビュー誌とのことで,IFは10を超えている。

テレビやSNSから群盲象評(~群盲象を撫でる)という言葉を思い出した。手を引っ張って別の物を触らせる自称専門家や,象をずらしたり障害物を置いたり押しつぶしたりする権力者が,事態をさらに悪化させているように思う。影響力が大きい人は,基本的事実を知らないなら黙っていれば良いのに。自分程度の発信力ではデマや誤解の拡散に対抗できない。

ここでいう象は,対策の前線に立つ人々にとってはCOVID-19そのものだが,その場合の邪魔は誤報やフェイクデータである。世間一般の人々にとっては,COVID-19であると同時に,対策の前線に立つ人々でもある。COVID-19は対策の前線でも厄介でわかりにくいのだから仕方が無いが,対策の前線に立つ人々に対してくらいは目を開こう。一次情報をちゃんと見よう。こういう意見表明は別だが,ぼくも情報提供したいときは,必ず出典を書いている(web上の情報ならリンクもしている)。出典を確認することが目を開くことになると思う。

世界が混沌としてきた(2020年3月5日 - 当該鐵人三國誌

群馬大学の方が代表でクロロキンを含む臨床試験が2月27日に申請されている。非盲検前向き単群試験なので,何もしない場合や他の治療法と同じ条件で比較することができないが,だいたい8割が軽症,2割が重症化ということは既にわかっているので,副次評価項目「投与開始後14日目までの重篤な疾病等の発生率と内訳」から,binom.test()で2割より有意に低いかどうかが検定できれば良いのか,たぶん。

Lancet Global Healthに載っているHellewell J et al. "Feasibility of controlling COVID-19 outbreaks by isolation of cases and contacts"(2020年2月28日)。接触者追跡と隔離によるアウトブレイク制圧の可能性を確率的なモデルでシミュレーションした結果の有効性を示しているようだ。発症前の感染が多くてR0が3.5だったら,制圧には90%以上の追跡が必要とも書かれている。たぶんランダムリンクネットワーク想定なのだろう。スケールフリーネットワークを想定すれば違う解が得られるはず。ちゃんと読んでみないとわからないが。

LancetのCorrespondenceでWang G et al. "Mitigate the effects of home confinement on children during the COVID-19 outbreak"(2020年3月4日)。アウトブレイク中の自宅封じ込めが子供(の心理面)に与える影響の軽減策を論じたもの。こういう側面も考えていく必要がある。

この産経の独自取材記事が出ていて,「2週間経たないと」どころか,中国と韓国の日本大使館が発行したビザを無効にするという入国禁止措置であった。オーストラリアも似たようなことをやっているから,それを真似したのかもしれないが。外務省のサイトにはこの件はまだ出ていないのでわからないが,産経の記事からすると,日本人が帰国する場合は2週間の停留措置がとられるということだろう。産経の記事からすると,この政策決定は,厚労省でなく「5日夕の国家安全保障会議(NSC)の会合で確認する」という話なので,科学的根拠に基づくというよりも,政治判断なのだと思う。IHR2005が設計されたときの基本思想が,こうも簡単に崩れてしまうとは。

イタリアの感染状況は細かく見ていないが,今日のニュースで報道されていた政策が,大学まで含む学校だけの2週間の全国一斉休校だとしたら,やはり愚策だと思う。そこまでしなくてはいけない蔓延状態だとしたら,そこから立ち直るためには,休校だけでなく,中国でされているような都市間交通停止とか外出禁止までやらないと効果が薄いだろう。蔓延状態でないのなら,学校ごと(あるいはせいぜい地域ごと)に休校判断をする,台湾方式の方が合理的だろう。

だんだん世界が混沌としてきた。うまく行かなかったときの反動が怖くても,やはり希望を示すことは必要ではないだろうか。

今後,仮にクラスター対策班の活動がうまく行って日本の流行を終息させることができたとしても,世界中で夏までに同じことができるとは到底思えないので,オリンピックとパラリンピックは中止せざるを得ないだろう。運営委員会の武藤先輩は,中止の方向で手を打っておくべきであろう。考えようによっては,熱中症になる人が選手からも観客からも多発して救急がパンクするという不幸を避けられるので,中止は悪い面ばかりではない。最初から嘘で固めて招致したオリンピックで,現場の人たちはいろいろ苦労しただろうから,延期で済むならそうしたい気持ちもわかるが,地球規模ではいつ終息するかわからないので,延期対応も難しいだろう。

安全保障になるのか?(2020年3月6日 - 当該鐵人三國誌

Bi Q et al. "Epidemiology and Transmission of COVID-19 in Shenzhen China: Analysis of 391 cases and 1,286 of their close contacts"(2020年3月4日)は,1月14日から2月12日まで深圳CDCが患者391人から1286の濃厚接触を追跡して得られたデータの分析から,R=0.4で局所封じ込めに成功したということと,家庭での大人から大人への感染と大人から子供への感染は同じ程度ということを報告している論文だが,この結果から学校閉鎖が有効な介入になることをサポートするかもしれないなんて言ってしまうのは早とちりで,これ家庭内での感染の話だから,子供たち自身が感染を広めているかどうかなんて見てないし,症状が弱かったら感染力も弱いと考える方が自然と諫めるコメントがつくのは健全。後のコメントをした人は疫学のプロでOne Healthを研究している方。最初のコメントをした人もJohn Hopkinsのヘルスセキュリティの講師で,素人ではないはずなんだが。川端君の『エピデミック』にも出てくるが,疫学的推論においては,常にロジックの強度に意識的であることが非常に重要。

JAMAから2つリンクしておく。

Young EB et al. "Epidemiologic Features and Clinical Course of Patients Infected With SARS-CoV-2 in Singapore"(2020年3月3日,無料でダウンロードできるが,いつの間にか,JAMAは個人アカウントを作ってログインしなくてはいけなくなったようだ)は原著論文で,シンガポールのSARS-CoV-2感染者の疫学的特徴と臨床経過について報告している。

Ong SWX et al. "Air, Surface Environmental, and Personal Protective Equipment Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) From a Symptomatic Patient"(2020年3月4日)はresearch letter(注:短報のようなもので,一般に原著論文より査読の壁が低いことが多い)で,症状のある患者からのSARS-CoV-2による空気,環境中の物の表面,個人防護用具(PPE)の汚染,というタイトル。シンガポールのデータで,患者3人(で症状の程度も2人が中等度,1人が軽症)だがウイルス排出量に大きなばらつきがあること,空気サンプルはすべて陰性だったこと(排気口は陽性),PPEの汚染は靴表面から1サンプルだけだったこと,などを報告している。サンプルサイズが小さいのであまり情報量はないが(AFPBBが報じているトイレの汚染も1例だし),既報と矛盾はしない。

昨日触れた入国拒否は専門家会議は何も聞いていない話だったと東京新聞が報じている。対策本部に出てきた昨日の国家安全保障会議からの資料2が中国・韓国・イランからの渡航制限の内容と思われる。これも現在の流行状況で有効であるという科学的根拠はない。しかも,国籍による差別を含んでいる(宿主の国籍はウイルス感染とは明らかに無関係)。もちろん,一般に人口移動を制限する方が,しないより感染症の伝播を下げることは,定性的には明らかだ。しかし,どれくらい効果があるのか,デメリットはどれくらいあるのかの見積もりもせず,国家安全保障の観点から政治的に判断というのは,とても危うい(日本だけでなく,複数の国がこれをやっているのは,もっと危うい。昨日,世界が混沌としてきた,と書いたのはそういう意味だ)。例えば,中国が1月に武漢市を封鎖したように,国内でクラスターが発生している地域とそれ以外の人口移動を制限する方が,感染拡大の抑制には明らかに有益だろう。もっと極端な話をすれば,新興感染症の患者が1例見つかった場合,仮にワクチンが存在したなら,リングワクチネーションという方法があり,患者周辺の10万人にワクチンを打てばRt<1となって封じ込めできる可能性が高いが,ワクチンがなくても患者周辺の10万人を封鎖してしまえば,そこから外には感染は広まらないことになる(ワクチンの場合と違って,封鎖圏域内は見捨てることになるが)。しかしCOVID-19は不顕性感染も軽症で診断されないままの人も多いため,陽性の人が1例見つかった時点で既に10万人圏域より外に感染が広がっている可能性があるから,こういう形での封じ込めが成功する可能性は低いし,武漢市封鎖のようなやり方は(中国はSARS流行時も街ごと封鎖というのをやっているが),CFRが2%とか3%の病気では,他の国では人道上無理だろう。市中感染がある程度発生している状況で打つ政策ではないと思う(市中感染発生より前か,クラスター対策が成功して封じ込めに成功する見込みが出てきた後なら,まだ検討の余地はある)。2月1日から流行地からの入国については個別に閣議決定で指定して制限を掛けてきたわけだし。これも単なる首相の「やってる感」アピールだろう。しかもレイシスト的支持者層向けなのが救われない。

先日プレプリントサーバに載っているのを紹介した,"An R package and a website with real-time data on the COVID-19 coronavirus outbreak"というタイトルの論文だが,3月5日付けで更新版がアップロードされていた。前のバージョンでは,COVID-19の公開データへのアクセスを容易にするためのRパッケージを開発したという論文だったが,更新版では,それを可視化したり予測をするウェブアプリも開発したと報告されていた。

クロロキンについてAntiviral ResearchというジャーナルにOf chloroquine and COVID-19(2020年3月5日掲載)というコメンタリーが出たが,とくに新しい情報はなかった。ぼくと同じ認識。2月上旬から中国では治験が始まっているのに,まだ信用できるデータが出てこないのは遅い気がするので,やはりネガティブだったのか?

メディアの役割(2020年3月7日 - 当該鐵人三國誌

昨日,大友良英さんが,舞台を有料でライブ配信するというtweetをされていたので,それを引用RTして,「演劇だけでなく、当面、ライブはこういう形にするしかないのかも。換気を良くして席と席の間を十分に広くとって声を出すのを禁止、飲食なしという形で運営できる劇場やライブハウスの形ができるまでは。もっと難しいのは、どこまでそういう対策をしたらOKかというコンセンサス形成か。」と書いたが,方法論は専門家の助言を十分に得ながら劇場側が主に考えることだろうが,コンセンサス形成は広く議論がなされなくては不可能なので,メディアの果たすべき役割はそこなのではないかと思う。川端裕人『エピデミック』で,新聞記者の赤坂が,棋理文哉の意見(MASUDAさんが引用してくださった)に納得するしかなかった,という場面が出てくるが,現実のメディアの皆さんも,自らがPHEICになった新興感染症アウトブレイクに際してどういう役割を果たすべきなのかを深く考えて動いて欲しい(注:今回,クラスター対策が成功するためには,世間一般の人々の協力が不可欠なので,我ながら少し書きすぎているのは自覚している。2009年のパンデミックインフルエンザのときは,早々に危機的ではないとわかったし,尾身先生に対しても押谷先生に対しても西浦さんに対しても,違うと思うところは違うと書いていた。しかし今回,既に書いたように,クラスター対策はほぼ最後の希望で,失敗すると1年間で世界の半数が感染し,その0.3%が亡くなることを避けるのが難しくなる可能性が高い。もちろん根拠のない政治家の思いつきはどんどん批判してくれて構わないが,クラスター対策班にはメディアの協力も欲しい)。

ハーバードのProf. Marc Lipsitchのグループの先見性というか,視点の時空的広さは凄いな。Kissler SM et al. "Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the post-pandemic period"(2020年3月6日)は,プレプリントサーバに載っている論文なので,まだ査読を通っていないわけだが,このままだと世界人口の40-70%が感染するパンデミックが起こると予測している彼らだからこそ,パンデミックが終わった後に,このウイルスの伝播の動態がどうなるのかについて予測しようなどと思うのだろう。

Buzzfeedの専門家会議の岡部先生へのインタビュー第2弾はGood Job。語られている内容は,ぼくがこのブログ(2019-nCoVについてのメモとリンクに採録)で,たぶん専門家会議やクラスター対策班はこういう根拠に基づいてこういうロジックで動いているのだろうと解釈し説明してきたこととほぼ一致しているが,こうやって,直接専門家会議メンバー自身の声を表に出してくれると,説得力が違う。

マスクについては,JAMAのこのtweetに載っていることが常識になると良いなあと思う。

北大は職員から感染者が出たため,後期日程入試を中止した。これは各大学考えておかねばならない問題。神戸大の執行部は考えてるだろうか。

昨日,医師アカウントで誤解を招きそうなtweetがあったので,CFRとIFRをごっちゃにした記事がいまだに出るのが腹立たしいとスマホから引用RTした。スマホから長く打てないし補足説明として適切なURLを参照するやり方が思いつかなかったので,舌足らずと思いつつのtweetだったが,Hiroshi Makita, Ph.D.さんが補足してくださったので,「ありがとうございます。スマホから細かく書けなくて。補足すると,http://minato.sip21c.org/2019-nCoV-im3r.html#EPIPAPERの西浦さんの第2弾https://www.mdpi.com/2077-0383/9/2/419にある通り,従来使われてきたのはCFRで,IFRは状況のわかっているCFRから推定しますが,CFRは検査・検出状況に依存するので,IFRを使う方が普遍的議論が可能です」と補足tweetした。本当は,日本疫学会の感染症疫学の用語解説で,CFRとIFRについて(できれば,2009年のパンデミックインフルエンザのときに西浦さんが出した論文でされていたsCFRとcCFRの議論も踏まえて)解説を載せて欲しいところ。

2月24日のWHOと中国の共同報告で可能性について触れられたこともあって,クロロキンの需要が増えているということで,メーカーの1つが供給を確保することに集中していると宣言していた。

中国のCOVID-19診断治療ガイドラインが改訂されて,リン酸クロロキンを武漢の病院で285人のCOVID-19で"critically ill"(重篤?)な症例に投与し,明らかな副反応は皆無であったこと,最新の治療ガイドラインでは18-65歳の患者に対して500 mgを1日2回7日間投与するとなったことが報告されている。この量ならマラリア流行地で村人が店で買ってマラリアの自己治療するのと変わらないから,まあ副反応はないだろう(米国では処方箋なしには買えないが,CDCもマラリア流行地を旅行する人のための予防内服薬として薦めている)。問題はそれでどれくらい効いたかなんだが,285人の治療成績が書かれていないのが不思議だ。

COVID-19だけの話ではないが,Prof. Marc Lipsitchのグループが書いた論文,McGough SF et al. "Nowcasting by Bayesian Smoothing: A flexible, generalizable model for real-time epidemic tracking."(2019年6月7日)が,PLOS Computational Biologyに載る予定とのこと。そこで使った計算コードがNobBSというパッケージとして整備され,2020年3月3日付けでCRANに載った。

ウイルスの分子生物学というか遺伝疫学的なデータとして,Nextstrainの"Genomic epidemiology of novel coronavirus (HCoV-19)"は参考になりそう。

Anderson RMとかHeesterbeek Hといえば理論疫学の大御所で,いま理論疫学をやっている人は,ほとんど"Infectious Diseses of Humans"とか,"Mathematical Epidemiology of Infectious Diseases"で勉強したことがあるはずだが,彼らがLancetに寄稿したコメント,"How will country-based mitigation measures influence the course of the COVID-19 epidemic?"は,死亡と経済影響の両方を最小化することができないために,国によってCOVID-19に対してとっている緩和方策が違っているので,それがCOVID-19の流行過程にどのように影響するのかを論じている。ただ,この大御所たちにして,CFRとIFRの区別をしておらず,季節性インフルエンザのCFRが0.1%のオーダーだというLi L et al.のAm. J. Epidemiol.の2018年の超過死亡を扱ったレビューを引用しているのは残念だ。Heesterbeekなんて西浦さんや稲葉さんとつながりあるはずだから,JCM特集号の西浦さんのEditorial第2弾くらい読んでくれても良いのになあ。もちろん,Prof. Lipsitchが「(各国がとっている)対抗策の秀逸なレビュー」とtweetしている通り,それ以外の部分はさすがと思うが。

症状があったら休みましょう(2020年3月8日 - 当該鐵人三國誌

発症後もスポーツジムに5日間行ったという事例が報告されて,クラスター対策への協力要請が届いていないのか,と絶望しかける。が,ジムに行っていた期間は2月25日から3月1日だったので,「新型コロナウイルス感染症対策の見解」が専門家会議から出る前のことだったか。この事例を他山の石として,症状のある人は外出しないで欲しい。せめて人が集まるところには行かないで欲しい。もちろん発熱4日とか肺炎症状とか,他の症状でも医師への相談が必要と思われる場合は,医師――医療法や地域保健法に基づく現在の医療制度における理想ではかかりつけ医だが,英国のGPやキューバのファミリードクターのような意味での「かかりつけ医」はシステマティックに存在しないのが日本の現状で,その理由の1つは医療法が二次医療圏以上しか計画配備を求めていないからで,どの病院に飛び込んでも(初診料が高くなることはあるにせよ)保険診療が受けられるという利点とは裏腹なのが悩ましいところ――やコールセンター(これは保健所より市町村保健センターレベルにした方が良いかもしれないが)に相談すべきだが。

これは,COVID-19のアウトブレイクが終息した後でも継続する必要がある。風邪やインフルエンザでも薬を飲んで仕事や学校に行くのではなく,休むべき。それを社会規範として受け入れるべき。木村知『病気は社会が引き起こす』が主張する通り。

テレビで橋下氏が2009年に大阪が1例発生時に府下全校休校したことを,さも自分の英断であるかのように言っているが,当時の新型インフルエンザ行動計画では,都道府県単位で1例でも患者が出たら全校休校と決まっていたのに従っただけのことだ。行動計画がそうなっていた理由は,フランスのデータに基づいた数理モデルで,インフルエンザの場合に患者数を最小にするにはそれが有効とわかっていたからだ。しかし,大阪と兵庫しかそれに従わなかったのは,2009年のパンデミックインフルエンザはcCFRもsCFRも十分に低く,とくに日本では500例の時点で重症化ゼロだったので,患者数を最小にしなくても良いと判断できたからだ。過去の話だから誤魔化せるとは思わない方が良いと思う。

加藤大臣が感染症法の適用でこうするしかなかったと言っているが(当時は専門家会議が招集されたのより遥かに前なので,誰の判断なのかわからないが,感染症法第6条9が定める新感染症は病原体が特定されていないという要件ではないので,明らかに法律には反している。もっとも,ショーンKYさんがtweetで指摘される通り,厚労省内部的にはその認識が共有されていたのかもしれないが,病原体が特定されていても疫学的特徴が未知な時点では,どのように広まるか,どれほど死者がでるか,どれほど医療資源が必要かなど,何もわからないので,「わかっている」とは言えない),1月27日の時点で,病原体が2019-nCoVと呼ばれていたウイルスであることだけはわかっていたが,疫学的特徴はほとんど未知であり,一方,これがヒト=ヒト感染する新興感染症であって,湖北省のように急速に蔓延する可能性があることもわかっていたのだから,その時点で新感染症にしない理由はなかったはずだ。このメモにはその日にそういうコメントを書いているが,国会議員もメディアも1人としてその質問はしてくれなかった(もししてくれていたら,ショーンKYさんのtweetに書かれているような厚労省の認識が顕わになったので,それで良いのかという議論に進んだはずだ)。自分の声の届かなさが悔しい。

後でTAKASHIMA Hidehiroさんのtweetで知ったが,法学的解釈も,SARSの新感染症から指定感染症の切り替えが,病原体の特定が要件だったわけではないという,普通に感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法の条文を日本語として読んで考えられる解釈と違っていないことが書かれている文書を知った。ぼくは法律のプロではないが,法解釈は官庁内部の暗黙知に従うのではなく,TAKASHIMAさんが示された文書にあるように,あくまで条文そのものに依拠すべきであって欲しい。

数日前から東京都が公開している,COVID-19のデータ(CSVでダウンロードできる)をGitHubでオープンソースのコードを開発してビジュアル化するサイトは,東京都副知事の企画だったのか。センスいいなあと思うと同時に,東京都ができるなら厚労省にだって制度的にはデータのCSV公開ができるんじゃないかと思った。CSVデータのフォーマットを揃えるだけなら技術的にはどの都道府県の誰でもできるはずだし,ビジュアル化のコードもオープンソースなんだから流用できるだろうし。

WHOが2020年3月3日に発表した文書の"2. How to manage COVID-19 risk when organizing meetings & events"は,なぜ集会やイベント運営者がCOVID-19について考えなくてはいけないか? と問題提起し,集会やイベントの事前,最中,事後にCOVID-19のリスクを避ける,あるいは減らすために鍵となる点をリストしている。以前,マスギャザリングへ運営者に向けた中間報告は出ていたが,今回のものはもっと小規模な集会やイベントも対象としている。

大学ジャーナルオンラインの記事には,リンクもしているのに,学術会議の声明を読めばわかる,学術会議が基本的に専門家会議の方針を支持していることが,なぜ触れられていないのだろう?

クラスター分析論文(2020年3月9日 - 当該鐵人三國誌

英国の医療システムは,GPと呼ばれるかかりつけ医が通常の一時診療をし,入院や高度な医療が必要なら病院へ紹介するという点が確立しているが,GP向けのCOVID-19対応実践ガイド(2020年3月6日,BMJ)を見ると,咳,熱,息苦しさの症状が1つ以上あれば,(通常通り)GPに電話相談すること,となっている。その上で,発症14日以内にハイリスク国から帰ってきたか,COVID-19感染が既にわかっている人と濃厚接触があったら,直接地域のHealth Protection Teamに報告することとなっている。GPは重症と判断したら999に電話,軽症なら自己隔離を勧める,など,GPが果たすべき役割が細かく規定されている。GPは住民2000人当たり1人くらいの割合で存在しているはずなので,保健所のコールセンターよりずっと相談しやすいはず。やはりプライマリケアは大事だと思う。もちろん,GPを特徴とする英国NHSだって欠点がないわけではないが。

西浦さんたちのNishiura H et al. "Serial interval of novel coronavirus (COVID-19) infections", IJID, DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijid.2020.02.060(2020年2月27日受理)は,世界で既に発表されている28組の感染者=被感染者ペアデータの分析から,COVID-19のシリアルインターバル(最初の感染者の発症時から二次感染者の発症時までの時間。発症間隔という日本語を西浦さんは使っている)を推定した論文。中央値4日で,潜伏期間の中央値より短いことから,かなりの感染が未発症時に起こっていることを示唆している,と書いている。シリアルインターバルが短いので接触者追跡が難しいとも書いている。この論文が投稿されたのは2月14日だから,西浦さんがクラスター対策を着想したきっかけとなった論文が出た前日のことだ。

日本でも感染者1人から発生する二次感染者数のばらつきが大きいことは,3月2日の時点でNHKニュースにもなっていたし,厚労省のQ&A(3月2日にはQ12だったが,今はQ14になっている)にも載っていたが,プレプリントサーバにはNishiura H et al. "Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)."(2020年3月3日)としてアップロードされていた。著者はクラスター対策班のメンバーとなっている。伝播リスクが高い状況を同定するため,2020年2月26日までの11のクラスターの110症例を調べている(東京の4つのクラスター,愛知,福岡,北海道,石川,神奈川,和歌山からそれぞれ1つのクラスターを含んでいると書かれているが,残り1つはどこなんだろうか? 数え間違い? 書き忘れ?)。すべてのクラスターが室内環境(フィットネスジム,屋形船,病院,雪まつりの換気の悪いテントの食事スペースを含む)での濃厚接触と関連していたというのはNHKでの発表の通り。110症例のうち二次感染者を生み出していたのは27例(24.6%)しかいなかったというのもNHKでの発表の通り。この二次感染者数分布は,平均0.6,分散2.5で,閉鎖環境にいた感染者は,オープンエアの環境にいた感染者に比べて,18.7倍(95%CI: 6.0, 57.9)のオッズを示したこと,この分布の95パーセンタイルを超える(この場合,3人以上に感染させる)のをスーパースプレッディングイベントとすると,そういうイベント絡みの感染者は11人いて(=10%,というのは95パーセンタイルと矛盾するような気もするが,2人以上の感染者が絡むイベントがあるということだろう),そのうち9人は閉鎖環境で感染を発生させていたことから,閉鎖環境でのスーパースプレッディングイベントのオッズ比は29.8(95%CI: 5.8, 153.4)であったというのは顕著な結果だ(フィクションだが,川端裕人『エピデミック』の終盤で,フィールド疫学者島袋ケイトが真の感染源に気づいた場面で出てきたオッズ比より高い)。閉鎖環境がスーパースプレッディングイベントを起こすのは,フランスのスキーバンガローや韓国の教会や病院関係のクラスターを考えればありそうなことで,Disperson vs. Controlを考えれば,閉鎖環境での不要な濃厚接触を減らすことで,日本におけるRを1未満にするのに十分であると期待する,という主旨になっている。論文の主旨が,概ね3月2日から3日にメモした読み通りで良かった。クロ現プラスではオッズ比11というパネルが出ていたが,あれはデータが違うのだろうか。なお,たぶん,クラスター対策でこれくらい減るというシミュレーションの論文を別途投稿していると思うのだが,それはまだ見つからない。

北海道でも,東京都のオープンソースのコードを使って,道内の最新感染動向というページができた。ただ,少し残念なのは,本家の東京都はデータをCSVで公開しているのに,北海道はCSVでダウンロードする仕組みがない(少なくとも簡単には見つからない)点(もっと残念なのは,道庁の新型コロナウイルス感染症についてからリンクされていない点。都内の最新感染動向は東京都のドメインなので信用できるが,道庁がリンクしてくれないと真正性がわからない)。47都道府県で統一フォーマットでCSV公開されれば,厚労省がやらなくても自動集計できるのに。今後に期待か。

Gigazineが新型コロナウイルス対策はとにかく「手洗い」に尽きるとWHOが様々な噂をメッタ斬りと題して,WHOのCoronavirus disease (COVID-19) advice for the public: Myth bustersを日本語でわかりやすく紹介している。これは良い仕事と思う。

専門家会議についての報道を見たところ,3月19日までに北海道のクラスター対策がうまくいったかどうか評価するという見通しが示されたようだ。ただ,クラスター発生予防はそこで終わりではなく,ワクチンか治療薬が見つかるか,国内終息まではずっとやらなくてはいけないはず。テレビの報道は19日までは,みたいな伝え方をしているのが怖い。尾身先生が説明された,「換気が悪い」「多くの人が密集」「近距離で会話や発声あり」という条件は,クラスターが発生しやすい条件なので,この3条件が重なる場を避けることは,少なくとも,その地域の新規感染者がゼロの状態が2週間続くまでは必要になるだろう(新規感染者が1人検出されることは,おそらくその10倍は感染者がいることを意味するので)。

逆に大型イベントでも,換気が良く,声を出さず,密集しないなら,WHOのイベント実施ガイドラインに従ってやって良いという話になっていくのではないか。スポーツだと卓球やバドミントンは換気と両立しにくいので,やり方が難しいかもしれないが,野球やサッカーは観客の入れ方を工夫すれば実施可能であろう。 ライブハウスや屋形船は(あるいは,北大の岸田直樹さんがさきほどtwitterで指摘していたようにお通夜などは),この3条件を避けるような営業形態を工夫しなくては,なかなか難しいだろう。演劇や音楽演奏は有料配信にする試みも始まっているし,スポーツジムは個室化とかインストラクターがインカムで指導するとか,やりようがありそうだ。夏になったら減るという言説も否定されていたが,夏になって減るという発想が間違っているのは,熱帯でも流行していること,COVID-19同様に新興感染症であった2009年の新型インフルエンザは日本でも夏から本格的に流行したことを考えれば最初から明らかだったのに,減ると思いたがっている人が多かったのは不思議だった。

傾きが緩い意味(2020年3月10日 - 当該鐵人三國誌

普通,ヒト=ヒト感染が起こるように変異した感染症の場合,基本再生産数R0は初発患者から二次感染者に感染するときも二次感染者から三次感染者に感染するときも変わらないが(フィクションでは変わることになっている場合もある),行動様式や環境条件が違う集団では違っていても当然だし(例えば,蚊が媒介する感染症だったら,蚊が多い環境ならR0>1でも,蚊が少なければR0<1となることは,直感的にわかるだろう),感染の世代を重ねるうちに,集団内に免疫をもつ人が増えてきて,再生産数は減っていく。あるいは,ワクチンを打ったり,予防薬や治療薬を飲むことでも,やはり再生産数は減っていく。そういう状況に至ってからの再生産数を実効再生産数(記号はRtを使うことが多いと思う)と呼ぶ。R0が2である場合,平均的には,発症間隔が過ぎるごとに,新規感染者が2倍ずつ増えていくことになる(ばらつきがあるので,実際にはぴったりとは合わないが)。元々R0は,20世紀初頭にLotkaが見つけた内的自然増加率に基づいて定式化されたパラメータであることを考えれば,1回だけ侵入した感染源からの感染拡大(point source propagation)の場合,流行初期の新規感染者数が指数関数的に増加するのは当然である。横軸に日付,縦軸に新規感染者数の対数をとったグラフを書くと,当然,最初のうちは直線になるはずで,R0はこの直線の傾きである。仮に,新規感染者数が一定の割合で過小評価になっているとして,定数倍によって推定される真の新規感染者数の推移を見ても,直線が上下にずれるだけで,傾きは変わらない。仮に,検査数の上限のために新規感染者数が押さえられているとしたら,指数増加でなくなるので,片対数グラフで直線にならない。従って,昨日からtweetを賑わせているように(自分でデータを確認していないので,それ自体に選択バイアスや情報バイアスがある可能性もあるが),日本の新規感染者数の推移が,片対数グラフ上で他国よりも傾きが緩い直線に乗っているのなら,(仮に検査が絞られているために絶対値としては過小評価だとしても)日本におけるRが小さくなっていることを意味する。クラスター対策の結果はあったとしても3月12日以降にならないと出てこないから,このこととは無関係だ。理由として考えられるのは,かなり早期から手洗いの重要性を強調し,わりと多くの人に手洗いの習慣があったこと,元々の対人距離が他国より大きくあまりスキンシップをとらないこと,マスクをしている人が多いこと,などだろうか。専門家会議が「一定程度,持ちこたえている」と言ったこととは整合性がある。

Lancetに武漢の成人入院患者データの後向きコホート研究から臨床経過と死亡のリスク因子を調べた論文が載っていた。Zhou F et al. "Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study"(2020年3月9日掲載)である。あとでちゃんと読もう。

迅速な情報集約と公表のシステム化の必要性(2020年3月11日 - 当該鐵人三國誌

注意深く厚労省のサイトや論文を見ていれば公表されていることでも,記者会見などでメディアが騒ぐまでは半月から1ヶ月近くのタイムラグがあるのは,リスコミ戦略なのだろうか(対策がうまく行かなかったらスペインかぜ規模のパンデミックになるという予測は1月末時点で立っていたことだ。このメモのその頃の記述を見ればわかる)。それってリスコミとして筋が良いとは個人的には思わないのだが。例えば,クラスター対策班が3月3日にプレプリントサーバにアップロードした論文(3月9日に紹介した)には,クラスター発生の場所として「室内環境(フィットネスジム,屋形船,病院,雪まつりの換気の悪いテントの食事スペースを含む)」と,「病院(hospitals)」が含まれているのだが,メディアが注目していないので,これもきっと半月後くらいになってから騒がれるのだろう。しかし,ぼくでさえクラスター対策が始まった直後の2月28日に考えたことだから,クラスター対策班や専門家会議は当然考えているだろう。入口なども含めた他の患者との完全分離は可能だろうか? もちろん患者自身が受診時点でわかっているはずはないのだから,何度か書いているように,個人的には,線引きとしては「肺炎外来」のような形にするしかないような気がするが,この「どこで線を引くか」という議論を,十分な情報共有をした上で,さまざまな分野の専門家や実務者がオープンに議論して摺り合わせて行くことが本来のリスコミの役割だと思う。

検査よりも大切なのは,情報の集約公表体制の整備と迅速化だと思う。何度も書いているように(昨日もtweetしたが),感染症法で1類から4類は全数報告することになっているので,COVID-19も指定感染症になった時点で(もちろん新感染症になっていたとしても同じ),全数報告疾患として医療機関→保健所→都道府県感染症情報センター→国立感染症研究所で集約してIDWRとして毎週発表というサーベイランスシステムは存在している(感染症サーベイランス事業)。しかし,この仕事は他の仕事もしている職員が兼務しているのが普通で,その人手も圧倒的に少なく,しかも手作業がほとんどであるため,例えば3月10日に最新のデータとして公表されたのが3月1日までの1週間であるという遅さになってしまっている。検査は都道府県衛生研究所や,今後は民間でもされるかもしれないが,そこから検査を依頼した医師にデータが戻ったら,自動的にオンラインで全国規模のデータベースにアップロードされ,即時に集計結果が公表されるというシステムを作ることは可能だったはずだ。それをすぐに実現することは難しいだろうが,医師から保健所への報告をオンラインにして(なっているかもしれない。現状は知らない),保健所や都道府県感染症情報センターに専従者を配置し,感染研の担当者を増やせば,毎日CSV更新くらいは可能ではなかろうか。

もう十年以上前から思っているが,もう一つ情報の集約と公表体制を強化して欲しいのは,人口動態統計である。日本は,海堂尊『死因不明社会』に書かれているように,死後死因究明が積極的になされない場合が多いので,死因統計の信頼性は欧米に比べると低いが(とはいえ,全国がん登録が始まる前,地域がん登録への協力に地域差が大きかった頃には,DCO [Death Certificate Only] 割合という,死亡時に初めてその人のがん罹患が報告された割合を,がん罹患者数の推定の補正に使っていたくらいなので,そこそこ信頼できる),死亡届は必ず市区町村に提出されるので,数としての死者数については信頼できる統計がある。しかし,これも公表が遅くて,しかも個人レベルのデータを使うための手続きは,米国などに比べるとずっと面倒なのが欠点だ。2020年3月6日に公表された最新の人口動態統計月報は,2019年10月のデータなのである。これを見ると2019年10月の日本の死者数が113,257人だったことがわかるが,日ごとの値が知りたかったら死亡小票を請求して自分で集計するしかない(公衆衛生分野では随分前からNational Death Indexを作るよう求めているが,実現に向かうような動きは見られない)。人手が足りないのだとは思うが,半年前の値しかわからないのは,さすがに時間が掛かりすぎと思う。例えば,仮に,既にCOVID-19で亡くなっているのに検査されず診断されていないための過小評価があるとしたら,1月以降の日ごとの死者数が,発症間隔推定値である5日か6日ごとに指数的に増加しているはずであり,その増加分がCOVID-19による超過死亡と考えられるだろう(前年同時期と比べて季節性変化成分がないか検討が必要だが)。人口動態統計についても,その気になればオンライン即時集計システムもハードウェアとしては構築できるはずだが,政府はその辺りに力を入れてくれていないのが大変残念(それでも,医療現場やコミュニティレベルでとられているデータが自治体や全国レベルではまともに集計されない,というかつて途上国でよく見られた状況よりはマシなのだが,例えば戦闘機1台分の資金をこちらに振り分ければ,システム開発と運用に必要な専従職員の雇用くらいできるのではないか?)。

インフルエンザについては,WHOがFluNetという世界規模のサーベイランスの仕組みを作っているが,それでも途上国からの報告値の信頼性が低いことは,予測を難しくしている。COVID-19については,流行早期からJohns Hopkins大学やWHOのArcGISを使ったサービスなどの形で感染者数と死亡者数の情報が提供されてきたし,日本でも多くの方がボランティアで情報収集し可視化してくれているが,おそらく情報収集部分が手作業なので,持続可能性に限界があると思う。地球規模で正確なデータを迅速に(できるだけ自動化して)集約し整理し,情報密度が低い国や地域からの情報については空欄が多くても良いので統一フォーマットの,CSVやXMLやJSONのような機械可読な形で公表する仕組みを確立することが必要だろう。それこそWHOが音頭をとってやったら良いと思うし,パンデミックになってしまった現在,GAFAなど巨大IT企業の協力を得たら可能と思うが。

ハーバードSPHのProf. Lipsitchが3月9日に,感染拡大させそうなマスギャザリングイベントとしてボストンのSt. Patrick's paradeに反対していたが,今年は中止になったと発表されて良かった。

20年近く前に「マスメディアへの要望」という文章を書いたが,取材対象の「専門家」を正しく選んでほしいという項目を追加すべきかもしれない。Prof. Marc Lipsitchのこのtweetと,そこへのコメントによると,Washington PostやWall Street JournalはCOVID-19関連の記事は無料提供する仕組みを作ったらしい。COVID-19は人類共通の敵なので,学術誌の多くもCOVID-19関連論文をオープンアクセスにしているように,メディアもこれだけは無料(あるいは格安)にしたらどうか。そうすると,受けを狙う記事を出す必要がなくなり,結果として情報としての質も上がると思う。まあ,民放テレビは広告で回っていて,そもそも視聴者は金を払っていないから,そこには応用できないが。

Prof. Lipsitchが指導している大学院生が筆頭著者になっている論文,Li R et al. "The demand for inpatient and ICU beds for COVID-19 in the US: lessons from Chinese cities"(2020年3月)が,ハーバードの機関リポジトリで公開されている。武漢市と広州市のデータから,米国においてCOVID-19の患者とICUベッドの需要がどうなるかを予測した論文。武漢のようなアウトブレイクが米国の都市で起こったら,年齢分布の違いを考慮すると,ピーク時には成人1万人当たり2.1-4.0人という重篤患者数が予測されるし,基礎疾患として高血圧がある人が多いことを考慮すると,その数字は成人1万人当たり2.6-4.9人になるだろうとし,それは米国の医療の許容量を超えると論じている。また,都市封鎖(lockdown)をしても,潜伏期間や入院から治癒あるいは死亡までの期間がかなり長いためもあって,武漢では1ヶ月後,広州では2週間後が入院患者や重症者のピークだったので,すぐに患者が減るわけではない,という点も指摘している。インペリグループの研究もそうだが,迅速性を考えると,重要な論文を大学の責任において公開するというやり方もありかもしれない。

安倍政権は非正規労働者にも日額4,100円出すとアピールしているが,賃貸集合住宅住まいで月収10万円で都市部に住んでいたら,その額ではとても憲法25条が保証する「健康で文化的な生活」はできないだろう。それよりも,一斉休校要請は取り消し,クラスター発生状況から休校の必要がある場合のみ休校(ただし学童保育も含めてすべて休み,屋外の散歩やジョギングは良いが人混みに行くのは禁止,と徹底する)とすれば,休校数が減る分,その間の生活保障として,政府が,全世帯均等に日額15,000円くらい出し,休校によって給食の納入をしている酪農家など一次産業従事者と食品加工業者,教職員にも政府が金を出す,くらいのことは同じ額でできるのではないか(試算したわけではないので自信はないが)。しかしどこかの世論調査で一斉休校を評価している人が6割以上いるという報道を見たので,安倍政権は取り消さないだろうなあ。なぜ明らかに不合理な施策を支持してしまう人がいるのか不思議でならないが。

神戸市は小中学校の休校を3月25日まで延長するという報道があった。COVID-19の流行が現在の神戸の状況なら,小中学校だけの休校には意味ないんだがなあ。 選抜高校野球中止が発表されたが,甲子園での野球は,選手にとってはクラスターが発生しやすい3条件に一つも当てはまらないので,無観客なら問題ないと思う。何の根拠もない全校休校なんてさせるから「選手の健康が第一」などという建前を押し通さねばならなくなる。はっきり言って安倍首相の暴挙と,それに逆らえない高野連のせいと思う。

WHO神戸センターのCOVID-19特設ページに,2月24日に発表されているWHOと中国の合同ミッションによる報告書の,有志による邦訳が載った。

JAMAのWang CJ et al. "Response to COVID-19 in Taiwan: Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing"(2020年3月3日掲載)はViewpointであって原著論文ではないが,Supplementとして提供されている表(いつ何をしたかの時系列一覧)が情報多くて良い。台湾がどうやってCOVID-19に対処してきたかをまとめたもの。

暫く前から注目しているクロロキンだが,Yao X et al. "In Vitro Antiviral Activity and Projection of Optimized Dosing Design of Hydroxychloroquine for the Treatment of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)" Clin Infect Dis(2020年3月9日掲載)が出ていた。培養細胞での実験だが,ヒドロキシクロロキン硫酸塩の方がリン酸クロロキンよりもEC50が小さいので低用量でSARS-CoV-2に効く可能性ありという主旨。

血清抗体検査(2020年3月12日 - 当該鐵人三國誌

昨日の日経の編集委員矢野寿彦氏による記事新型コロナ、日本の検査遅らせた「疫学調査」は,あまりに事実を誤認した陰謀論に陥っていて,この記事によって疫学への信頼が失われることは対策に有害なので批判しておく。有料記事だが,登録すると月10本までは無料で読めるので,全文読んだ上での批判である。

この記事には2つの大きな誤解がある。おそらく上昌広氏と同じ誤解と思われるので,氏の意見に影響されているのだろう。その誤解とは,

  1. SARS-CoV-2に感染している人は,検査すればわかるという思い込み
  2. 積極的疫学調査が公衆衛生の発想だから正確なデータにこだわって民間に参入させなかったという思い込み

である。

実際は,前者については,無症状や軽症な人はウイルス量が少ないので,鼻腔スワブや咽頭スワブに偶々ウイルス遺伝子がつかなかったら,いくらPCRの増幅能力が高くても検出されない。既に書いた通り,検出限界以下ということだ。つまり,増幅できるかどうかがサンプリングの仕方に依存するので,仮に自宅でサンプルして郵送で検査のような仕組みができたとしても,無症状や軽症では,感染していても陰性になる可能性がかなりある。それが,検査対象を無闇に増やさない本質的な理由であって,最近専門家委員会の尾身先生が言い出した検査能力の限界というのは,あるとしても副次的な理由である。民間や大学の協力を求めて検査能力を拡大できなかった理由があるとすれば,それは精度や検査キットなどの話ではなく,患者の人権を守る上で,守秘義務契約など法や制度的なものの整備が間に合わなかったのではないかと思う(これも既に書いた)。この,検査して陰性だった場合に,感染していないとは限らず,感染しているかどうかわからない,という事実を説明しないでおいて,最後の段落で「安心検査」の拡大には専門家が否定的だと書くことは,専門家への疑念を煽ることになりかねない。

後者は,積極的疫学調査が公衆衛生の発想というところまでは正しいが,その第一の目的は,クラスター内の患者をすべて追跡して見つけ,隔離などの手段によって,それ以上感染を広げないことにあって,データをとることではない。和歌山県のクラスターの検査のため,大阪府の協力を得たことからもわかるように,精度の統一など大した問題ではない(そもそも上述の通り,陰性と出ても感染している人は少なくないので,感染研キットに拘る意味がない)。

感染隠しを疑う声が高まったのは,上医師ら,陰謀論を唱える自称専門家がワイドショーやSNSで騒いだことや,そこに乗ってしまうこの新聞記事のようなものこそが原因なのに,その自覚がないというのは新聞記事として致命的だと思う。

もちろん,クラスターにおける積極的疫学調査によって得られたデータは,疫学的な分析にも使っているが,これは副次的な目的である。既に書いた通り,積極的疫学調査で見つかったクラスターからクラスター発生の共通条件を見つけて予防に使うというのは世界初の試みで,西浦さんが天才だから思いついたことだと思う。

3点目の批判をすると,保険適用後の自己負担を公費でカバーするのは,データを集めるためではなく,感染拡大を防ぐためである。疫学調査に濡れ衣を着せるのもいい加減にして欲しい。1類,2類感染症と感染力のある結核患者の入院医療費が公費負担なのと同じで,「社会防衛」のための医療費が公費負担になるのはCOVID-19に限ったことではなく,公衆衛生の常識である(保健行政論の講義資料にも載せている)。

なぜこうして検査についての陰謀論に陥る人がいるのかを考えてみると,2つの目的の違う検査が同時進行していることをわかっていないからだと思う。つまり,クラスター発生地を中心として,これまでも,濃厚接触のリンクが辿れる場合は,そのリンクを追って無症状でも軽症でも検査していた。この目的は感染拡大を防ぐためである(おそらく,和歌山での検査は,クラスター対策班のファーストミッションとしての成功事例ではないかと思っている)。それと平行して,入院治療の必要がある肺炎患者が,COVID-19であったときにcritically illになったら迅速に人工呼吸器とかECMOとかの救命措置をしないと死亡してしまうため,そうなる前にCOVID-19であるかどうか鑑別診断するための検査も行われてきた。これが,医師が必要と判断したときに保健所経由でオーダーされる検査で,患者の命を救うために行われてきたわけである。後者における問題は,リンクが追えない市中感染の方について,クリニックを肺炎症状で受診した患者を診察した医師が,鑑別診断のために検査が必要と判断して保健所に連絡したのに拒否される場合である(クロ現プラスなどテレビでも何例か報じられていた)。これについては,都道府県医師会ごとに,オーダー数と拒否事例数を集計して,その合計が本当にその地方の検査能力を超えているなら,拡充すべきであろう。専門家会議もこういう拒否は無くすべきという判断をしているのが,この数日の尾身先生の発言につながっていると思う。

検査体制の整備目標は,これら2つの目的の検査を拒否せず実施できることにおけば,必要十分である。もしかすると前者の余力を残すために後者を拒否する保健所があったのかもしれないが,それは優先順位を間違えている。

鼻腔スワブや咽頭スワブをリアルタイムRT-PCRで検査するという方法でスクリーニング的にランダムサンプルされた無症状者の検査をしたら,感染しているのに陰性という例が多いとしても,しないよりは感染状況の把握に役立つのではないかという意見があるが,検査能力を圧迫するし,ちょうど鼻腔や咽頭にSARS-CoV-2ウイルスがいるときに検体を取らないと検出できないので,集団における感染状況の把握には向かない。その目的なら,血清抗体(必ずしも中和抗体でなくても良い)を調べる方が良い。ちょうど今日発表されたクラボウが中国から輸入するIgGとIgMを検出するイムノクロマトキットは,リリースには「感染時に体内で生成される特定の抗体を検出するため、感染初期の患者に対しても判定が可能」と書かれているが,感度や特異度が書かれていないのが気になる。検索してみたところ,クラボウが輸入しているキットの開発元は,おそらくBioMedmicsで,そこの情報によると,397人のリアルタイムRT-PCRで確定診断がついた感染者のうちこのキットで陽性になった人は352人(感度は352/397=88.66%)であり,128人のリアルタイムRT-PCR陰性の人のうちキットで陽性となったのは12人(特異度は(128-12)/128=90.63%)と書かれている(追記20200315:三重大学の奥村先生から教えていただいたが,クラボウのとは違うものらしい。そうなるとクラボウがどこから輸入するのか不明だが)。RT-PCR陰性の人のうち約1割から抗体が検出される理由として考えられるのは,このキットで使われている標識抗体が,検出対象にしている「特定の抗体」だけに結合するのではなく,他のタンパクにも反応してしまう可能性の他に,治癒後であるという可能性もある。マラリアやデング熱でもイムノクロマトを利用したRDT(Rapid Diagnostic Test:迅速診断検査)は良く使われているが,抗原に対するRDTと抗体に対するRDTは別の意味をもっている。抗原に対するRDTで陽性ならばその病原体が血液中に存在することを意味するが,抗体は治癒後でも暫く血中に存在するので,抗体陽性は,いま感染しているかどうかではなく,感染した経験を示すことになる。いずれにせよ,特異度が90%程度しかないのでは,有病割合が低い対象者についてスクリーニングしたら,陽性反応的中率が低くなってしまってあまり役に立たないというのは,疫学の基本である。

しかし,血清疫学という研究分野では,治癒後も暫くは抗体が残ることを逆手にとって,集団における感染状況を把握する方法が確立している。最近感染した人は,感染強度が弱かった人や,治癒後時間が経っている人よりも血液中の抗体の濃度が高いので,血液を何段階かに希釈し,抗体が何段階希釈までELISAやIFATで検出できるかを調べれば,その抗体の濃度を抗体価として把握できる。抗体価の分布を調べれば,集団中の流行状況を評価することができるわけである。個人の鑑別診断としては感度や特異度が不十分でも,抗体価の分布はある程度信頼できる。イムノクロマトにしてもELISAにしてもIFATにしても,確定診断のためのリアルタイムRT-PCRとはサンプルも検査機器も競合しないので,必要な検査の邪魔をせずにデータを取ることができる。

既に紹介したように,日本でも文部科学省から5000万円の研究費を受けたウイルス学者のグループの研究課題の中に血清抗体検出キットの開発が含まれているので,もしかしたら,もっと感度や特異度が高いキットができる可能性もあるが,抗体検出による限り,原理的に治癒後なのに陽性となるケースを除外することはできないので,特異度の改善には限界があり,これをリアルタイムRT-PCRの代わりに確定診断に使おうというのは筋が悪い。

参考までに,『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』の「感染症の疫学」の草稿の中にあって長さの関係でボツになった,血清疫学についての説明文を載せておく。

A.パプアニューギニアでの血清疫学研究

パプアニューギニア低地に大きく分けると4つの地域に居住しているギデラと呼ばれる狩猟採集民は,エネルギーもタンパク質も十分に摂取していて,鉄摂取量に至っては,海沿いの村落で30 mg,内陸と南方川沿いで60 mg,北方川沿いで100 mgと,日本の栄養所要量の3倍から10倍に達している集団です。主食は芋類やサゴヤシというヤシの木の幹に詰まっているデンプンを川の水で絞り出して沈殿させて得たものですが,サゴの摂取量には大きな村落間差があって,それが鉄摂取量の村落間差の原因になっています。

この地域でマラリア患者が多いことは聞き取りや観察の結果からわかっていましたが,血液検査ができなかったので確定診断はできていませんでしたし,どの程度の頻度でマラリアに罹るのかという疾病負荷の情報はありませんでした。1989年に採血をともなう調査をした結果,村によって貧血の人の割合に違いがあることがわかりました。北方川沿いと内陸には貧血の人がまったくいなかったのに対して,南方川沿いと海沿いでは10~30%の人が貧血でした。

この血液サンプルは,現地に発電機を持ち込んでその場で遠心分離し,血清として凍結して日本に持ち帰りました。この血清を疾病負荷の推定に使う方法が血清疫学です。マラリア原虫は煙幕抗原をばらまくなどの防御をするため,患者になるとマラリア原虫への抗体はできるのですが,その抗体は中和抗体となりません。しかし,いったんできた抗体は数ヶ月から2年程度は血清中に存在し続けることが知られていますので,頻繁に感染した人や,感染したばかりの人では,抗体が高濃度で存在します。蛍光物質で標識した抗原を2倍,4倍と段階的に希釈した血清と反応させると,血清中の抗体が多いほど高い倍率で希釈しても蛍光を発します(それ以上希釈すると蛍光が見えなくなる限界の希釈倍率を抗体価と呼びます)。この,間接蛍光抗体法という方法でギデラの人々の血清を測定した結果,熱帯熱あるいは三日熱のどちらかのマラリア原虫に対する抗体価が1:64以上(比較的最近の感染があったと考えられる値)だった割合は,海沿いで100%,北方と南方の川沿いでは90%に達していたのに対して,内陸では30%に過ぎませんでした。これは調査中の実感とも合っていて,海沿いや川沿いでは夜間になると猛烈な蚊の襲来を受けたのですが,内陸の村では蚊に刺されることがはるかに少なく過ごしやすいと感じました。興味深かったのは北方川沿いで,マラリア抗体価は高いにもかかわらず,貧血の人がいなかったという事実です。村人に聞き取った歴史によれば,彼らは元々内陸に暮らしていて,人口が増えるにつれてまず北方川沿い,次いで南方川沿い,最後に海沿いに進出したということでした。北方川沿いには古くから進出したことで,鉄摂取量がきわめて多く,そのことが貧血を防ぐことと関連していると考えられました。もしそうなら,一種の栄養適応が起きているのだと解釈できます(Nakazawa et al., 1994)。

新しい論文2つ(2020年3月13日 - 当該鐵人三國誌

Kucharski AJ et al. "Early dynamics of transmission and control of COVID-19: a mathematical modelling study."(2020年3月11日掲載)このレベルのシミュレーションでLancet Infectious Diseasesに載るのか。

クロロキンの論文は毎日チェックしているのだが,招待論文でDevaux CA et al. "New insights on the antiviral effects of chloroquine against coronavirus: what to expect for COVID-19?"(2020年3月12日掲載)が,Int J Antimicrobial Agentsに載っていた。後で読もう。

死亡予測因子(2020年3月14日 - 当該鐵人三國誌

世界の先進国がとっている対策の基本線は,日本も含めて同じで,検査については,一昨日説明したように,(1)感染拡大を防ぐため,無症状や軽症の人も含めた積極的疫学調査の対象者の検査,(2)肺炎症状等,診察の結果,医師がCOVID-19の鑑別の必要を認めた患者の検査,をすることが必要十分であり,個人予防としては,手洗い・咳エチケット・風邪様症状があったら外出しないこと・不要不急の旅行やマスギャザリングを避けることは,ほぼ共通している。日本の専門家会議が出した方針も同じである。WHOのテドロス事務総長の昨日のスピーチにもそうあった。

ちなみに,昨日のスピーチでやや目新しかった発言としては,「包括的なアプローチを取らねばならない。検査だけでもなく,接触者追跡だけでもなく,検疫だけでもなく,隔離だけでもなく,そのすべてをするのだ」があった。個別の国については,中国,韓国,シンガポールなどの国は,積極的な検査と接触者追跡と隔離と社会的流動性(の抑制? あるいはimmobilizationと言ったのかも?)を組み合わせれば,感染を防ぎ命を守ることができることを示した,という発言に続き,日本も安倍首相自身に主導される全政府的アプローチが,クラスターの詳細な調査に支えられて,伝播を減らすための重要な一歩になることを示している,と言っているが,内容的にテドロス事務総長が評価しているのは,クラスターの詳細な調査の方であることは明らかだ。全政府的アプローチ云々は実態を知らないのかリップサービスか知らないが。

違いは,例えば以下のような点が挙げられる。

韓国では,MERSの経験があるので検査能力に余力があり,積極的疫学調査の対象者だけでなく不安を感じて検査を希望した人のすべてに対応する検査をしたというプラスアルファによって,より徹底的な押さえ込み対策が可能になり,把握された感染者数が実際の感染者数に近づき,CFRがIFRに近い低値になった(それでも0.6%あり,日本の季節性インフルエンザの30倍程度だが)。たぶんプラスアルファがなくても死者数はほとんど変わらなかったはず。(20200315追記)大事なポイントを見落としていたが,韓国CDCの発表によれば,韓国の感染者は20代が突出して多く,その死者がゼロなので,見かけ上CFRが低くなっているという側面もある。これはたぶん,20代が集団感染するようなクラスターが多かったのだろうと思われる(時空的な内訳がわからないと正確な評価はできないが)。

英国では,首相のスピーチが,Chief Medical OfficerやChief Scientific Advisorからの提言に基づいている。Chief Scientific Advisorというポジションが常設されていること自体素晴らしいが,1995年から2000年の間,その地位にあったのは,理論疫学の大家でRoy Andersonとの共著で名著『Infectious Diseases of Humans』を書いたRobert Mayであった。必要十分な検査をした場合に総感染者数が検査によって確定診断がついた人数の10倍以上いるだろうという見積もりは,武漢のアウトブレイク初期のデータからインペリアルカレッジのFergusonグループ(暫くサイトをチェックしないでいる間に2つの報告が増えていた。第7報[3月9日],第8報[3月11日])が出した第1報でも西浦さんのJCM特集号Editorial第1弾でもわかっていたことで,目新しくはないのだが,政府の方針が科学的合理性に基づいているということが明示されているのがプラスアルファだと思う(スポーツイベント取りやめや休校も検討したが,科学的アドバイスに基づき,現時点では感染拡大防止効果が小さいためしない,休校についてはとくにそうするようアドバイスがでたときのみすべき,と明言している。スポーツイベントも種類や規模によると思うが)。

日本は,専門家会議が立ち上げたクラスター対策班が,クラスター発生に共通する3条件を見つけて,それを避けるように,と呼びかけたのがプラスアルファである。いま効果があったかどうか計算しているところだと思うが,この効果があれば,社会経済活動への介入を最小限にとどめながらRを1未満にできる可能性がある。あと,たぶん手洗いなどの個人防護を真面目にやっている度合いが,他国より高いように思われるのも,プラスアルファだと思う。一方,マイナスとして浮かぶのは,医師が鑑別が必要だと考えても保健所が拒否する事例があることだ。ただ,メディアでは良く報じられるのだが,これがどれくらいあるのかがわからない。以前から医師会が集計して公表したら良いのではないかと書いているが,3月4日までに全国で30件という数字が事実なら,実際以上に拒否事例が多いように感じてしまっている可能性もあるかもしれない(もちろんゼロであるべきだが)。もっと大きなマイナスは,専門家会議に相談せず,首相周辺が思いつきで全国一斉休校を宣言してしまったように,政治がまともに機能していないことだと思う。英国首相のように,科学的アドバイスに基づいた施策をしてくれて,それを明言することで,責任は自分がとることを示してくれるのが,政治家として求められる態度だと思うのだが。

プレプリントサーバに載っている,Wang C et al. "A human monoclonal 1 antibody blocking SARS-CoV-2 infection"(2020年3月12日アップロード)は,SARS-CoVとSARS-CoV-2に共通する抗原エピトープに結合して中和できるモノクローナル抗体を見つけたという論文。

LancetのZhou F et al. "Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study."(2020年3月11日掲載)は,武漢の2つの病院(他の病院からreferされる)を2020年1月31日までに退院したか死亡した,18歳以上の患者191人(137人は退院,54人は死亡。発症から入院までの平均日数はどちらも11日)についての後向きコホート研究(と書かれているが,退院例と死亡例について,基本属性や臨床所見,治療法,検査データを比較しているので,むしろ症例対照研究と言うべきではないか?)。ロジスティック回帰分析の結果,死亡リスクを上げた要因は,年齢(1歳上がるごとに1.1倍)に加えて,入院時のSOFAスコア(リンク先の論文に書かれているように,臓器障害の程度を示す指標で,敗血症の診断に用いられる)が高いこと(オッズ比5.65,95%CI [2.61, 12.23])とd-dimerが1μg/mLを超えること(0.5μg/mL以下をリファレンスグループとしてオッズ比18.42,95%CI [2.64, 128.55])であった,と書かれている(表3)。これほど高いオッズ比から考えると,これらはかなり,入院時に重症化しやすい人を見つけるのに使える指標といえよう。もう1つの結果として,退院した人たちについては,発症からのウイルス排出期間の中央値が20日(四分位範囲が17-24日)で,最短8日,最長37日だったが,死亡した人たちは亡くなるまでウイルスが検出され続けたとも書かれている。もちろん24時間おいて2回,咽頭スワブからRT-PCRか次世代シークエンサでウイルスが検出されなくなってから退院としているので,退院後の再燃については,この論文では扱われていない。

糞口感染(2020年3月15日 - 当該鐵人三國誌

相変わらずメディアは検査数が増えてないというが,それだと感染数が増えていないだけかもしれないので,何度も書いているように,医師が鑑別の必要を訴えて拒否された例数を都道府県別に集計して報告して欲しい。都道府県医師会が集計してくれる仕組みができれば良いが,マスメディアが本気で取材すればできるだろう。それをせずに公式発表からわかる検査数だけ比べるのは無意味。

若い方は受容できるという「専門家」をよく見るが,発症したら1000人中3人死ぬような感染症が日常的に感染するようなリスクは受容できないと思う。ドイツ,英国,米国の政府は,それを受け入れなければならないかも,ということまで視野に入れはじめたが,日本のクラスター対策班は,まだクラスター対策によってR<1にできる可能性を捨てていない。和歌山県の技監が言っていることのうち,肺炎症状があれば鑑別診断するというのは,たぶん国際的に普通のことだが,濃厚接触がなくても無症状でも病院に出入りした人全員を検査したのは,病院という場をクラスターとみなしたクラスター対策なので,他国はどこもやっていない最先端のはず(20200316追記:twitterでflurryさんから指摘を受けたが,確かに「他国はどこもやっていない」とは限らない。書きすぎた)。和歌山独自という報道がなされているが,クラスター対策班から提案されたのではないかなあ。

Nature Medicineの短報で,Xu Y et al. "Characteristics of pediatric SARS-CoV-2 infection and potential evidence for persistent fecal viral shedding"(2020年3月13日掲載)は,10人のSARS-CoV-2に感染した子供(2ヶ月~15歳)の臨床的特徴をまとめたもの。鼻や喉のスワブからウイルスが検出されなくなってからも,直腸から採取したスワブでは,10人中8人からウイルス検出されたから糞口感染があるだろうという結論は,既に紹介したZhang et al.の論文では成人でも確認されていることなので,小児の特徴と考えてしまっては筋が悪いと思う。ただ,乳幼児の世話をする人は,通常以上に排便処理に気をつけるべきとは言える。

プロゴルフが中止になったり延期になったりしているが,あれこそ,クラブハウスで集まって喋ったりせず,全部屋外で済ませることにして,無観客ならば感染リスクはほぼゼロなのではないか。松山英樹選手が初日首位だった大会など,なぜ中止されたのか,意味がわからない。関係者から感染者が出たのか?

Rによる世界のCOVID-19の地図表示についての記事。

このtweetで知ったが,Broker TR et al. "An Effective Treatment for Coronavirus (COVID-19)"(2020年3月13日)は,ぼくがこれまで引用してきたのと同じようなソース(いくつか知らなかったものもあった)から,クロロキンが予防にも治療にも有望だと主張し,とくに予防に使えるかどうかを早急に調べるべきと結論しているレビュー。やはり早く治験結果が待たれる。

正確な訂正情報の必要性(2020年3月16日 - 当該鐵人三國誌

インペリのFerguson教授のインタビュー動画(2020年3月11日)

いま入居している部屋では,ネット接続とBS視聴のためJ:COMに加入しているのだが,ホーム画面のお知らせを見たら,COVID-19のパンデミックに配慮して,TBSニュースチャンネル,BBC World,CNNj,CCTV大富という4つのニュースチャンネルの視聴を3月一杯無料にしてくれていることに気づいた。これは良いサービス。

Domenico LD et al. "Expected impactof school closureand teleworkto mitigate COVID-19 epidemicin France."(2020年3月13日)SEIRモデルを使って,フランスでの休校と他の緩和策との組み合わせの効果を評価しているのだが,8週間の休校をすればピークを遅らせる効果はあるが,流行地での導入に比べ,あまり流行していない状況での導入の効果は小さいこと,テレワーク導入と組み合わせて導入すると効果が上がること,などを示している。

大著"Coming Plague"(現在Kindle版は729円で買える)の著者がGarrett L "COVID-19: the medium is the message"(2020年3月11日)と題して,LancetにPerspectiveを書いている。パニックや科学や疫学に対する誤解からの防御のための唯一の砦は,素早く,正確で,世界中で利用可能な訂正情報である,と主張していて共感した。そう思ってこのメモをまとめているわけだが。

JAMAから。Sharfstein JM et al. "Diagnostic Testing for the Novel Coronavirus"(2020年3月9日)というViewpointで,米国が当初は検査を曝露がわかっている人に絞っていたが,3月3日にペンス副大統領が「医師が検査を要請したすべての米国人は検査を受けられる」と述べたが,そこには多くの問題が残ると述べている。懸念されている問題は,軽症者が検査を求めることで重症な人に医療サービスがパンクしてしまうのではないかという問題や,2-14日の潜伏期間のうちは検査して陰性でも感染している可能性があることなど,日本で議論されていることと同様である。ドライブスルーでの検査など検査の技術改善は必要かもしれないが,それは手洗いや隔離など他の対策の代替にはならない,とも書いている。当然のことだが。

Scienceに特設ページがあった。Science Translational MedicineのEditorialで,Layne SP et al. "New coronavirus outbreak: Framing questions for pandemic prevention"(2020年3月11日)という文章が載っていた。

Scienceにあったモデル論文で,いろいろなメディアで紹介されているようだが,Chinazzi M et al. "The effect of travel restrictions on the spread of the 2019 novel coronavirus (COVID-19) outbreak"(2020年3月6日)は,渡航制限がCOVID-19アウトブレイクの広がりに与えた影響を議論している原著論文。GLEAMという2009年のパンデミックインフルエンザ流行時に開発された,感染症の空間拡散に対する多状態移動ネットワークのモデル(詳細はBalcan D et al. "Multiscale mobility networks and the spatial spreading of infectious diseases", PNAS, 2009Balcan D et al. "Modeling the spatial spread of infectious diseases: The GLobal Epidemic and Mobility computational model", J Comput Sci, 2010参照)を用い,分集団ごとのヒト=ヒト感染にはSLIR(という用語になっているが,LはLatentで潜伏期間を示すので,SEIRと同じ)のコンパートメントモデルを仮定している。国際的に報告された感染者数を用いてキャリブレーションし,武漢が封鎖された2020年1月23日までに,ほとんどの中国の都市が既にCOVID-19に感染した旅行者を受け入れていたこと,武漢での旅行検疫は,中国本土での流行の進展を3-5日しか遅らせなかった一方,国際的な規模ではより大きな効果があったことなどを示している。モデルに仮定は多いのだが,これが正しかったら,イタリアでの都市封鎖も正しいことになる。確かに中国は都市封鎖によって,少なくとも一度はエピデミックを抑え込むことに成功した(ように見える)が,問題は,封鎖を解いたときに再流行しないかということだ。永遠に都市封鎖を続けるわけにはいかないのだし。

Lipsitch M, Allen J "Coronavirus reality check: 7 myths about social distancing, busted - Due to the lack of testing availability to date, we don’t know who has coronavirus. So for now, we assume we all might, and maintain social distancing"というOpinionがUSA Todayに載っていた。Social Distancing(社会的に距離を置くこと)についての7つの神話を否定し,COVID-19についての現実はどうなのかをチェックする,という主旨。やはりこうして地道にファクトチェックしていくことは大事だと思う。"Social Distancing"より"Physical Distancing"(物理的に距離を置くこと)の方が良いけれども,もちろん100%物理的に距離を置くのは不可能で,外を散歩したり,子供が外でサッカーのような他人との接触がないゲームをしたり,数人でハイキングに行ったりしたら良いと書いている(私見だが,おそらく,Prof. Lipsitchが西浦さんたちの論文を読んだら,クラスター発生条件が揃うのを避ける活動はOKと判断するのではないかと思う)。咳や鼻水だけではなく,普通に呼吸をしたり喋ったりするだけでも感染するので,手洗い,物の表面の消毒,換気が重要だとも書いている。Social Distancingをしてもすぐに結果がでるわけではないし,1ヶ月かそれ以上続けていったん流行が収まったとしても,軽症な人や世界のどこか他のところで残っている感染者の中でウイルスは存在し続けているので,Social Distancingを緩めたら再流行が起こる可能性があることは歴史が証明している,とも書いている。既に書いたように,何週間かそこら我慢したら緩めて良いというものではなく,根絶するか,治療薬かワクチンが使えるようになるまでは,このような行動制約はずっと続けなくてはいけない。辛い世界だが仕方が無い。

その意味で,フランスのマクロン大統領がしたように15日間の封鎖(15-day lockdown)を宣言するのは(都市封鎖は中国しかできないと思っていたが,欧米でも複数,そこまで踏み込んだ対策を打ち出したのには驚いた),緊急避難的に感染拡大を防ぐには明らかに役に立つが(休校なども,その一環でやるなら意味がある),封鎖を解除したら,ほぼ確実に再流行する。それを繰り返したとして,いろいろな社会システムが破綻せず機能し続けられるのか,また,社会的弱者にしわ寄せが行かないか,ということも考えた上で発令しないと(フランスでは考えられているのだとしても,どの国でもできるわけではない),COVID-19の感染者数を一時的に抑え込めても,他の死因による死者が増えてしまう可能性はある。仮にクラスター対策では抑え込めなかった場合,高い確率で,日本でも封鎖をしなくてはいけない局面が来るかもしれないので,前もって考えておく必要はあるだろう(20200318:誤読されやすい日本語だったので,この文修正しました)。が,現時点の日本で,15日間のlockdownによる抑え込みをする政策が妥当だとは思えないし,それによるマイナスを補償する政策がないままにやってしまったら,生活が立ちゆかなくなる人が大勢出ると思う。

インペリグループ第9報(2020年3月17日 - 当該鐵人三國誌

インペリグループ第9報(2020年3月16日)。筆頭著者がFerguson教授自身になっている,やや長めの論文。基本的に英国の政策はインペリグループの研究結果を踏まえて立てられているので,この論文は影響大きいだろう。Summaryの冒頭から,スペインかぜ以来最も重大な呼吸器系ウイルスによる脅威だ,と書き,人と人の接触を減らしウイルスの伝播を減らすための多くの公衆衛生的な手段(=薬剤以外の介入NPIs)を評価している。ローリー・ギャレットが年齢別のインパクトの表を引用tweetしているが,若い年齢層でのIFRをこれまでの文献より低く評価している一方,高齢者では多くの文献より高い値を示している。結論として,1つだけの介入では,どれも有効性は限られているので,伝播にそれなりの影響を与えるためには,複数の介入を組み合わせる必要があるとしている。

以下20200318追記。なお,Ferguson教授のtwitterに咳が続き熱も出てきたと書かれていて大変心配)この研究の大事なポイントはNPIsの2つのアプローチを明示的に分けて評価した点だと思うので,その考え方がはっきり書かれているイントロだけ抄訳しておく。

2020年3月16日時点で,COVID-19のパンデミックは大きな地球規模の健康への脅威となり,世界で164,837人の感染者数と6,470人の死亡数が確認されていて,少なくとも1人の患者が確認されている国は146ヶ国と急速に拡大中である。これに匹敵する新興感染症の流行はスペインかぜで,当時ワクチンはなかったので,米国を含むいくつかの国は,一般集団における接触率を減らすことによって伝播速度を下げることを意図した,薬剤以外の多様な介入方法で対応し,早期に介入を導入した都市では症例数を減らすことに成功し,介入し続けている限り死亡率も低く保てたが,介入を止めると伝播は再び活発になった。現在の我々の感染症や予防の理解はスペインかぜ当時とはまったく違うが,世界の国々を見渡せば,スペインかぜと同じ問題に直面している国もある。NPIsとしては,2つの基本戦略が取れる。

(a)抑え込み(suppression)。再生産数を減らすことが目的。Rを1未満にすればSARSやエボラのようにヒトからヒトへの伝播を低いレベルになり,感染者数が減る。このアプローチの問題は,NPIs(使えるとすれば治療薬も)が,ウイルスがヒトの集団の中を循環しているうちは,あるいはワクチンが使えるようになるまでは,維持されねばならない(少なくとも間欠的には)ことである。COVID-19の場合,ワクチンが使えるようになるまでには,少なくとも12-18ヶ月かかる。また,できたばかりのワクチンが高い効果をもつ保証はない。

(b)緩和方策(mitigation)。この場合,NPIs(もし使えるならワクチンや薬剤も)の目的は,伝播を完全に邪魔することではなく,流行の健康影響を減らすことである。1918年のスペインかぜの時に米国のいくつかの都市で適用され,1957, 1968, 2009年のインフルエンザパンデミックの時,より広く世界で適用された方法である。例えば,2009年のパンデミックの時,ワクチンの早期供給は重症化しやすい基礎疾患がある人を対象としていた。このシナリオでは流行を通してある程度集団免疫がついた時点で,急速に患者数と伝播が低い水準に落ちる。

これらの戦略はRを1未満にして患者数を減らすことを目指すか,Rを減らすが1未満ではなく,たんに感染の広がりを遅くすることを目指すかが違っている。

この報告では,COVID-19への戦略として,これら2つの実現可能性と意味するところを考え,広い範囲のNPIsを想定する。SARS-CoV-2は新興感染症なので,まだその伝播について理解すべきことが多く残っている点には注意すべきである。加えて,NPIsの多くの影響は,いかに人々がその導入に反応するかに掛かっていて,それは,国によっても,コミュニティによってさえ違う。加えて,政府の強制介入がなくても,人々が突然行動を大きく変えることは,きわめてありそうなことである。

ここでは倫理や経済的な側面は考えない。抑え込みは,中国や韓国で今のところ成功しているが,莫大な社会的・経済的なコストが掛かり,そのこと自体が,短期的または長期的に健康とウェルビーイングに重大な影響を与える。緩和方策は重症化や死亡からそのリスクにある人々を完全に守ることはできないし,死亡率は高いままになるかもしれない。実現可能性とヘルスケアシステムへの影響に焦点を当てる。英国(注:この論文ではGBと書かれているので,北アイルランドを含まないことを強調したいのか?)と米国という2つの異なるヘルスケアシステムをもつ国についての結果を提示するが,多くの高所得国に適用可能だろう。

方法は,伝播モデルはパンデミックインフルエンザ用に開発された個人ベースシミュレーションを改変し,細かい人口密度データを使って(年齢と世帯規模の分布はセンサスデータによる)地域ごとの個人が,世帯内,学校内,職場内,コミュニティ内で接触する過程をシミュレートしている。学級サイズと生徒/教員比を使って地域の人口密度に比例したサイズの学校人口を生成し,職場の人口規模の分布データと通勤距離データから職場人口を生成している。S(感受性者)とI(感染者)の接触を通して感染イベントが起こり,コミュニティ内の感染は接触者間の距離に依存してランダムに起こり,学校内での接触確率は,これまでのインフルエンザパンデミックで観察された子供同士の感染率に合わせるため,それ以外の2倍に設定している(注:ここの設定にはかなり疑問がある。ほぼランダムリンクで接触確率に応じて感染が起こるインフルエンザとは,COVID-19の感染の特性は大きく違い,感染が起こるかどうかは接触の環境条件に依存するので,インフルエンザのモデルを流用することは妥当性を欠く。このモデルによるシミュレーションの結果は,子供の影響を過大評価しすぎているし,クラスターの連鎖による感染拡大という特徴をまったく考慮していないことからRの過分散も扱えておらず,あまり信頼できない。Ferguson教授とは思えないミスだと思うが,まったくその点に触れていないので,もしかすると知らないのかも)。感染のほぼ1/3は家庭内で,1/3は学校と職場で,残り1/3はコミュニティで起こると仮定した。先行研究から,潜伏期間は5.1日,感染力のある期間は,発症する人では発症12時間前から,無症状の人では感染後4.6日から始まり,そこからずっと続くことから,平均世代時間6.5日という結果になると仮定している。武漢の初期の感染者増加率に基づいて,R0は2.4とし(ただし2.0-2.6の範囲を調べた),症状がある人はない人より50%高い感染力をもつが,個人の感染力は平均1,シェイプパラメータα=0.25のガンマ分布に従うとした。回復後の人は免疫がつき,短期間では再感染しないと仮定した(Flu Watchのコホート研究から考えて,同じ系統のコロナウイルスが,同じシーズンや翌シーズンに再感染することはまずないだろうから)。1月上旬からの各国での感染は指数増加(倍加時間5日)をベースにして,英国と米国で2020年3月14日までに見られた累積死亡数を再現するような流行状況に調整した。表1に,中国のデータに基づき,肺炎一般の入院データなども考慮して,この論文で用いた,年齢層別に入院が必要な有症状者の割合,集中治療(人工呼吸器かECMO)が必要な入院者の割合,感染致命比を示す(注:この表は推定値であり,年齢層別しないIFRの推定値を0.9%としているので,西浦さんたちの0.3-0.6%よりだいぶ高い)。NPIsの介入シナリオとしては表2に示す5つとその組み合わせを考えている。CI(自宅隔離:有症状なら7日間自宅にいて,家庭外の接触を75%減らすとし,70%の世帯がこの政策に従う),HQ(自宅検疫:1人有症状者が出たら世帯全員が14日間自宅にいて,世帯内接触は倍増するがコミュニティでの接触は75%減り,半数の世帯がこの政策に従う),SDO(70歳以上が社会的に距離を置く:70歳以上の人は職場の接触を半減させ,代わりに世帯内の接触は25%増え,コミュニティでの接触は75%減るとし,75%がこの政策に従う),SD(全人口が社会的に距離を置く:全世帯がコミュニティでの接触を75%減らし,学校での接触は変わらず,職場での接触は25%減り,世帯内接触は25%増える),PC(学校閉鎖:小中高はすべて閉鎖,大学は25%のみ開校,学生の家族との接触は50%増え,コミュニティでの接触は25%増える)の5つ(注:本文にはマスギャザリングの停止も書かれているが,表には入っていない)。CIとHQは発症がトリガーとなり翌日実施されるとする。他のシナリオは集中治療を必要とする重症者数をトリガーとして政府の決定により始まるとする。緩和策の場合は3ヶ月,抑え込み策の場合は5ヶ月かそれ以上続けるとした。

結果は,(ありそうにないが)まったく何の介入もしない場合は,図1(縦軸は人口当たりの死亡率であることに注意)に示されている通り,英国と米国の81%が感染し,両国とも死亡率のピークは6月頃で,英国では51万人,米国では220万人が死亡するとなった。英国における6月のピーク時に必要な集中治療ベッド数は人口10万当たり280程度となった。

緩和策の場合,英国でのシミュレーション結果は,図2に示すようにPCでは僅かに死亡率のピークが下がり先に伸び,CIはもう少し大きくピークが下がり,CIとHQを組み合わせるとピークの高さは何も対策しない場合の半分くらいになり,CIとHQとSDOを組み合わせるとピーク死亡率が人口10万当たり100未満になり,7月初め頃になった。いずれの場合でも,ピーク時には重篤な患者を治療するためのベッド数のキャパを大きく超える。結果は図には載せていないが,マスギャザリングイベントの禁止はほとんど効果がなかった。そういうイベントでの接触時間は,家庭,学校,職場,バーやレストランといった他のコミュニティにおける接触時間に比べて,相対的に短いから(注:これも,感染確率が接触時間に比例するというモデルの仮定に依存していて,たとえ2時間でも連続して集団感染が起こりやすい条件を備えた場にいたら感染確率が飛躍的に上がる,という可能性をまったく無視している点が,この研究の欠点であり限界)。

表3は,英国での3ヶ月の緩和策の効果を予測したもので,R0が2.4の場合と2.2の場合で,累積重症者が何例になったときに政策発動するのか4段階で,どれくらいピーク時必要病床数と総死亡数を減らせるのかを示しているが,PCだけでは死亡数削減効果はほとんどないのが目立つ(注:こんなに学校での感染を重く見たモデルでも,学校閉鎖の効果がほとんど出ないのは注目すべきである。安倍首相が打ち出した全国一斉休校がどれほど馬鹿げた愚策であるかわかるだろう)。総死亡数を半減させるには,CIとHQとSDOの組み合わせが必要となっている。

英国での抑え込み策の結果は図3に示されていて,2020年3月末から5ヶ月介入した場合,CIとHQとSDの組み合わせで(6月から9月にもわずかに病床数を超えてしまうが)ピークを12月に先送りでき,ピークにおける必要集中治療病床数も人口10万当たり120程度に抑えられるが,SCとCIとSDの組み合わせでは,同じく12月まで先送りできるが,子供や学生に免疫がつかないため,ピークにおける必要集中治療病床数は人口10万当たり300近くなる。

英国の抑え込み策の発動をSCとSDについて順応的にして(他の策はずっと発動し続ける),ICU症例100をオン,50をオフのトリガーにした場合,図4に示すように,5月の最初のピークのみ週1200程度のICU症例が出るが,以後は3ヶ月おきくらいに週400以下の小さなピークが来るがICU症例の爆発的増加を抑えられることが示されている。オンのトリガーをいくつにするかは結果に影響する(表5に示す)が,オフのトリガーはあまり影響なかった。以上の結果から,医療崩壊を起こさないためには複数の抑え込み戦略の順応的適用が必要であることが示唆された,というのがこの論文の主旨である。中国のように社会全体で徹底的にSDをやればRを1未満にできて抑え込めることはわかっているが,その場合,感染しないままに残る人が多いためリバウンドの可能性があるので,最近抑え込み策を緩めた中国での流行状況がどうなるかをモニターし,来週以降どうなるかを見なくてはいけない,という主旨のことも書かれていて,そこはその通りと思った。PCは緩和策より抑え込み策で使う方が有効だが,PCだけでは緩和にも不十分,とも書かれている(注:定性的には当たり前だし,この研究は伝播モデルがインフルエンザと同じだから,抑え込みで有効かどうかについても信頼性は疑問。ただ,季節性インフルエンザでは免疫レベルが高い大人よりも,免疫レベルが低い子供が伝播の主役となることと対照的,と書かれている点は注目してほしい)。多くの国では長期間の抑え込み策は実現可能性が高い政策ではないので,3ヶ月程度の緩和策を順応的に適用していく方が良い,と提言している。

それなりによく考えられた研究だし,英国政府がこれを参考にして長期緩和策を打ち出したのは合理的政策決定だとは思うが,日本はクラスター対策によってR<1にできる可能性を追求しているところなので,ほとんど参考にならない。

あの大富豪Elon MuskがtweetでクロロキンがCOVID-19に有望という,ぼくも一昨日触れたBroker TR et al. "An Effective Treatment for Coronavirus (COVID-19)"(2020年3月13日)に触れていた。Brisbaneの医師がオーストラリアで大規模な治験を計画していて資金を求めているから(7newsの記事The Chronicleの記事),出してあげればいいのではないか。

KaggleでCOVID-19 Open Research Dataset Challenge (CORD-19): An AI challenge with AI2, CZI, MSR, Georgetown, NIH & The White Houseという試み。29000のCOVID-19またはSARS-CoV-2の学術文献(うち13000はフルテキスト)をオープンな研究データセットとして使えるようにした(CORD-19。2 GBあるがリンク先からダウンロードできる)ので,AIを使ってテキストマイニングやデータマイニングをするツールの開発を募る,というもの。

Scienceに載っていた原著論文Li R et al. "Substantial undocumented infection facilitates the rapid dissemination of novel coronavirus (SARS-CoV2)"(2020年3月16日掲載)は,中国国内の感染データ,移動データを使って,1月23日に渡航制限がなされるより前の全ての感染の86%(95%CI: 82-90%)は報告されていないと推定し,未報告例の一人当たり感染確率は報告された感染の55%で,数が多いので,報告された感染者の79%の感染源は未報告例だったと推定している。SEIモデルでIに報告された事例と未報告事例の2つのコンパートメントを想定しているが,R0の過分散を考えていないモデルなので現実的に意味があるのかは判断保留。

不顕性感染者の比について,西浦さんたちもIJIDにLetter to the Editor(にしては長い),Nishiura H et al. "Estimation of the asymptomatic ratio of novel coronavirus infections (COVID-19)."(2020年3月14日掲載)を発表していた。

拒否事例数がわかった(2020年3月18日 - 当該鐵人三國誌

ふとテレビをつけたら喋っていた西村博之さんの感覚が当然だと思う。今夏オリンピックなどできるわけがない(何度も書いている通り)。後藤医師,かなりいろいろな点で正しいことを言うコメンテータだと思うが,この点だけは忖度するんだな。オリンピックにまつわる闇の深さがうかがわれる。

高山先生が1週間,再び厚労省詰めになるとFBに書かれていた。沖縄はとりあえず新規感染者が出ていないから? 厚労省は今度こそ下働きではなく,専門家会議レベルで高山先生の見識と判断を生かして欲しい。

このtweetから始まるスレッドは,Nextrainに載っているゲノム疫学の成果の新しい知見を紹介している。もう何十年も前に日沼さんたちがATLVで始めた研究に端を発した(日沼頼夫『新ウイルス物語』中公新書参照……って絶版なのか),ウイルスの分子系統樹による拡散経路の推定という手法が,リアルタイムで使われるようになったということだ。もちろんATLVとSARS-CoV-2では伝播様式も変異のしやすさも違うので,推定される系統樹がもつ意味も違うが。

Lancetに載っていたPung R et al. "Investigation of three clusters of COVID-19 in Singapore: implications for surveillance and response measures"(2020年3月16日掲載)は,シンガポールの3つのクラスター調査からの,サーベイランスと対策方法への示唆,というタイトル。とくに目新しくは感じないが,日本のクラスターのデータ(ただ,厚労省が公開しているクラスターマップが3月17日までの時点で報告されているものをすべて含んでいると考えると,クラスター対策班がプレプリントサーバにアップロードしている論文では東京4つ,石川もあったはずなのに,東京が屋形船しか載っていないのが解せないが……地図が不正確なのだろう,たぶん)と比較してみると良いかも。

発症間隔が4-5日だとして,北海道のCOVID-19感染動向の陽性患者数のグラフの日別を見ると,2月22日と2月27日,3月7日と3月12日にピークがあるように見えるのは一見不思議だが,これは確定診断がついた日ベースなので,せめて発症日ベースでないと流行状況がわからないな(潜伏期間が2週間あるとして,12日以降の発症が減っていれば,ある程度効果があったと考えられる)。道庁のサイトには発症日の情報もあるが,一覧になっていないので,すぐには流行曲線が描けない。クラスター対策の効果があったかどうか,明日には専門家会議から何らかの発表があるはずなので,待てば良いのだろうが。

Dowd JB et al. "Demographic science aids in understanding the spread and fatality rates of COVID-19 "(2020年3月14日掲載)は,プレプリントサーバらしいが,人口の年齢構造が異なる複数の国で予測される死亡数を比較することでCOVID-19がもたらすインパクトの国際比較をしようという論文。

以前から医師会が集計してくれたら,と何度か書いていた,医師が検査を依頼しても拒否された事例数が集計されたというNHKのニュース。20日間で290件とのこと。これをゼロにするのを検査体制の整備目標とすべきと思うし,290人の治療方針を立てる根拠が得られなかったと考えたら,医療システムとしては酷い話だが,感染者数推定を大きく歪めるほどの拒否数ではない(ちょうど同時期の検査数の正確な数字はわからないが,週1000件として,3000件程度は検査していると思われるので)。奥村さんのtweetに示されている新規発症者数の減少傾向は,クラスター発生予防のための3条件を満たす場所に行かないということまで含めた,クラスター対策の成果がある程度出たと見て良いのではないだろうか。インペリグループ第9報が示唆する通り,ワクチンか治療薬ができるまで,対策を緩めるわけにはいかないし,海外からの感染者の流入への対策が必要になるが。

年齢別無症状割合が知りたい(2020年3月19日 - 当該鐵人三國誌

年齢層別した不顕性感染者と発症する人の比が知りたいが,かなり大きなサンプルで血清疫学的調査をしないと難しいか。不顕性感染の人もかなり捕捉していると考えられる韓国のデータから推定したら良いのか? それって論文になっていないかなあ。

教員会議と教授会で4月からの講義日程について延期の必要はないことを強く主張したため(遠隔講義を進めることと合わせて),長い時間が掛かった。もちろん,クラスターが発生しやすい条件を避ける必要はあるので,生協食堂は使わせない方向しかなかろう。医学部では,そんなことより,実習(とくに病院実習等,クラスター発生条件を備えたところでの学外実習)をどうしたら良いかが大きな問題のはず。ライブハウスや屋形船やパブなどが,どうしたらクラスター発生条件を満たさない形で営業していけるのかという問題と同じで,当事者間で真面目に対策を考えないと。COVID-19対策が長期戦になることは,ほぼ確実なのだから。

何日か前に感染状況の把握ならば血清疫学を,と書いたが,Amanat F et al. "A serological assay to detect SARS-CoV-2 seroconversion in humans"(2020年3月18日)がプレプリントサーバに載っていた。血清抗体検出のためのELISA開発。発症後3日から検出でき,抗体陽性になるという。USA,フィンランド,オーストリアなどの研究者の共著。既にイムノクロマトを使った市販RDTキットもあるが,それなりに高価なので大きなサンプルには使いにくかった。仮に信頼性が十分あることが確認できて,これが安く広く使えるようになれば,血清疫学研究で市中感染頻度を推定できるようになるかも。たぶん同じ目的のELISAキット開発を長崎大学熱研グループも目指しているが,これで十分なら,独自開発に拘るよりも世界で共有させて貰う方が良いと思う。

日本感染症学会が会員に呼びかけた,医療機関におけるクラスター情報提供のお願い(2020年3月16日)。押谷先生からの依頼とのこと。

大阪と兵庫の間の移動制限は,クラスター対策班から出た話なのか,政治家か官僚の思いつきなのか,専門家会議の誰かから出た話なのかが不明だが,もし西浦さんのこのtweetと関係あるなら,数理モデルの解析結果による根拠があるはず。それにしても大阪府知事や大阪市長の発表だと,封鎖したいのかクラスターの連鎖を止めたいのかがわからないのだが。前者はこれまでのスタンスからしてないはずだし(大阪と兵庫で発表の数倍以上の集団感染が同時に起こっているなら別だが),後者なら,黙って目的地まで行き,クラスターが発生しやすい3条件に当てはまらない用事を済ませ,また黙って帰ってくる,例えば通勤や通学は問題ないはず(ただ,明日から三連休なので,通勤や通学をする人は少数だろうが)。とりあえず専門家会議の発表待ちだな。

専門家会議の3月19日状況分析・提言(2020年3月20日 - 当該鐵人三國誌

深夜,途中からだがネット中継で専門家会議の記者会見を見ていたら(リリース「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(3月19日)」本文;数日前に専門家会議から厚労省に出されていた輸入症例の増加が見込まれることから検疫体制を強化して欲しいという要望),大阪と兵庫への移動制限の件,専門家会議は知らないということだった。その後,大阪府知事から出てきた話では,大阪と兵庫でR>1になっていて,リンクが追えない例もあり,放っておくと1週間で4倍増するという数値予測を貰ったということだったので,理論疫学的な根拠があることがわかった。ということは,クラスター対策班の誰かが計算した結果を見て大阪が決断したという経緯なのだろう(兵庫県知事は何も聞いていないと言っていたことから考えると,何か正式に提案する予定があったとしても,それがされる前に先走ったということではないかと思われる)。会見で西浦さんが,北海道の場合も,知事の緊急事態宣言における外出自粛要請から,後に解析結果に基づいたクラスターが発生しやすい3条件が揃う場所を避けて欲しいという詳しい説明をしに行って理解して貰ったという話をしていたので,たぶんそれと同じ感じなのだろう(最初から正確な条件を知事から発表して貰うわけにはいかなかったのか,という記者からの質問に対する返答としてこの経緯を説明していたので,ケースバイケースになるということなのだろう)。あまり憶測を書いても良くないと思うが,結果的に,前回の週末前の北海道の外出自粛要請によって,クラスターの連鎖を防ぐことができたのと同様,今回も大阪と兵庫で大雑把に「3連休中の往来自粛要請」をすることで,市中感染者からの見えない感染がつながって同時多発的な感染者増加が起こること(これはたぶん,スーパースプレッディングイベントによるクラスター発生とは異なる。2日か3日ごとに,ある程度広い範囲で感染者が倍増していくような状況「オーバーシュート」が起こる構成要素の一つと考えられる。もしかすると,それが起こる条件がまだ良くわかっていないのかもしれない)が防げれば,それで良いということかもしれない。

発症間隔が5日程度なのに,2日か3日ごとに倍増という状況が意味するところは,複数の感染ネットワークが同時多発しているということだ。おそらく,3条件によるクラスター発生,マスギャザリングによるメガクラスター発生,リンクが追えない市中感染者からのR>1な感染の同時多発という3つのどれか,あるいは複数の組み合わせによって,感染者数の爆発的増加が制御不能になって医療的対処能力の上限を超えてしまった状態を「オーバーシュート」と呼ぶことにしたのだと思う。感染症疫学で確立した定義がある用語というわけではない(追記:Sakino Takahashiさんからの指摘からのスレッドで,保全生態学での個体数増加が土地の人口支持力を超える状況,もう少し遡るとマルサスが人口増加が資源増加を上回ることを指して使っていたらしいことに気づき,さらに,川端君がDiekmann and Heesterbeekの理論疫学のテキストでも使われていると指摘してくれた。うーん,この言葉に対してinsensitive過ぎたのかもしれないが,記憶になかった。ただ,Diekmann and Heesterbeekを確認したところ,人口規模とアウトブレイク後に残っている感受性の人の割合(感染しなかった人の割合)の関係式で,人口規模が大きいほどR0が大きくなり,この割合が小さくなることが"overshoot phenomenon"である、と書かれていて、若干意味が違いそうだった……適切な用語設定は難しい)。

専門家会議の分析・提言は,リンクした本文をちゃんと読めば良いと思うが,ざっくりまとめると,現状何とかもちこたえていること,北海道でのクラスター対策に一定の成果があったこと,オーバーシュートを防ぐことの重要性,地域ごとの感染状況(Rtの値,新規発生者数の変化傾向,リンクの追えない感染者数の変化傾向により総合的に判断する)に応じた対応をすべきこと,クラスター発生防止のための一人一人の協力の必要性(どこまでの行動変容や社会的規制なら持続可能なのか一緒に考えて欲しいと,西浦さんは何度も言われていたが,その点こそマスメディアがやるべき役割だろう)が要点だったと思う。オーバーシュートを除けば,概ね思っていた通りだった。オーバーシュートの危険が強調されていたのは,武漢だけでなく,欧米でもオーバーシュートが起こったのが,それだけ衝撃的だったということだろう。あと,マスギャザリングイベントについては専門家の間でも意見が割れているそうだ。現在の世界の状況では,国際的に人が集まるイベントをやったらオーバーシュートの引き金になる可能性は非常に高いので,オリンピックは止めろと言いたいに違いないのだが,それを明言しなかった(専門家会議では議題に出ていないとのこと)のは,相当強い圧力が掛かってでもいるのか?

それにしても,西浦さんが相当お疲れのようで心配になった(逆に,ああいう場面での尾身先生の強さには恐れ入った)。クラスター対策班や保健所,地方衛生研,臨床医療従事者といった最前線の方々のsustainabilityも考えていかないと(専門家会議の分析・提言にも滲み出ていたが)。それは医療行政の仕事で,官僚の皆さんはそういう面をバックアップして欲しいところだが,急に充実させられるものでもないような気がするし,難しいところか。英国でやっているように,定年退職後の方を緊急再雇用するとかいったことは,日本はやっていないのだろうか。

尾辻かな子議員のtweetで,第9回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議から,大阪・兵庫にクラスター対策班が西浦さんの名前で提案した資料(Word形式)がリンクされていることを知った。とすると,やはり西浦さん本人からの提案だったのか(追記:このtweetによると,西浦さんの提案先はクラスター対策班であり,大阪・兵庫への提案という書類ではないらしい)。大阪,兵庫内外の3週間の往来自粛要請は,クラスターの連鎖を分断するための第1段階としての提案と書かれていたのは,少し意外だった(しかし大阪・兵庫間の往来自粛要請ではないし,3日間でもなかったので,そこは大阪府知事の勇み足なのではなかろうか)。クラスターではない同時多発的な市中発生からの感染を抑制するためではなかったようだ。深夜に書いたことは深読みしすぎだったかもしれない。

さてしかし,大阪と兵庫がこの状況だと,ある程度のsocial distancingはしなくてはなるまいな。昨日の教員会議で主張した通り,4月20日になっても状況が好転していると期待できる根拠はないので,むしろ講義日程は予定通りにしておいて遠隔講義を進める方が良いと思うし,休校するなら全体的なsocial distancingの一環としてやらないと意味がないが。

Scienceの記事(2020年3月21日 - 当該鐵人三國誌

感染状況を把握するには血清疫学が有効なはずと何度か書いたが,Scienceにも似たような趣旨の記事が出た。

やはり首相の全国一斉休校要請は悪影響の方が大きかったと思う。科学的根拠がないのにそれによって危機感を高めた人たちは,「休校要請を延長しない」と政治家から発表されるだけで危機感を失ってしまうわけだ。クラスターが発生しやすい3条件が揃うのを避けるとか,手洗いなどの個人防護とか,風邪様症状があったら外出しないといった行動は,COVID-19が世界中で終息するまでずっと続けなくてはいけないのに,それまで止めてしまう人が出たり,止めて良いという雰囲気が広まったりするのはまずい。専門家会議の発表は,何とかもちこたえているものの全然安心できる状況ではなく,いつどこで「オーバーシュート」が起こっても不思議はないし,現場には人手が足りないし,持続可能な対処法を一緒に考えて欲しい,という内容だったのに。

日曜夜に放送されたNHKスペシャル『“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~』は会話でも飛んで空中を漂い続けるマイクロ飛沫が換気で消える可視化が良かった。専門家会議の押谷先生が直接語られたのも良かったと思う。番組最後の方の押谷先生の言葉で一瞬あれっと思ったところがあったが,何だったか忘れてしまった(20200325追記:思い出したので書いておくと,インフルエンザと違ってクラスターが発生しやすい条件が存在し,それが3つの密が重なる場であるのならば,マイクロ飛沫による感染がクラスターにおける感染の主役ではないかと自然に思ってしまうので,押谷先生が,COVID-19でもやはり主に接触感染と飛沫感染で伝播し,マイクロ飛沫の寄与はメインでないと思うというような主旨の発言をされたのに違和感があった)。

トランプ大統領がクロロキンへの期待を表明したことで,自己治療を試みたアリゾナ州の男性が急変し死亡したという報道が流れている。水槽のタンクの掃除用のクロロキンを飲んだという情報もあり,グレードが医薬品でなかったせいかもしれない。しかし,米国ではRA治療のため使われてきたのが不足して困っているという情報もあり,トランプ発言の影響は大きかったようだ。多くの国で臨床試験は試みられているし,中国発のいくつかの論文では暫定的に投与量なども示されているし,抗マラリア薬としてマラリア流行国では普通に薬局で誰でも買えることから考えても比較的安全で,まだ有望な治療薬候補の1つであるには違いないが,軽い気持ちで自己治療に使ってはいけない。

大学の新学期講義についての文科省からの通知が出た。(2)として,遠隔講義でレポート評価でも単位認定できると明記されていた。あとは学生がネット接続するための料金と(リモートワークなども推奨しているわけだから,いっそ通信料は全部公費助成することまで考えても良いかもしれない),Zoomや類似サービス,あるいは大学独自でホストした場合,本格的に全ての大学で遠隔講義をした場合,トラフィックが多くなっても耐えられるようなインフラ強化が必要かも。

厚労省がテレワーク総合ポータルサイトを開設していた。水際対策の抜本的強化に対するQ & Aというページもできていた。トビタテとか言って海外留学を勧めていたのに,不可抗力で危険地域指定された学生に対して各種奨学金を打ち切って帰国させるというハシゴの外し方は酷いし(木村幹先生がtweetしているように「棄民政策」だと思う),帰国させておいて,空港から自宅に帰るまで公共交通機関を使うなというのは無理があると思う。換気を良くして黙っていて何にも触らないことを徹底するという条件で,入管でマスクでも渡した上で,電車やバスを使うことは許可した方が良いのではないか。そうでなかったら,空港近くに2週間待機できる宿泊施設を作ってあげるかだな。社会防衛としてやることだから公費負担は当然。

3つのシナリオ(2020年3月25日 - 当該鐵人三國誌

オリンピック・パラリンピックを来夏へ延期という話だが,日本も含めて各国何度かのロックダウンを伴うパンデミックになった場合,終息まで1年半はかかるだろうから無理だし,もっと小規模で抑え込めた場合は感受性の人が多く残っているはずだから,世界規模のマスギャザリングイベントをやったら再流行すると考えられるのでやらない方が良いし,等々考えると,最短でも2年後の秋だろう(熱中症のリスクを考えたら日本の夏にオリンピックをするのは元々反対だし,東京みたいな環境が悪いところに招致するのが元々間違っているというのがぼくの持論だが,それとは関係なく普通に考えても)。それでまた2024年にパリでやるのも無理があるので,もはやtokyo2020は中止した方が良いと思う。

岸田直樹先生がtweetで薦めていたこの動画,たしかにわかりやすい。重症化メカニズムで免疫系が非感染細胞まで攻撃するとされていたが,そこは確立しているのか少し気になった。あと,social distancingの例として,「ハグしない」,「握手しない」という行動が示されていたが,日本では元々あまりされない行動なので(学生の頃読んだエドワード・ホールの『隠れた次元』を思い出す),もしかすると日本でのRが小さかったことと関連あるかも。実は3つの密を避けることもsocial distancingの1つなのだが(諸外国はまだ3つの密という形ではフォーカスしていないが),もしかすると,それって世の中に知られていないのか?

クラスター対策という戦略に対して社会学系? の方々が反発しているのは何故なのだろう。一般の人々がどの程度のことなら持続可能か知りたかったらまっとうな社会調査をしたら良いなどということは,リスコミのプロが入っている専門家会議ならば百も承知の上で,時間がないからネットメディアで問いかける形でのアクションをしたのだろう。それをわかった上でなお反発するのだとしたら,何故なのだろう。政府にいろいろ提言しても,それを受け止めた正しいアクションを取らず,金も出さず,スタッフ強化も図らず(日本の数倍の規模の専門家集団からの提言に全面的に依拠したということを明示しながら政策を打ち出す英国政府とは対照的),政権の支持率を上げることだけ考えた受けの良い政策ばかり政府がしてしまうのを,専門家会議の責任だと言って攻撃するのはフェアじゃないと思う。いまの専門家会議とクラスター対策班が止めてしまったら,状況がさらに悪化するのは目に見えているので,政府が提言を受け止めてくれないからと言って,じゃあ止めますというのは,まっとうな責任感があるプロならばできないだろう。自分も含めて外野がやるべきことは,専門家会議への攻撃ではなくて,首相近辺に対して,勝手なことをせず,専門家会議に余計な圧力を掛けず(たぶんオリンピックについては議論するなと言われているのだと思う。憶測だが),もっと専門家会議の提言を尊重するように言うことではないのか。

シンガポールのように完全にリンクを追い続けて隔離と対処療法で救命という戦略を徹底することは,COVID-19が無症状や軽症でも感染力をもつという特性を考えたら,他の国では現実的でないと思う。国土が広く人口規模が大きいほど人の行動はコントロールしにくいし,人の記憶は完全ではないし,法律その他の行政的施策に従わない人は少なくない。そう考えると,今後のCOVID-19の推移には,大雑把に言って,3つのシナリオがありうると思う。

1つ目はとくに対処せず放っておくこと。おそらく低所得国の中には,水道の供給もなく,CTも人工呼吸器もECMOもなく,ほとんど対処できない国もある。西アフリカでエボラウイルス感染症がアウトブレイクしたときに対処が難しい理由と同様に,文化的理由でsocial distancingすら困難な国もある。そういう国や地域では,人口の40-80%が感染し(専門家会議やインペリグループ第9報が80%を採用しているのは,単純なモデルで感受性のまま残る割合が20%という推定だと思われるが,2月15日の時点で,ハーバードSPHのLipsitch教授は,人のmixtureがそう単純ではないので40-70%と推定している),そのうち0.3%が亡くなるので,控えめにみても,1000人に1人が今年COVID-19で亡くなることになる。重症者への対処療法が十分にできないので,悪くするとその10倍くらい亡くなるかもしれない。ある程度人口規模が大きければ,流行曲線がゼロ近くに収束しても完全にゼロにはならず,エンデミックな病となるだろう。十分に医療的対処できても,日本の人口で考えたら約12万人が亡くなることになるので,日本を含む高所得国ではこの戦略は取れない。

2つ目は医療的対処能力の上限を超えるような爆発的感染者急増である「オーバーシュート」が起こりそうになったら都市機能を停止するロックダウンを1~3ヶ月発動し,新規感染者がある程度減ったら都市機能を再開する,ということを,ワクチンか治療薬が開発されるまで数回繰り返すこと。1つ目の戦略に比べると,未感染のまま生き残る人が多くなるため,ワクチンか治療薬が開発されるまで1年半から2年は続けなくてはいけない。武漢でロックダウンの有効性が示されたので,フランスや米国のいくつかの州など,現状この戦略をとっている国はいくつかある。しかし高所得国の都市部は,食糧生産に携わっていない人が多いので,地方から食糧が運び込まれないと飢えてしまう。ロックダウン中の所得補償もされないと,やはり飢えてしまう。ライフラインの維持に関わる職種の人は活動停止できないし(その人たちが職場に移動するための交通手段はどうするのかも考えなくてはいけない),その子供や高齢の親などの世話を誰がするのかということも問題になる。そうした形でかなりの社会的負荷を強いるロックダウンを,数回繰り返すことができるのかというと,たぶん無理だと思う。しかも,止めた途端に第1のシナリオと同じく,十分な割合の人が免疫を獲得するまでの蔓延が起こることになるので,医療的対処を必要とする人のピークは,第1のシナリオより高くなる可能性もある(インペリグループ第9報の1回抑え込み戦略のシミュレーション結果が示している)。仮に3週間なら耐えられても,3ヶ月耐えられるだろうか。そこまで考える必要がある(もっと極端な形として,ほぼ完全に鎖国してしまい,5ヶ月程度のロックダウンにより国内のCOVID-19を完全に終息させ,その後も一人でも感染者がいる可能性がある国との往来は完全に絶つということも,思考実験としては可能だが,実際問題として無理だろう)。

このどちらも受け入れがたいと考え,手探りながらも第3の戦略としてのクラスター対策が何とか奏功しているように見えるのが,日本で専門家会議とクラスター対策班が進めてきた現状である。クラスター対策に加えて,対人距離が元々遠く,蛇口を捻れば安価で清潔な水が使え,子供でも食事の前には手を洗いましょうという衛生教育ができていた日本ではR0が低めだったこともあって,今のところ持ちこたえることができている。これもワクチンか治療薬が開発されるまで,1年半から2年は続けなくてはいけない。止めたら蔓延して第1のシナリオと同じになってしまう。今後感染した帰国者・入国者が増えると,クラスター対策だけでは対処しきれなくなるので,どこまで持続可能な対処を強化できるか皆に考えて欲しい,というのが,先日の西浦さんの訴えかけであった。ぼくは第3の戦略でできるだけ行ってみて(クラスター対策だけではR<1にするのに不十分ならば,さらなる対人接触を減らす戦略を追加することまで含めてクラスター対策班が視野に入れていることが,西浦さんの訴えかけでわかった),それでも「オーバーシュート」が起こってしまったら,少なくとも一時的には第2の戦略に切り替えるしかないと思っているが,これら3つの戦略のどれを取るのか自体,広く社会に問わねばならない,という立場もありうるのか?

このtweetから始まるマンガ解説は素晴らしい。専門家会議やクラスター対策班が何をやってきたのかが一目でわかる。

NHKの兵庫ニュースで岩田先生がオリンピックは延期が唯一の正しい選択肢とコメントしているが,朝書いたように,1年延期してもできる保証はないので,中止の方が正しい選択肢だと思う。もっとも,コメントの中ではこの夏は無理という話しかしていなかったので,中止以外でという制約付きの質問への答えを切り取られたのかもしれないが。

1年生は4月20日講義開始になったか。4月20日になっても状況が改善している保証はないから,大学を安全な場にするような対処をした上で予定通り4月6日開講すべきと主張したのだが,全学には届かなかったか。ロックダウンしているのでない限り,自宅生は親から感染する可能性があるし,通学しない分,公共交通機関内で感染するリスクは多少下がるかもしれないが,少しでも症状がある人は休むことと,車内では喋らないことを徹底すれば,そのリスクは元々低いし,大学だけ閉じても感染リスクはほとんど変わらないはずだが。医学部保健学科2年生以上(ガイダンスは4/2)と保健学研究科(ガイダンスは4/3)は4月6日開講。

新しい論文いくつか(2020年3月26日 - 当該鐵人三國誌

インペリグループから2つ(第10報と第11報),新しい論文が出ていた。Atchison C et al. "Public Response to UK Government Recommendations on COVID-19: Population Survey, 17-18 March 2020"(2020年3月20日掲載)とAinslie KEC et al. "Evidence of initial success for China exiting COVID-19 social distancing policy after achieving containment"(2020年3月24日掲載)。

前者は,2020年3月16日に英国政府がアナウンスした新しい対策(不可欠でない他人との接触を止める,すべての不要な旅行を止める,可能なら在宅勤務する,パブ,クラブ,劇場などの社交場を避ける,もし家族に発熱や持続する咳を新規発症した人が出たら14日間自宅隔離することを含む)の公衆の反応を見るため,インペリのPERC(患者経験研究センター)によって行われたYouGov調査(80万人以上が登録しているパネルからランダムサンプルしてメールで協力依頼し,2020年3月17-18日に2108人の英国成人対象にオンラインインタビューされた)の結果である。77%が英国でのCOVID-19のアウトブレイクについて心配していて,陽性になっていない人の48%が将来罹ると思っていて,93%は少なくとも1つの個人防御行動をしていて(83%が手洗いをこれまでより頻繁にやっている等),88%の人は専門家に言われたら7日間は自己隔離できるしやる気があるけれども,在宅勤務が可能なのは44%(専門職等は60%だが非熟練労働者等は19%)しかおらず,政府のガイダンスがあれば行動を変えられるという人は71%いたが18-24歳に限ると53%しかおらず,屋外,就労,買い物,学校への外出を避けることなど,社会的に距離を置くことよりも,手洗い,症状のある人との接触を避ける,咳エチケットを,COVID-19の拡大防止に「非常に有効」な方法として認識している人が多かったとのこと。こういう社会調査パネルは日本でもたくさんあるはずだから,専門家会議やクラスター対策班の活動と必ずしもリンクしなくて良いので,どんどんやったら良いと思う(というか,既にやっていても不思議はないのだが,報告は見つからない)。

後者は,中国がCOVID-19から脱出するための,封じ込め達成後の社会的に距離を置く政策が初期段階では成功している証拠,というタイトル。中国は,1月23日に武漢,次いで他の省でも厳密な社会的隔離政策を導入することによって,2月初期には毎日2000-4000人の新規確定患者が報告されていたアウトブレイクのピークを過ぎ,封じ込めに成功した。それは同時に経済に大きな影響を与えた。再流行させずに経済活動を再開できるのかわかっていないので,この研究では,報告された患者からの感染力(RtとしてRのEpiEstimパッケージで推定)を経済活動の代理変数として毎日の都市内移動データ(GPSトラッキングで捕捉されたBaiduの移動統計に基づく,Exante Dataから提供されたもの)と比べている。当初,流行に最も強く影響された5つの省と北京で都市内移動とRtは非常に強く相関していたが,都市内移動が増えるにつれてはっきりしなくなった。香港での同様な分析では,大きなアウトブレイクを避けつつ中程度の局所的な活動を維持できることが示された。将来再流行しないとはいえないが,非常に強力な社会的隔離政策によって封じ込めを達成した後,ある程度その厳しい隔離政策から脱出できたことを意味する。中国がパンデミックの最も進んだステージにいるので,中国での政策は,一度封じ込めを達成できた他国での意思決定にも情報を与える,としている(2月15日頃に概ね封じ込めに成功してから,中国では1ヶ月掛けて徐々に都市内移動が増えていっても,今のところ再流行はしていない,ということで,朗報ではあるが,外国からの感染者の流入があったら,結果は違ってくるかもしれないと思う)。

明日の夜21:00から,TWEEDEESがスタジオアコースティックライブを生配信「おもろいもんは色々あるで」。無料生配信とは太っ腹だが,「この配信はアーティスト支援サービス・bitfanによる企画で、新型コロナウイルスの影響で自粛が続くライブパフォーマンスを今後どういった形で見せていくかという課題へのトライアルとして実施される」とのことなので,将来の有料配信の可能性を探る意味もあるのだろう。凄く良い試みと思う。ぼくは会場でのライブの1/3くらいの課金なら払う。安くする分3倍の視聴者が集まれば,新しいビジネスモデルとして成り立つはず。課金システムが難しいなら,クラウドファンディングで資金を募っても良いだろうし,むしろ政府が金を出しても良いのではないか(どこまでサポートするか線引きが難しいか?)。「プリン賛歌」アコースティックバージョンとかやって欲しいなあ。

日本オセアニア学会の学会誌People and Culture in Oceaniaの最新号が届いた。最初の論文(Furusawa and Siburian)は,リモートセンシングの時系列データに最尤推定でモデルを当てはめて,植生の変化を伝統的な暦が予測しているかを議論するというアクロバティックなもの。福井さんの論文は,クルーズ船観光ビジネスがヴァヌアツのアネイチュム島の社会変化に与えた影響を論じていると思われるが,ご本人がtweetしていたニュースによると,クルーズ船がCOVID-19をもたらしたらしく,ロックダウンされていて,ビジネス面での影響どころではない大きな影響を受けている。古澤さんのロヴィアナ研究の単著について,Brian Allenによる書評も載っているのだが,べた褒めだな。何だか嬉しい。

上海でヒドロキシクロロキン+従来の治療群と従来の治療のみの群に15例ずつランダムに割り付けた研究の結果,2群間に有意差なしという論文が,Forbesで紹介されている

JCMに載っていたKuniya T "Prediction of the Epidemic Peak of Coronavirus Disease in Japan, 2020"(2020年3月13日)は,日本におけるCOVID-19の流行のピーク予測というタイトルで,SEIRモデルだがR0=2.6(95%CI 2.4-2.8)として初夏の時期にピークが来るとしている。感染者検出率は現実的にありうる値の範囲ではほとんどR0の推定に影響しないことも示されている。介入しない場合,10%検出できるとした場合,R0が2.6だと新規感染者報告数のピークは8月10日となり,1%しか検出できない場合,新規感染者報告数のピークは7月12日となるが,感染率β=0.26(R0=2.6に対応)を3月1日から介入実施期間中75%に下げられるとして,検出率1%の場合,1ヶ月介入だとピークは7月23日に遅れ,6ヶ月介入だと9月14日に遅れ,総感染者数は効果的に減少する,という結果が示されている。

相変わらずスーパーやコンビニやドラッグストアの店頭にマスクが出回らないままだ。2ヶ月以上も店頭から消えたままの商品が21世紀の日本で出現するとは想像しなかった。台湾みたいに購入制限をすれば流通が正常化しそうな気もするが,どうなんだろう。この辺りのことはマーケティングや流通の素人にはさっぱりわからない。

東北大の田中重人さんのtweetによると情報出して欲しいという話だが,もしかすると逐次公表するチャンネルがないだけかもしれない,とふと思った。ぼくも随分メディアからの問い合わせにはメールで答えたが,記事になったのは1割もない。自分は個人で契約しているバーチャルサーバに自力でメモを作ってアップロードし続けるという手段があるが,厚労省サイトに載せる情報の決定権が専門家会議やクラスター対策班になかったら,彼らがいろいろな形で情報を出しても,出口で取捨選択されてしまう可能性はある。リスコミがわかる広報担当を入れて専用ページを作ってそこに集約するとかしたら良いのだろうが,政府がそういう人材に声を掛けないのかもしれない。ネットやテレビでアクセス可能な情報や先日の記者会見を見ていても,敢えて隠すことはしていないと思った(明確に根拠を示すことはできないが)。

flurryさんがクラスター対策がまだ論文として公表されていないのに信用するのかという含みのtweetをされたので以下のように返事した。「プレプリントサーバの3月3日付けの論文を見つけてから,受理された論文を毎日のように探していますが,まだ出ていないようです。クラスター対策をした効果についてのシミュレーション結果を含む論文も,まだ見つけられずにいます。査読の壁が高いのかと思っています。」「(承前)ただ,http://minato.sip21c.org/2019-nCoV-im3r.html#SPECIALISTS20200319の第1段落に書いたように,仮にスーパースプレッディングイベントとは別のメカニズムによる「市中感染者からの見えない感染がつながって同時多発的な感染者増加が起こること」があっても,クラスター対策(追跡と発生予防)をすればその分Rは落ちるでしょう」「(承前)押谷先生は孤発例は見えないクラスターと想定されていましたが,そうでなくて,クラスター感染(たぶんマイクロ飛沫の停留が鍵?)とは別に接触感染・飛沫感染で同時多発的にRが0.5~2くらいの感染が増えるのが孤発例の増加だとしても(論文ありませんが)クラスター対策の効果は変わりません」「プレプリントサーバに載っているデータと,2月15日のhttps://hopkinsidd.github.io/nCoV-Sandbox/DispersionExploration.htmlでR0のoverdispersionは十分示されているので,クラスター感染の存在を疑う理由はありません。」

Sakino Takahashiさんのtweetに対して,昨日書いた3つのシナリオをリンクして,「ぼくは先進国の都市住民にとって,1~3ヶ月のロックダウンを何度も繰り返すことは耐えがたいと思います。いまのうちに,ライフラインを確保しながらの長期間のロックダウンがどうやったら可能なのか,精緻なシミュレーションをしておく必要があると思います。」「(承前)社会システム工学とか環境科学方面でLCAをやっていた人たちにはノウハウがあるのではないでしょうか。」とtweetしたが,考えなくてはいけない間接的な影響は山のようにあるだろうから,多方面の専門家の叡智を集めなくてはできないと思う。誰か始めていないだろうか? それこそGitHubとかでオープンなプロジェクトとして進めると効率良さそうな気がするが。

第二波対策(2020年3月27日 - 当該鐵人三國誌

この数日の東京のリンクが追えない感染者の急増(大阪と兵庫もか)は,憲法変えるのやだネット長野さんのこのtweetで知った横浜市立大学生命ナノシステム科学研究科佐藤彰洋特任教授による東京都の現状分析と,先日の専門家会議発表から考えると,欧米から高い感染力をもったウイルス(接触当たりの感染確率に比例する係数(この定式化ではαと表現されている)が高いことが意味するのは,例えば飛沫や何かに付着したときの生存時間が長いとか,感染するウイルス数が少なくても定着して増殖しやすいとか,単位時間当たりに排出するウイルス数が多いといった可能性だが,本当にそうなのかはわからない)に感染した人が大量に流入したことによる(SIRモデル上,未検出のIを増やすという操作を入れたら,αを10倍までしなくても当てはまる気がする。やってくれないだろうか?),と考える蓋然性がある。ここに書かれているモデルではR0の過分散は考えておらず(つまりクラスター感染は考えていない),コンパートメントも細かく分けていないので,ラフな推定だとは思うし,スペインとドイツでαが3前後と,1を超えるのは変な気がするが,仮にこの分析が正しいとしたら,3月10日頃までのクラスター対策は日本の感染状況を何とか制御してきたが(これまで書いてきたいろいろな考察から,それはたぶん正しいと思っている),それ以降はクラスター発生以外の(たぶんインフルエンザと同様にランダムにリンクされた飛沫感染や接触感染による)感染者増加が主になってしまったので,クラスター対策では新規感染者数を抑えられなくなったと考えられる。

こうなってくると,「オーバーシュート」発生を防ぐには,もうロックダウンしかないのかと思ってしまうが,まだやれることはある。欧米からの帰国者からの直接接触による感染が増えているならば,積極的疫学調査で濃厚接触者を検査してクラスター検出をしていたら,そこからの感染者を隔離するのに間に合わないので,おそらく今では有病割合も上がっているから,咳をしている人に近づいたことがあるとか,手を洗わずに口の近くにもっていったことがあるとか,会食の場に咳をしている人がいたという経験がある人全員……は無理だろうから,風邪様症状が出たら(個人的にはSpO2が95%を切ったら,とした方が良いと思うが)検査としても,ある程度の割合で陽性の人を捕捉できると思われる。軽症なら自己隔離しかないが,感染拡大防止には役立つ。もちろん,医師が鑑別診断の必要を認めた人の検査が優先順位トップで,次がクラスターからの積極的疫学調査で見つかる感染者に接触した人全員をクラスターの連鎖を抑えるために検査,というのも従来通りやった上でやらねばならないから,おそらく守秘義務とか個人情報保護とかに関する規定を緩めて,責任はすべて政府がとることにして(つまり検査者は免責する),大学や民間のBSL2+の設備がありリアルタイムRT-PCRができる施設の協力を得るか,あるいは,イムノクロマトかELISAで抗原検出(抗体ではなく)できるキットを開発して血液検査することが必要になるだろう。そうすれば,クラスターによらない感染を下げることができるから,新規感染者の増加を押しとどめられるかもしれない。それをやっている間に準備を整える必要がある(昨日書いたような様々な可能性を検討した上で,生きるための金や食糧は行政が責任をもって提供するから,ライフライン維持のための人員を除いて,外出と対面での会話を全面的に禁止します,と言えるようにする)。社会が混乱して亡くなる人がCOVID-19による死者を上回ってしまっては本末転倒であろう。ロックダウンするとしても,準備ができた後にするべきと思う。

ただ,新型コロナウイルス対策の「社会距離拡大戦略」が他の感染症も抑えていることが確認されるというGigazineの記事(2020年3月26日)に書かれている,social distancing導入後のインフルエンザ様症状を呈する患者数の減少とか,IDWR速報データのページからリンクされている,定点報告疾患の定点当たり報告数の過去10年間との比較のインフルエンザ,流行性耳下腺炎,ロタウイルスによる感染性胃腸炎が例年よりかなり少ないことを見ると,1月からの頻回な手洗いや濃厚接触を避ける行動によって,接触感染・飛沫感染する感染症のRが全般に低くなっていた可能性もある。例えば,東京から地方に帰省などして発症した人からの感染のRが1を超えていなければ(要確認。データないかなあ),欧米から帰国した感染者がもっていたウイルスのRが高くなったのではなく,見えないクラスターが多数存在するのでもなく,たんに帰国した感染者数が多くて,そこからのクラスター以外の感染(いわゆる濃厚接触による,飛沫感染や接触感染)が同時多発的に検出されるために,新規感染者数が急増しているだけかもしれない。もしそうならば,これまでやってきたことを着実に続けるのでも,「オーバーシュート」が防げる可能性は残っている。(注:この段,かなり願望混じりなので,あまり信用しないでください)

岸田直樹先生がこのtweetで紹介している動画を見ると,social distancingの効果が視覚的に良くわかる。ななきさとえさんがtweetしていたWashington Postの記事も良いビジュアライズだと思う。

遠隔も含めた講義の仕方のガイドラインを作る必要があるなあ。ざっと思いつくところでは,まず,ぼくのように独自サイトで配布しても良いのだが,BEEFという仕組みもあるし,全教員が講義資料はネット配布できるはずだ。講義室は前後2カ所は窓を開けて講義するとか,D201のような窓を開けられない部屋では前後のドアを開放する必要もあるだろう。唾が飛ぶことは避けねばならないので,教室内での私語は厳禁で,教員もマスクをした上でマイクを使って喋るべきだろう。講義室に学内LANは来ているので,Zoomなどで配信もし,遠隔で受講することを推奨することも必要だろう。資料をネット配布してあれば,配信は音声だけでもいけるのではないだろうか。音声だけなら,そんなにデータ転送量を食わないのではないか(月1000円くらいの低速データ転送専用定額SIMでもradikoプレミアムを聞くには支障ないし)。備品としてはアルコール消毒剤を適宜配置すること,水道がある場所(講義室も含めて)には石鹸とペーパータオルを置くことも必要だろう(入子先生のアイディア)。他は何があるだろう?

英国首相が自らの感染をtweetしている。

専門家会議からの情報発信のため,リスコミの専門家集団が協力することになったと,西浦さんがtweetしていた。やはりチャンネルがなかったのだな。

TWEEDEESのライブは素晴らしかった。こういう活動を有料配信化するのが可能性の一つか。しかし,大友良英さんのこのtweetは悲痛。ドイツと日本の閣僚の文化へのスタンスの違いが悲しい。長期的にはCOVID-19の感染を増強しないような営業形態・活動形態・建物の構造といったことを模索する必要があると思うが,少なくとも当座の具体的援助を政府がしないと生き延びられないのでは。

岸田直樹先生のN95マスクの再利用には蒸気消毒をというtweet

プレゼン資料作るか(2020年3月28-29日 - 当該鐵人三國誌

Lancet Infectious DiseasesのKoo JR et al. "Interventions to mitigate early spread of SARS-CoV-2 in Singapore: a modelling study"(2020年3月23日掲載)は,シンガポールでのSARS-CoV-2の早期の広がりを緩和するための介入についてのモデル研究論文。後で読む。

田島貴男配信ライブ,4月5日夜,1000円で3日間何度でも視聴できるという試み。買ってみよう。COVID-19影響下での持続可能な活動の仕方について,昨日のTWEEDEESもそうだが,多くのアーティストが試行錯誤する中で,いち早く有料配信に踏み出すのは勇気が要ると思う。元々ファンだし応援したい。

永崎さんのtweetで知ったが,オンライン学会向けZoomマニュアルの公開というブログ記事。簡易版,発表者向け,聴講者向けの3種類がダウンロードできる。オンライン講義にも参考になりそう。

route of infection別の二次感染者数分布の違いと,感染者移動数の分布を考えたシミュレーション,誰かやってくれないかなあ。

学生向けにプレゼン資料作るか。

忽那先生による都内の感染症指定医療機関で何が起こっているのか。臨床現場の苦境がわかる。

遠隔講義はZoomでやろうという動きが主流だが,ネックは,受講する学生側もデータ転送量が多いため,通信プランによっては早々に上限に達してしまう可能性があることや,無制限のプランは料金が高いことに加えて,全講義を全大学が遠隔化したらZoomのシステム負荷が耐えられるのかという点にあった。学習院の田崎さんの「ギガに優しく」受講できる「ラジオ講座」風遠隔講義案は,この問題を解決するための一案。確かにこれもありだな。ただ,前もって音声ファイルを作るのも大変だから,一度遠隔講義をしながら録音もしておいて,後でも聴けるようにしてあげると良いか。このtweetで提案されている方法も良いなあ。とくにアクティブ・ラーニング方式の科目には,この方が良いかも。Medical Anthropologyのdebateはこれをmodifyしてやってみるかな。

"When Coronavirus Emptied the Streets, Music Filled It"

SciAmの記事から,2つのクロロキン関係の論文がリンクされていた。Gautret P et al. "Hydroxychloroquine and azithromycin as a treatment of COVID-19: results of an open-label non-randomized clinical trial"(2020年3月20日)とDevaux CA et al. "New insights on the antiviral effects of chloroquine against coronavirus: what to expect for COVID-19?"(2020年3月12日)。後者は既読だったが,前者は初見。有効という結論だがRCTでないので,まだわからない。

Chen T et al. "Clinical characteristics of 113 deceased patients with coronavirus disease 2019: retrospective study"(2020年3月17日受理;2020年3月26日掲載)は,BMJに載った原著論文で,武漢の病院の死亡例113人と回復例161人のカルテを調べて行われた後向き症例対照研究だが,カイ二乗検定とフィッシャーの直接確率という2変量統計までしかやっていないのが勿体ない。ロジスティック回帰して欲しい。せめて層別解析。

SARS-CoV-2の起源について(2020年3月30日 - 当該鐵人三國誌

先日のNHKスペシャル,NHK Worldで放送される国際版は4月9日までweb視聴可能と教えていただいた。公共放送なのだから,COVID-19関連のNスペとクロ現プラスは期限を区切らず公開してくれたら良いのになあ。

メディア(とくに3月12日だったかの日経新聞)とかSNSで疫学批判言説を書いている人には,まず日本語テキストでいいから,せめて『ロスマンの疫学』とか『感染症疫学ハンドブック』くらい読んでからにして欲しいと言いたい(本当は『感染症の数理モデル』も読んで欲しいが)。

本来の意味とは違うのだが,感染を広げないための標語として「沈黙は金」はどうだろうか。これは字義通りなるべく喋らないということであって,文字による表現をするなと言っているわけではないので,深読みしないで欲しいが。

Fung S-Y et al. "A tug-of-war between severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 and host antiviral defence: lessons from other pathogenic viruses"(2020年3月14日掲載)というレビュー論文。後で読む。

2005年のScienceに載っていたLi W et al. "Bats Are Natural Reservoirs of SARS-Like Coronaviruses"や,2015年のTrends in Microbiologyに載っていたLu G et al. "Bat-to-human: spike features determining ‘host jump’ of coronaviruses SARS-CoV, MERS-CoV, and beyond"によると,SARS-CoVも自然宿主はコウモリだったと思われる。Nature MedicineのAndersen KG et al. "The proximal origin of SARS-CoV-2"(2020年3月17日掲載)というCorrespondenceは,ヒトが操作して作られたというデマを強く否定しているが,効率よくヒト=ヒト感染を起こすようになった変異が,動物の中を感染しているうちに起こったのか,それともヒトに感染してから起こったのかを検討している(結論は出ていないが)。確かに,もし前者なら,いったんヒト社会から根絶しても,MERSのように何度でも(MERSはR0が小さいからパンデミックにはならないが)動物からヒトに感染してエピデミックを起こすことになる。現状,むしろ世界の多くの国でエンデミックな病気になる可能性の方が高いが,それだと2月15日にProf. Lipsitchが予測していたように世界人口の40-70%が感染することになるので,考えたくない数(最悪5000万人レベル)の死者が出てしまう。

Scholarly Community Encyclopediaへの寄稿のお誘いメールが来た。何本も査読したのでEpidemiologyのreviewを書けということと思われる。DOIは付くし完全無料だし良いプラットフォームだと思うが,書く暇あるかな。ていうか,その前に査読を終わらせないと。

NHKの特設サイト「新型コロナウイルス」>私たちはどう行動する>生活の中で大切なことが更新されていて,マイクロ飛沫の動画や,3つの密を避けること,家族が感染したときの対処についての動画が載っていた。

まとめpdf作成(2020年3月31日 - 当該鐵人三國誌

COVID-19のまとめ資料(私見,と書いたスライドは学生向けからは除くべきかも)を作った。最初アップロードしたものは糞口感染の記述が不適切だったので修正し10:45にアップロードし直した。

テレビでドイツにも英国GP同様のかかりつけ医からのreferralシステムがあるという話をしているが,一次医療圏が医療法が定める医療計画に入っていないのが日本でかかりつけ医がうまく機能していない原因だということは,ずっと前から公衆衛生学では共有されている問題意識だった。自由に開業できないと困るという医師や開業コンサルタント業界のロビー活動のせいが大きいと思うが,総合診療医の養成も足りていないので(専門医志向が強いので),法制化しても理想的な配置は難しい気がする。いずれにせよ今現在の危機解決には間に合わない。

インペリグループの論文発表が早くて凄い。3月26日に10報と11報に触れたが,既に12報と13報が出ていた。Walker PGT et al. "Report 12: The Global Impact of COVID-19 and Strategies for Mitigation and Suppression"(2020年3月26日掲載)と,Flaxman S et al. "Report 13: ­­Estimating the number of infections and the impact of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in 11 European countries"(2020年3月30日掲載)である。後で読む。

昨夜小池都知事の会見があり,クラスター対策班の西浦さんもコメントしたという話。YouTubeにテレ東のノーカット動画が公開されている。質疑で,弧発例の多くが夜の町の特定の業種における伝播であることがわかったとして(見えないクラスターが散在しているのではなくてラッキーなことだった),グラフも示したようだ(グラフは別角度から撮影されたニコ動では配信されたらしい)。爆発的な増加があるかどうかを把握するのに(一般母集団対象の?)抗体検査は向いておらず,リアルタイムRT-PCRに加えて電話相談とかSNSを総合的に見て判断しているという説明,その通りだと思うが,抗体検査は他の検査とリソースが被らないので,医療や検査の現場に余力があるなら,やれば流行状況について補完的なデータにはなると思う。それが必要なのは,今よりも,むしろ一定のレベル以下に新規患者数が収束した後だと思う(感受性のまま残っている人の割合の推定は,再流行リスクの評価に必須なので)。

インペリグループ第12報は,緩和戦略と抑え込み戦略の世界規模の影響というタイトルの通り,まったく介入なしの場合に比べて,死亡率が10万人週当たり0.1, 0.2, 0.4, 0.8, 1.6, 3.2を超えたところで抑え込み戦略(全年齢で社会的接触を75%減らす)を導入した場合と,緩和戦略(70歳以上の社会的接触を60%減らすか,全年齢で社会的接触を40%減らす)を導入した場合で,250日間のアウトカムがどう変わるかを見ている。アウトカムとしては累積感染者数,累積死亡数を見ているが,国によって状況が異なるため,人口,GDP,所得水準別ヘルスケア利用可能性を考え,年齢構造のある確率的SEIRで上記シナリオごとの疾病負荷を計算し,病床数やICU数も考慮した影響予測をしている。結果は,世界7地域別に推定されているが,合計では,まったく介入しないと70億人が感染し4000万人が死亡するところ,0.2/10万人週という早期に抑え込み戦略を導入すると4.7億人が感染し186万人が死亡,1.6/10万人週になってから導入すると24億人が感染し1000万人が死亡となった。データとしてはwppとrDHSパッケージを用い,接触パタンについては多くの先行研究やsocialmixRパッケージを利用したと書かれている。力業な研究だが,結果のインパクトは大きい。

インペリグループ第13報は,ヨーロッパ11ヶ国で,感染者数とCOVID-19への薬剤以外の介入の影響を推定するというタイトルで,実際に各国でいくつかの介入が導入された時点と感染者数データを用い,階層ベイジアンモデルを使って介入効果を推論しているもの。Rコード(RStudioをインストールしてあれば,zipを展開してプロジェクトファイルをクリックすることでFigure 5を再現できると書かれている)が提供されている。第9報に比べると学校閉鎖の効果がかなり大きく出ているのだが,何かのsurrogate measureになっているような気がするなあ。詳細はコードを見てみないとわからないなあ。

マラリアとか熱帯病対策で大きな役割を果たしてきたWellcome Trustのニュースに載っていたが,クロロキンとヒドロキシクロロキンによるCOVID-19治療について世界規模の臨床試験を4月から始めるそうだ。

LINEで厚労省からのCOVID-19についてのアンケートが来たので回答した。

日本公衆衛生学会の研修会資料(2020年4月1日 - 当該鐵人三國誌

遠隔講義を進めることになったが,学生のWiFi環境をどうやって整えるかは課題。定期代より安くなれば良いという話も出た。

専門家会議とクラスター対策班のキーパーソンである東北大学・押谷先生によるCOVID-19への対策の概念(2020年3月29日暫定版)。50ページ以降の詳細データ重要。55ページ「保健所・地方衛生研究所・検疫所・クラスター対策班の人員の早急な拡充。特に保健所の負担の軽減」の実現には,政府の決断が必要なので,世論がそれを政府に求める声を高めることが重要。

押谷先生がSARSとの違いを示すために使っていた概念図はWHOの患者管理のための中間ガイダンス(2020年3月19日)が元か。SARSは下半分が無かったという対比のさせ方は押谷先生のアイディアと思うが。

ちなみに押谷先生の資料は,3月29日に行われた「クラスター対策研修会」で使われたもので,日本公衆衛生学会のサイトに載っている。日本公衆衛生学会から一般会員にはアナウンス無かったと思うが,誰を対象にしてどういう形で行われたのだろう? まあ資料を公開して貰えたので不満はないのだけれども,単純に不思議に思ったので。

阪大の遠隔講義・メディア授業サポートシステム。Zoomだけにしてしまうのもインフラとして危険な気がするので,こうやって複線化することも必要だろう。

山中伸弥先生の5つの提言。政府への提言。ぼくも政府への提言は随分書いているのだが,全体が長くなりすぎたので,見つけにくいと思う。本当はそれだけピックアップしてまとめたページを作るべきかもしれない。誰かやってくれたら嬉しいが。

若年層向けの情報発信強化という厚労省のリリース。YouTubeで東京ガールズコレクションに出ているモデルさんの台詞と写真がポップアップする映像。若者の関心を惹くための広報としては良い試みと思うが,あんなに早くポップアップしては消えてしまうメッセージでは読めないのでは? あと,BGMよりもそれぞれのモデルさんが喋った方が効果的では? あれでは「情報発信」としての意味は薄いと思う。何かズレてるよなあ。

ズレてるといえば,1世帯に2枚の布マスク配布って……エイプリルフール? (追記:布マスクの機能は,無意識に手が鼻や口にいくのを防ぐことと,声を出したときに唾液飛沫が飛ぶのを防ぎ,無症状で自分が感染していることに気づかない人が感染を広げてしまうのを防ぐことだから,「声を出すときはマスク必須」を常識化する方が有効だろう[20200403追記:たぶん低所得国でバイクに乗っている人がしているように,バンダナで鼻と口を覆うのでもほぼ効果は同じだから,マスクが無かったら大きめの布1枚あれば良い]。黙っていて手をポケットに突っ込んでいれば,布マスクしてもしなくてもほとんど差は無い。そんな金があるなら,押谷先生が要望されている「保健所・地方衛生研究所・検疫所・クラスター対策班の人員の早急な拡充。特に保健所の負担の軽減」に使って欲しい。全国一斉休校要請に匹敵する愚策なので,たぶんまた今井補佐官と安倍首相周辺だけで決めたんだろう)

今夜のクロ現プラス「感染爆発の重大局面② 治療の現場で何が起きているのか」は,1週間は見逃し配信されるとのこと。Nスペとクロ現プラスはこれまでも概ね良かったので,これも見ようと思う。(追記:見た。医療現場の疲弊も激しいので,医療体制の拡充も急務だが,すぐには増やせないのが難しいところ。発熱外来設置が提言されていたが,個人的には肺炎外来の方が良いと思っている)

今日の専門家会議の記者会見「緊急事態宣言」「学校再開」への見解は?。質疑応答を含む2時間の動画がYouTubeで公開されている。資料は対策本部のページで公開されるはずだが,まだ載っていない。

先住民への感染(2020年4月2日 - 当該鐵人三國誌

アマゾン先住民で初のCOVID-19陽性確認例が出たというニュースだが,外部からやってきた医師からヘルスワーカーへの感染ということで,典型的な国際保健上のジレンマ。この医師が来なかったらCOVID-19感染はなかったはずだが,他の病気で死ぬ人は増えたかもしれない。先住民は寄生虫や細菌への曝露は多い環境で成長するので,そういうものへの抵抗力は強いのだが,ウイルスへの曝露は少ないので抵抗力は弱いし蔓延する。歴史を見れば,ウェスタンコンタクトで持ち込まれた麻疹やインフルエンザで全滅しかけた集団もある。症状が出る前にも強い感染力があるというのがこういう場面での対策を難しくしていると思うが,すべての人が自分が感染しているかもしれない可能性を考えて行動するしかないだろう。

昨日付けのEuropean Medicines Agencyの記事"COVID-19: chloroquine and hydroxychloroquine only to be used in clinical trials or emergency use programmes"。裏を返せば,クロロキンは,こんな文書が出されるほど現場で期待されているということかもしれない。米国FDAは使用許可を出したというニュースもあって,FDAのサイトには3月31日付けで効果を調べていくという記事しか見つからなかったが,期待はされているということだろう。

インペリグループは主に自分たちのサイトで論文を発表してきたが,Verity R et al. "Estimates of the severity of coronavirus disease 2019: a model-based analysis"(2020年3月30日掲載)はLancet Infectious Diseasesに載った原著論文。Editor's pickとしてハイライトされている。2月8日までの中国湖北省,2月25日までの中国以外の37ヶ国と香港,マカオのウェブサイトとメディアで報告されている個人レベルの症例データを分析し,発症から死亡または退院までの時間を推定し,中国の集計されたデータから年齢別CFRとIFR(右側打ち切りと年齢依存の未確定性を調整),中国以外の集計されたデータからのCFRも推定している。さらに,中国のデータのサブセット3665例から年齢別重症化割合も推定している。湖北省の死亡例48人のうち発症日が不明な13人,発症が1月1日より前か死亡が1月21日より前に起こっていた8人,1月28日以降に死亡した3人を除いた24人の死亡データから,発症から死亡までの平均日数は17.8日と推定され,中国以外の発症日と退院日が報告されている回復例165人のデータから,発症から退院までの平均日数は24.7日と推定された(注:これは人数も少ないし,とくに目新しい結果でもないと思う)。1月1日から2月11日までに中国でPCRで確定診断がついた症例と臨床診断された症例70117人のデータをWHO-Chinaジョイントミッションレポートから抽出し,重症化は中国の定義を用い,武漢から海外に避難した人のデータ,ダイヤモンドクルーズ号のデータ,中国の年齢別人口データと組み合わせ,Rのdrjacobyパッケージを使ってベイジアンMCMCで分析した(データとコードはGitHubで入手できるとのこと)。結果,右側打ち切りと年齢別人口構造,未確定の影響を調整したCFRが1.38%(95%CI 1.23-1.53),IFRが0.657%(95%CI 0.389-1.33)と推定されている。西浦さんのEditorial第2弾で既にIFRが0.3-0.6%と推定されていたので,それより若干高めだが,これもそれほど目新しい結果というわけではない(もっとも,インペリグループはIFRが0.8-0.9%というような推定値も出していたので,それよりは若干低めの値になったとも言えるが)。

ハーバードのLipsitch教授のグループからの論文Niehus R et al. "Using observational data to quantify bias of traveller-derived COVID-19 prevalence estimates in Wuhan, China."(2020年4月1日掲載)もLancet Infectious Diseasesに載った原著論文。世界195の国と地域のうち流行の中心となった中国本土を除く194から,WHOテクニカルレポート(2020年2月4日)から得た輸入症例データを使って(ただし,1月23日に湖北省がロックダウンしたために中国からの輸入症例が激減した2月4日までのデータ),シンガポールで2月4日までに検出された18症例がすべての地域の中で最高のサーベイランス能力を反映していると想定し,数理モデルを使って他の国や地域の検出確率を推定した。各国での検出数が各国への一日の航空旅行人数に回帰係数を掛けた値を期待値とするポアソン分布に従うと仮定して推定された,世界の検出確率の重み付き平均は,シンガポールの38%と推定され,それは現在報告されている輸入症例の2.8倍に相当した,としている。

Elon Musk凄いな。すぐ患者に使う条件で人工呼吸器を無償提供というtweetをしている。先日はクロロキンに注目していたが。

昨日の専門家会議からの提言資料が,対策本部の資料に入っていた。

ScienceにFerretti L et al. "Quantifying SARS-CoV-2 transmission suggests epidemic control with digital contact tracing."(2020年3月31日掲載)という原著論文が載っていた。Oxford大学でビッグデータを使った感染症ダイナミクスのグループリーダーをしているChristophe Fraser教授のチームの仕事。Fraser教授自身はHIVが専門らしいが,インペリからOxfordに移った人。この論文はroute of infection別の感染確率をモデル化している点が素晴らしい。ただし,無症状感染者からの感染,発症前の感染者からの感染,発症後の患者からの感染,環境に付着したウイルスからの接触感染の合計を感染力としてモデル化しているものの,マイクロ飛沫からのクラスター感染が含まれていない点が惜しい。この論文の結論は,ウイルスの拡散が速すぎるので人力で接触者追跡をして隔離していては封じ込めは不可能(R0は2と推定された)が,濃厚接触を記録し検査陽性者が検出されたらすぐに通知するスマホアプリを十分な人数が使ってくれたら,社会に害が大きいロックダウンをすることなく封じ込めが可能としている。倫理的要求についてのディスカッションもされている。テレビのニュースで流れていた,韓国で入国時にインストールしなくてはいけないアプリというのは,これと同じような機能を持っているのかもしれないなあ。

OTOTOYでCOVID-19という曲を買ってみた。

外科系学会から新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言が出ていた。

ワクチン候補(2020年4月3日 - 当該鐵人三國誌

ワクチン候補についてピッツバーグ大学から新しいアプローチの報告が出た。プレスリリース原著論文。MERS-CoVで有効だった方法の応用らしい。

たぶんリンクしそびれていたので,生命・医療倫理研究会のCOVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言(2020年3月30日)。

Gigazineの記事でくしゃみの飛沫は8メートル先まで届くと判明、「推奨される社会的距離を2メートルから広げるべき」と主張する専門家も(2020年4月3日)は,NHKスペシャルがいうマイクロ飛沫の話なので,おそらく換気が良い場所であれば対人距離は2メートルで良いと思う。

日経新聞の,西浦さんが欧米のロックダウンに近い接触減を提案したというこの記事,『「人の接触」は鉄道の利用状況を目安にした』と書かれているが,それをどうやってモデルに入れたのかがわからない。詳細発表があるまでは判断保留。route of infectionを考えると,鉄道の利用状況は対人接触のsurrogate measureとしてあまり筋が良くない気がする。昨日Scienceの論文に出ていたようなスマホアプリで自動的にcontact traceするようなやり方でデータを取ることができれば良いと思う。検査陽性の人が出た時点で,自動的にその人と濃厚接触歴がある人自身のスマホにだけ通知が出るような運用にすれば,プライバシー保護の問題は回避できそうな気がするがなあ。

西浦さんがtweetしているので本物とわかった,新型コロナクラスター対策専門家twitterアカウント@ClusterJapan。西浦さんや押谷先生が動画出演している。これがリスコミの専門家の力を借りると言っていた,ダイレクトな情報発信なのだろう。

Jia J et al. "Epidemiological characteristics on the clustering nature of COVID-19 in Qingdao City, 2020: a descriptive analysis"(2020年3月31日オンライン出版)という原著論文がDiaster Medicine and Public Health Preparednessというジャーナルに載っている。これもRのoverdispersionをサポートするデータ。別に新しくはないが,さすがにpublishされただけあって丁寧に書かれている。

同じジャーナルにNakazawa E et al. "Chronology of COVID-19 cases on the Diamond Princess cruise ship and ethical considerations: a report from Japan"(2020年3月24日オンライン出版)という原著論文も載っている。これは東大の赤林先生の医療倫理のグループが,DP号への対処を倫理的側面から見たという主旨の論文のようだ。時間があったら後で読む。

Digital Contact Tracingは本当に日本では難しいか(2020年4月5日 - 当該鐵人三國誌

数日前に触れたScienceのFerretti L et al. "Quantifying SARS-CoV-2 transmission suggests epidemic control with digital contact tracing."(2020年3月31日掲載)が示した可能性は重要だと思う。そのとき,テレビで見た韓国で使われているアプリに触れたが,詳細がわからない。この記事(2020年3月6日)とか,Natureのニュース(2020年3月18日)とか,IEEE Spectrumの3月25日記事(4月1日更新)で触れられていたのとは違うのか? 韓国政府のサイトでは,この情報がそれっぽいが,pdfを見ても詳細なスペックはわからないなあ。

自分はGPSを使った移動履歴くらい把握されても構わないので,もし,新規に感染が判明したAさんがアプリXをインストールしてくれていたら,発症日を入力して送信すると,自動的に移動履歴が記録されているデータベースを遡って照合し,アプリXをインストールした人のうち,Aさんの発症前2日以降にAさんと濃厚接触した可能性がある人全員にアラートを出してくれて(同時にデータとしてクラスター対策班にも通知されて),症状があったなら検査を受けるように(その画面を見せれば,肺炎症状があって医師が鑑別診断を要すると判断した人に次ぐ優先順位で検査して貰えるようにする),症状が無ければ自己隔離するように(ホテル等の個室を公費負担で借り上げておき,そこに入ることを推奨。検査能力に余裕があれば検査を受けてから隔離するのが理想だが),と促してくれるようなものがあったら,インストールするなあ。で,そういうアプリをスマホユーザ全員がインストールしてくれたら,積極的疫学調査のうち,接触者追跡に関わる保健所の負担が大幅に減ると思う。押谷先生がCOVID-19への対策の概念(2020年3月29日暫定版)で悲鳴のように保健所の負担軽減を訴えていらっしゃるが,人員増(例えば3密に該当するので営業できなかったり開店休業状態の人たちに維持費を払い納税免除しつつ,訓練を受けてもらって聞き取り調査員とすることは,5年ごとに国勢調査のために非常勤国家公務員を雇っていることを考えれば不可能ではないと思うが,簡単ではない)よりも実現可能性も有効性も高いのではないだろうか。LINEの調査は何度か繰り返す予定とはいえ横断調査だし,人々の意識・行動実態や感染者割合の推定などに貢献するから意味はあると思うが,今後繰り返すとしても,接触者追跡にはほとんど使えないはずで,これの代替にはならない。

そういうアプリの導入も,個人情報保護上(追記:弁護士の吉峯先生からご教示いただいたが,アプリインストール時に同意を取れば個人情報保護は大丈夫で,むしろプライバシー権の侵害の方が問題になるとのこと)無理と最初から決めつけず,検討する余地はあるのではないだろうか。

森恵さんの「声は届くから」という曲へのオンラインコラボ呼びかけ。素晴らしい楽曲と歌唱(Vo+AGバージョンのmp3ファイルを聴くだけでも感動する)だし,ミュージシャンとして何ができるか,という意味で素晴らしい試みだが,その成果を聴いて楽しむ人から何かサポートできるような仕組みがあると,持続可能性が増すと思う。

Bayham J, Fenichel EP “Impact of School Closures for COVID-19 on the US Health-Care Workforce and Net Mortality: A Modelling Study.”(2020年4月3日掲載)がLancet Public Healthに載っていた。読まねば。

COVID-19対応で,通信大手3社が,25歳以下の50GBまでの容量増加を無料化したという永崎さんのtweet。遠隔講義には追い風。当面は4月中みたいだが。

遠隔講義開始(2020年4月6日 - 当該鐵人三國誌

公共交通機関を使って遠方へ通学するし,知識を教授すれば良い高校や大学は遠隔講義化が正しい戦略と思うし,神戸大の保健学科も基本は遠隔講義にした(今日から開始)。しかし,小中学生の場合,授業の全面遠隔化は難しいだろうし,徒歩や自転車での通学が主なら,子供による学校を超えた感染拡大ルートは考えなくて良いので,休校は合理的ではない。少なくとも,家族の通勤や社会活動の禁止とセットでやらないとリスク低減にならない。これまでのCOVID-19研究から,子供が感染するのは,インフルエンザとは違って,学校でよりも家庭内で家族から感染するリスクの方がまず間違いなく高いのに,休校延長を主張する親は,自分は絶対に感染しないと思っているのだろうか? 世の中,「不安の声」に弱いということか。5月6日まで休校しても,大人が普通に通勤して社会活動をしていたら感染拡大は続くので,再延長することになるのはほぼ明らかだし,それは子供たちの学ぶ権利を侵害することになる。もちろん,感染者が2日で倍増するような感染拡大危機が近づいたら,大人の社会活動を徹底的に減らさねば医療崩壊するので,そういう感染状況の地域は休校もセットにするのは当然だ。そうでない状況で,大人が社会活動しているなら,小中学生は通学して授業をする方が安全に過ごさせることができるはずだ(給食中も対面配置はせず会話も禁止とか,換気を良くするとか,手洗いを徹底させるという配慮は必要だが,家に1人で残された子供が勝手に動くより安全な過ごし方をさせられるはず。ただ,そういう配慮が難しい課外活動は,気の毒だが来年まで停止するしかないと思う)。なぜそう思えないのか?

卒業生から相談を受けたが,日本に住んでいるけれども日本語が読めない外国人へのCOVID-19の情報提供がまったく足りていないようだ。各都道府県のホットラインで英語が通じるのか? もわからないし,ホットラインの英語版案内ページがあるのかどうかすらわからない。そこまで手が回らないということなんだろうけれども。大学の各種アナウンスも英語版は細かいところまで手が届いていないし。

4月16日(木)締め切りの確定申告をし忘れていたことに気づいたが,今日,17日(金)を過ぎても良いという告知が出て良かった。

昨日触れた森恵さんの試み,素晴らしいと思っていたが,さっき見つけた星野源「うちで踊ろう」も素晴らしい。楽譜も公開されているし,日本語英語で字幕を追加できることが告知されている。コラボ募集に対しては,既におっくんとかものんくるが応答している。リトグリもやらないかなあ……。

昨日の田島貴男有料オンラインライブ,チケット買ったのに見逃してしまったが,2日後くらいから5日後くらいまで見逃し視聴できるようだ。

4限の検査2年の環境・食品・産業衛生学第1回は,さすがPC必携化になった去年の入学者だけあって,全員Zoomにより遠隔で参加し,BEEFでのミニレポート回答もちゃんとできたようだ(まだ全員分は見ていないが)。Zoomは参加者の人数がリアルタイムでわかるので,開始時に多少遅れた学生がいたが,たぶんぴったり14:40にスケジュールしてしまったため,それまでミーティングが開かなかったからかもしれない。5分前にスケジュールしておくべきか。これで,少なくともこの講義は,ロックダウンになっても自宅から続けられることが確信できた。

しかし録画・録音するのは忘れた。録音だけでもしておけば,後で学生が復習するのに便利だろうから,明日の保健行政論は録音するかな。

遠隔講義については,国立情報学研究所のこのページに参考になりそうな情報がたくさんあった。なお,今日から国立情報学研究所とCiscoが協力してWebExというシステムを使わせてくれる申請が始まったそうだ。

朝日新聞の記事に書かれている,ロックダウンでない緊急事態宣言が何を意図しているのか(わからないが),推測してみると,何の根拠もない全国一斉休校要請で危機感を高めて行動変容した人がいたので,緊急事態宣言を出せば大都市住民が一層の行動変容をしてくれる(対人接触を7-8割減らしてくれる)と期待したのだろうか。今度は1ヶ月ということだから,そういうショック療法的なことでは反応しない人も多い気がする。ライフライン以外の通勤も禁止になる(その場合は当然通学も禁止するし,生活保障もする)なら確実に感染拡大抑止効果はあるが,これでは,単独ではほとんど効果がない休校だけが続くことになりかねない。この政権,本当にケチだしまともな思考力がないなあ(第一次安倍政権のときからわかっていたことではあるが,最近酷さが加速していると思う)。

かつてのマラリア研究の師匠の一人であるNCGMの狩野さんが著者の一人となっている,Picot S et al. "Coalition: Advocacy for prospective clinical trials to test the post-exposure potential of hydroxychloroquine against COVID-19."(2020年4月4日アクセプト)というEditorial CommentaryがOne Healthというジャーナルに出た。医療従事者や介護者など感染者との濃厚接触が避けられない職種の人について,ヒドロキシクロロキンが曝露後予防薬として有効な可能性があるから,臨床試験を早急にやるべきという国際共同提言。

休校単独では効果がほとんどないというレビュー論文(2020年4月7日 - 当該鐵人三國誌

名谷キャンパスに出勤して1限の国際情報検索の講義。昨日と同じく講義室は無人だったが,Zoomで10人以上の学生が受講。これまで何年も1~3人の受講者しかいなかったのに,今年は画期的だ。ネット上の情報を見るとき,正しい判断のためにはどういうところに注意すべきか,という話と,文献管理ソフトの使い方を説明したが,新聞やテレビの情報は間違っていることも多いという説明のため,COVID-19の1月,2月の報道を例に出した。文献管理ソフトとしてはZoteroを例にしてブラウザから文献を取り込む方法も説明したが,ワープロソフトでその文献を引用するところで拡張ソフトがうまく動作しなかったので,そこは各自やっておいて貰うことにした。

2限目は全専攻の学部生が受講する保健行政論だったが,これも150人以上の学生全員が遠隔受講で,とくに問題も起こらず終わった。途中2回ほど質問があればチャットに書いて欲しいと頼んだら,何人かがほぼ同時に同じ質問を書くという現象が発生したので,音声だったら混乱したところだと思うが,文字でプライベートメッセージとして会議のホストPCにだけ表示されたので,音声による返事は1回で済んで効率よかった。

森恵さんの『声は届くから』にも尾形優太さんによるドラム追加バージョン工藤こうじろうさんによるアレンジバージョンが発表された。後者は原曲よりもかなり壮大な広がりを感じる。子供の声のコーラスが入ってる? オンラインコラボって良いなあ。「#音楽はコロナに負けない」というハッシュタグも良いなあ。

脳炎ウイルスが日本でアウトブレイクしたら? というWhat ifな小説『バベル』を書かれた福田和代さんがこのtweetで紹介しているショートショート「繭の季節が始まる」,作家的想像力に感服した。もしいつまでもワクチンも治療薬もできなかったら,本当にこうなってしまうかもしれない,ありうる未来の一つ。ぼくが小説を読むことが好きなのは,こういう想像力の飛翔に触れたいから,というのが大きい。

Lancetの姉妹誌,Lancet Child & Adolescent HealthにViner RM et al. "School closure and management practices during coronavirus outbreaks including COVID-19: a rapid systematic review"(2020年4月6日出版)という,学校閉鎖についてのレビューが載っていた。Lancetの特設サイトでEditor's Pickになっている。Summaryを見る限り,これまで何度も書いてきたのと同じ結論で,多くの国で全国休校が導入されたが,中国や香港のように他の社会的隔離政策と組み合わせて伝播抑制に成功した国でも,休校がどれくらいそれに寄与したかデータがないし,中国,香港,シンガポールのSARSアウトブレイク時のデータでは休校は流行抑制に寄与していなかったし,最近のモデル研究(インペリグループ第9報のこと)でも休校だけでは2-4%しか死亡が減らず,他の社会的隔離政策よりずっと効果が小さく,もしするなら他の社会的隔離政策と組み合わせて実施することを政策決定者は考慮すべきだという論調。自分の認識が間違っていなかったと自信がもてた……というか,自分でも時間があれば書けたな。

緊急事態宣言翌日(2020年4月8日 - 当該鐵人三國誌

シンガポールでBluetoothを使ったdigital contact tracingアプリが開発されインストール推奨されていると教えて頂いた。ScienceのFraserグループの論文(この論文は,モデルとしても,Rのoverdispersionは考えていないもののroute of infectionやasymptomatic/presymptomatic/symptomatic別の感染力をまともに考えているので,単純なSEIRを適用している方々は読んで勉強して欲しいと思う)が提案しているアプリや3日前に触れた韓国のアプリとは若干違うシステムだが,これも有効だと思う。政府は法的な面をクリアしてIT企業にオファーし,日本での実装を真面目に検討してくれないだろうか(ぼくが知らないだけで,検討されていても不思議ではないが)。

昨夜首相が出した緊急事態宣言の中に兵庫県も含まれたので,もしかするとそのうち出勤も停止になるかもしれない(いまは学生は原則自宅待機,教職員は可能な限り在宅勤務となっている)。今日もグローバル教育委員会と領域会議は遠隔だから家からでも良いはず。学生も原則として自宅待機ということだから,大学院の講義も全面遠隔で良いのか? まあ,今日だけはどうせ人事関係の某会議のため出勤しなくてはならないし,6限の講義も一応講義室からZoomでやってみるが。なお,他学部全部と医学部新入生の講義開始は4/20からさらに延期され,5/7からの遠隔講義となった。だから4/20までの延期なんて意味がないと言ったのに。3月から遠隔化で動いた医学部は正しかった(自画自賛)。

東京大学情報基盤センターによるZoomを用いたオンライン講義を安全に進めるために(2020年4月6日)は参考になる。Zoomに限らず,大抵のソフトは最新版にアップデートし続けないと,セキュリティ上問題があるというのは基本だが,しない人が存外多いのだよなあ。

星野源「うちで踊ろう」のカラクリコラボINSPi吉田圭介さんのコラボ(ホーミー!)。ハモリっていいなあ。

朝日新聞が昨日から新型コロナウイルスに関連した記事は無料公開とのこと。国内の大手新聞社では初ではないか。他社も追随して欲しい。

高山先生のtweetで,厚労省サイトに保健所の体制強化のためのチェックリストがあることを知った。これらの策が必要なのはもっともだが,外注するといっても金がなくてはできないので,各保健所の意思決定でどうにかなることではなく,都道府県が金を出さなくてはいけないし,そのためには国から都道府県への財政出動が必要だろう。保健所の人手不足問題を解決するために最も有効なのはdigital contact tracingの導入だと思うのだが……。

@ClusterJapanの#新型コロナクラスター対策ゼミ。西浦さんが動画で講義している。

18:30からの保健学研究共通特講IV, VIIIは,保健学研究科のほぼすべてのM1と何人かのD1が受講する講義で,50人以上が受ける。初回だけは確認が必要と思ってD101に行ってZoomでやってみたが,全員が遠隔参加だったので,次回からは研究室または自宅からでもできることがわかった。素晴らしい。とくに問題は起こらなかった。

Gigazineに新型コロナウイルス感染者の世界平均検出率はおよそ6%、実際の感染者は数千万人を超えている可能性という記事があった。が,『フォルマー教授が2020年3月17日時点のデータから、COVID-19の感染が疑われた人のうち、検査で感染が確定した人の割合を「検出率」として算出した』と記述はミスリーティングだ。「感染が疑われた人」という表現からは,症状などから感染が疑われた人,と思ってしまいそうだが,検出率の分母の計算の仕方はまったく違う。元論文(このページの最後のRead the fulll report here.というリンクからpdfをダウンロードできる)に戻ってみると,分母となる感染者数推定の手順は以下の通り。(1)各国から報告されているCOVID-19による死者数は正しいと仮定する。(2)インペリグループがLancet Infectious Diseasesに発表した論文に掲載されている年齢別IFRはユニバーサルに正しいと仮定する。(3)各国の年齢別人口を国連のデータベースから得て,それで重み付けした年齢調整IFRを計算する。(4)死者数をそれで割ると,各国の感染者数が推定できる。ラフな推定値だが,この方法だと,3月17日時点での日本の検出率が約25%と推定されていて,その頃まではかなり検出率が良い方だったと考えられる。

ハイスクールバンバンで学ラン姿が印象的だったAinaさんによるHavanaを歌いながら手洗いする動画,格好いい,張りがあって伸びやかな声で素晴らしい。

このtweetから思うに,FraserグループのScience論文が西浦さんの目に留まった気がする。何とか実装につなげてほしい。

クロロキン/ヒドロキシクロロキンと亜鉛の組み合わせ投与(2020年4月9日 - 当該鐵人三國誌

Scholz M, Derwand R "Does Zinc Supplementation Enhance the Clinical Efficacy of Chloroquine/Hydroxychloroquine to Win Todays Battle Against COVID-19?"(2020年4月8日受理)はプレプリントサーバだが,クロロキンとヒドロキシクロロキン投与に亜鉛投与を組み合わせるとCOVID-19治療効果が上がるのではないかという仮説を提示している。Juurlink DN "Safety considerations with chloroquine, hydroxychloroquine and azithromycin in the management of SARS-CoV-2 infection"(2020年4月8日掲載)は,CMAJに載っていたレビュー。クロロキン,ヒドロキシクロロキン,アジスロマイシンという既存薬をCOVID-19に使うときの安全性を考察している。

Some Select COVID-19 Modeling ResourcesというCOVID-19モデリングのリソースについてのまとめ。

神戸市公式新型コロナウイルス感染症対策サイトがオープンしたとのこと。東京都のコードを使っていると思われる。サイトだけでは真正性が今ひとつわからないが,神戸市広報課の公式twitterアカウント(@kobekoho)からリンクされていたので本物だろう。

クロ現プラス,世界各国の取材は良かった。韓国のアプリはFraserグループのScience論文が提唱するものよりもプライバシー権の侵害が大きく,かつ自動的に接触者を遡及照合してスマホ所有者に知らせる機能はないようだ。それだと今ひとつだなあ。ちなみに,Fraserのコメントも付いているFinancial Timesの記事によると,英米でアプリ開発競争が起こっているようだ。FraserグループのScience論文は倫理面の考察もしていて,こういうアプリの導入に必要な条件として8つ挙げ,自由意志である程度の割合の人が導入してくれるだけでも有効なはず,という議論をしているので,検討すべきポイントは明確なはず。

動物への感染実験の論文(2020年4月10日 - 当該鐵人三國誌

テレビで,実験的にはSARS-CoV-2は猫やフェレットには感染しやすく,犬,鶏,豚には感染しにくかったと報じられていた,Scienceに載った報告は,Shi J et al. "Susceptibility of ferrets, cats, dogs, and other domesticated animals to SARS–coronavirus 2"(2020年4月8日掲載)だな。暇があったら後で読もう。

Sanche S, Lin YT, Xu C, Romero-Severson E, Hengartner N, Ke R. High contagiousness and rapid spread of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2. Emerg Infect Dis. 2020 Jul [referred on 10th April 2020]. https://doi.org/10.3201/eid2607.200282このGigazineの記事で引用されていたが,新しいデータを使うと発症間隔がこれまでの推定値より長いのに倍加時間が短いのでR0が5.7もあると推定された(対数正規分布のような分布に見える)というGigazineの記述では良くわからないので,元の論文を読んでみなくてはならないな。

有限集団においてなるべく死亡数を減らし,未感染の人が多いまま流行を抑えるには,感染力が同じならNを小さくすれば良いことが,Diekmann and Heesterbeekの教科書(練習問題もたくさんついていて,自習にはお薦め)を読めばわかる。それから考えると,地域内で生産から消費までの生活を完結できるようなユニットを,なるべく小さな人口規模でたくさん確立することが良い対策になるはずだ(国内完全終息かワクチン/治療薬完成までは域外との交流を再開できないが)。逆に遠方への通勤が続くと,生活圏の人口規模が大きくなるので,Rが大きくなり,爆発的な感染拡大が起こり,医療的対処能力を超える影響も加わった莫大な死者が出てしまう。ただし,その代わり,流行が1年以内に終息し,その時点で未感染のまま生き残る人は少なくなる(ある程度の集団免疫がつく)。しかし,これをトレードオフと考えるのはやはり無理があり,いくら早く終息して集団免疫がついても,国内だけで10万人の死者がでるのは受け入れられないだろう。安価な流通に支えられた分業化・効率化とグローバリゼーションから方向転換して,社会のユニット化,ローカル化を進める方がCOVID-19対策には良い。そうなると観光業などは明らかに立ちゆかなくなるし,トビタテとか国際化とかも止めた方が良いという話になるし(本当に留学した方が良いようなトップクラスの学生のコラボは別として,一般学生には広げない),他にも悪影響ありそうで,いろいろ難しいが。

Yahoo!Mapが混雑レーダーを再開するとのこと。

神戸市がUber Eatsと連携して飲食店と家庭を支援するとのEngadget日本版の記事

COVID-19が発生していない唯一の大陸である南極から,南磁極が動き続けているというtweetがあった。何かいいよなあ,こういうの。

早稲田大学政治経済学部の久保田荘准教授による2020.4.8 「コロナ危機は需要ショックなのか供給ショックなのか?」は,経済学の論文に基づいたレビュー記事。

救急医療機関代表者が医療用防護具の生産・供給の協力呼びかけ(2020年4月8日)Medical Noteの記事。N95マスクがとくに逼迫しているとのこと。

共同通信の記事で,ネット授業で著作権者から許可を得る必要なく,補償金も2020年度に限り無料と閣議決定されたとのこと。

MITがAppleの"Find My"にインスパイアされて,プライバシーを守りながらCOVID-19の接触者追跡する方法を開発したというニュース。MITのリリースによるとBluetooth信号を使うそうなので,Singaporeのアプリに近いのか?

元の報告はドイツ語なので読めないが,それを紹介しているMITの記事によると,1つの市で500人の血液から抗体検査した結果,抗体陽性者の割合が約14%だったということだ。これは既に治癒した人も現在無症状な感染者も含んでいるので,1から引いた86%が感受性のまま残っている人の割合だという情報が意味をもつ。

まとめ英語版(2020年4月11日 - 当該鐵人三國誌

今夜のNHKスペシャルはクラスター対策班,とくに西浦さんにフォーカスした内容のはずで,名前が出るかどうかは知らないが多少取材協力したこともあり,録画予約した。予め,今日のBuzzfeedの西浦さんへのインタビュー記事を読んでおくとより良いかも。

4月に入ってからの情報を使って2枚スライドを追加した日本語まとめ第2版と,ミーティングで喋るために途中まで英語化を進めていたのを完成させたSummary in Englishをアップロードした。

NHKスペシャルを見た。かなりの最悪シナリオまで語られていたことは,危機感の表れであろう。カップ麺ばかりで対策班の皆さんの健康が心配。 政府が必要なところに金を出さないと(例えば夜の町の接客業こそ休業補償するか業種転換を促すとか),いくら良い戦略を立てても効果が薄まってしまうよなあ。

ちなみに,NHKスペシャルが,基本再生産数と実効再生産数の総称として再生産数という表現を使ったのは,たぶん,電話取材でぼくが言ったことが採用されたのだと思う(まとめスライドの6枚目参照)。西浦さんのチュービンゲン時代とインペリ時代の写真が出てきたが,2009年のパンデミックインフルエンザ当時,ユトレヒトで奮闘していた頃(時々ぼくのメモにコメントしてくれたりしていたし,当時数理モデルを誤解して過小評価していた岩田先生を,共著論文を書くまでに変えたりしていた)の写真は出なかったなあ。理論疫学の結果が政策実装されるとき,「1つのデータが国民10万人の命に関わる」ので,その覚悟をもってやるようにと海外の研究者仲間(かつて兄貴分と言っていた気がするFerguson教授のことか? 英国ではインペリグループの提言に強く依拠した政治が行われているので)から言われたことを踏まえて,「呼びかける義務がぼくにはあるんだろうな」と発言したときの厳しい表情が印象に残った。

喫煙がACE2を増やす件(2020年4月12日 - 当該鐵人三國誌

3月9日にYahoo!ニュースに石田雅彦さんという方が書かれていたが,その後もニコチンは呼吸循環器のCOVID-19感染リスクを高めるか?(リンク先は2020年3月18日にOlds JL and Kabbani NがFEBS-Jに載せた論文の邦訳)やLeung JM et al. "ACE-2 Expression in the Small Airway Epithelia of Smokers and COPD Patients: Implications for COVID-19"(2020年3月26日)など,喫煙者やCOPDの患者では気道内皮でACE2の発現が増えているのでCOVID-19に罹りやすいとか重症化しやすいという報告が増えてきた。喫煙はほとんどすべての病気のリスクを上げるので,医療関係者ならほとんど誰でも喫煙は止めた方が良いと思っているだろう。COPDモデル動物の実験では,ACE2が過剰発現するとCOPDによる炎症が抑制されるという結果も出ていて,ACE2の過剰発現が身体を守るために起こったストレス応答だとしたら,それが今度はSARS-CoV-2への弱点になってしまうというのは,皮肉なことだ。

Hu TY et al. "Insights from nanomedicine into chloroquine efficacy against COVID-19"(2020年3月23日)というNature NanotechnologyのComment。これは未チェックだったか。クロロキンがCOVID-19に治療効果があるとしたらどういうメカニズムが考えられるかについての考察。

Gigazineの記事AppleとGoogleが「新型コロナウイルス追跡システム」をiOSとAndroidに組み込む(2020年4月11日)だが,Singaporeで導入されたTraceTogetherみたいな仕組みが5月からiPhoneにもAndroidスマホにも導入されるということなのだろうか?

日本科学未来館のニコ生(2020年4月13-14日 - 当該鐵人三國誌

WHOのGHOからCOVID-19 Dashboardがリンクされていた。

6限に英語でやった感染症学特講の講義(後でインフルエンザのSIRモデルとReedFrostモデルのRコードへのリンクを付けた)は時間が足りず15分延長してしまったが,留学生から質問が出て良かった。

JWAVEの津田さんと磯野さんの対談番組,途中から聞いたが,磯野さんがクラスター対策班のスタンスを正しく受け止めてくれていて嬉しかった。

日本科学未来館とNCGM国際感染症センターが4月1日からニコ生でやっている「わかんないよね新型コロナ~だからプロにきいてみよう~」は良い企画だなあ。

パンデミック後の感染ダイナミクスの論文(2020年4月15日 - 当該鐵人三國誌

川端くんがtweetで紹介していた保健所の接触者追跡業務を説明している日経の記事。やはりDigital Contact Tracingを導入するしかないのでは?

シンガポールのロックダウンを報告するNew York Timesの記事。シンガポールのような強力な接触者追跡システムがあっても,第二波には耐えられなかったということだろう(ある程度プライバシーに配慮したアプリにより個人ベースで接触可能性を知らせる方法では不十分だったということだ。プライバシーの侵害ではあるが感染者が移動した経路を可視化して公開するという韓国方式なら耐えられるのか? 耐えられたとして,誰でも罹る可能性がある感染症に罹るだけでプライバシーが失われるという社会のあり方を許容できるのか,FraserグループがScienceに書いた論文に書かれている自動遡及追跡方式ならどうか,など真剣に考えるべき)。大勢の感染者が外から流入してくるときは,ロックダウンとか対人接触を8割減らすような強力な感染拡大抑制を掛けないと接触者追跡が不可能になってしまうから,そうした流入による急増に耐えるための1ヶ月程度の強力な社会活動の抑制は仕方ないが,パンデミックが終息するまでの1年以上の間,ずっとそれを続けることはできない。しかし,手洗いや対人距離を空ける,3密を避けるといったことは,流入による急増の影響がいったん収まっても止めるわけにはいかず,1年半から2年続けなくてはいけない。この違いは重要だと何度か書いたと思うが,いまだに伝わっていないのが悲しい。

インペリのCOVID-19サイトは,1月にできてから暫くは順次Report(現時点で1~14まである)が掲載されていくページだったが,今ではPlanning Toolsのページとか,Lancet Infectious Diseasesに載った論文で使ったコードとデータとか,Report13で使ったコードをまとめているScientific Resourcesというページができていて,メチャクチャ充実している。

うちで踊ろうのパフォーマンスでは,ぷらそにかコラボグラコロンのよしくん「すごいメンツが揃う」コラボも良い雰囲気。

岩田先生が引用tweetしていたマスクを長く使うためにジップロック正方形コンテナ1100mLみたいなプラ密閉容器を使う方法は合理的だと思う。

柏野さんが内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策に載っている,緊急事態宣言後の人流減少率データに駅の改札通過データが加わったことをtweetされている。たしかに概ね前年の8割減となっているが,12日は日曜日だったし,全国的に雨で寒かった影響もある気がする。去年の4月12日はわりと天気は良かった

ハーバードのLipsitch教授が,Kissler SM et al. "Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period"(2020年4月14日掲載)というReportがScienceに載ったことをtweetしている。これは3月7日にプレプリントサーバに載っていたのを先見性が凄いと紹介した論文だが,Scienceにアクセプトされたのか。公衆衛生ねっとにも,2022年まではsocial distancingを続ける必要があり,2024年まで監視する必要があるという内容であると紹介された。

山口県立大学時代に同僚だった永崎さんがオンライン授業をやってみた方々による実感のこもったツィートの数々という記事を書かれている。いずこもいろいろ苦労はあるようだ。これまで1週間半,Zoomで遠隔講義や会議をしてきた感じでは,基本的に学生側はビデオオフ,マイクはミュートで,質問したいときは随時グループチャットに書く(ぼくが講義をしながら目の端にチャットのウィンドウを入れておけば,口頭で瞬時に回答できる)というスタイルでうまくいっている。少人数のゼミならビデオはオンでも大丈夫だが,マイクは喋るときだけオンの方が良い。問題は明日の4限の医療人類学ディベートだな。アクティブラーニングの重視ということで参加型講義が増えつつあったと思うが,ディベートは参加型の極みなので,昨年1人か2人だけ遠隔参加したのでもいろいろ問題は起こった。たぶん試行錯誤を重ねながら改善していくしかなかろう。

救急医療体制の崩壊というニュースに対して,「いま書くべきでないかもしれないが,東京の夏にオリンピックをすると熱中症で救急がパンクする可能性がある,と数年来指摘している。救急医療は医療法で整備が必要な5事業の筆頭にあげられていながら余力が無いままで,平時からもっと予算をかけて拡充しておくべきだった」と引用tweetした。

COVID-19ではなく,普通の風邪を起こすコロナウイルスについて1990年に行われた研究を紹介しているtweetだが,できる抗体に感染防御効果がないかもしれないという可能性を別にしても,こんなにloss of immunityが早かったら,herd immunityが確立しない可能性も考えなくてはならないのか。

Twitterで「1年以上」と「ハーバード大」がトレンド入りしているのだが,前者は山中先生の発言,後者は朝書いたKissler et al.の論文の話で,内容はまとめ資料第2版(第1版でも書いているが)の最終ページに書いたこととほぼ同じ(Kissler et al.の論文は3月6日付けでプレプリントサーバに載っていたのがアクセプトされてScienceに載るのに1ヶ月以上かかっただけだし)。でも驚いている人が多いのは,自分の情報発信力のなさを強く感じる。山中先生とハーバード大のネームバリューは凄いなあ。

東北大学BCP(2020年4月16日 - 当該鐵人三國誌

発症前のViral Sheddingが多いというNature Medicineの短報を紹介するtweetHe, X., Lau, E.H.Y., Wu, P. et al. Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19. Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5(2020年4月15日)だが,二次感染の45%(95%CI 25-69%)は発症前に起こっていたという報告。西浦さんは最初の外国人記者クラブでの会見で感染の半分は無症状の人から起こっているという主旨のことを言われていた記憶があるので,新しい報告というよりは,他のデータでもやっぱりそうだったという追認になる。本当に厄介なウイルス。

東北大学新型コロナウイルスBCP対応ガイドは凄い。「BCPとは災害などの緊急事態に遭遇した場合において、リスクを最小限に抑えつつ研究や学業を続行するための対応のことです」と注釈がついていて,現在LEVEL3なので,研究は最小限,授業はオンラインのみ,課外活動は全面禁止,学内会議は原則オンライン,事務体制は遅延・事後処理可,という行動指針が一目でわかる。他大学も作るべき。

サトウキビの絞りかすを原料としてサージカルマスクの不織布よりウイルスサイズのナノ粒子を除去できる素材ができたという朗報。ただし商品化はこれからとのこと。

ビッグデータにフォーカスした昨日のクロ現プラスの詳細内容紹介がアップロードされていた。昨日は最初見逃したので,土曜日の再放送を録画予約したが,宮田君って今は慶應にいるのか。(自分が助手をしていた頃の保健学科……じゃなくて,既に健康科学・看護学科になっていたか?……の学生だったが,彼の代は,人類生態に来たたけしょうや岡田君はもちろん今でも交流があるが,群馬大に赴任したときに公衆衛生学教室に「書生」という良くわからない位置づけで大活躍していた早川君など,個性的な学生が多かった)。

神戸大学は経済的な事情でネット環境構築が困難な学生にルータを無償貸与するとのこと。対象が学部生に限られているが,やらないよりは良かろう。まあ,医学部保健学科/大学院保健学研究科でぼくが担当している講義では,既にすべての学生が遠隔で受講できているが,全学的にはネット環境がない学生もいるかもしれないので必要なサポートと思う。

ヒドロキシクロロキンのRCT結果(2020年4月17日 - 当該鐵人三國誌

ハーバードのMarc Lipsitch教授がRTしていて気づいたが,Tang W et al. "Hydroxychloroquine in patients with COVID-19: an open-label, randomized, controlled trial"(2020年4月14日アップロード)という論文がプレプリントサーバに載っていた。中国でのヒドロキシクロロキン(HCQ)によるRCTの結果,ウイルスの陰性化には統計的に有意な効果はなかったが,症状緩和とCRPの低下(つまり炎症反応の減少)には有意な効果があったという報告。HCQ投与群の10%で下痢が見られたことを含め30%に副作用が見られたとのこと。投与量が最初3日間は1200mg,その後は800mg維持と,マラリア治療の量に比べるとかなり多い。うーん,やはりHCQでは治癒はしないか。

人口学の研究者として,人口動態統計の集計を早くして欲しいとCOVID-19の前からずっと思っているが,1月の速報が3月24日に出たところ。1月の死者は増えてない。4月の集計結果がでるのは,このペースだと6月か。どうして日本ではこういうデータ(NY TimesがNY市の一日死者数がCOVID-19による死者数増加よりかなり多く増えたため超過死亡や医療崩壊による死亡があることを報じた記事。折れ線グラフでの表現は間違いではないがCOVID-19による死者数を色分けした積み上げ棒グラフにした方がわかりやすくなると思う)がすぐに出ないのか? やればできると思うんだが。

唾液検査・OCHAアイコン(2020年4月18-19日 - 当該鐵人三國誌:418419

日経の記事で紹介されていた,米国FDAが唾液でのウイルス検査を迅速に承認したという話だが,唾液に感染力があるという話だから理にかなっていると思う。日経の記事はソースが示されていないが,CNNのニュースでは,Rutgers Univのリリースがリンクされている。これはサンプリング方法の改善で,検査の目的が,感染力がある人を見つけて隔離することにあるなら,鼻腔にウイルスがいても唾液に出てきていないケースを見逃しても,感染力があるレベルのウイルスが唾液に入っているのを確実に検出できれば良いので朗報。特殊な前処理が必要とかでなければすぐに導入できるし,サンプル採取時の感染リスクが減るのも良い点。

Chen C et al. "Favipiravir versus Arbidol for COVID-19: A Randomized Clinical Trial"(2020年4月15日掲載)はプレプリントサーバに載っている報告だが,Favipiravirというのが商品名アビガンのこと。Arbidolもロシアと中国で使われている抗インフルエンザ薬だが米国FDAは未承認らしい。標準治療+アビガンと標準治療+Arbidolに240人のCOVID-19患者をランダムに割り付けて治療効果を比べた結果,7日目の臨床症状の治癒割合には有意差なし,発熱と咳の軽減はアビガンの方が短い時間で起こり(それぞれ1.7日と1.75日差),有害作用としてはアビガン群ではArbidol群よりも17日目までの血清尿酸値上昇リスクが有意に高かった(オッズ比5.52)という結果。アビガンもやはり特効薬にはならなそうだな。

昨日の感染症学会での専門家会議報告についてのBuzzfeedの記事,これまでの専門家会議の説明通りで(今になって言うことを変えたと批判している人がいるが,2月25日に書いた通り,専門家会議が設置されてすぐに検査基準を広げる方向性は打ち出されていて,言うことも態度も変わっていない。それへの対応が不十分で医師がオーダーしたのに検査拒否されたりしたのは,政府が金を出さず各方面への協力要請もしなかったせいだ),とくに新しいことが加わったわけではなさそう。ぼくは一つだけ専門家会議の見解と意見が違う点があり,route of infectionによって感染力の分布が違うかもしれないと思っているので,3月末以降の感染は見えないクラスターの連鎖の増加ではなく,接触感染や飛沫感染による平均二次感染者数が小さい感染が,あまりにも多い欧米からの感染者の流入によって同時並行的に起こったためにリンクが追えない弧発例が増加していると思っている。押谷先生は感染はすべて同一様式でクラスター感染しかないという立場は変えないようだ。まあ,そう思って対処する方が安全側だから,人々の生活が成り立つ限りにおいては間違っていないが,例えば東京から地方に行って発症した感染者からの二次感染者数分布や,病院内で二世代以上の感染があった場合の二次感染者数分布がべき分布になっているのか,それとも二項分布か正規分布に近い形なのかのデータを見たいなあ。

UNOCHAのCOVID-19対応を助けるための人道主義の活動に関するアイコンのリリースLibreOffice日本語チームが報じている。

サンデーモーニングで韓国との比較をしているが,韓国で経路不明の人が減った最大の要因を見逃している。感染症対策のためには強力な法律があることでプライバシー権を侵害することが許されているため,スマホを使った感染者の行動経路の把握と公開ができていることによって,経路不明の人が減ったのだ。そこに触れないのはまったくダメ。発熱外来については,2009年の新型インフルエンザのときに発熱外来が患者で溢れた反省を踏まえて外来窓口は公表せず電話受付を二次医療圏単位で設置するという方針を厚生労働省が打ち出したのが,専門家会議設置より10日ほど前のことだったが,これが狙い通り機能していれば,公表していないだけで専用外来は設置されていたので,他の患者と同所に長くいて感染を広げるリスクを防ぎながら必要な検査はできたはずだ。誰でも行ける発熱外来を作らなかったこと自体が間違いなのではない。ぼくは以前から肺炎外来のような形にするのが良いと書いているが,根本的な問題としてかかりつけ医が確立していないことが日本の脆弱性で(医療法に一次医療圏の規定がないことがその原因で,医師が自由に開業でき麻酔科以外は何科でも自由に標榜でき,患者もどの医療施設でも好きに受診できるという利便性と裏腹なので解,改善が難しかったわけだが),英国GPやキューバのファミリードクターのような存在が確立していれば,電話相談はそこにするという,持続可能なやり方が可能だったはず。もしかかりつけ医が確立していれば,武漢で使われたような振り分けフローチャートを作ってプライマリケアを担うかかりつけ医に配ることが厚労省の仕事になったはずだ。プライマリケア医の育成体制も含めて今後一次医療圏の医療計画を医療法枠組みで法制化すべきと思う。

あと,クラスター対策の最大の功績も見逃している(尾身先生も押谷先生もあまり強調しないので伝わらない面もあると思うが)。3密条件を見つけて集団感染発生が起こりやすい条件ができることを予防することを可能にしたのは,間違いなくクラスター対策班の功績。見つかったクラスターの感染者からの接触者追跡と検査と隔離という「クラスター潰し」は日本に限らず(日本でもクラスターに限らず弧発例も含めてやっているはずで,それがされていないかのような報道はおかしい),新規感染者が多すぎて追跡が不可能になった欧米諸国を除けば,感染症の疫学的対策の基本なので,世界中どこでもやっていることなのに,あたかもそれがクラスター対策班の特徴であったかのようなミスリードは止めて欲しい。いまの日本の危機は,新規感染者が増えてきて接触者追跡を続けるマンパワーが限界に達したところにあるので,対人接触を8割減らして,追跡可能なレベルまで新規感染者を減らすことが急務,となっているわけだが,そのための方法としてはスマホを使った接触者追跡の効率化についても,そろそろ広く議論しても良いのではないか。韓国方式の情報公開は日本では無理だとしても,シンガポール方式やAppleとGoogleが5月から作ってくれるというBluetoothを使った,位置情報を使わずに接触者を見つける仕組みは,半強制的に導入して欲しい。Fraserグループの論文を読んでから何度も書いているが,接触者追跡についてのブレイクスルーになると思う。

大友さんのtweetには同意。音楽文化に生き残って貰うためには,いろいろな持続可能なやり方を模索する必要があって,少なくともそういう試行錯誤をしている間は行政がサポートしないと潰れてしまう。ぼくは今後も音楽を聴きたいし,有料のネット配信でも良いのでライブという形は続いて欲しいので(TWEEDEESの無料配信も楽しめたし,田島貴男の有料配信は購入したのに忙しすぎて半分くらいしか視聴できなかったが楽しかった),東京都は,配信していても,無観客にすることで間違いなく感染拡大防止に協力しているライブハウス(に限らず寄席でも講演会でも同様)に協力金を出すべきだろう。

Lam TTY et al. "Identifying SARS-CoV-2 related coronaviruses in Malayan pangolins"(2020年3月26日掲載)はNatureの論文で,ゲノム分析により,コウモリだけでなくマレーセンザンコウもSARS-CoV-2のリザーバーホストである可能性を示している。Current BiologyのZhang T et al. "Probable Pangolin Origin of SARS-CoV-2Associated with the COVID-19 Outbreak"(2020年4月6日掲載)もセンザンコウの寄与を示唆しているが,グラフィカルなまとめを見るとわかるように,3つの結果が異なる経路を意味するので解釈が難しいところか。

打越さんのtweetで知ったが,ProNASにDowd JB et al. "Demographic science aids in understanding the spread and fatality rates of COVID-19"(2020年4月15日)という論文が出ていた。COVID-19の伝播と死亡リスクについての年齢差があるので,政策決定に人口学の関与が必要と主張しているようだ。

在日外国人向け情報提供サイト(2020年4月20日 - 当該鐵人三國誌

自治体が50枚入り不織布マスクを市民に配るというニュースが流れているが,順番としては医療機関にサージカルマスクが行き渡った後にしてほしい。一般市民は布マスクでもスポーツマスクでもバンダナでも効果はほぼ同じなのだから。

何年か前に修論を指導した土谷ちひろさんたちが,日本にいる外国人のための情報提供をするサイトとしてCOVID-19 Hotlines in Japan: Information to help fight COVD-19 #COVID19HotlinesJpを立ち上げた(日本語版もある)。HOTLINESというメニューに,各地の相談窓口が英語による説明とともにリンクされている。有意義な活動と思う。土谷さんは,いま京大の博士課程で古澤さんの指導を受けているので,ASAFASのサイトからもこのページはリンクされている。土谷さんによると,#COVID19HotlinesJpというタグとともに広めて欲しいとのこと。

WHOの検査方針について(2020年4月21日 - 当該鐵人三國誌

新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年4月20日暫定版)が感染研サイトに載っていた。テレビでも報道されたが,やっと,濃厚接触者の定義が発症2日前から1メートル以内で15分以上に拡大されたということだ。これたぶんアプリ導入とセットでやらないと,既に不足している保健所のマンパワーがますます酷いことになると思うので,アプリ導入の目処が立ったということなのだろうか(2月初めの外国人記者クラブでの発表で,西浦さんが発症前にもかなり感染させているという報告はしているのだから,逆にもっと早くそうしてくれていれば,捕捉率を上げて感染拡大抑制がもっとうまく行っていたかもしれないのだが,前にも書いたが,ルーティンを変えるのは,よほど強い根拠がないと難しいのだろう)。

国際情報検索のテーマが感染症情報を検索するということで,WHOのCOVID-19検査に対する方針を探すという課題を立てて実演してみせた。これには3つの意味が含まれている。(1)どういう目的で検査すべきか,(2)ラボでの検査の方法はどうすべきか,(3)状況に応じた検査対象はどう選択すべきか,である。

(1)については,Unity Studies: Early Investigation Protocols.という文書が出ている。初期には少数の症例(FFX)と濃厚接触者の検査により症例に共通する特徴や二次感染者数を調べること(2月10日),世帯内伝播調査(HH)(2月28日),ヘルスワーカーの感染リスク因子の調査のための検査(HW)(3月17日),一般集団の血液検査による感染状況の調査(おそらく抗体検査による)(2月18日),物質表面のウイルス検査による環境からの接触感染リスクの調査(2月18日,プロトコル)をすべきとしている。

(2)については,Laboratory Testing for 2019 Novel Coronavirus (2019-NCoV) in Suspected Human Cases.(2020年3月19日)という文書が出ている。上気道からのサンプルと下気道からのサンプルの両方または片方を感染リスクに注意しながら採取し,2-8℃で輸送し,rRT-PCRで確定診断するとしている(この文書は約1ヶ月前に出ているので,唾液サンプルへの言及はない)。集団中への広がりの評価には血清検査(抗体検査)も薦めるし,ウイルスの系統関係や伝播経路を明らかにするために遺伝子配列検査も薦めるが,培養はルーチンとしては薦めない,と書かれている。

(3)については,Laboratory testing strategy recommendations for COVID-19(2020年3月21日)という文書が出ている。患者が未発生の地域では疑い例を全数検査するが,蔓延している国や検査能力がニーズに満たない地域では優先順位を付ける必要があり,重症化リスクの高い人やヘルスケアワーカーを優先して検査すべきとしている。

対策すれば時間が掛かるのは当然(2020年4月22日 - 当該鐵人三國誌

テレビが欧米の新規感染者数が減り始め,いろいろな社会活動の再開に向けて動き始めたと報道しているが,ロックダウンによって抑え込んだなら再開したら再流行するし,対策によって累積感染者数を低く抑え込むことができればピークに到達するまで時間が掛かるのは当然のことだ。Community Mitigationの概念図を思い出して欲しいが,対策に成功すればゆっくり感染者が増えていき,ゆっくり減っていくのだ。日本の収束がドイツやアメリカより遅れていると言って,対策に失敗しているかのような印象を与える報道をするのは間違っている。うまく行ったかどうかは総感染者数や総死者数をどれだけ低くできたかで評価すべき。

インペリグループは,いつの間にか,Christen P et al. "Report 15 - Strengthening hospital capacity for the COVID-19 pandemic"(2020年4月17日)を出していた。J-IDEAというパンデミック対策計画ツールを使って,病床,医療従事者,人工呼吸器などの病院の能力がどれくらい必要か計算している。このhospital plannerはエクセルマクロを使ったワークシートで,リンク先ページからダウンロードできる(マニュアルもダウンロードできる)。

講義が終わったのでニコ生で専門家会議の記者会見を見ている。資料は官邸のサイトにアップロードされている

時事通信の記事とか(2020年4月23日 - 当該鐵人三國誌

メール取材に答えた時事通信の記事が出ていた。答えたことの一部だが(長期的な話とかDigital Contact Tracingの必要性とか他にもいろいろ書いたのだが),大事なポイントの1つなので,良かったと思う。時事通信の規定で旧字体の名前が使えないということと,括弧内の専門性が「公衆衛生学」となっていたのが若干残念で,人類生態学……は無理でも,せめて国際保健学と書いて欲しかったところだが,まあパブリックヘルス領域だから仕方ないか。

民間検査が統計外って本当なのだろうか。少なくとも感染症法に基づくサーベイランス事業で,指定感染症は一類から四類までと同じく全数直ちに報告だから,どこが検査したかによらず,医師は保健所に報告する義務をもち,保健所から各都道府県の衛生試験所にある情報センターを介して感染研の感染症疫学センターに集約され,週報として報告されるという仕組みはあるはずだし,そこには民間検査でも入るはずなんだが。問題は週報の集計に長い時間が掛かっていることで,この報告をオンライン化して自動集計にすれば患者数把握が一元化され問題は解決するはず,と1月か2月に書いた気がする。いろいろな人が都道府県発表などからデータを拾って正しさの議論をしているが,金を掛けてオンライン化しろ,と政府に要望した方が建設的ではないか。人口動態統計の死亡統計の集計の迅速化と合わせて,早期実現を望む。

このWSJの記事,スマホでは何故か全文読めたのだが,PCで読もうとしたら有料会員登録が必要だった。接触・飛沫感染なら2 mの距離を空ければOKというWHOやCDCと,エアロゾル(NHKスペシャルで紹介されていたマイクロ飛沫で,たぶん飛沫核ではない。もし飛沫核感染があるならもっとRは大きいと思う)が長時間滞留し遠くまで飛ぶからそれじゃダメだという新説が対立しているという内容だったと記憶しているが,まとめスライドの7ページに書いたように,たぶんその両方の感染経路があって,後者にフォーカスしたのが日本の三密対策なのだ。だから,結論は両方の対策が必要という話になるはず。エアロゾルによる感染を認める報告がJAMAに出ていると書かれていたので検索してみたら,たぶんBourouiba L "Turbulent Gas Clouds and Respiratory Pathogen Emissions: Potential Implications for Reducing Transmission of COVID-19"(2020年3月26日掲載)と思われた。

唾液検査論文(2020年4月24日 - 当該鐵人三國誌

昨日も触れた感染症サーベイランス事業のオンライン化だが,医師から保健所への届出をオンライン化して欲しいとtweetした医師に対して「対応します」と内閣府副大臣が応答した。この際,医師→保健所だけでなく、保健所→地方衛研感染症情報担当→感染研感染症疫学センターも併せてオンライン化されると、指定感染症であるCOVID-19の確定診断がついた情報は迅速に一元的に発表できるはず。各都道府県や厚労省やメディアがばらばらに集計する必要がなくなる(以前から書いている通り)。

プレプリントサーバに載っているだけだが,Wyllie AL, et al. "Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs"(2020年4月22日)は重要な結果。唾液サンプルとスワブサンプルについてrRT-PCRをした両検査データが揃っているのは29人38サンプル。そのうち唾液のみ陽性が8サンプル,スワブのみ陽性が3サンプル。起きてすぐ滅菌尿カップに3回唾を垂らし,蓋をして室温輸送,5時間以内にイェール大のラボでRNA抽出で,特別な前処理なし。対象者はスワブ陽性だった入院患者と無症状の人も含む医療従事者。本当に唾液使えるかも。

COVID-19感染者に起こる合併症についての論文リンクとメモがまとめられているページ(COVID-AMR)を,ハーバードのLipsitch教授がtweetでリンクしていた。

やはり追跡が重要(2020年4月26日 - 当該鐵人三國誌

インペリのProf. Neil FergusonがThe Postでインタビューに答えた動画。リンク先の内容紹介によると,スウェーデンのProf. Johan Giesecke(理論疫学については第10章で基礎の基礎みたいなことしか書いてないが,古典的なことはわかりやすく丁寧に書かれている感染症疫学の教科書"Modern Infectious Disease Epidemiology"―長崎大の山本太郎さんと門司さんが邦訳を出している―の著者)がロックダウンを批判しているYouTube動画を出したことに対して,なぜ英国がロックダウンをしたことが正しかったのかを説明しているそうだ。しかしFerguson教授って英国紳士然として格好いいよな。

LSHTMのグループから,Kucharski AJ, et al. "Effectiveness of isolation, testing, contact tracing and physical distancing on reducing transmission of SARS-CoV-2 in different settings"(2020年4月23日掲載)というプレプリントが出ている。個人ベースモデルのようだ。Summaryの結果のところに,楽観的だがありそうな仮定の下では,接触者追跡と検査の組み合わせだと伝播を50-65%減らせるが,大規模検査あるいは自主的隔離だけだと2-30%しか減らない,と書かれている。やはり接触者追跡が鍵なので,できるだけ早く法的問題をクリアしてDigital Contact Tracingを導入すべきと思う。ぼくはプライバシー権をほとんど侵害しないSingaporeのTraceTogetherみたいなソフトなら迷うことなくインストールするが(これなら監視じゃないし)。システムとしてはFraserグループの論文をベースに考えるべき。

二次感染者数分布推定における多重代入法利用(2020年4月28日 - 当該鐵人三國誌

クロロキンは高用量だと致死的という点に注意喚起する報告が多く出るようになった(CMAJに昨日付けで出たレビュー参照)。昔パラケルススが言ったように,どんな物質も毒にも薬にもなるので,どちらになるかを決めるのは用量。マラリア予防や治療に使う量で効かないのだとしたら,使える見込みは少ないか。

14:30から神戸市長が新型コロナウイルス感染症対策について臨時会見すると神戸市広報課からのtweetが出ている。

昨日,24日にtweetした「医師→保健所だけでなく、保健所→地方衛研感染症情報担当→感染研感染症疫学センターも併せてオンライン化されると、指定感染症であるCOVID-19の確定診断がついた情報は迅速に一元的に発表できるはず。各都道府県や厚労省やメディアがばらばらに集計する必要がなくなる」を引用して,「例えば、感染研感染症疫学センターに理論疫学者と情報システム専門家とプログラマを平均年俸2000万くらいで50人常勤で雇っても年間10億で済む。それで全国のシステムを内製化できれば安いと思う。布マスクに使った金を考えたら数十年持続可能。今後も新興感染症はあるしシステムはメンテと更新必要」とtweetしたら凄い数のRTといいねをいただいている。

Lancet Infectious Diseasesに昨日出た論文(だが,既にプレプリントサーバで発表されていた論文がアクセプトされて出版されたものだと思う),Bi Q et al. "Epidemiology and transmission of COVID-19 in 391 cases and 1286 of their close contacts in Shenzhen, China: a retrospective cohort study"(2020年4月27日掲載)では,過分散を想定した二次感染者数の分布を多重代入法(multiple imputation)で推定している(Supplement 2の最終ページにText S2として簡単に説明があるが,具体的な手順やソフトは書かれていない)。論文そのものは1月14日から2月12日までの深圳CDCのデータを使って,発症から確定診断,隔離,入院までの日数と伝播に関する指標値を推定することが目的で,最初にデータを得た時点では391症例の91%は軽症で,2月22日時点では3人が死亡,225人が回復していたこと,発症後隔離まで平均4.6日だったが,接触者追跡によってこの日数が平均1.9日減ったこと,世帯内感染全体のうち患者と一緒に旅行した場合の感染リスクが6.27倍,患者と一緒に旅行すると他の濃厚接触の7.06倍感染しやすくなること,世帯内での大人から子供への感染は大人同士の感染と起こりやすさに差が無いこと,観察された再生産数が0.4で平均発症間隔が6.3日だったこと,がfindingsとしてsummaryに書かれていた。

プレプリントサーバに載っているだけだが,Tu Y et al. "Identification of risk factors for the severity of coronavirus disease 2019: a retrospective study of 163 hospitalized patients"は,87人の重症例と76人の中等度症例で入院時の各種検査値を使って多変量のロジスティック回帰分析をした結果,これまで言われていたD-dimer高値に加えて,LDH高値,好中球増加,好酸球減少が重症化リスクに関連していると報告している。この4つの変数を使ってROC分析をした結果のAUCは0.93あり,最適カットオフでの感度は0.88,特異度は0.813だったとし,好酸球と好中球の変化を重症化予測因子として使えるのではないかと提案している。

Natureに昨日出た論文(これも既にプレプリントサーバに発表されていた論文がreviseを経てアクセプトされたもの),Liu, Y., Ning, Z., Chen, Y. et al. Aerodynamic analysis of SARS-CoV-2 in two Wuhan hospitals. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2271-3(2020年4月27日掲載)は,武漢の2つの病院で2月から3月に,患者の滞在場所(PAA),患者と直接接触する医療従事者の滞在場所(MSA),誰でもいられる場所(PUA)から採取したエアロゾルサンプル中のSARS-CoV-2のRNA濃度を調べている。PAAの中では換気されていない1人用トイレが最も高濃度で,呼気や便や尿から出てきたのだろうとのこと。MSAでは個人防護具脱衣所が高濃度だったが,PUAでは入口脇の人が密集するところを除けば検出限界以下かごく低濃度だったとのこと。RNAが検出されても必ずしも感染力があるとは限らないが,submicrometre/supermicrometreレベルのエアロゾル中のRNA濃度が高かったことと,塩素系,アルコール系などの消毒薬を使って徹底的に消毒した後は,RNAがほとんど検出されなくなったので,ハイリスクな場所でのSARS-CoV-2がエアロゾル経由で感染するのを減らすためには消毒が重要であることが確認できた,と論じている。

神戸市長の会見によると,神戸市は休校を1ヶ月延長する(リンク先の神戸新聞記事によると昨日要請したらしい)という。以前から書いているが,大人の通勤を止めない限り,家庭での大人から子供への感染リスクは,学校での感染リスクと差が無いか,むしろ高いくらいなので,休校だけするのは筋が通らないのだがなあ。市バスと市営地下鉄は土日祝日に2割減便するとのこと。それで混んでしまうと無意味だが,土日祝日は減便しても混まないという判断だそうだ。質疑によるとラッシュ時は減らさず9:00-16:00辺りを減便させるとのこと。神戸市のサイトにのっているアナウンスによると主要6路線で4割減便。なお,観光客が多かった路線である25系統は半減と書かれているが,元々,寒くない時期の土日祝日しか運行しない森林植物園行きだから,行かないで欲しいということなんだろう。

新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(2020年5月1日 - 当該鐵人三國誌

新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)の導入について(システム概要、準備の御案内及び先行利用保健所の募集)という厚労省からの事務連絡が出た。医師→保健所→都道府県衛生研の感染症情報担当部局→感染研感染症疫学センターという流れ(これはCOVID-19に限らず1類から4類の全数報告の感染症についてはすべて,どこで検査したかによらず,診断した医師の義務)で行われてきたCOVID-19確定患者情報の集計は,最初の段階は紙とFAX,途中もそれぞれスタンドアロンのシステムで効率が悪く時間も掛かっていたが,『新型コロナウイルス感染症に関する医師から保健所への発生届、保健所から都道府県等への報告については本システムへ入力いただく形で行うこととさせていただく予定です(具体的な運用方法に関しては、別途通知を発出予定ですが、新型コロナウイルス感染症に関しては、各自治体におけるNESID(国立感染症研究所が運営する感染症サーベイランスシステム)への入力作業は不要となります。)』ということなので,COVID-19については都道府県は介さない流れができるようだ。それ自体は,国による集計が迅速化されるだろうから朗報。ただ,少し不安なのは,情報の流れの一元化でなく複線化のように見える点。都道府県は中抜きしても,保健所も入力すると書かれている理由がわからない。下手をしたら保健所の負担は増える気さえする。保健所の医師が検査結果を見て確定診断した結果を入力するのならば良いが,検査結果が直接入力されるのでは,医師からの入力と齟齬が生じる可能性はないだろうか。元々ある感染症発生動向調査の各段階をオンライン化してデータベースを連結する方が解決策としては筋が良いと思うのだが(COVID-19だけでなく,すべての感染症発生動向調査が迅速化され人為的なミスも減るはずだし,保健所の負担も減るはず),改善には予算がつかず,新規導入だと予算がつく,という悪しき慣例か。ということは,システムも外注なのだろうし,まともに運用できるかわからない(そのチェックのために先行して導入する保健所を募集しているのだろうが)。それでも,うまく動けば,診療現場での医師の負担は軽減されるし,都道府県担当者の負担も軽減されるだろう。それで満足するべきなのか。

インペリグループ第16報は,Grassly NC et al. "Report 16 - Role of testing in COVID-19 control"(2020年4月23日掲載)で,対象者と状況別の検査の意味を検討している。感染リスクが高い人から感染したときの死亡リスクが高い人への伝播を減らすために医療従事者や老人福祉施設職員のPCRと抗体検査は伝播の防止に役立つと論じている。とくに,医療従事者の中でもICU勤務の人は毎週リアルタイムRT-PCR検査すべきとしている。症状の有無によらず感染リスクの高い人を定期的に検査すれば,検査感度と結果がタイムリーに出るかどうかにもよるが,伝播の1/3は減らせるとしていて,現在,英国のいくつかの病院でパイロット調査を進めて検証中とのこと。一方,一般公衆全員のスクリーニング検査には否定的。むしろ,アプリを使った接触者追跡によって,症状があれば,検査なしでも隔離する方が伝播を減らすのには有効としている。

インペリグループ第17報(Perez-Guzman PN et al. "Report 17 - Clinical characteristics and predictors of outcomes of hospitalised patients with COVID-19 in a London NHS Trust: a retrospective cohort study",2020年4月29日掲載)は,後ろ向きコホート研究によって,退院例302,死亡例144,調査打ち切り時点で入院継続中だった74を右側打ち切りとして,死亡リスクを上げる要因を多変量のロジスティック回帰分析で調べたもので,年齢はやはり入院後死亡リスクを有意に上げたが,先行研究で言われてきた基礎疾患を有することやd-dimerやLDHが有意でなかった。好中球や好酸球やSOFAスコアは検討されていない。一方,低酸素症,血小板低値,eGFR低値,ビリルビン高値,アルブミン低値が有意に入院後死亡リスクを上げていたことに加え,年齢・基礎疾患の有無,入院時の重症度を調整すると,黒人が白人よりハイリスクとのこと(全部の変数を入れたモデルではエスニシティは有意でないが)。

LINEの第4回質問が来たが,「仕事はテレワークにしている」は答えにくい。テレビで27%程度しかYESがなかったと報じられているが,ある程度テレワークにしていても,完全にできていないとチェックが付けられない。「テレワークにより通勤/通学回数を減らしている」ならチェックを付けられるのだが。

厚労省サイトで,地域ごとのまん延の状況に関する指標等の公表についてというページができていた。なぜcsvにしないのかわからない,pdfなので見にくい発表形式ではあるが,都道府県別の報告日ベースの確定患者数の推移,リンクが不明な患者数,都道府県別各日の相談件数,受診者数,PCR検査実施件数の推移,PCR検査実施人数の推移がリンクされている。

専門家会議の記者会見で,西浦さんがgithubに分析の詳細を載せたと言っていた。R0を「あーるのーと」でなく「あーるぜろ」と言っていたのはリスコミ的な配慮か。提言書がまだ対策本部のサイトに載っていないのでgithubのアカウントがわからないが,モデルを出せという批判に答えたということか?

が,気がついてみたら専門家会議の資料が内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策サイトに載っていて,githubのアカウントがわかった(contactmodelだが,Cluster Interventionと名乗っているので,クラスター対策班として作ったアカウントなのだろう)。補足説明資料を見たところ,モバイル空間統計データから1月の平時と4月の非常時の異なる年齢群間での接触頻度行列を求め,いろいろな場所について年齢間接触頻度の変化率を計算したということのようだ。この部分だけだと単なる行列計算なので,莫大なデータ(たぶん有料だから公開できないと思う)について力業でやったということだからコードは載っていないのだろう。

特異度100%は本当か(2020年5月2日 - 当該鐵人三國誌

NHKで,三宮のライブハウスが合同で無観客有料ライブ配信を企画していたが,休業要請が出たので事前収録したものを無料配信したところ,6割のチケット購入者が返金を辞退したという話を報じていた。ライブハウスジャッジメントのことだろう。ああ,でも6月21日に振り替え公演はあるんだな。神戸デジタルラボが技術協力しているそうだ。

クラボウがADS Biotecと提携して研究用に販売しているイムノクロマトキットって(カタログ記載性能が二社で異なる―ADS Biotecの説明書では226例となっている―ので,別のキットである可能性もあるか? と一瞬思ったが,Business Wireの記事ではクラボウのカタログに記載されている値が紹介されているなあ),クラボウのキットのカタログには特異度100%と書かれているのだが,本当だろうか。他のキットに比べて値が良すぎる。そこの信頼性が崩れるとこういう推論(神戸市の病院で救急部と発熱外来受診者を除いて血液検査を受けた外来受診者の血液サンプルからランダムサンプルした1000検体の検査をした結果,神戸市の有病割合3.3% [95%CI 2.3-4.6%]と推定されたという)(リンク先はDoi A et al. "Estimation of seroprevalence of novel coronavirus disease (COVID-19) using preserved serum at an outpatient setting in Kobe, Japan: A cross-sectional study."(2020年5月1日にプレプリントサーバに掲載)を紹介しているブログ記事)の根拠が崩れてしまうので,特異度についての詳細データが欲しい。少なくとも,IgM何人,IgG何人に検査をした,ではなく,それぞれリアルタイムRT-PCR陽性の人何人,陰性の人何人に検査をしたのか公開してくれないと,特異度の信頼性がわからない(そもそも,RT-PCR陰性であっても実はSARS-CoV-2に感染している人とか,かつて無自覚に感染して治癒した人は,検査性能の評価では,SARS-CoV-2なしのグループになるはずだが,抗体検査で陽性になる可能性は高く,特異度100%という結果は原理的に怪しい)。なぜキットのカタログはクロス集計を載せていないのだろう。Doi et al.の論文は,キットの感度と特異度が十分に検証されていないことをlimitationとして触れていて,論文としてまっとうだが,仮に,特異度が実は95%でした(SARS-CoV-2に感染したことがない人でも5%は陽性と出ます,という意味),ということになると,推定される有病割合の信頼区間幅が相当に広くなってしまって,推定の意義がかなり損なわれる可能性がある。その点,解釈に注意が必要と思う。

基幹インフラのあり方(2020年5月5日 - 当該鐵人三國誌

R-develメーリングリストで,covid-19についてデータをダウンロードして分析できるようなサイトを教えて欲しいという投稿があり,これ(githubページ)とかこれ(CSV形式のデータそのもの)とか,これ(これもgithubページ)といった情報が返ってきている。(追記)1つ追加された。

最初から全国一斉休校は筋が悪いと書き続けているが,おそらく今後できる形としては,交通機関を使わず通学できる小中学校は対面での会話をしないとか対人間隔を空けるといった対策を取りつつ通学しての授業をし(もちろん感染者が出たら台湾のような基準で学校ごとに学級閉鎖や休校を判断するとして),多くの生徒が交通機関を使って通学し,学校教育法上の義務教育ではなく,授業の中身として知識の教授という側面が強まる高校以上は,実習を除いて基本オンラインとするのが持続的かもしれない。専門家会議は小中高は地域ごとの実情を踏まえつつゼロリスクではないが教育を受けられる便益を考えて再開,特別支援学校は一層慎重に判断(5月1日付け)と提言しているが,ぼくは小中学校と高校は分けて考えた方が良いと思う。なお,部活などの課外活動の再開は,部活の内容も水準も規模も千差万別だから,後述するライブハウスなどと同様に,当事者が専門家に相談しながらガイドラインを考えて政府に認めさせる戦略をとらないと話が進まないと思う。ずるずると再開延期を続けるだけでは子供たちが気の毒だが,かといって,ハイリスクな行動を見過ごすことも感染拡大防御上許されないので。

高校以上は基本オンラインとすると,もちろんそのためのインフラ整備は必要だ。ぼくは元々基幹インフラは効率よりも安定性が重要なので非営利の公営事業にすべきという意見だ(ブログでも何度か書いている)。警察と義務教育のような公権力の行使あるいは公的なレギュレーションが必要なものは当然として,電気,ガス,水道に加えて,鉄道と通信と医療も公営にした方が良いと思っている。日本は不幸にして逆向きに(米国からの圧力もあったと思うが),国鉄をJRにし,電電公社をNTTにし,郵政民営化し,最近では水道事業さえ民営化する道を作ってしまったが,水道民営化が世界各地で失敗したのはわかりきっていることで,基幹インフラの民営化は,どう考えても間違っている。公営であれば,その事業自体は利益を生まなくても良いが,営利事業になったら儲けなくてはいけないから,事業そのものにかけられるリソースが減る。電気とガスと水道を地方自治体が運営することにして支払いも一体化したら,むしろユーザにとって便利ではなかろうか(ただし,基幹を公共が支えることを義務付けるけれども,例えば現在の新電力系の営業のように,送電網を借りて売電するような民間参入は妨げないことにする)。医療の公営化は難しいのだが,日本には一次医療圏,つまりプライマリケアレベルの医療計画がないから,医療法を大きく改正して,キューバのファミリードクターや英国のGPのように,公務員あるいはそれに準じた形で,かかりつけ医を公務員として組織化し,一次医療圏の医療計画と病診連携を併せて法制化することは不可能ではないはずだ。医師会が反対しそうだが,それまでに掛けた設備投資などは何らかの形で補償することで納得して貰えれば,かなりいろいろな医療問題が解決する可能性がある。無線通信網としてNTTドコモとauとソフトバンクとYahooとUQくらいを国が買い取り,税金で運営して無償提供したら良い。問題は,そのための財源として,いくらまでなら掛けて良いかという国民の合意を得ることだろう。自分が金を出すのではなくても,いくら出せるかという支払い意思額(WTP)だから,CVMの手法で調査はできるはず。そういう意味で,CVMの出番なのだが誰もしないなあ。逆側では,いくら貰えたらあと1ヶ月外出規制続けますか? と聞いて,その回答に基づいてWTAを求めた上で給付額を決めれば,10万円より根拠あるのに。

血清学についてのMarc Lipsitch教授がワシントンポストに書いた意見(2020年5月4日付け,無料公開)。

テレビを流していたら,日赤が#最前線にエールを何度でもというキャンペーンをしていることを知った。UNIVERSAL MUSIC提供の動画が公開されているが,誰でも自分で歌や演奏の動画を作って公開できるそうだ。リトグリも朝がまた来る(これも絶品だが)だけでなく,何度でものライブ映像を公開してくれないかなあ。

ああ,ライブ行きたいなあ。ライブハウスは,マスク必須で密度を下げ強力な換気システムをつければ,何人規模まではOKとか(ただし客が遠征するのは不可で,アーティストが現地に来てくれるのを待つようにするとか),声を出さないクラシックならもう少し大規模でもOKとか,無観客有料配信ならOKとか,ある程度新規感染者数が減ってきたら3密条件を避けて営業できるようなガイドラインを,根拠に基づいて策定する必要がある。1月か2月から書いているが,これは専門家の助言が必要だとしても,業界自身が本気で考えなくてはいけない長期戦略と思う。検索してみたら,#STAYMUSICによる署名活動が始まっていたが,国にガイドライン策定を求めるというよりも,業界で作ったガイドラインを国に認めさせるというスタンスでいかないと進まないと思う。国も専門家会議もライブハウスについて素人だし,例えばクラスター感染を起こしにくい営業形態の上限が20人なのか50人なのか100人なのかは設備や演目や座席の配置や参加の仕方のレギュレーションによって千差万別なのだから,根拠を国や専門家会議が一律何人ですと示せるはずがない。損益分岐点を上回りアーティストにとっても持続可能なレベルとして何人は必要だから,というところから出発して,国にガイドラインを認めるよう突きつける方が良筋と思う。

昨日の首相の会見で提示された専門家会議の提言について,「新しい生活様式」という言葉に噛みついている人が散見されるが,リンク先の原文を読めばわかるように,あれ実践例だからな。専門家会議はこれまで何度も,どういう行動変容なら持続可能か一緒に考えて欲しいと言ってきたのに,具体性がないとかいう批判が多いから例示したのだと思う。「新しい生活様式」として例示されていることの中身は,韓国がいう「生活防疫」(2020年5月4日読売新聞記事参照)と同じようなこと。強い接触制限により新規感染者数を一定レベル以下に抑え込めても,集団免疫がついて終息したのではないから,昨年までの生活に戻ってしまうと感染の急拡大が始まるのは間違いないので,緩和策として持続可能な行動変容は1~2年続けなくてはいけないのは当然。スウェーデンやブラジルのように集団免疫戦略をとった国以外は皆同じ。

検査陽性率が低いことを行動制約解除の基準にするという発想はおかしいと思う。医師が臨床所見から確定診断が必要と考えて検査した場合(以前書いた検査A),陽性率はある程度高くて当然である。感染者と濃厚接触があった人も(以前書いた検査B),ある程度陽性率が高くなって当然である。検査陽性率が低い国の方が高い国よりCFRが低いと言われるが,感染している可能性が高い人だけでなく広く無症状や軽い症状の人まで検査したとき(以前書いた検査C)に検査陽性率が低くなるのだろうから,検査陽性者のうち無症状や軽症の人が占める割合が増え,CFRがIFRに近づいて,見かけ上CFRが低めに出るのも,また当然であろう。それは,死者を減らせたことを意味しない。検査陽性率の国際比較などする人はどういう仮定をおいているのだろうか。同一地域の経時的比較でも,かなりいろいろ仮定して多重代入法にでも使うのならわかるが,単独で意味を持つとは思えない。

むしろ,これまでにわかったことから考えたら,Digital Contact Tracingを導入して,濃厚接触者のうち風邪様症状がある人は(もし施設に余裕があれば無症状でも)検査をする前でも施設隔離,濃厚接触の有無にかかわらず肺炎症状で確定診断が必要と医師が判定したら唾液を使ってRT-PCR検査,とすると,リソースの最適配分をしながら感染を終息させることができるはず。もちろん3月までやっていたくらいの個人防御を続けて飛沫感染と接触感染を低く保ちながら,三密を避けてクラスター感染が起こるのをある程度予防できることが前提だが。そのためにも,さっきも書いたように三密を防げるような業態のガイドラインは重要だし,病院や介護施設のようなハイリスクな場所では徹底的な感染防御が必要で,それができるようなリソースを投入しなくてはいけない。

WHOの時系列記録のページ

Lancetに,中国での二重盲検でプラセボ対照のRemdesivirの多施設RCTの結果がWang Y et al. "Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial"(2020年4月29日掲載)として発表されていた。統計的に有意ではなかったが臨床的な改善は速く認められた。ただし有害副作用がプラセボ群よりも多く認められたので治験は途中で終了した,という論文。メディアは早期承認だとか各国に供給だとか騒いでいるが,単独投与では見込みなさそうだなあ。

Dunn CG et al. "Feeding Low-Income Children during the Covid-19 Pandemic" N Engl J Med 2020; 382:e40, DOI: 10.1056/NEJMp2005638(2020年4月30日掲載)は,米国でも休校によって学校給食がなくなったことで貧困層の子供が栄養失調の危機にあるので,3月18日に発効した"Families First Coronavirus Response Act"という法律で使えるようになった1兆ドルの一部を使って,"Supplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)"に既に入っている世帯には給付金を出しているが,パイロットプログラムの結果はあまり有効でなく,"National School Lunch Program"や"School Breakfast Program"で直接貧困層の子供に給食を提供していたときより子供の健康状態が悪化しているので,更なる栄養改善活動が必要と主張しているようだ。

ScienceにWatanabe S et al. "Site-specific glycan analysis of the SARS-CoV-2 spike"(2020年5月4日掲載)という分子生物学論文が載っていた。筆頭著者は日本人のようだが所属はUKのサザンプトン大学だし共著者もUKの人たち。SARS-CoV-2がヒトの細胞に侵入し膜融合するときに働くスパイク(S)糖タンパク(ワクチン開発のターゲットになる)の遺伝子配列と構造を解析した論文のようだ。

5月1日の専門家会議資料には,インペリグループのReport 9(ぼくも発表翌日にわりと詳しく説明した論文)と,Scienceへの発表翌日に軽く触れたKissler et al.が参考資料として概要が載っていた。

Ferguson教授のスキャンダル辞任(2020年5月6日 - 当該鐵人三國誌

インペリのFerguson教授,新聞に不倫スキャンダルをスクープされて諮問委員会を辞任とは,ため息しか出ない。Lipsitch教授も嘆くtweetをしていた。Suppressionしないと死者が爆発して大変なことになるからといってロックダウンを提唱したFerguson教授自身が禁を破って人と会っていたという点については,彼自身は3月中旬に感染して治癒した人だから,感染拡大に寄与する恐れはなく,合理的には批判する点ではない。ぼくは,不倫は配偶者に対する人間として許されない裏切りだと思っているので,もし本当ならFerguson教授を人間として軽蔑するけれども,それと理論疫学専門家としての能力は関係ないと思う。英国社会もそこまで合理的ではなかったということか。

Scienceに載っているZhang J et al. "Changes in contact patterns shape the dynamics of the COVID-19 outbreak in China"(2020年4月29日掲載)は,かなり仮定が大胆というか雑なモデルを使っているので,武漢と上海でのアウトブレイク前からアウトブレイク中までの接触調査データと湖南省の接触者追跡データを使って検証している点は貴重だし主な結論はそれなりに説得力があるが,そこまで信頼性が高いアウトカムとは思えない。Abstract最後の文の後節に引っ張られない方が良い。

D-dimer高値は血栓リスクと関係しているわけだが,COVID-19の臨床系の論文で血栓形成が重症化と関係しているというものが出てきている。Middeldorp S et al. "Incidence of venous thromboembolism in hospitalized patients with COVID-19" doi:10.1111/jth.14888(2020年5月5日掲載)とか。

Nature Communicationsに載っているWang C, Li W, Drabek D et al. "A human monoclonal antibody blocking SARS-CoV-2 infection." Nat Commun 11, 2251 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-16256-y(2020年5月4日掲載)は,SARS-CoV-2の感染を防ぐヒトモノクローナル抗体を作ったというタイトル。培養細胞でのin vitroの実験では中和活性があったという。

ハーバードのMarc Lipsitch教授のグループから2編。Kahn R et al. "Potential biases arising from epidemic dynamics in observational seroprotection studies"(2020年5月6日)はプレプリントサーバ,Li R et al. "Estimated Demand for US Hospital Inpatient and Intensive Care Unit Beds for Patients With COVID-19 Based on Comparisons With Wuhan and Guangzhou, China"(2020年5月6日掲載)はJAMA Network Open。前者は血清疫学的な研究に潜在的につきまとうバイアスの評価をしたもので,後者は米国のICUベッドの需要を推定したもののようだ。

Nature Publishing GroupにScientific Dataというジャーナルがあるようで,Ostaszewski M et al. "COVID-19 Disease Map, building a computational repository of SARS-CoV-2 virus-host interaction mechanisms"(2020年5月5日掲載)は,ウイルスと宿主の相互作用の分子的プロセスを再構築するためのプラットフォームとしてCOVID-19 Disease Mapを作ったという話のようだ。

片対数グラフを描くコード(2020年5月9日 - 当該鐵人三國誌

5月5日にリンクしたが,R関係のリソースは使いやすくて,国際比較のデータを読んで片対数グラフを描くコードくらいなら,このように(リンク先は先に示したコードの実行結果PNG画像)簡単にできる。ちなみに,このコードで工夫したのは,ローカルにデータファイルがあればそれを読み,無ければダウンロードしてから読んで描画するようにした点。

Gigazineに,AppleとGoogleの「新型コロナウイルス追跡システム」を実装したアプリでは位置情報の追跡を禁止という記事があった。

ウォールストリートジャーナル日本版のコロナで大気汚染が急減、科学者も驚く効果:工場停止と渋滞解消でサンフランシスコの二酸化窒素レベルは20世紀前半以来の低さにという記事(残念ながら会員限定だが)。地球温暖化の警鐘がいくら鳴らされてもCO2排出は抑えられなかったが,COVID-19パンデミックで死なないためには経済活動が大きく抑制され,結果として大気汚染が急減するという有益な副作用がもたらされたという話。これは木曜夜に人類生態の先輩たちと喋ったときにも出たが,どれだけ自分のことととして捉えられるのかが違うのだろう。

どさくさに紛れて検察の私物化を図る安倍政権。民主主義の危機。この立憲民主党のtweetにある枝野代表の国会での発言に,コンパクトに問題点が指摘されている。

このtweetで知ったが,UKのdigital contact tracingのアプリはソースがgithubに公開されている。tweetでリンクされているBBCの記事は偉くて,ちゃんとgithubをリンクしている。NHSXの中にAndroid用アプリ,iOS用アプリ,ドキュメントのレポジトリがある。

Marc Lipsitch教授のtweetで紹介されているBoston Globeの記事が,格差と分断がCOVID-19の死亡率を押し上げると言っている。これもちゃんと元論文(ワーキングペーパー)がChen JT et al. "COVID-19 and the unequal surge in mortality rates in Massachusetts, by city/town and ZIP Code measures of poverty, household crowding, race/ethnicity,and racialized economic segregation"(2020年5月9日掲載)としてリンクされている。

日本科学技術ジャーナリスト会議が5月12日20:00からニコ生で【8割おじさん西浦教授に聞く】新型コロナの実効再生産数のすべて オンライン講演会生中継という企画をしている。火曜の夜か。

Marc Lipsitch教授が,コーネル大学のプレプリントサーバに載っているBritton T et al. "The disease-induced herd immunity level for Covid-19 is substantially lower than the classical herd immunity level"(2020年5月6日掲載)と,BMJのプレプリントサーバに載っているGomes MGM et al. "Individual variation in susceptibility or exposure to SARS-CoV-2 lowers the herd immunity threshold"(2020年5月2日)を「重要な指摘をしている」とtweetしていた。

COVID19パッケージ(2020年5月11日 - 当該鐵人三國誌

一昨日は確定患者数について国際比較するコードを書いたが,ふと思い立って死者数について書いてみた。

deaths.Rworlddeathssemilog.pngをリンクしておく。Rコードにコメントしてあるが,データは,COVID19パッケージのgithubページからリンクされているcsvファイルを使った(Guidotti E, Ardia D (2020) COVID-19 Data Hub. Working paper https://doi.org/10.13140/RG.2.2.11649.81763)。

ちなみに,使ったcsvファイル(data-1.csv)はレベル1,つまり国レベルの情報で,国名(country),日付(date),累積確定患者数(confirmed),累積死者数(deaths)だけではなく,以下の変数も含まれている。

さらに,人口の情報(popが総人口,pop_femaleが女性人口割合,pop_14が年少人口割合,pop_15_64が生産年齢人口割合,pop_65が老年人口割合)なども含まれている。しかし,social distancingの程度とか三密予防をしているかといった情報は含まれていない。

レベル1の他にレベル2のstateレベルのファイルとレベル3の市町村レベルのファイルがあり,COVID19パッケージを使うと,例えば,covid19(c("ITA","USA"), level = 3)でイタリアとUSAの市町村別データが得られるなど,どのレベルの情報でも読めると書かれている。

Twitterで指摘したら,日本科学未来館のサイトに5月8日分の振り返りとして修正した数式が掲載された。「振り返り」という形でフォローアップするのは大変良い姿勢と思う。

インペリグループのShort-term forecasts of COVID-19 deaths in multiple countriesを引用して,Lancetのエディトリアルがブラジルの死亡の多さに触れ,COVID-19 in Brazil: "So what?"(2020年5月9日)と書いている。"So what?"はブラジル大統領の発言。Lancetは同じ日に,Cousins S "New Zealand eliminates COVID-19"というレポートも載せている。本当に国によって状況は大きく違う。

マスメディアやSNSを見ているとまだ勘違いしている人が多そうだが,感染者を100%検出できる検査が存在しない以上,どんなに検査をしたって検出率100%にはならないし,以前から書いている(A)(B)の検査をやりきれればそんなに検出率は落ちない。世界中どの国でも確定感染者の数倍から数十倍の幅で無症状を含む感染者はいる(韓国であろうとドイツであろうとアイスランドであろうと,100%検出はできない)。5月5日に書いたように,早くdigital contact tracingを導入して,濃厚接触者を隔離するのが大事(もちろん強制隔離ではなく,自分が濃厚接触者であると知った人が,自ら納得して自己隔離できるようなスキームでなくてはいけないし,そのための費用は社会防衛目的なので公費で提供されるべき)。

Webナショジオ連載開始(2020年5月12日 - 当該鐵人三國誌

先日川端君からの提案で実現したインタビューが,今日からWebナショジオで連載開始。4月中旬の日曜午後に6時間くらい掛けてZoomでインタビューを受けた内容を川端君が咀嚼して文章にした後でチェックさせて貰って情報追加したものなので,既に内容は固まっているのだが,1日当たりの量には制限があるらしく,結構長い連載になるらしい。状況の変化によっては今後追加もあるそうだ。CFRとIFRの違いとか検査性能の評価の話,そしてクラスター対策の本当の意味については,とくに世間の共通認識になって欲しい。

柏野さんがtweetされていたので知ったが,John's Hopkinsの接触者追跡についてのcoursera

20:00からJASTJ主催の【8割おじさん西浦教授に聞く】新型コロナの実効再生産数のすべてwebinarに招待されたので(ありがとうございます)Zoomで視聴。想像以上に充実していたが,スライド(コードとともにgithubからダウンロードできる)は事前にダウンロードして予習できるようにしていただけたら尚良かったかも。質問を3つして2つ拾っていただけた。最後に人口学者として気になった点についてコメント1つ追加したが届いただろうか。今日答えきれなかった質問については,後日Noteのページでフォローされるとのことだった。

インペリレポート18-22(2020年5月13日 - 当該鐵人三國誌

ナショジオ第2回が公開された。

ちょっと油断しているとインペリグループはたくさん論文を出しているなあ。5月に入ってからReport 18-22と5本も出ている。

超過死亡の計算は複雑(2020年5月14日 - 当該鐵人三國誌

厚労省に承認された抗原検査は鼻腔スワブを使うのか。rRT-PCRより感度は低いのだから,即時性と簡便性だけがメリットだと考えたら,むしろ唾液サンプルにすべきだろう。しかも国内臨床検体では特異度98%では,陽性という結果も信頼できない(リンク先資料は陽性判定なら確定診断とすると書かれているが大丈夫か?)。さらに,陰性という結果が出た場合は確定診断とならず症状があればrRT-PCRに掛けねばならないとすると,rRT-PCR自体の負荷を若干減らす効果はあるかもしれないが,全体としてはかえって手間は増えることになるのではないか。このレベルの検査性能では歓迎できないなあ。

インフルエンザと肺炎による超過死亡の速報が感染研のインフルエンザ関連死亡迅速把握システムによる報告として公表されているが,計算の仕組みについて十分な説明がリンクされていない(2015年の人口動態統計の目的外使用によって得たデータを使っていることはわかったが)。大日さんがやっているらしいのでいろいろ検索したら,この論文(working paper)に書かれている方法を使っているようだ。時系列の自己相関を使うモデルだがいろいろ複雑なので,数人閾値を超過したからといってどういう意味があるのか解釈することは難しい。

専門家会議記者会見で尾身先生が言われている,WHOが出している検査陽性率3-12%なら検査体制が合理的というのはソースが見つからない。どういうロジックなんだろう? 抗原検査も良さが強調されているのだが上記の疑問点はどのメディアも訊いてくれないのでわからない。とくに,陽性率3-12%にしてしまったら抗原検査で確定診断が付くケースなど大勢に影響しないのではないか。いろいろわからない。

TwitterでWHOの陽性率のソースについての疑問を書いたら,すぐに何人かの方が教えてくださった。3月30日のMedia briefingにおけるMKの発言(55分あたり)らしい。文章を読むとだいぶニュアンス違う。広範囲に検査した地域では3-12%くらいになっていたという経験値を紹介した発言で,その後も読むと10%以下なら見当違いな対象を検査してるのでない限りすべての患者を捕捉できていて,80-90%陽性なら相当見逃しがあると言っているが,その間については条件次第という感じで,3-12%に収めることが検査体制の目標というわけではない。

JAMAのBCG論文(2020年5月15日 - 当該鐵人三國誌

ナショジオ連載の第4回が公開された。若干変な表現があったので担当の方に伝えたらすぐ直していただけた。フットワーク軽くて素晴らしい。

NHKのニュース報道新型コロナ BCGワクチン“予防効果なし” イスラエル研究GはJAMAに掲載された元論文のスクリーンショットを載せてくれているので探しやすかったが,そこまでするなら直接リンクしておけばいいのに,何故しないのか謎。

Mao B et al. "Assessing risk factors for SARS-CoV-2 infection in patients presenting with symptoms in Shanghai, China: a multicentre, observational cohort study"(2020年5月14日掲載)というLancet Digital Healthの論文は,中国の25の病院の発熱外来を受診した疑い例のうちCovid-19に感染していたという確定診断がついた人と,それ以外の人で,受診時に得られるデータを比較してリスク要因を評価したというデザインで,対照も発熱外来受診した疑い例なので,母集団をどこまで広げて考えられるかは慎重に考えなくてはいけないが,14日以内の曝露歴(流行地に行ったか患者と濃厚接触したかクラスターに入っていたか),疲労感,白血球低値,リンパ球低値や胸部画像所見(ground glass opacityと両肺影響あり)が感染リスクを上げたとしている。これまで重症化リスク因子や死亡リスク因子をこの方法で分析した論文はいくつかあったが,感染リスク評価をしている論文は初めて見た。

ドイツの変化点と政策の関係(2020年5月16日 - 当該鐵人三國誌

ナショジオ連載第5回

Scienceの論文,Dehning J et al. "Inferring change points in the spread of COVID-19 reveals the effectiveness of interventions" DOI: 10.1126/science.abb9789(2020年5月15日)は,短期間のモデル予測に基づいてタイミングがクリティカルな封じ込めや緩和といった介入戦略が取られているが,そのとき重要なのは,介入戦略の効果がまずどのように表れるかをどうやって評価するかなので,SIRモデルのパラメータ推定をMCMCで行い,時間依存する感染拡大速度(この論文ではSIRモデルのdS/dt=-λSI/Nという立式をしていて,このλを感染拡大速度[spreading rate]と呼んでいる。βを使うことが多いと思うが,感受性者と感染者の接触に比例して感染が起こる確率を示すと思えば良い。通常定数で考えるが,この論文ではλ(t)と時間依存して変化するとしている)もパラメータに入れたというもの。報告数ベースのドイツの感染者数データについて,感染拡大速度パラメータの変化点を3つ見つけたとし,1回目が3月7日頃の0.43から0.25への低下で,最初に政府が大規模集会のキャンセルと注意喚起を公衆に訴えたタイミングと一致しており,2回目は3月16日頃の0.25から0.15への低下で,学校や店の閉鎖を含む2度目の政府介入のタイミングと一致し,その時点でλ-μが0.02とゼロに近づいたもののまだプラスだったが,3月24日頃,3回目のλの変化として0.15から0.09に低下したのは(それによってλ-μが負になり新規感染者が減り始めた),政府が対人接触を禁止し生活必需品でない物の商店はすべて閉鎖と発表したタイミングであったとのこと。モデルの骨格は単純だがScienceに載るのだなあ。

Marc Lipsitch教授がtweetで触れていたのは,Holmdahl I, Buckee C "Wrong but Useful — What Covid-19 Epidemiologic Models Can and Cannot Tell Us" DOI: 10.1056/NEJMp2016822(2020年5月15日)というNEJMのPerspective。すべてのパンデミックモデルに間違いはあるが役に立つ,という話。

ナショジオ連載第6回(2020年5月17日 - 当該鐵人三國誌

累積確定感染者数の100人以降の推移の片対数グラフ

ナショジオ連載の第6回が公開された。今日の話は,検査性能(2月25日)傾きが緩い意味(3月10日)関連。以前も書いたが,https://www.datacat.cc/covid/で作ったグラフはメディアへの掲載が許されないらしく,Rでグラフを作った。記事にURLが載っているコードだと英語表示なのと,いつの間にかデータファイルからcountryという変数が消えてしまったのでadministrative_area_level_1をcountryに付値し,メッセージも日本語化したコードを載せておく(Shift-JIS版UTF-8版)。国名を変えたり増減させるだけで他の国も灰色でない表示にできるはずなので,例えばアイスランドよりブラジルを表示したかったら"Iceland"を"Brazil"に,"アイスランド"を"ブラジル"に変えるだけで,自動的にアイスランドの線が灰色になり,ブラジルの線にマゼンタ色が付く。

LancetのKaplan HS et al. "Voluntary collective isolation as a best response to COVID-19 for indigenous populations? A case study and protocol from the Bolivian Amazon" https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31104-1(2020年5月15日掲載)は,ボリビアアマゾンに住むTsimaneという採集・焼畑農耕民でのCOVID-19の拡散を防ぐため,人類学者,医師,部族の指導者,地区当局が共同で,多段階のCOVID-19予防と封じ込めの計画を開発し実装したという話。第1段階では教育,アウトリーチ,準備,第2段階では封じ込め,患者管理,隔離に焦点を当てるという戦略は,Tsumane同様にCOVID-19が流行してしまったら高い死亡リスクが見込まれる他の先住民にも適用可能だろうと論じている。

波長222 nmのUV-C(2020年5月18日 - 当該鐵人三國誌

ナショジオ連載の第7回が公開された。今日の話は,まとめスライドrev.2のスライド9と,3月11日に主張したことと,新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム関連。抗体検査については,3月12日のメモ5月2日のメモもご覧いただくと良いかも。

テレビでUV-CをSARS-CoV-2の消毒に使うという話をやっているが,この講義資料の16枚目に書いた通り,細胞障害性が強くて皮膚がんを起こすかもしれないし,見続けると電気性眼炎になるし,人がいるところでは使えないよなあ……と思っていたら,遠紫外線C波(真空紫外かと思ったら,そうではなく222 nmのUV-Cがコロナウイルスを数分で不活化するとコロンビア大学が発表したという。コロンビア大学がウシオ電機と2015年に独占契約と書かれている)が人体に無害という研究が出たとか言っているが本当か? リンク先のAFPBBの記事によると,コロンビア大学の研究はNatureに投稿中だそうだが。なお,2018年に神戸大学とウシオ電機が皮膚への急性障害なく222 nmで殺菌できることを示した研究があり,2020年3月30日には繰り返し照射しても影響なしというプレスリリースも出ていた(コロンビア大学の独占契約には抵触しないのか?)。目にも無害で慢性曝露影響もなければ,本当に有望かもしれない。テレビはウシオ電機や神戸大学には触れていなかったなあ。

岸田さんのtweetで知ったが,Annals of Internal MedicineのKucrika LM et al. "Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure"(2020年5月13日掲載)は,現状ではハイリスクの人も含む除外診断に用いられているRT-PCRが,陰性結果によって間違って陰性確定としてしまうことを避けるために,曝露から発症までの的中率がどのように経時変化するのかを理解することが重要としている。要旨によると,方法はメタアナリシスで,7文献のデータをベイジアン階層モデルで分析し,発症前4日間,感染した人が間違って陰性と判定される偽陰性確率は初日100%から4日目には67%になり,発症日の偽陰性確率の中央値は38%で,発症3日後には20%に低下し,その後再び上昇して,発症4日後は21%,発症16日後は66%としている。ただし信頼区間が広く,これはデータ元の論文の研究デザインが不均質であるためとのこと。

JASTJ主催の先日の西浦さんのRtについてのウェビナーのQ&Aが公開された。64問の質問全てに,こんな短期間で答えてしまうとは,まるで神業。いつ眠ってるんだろう。

集団免疫の新しいモデル(2020年5月19日 - 当該鐵人三國誌

Webナショジオの第8回が公開された。明日は一息入れるらしい。自分で読んでいても長いもんなあ。

西浦さんがFacebookで触れていたという,プレプリントサーバに載っている2本の論文は,Rの過分散とmixtureの偏り(ある意味同じ現象の違う側面を構成しているようにも思うが)を考えてモデル化すると,既感染者割合が20-40%でも集団免疫に至る可能性を示したという話なので,そのFacebook記事が書かれる元となった宮坂先生の主張である,対策が取られてRtが下がるので既感染者割合20%以下でも収束するという話とは筋が違うし,何も対策しないでR0が2.4で完全なランダムmixtureの大集団なら80%が既感染にならないと集団免疫がついた収束には至らないという古典的なモデルが否定されたわけではない。Lipsitch教授は2月頃にRの過分散にもパンデミックに至らない可能性の1つとして注目していた連ツイの最初のところで,ランダムではないmixtureを考えたら40-70%でパンデミックが終息すると予想していたが,具体的に集団の不均質性をモデルに入れると,もっと低いかもしれないという話は興味深い。ただ,20%としてもIFRが1%だったら人口の0.2%が死亡する災厄なので,先進国では受容できないと思う。

ちなみに西浦さんが触れていたプレプリント論文は,Gomes MGM et al. "Individual variation in susceptibility or exposure to SARS-CoV-2 lowers the herd immunity threshold"(2020年5月12日)とBritton T et al. "The disease-induced herd immunity level for Covid-19is substantially lower than the classical herd immunitylevel"(2020年5月14日)。後でちゃんと読もう。

ScienceのReportだが,Baker RE et al. "Susceptible supply limits the role of climate in the early SARS-CoV-2 pandemic"(2020年5月18日掲載)は,パンデミックと気候の関係にNPCによる感受性人口減が影響するという話のようだ。地球規模のモデルなので仮定も多くて,どう考えたら良いのかわからないなあ。

保健行政論で喋った医療保障の根本についてちょっと書いておく。福祉国家においては,国民は基本的人権として医療を受ける権利がある。リスボン宣言でも最初に書かれていることだし,国連SDGsのゴール3に含まれているUniversal Health Coverageでもそれを全世界で達成することを目標としているし,日本国憲法25条で保証されている生存権の一部と考えられるし,医師法に応召義務があり正当な理由無く診療を拒んではならないし医療法にインフォームドコンセントが定められているので,医療を受ける必要を感じたら医療機関を受診して診察を受ける権利がある。だから,39℃の発熱があって苦しかったら受診することはできるし,医療機関はそれを拒めないはずである。ただし,診察を受けることはRT-PCRを受けることと同義ではなく,医師が鑑別の必要があると判断しなかったら,いくら患者や家族が主観的にCOVID-19かもと思っていても,RT-PCR検査をオーダーしないことはありうる。そこは患者側もわかっておくべきだし,それが日本で期待される患者役割(patient role)である。もちろん,納得しなかったら,適切な説明を受けることができるのは前述の通り医療法に定められた患者の権利だし,別の医療機関を受診しても良い,というのが日本の医療制度。ただし,医療機関はCOVID-19の感染が起こりやすい場所の一つだから,いわゆるドクターショッピングのようなことをすると,実は感染していなかったのに,その行為によって感染してしまうリスクもある。

全死因死亡との関係についての論文(2020年5月20日 - 当該鐵人三國誌

自粛要請の中で営業している店名を自治体が公表するという行為は,バッシングを煽っていることにならないか。営業しているかどうかは見ればわかるわけだし,対策している感の演出? やり方がまずいと思う(同業種でもクラスターが発生した等の理由で一部の店だけ暫時営業すべきでない場合は,韓国で感染者の移動経路が公表されているのと同様な意味で店名公表にも意味はあるかもしれないが,その業種全体が自粛要請されている場合は,店名公表の意味がわからない)。規制行政的な行為は公権力にしかできないことが私刑への抑止力になっているので,本当に必要なら法的根拠をはっきりさせて営業停止命令を出すのが筋だろう(食中毒の場合は食品衛生法で営業禁止命令や停止命令を出せるわけだから)。法的に無理ならば,休業補償をするから営業しないでくれと要請するのが筋で,バッシングにつながるようなやり方は間違っていると思う。

BMJの論文,Piccininni M et al. "Use of all cause mortality to quantify the consequences of covid-19 in Nembro, Lombardy: descriptive study"(2020年5月14日掲載)は,イタリア北部ロンバルディア地方Nembroという都市での全死因による死亡を評価している。1月1日時点の人口11505人で,2012年1月から2020年2月までの月ごとの死亡率は1000人年当たり10前後で最大21.5だったのに,3月は154.4に達し,4月の最初の11日は23.0に低下したことと,65歳以上男性の死亡が増えていたこと,4月11日までのCovid-19による死亡と確定診断がついているのは85人で,全死因による死亡数166の約半分がCovid-19によっていたことを報告している。検査漏れ,超過死亡,報告の遅れを考慮すべきで,そのためには他の地域でも全死因の分析が必要だと主張している。

甲子園中止について(2020年5月21日 - 当該鐵人三國誌

夏の甲子園が中止と昨日決まったそうだ。野球自体は直接接触がない風通しの良い場所で行われるので,無観客なら感染リスクが低い大会運営は可能と思うが,いま練習ができていないこと,休校が長引いているため授業日数確保が優先,日本各地から一カ所に集まるのはクラスター発生のハイリスク,地方大会すべてのの安全な運営が難しい,等々の理由を見ると仕方ないかとも思う。熱中症対策や投手に投げさせすぎないためなど,大会日程に余裕をもつことが求められてきたところでもあり,ここで強行して怪我や熱中症などの被害が出たら高野連が非難されるのは必至だから,敢えて実施という判断は難しいだろう。もっとも,授業日数確保以外は運営側である高野連と球児が一体となって頑張れば解決しそうな気もするし,以前から何度か書いているように高校生なら授業は通信インフラさえ整えれば全面オンライン化できたと思うので,こうでない未来もありえたはずだが。とはいえ,球児には大変気の毒だが,文化系でもNコンも中止だし(課題曲は来年度に持ち越しになったのでリトグリの「足跡」は来年の子供たちの合唱で聴けると思うが),今年が最終学年の子供たちは運が悪かったと思うしかないのだろう。秋の県大会や地区大会があるならば,そこに3年生も出られるようにしてあげると,多少は救われるか。

過分散確認論文再び(2020年5月22日 - 当該鐵人三國誌

来週月曜は国際感染症論の分担回なので,Covid-19の理論疫学モデルを紹介するための資料を作らねばならない。いよいよJupyterをインストールすべきか?

東洋経済は以前からCovid-19の国内感染状況を厚労省の資料からビジュアル化するダッシュボードを公開しているが,西浦さんの監修でRtを逐次公開するパネルを追加したとのこと。

プレプリントサーバに載っているLSHTMのKucharski准教授のグループ? の筆頭著者が日本人の論文Endo A et al. " Estimating the overdispersion in COVID-19 transmission using outbreak sizes outside China"(2020年4月9日)は,二次感染者数の過分散を推定しているモデル。"Dispersion vs Control"以来,Covid-19についてはたぶん4本目か。負の二項分布を当てはめている。結論で書かれていることは,発生予防を含むクラスター対策の有効性を強く支持する。TwitterでIdaさんが指摘された通り,いくつかの感染症について二次感染者数の過分散があることはわかっていたし,Lloyd-Smoth JO et al. (2005) "Superspreading and the effect of individual variation on disease emergence"によって,それまでSTIやベクターが媒介する感染症の現象とされていた二次感染者数の過分散が,SARSのような直接感染する呼吸器感染症でもあることも示されていたが,Covid-19で過分散があることを示したのは"Dispersion vs Control"がたぶん最初で,それを読んだときにハーバードのLipsitch教授も気づかなかったであろう「二次感染者数が多いケースに共通する条件を探せば予防できる」という着想は,西浦さんの天才性に他ならない。見つかった共通条件が,換気の悪い閉鎖空間で人が密集するという,古くから感染症リスクとして知られていたことと一致したというのは結果に過ぎないし,その点が欧米ではCovid-19対策として重視されなかったことが感染爆発の原因の一つだと思われるので,西浦さんたちがプレプリントサーバに載せた論文で,オッズ比がきわめて大きいので,3つの密を避けることがクラスター発生予防に有効で,そうすればRを1未満にできるかもしれないと主張したことはやはりきわめて重要。WPROが2020年5月15日に出したレポートでは,日本のクラスター対策に触れているが,西浦さんたちのプレプリントサーバの論文は参照されていないことを考えても,まだそれほど知られていないということなのだろう。早く記述の甘いところを直して,トップジャーナルがアクセプトしてくれれば良いのだが。Idaさんはナショジオに追記することを求めていらっしゃるのだが,あの文脈に追記するのはおかしいと思うので,ここに書いておく。

JAMAのResearch Letter(短報的なもの)として,Bunyavanich S et al. "Nasal Gene Expression of Angiotensin-Converting Enzyme 2 in Children and Adults"(2020年5月20日掲載)が,SARS-CoV-2が細胞に侵入する際の認識分子であるACE2の発現が子供と大人で違っていると報告している。子供が重症化しにくい原因の一つかもしれない。

Scienceの論文で,Yu J et al. "DNA vaccine protection against SARS-CoV-2 in rhesus macaques"(2020年5月20日掲載)が,35頭のアカゲザルにSARS-CoV-2のDNAワクチン候補を接種し,対照群に比べて肺や鼻腔へのウイルス負荷が減ったので中和抗体ができたと言っているようだ。

cranにR0というパッケージがある。いくつかの方法がサポートされていて,講義には便利かもしれない。

クロロキンやヒドロキシクロロキンは死亡ハザードを高めるという研究(2020年5月23-24日 - 当該鐵人三國誌

LancetのMehra MR et al. "Hydroxychloroquine or chloroquine with or without a macrolide for treatment of COVID-19: a multinational registry analysis"(2020年5月22日)は,6大陸671病院のヒドロキシクロロキンとクロロキン治験データをレジストリから得て(いま,治験はほとんどの国で計画段階で倫理審査を通るための条件として公的データベースに登録することが義務づけられているので,こういう研究が可能),年齢,性別,人種あるいは民族,BMI,基礎疾患,喫煙,免疫不全状態,治療前の重症度(qSOFAとSpO2による)を交絡として調整し,ヒドロキシクロロキン,クロロキン,ヒドロキシクロロキン+マクロライド,クロロキン+マクロライドを投与したどの群でも,それら3つのどれも投与されなかった対照群に比べると,死亡リスクと心室性不整脈発生リスクが統計的に有意に上がったという結果を示している。分析方法は傾向スコアマッチングで得た4治療群と対照群についてコックス回帰を適用している。ハザード比があまりに大きすぎて驚いた。これが本当だったらクロロキンやヒドロキシクロロキンやマクロライドは治療目的で投与してはいけない。もっとも,著者たちもDiscussionでlimitationとして書いているように,交絡として傾向スコアマッチングに使った要因以外の要因があるかもしれないので,RCTが必要というのはその通りだと思うし,その対象者にはこれらの薬も投与する必要があるわけだが。あと,ざっと読んだ限りでは投与量が統制されているのかどうかがわからなかったので,もしかすると投与量が多いケースが死亡ハザードを引き上げているのかもしれない。

ナショジオのPhoto Stories『「政府は遅すぎる」新型コロナ、インドネシアで何が起きているのか』。ストーリーとは別に,トップの写真があまりに「密」で衝撃的。

昨日JAIH代議員と熱帯医学会会員宛に直前告知メールが流れたことに気づかず,リアルタイム視聴はできなかったが,オンラインサロン「新型コロナと途上国」はアーカイヴされていて良かった。2時間近く,情報密度が濃くて疲れるが,グローバルファンドの國井修先生を含む世界各地で国際保健医療に従事されている方の対話で,たぶん多くの日本人は考えたこともないような視点が多数提示されていて重要。ケニア在住の千葉さんによる,東アフリカではケニアの人々の受け止め方が時間経過とともに変わったこと,ソマリアとジブチの感染が突出して多いことやタンザニアが4月末から検査結果を発表しなくなったこと(ラマダンの影響に言及されていたが,カートパーティの影響はどうなのか気になった),國井先生による,医療物資不足(とくにPPEと診断キット)や医療者が動けない,働けない,感染することによって,他の診療が滞ることによる超過死亡(マラリア,結核,HIV/AIDSの対策プログラムが滞り,それらによる死亡もおそらく2倍になるそうだ)やaccess to covid tool accelerator(診断薬や治療薬やワクチンが開発されても先進国に独占されてしまって途上国に行き渡らなくなることへの対処として,予め開発企業に手を打っておき,アフリカに届くようにすること,らしい。とはいえ,先進国が輸出制限を掛けたりするので難しいが)の話など,興味深かった。GANASというNPOが資料等についてサポートしている,という感じの発現があったが,どこにそれがあるかわからない。難民の中での格差・弱者という話やWhat's upなどSNSを介した情報伝播の速さと裏腹の不正確さの問題,それを改善するためにリーダーを通した正確な情報伝達を利用する話も。village health volunteerがcontact tracingしてるのか。ワクチンや治療薬,免疫についての國井先生の認識はさすが,その通りと思った。PPEなど医療器具について地方自治体と国内メーカーがstand by agreementを結んでおくべきという提言もさすが。手洗いでいろいろな病気が防げるからdisease-centeredでなくhuman-centeredな見方,人間開発の全体を見ていくことが重要という指摘もさすが。

昨日触れた論文を受けて,フランスの保健相がクロロキン/ヒドロキシクロロキンをCOVID-19の治療に使うガイドラインの変更を検討するようにtweetしたと,いまNHKニュースが報じている。

USAは戦略変更するのか(2020年5月26日 - 当該鐵人三國誌

神奈川と北海道は事前に決めた基準をクリアしていないが,昨日緊急事態宣言が解除されていなかった自治体すべての宣言が解除されたとのこと。理屈が通らないので政治的決定だろう。危機に瀕するとメチャクチャなことはできないが,多少余裕が出ると,様々な政治的思惑が錯綜して,意図や効果を読み解くのが難しい発表が出てくる。ある意味仕方がないことだろうが。

ブラジルの確定患者数がUSA,ロシアに次いで世界3位になったというBMJのニュースが,2020年5月21日付けで出ていた。ダウンロード済みのデータファイルをリネームして,Rコードを再び走らせて国別死者数推移を描いてみたら,ブラジルの急上昇は確かに目に付くが,それでも当初よりは指数的増加の傾きは小さくなっているので,意外に早くR<1になるのかもしれない。西浦さんが東洋経済でインタビューに答え,先週触れていた論文(ここでも紹介した)に言及し,集団免疫戦略に切り替える国が出てくるかもしれないという主旨の発言をされているが,クラスターの存在や年齢などによる異質性をちゃんと考えたモデルだと総感染者数が人口の20%程度で集団免疫に至る可能性があるとすれば,終息までの総感染者数は当初予測より少なくて済みそうだが,それでも多くの先進国には受容不可能だとぼくは思っていた。しかしUSAの死者数は既に10万人近いので,言われてみれば,もはや抑え込むというレベルではないのかもしれない。そうなると,確かに,抑え込みに成功している東アジアの国々と,集団免疫状態に達するまでのUSAとの交通は大きな問題になりそうだ。難しいなあ。

Science ImmunologyのBryant JE et al. "Serology for SARS-CoV-2: Apprehensions, opportunities, and the path forward" DOI: 10.1126/sciimmunol.abc6347(2020年5月19日)は,血清検査の潜在的可能性と,そのために必要な検査性能を論じている。

政府による情報統制は是か非かについてのディベート(2020年5月28日 - 当該鐵人三國誌

人口動態統計3月速報値が出た。総数からすると,3月の死亡数は急増はしていないようだ(速報レベルだと詳しいことはわからない。死因別死亡も含む月報が出るにはさらに3ヶ月以上かかる)。なお,過去のデータとの比較をする際は,去年の春,都道府県からの報告漏れが修正されたことに気をつける必要がある。死亡届も出生届も市町村役所に出て入力されるものが元なのだから,早いところオンラインでデータベースを連結すれば,報告漏れなどという問題は起こらないし,集計が迅速化されるはずなのに。改善される気配はない。

公衆衛生学ではスラムの健康の話。Covid-19の影響がスラムに強く表れるかもしれないという話もこの辺の論文を紹介しながら3時間喋り続けた。医療人類学特講は保健医療情報を政府が統制するのは是か非かというテーマで,留学生を含めていろいろな論点が出て興味深かった。トルクメニスタンとエリトリアはそんなに情報統制が激しいのか。信頼できる情報を出すことが政府の責任である,ということと,それ以外の情報について政府が統制することは違う,という共通認識には至った(現実には前者ができてないのに後者をするというケースも存在するわけだが)。知る権利の抑圧は基本的人権を損なう。とはいえ,テレビなどが明らかに間違った情報を流して信じる人がでて実害があるのはまずいので,結局は市民がメディア・リテラシーを高めるしかないという話になると,保健や医療を学んでいる大学院生ならそれはできるけれども,一般市民ができるのか,という問題点が出て,それを保障することも政府の責任ではないか? という話になって決着はつかず(もちろん,そう簡単に一方が他方を論破できることは無いようなテーマを選んでいるのだが)。ディベート結果としては,「政府による情報統制は否」派が(僅差だったが)より多くの支持を得た。

北九州と東京で病院クラスターが報告された。接触感染,飛沫感染,マイクロ飛沫感染というリスクを避けることが難しい職場は病院や介護施設に限らず存在するので,これをゼロにすることは至難の業だと思う。人の交流を完全にゼロにはできない以上,クラスター感染以外の感染も散発することは避けられないので,手洗いや人と距離をとることや喋るときはマスクをすることとリモートワークを続けることで,それぞれのエピデミックを小規模で済ませることが重要。

トランプ大統領が人々が自由に発言する権利を守るためにSNS運営者の権限を制限するという大統領令に署名したというニュース。医療人類学の議論では,政府が情報統制しなくても,YouTubeやTwitterなどが自主的にフェイクニュースを削除しているから,政府がしなくても良い,という意見があったが,これは逆なのか? それとも,メディアの政府からの独立性を脅かすという意味で,これも一種の情報統制なのか? 

専門家会議資料の補論(2020年5月30日 - 当該鐵人三國誌

昨日の専門家会議の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(令和2年5月29日)(膨大な資料で,読むだけでも大変だが,作るのは大変だっただろう)の「補論」で,「三密」を避けるクラスター発生回避が有効だったという自己評価が明示された。この自己評価は,某議員のtweet(今枝宗一郎議員のこれ)によると,当該議員が尾身先生に中間評価の提示を依頼し,その中で「さかのぼり」という言葉を使うよう求めたとのこと。retrospectiveは「後向き」と呼ぶのが普通なのに,なぜback tracingを思わせる「さかのぼり」という言葉を使うのか(ここでいうprospectiveもretrospectiveも両方contact tracingには違いないのに)不思議だったが,議員の指示だったか。まあ言葉の問題はさておき,3月3日に書いたことを漸く専門家会議自身が公式に明記したのは,いったん収束した(たぶん接触制限から予想されたよりも早く)ので,クラスター対策の有効性にある程度自信がもてたからだろう。ぼくは,もっと予防効果の重要性を強調した方が良いと思うが。

『せやねん』で,この夏は須磨海岸は海開きしないと言っている。市の須磨海水浴場のページは更新されていないが,ライフセーバーなどの体制を整えられないということで遊泳禁止は仕方ないか。散歩するには支障ないし,釣り人には逆に嬉しいかもしれないが。

COVID-19に感染したがん患者の死亡リスク(2020年6月1日 - 当該鐵人三國誌

学校クラスターが発生したら,都道府県全部ではなく,その学校で学級閉鎖または学校閉鎖をして,経路を追跡し,どうしてクラスターになってしまったのかを明らかにして予防することが重要と思う。

先日メールで返事するかなと書いた取材依頼だが,質問事項への答えは,既に2019-nCoVについてのメモとリンクのどこかに書いたことで満たせそうだったので,そのようにご返事したところ,ご了解頂けたようで良かった。

このtweetを見て,『スウェーデンの高齢者ケア戦略』探したが,絶版のようだ。まだ販売されている本だと,斉藤弥生『スウェーデンにみる高齢者介護の供給と編成』辺りかなあ。

愛知・岐阜県内 329 人の感染経路を可視化してみたは,Graphvizを使った感染経路の可視化方法の説明。PythonのGraphvizモジュールを使ったそうだ。

テレビは報じないが,持続化給付金の中抜き疑惑についての野党合同ヒアリングを見ると,電通とかパソナについて議員が質問し,官僚が言を左右にして答えない様子がはっきりわかる。

Lancet OncologyのYang K et al. "Clinical characteristics, outcomes, and risk factors for mortality in patients with cancer and COVID-19 in Hubei, China: a multicentre, retrospective, cohort study"(2020年5月29日)という原著論文は,後向きコホート研究でとった,COVID-19に感染したがん患者のデータから死亡のリスク因子を探っているようだ。多変量のロジスティック回帰分析の結果,死亡リスクを統計的に有意に上げていたのは,男性であることと,発症4週間以内に化学療法を受けたことで,それぞれ3.86倍と3.51倍であった(Table 5)

JAMAのViewpointで,Cohen IG, Gostin LO, Weitzner DJ. Digital Smartphone Tracking for COVID-19: Public Health and Civil Liberties in Tension. JAMA. Published online May 27, 2020. doi:10.1001/jama.2020.8570(2020年5月27日)はDigital Contact Tracingがもたらす公衆衛生と市民の自由の緊張関係を論じているようだ。AppleとGoogleのシステムは,オーストラリアスイスでは既に導入されているが,近々日本でも導入されるはずなので,ちゃんと議論して準備性を高めておくべき。

JAMAのチュートリアルのような記事で,Tolles J, Luong T. Modeling Epidemics With Compartmental Models. JAMA. Published online May 27, 2020. doi:10.1001/jama.2020.8420(2020年5月27日)はSIRモデルの基礎をわかりやすく説明してくれているように思う。

Journal of Population EconomicsのQiu Y et al. "Impacts of social and economic factors on the transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19) in China"(2020年5月9日)という原著論文は後で読もう。

Nature Machine IntelligenceのYan L et al. "An interpretable mortality prediction model for COVID-19 patients"(2020年5月号)も後で読もう。

NEJMのCorrespondenceでKarim SSA "The South African Response to the Pandemic"(2020年5月29日)も後で読もう。

唾液サンプル使用認可(2020年6月2日 - 当該鐵人三國誌

厚労省が「発症から9日以内の者については唾液PCR検査を可能」とした。厚労科研のこの結果に基づく。発症後10日目からは唾液にはウイルスが出なくなる患者が多いらしいことと,発症直後だとLAMPアッセイは感度が低いらしいことが示唆されるデータ。ただ,Yale大学では対象者が自分で唾液を採取後,室温で5時間以内にラボに運んで検査し,鼻咽頭スワブとの一致度が高かったという話だったのと違って,この研究では凍結唾液検体を使っている。唾液の出し方と凍結までの時間は書かれていないが。

堀口逸子さんがFacebookに書かれていたが,マレーシア保健省が5月13日に,3Wを実行し3Cを避けるように訴えたという記事。在マレーシア日本大使館サイトに日本語訳が載っている。

LancetのChu DK et al. "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis"(2020年6月1日)は,伝播を防ぐための個人防護としての物理的距離確保,マスク,目の防護についてのシステマティックレビューとメタアナリシスというタイトル。交絡の影響を調整したオッズ比が,1メートル以内の距離に比べ1メートル以上の距離だと0.18(Cochranの方法とGRADEアプローチによるcertaintyは中程度),マスクを使うと0.15(centaintyは低い),目の防護は0.22(certaintyは低い)という結果。目新しくはないが,メタアナリシスでもこれらは有効なことが確認された。

可能性の問題としては(2020年6月3日 - 当該鐵人三國誌

プレプリントだが,Althouse BM et al. "Stochasticity and heterogeneity in the transmission dynamics of SARS-CoV-2"(2020年5月27日)と,大日さんのグループのKurita J et al. "Real time monitoring of COVID−19 outbreak using mobility trend data for Tokyo and Osaka, Japan"(2020年6月1日)は読まねば。前者は伝播の不均質性と確率性を扱っている。後者は東京と大阪の移動データを使ったアウトブレイクのリアルタイムモニタリングというタイトルだが,大日さんのグループから出てきたところに注目したい。交通データの扱いに困っていたり,超過死亡を取り上げたものの中身がわからず尻すぼみな報道をしたメディアは大日さんに取材したら良いと思う。元々経済出身だと記憶しているし,専門家会議も,変な指標を提案する経済学者を入れるよりは,感染研内部から大日さんを入れれば良かった。そうしないのは何か事情があるのかと思っていたが,論文を出しているのだから,専門家会議に呼んだって良いはずだよなあ。

まったくの可能性だけの話というか妄想だが,映画や予算が豊富にあるドラマならば,島を借り切って(理想的には最近までホテルなどが営業していて廃棄された無人島で,水源と電源があると良い),ロケ隊が入った後に完全に島外との人と物の移動を止め,まず2週間,出演者もスタッフも個室で隔離生活をし,配食をする人は完全に近い感染防御をし,さらにRT-PCRで1日以上おいて2回陰性を確認することで(一応の)検疫を済ませてから撮影するという手はあると思う(それに医療資源の一部を占有して良いのかという倫理的問題はあるにせよ)。撮影が長期化して物資が足りなくなったらヘリで空輸して貰って,荷物は消毒してから開梱するなど。しかし誰もやってなさそうなところを見ると,やはり非現実的なのだろう。

同じ発想でいけば,客も2週間の検疫後ならライブやプロスポーツ観戦をやっても良いことになるか。いやでも,無理だよなあ。

ヒドロキシクロロキン関連(2020年6月4日 - 当該鐵人三國誌

NEJMに,Boulware DR et al. "A Randomized Trial of Hydroxychloroquine as Postexposure Prophylaxis for Covid-19"(2020年6月3日)という原著論文が出た。曝露後の発症予防薬としてヒドロキシクロロキンをランダム割り付けした臨床試験の結果,統計的に有意な予防効果は認められなかったというもの。マラリアに対しては,クロロキンは毎週1錠飲んで血中濃度を保つことで予防薬として使えるから,同じような発想で,トランプ大統領はクロロキンを飲んでいると語っていたのだと思うが,そういう効果は期待できないようだ。

一方,WHOはヒドロキシクロロキンの臨床試験を再開するとアナウンスしたとのこと。たぶん5月23日に触れたLancetのこの論文取り下げられたことを受けてのことか(もっとも,当該論文にも,標準治療には使うべきでないがRCTは必要と書かれていたが)。Science Translational MedicineのCurrent Eventsという記事に書かれているように,元データの信頼性が怪しかったとのことらしい。多施設登録データの解析で,データの信頼性が怪しいというのは,掲載前に査読でチェックできなかったのかと思う人も多いと思うが,結果から明らかに捏造が疑われるなら査読者がわかる可能性はあるけれども,そうでなかったら,元データを入手した手続きがきちんと書かれていたら,そこまで疑った査読はしないのが普通だから,仕方ないのだろう。Surgesphereという同じデータ管理会社のデータを使ったNEJMの論文も取り下げられている(未読だが)。なお,Surgesphere社のサイトには,これらの取り下げの件は,まだ触れられていないようだ。こういう登録データの解析は,サンプルサイズは十分に確保できるが,こういうことがあると怖いよなあ。そんな金もないが,自分ではやりたくないタイプの解析。

ProNASの短報(2020年6月5日 - 当該鐵人三國誌

毎日新聞が会話1分,飛沫1000個(2020年6月5日夕刊,有料記事)として取り上げているProNASの論文とは,Stadnytskyi V et al. "The airborne lifetime of small speech droplets and their potential importance in SARS-CoV-2 transmission"(2020年5月4日に受理され,5月13日にオンライン版では発表されていて,6月2日に出版された短報)だろう。毎日新聞の見出しに該当する部分は"At an average viral load of 7,000,000 per milliliter (7), we estimate that 1 min of loud speaking generates at least 1,000 virion-containing droplet nuclei that remain airborne for more than 8 min."で,湿度27%,気温23℃の実験条件では,飛沫が2~3秒で乾燥し,粒径約4 μmの飛沫核となっても(感染力を失わずに? マイクロ飛沫もそうだが,そこは確認が難しいところだろう)8分以上空気中に漂っていたことを示している。

今夜23:00からNHKBS1で,山極さんや飯島さんが出演した『コロナ新時代への提言』の再放送があるのか。再来週月曜から水曜までの22:40-22:50は,やはりBS1で3人それぞれのスピンオフ番組があるそうだ。

生態学のメーリングリストで知ったが,日本環境ジャーナリストの会の2020年度6月勉強会『コロナ時代のSDGs 脱プラと再エネ』は興味深い。6月15日(月)の19:00-21:00のZoomウェビナーとのことなので,聴けるかも。

目に付いた文献(2020年6月8日 - 当該鐵人三國誌

Covid-19関連で目に付いた文献をリストだけしておく。なかなか読む暇がないのだが。

NEJMのPerspectiveで,Woloshin S et al. "False Negative Tests for SARS-CoV-2 Infection — Challenges and Implications"(2020年6月5日掲載)があった。

同じくNEJMのCorrespondenceで,Tu Y-P et al. "Swabs Collected by Patients or Health Care Workers for SARS-CoV-2 Testing"(2020年6月3日)があった。

Nature Communicationsの原著論文で,Chia PY et al. "Detection of air and surface contamination by SARS-CoV-2 in hospital rooms of infected patients"(2020年5月29日)があった。

JAMAのViewpointで,Pillemer K et al. "The Importance of Long-term Care Populations in Models of COVID-19"(2020年6月5日)があった。

LancetのCommentで,Nay O et al. "The WHO we want"(2020年6月5日)があった。タイトルはSDGsが作られたときのThe world we wantの捩りであろう。

同じくLancetのPerspectiveで,Curtice K, Choo E "Indigenous populations: left behind in the COVID-19 response"(2020年6月6日)があった。

マスクの効果のモデル論文(2020年6月12日 - 当該鐵人三國誌

Furuse Y, Sando E, Tsuchiya N, Miyahara R, Yasuda I, Ko YK, et al. Clusters of coronavirus disease in communities, Japan, January–April 2020. Emerg Infect Dis. 2020 Sep [cited on 12 June 2020]. https://doi.org/10.3201/eid2609.202272(2020年6月10日掲載)は,たぶんクラスター対策班の活動の一環で手分けして集めたデータを記述的に解析した結果と思われる,日本の2020年1月から4月までのクラスターデータの速報。東北大学から京都大学の白眉プロジェクトに採用されたウイルス学者,古瀬祐気さんが筆頭著者。

奥村先生のtweetで知ったが,Stutt ROJH et al. "A modelling framework to assess the likely effectiveness of facemasks in combination with ‘lock-down’ in managing the COVID-19 pandemic." Proc. Royal Soc. A(2020年6月10日)は,マスク着用の効果を評価しているモデルで,症状がなくても一般公衆が常にマスクをしていれば実効再生産数を1未満にできて感染拡大を緩和できるとabstractに書かれている。ざっと目を通した感じでは,マスク着用するかどうかは日々刻々と変わると思うので,シミュレーションするなら個人ベースで,その振り分けを二項乱数でやった方が良いと思うし(ぼくが長袖長ズボンの着用によるマラリア防御モデルでやったように),デフォルト値がmF=1,mA=0.5,mS=0.5,mD=0.5というのは非現実的で,ウイルスが付着したものを触った手で顔を触るのを防ぐわけだから,mF=0.1とかmF=0がデフォルトであるべきだし,普通の布マスクやサージカルマスクならば,着用している人の唾液飛沫が出て行くのを防ぐ効果の方が飛沫やマイクロ飛沫が入ってくるのを防ぐ効果よりずっと大きいはずだから,mDは0.5より大きく,mAやmSは0.5よりずっと小さくなると考えるのが自然ではないだろうか。コードが公開されている(MITライセンス,いくつかの依存パッケージはあるが,ピュアなRのコード2つからなる)ので,後で動かしてみよう。

紙媒体を買おうと思っているが,川端くんが5月中旬に西浦さんにインタビューした記事が中央公論7月号に掲載され,前編後編に分けて,期間限定でYahooのサイトで公開されている。オリンピックに関しては頷けない。そもそもIOCやJOCにとっては興行であってアスリートのことは二の次だから(そうでなかったら真夏の東京でやろうなんて発想が生まれるはずがない),無観客ではやらないだろう。無観客ではなく世界中から人が集まっても実施可能であるためには,本当に世界中でほぼ終息していなくてはいけないから,2021年夏では無理だろう。以前も書いたが,2022年夏以降になると,他の興行との関係で無理が出るから,やはりIOCや各種競技団体はやりたがらないだろう。その点,ちょっとナイーブな見方だと思う。

GLOBE+の長崎大学熱研の山本太郎さんへのインタビュー記事(2020年6月12日)は,さすが太郎さんという内容。

PLOS ONEにMuto K et al. "Japanese citizens' behavioral changes and preparedness against COVID-19: An online survey during the early phase of the pandemic"(2020年6月11日)が載っていると,川端君のFacebookで知った。Macromillというオンライン調査会社に登録されている120万人からリクルートした11342人の男女に対する横断的質問紙調査の結果。

公衆衛生学会の編集委員を一緒にやっていた時期があるので,3人とも以前から知っている,鈴木孝太先生,後藤あや先生,郡山千早先生のCOVID-19に関する(見た感じ,中心課題はヘルスリテラシーか)共同研究が後藤先生のサイトで公表されていた。鈴木先生は高校の同窓生だし,後藤先生はかつてJOICFPのベトナム母子保健プロジェクトに同時期に関わっていたことがあるのだが,こういう調査をしていたとはノーマークだった。

稲葉さんがFacebookに紹介されていて知ったが(ぼくはFacebookをチェックする頻度が低いので気づくのが随分遅れた),このブログ記事は確かに興味深い厚生経済学の話。

厚労省版スマホアプリ(2020年6月13日 - 当該鐵人三國誌

Facebookで橋本佳子さんがリンクしていて知ったが,厚生労働省から接触確認アプリについて(2020年6月12日付け)が出ていた。Engadget日本版にも紹介記事が出ているが,SingaporeのTraceTogetherは21日間保存だが,日本のアプリは14日間保存とのこと。専門家会議の説明にあったRetrospectiveにも使うなら21日間の方が良いはずだし,そちらで該当して無症状の人には抗体検査をすれば意味はあると思うが,厚労省はこのアプリの目的をProspectiveにだけ使うということなのか。ということは,Retrospectiveな方は保健所にさせ続けるつもりなのか? と思ったが,位置情報がないからRetrospectiveの方をアプリで検出しても,結局聞き取りが必要になるということかもしれない。個人的にはGPSとリンクしても抵抗感はないのだが,そこにはプライバシー権の高い壁があるということだろうか。

このソフトプリインストールのスマホを回線使用料もタダにして全国民に配ったら,感染対策だけではなく,情報格差が埋められるのではないだろうか。日本では,公園や市役所などの公共施設で,水が無料で飲める状況を提供しているのだから,将来,情報インフラとして無料でWiFiアクセスを提供するくらいのことはできないだろうか。機能を絞ったスマホならそこまで巨額な投資をしなくてもいけそうな気がするが。いやでもやっぱり無理な妄想かな。

LSEの17ヶ国調査(2020年6月14日 - 当該鐵人三國誌

日本国際保健医療学会の代議員メーリングリストに杉下先生が投稿されて知ったが,London School of Economics and Political Science (LSE)が,17ヶ国を対象に計画した,Covid-19が教育や職業にどういう影響を与えたかを調べるための,大学教職員と学生を対象にした(一般の人も参加可能)質問紙調査があって,日本では女子医大の杉下先生の講座が中心となって取りまとめられることになっていて,このページから回答できる。早速答えてみたところ,いくつか答えにくい設問と選択肢もあったが,随所に工夫は感じた。教員としてとくに知りたい結果は,学生と教職員でオンライン講義についての認識が合っているかどうかなので,欲を言えば,講義の種類(Active Learning中心か,知識の教授中心か)別の設問が欲しかったところ。

NZのCOVID-19 modelling and other commissioned reports。ちゃんとAotearoaが併記されているのが凄いな。

LMICへの抑え込み策と緩和策の影響(2020年6月15日 - 当該鐵人三國誌

ScienceのWalker PGT et al. "The impact of COVID-19 and strategies for mitigation and suppression in low- and middle-income countries" DOI: 10.1126/science.abc0035(2020年6月12日)は,たぶんインペリグループ第12報が低中所得国にフォーカスを絞って改稿してScienceにアクセプトされたものだろう。Supplemental Materialによると,モデルはGithubでRパッケージとして提供されていて,この論文の解析コードも,Githubで公開しているとのこと。

12日に触れたマスクのシミュレーションのコードをノートPCで実行させてみたが,遅くて話にならない。高速なデスクトップが必要か? あるいはRcppを使って書き換えるとかで高速化するか? 3.5.3以降更新されていないのだが,Microsoft R Openにしてみるとか?

NCGMが発表した論文リスト(2020年6月17日 - 当該鐵人三國誌

熱帯医学会のMLでお知らせがあったが,「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についてNCGMが発表した学術論文」として,NCGM職員が筆頭著者または責任著者である掲載済み論文の邦文要旨が掲載されている。

日本版の接触確認アプリCOCOA(2020年6月19日 - 当該鐵人三國誌

厚生労働省の説明によると,日本版の接触通知アプリ(厚労省は「接触確認アプリ(COntact-COnfirming Application; 略称COCOA)」と呼んでいる)が,今日の午後3時頃に提供開始されるとのことで,Google Play Storeを見ているのだが,15:30になってもまだ来ない。

5月9日に触れた通り,日本のアプリはGoogleとAppleのOSレベルで実装されているBluetoothでの近接時間を把握するAPIを利用し,位置情報は記録しないし,接触データを自動的にサーバに送るようなこともしないので,プライバシー権が守られている詳細な仕組みの説明によると,5月29日から準備が整ったところから順次運用が始まっているHER-SYSとの連携がカギ)。そのとき書いた通り,5月9日時点ではUKのNHSは独自アプリを開発し,githubにコード公開していたのだが,今日のGigazineの記事新型コロナ追跡アプリ開発についてイギリスが独自路線を捨てGoogle・AppleのAPI利用へ方針転換によると,試用の結果,認識精度が低かったので方針転換したらしい。

GigazineはCovid-19関連の世界のニュースをかなり幅広くカバーしていて,情報源へのリンクもついているのが便利で,ドイツ政府が新型コロナウイルス接触追跡アプリをリリース(2020年6月17日)によると,ドイツが6月16日にリリースしたアプリは,日本と同様のGoogleとAppleのAPIを使った,位置情報も個人情報も使わないものらしい(Corona-Warn-Appによると,githubで開発されているようだ)。

フランスは新型コロナ感染防止アプリ「StopCovid France」、配信が開始に(2020年6月3日)によると,独自開発アプリでサーバにデータを保存するそうだし(フランス語の情報しかないが政府の説明ページ),GoogleとAppleが共同開発した新型コロナ接触追跡APIはなぜアメリカで普及しないのか?(Gigazine,2020年6月15日)では,どの州もアプリ導入はまだらしい。

GoogleとAppleのAPIを使った接触通知アプリは,4月27日にCOVIDSafeをリリースしたオーストラリア(AFPBB,2020年4月27日)や(COVIDsafe),スイスのAppleとGoogleのAPI採用新型コロナ接触確認アプリのスイス版「SwissCovid」パイロット開始(IT media, 2020年5月26日)が早かったと思うが,漸くいろいろな国で本格導入が始まった感じだ。

23:30頃だったか,スマホでPlay Storeにアクセスし,「接触確認アプリ」で検索したら相変わらずダメだったが,COCOAで検索したらアプリが表示されてインストールできた。ぼくはスマホを英語モードで使っているので,terms of useとかagreementとかも全部英語で出てきた。これは留学生など,日本に住んでいても日本語を読めない人にとっては大変素晴らしいことだと思う。Githubで開発されていて,i18nなのだそうだ。

京大のCorona Chronicles(2020年6月20-21日 - 当該鐵人三國誌

ラオスのCOVID-19対策を検索してヒットした,京大のCorona Chronicles: Voices from the Fieldは世界各地のフィールドからの報告が載っていて興味深い。

厚労省からWHOへの報告数(2020年6月22-23日 - 当該鐵人三國誌

社人研のサイトに厚労省からWHOに報告されているCOVID-19感染者・死亡者数が掲載されることになったそうだ。

『濃厚接触?でも検査なし 感染者通知アプリ導入「何のため」』という東京新聞の記事に載っているフローチャートによると,症状がなく,身近に感染者や疑い例がいなければ,「体調の変化に気をつけてください」となっているが,台湾やNZのような終息を目指すなら,その場合は,様子見ではなく,他人と接触せず隔離生活を送れるようにすべき。そのインフラが整っていないのかもしれないが,整えるべき。接触追跡アプリで濃厚接触がわかったら検査しなくても自己隔離できるようにすることが制圧に有効なのは,5月1日に触れたImperial College of LondonからのReport 16で示されている(当該レポートは症状がある場合に隔離が有効と言っているが)。

地球環境との関係(2020年6月24日 - 当該鐵人三國誌

6月19日の専門家会議配付資料に,都道府県別のシナリオ予測が載っているが,コードとデータは公開していないのだろうか。

Block P et al. "Social network-based distancing strategies to flatten the COVID-19 curve in a post-lockdown world."(Nature Human Behavior, 2020年6月4日)は,ロックダウンで接触を平均的に減らすのだと社会経済的悪影響が大きいので,ネットワークトポロジーに注目してブランチが多いノードを集中的にネットワークから排除すると効果的に感染を減らせることをシミュレーションで示した論文。つまりは,クラスター対策班が当初から示した,クラスター発生予防の有効性が示されたといえる。直観的には自明だったが計算上も示された。これも,細かいところは違ってくるにしても,自由に使える時間と計算資源があったら自分でできたな,たぶん。誰がやろうが科学的知見の集積という意味では変わらないので,こういう研究をしてくれたのは有り難いが。

Britton P et al. "A mathematical model reveals the influence of population heterogeneity on herd immunity to SARS-CoV-2." DOI: 10.1126/science.abc6810(Science,2020年6月23日)は,以前西浦さんが触れていた,プレプリントサーバに載っていた論文がScienceにアクセプトされたのだな,きっと。不均質性を考慮すると,R0が2.5でも既感染者割合が80%でなく43%程度で集団免疫による収束が見込めるという論文。2月15日時点でMarc Lipsitch教授が指摘していたけれども,mixtureがノンランダムで不均質であることによる影響は,多くの人が思っている以上に大きいと思う。

Hodges K, Jackson J "Pandemics and the global environment" DOI: 10.1126/sciadv.abd1325(Science AdvancesのEditorial,2020年6月12日)は,Covid-19のパンデミックと地球環境の関係に注目したものだが,その関係では,Chakraborty I, Maity P "COVID-19 outbreak: Migration, effects on society, global environment and prevention."(Science of Total Environment,8月号,2020年4月22日掲載),Muhammad S et al. "COVID-19 pandemic and environmental pollution: A blessing in disguise?"(Science of Total Environment,8月号,2020年4月20日掲載),Bates AE et al. "COVID-19 pandemic and associated lockdown as a “Global Human Confinement Experiment” to investigate biodiversity conservation"(Biological Conservation,2020年6月10日掲載)も目を通すべきであろう。経済活動が抑制されることは,単純に考えたら地球環境保全にプラスに働きそうだが,再生可能エネルギー整備への投資が落ちるなど,さまざまな副次的影響を考えるべきであり,影響予測はそんなに簡単ではない。

Silverman JD et al. "Using influenza surveillance networks to estimate state-specific prevalence of SARS-CoV-2 in the United States" DOI: 10.1126/scitranslmed.abc1126(Science Translational Medicine,2020年6月22日掲載)は,USAのCovid-19の州別有病割合をインフルエンザサーベイランスネットワークを使って推定するという話のようだ。後で読もう。

岸田直樹先生がtweetされていた,NEJMのSpecial Report,Barnes M, Sax PE "Challenges of “Return to Work” in an Ongoing Pandemic."(2020年6月18日掲載)は,職場を再開し経済を回るために必要な,日常生活上の留意点,職場の分節化,出張についてのポリシー,検査戦略,モバイルアプリによる接触追跡,等をまとめたもののようだ。

専門家会議終了とは,今後のCovid-19対策は悪化必至。絶望しかない。発足当初から,専門家会議が力を発揮できるように政府を監視すべきと何度も書いてきたが,結局切られてしまった。政府と一体視して専門家会議を叩いていた人たちの言説は,政府の思う壺だったということ。

今日の保健学研究共通特講IV, VIIIは三重大学の谷村先生に地理情報データ解析と空間疫学について喋って頂いたのだが,Covid-19についての空間疫学は既にレビュー論文が出ていて,Franch-Pardo I et al. "Spatial analysis and GIS in the study of COVID-19. A review"(Science of the Total Environment,10月15日号,2020年6月8日掲載)。個別の論文では,早いものとしてはZhou C et al. "COVID-19: Challenges to GIS with Big Data"(Geography and Sustainability,2020年3月20日掲載)もあるし,最近だとOktorie O, Berd I "Spatial Model of COVID 19 Distribution Based on Differences an Climate Characteristics and Environment of According to the Earth Latitude."(Sumatra Journal of Disaster, Geography and Geography Education (SJDGGE) ,2020年6月2日掲載)など,いろいろ出ている。

神戸大学 with COVID-19シンポジウム(2020年6月26日 - 当該鐵人三國誌

神戸大学 With COVID-19シンポジウム「新型コロナと共存する社会を考える」という企画が教職員向けメーリングリストで流れてきたが,木曜開催では参加できないなあ(毎週木曜は9:00から20:00まで丸一日講義なので)。しかし,このテーマで声すら掛からないのは少し寂しい。

職場でのクラスター回避(2020年6月27-28日 - 当該鐵人三國誌

テレビをつけたらNスペに尾身先生と長崎大の山本太郎さんが出ていた。太郎さん,東京のスタジオまで行ったのか。司会はSARSの頃から感染症対策の取材を続けてきた虫明さんで,彼による人選だと思うが,太郎さんの,ウイルスとの闘いというより人々を守ることが大事なのだという主張は,レトリックではなく視点として重要。奥村先生のtweetで知ったが,今回のNスペはNHKプラスで配信されているようだ。NHKプラスを調べてわかったが,受信契約をしていれば,申請して登録するだけで,追加料金なしでオンデマンド視聴できるようだ。個人的にはクロ現プラスやNスペのような優良コンテンツは完全公開して欲しいところだが,非公開なよりは断然良い。早速登録手続きをした。

Gigazineが12日に触れたマスクのシミュレーション論文を記事にした。Githubに載っているRコードは実行してみただろうか?

人口動態統計速報(令和2年4月分)(2020年6月26日)が出ていた。4月の死亡数もほぼ前年並み。しかしこの速報では全然詳細がわからないので,早く,死因と都道府県別の情報が掲載される月報が見たい。何度も書いているが,人口動態統計は届け出によるregistryデータを集計するだけなので,速報の集計に2ヶ月,月報が出るまで半年というのは遅すぎる。早くオンライン化し,十分な予算を掛けて人員も公務員として張り付け,せめて翌月には月報レベルの集計結果が発表されるような体制にしてほしい。

サンデーモーニングで松本哲哉先生が再開された職場での感染は仕方ないと言っているが,クラスターが報告されている職場の中で,3月3日にWHOが出した"Getting your workplace ready for COVID-19"を遵守しているところがどれくらいあるのだろうか。三密を避けられる職場であれば,できることをきちんとやれば,クラスターにはならないと思うのだが。逆に,東京の現況を放置したら秋冬ではなく7月末から8月に大流行するリスクもあると思う。奇跡のようにうまく設置されたクラスター対策班を招集した専門家会議も政治家によって廃止されてしまったし,日本は政治家が無能すぎ,官僚が権力に従順すぎるので絶望的な気もする。希望は,多くの人々が自主的に正しく防御に配慮した行動を続けることと,HER-SYSとCOCOAがうまく動いて,濃厚接触者が自主隔離できるようなインフラが整うことだが……。

東京は検査を増やしていようが何だろうが,既に毎日50人以上の新規感染者が見つかっているのは事実。まだCOCOAは十分に機能していないわけだから,接触追跡は相当大変な状況にあるはず。選挙のために手洗いや社会距離確保や三密回避を蔑ろにしてはいけない。テレビのワイドショーなども普通にスタジオ撮影しているように見えるが,東京については緩めるのが早すぎるのではないか。

ちなみに,RのCOVID19パッケージを使って,日付別新規患者発生数をいくつかの国についてと都道府県について描かせてみると(コード),下図が描かれる。明らかにUSAも東京も増加傾向にある。

世界のいくつかの国についての新規患者発生数推移
いくつかの都道府県についての新規患者発生数推移

理論疫学モデルと経済モデルの融合(2020年6月29日 - 当該鐵人三國誌

奥村先生のtweetで,Nスペで紹介されていたドイツの研究が,この機関から発表されているこの論文であることがわかった。残念ながらドイツ語版しかないようだが。Google Scholarでは,現時点で2本の論文に引用されているが,これらはどれも抗体検査の必要性を訴えているようだ。続報を見るには著者グループのCovid-19 modelingプロジェクトページ (Research Gate上)をチェックしておけば良いか。

東京で100人以上の新規患者確認(2020年7月2日 - 当該鐵人三國誌

このところチェックできていなかったので,久々にインペリグループのサイトを見たら,7月1日付けでReport 29: The impact of the COVID-19 epidemic on all-cause attendances to emergency departments in two large London hospitals: an observational studyまで行っていた。

ついでに主要学術誌の未チェックだったものを拾っておく。まだ読めていないが。

Science AdvancesのEditorialで,Jeong H et al. "Continuous on-body sensing for the COVID-19 pandemic: Gaps and opportunities"(2020年7月1日)。

NEJMの原著論文でGeleris J et al. "Observational Study of Hydroxychloroquine in Hospitalized Patients with Covid-19"(2020年6月18日)もたぶんまだ拾ってなかった。

JAMAのEditorialでZylke JW, Bauchner H "Mortality and Morbidity: The Measure of a Pandemic"(2020年7月1日)。

関連でJAMAのResearch Letterで,Woolf SH et al. "Excess Deaths From COVID-19 and Other Causes, March-April 2020"(2020年7月1日)。

JAMA Internal Medicineの原著論文でWeinberger DM et al. "Estimation of Excess Deaths Associated With the COVID-19 Pandemic in the United States, March to May 2020"(2020年7月1日)。

Lancet Public Healthの原著論文でHewitt J et al. "The effect of frailty on survival in patients with COVID-19 (COPE): a multicentre, European, observational cohort study"(2020年6月30日)。

BMJのEditorialでReintjes R "Lessons in contact tracing from Germany"(2020年6月25日)。

今日のPublic Healthでは,産業保健の歴史とILO/WHOによる対策,Healthy Workplaceの条件,とくにPHEIC下でのEmergency Responderに対するガイドラインまで紹介し,Covid-19での医療施設などと,一般のWorkplaceがsafeでhealthyであるための条件について,最近たくさんのレポートが出ているので,自分で調べてみたら良いと思うと言っておいた。ILOがオンラインで公開している10分くらいの動画を見て貰った時間を除けば喋りっぱなしだったので疲れた。

東京で100人以上の新規患者確認(NHKニュース)。最近ずっと片対数グラフで直線的に増えていたし,そもそも1日2桁の患者が新規確認されている状態で行動制約を緩めたら感染拡大するに決まっているので(東京の盛り場の対策が他より悪いということではなく,感染者が多い状態のまま緩めたのが間違い),驚くことではない。不合理な都政がもたらした必然的帰結。酷い話だと思う。

NHKスペシャル『人体vsウイルス』(2020年7月4日 - 当該鐵人三國誌

新型コロナの感染者、完治後に抗体が急減(Science Portal China,2020年6月23日)の元論文は,Long Q-X et al. "Clinical and immunological assessment of asymptomatic SARS-CoV-2 infections."(Nature MedicineのLetter,2020年6月18日)。無症状感染者37人が対象である点に注意が必要。しかし(新型ではない)コロナウイルスへの中和抗体が数ヶ月で減少するという話は以前からあるので,症状がある人でもワクチンで誘導しても同じように数ヶ月しか抗体価がもたない可能性はある。もしそうだとすると,インフルエンザのワクチンを毎年秋に打たねばならないのと同じような感じで,仮にCovid-19のワクチンが開発されても,毎年打たねばならないかもしれない。そうなると,世界中をカバーし続けることは不可能と思われる。つまり,ワクチンができても,それだけでは根絶できない可能性が高い。長期的な目標として,ワクチンの開発と治療薬の開発(あるいは発見)は両方必要。

自動殺菌機能を搭載した曇らない透明マスクが誕生、FDA認証済み(アメリカ)という記事,Leafというベンチャービジネスの製品なのだが,殺菌に使っているというUV-Cの波長が222nmなのかどうか書かれていない。Care222だったらそう書いてくれれば良いのに,ただUV-Cというだけでは生体への安全性がわからない。Indiegogoでクラウドファンディングしていて,UV-C無しのモデルが約5000円,UV-Cありのモデルが約1万円。N99と書かれているが,ウイルスの侵入を阻む能力があって息苦しくなくて,使い捨てでないなら5000円は高くないかもしれない。

Tweetしたが,チェコの人々は何を考えてこんな暴挙に及んだのか理解不能。

今夜19:30からのNスペ『人体vsウイルス』は録画予約した。

Nスペは顕微鏡映像が凄い。東大医科研の佐藤准教授のグループが明らかにしたという話はプレプリントサーバに載っているこれと思われる。ハンブルグでCovid-19で亡くなった方を死後解剖したら肺血栓塞栓症になっている方が多かったという話は,Wichmann D et al. "Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study"と思われる。抗体を使うという話をしているカルテクのPamela Bjorkman教授のグループによる,149人の中和抗体を測ったという論文はRobbiani DF et al. "Convergent antibody responses to SARS-CoV-2 in convalescent individuals."(Nature,2020年6月18日)と思われる。突然昔から知っている徳永先生が登場して驚いた。まあHLAの話になれば当然か。で,Bjorkman教授のグループが作ろうとしているのは,一種の抗体医薬品で,確かにそれが上手く行けば,B細胞が長期持続的に中和抗体を作ってくれなくても望みはある。

対コロナ政策データベースCoronaNet(2020年7月7日 - 当該鐵人三國誌

富岳のシミュレーション結果については,この資料を使った報告会動画が出ている。パンデミック現象および対策のシミュレーション解析という資料も同日発表されているが,現時点ではあまり実証的でないように思われる。

Covid-19関係の学術研究はほとんどオープンアクセスだが,Deng W et al. "Primary exposure to SARS-CoV-2 protects against reinfection in rhesus macaques."(Science,2020年7月2日)はオープンでない。ただし,プレプリントサーバにある同じ研究グループのBao L et al. "Lack of Reinfection in Rhesus Macaques Infected with SARS-CoV-2."と結論が同じように思われるので,筆頭著者が交替して書き直されたものかもしれない。アカゲザルの場合,一度SARS-CoV-2に感染すると中和抗体ができて再感染しないという主張。

ScienceへのLetter,You S et al. "COVID-19's unsustainable waste management"(2020年6月26日)は,医療施設における感染防御や一般家庭における行動制限下での生活の結果,医療ゴミも家庭ゴミも増え続けており,ゴミ処理能力は低下しているので,このままではゴミ処理が持続不可能になってしまうという内容。UKの農村部では適正に処理されないゴミが300%増のところもあるとのこと。医療施設の近くに移動式のゴミ処理システムを導入すべきだし,回収やリサイクルについて各国は緊急に持続可能なシステムのデザインと解析を進めるべきと提言している。

Nature Human Behaviorの資料,Cheng, C., Barceló, J., Hartnett, A.S. et al. COVID-19 Government Response Event Dataset (CoronaNet v.1.0). Nat Hum Behav (2020). https://doi.org/10.1038/s41562-020-0909-7(2020年6月23日)は,195ヶ国の13000以上の対Covid-19政策を手作業で分類してデータベースとして公開し,毎日更新している(内容妥当性チェックのため5日の遅れがあるが)というもの。彼らが作ったデータベースはCoronaNetで公開されていて,分析に使ったコードは,Githubで公開されている(RとJavaで書かれているようだ)。大変有用な試み。

Flaxman, S., Mishra, S., Gandy, A. et al. Estimating the effects of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in Europe. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2405-7(2020年6月8日)は,たぶん,3月31日に触れたインペリグループ第13報がNatureにアクセプトされたもの。

López, L., Rodó, X. The end of social confinement and COVID-19 re-emergence risk. Nat Hum Behav (2020). https://doi.org/10.1038/s41562-020-0908-8(2020年6月22日)は,社会的距離の維持と個人防御を続けないと,ロックダウンを止めたら流行が再燃することをモデルで示している。

Lancetの原著論文Pollán M et al. "Prevalence of SARS-CoV-2 in Spain (ENE-COVID): a nationwide, population-based seroepidemiological study"(2020年7月6日)は,Summaryに目を通したところ,スペインで,municipal roll(たぶん住民基本台帳のような名簿)から2段階ランダムサンプリングした35883世帯を対象に行われた血清抗体検査と症状やリスク因子についての質問紙調査で得られたデータを分析したもの。抗体陽性割合に有意な性差や年齢差はなく,おおまかにいえば(判定基準によって若干異なるが)5%前後だったということと,抗体検査の14日以上前にPCR陽性だった195人の抗体陽性割合は概ね9割だったことと,嗅覚障害または少なくとも3つの症状を経験していた7273人の抗体陽性割合は2割弱だったこと,抗体陽性の人の約1/3は無症状だったこと,が示されている。ちゃんと読むべきだろう。

BMJのレビュー論文,Bastos ML et al. "Diagnostic accuracy of serological tests for covid-19: systematic review and meta-analysis."(2020年7月1日)は,Covid-19の血清学的な検査の診断の正確さについてのシステマティックレビューとメタアナリシスをしている。結論として,現在Point-Of-Care(POC)で使われている血清検査(イムノクロマトによる迅速抗体検査のこと)を使い続けることは支持する証拠はない,と述べている。確かにこの特異度では,蔓延してからでないとあまり意味が無いだろう。もっとも,上述のスペインの研究では,POC検査結果とラボで実施したELISAなどの抗体検査結果で陽性割合には大差なかったことが示されているようなので,陽性割合が5%くらいあればPOC検査でも良いのかもしれないが。

BMJのニュース記事,Dyer O "Covid-19: No large hidden outbreak in Africa but health worker shortage worsens"(2020年7月3日)は,タイトル通り,アフリカで懸念されている,隠れた大流行が起こっているということはないけれども,保健医療従事者の不足は悪化している,と主張している。

見逃していたが,Nスペプラスの命をどう守る? 新型コロナと水害危機(2020年6月24日)は重要。実際に九州が豪雨と水害に襲われている現在,分散避難は間に合わなかったかもしれないが,避難所のゾーニングや換気は実践できると思う。

BMJの専門職者向けのリスコミ実践ガイドGray NA, Back AL "Covid-19 communication aids."(2020年6月11日)は,COVID-Ready Communication Playbook "VITALtalk"というテキストを紹介していて,これには日本語版も含まれている。メディアの人も読むべき。

緩和は早すぎ(2020年7月9-10日 - 当該鐵人三國誌

3月にやっていたレベルの行動変容(ただし,小中学校の全国休校のような不合理な制約は含まない)を1年以上続けることが重要。今は緩めすぎ。居酒屋で対面で飲むとかいったレベルで緩めるには,NZや台湾のように,国内での新規感染がゼロという状態が2週間続いた後で,流行地からの慎重な入国制限をしながらでなくてはいけない。たぶん日本は慎重な入国制限などしないだろうから,3月にやっていたレベルの行動変容はずっと続けないと。そうしなければ,まず間違いなく感染爆発になる。たんに感染者が少ないから死者が少なかっただけなのに,未知のファクターで守られているなんて信じない方が良い。

明日から全国一律イベント制限緩和というのは暴挙。22日からGoToキャンペーン開始というのも信じがたい。一度打ち出した流れは止められないのだろうか。大事なことはCOCOAの登録率を上げ,それまでは保健所の方の手作業で網羅的に接触追跡して,HER-SYSも早いところ稼働させて,データの集計と発表を一元化して迅速に報告することと,検査なしでも濃厚接触者は個別に隔離生活ができるような体制を整えることで,それによって新規感染者を抑えることができれば順次イベント制限を緩和しても感染爆発にならないと思うが,順番を間違えている。

東京都医師会の会見,室内で会話をするときはマスクをすべきと説明しているのに,なぜか待機中はマスクをしていて,説明をするときだけマスクを外すという,意味不明な行動をしている。喋るところは透明アクリル板があるのでマスクを外しているというのかもしれないが,黙って座っている間もマスクをしている意味はないだろう。喋り終わってからマスクをするという行動は誤ったメッセージを伝えるので止めて欲しい。あと,相変わらず若い人にとってはインフルエンザより重症化しにくいという誤った情報をいうのは止めて欲しい。

JCS2020の西浦さんと山中先生の対談(7月13日朝9:00まで動画視聴可能)。クラスターの規模が違うという話は興味深い。ぼくは生活習慣や対人距離の文化的な違いで東アジア・東南アジアはクラスター以外のRが低いのではないかと以前から書いているが,クラスターの規模は考えなかった。BCG仮説は当初南米に流行が到達していなかったためのアーテファクトらしい。河岡先生が言われたという,急性ウイルス感染症では中和抗体が減衰するのが普通という話もさることながら,だいぶ気を遣った表現になっていたが,東京がこのままでは感染制御不能になることはたぶん間違いなさそう。感染を隠さず対策できるような環境作りが必須という話だったが,それはその通りだろう。質疑の最後の方で西浦さんが語っているように,USAが集団免疫路線に転換しないとは限らないという危惧は確かにあって,そうなると世界が壊れてしまうかもしれないので,全然楽観はできない。野球で言うと2回表のコロナウイルス攻撃中という比喩はわかりやすいと思った。

この数日話題になっている,経気感染(と訳したい,airborne infection:なぜなら,日本ではこれまで空気感染というのは飛沫核感染を指す言葉だったし,airborne infectionには飛沫感染もマイクロ飛沫感染も含まれる,vector-borneとかfecal-oralと対比される感染経路を示す言葉なので)に今こそ対処すべき時,と239人の科学者が共同アピールしたという文章は,Morawska L, Milton DK "It is Time to Address Airborne Transmission of COVID-19." Clinical Infectious Diseases(2020年7月6日)で,署名した科学者の一覧もSupplementとしてリンクされている。

UKはLeicesterという都市で2位の都市の3倍の患者発生が見られていることから,その都市だけのロックダウンをするというBMJのニュース,Mahase E "Covid-19: How does local lockdown work, and is it effective?"(2020年7月3日)。

BMJ Opinionというブログ記事Shahid HJ, Waqar S "Covid-19 and ethnic minority communities—we need better data to protect marginalised groups"(2020年7月7日)は後で読んでおきたい。

Lancet MicrobeのSchlottau K et al. "SARS-CoV-2 in fruit bats, ferrets, pigs, and chickens: an experimental transmission study"(2020年7月7日)は,タイトル通り,SARS-CoV-2をフルーツコウモリとフェレットと豚と鶏に感染実験してみたところ,豚と鶏には感染せず,フルーツコウモリにはよく感染したのでリザーバーホストである可能性があり,フェレットに感染させたときのウイルスの増加は無症状感染しているヒトでの状態に似ていたので,今後ワクチンや抗ウイルス薬を試す実験動物としてはフェレットが適していると主張している。

STSからの数理モデル研究へのアプローチ(2020年7月13日 - 当該鐵人三國誌

JCS2020の西浦さんと山中先生の対談は今日9:00までの公開とされていたが,10月30日まで公開継続されることになった。見逃した方は是非。

昼飯を食べながら「ひるおび」というテレビ番組を流していたら,東京都医師会長と神奈川県知事が出ていた。東京都医師会はこの誤った見解を含むパンフレットについて,早く見え消しで修正すべきだし,神奈川県が導入するスマートアンプ法によるPCR検査装置については,各医療機関に配備して,まず医療従事者を唾液で良いから頻回に検査するのに使ったら良いと思うが(感染ハイリスクだし,従事者ゼロにできないし,感染したらなるべく早く隔離することの感染拡大防止効果は大きいから),陽性者が見つかった場合の接触追跡がこれまで通りなされるかが不安。COCOAとHER-SYSがフル稼働する前に検査だけ簡単にできるようにして満足してしまうとまずいのだが,そこを誰も突っ込まないのだよな。劇場クラスタは,マイク無しで声が届く空間で30分も密閉していたら換気が足りないのは明確だし,有症状キャストの抗体検査陰性を感染していないという判断に使うという明確な間違いを犯しているので,ガイドラインがダメだったということではないか。GoTo絡みでは陰性証明がされたら移動を許せという暴論を語るキャスターと政治ゴロに対して東京都医師会長が迎合的な発言をしていたが,7割程度の感度では陰性証明は意味ないだろ。tweetしたけれども,GoToトラベルについては国の判断がおかしいのであって,必要な移動制限は差別ではない。移動を許しながら感染拡大を防ぐには検疫しかないだろう。国際的には,新規感染者ゼロにした国は,入国者を2週間検疫隔離するのだから,国内でも同じ。こういうワイドショーばかり見ていたら,一般の人の判断も狂うよなあ。

日比野愛子「感染症モデルと社会 ――STS(科学技術社会論)への誘い」(2020年7月2日からの毎週連載っぽい)。STS研究が数理モデル研究を客体化する客観的な研究対象にするのは,health economicsが医療を客体化する客観的な研究対象にするのと同様か(注:当初勝手に転用というか誤用していましたが,Twitterでご指摘頂いて調べたら客体化はobjectificationでOAEDでもpeopleをobjectとして扱うという意味が明記されていました)。視点として面白いと思うし,台湾で聞いたという話は概ね間違っていないと思うが,公開されてから10日も経つのにまだ誤変換が直っていない(「実効再生産数」であるべきところ,「実行再生産数」となっている)し,2015年から2018年に数理モデルの政策活用についてインタビューしようと考えて日本ではインタビュー協力者を探すのに苦労して台湾に向かった(大意)と書かれているが,瀬名秀明さんは2009年のパンデミックインフルエンザ後に西浦さんと稲葉さんにインタビューして『インフルエンザ21世紀』という素晴らしい著作にまとめているし,西浦さんがリーダーとなって,最初厚労科研への応募だったと思うが,その後AMEDに入った研究班感染症対策における政策判断のための数理モデル研究基盤の構築と発展は2015年は始まっていたので,調査が足りなかったのではないかと思わざるをえない。あと,取材先の台湾の研究室ではやっていなかったのかもしれないが,デング熱のシミュレーション研究はCIMSiM/DENSiMとかSkeeter Busterとか多々あるし,その理由が蚊媒介だからというような説明がされて納得してしまっているのも甘い。感染症数理モデルがマラリアで大いに発展してきたことを考えれば,違う理由を掘り下げられるはず。惜しい。

三大感染症への影響(2020年7月15日 - 当該鐵人三國誌

東京の劇場クラスタ,直接問い合わせた方のnoteの記事に書かれている保健所の回答が意味するのは、換気が不十分だったので劇場内にいた人全員に感染した可能性があるということだろう。それにしても全国で新規患者数が増えてきたのに,「予定通りに」行動制約を緩めていくというのは,順応的制御の視点から見るときわめて不合理。

Lancet Global Healthの論文で,Hogan AB et al. "Potential impact of the COVID-19 pandemic on HIV, tuberculosis, and malaria in low-income and middle-income countries: a modelling study"(2020年7月13日)は,数理モデルを使って,低中所得国でのCovid-19流行が,HIV,結核,マラリアという三大感染症による死亡を今後5年にどれくらい増やすのかを予測している。後でちゃんと読もう。

Lancet Infectious Diseasesの論文で,Meredith LW et al. "Rapid implementation of SARS-CoV-2 sequencing to investigate cases of health-care associated COVID-19: a prospective genomic surveillance study"(2020年7月14日)は,Summaryによると,著者らの病院と東イングランドの病院からランダムに選んだPCR検査陽性患者から臨床データを得ると同時に採取したSARS-CoV-2について24時間以内にゲノムシーケンスを行い,疫学データとゲノムデータを合わせて解析することで,どういうヘルスケアで感染が起こるのか,どういう介入が有効なのかを調べたものらしい。後で読もう。

タイミングが間違っている(2020年7月17日 - 当該鐵人三國誌

東京発着を対象外にして始めるというGoToトラベルだが,伊豆諸島とか小笠原諸島が東京であるために対象外になる不合理性を別としても,もはや東京発着の移動量を減らすだけでは感染拡大は防げないだろうし,これだけ全国で感染者が出ている状況で観光旅行を増やしたら接触は増えるから始めるべきではない。昨日だったかtweetしたが,観光地などで経営が逼迫している人たちに直接補助を出せば良いので,税金を使って感染拡大させてはいけない。観光復興はNZや台湾のように新規感染者ゼロが2週間続いてからやれば良いし,そもそもGoToトラベルを含むGoToキャンペーンって,提案されたときは感染終息後の経済対策という話ではなかったか?

Natureの論文,Hao X et al. "Reconstruction of the full transmission dynamics of COVID-19 in Wuhan"(2020年7月16日)は,かなりのNPIs(薬剤によらない介入)実施によって地域封じ込めに成功した武漢の事例を振り返るという視点で,1月1日から3月8日までに武漢で確定診断がついた32583全症例のデータに基づいて,発症前の感染性,確定診断が付く割合や伝播速度や人口移動の経時的変化を考慮した数理モデルを用い,この期間に武漢で起こっていた感染の全体像を再構築することを目的とした。要旨ではこの感染の重要な特徴はhigh convertnessとhigh transmissibilityであると言っていて,その後を読むと,3月8日までの感染の87%(推定下限53%)は確定診断がついておらず,そのときのR0は3.54(95%信用区間は3.40-3.67)でSARSやMERSより高かったが,長期間にわたって複数のNPIsを組み合わせた対策を行った結果,3月8日までにRは0.28(95%信用区間は0.23-0.33)まで低下し,新規確定患者数ゼロが2週間続いた後ですべての対策を止めた場合の再流行確率は0.32(確定診断がついていない感染が87%の場合)から0.06(53%の場合)と予測されている。

経済活動をちゃんと再開したかったら,順次緩めるのではなく,このようにきちんと封じ込めるまで対策を続けるべきで,それで生活がもたない人や業種に対しては,直接給付によって生活を支えるのが政府の役割であるべきだろう。GoToキャンペーンは旅行代理店や広告業界を潤すことになるから,それに依存しているメディアでも利害関係者が多すぎて批判されにくい面があるのだろうし,アドヴァイザリーボードも愚策Aともっと酷い愚策Bの2択でAを選んだという話ではあるのだろうが,機能していないなあ。前専門家会議が勝手に廃止された時に読めていたことだが。

もし緩やかに経済を回しながら2年間耐えるつもりで東京の感染が収束していない段階で行動制約を解除したのならば,昨日の麻生派の会合みたいな大規模なmixtureとか,既に多くの店で普通に見られる対面での飲食は,感染が終息するまでは許可すべきではない。なし崩し的に東京も緊急事態宣言が解除されたことからすると,日本の政府はNZや台湾のような終息あるいは排除を目指していないのだと考えられ,そうだとすると3月のレベルまでしか行動制約を緩めることはできない(小中学校は開校できると思うし,野球やサッカーの観戦も今のやり方ならリスクはそんなに高くないと思うが)。

COCOAの普及とHER-SYSの稼働が遅れている現在,積極的疫学調査は相変わらず保健所職員が人力で行うしかないわけだが,厚労省が公衆衛生学会や疫学会を通して,担当職員を臨時雇用するための予備登録受け付けを始めた。感染研の新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領や,公衆衛生学会の保健師のための積極的疫学調査ガイド[新型コロナウイルス感染症]のように参考資料も公開されているが,Wordで公開されている取組概要説明によると,専門職者対象なようだ。

Lancet Public Healthの論文で,Kretzschmar ME et al. "Impact of delays on effectiveness of contact tracing strategies for COVID-19: a modelling study"(2020年7月16日)は,感染者が減り始めた国ではロックダウンが緩められつつあるが,対人距離確保が継続されても,流行を制御するためには他の方法も必要で,とくにスマホアプリを使った接触追跡が重要で,接触追跡が成功するためには何が鍵かを明らかにすることを目的として,感染から発症までの時間遅れと,発症から検査と隔離までの時間遅れ(検査遅延)を明示的に取り入れた確率論的数理モデルを使い,接触追跡戦略の各段階での即時性と捕捉の完全性の効果を評価したというもの。検査遅延・追跡遅延が0日で捕捉100%という理想的な場合に,伝播の40%が発症前に起こっていると仮定し,実効再生産数が1.2であれば,接触追跡によって0.8に低下すること,検査割合と追跡捕捉率が80%でもその効果は同様であること,実効再生産数を1未満に保つためには,検査遅れが1日あるときには,追跡遅れは最大1日,追跡漏れは最大20%以下でなくてはいけないこと,検査遅れが3日以上あると,他のパラメータが理想的な値でも実効再生産数が1未満にならないこと,たとえインストール割合が20%であってもスマホアプリによる接触追跡が追加されれば,人力の接触追跡だけの場合に比べて実効再生産数の低下が大きいことなどが示されている。シミュレーションなのだが,コードはMathematicaで書かれていて,Githubに公開されている。最近だとMathematicaは珍しい気がする。なお,検査遅延によるRの増加を防ぐためには,もう1歩進めて濃厚接触が判明した時点で検査なしで自己隔離可能にする方がさらに効率良いはずだが,少なくとも要旨にはその考察は書かれていない。

感染症対策のためには,移動制限など私権の制約を要する場合があるというのは,別に目新しい話ではなく,検疫法や感染症法で法制化もされているし,長い議論の末に到達した公衆衛生的合意。WHOも倫理的考察をまとめた文書(2016年)を出している。

完成度は不十分というか記述の詰めが甘いが,rev3をアップロードした。

机上の空論(2020年7月18日 - 当該鐵人三國誌

今夜のBS1の瀬名さんが司会をする「ウイルスVS人類4 新型コロナ 免疫の謎に迫る」は録画予約した。2009年のパンデミックインフルエンザ後に書かれた『インフルエンザ21世紀』でも思ったが,瀬名さんは取材先を正しく選ぶ嗅覚が凄いと思う。

3倍になる論はどれだけ需要喚起されるかわからないのだから机上の空論ではないか? 一見尤もらしいが不確実すぎる。もし,観光地の人々を当面救うために1.7兆円でなく5.1兆円が必要ならば(いくら必要かという試算はされているのだろうか?),それを予算化して直接給付すべきだろう。旅行代理店業界も救って経済を回したいなら,バーチャル観光に補助金を出すとか,ネットインフラを公費で拡充してオンラインサービスに金を使いやすくするとか,感染拡大リスクを上げない方法はいくらでもあるはず。感染拡大リスクを上げない観光旅行なんて普通の人には不可能だと思う。

Research Letterという枠だが,Carfi A et al. "Persistent Symptoms in Patients After Acute COVID-19"(JAMA,2020年7月9日)はCOVID-19治癒後の後遺症についての調査結果。

Lancet Global Healthの原著論文で,Abbas K et al. "Routine childhood immunisation during the COVID-19 pandemic in Africa: a benefit–risk analysis of health benefits versus excess risk of SARS-CoV-2 infection"(2020年7月17日)が出ていた。アフリカでCOVID-19対策のためのさまざまな行動制約によって定期予防接種が中断されたり延期されたりしていることが,子供の健康に与える影響の損益分析をしている論文と思われる。

一般雑誌記事なので無視したいところだが,尻馬に乗って勘違いしたバッシングがされるのは害悪だと思うので書いておく。東洋経済に載っている7段階説。提唱されている仮説は,可能性として絶対にありえないわけではないが,世界中でこれまでCovid-19について得られたデータや検査や仮説を全部ひっくり返してしまう突拍子のないもので,エビデンスもなく(「ファクトに基づいて」いない)単なる仮説。仮説自体とは別に,記事はいくつか酷い間違いをしている。第一に,記事冒頭の西浦さん批判はそもそも藁人形論法で,死者何十万人という予測が外れたと主張しているのだけれど,元々それは「何も対策しなかった場合」に起こる死者数なので,対策したら違う結果になるのは当然であり,「予測が外れた」のではない。西浦さんだけでなく世界中の研究者や政府が同様な計算値を出しており,無闇に理論疫学への不信を煽るだけなので,この点は大きな害悪であり,修正を求めたい。第二に,日本を含め,どの国でも,感染した場合の年齢別重症化率や感染致命リスク(IFR)は,人工呼吸器やECMOによる救命措置ができている限り大差ない。死亡率(人口当たりの死亡数)が低い国では感染者が少ないだけと考えるのが最も自然で仮定を要しない解釈なので,見る数字が不適切。かつ,日本の致命割合(CFR)は国際的に見て低くない。今月は感染者増加に対して死者が増えていないと報じられているが,検査拡大によって相対的に軽症の人が多く検出されていること,(それと関係するが)感染者の年齢層が相対的に低いことと,死亡転帰を辿る場合,感染から死亡まで20日程度は掛かるという時間遅れと,おそらく経験的に重症化を防ぐことに寄与するような臨床的手法(ただし,確実ではないしエビデンスといえるほどではない)がわかってきているのかもしれない(CFRが異様に低いのはシンガポールで,もしかしたらシンガポールについては何か特別な事情があるかもしれないが)。違っているのは,感染者のうちどういう人がどれくらい確定診断されているかで,軽症や無症状の人(若い人が多い)の感染を見逃さずに検出できる確率が上がれば,当然,致命割合は低くなる。第三に,『私の研究チームはこの現象を、新型コロナは毒性が弱いため、生体が抗体を出すほどの外敵ではなく自然免疫での処理で十分と判断しているのではないかと解釈し、「なかなか獲得免疫が動き出さないが、その間に自然免疫が新型コロナを処理してしまい、治ってしまうことが多い」という仮説を立てた。』と,新しい仮説を立てたかのように主張しているが,感染しても重症化しない(感染者の8割くらいの)人は肺に行かずに上気道にとどまり,多くは自然治癒するのだろうという話を,1月28日のクローズアップ現代プラスの最後の方で田代先生がされていて,新しい仮説ではない。第四に,その自然治癒する割合が8割ではなく,ほぼすべての感染について気づかず抗体もできず自然治癒すると仮定し,7段階と数字を提案した点が目新しい仮説なのだと思うが,さすがにそれは無理なのではないか。日本人の3割が既に曝露という仮定はいろいろな知見と矛盾するので(例えば,もしそんなに蔓延しているなら検査対象を広げてRT-PCRをした場合,症状がなくてもRT-PCRなら7割くらいは検出できるはずだから,陽性率が低くてはおかしい),普通に考えたら荒唐無稽。

WHOのインフォグラフィクスと動画(2020年7月19日 - 当該鐵人三國誌

今日突然メディアが取り上げてトレンド入りした3Csの件のソースはこのページの下の方だな。WHO-WPROから動画も出てる。今月に入ってからはPAHOも出している

榎木英介さんのtweetでOUTBREAKという海外ドラマを知った。新型コロナウイルスを題材にして昨年既にできていたのは凄いと思うが,Amazon Prime Videoで1話を見始めて,あまりに迂闊な人ばかり出てくるのについていけず見るのを止めてしまった。

Irwin, R.E. Misinformation and de-contextualization: international media reporting on Sweden and COVID-19. Global Health 16, 62 (2020). https://doi.org/10.1186/s12992-020-00588-x(2020年7月13日)は,スウェーデンのcovid-19対策が国際的に誤って報道されているという趣旨。要旨によると,パンデミックが始まった頃,他国と同様にスウェーデンでも感染拡大緩和策はとったが,ロックダウンなどの強制的な方法ではなく段階的に国民の協力を求めたものだった点が他国と違っていたということと,スウェーデンについて6つの言説(生活は普通/集団免疫戦略をとっている/専門家のアドバイスに従っていない/WHOの推奨に従っていない/失敗している/国民が政府を信頼している)が国際的に広まったが,一部事実に基づいているものの不正確だったとのこと。

最近の論文いくつか(2020年7月20日 - 当該鐵人三國誌

今度の週末のオンライン講演のため,これまで作ってきたスライドは分割してもう少し丁寧に書き,医薬品とワクチンの現状レビューも加えようかと思う。が,諸事情により謝金をもらってしまう講演なので(なるべくそういう仕事は受けたくないのだが,断りにくかった),公開はできないようだ。

昨日IrwinのDebate論文に触れたが,6月にはBMJでもHabib H "Has Sweden’s controversial covid-19 strategy been successful?"(2020年6月12日,フリージャーナリストによる記事。1週間後にスウェーデンの学校閉鎖は16歳以下ではなく16歳以上だったという訂正記事が出ているが,オンラインでは修正済み)のように,スウェーデンの対策について疑問視する記事が載っていたし,最近でもスウェーデンを批判する記事は多いが,新規確定感染者報告数は日本より低いし,たぶんいろいろ誤解がありそうな気がする。

Islam N et al. "Physical distancing interventions and incidence of coronavirus disease 2019: natural experiment in 149 countries"(BMJ,2020年7月15日)は,149ヶ国での物理的距離とCOVID-19の罹患率というタイトル。149の国と地域で物理的距離戦略導入前後の罹患率(この場合は人口×観察期間当たりの確定感染者報告数であって,厳密に言えば罹患率ではないと思うが)から罹患率比を出すと,0.87(95%信頼区間0.85-0.89)であり,有意に低下したが,そこに公共交通機関停止を追加しても罹患率低下に付加的な効果は無く,11ヶ国からのデータによると,学校閉鎖,職場閉鎖,大規模集会の制限なども,同じく付加的な効果は無かった,としている。

The RECOVERY Collaborative Group "Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19: Preliminary Report"(NEJM,2020年7月17日)は,Covid-19の入院患者にオープンラベルでランダム割り付けして行った治験結果で,デキサメタゾンを10日間,1日6mg,経口か静注で投与すると割り付けられた2104人(デキサメタゾン群)と,従来通りの標準的な治療を受けた4321人(対照群)を比較し,割り付け後28日目までの死亡はデキサメタゾン群で482人,対照群で1110人で,年齢調整したオッズ比は0.83(95%CI 0.75-0.93)と,デキサメタゾン投与によって死亡リスクが有意に下がったこと,人工呼吸器を付けた患者に絞ると死亡率比0.64,人工呼吸器は装着せず酸素吸入ありの患者では率比0.82と,有意に死亡率が低下していたのに対して,ランダム割り付け時に呼吸補助が不要だった患者では率比1.19で有意差はなかったとしている。ただし,呼吸補助を受けていた患者は呼吸補助が不要だった患者より平均して10歳若く,発症からランダム割り付けまでの時間が7日間長かったことも報告している。

Furukawa Y, Kansaku R. Amabié—A Japanese Symbol of the COVID-19 Pandemic. JAMA. Published online July 17, 2020. doi:10.1001/jama.2020.12660(JAMA,2020年7月17日)は,The Arts and Medicineというカテゴリの報告で,弘化3年の肥後国の瓦版に描かれたアマビエと,現代の新橋駅に掲示されたアマビエのポスターの画像が載っている。日本の妖怪の中では,ろくろ首や雪女など,ラフカディオ・ハーンが『怪談』に描いたものが海外でも知られていると思うが,アマビエはその仲間入りをしたわけだ。いや,JAMAに載っただけでは一般の人に知られるようにはならないか?

He G et al. "The short-term impacts of COVID-19 lockdown on urban air pollution in China"(Nature Sustainability,2020年7月7日)は,ロックダウン中に中国のPM2.5が顕著に減ったが,それでもWHO推奨よりは4倍も高かったという論文のようだ。

Hou, Y., Zhao, J., Martin, W. et al. New insights into genetic susceptibility of COVID-19: an ACE2 and TMPRSS2 polymorphism analysis. BMC Med 18, 216 (2020). https://doi.org/10.1186/s12916-020-01673-zはCorrespondenceだが,ヒトのACE2とTMPRSS2の遺伝的多型を解析し,SARS-CoV-2感染と,いくつかの多型の間に関連があることを示している。

Jackson LA et al. "An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2: Preliminary Report"(NEJM,2020年7月14日)はmRNA-1273というワクチン候補についての,45人の健康な成人を対象とした第1相臨床試験の結果,すべての対象者で免疫応答が誘導され,治験を制限する必要を示唆するような重篤な有害事象はなかったという報告。プロトコルなどもダウンロードできるようになっている。 Guha-Sapir D et al. "COVID-19 policies: Remember measles"(2020年7月17日)はScienceへのレターだが,Covid-19パンデミックによって37ヶ国で1億2000万人の子供への麻疹ワクチン接種ができていないことに警鐘を鳴らしている。Covid-19も問題だが,他の病気も忘れてはいけないという話。

Lancet Oncologyのがん死亡への影響論文とLancetのワクチン候補第2相治験結果論文は2つずつ出ている(2020年7月21日 - 当該鐵人三國誌

Maringe C et al. "The impact of the COVID-19 pandemic on cancer deaths due to delays in diagnosis in England, UK: a national, population-based, modelling study"(Lancet Oncology,2020年7月20日)はUKでがんの診断遅れによる死亡がCOVID-19パンデミックによってどれだけ増えたかというモデル研究。人口学的にも興味深いし重要な視点と思う。同じ号にUKでの同じようなテーマにやはりモデリングで取り組んだ研究であるSud A et al. "Effect of delays in the 2-week-wait cancer referral pathway during the COVID-19 pandemic on cancer survival in the UK: a modelling study"(Lancet Oncology,2020年7月20日)が載っている。違う著者グループだし使ったデータも違うし,前者は研究助成金を貰ってやっているが,後者は研究助成金なしでなされている。ちゃんとEditorialを読んでみないと事情はわからないが,たぶんLancet Oncologyが意図的に2つを同時掲載したのだろう。

ワクチン候補の臨床試験で有効性と安全性が確かめられたという報道が多数されているが,Lancetの同じ号に載っている第2相試験の結果なのに,なぜかメディアはOxford大学とアストラゼネカのFolegatti PM et al. "Safety and immunogenicity of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine against SARS-CoV-2: a preliminary report of a phase 1/2, single-blind, randomised controlled trial"(Lancet,2020年7月20日)ばかり取り上げて,中国からのZhu F-C et al. "Immunogenicity and safety of a recombinant adenovirus type-5-vectored COVID-19 vaccine in healthy adults aged 18 years or older: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial"(Lancet,2020年7月20日)には触れないのが不思議。これもEditorialをちゃんと読まないとわからないが,敢えて同じ号に取り上げたのだろう。どちらも筆頭著者はMScだから若い人なんだろうな。

神戸市新型コロナウイルス感染症対策第1次対応検証結果の公表及び意見募集について(2020年7月17日)が出ていることをtwitterで知った。内部検証だが,「本検証報告書につきまして、市民のみなさま、COVID-19対策にあたった関係者のみなさまから、広くご意見や次なる波への備えに関する提言等を募集いたします」というのは素晴らしい。月末締め切り。

ゲノム解析とABM(2020年7月22日 - 当該鐵人三國誌

Gigazineの新型コロナウイルスのゲノム配列から感染の流れを追跡する試みが行われている(2020年7月22日)という記事からリンクを2つ辿るとRockett, R.J., Arnott, A., Lam, C. et al. Revealing COVID-19 transmission in Australia by SARS-CoV-2 genome sequencing and agent-based modeling. Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-1000-7(Nature Medicine,2020年7月9日)があり,そこからOude Munnink, B.B., Nieuwenhuijse, D.F., Stein, M. et al. Rapid SARS-CoV-2 whole-genome sequencing and analysis for informed public health decision-making in the Netherlands. Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0997-y(2020年7月16日)もリンクされている。前者はオーストラリアでの研究で,全ゲノム解析からウイルスの遺伝子系統樹を作るだけではなく,エージェントベースモデルによるシミュレーション結果と比較しているところが興味深い。パプアニューギニアで聞き取りによる家系図復元と個人ベースの再生産シミュレーションを比較したことを思い出したが,たぶん実は結構比較するところが難しいんだよなあ(それぞれはできるんだけれども,そこのアイディアがなくて研究が途中で止まってしまった。逆にこれが参考にできたら嬉しいので,ちゃんと読んでみよう)。後者はオランダでウイルスの全ゲノム配列決定で得られた情報を公衆衛生政策決定に生かすという話のようだ。

早くHER-SYSを(2020年7月24日 - 当該鐵人三國誌

7月14日に東京や大阪でHER-SYSが稼働していないという報道があったが,続報がない(厚労省か感染研が公表したら良いと思うが,どの自治体でHER-SYSが動いていて,どの自治体で動いていないのかの情報が公式発表されていないと思う。随分探したが見つからない)。HER-SYSが稼働しないとCOCOAの意味がないのだが。そもそもの制度設計として,既に情報の流れとしては確立しているNESIDが,FAX+手作業入力を何段階も要するせいで時間が掛かっていたのが問題だったので,全数報告や定点報告が医師に義務づけられている感染症のすべてについて,NESID全体をオンライン化しておけば,最初に医師が入力するだけで済むはずだった。そういう王道ではなく,COVID-19だけHER-SYSという新システムを作ってNESIDは使わないという運用にしたのは迅速導入のためと思うが,いまだに導入できていない自治体があるのはダメすぎるのではないか。知事は何が障壁になっているのかを明らかにして早急に導入するよう指示しているのだろうか?

柏野さんがtweetで教えてくださったが,m3の報道によると,WGが開催され,いまだに自治体の8割しか動いていないとのこと。この資料の最後に資料8として書かれているWGで検討されているようだが,m3とかの記事ではなくgo.jpドメインでの情報発信が欲しいところ。HER-SYSがちゃんと動いてくれたら感染,検査結果,転帰などの状況把握が一元的に迅速にできるはずなので,意味は大きいと思うのだが。

WHOが"Infodemiology"を提唱し,第1回のConferenceが開かれていたのを見逃していた。Post-conferenceのBrochureを見ると,日本からは誰も参加しなかったようだ。

Erkhembayar R et al. "Early policy actions and emergency response to the COVID-19 pandemic in Mongolia: experiences and challenges"(Lancet Global Health,2020年7月23日)は,モンゴル政府が2017年に成立した災害防護法に基づいて1月に国家緊急事態委員会を立ち上げ,さまざまな公衆衛生政策をとり続けてきた結果(注:その内容が本文に記述されている),初発患者を3月10日まで遅らせることができ,7月10日に至るまでICU入院例も死亡例も皆無であり,LMICでも頑健な予防システムと効果的なパンデミック対策が実装可能であることを示した,と書かれている。パンデミックに対して災害対策という枠組みで取り組むことの有効性を示しているとのこと。

Cavalcanti AB et al. "Hydroxychloroquine with or without Azithromycin in Mild-to-Moderate Covid-19"(NEJM,2020年7月23日)という原著論文が出て,軽症から中等度の症状のCOVID-19患者に対して,標準治療,標準治療+ヒドロキシクロロキン400mg毎日2回,標準治療+ヒドロキシクロロキン400mg毎日2回+アジスロマイシン500mg毎日1回(それぞれ7日間)の3群にランダムに割り付けた臨床試験の結果が報告されていた。どちらの治療も標準治療に比べ有意な改善は見られなかったという結果。

Ali ST et al. "Serial interval of SARS-CoV-2 was shortened over time by nonpharmaceutical interventions"(Science,2020年7月21日)はReportというカテゴリだが,NPIsで対策している間に発症間隔が短くなったというタイトル。発症間隔とは患者の発症日から二次感染者の発症日までの間隔の平均値を指し,西浦さんの論文などでは,ある仮定をおけば世代時間と一致する値として扱われているので,それが短くなるということは,感染拡大速度が速くなるということを意味する。この論文では中国本土で1月9日から2月13日までの1ヶ月の間に,発症間隔が7.8日から2.6日に短かくなったことと,その変化がNPIs,とくに感染者の隔離によってもたらされたと論じているようだ(タイトルもそうだが,Abstractにはそう書かれている。直感に合わないので,後でちゃんと本文を読まねば)。

Candido DS et al. "Evolution and epidemic spread of SARS-CoV-2 in Brazil"(Science,2020年7月23日)もReportというカテゴリ。Abstractによると,感染者増大が続いているブラジルでもNPIsはとられていて,そのおかげで3を超えていたRがサンパウロとリオデジャネイロでは1-1.6に下がったことを,移動量ベースの数理モデルで示したのに加え,427の新しいウイルスゲノム解析をして,100以上のブラジルに侵入したウイルスゲノムと比較し,ブラジルに広がったウイルスの76%が2月22日から3月11日の間にヨーロッパから侵入した3つのクレードに属すると推定し,それらを組み合わせて,ウイルスの拡散と進化について考えると,現在の介入ではブラジルでのウイルス伝播を食い止めるのに不十分だと主張している。

EpiEstimパッケージ(2020年7月25日 - 当該鐵人三國誌

このtweetで紹介されている論文はプレプリント(2020年7月3日)だが,その中で計算に使われているRのEpiEstimというパッケージ(vignette)は,既にいくつかの査読を通った論文でも使われている。例えば,Ruiz-Patiño A et al. "Mortality and Advanced Support Requirement for Patients With Cancer With COVID-19: A Mathematical Dynamic Model for Latin America"(JCO Global Oncology,2020年5月29日)やNajafi F et al. "Serial interval and time-varying reproduction number estimation for COVID-19 in western Iran"(New microbes and new infections,2020年6月14日)でも使われていて,MCMCを使った再生産数リアルタイム推定の常套手段になりつつあると言って良いかもしれない。暇を見つけて試してみたい。最初に触れたプレプリント論文の著者たちは,EpiEstimを使ってCOVID-19の再生産数推定を実装するためのパッケージとして,EpiNowEpiSoonNCoVUtilsという3つを開発しているようだ。

報道特集に高山義浩先生が出ていて,沖縄のCOVID-19対策の体制を語っていた。素晴らしい対策で,さすがと思った。報道特集のキャスターの膳場さんと高山先生は,ともにぼくが助手だった頃に保健学科の学生だったが,たぶん2学年違うから重なってはいないだろう。その後報道特集に出ていた医師が,Covid-19での入院時血清フェリチンが8000(単位が見えなかったが,たぶんng/mLか)を超え,それが重症度の指標だと語っていた。血清フェリチンは普通は鉄栄養の指標だが,肝細胞のダメージでも見ているのだろうか? メタアナリシスでCRPやd-Dimerなどと同様,血清フェリチン高値は致死リスクを有意に上げることが示されている論文があったが(Huang I et al. "C-reactive protein, procalcitonin, D-dimer, and ferritin in severe coronavirus disease-2019: a meta-analysis ",Therapeutic Advances in Respiratory Disease,2020年7月2日),メカニズムは良くわからない。(追記:tweetで教えていただいたところによると,高サイトカイン血症の時に上昇することが以前から一般的に知られているそうだ)

世論への期待(2020年7月26日 - 当該鐵人三國誌

OxfordのFraser教授のグループがScienceに出したDigital Contact Tracingの論文で既に区別されていたのに,いまだにasymptomaticとpresymptomaticの違いを区別していない議論があることとか,リスク評価をしていた専門家会議を廃止して,リスク管理組織である対策本部の下に作った分科会にリスク評価をさせるという,リスク論的にはあまりにもバカげた組織変更をした(この点をメディアは触れないが,中西準子先生にでも取材すれば,いくらでも語ってくれるだろう)時点で見えていた,分科会の存在が政策に対する追認という形の権威付けにしかなっていない現状は,非常に残念。また,完璧な防護をしながらの観光旅行を楽しむことが可能であるかのような幻想(絶対に無理とは言い切れないが,受け入れ側も旅行者側も感染防御の専門家ではないし,専門知識があっても実践するには訓練が必要なので,ほぼ幻想と言って良い)が語られるのも残念。現政権を動かせるのは世論しかないので,この辺り,世論が盛り上がって欲しいのだが。

リスク論の件,若干補足しておくと,リスク管理者の下部組織としてリスク評価部門が設置されている場合,会社なら独立性を保つこともできるのかもしれないが,官庁では独立性が保てないので,往々にして評価が甘くなったり無視される。それを踏まえた組織改編がなされ,人員不足のため迅速とは言いがたいがリスク評価が改善されたのが,リスク論に基づいて,原子力や食品で見られた動きであった。かつて原子力はリスク管理もリスク評価も経産省の下部組織で行われていたため,危機管理が機能せず,経産省に対して全電源損失の可能性への対処が足りないという指摘を公的に行う組織がなかった(そのせいで,国会で野党議員がその可能性を指摘したが,政府に根拠のない言い逃れを許してしまった)。それを反省してリスク評価組織である原子力規制委員会を環境省の外局とした。食品衛生についてはリスク管理をする農水省や厚労省とは独立した食品安全委員会が,リスク評価(とリスクコミュニケーション)を担う組織として内閣府の下に設置されている。COVID-19パンデミックへの対処としては,厚労省の建物で活動はしていたものの,根拠法がないおかげで逆にどの省庁からも独立性を保てていたリスク評価組織であった旧専門家会議を廃止して,対策本部という全省庁横断のリスク管理組織の下に,法に基づく「分科会」として専門家を入れてしまうことによって,リスク評価の独立性が失われることは,火を見るより明らかだろう。6月24日に懸念した通り。

WHOのMedia Briefingから(2020年7月28日 - 当該鐵人三國誌

昨日retweetしたが,WHOのメディアブリーフィングでテドロス・アダムスアダノム事務局長が語ったこと(とくに"But although our world has changed, the fundamental pillars of the #COVID19 response have not: political leadership, and informing, engaging and listening to communities""And nor have the basic measures needed to suppress transmission and save lives: find, isolate, test and care for cases; and trace and quarantine their contacts""Keep your distance from others, clean your hands, avoid crowded and enclosed areas, and wear a mask where recommended. Where these measures are followed, cases go down. Where they’re not, cases go up")は簡潔明瞭な英文でわかりやすい。ぼくは語順も重要だと思う。「伝播を抑止し生命を守るのに必要な基本的な手段:見つけて,隔離し,検査し,患者を治療する,そして接触者追跡し,濃厚接触者を検疫すること」とある。検査より隔離が先。

昨日公開されていた,論座に稲葉さんが寄稿された感染症数理モデルをどのように受け止めるべきか? 数理科学からみた新型コロナ問題は多くの人に読んで欲しい。しかし日本では公衆衛生を掌るのが医師と歯科医師であると医師法と歯科医師法で位置づけられていて,厚労省の医系技官もその2つの資格保有者しか受験さえできないし,国家試験でも公衆衛生の問題がかなりの部分を占めるにもかかわらず,多くの大学医学部で公衆衛生学教室は縮小されており,衛生学教室と合併されたり,廃止されたりしてきたので,稲葉さんが書かれた理想とはほど遠い。だからこそこういう文章を書くことは大事だと思う。ぼくも来年1月に出る予定の,臨床医が主な読者であろうと思われる雑誌への,感染症数理モデル関係の寄稿を引き受けたのは,その理由による。

見逃していた論文とか(2020年8月1日 - 当該鐵人三國誌

RTしたがメモはできていなかったので,ハーバードのLipsitch教授のところから,Levinson M et al. "Reopening primary schools during the Pandemic"(NEJM,2020年7月29日)が出ていた。教員を含む大人については(対人距離確保やマスク着用や接触追跡,検査と隔離などの)十分な防護をしながら,小学校を再開すべきだし,連邦政府はそのために金を出すべきという論考。小学校は食品スーパーや医院と同じエッセンシャルなもので,小学校の教職員もエッセンシャルワーカーだから危険手当は出すべきだとも書かれている。

高山先生がtweetされていた,新型コロナウイルスの感染者が発生した高齢者施設における感染対策(沖縄県立中部病院感染症内科,第2版:2020年7月31日)は,全国の介護や老人保健施設関係者は読むべきと思う。ハイリスクな人が多いけれども閉鎖もできない施設をどうやって動かすか。2月頃から考える必要があると書いてきたが,さすが高山先生。こういうものを実践に基づいてアップデートしていくしかないのだと思う。

Zhang Y et al. "Evaluating transmission heterogeneity and super-spreading event of covid-19 in a metropolis of China"(IJERPH,2020年5月24日)は,たぶん見逃していたのだが,1月21日から2月26日までの天津市の135人について,43の感染鎖(最大45人,最長4世代)のデータを得て,再生産数が負の二項分布に従うとして不均質な伝播(再生産数の個人差が大きい)モデルでシミュレーションし,再生産数Rと分散パラメータk(kが小さいほど伝播の不均質性が大きい)を推定した論文。

これも見逃していたが,Yamamoto K et al. "Health observation app for covid-19 symptom tracking integrated with personal health records: Proof of concept and practical use study"(JMIR mHealth and uHealth,2020年7月8日)は,「健康日記」(K-note)というアプリを使って,予め保健所にIDとユーザ名の形の一覧表が登録されたユーザ自身が毎日の健康状態をスマホに記録し,covid-19関係の症状などがあったら,その情報がIDとともにCSVで保健所に送信され,保健所がそのデータを使って対策に役立てることができる仕組みを京大と和歌山医大で作ったという話のようだ。5月12日までの登録ユーザが約2万人。COCOAより先行して動いていたわけだが,たぶん今後はCOCOAに統合されるべきものだと思う。なお,このJMIR mHealth and uHealthというジャーナルは知らなかったが,IFが4.31もあるのだな。

マスクの話。The history behind Japan's love of face masks(Japan Times,2020年7月4日,Alex Martin氏の署名記事)は,タイトル通り,日本でマスクが愛されている背景となる歴史について語られている。マスクのバリエーションや江戸時代の版画に残る,医療所にいる患者が布で口を覆っている様子などが出ていて興味深い。論文もいくつか出ていて,Matuschek C et al. "The history and value of face masks"(European Journal of Medical Research,2020年6月23日)は,中世から現代に至るマスクの歴史を,たくさんの画像とともに説明している。似ているがやや異なる視点で,Strasser BJ, Schlich T "A history of the medical mask and the rise of throwaway culture"(Lancetのperspective,2020年5月22日)も出ていて,サージカルマスクが不足したことが現代医療が使い捨て文化であるための脆弱性のシンボルだと語り,1918年のスペインかぜパンデミックのときはマスクは洗って再利用されていたという歴史的事実を述べて終わっている。使い捨ての利点を否定しているわけではないと思うが。

稲葉さんのオンライン講演など(2020年8月2日 - 当該鐵人三國誌

柏野さんがtweetされていた,稲葉さんによるNPO数学月間の会での講演「SGK200729 感染症の数理モデル」,全部で2時間17分28秒という(途中5分の休憩を挟んでいるが)もので,例によって密度が濃いので,情報量が多い。前半からKermack-McKendrickの1927と1933を読み解いた話で,元々感染力は時間依存の関数としてモデル化されていたとか,初感染時と2回目以降の感染時の感受性の違いを含めた感受性の不均質性を扱っていたとか(最後の方で触れられていたように,covid-19でも想定される再流行モデルに応用できる可能性がある。マラリアもそうだが,感染後免疫がつかない感染症全般に使える。感受性がやや下がった既感染者の間で発症者が回り続けるという意味での常在化が安定解になる可能性や,それに基づいて考察される,その状態では感染阻止ワクチンよりも重症化阻止ワクチンの方が役に立つという話はimpressiveだった),改めて考えると,Kermack-McKendrickって天才だよなあと思った。

ちなみに,Kermack-McKendrickモデルについて読み解いた結果を,稲葉さんは20年くらい前に英語でも日本語でも論文にしていて,しかも公開されている(稲葉寿(2000)「伝染病流行の数理モデル」や,稲葉寿(2002)「ケルマック-マッケンドリック伝染病モデルの再検討」や,稲葉寿(2002)「人口と伝染病の数理」応用数理,12: 294-307や,Hisashi Inaba (2001) Kermack and McKendrick Revisited: The Variable Susceptibility Model for Infectious Diseases. Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics 18(2): 273-292。もっとも,読んでわかるかどうかというと,かなり数学の素養が無いと難しいと思う。ちなみに,ぼくが卒論を書いていたときに苦労して読んだ「多次元安定人口論の数学的基礎:古典論」という,稲葉さんが人口問題研究に書いた論文は,日本人口学会の第1回学会賞の優秀論文賞を受賞したが,あれもちゃんと理解できた人は多くないと思う)。今回の講演は,数学をやっている人向けになされたもののようで,噛み砕きすぎずに丁寧に説明されていて素晴らしいと思った。子供の臨界免疫化割合の話など美しい定式化でわかりやすく,しかもそれを人口構造と絡めるなど,稲葉さんしか思いつかない視点なのではなかろうか(それが単純な仮定を置いた場合の論理的帰結であって,事実とはたぶん異なるという留保をつける誠実さというか謙虚さが素晴らしい)。ちなみに,Kermack-McKendrick-1933は,Kermack William Ogilvy , McKendrick A. G. and Walker Gilbert Thomas (1933) Contributions to the mathematical theory of epidemics. III. Further studies of the problem of endemicity. Proc. R. Soc. Lond. A, 141: 94-122.であり,確かに全文読めるのだが,さっと見ただけでわかるような論文ではない。

なお,理論疫学の歴史と将来についてレビューした論文は,Brauer F "Mathematical epidemiology: Past, present, and future"(Infectious Disease Modelling,2017年2月4日)が読みやすいかと思うが,残念なことにKermack-McKendrickについては元論文を独自に読んでいるだけのようで,稲葉さんの解読には触れられていなかった。同じBrauerによるBrauer F et al. "Challenges, Opportunities and Theoretical Epidemiology" Mathematical Models in Epidemiology, 69: 507-531.は,古典的な部分の記述は薄いが,不均質なミキシングとか経済効果のモデル化まで触れられていて,より広い視野でのレビューになっていて参考になった。

BMJが#properPPEというハッシュタグを付けて,医療関係者に適切にPPEが提供されるべきという事例報告しようキャンペーンをしていた。ぼくは医療現場とは直接関係がないので何も書けないが,臨床でPPE不足に困った経験がある方は参加したら良いと思う。

Berg MK et al. "Mandated Bacillus Calmette-Guérin (BCG) vaccination predicts flattened curves for the spread of COVID-19."(Science Advances,2020年7月31日)は,Scienceの姉妹誌に出た論文。これまでBCG接種とCovid-19の関連についての地域相関研究で批判されてきたポイントに答えるための統計解析の工夫をしていて,BCG接種が義務化されている国と義務でない国で,確定患者数について135ヶ国,死亡数について134ヶ国について,国ごとのアウトブレイクからそれぞれ最初の30日間のデータから,日ごとの増加率を,線形混合モデルで分析し,年齢の中央値,一人当たりGDP,人口密度,純移動率,さまざまな文化的要因(個人主義の程度とか)の影響を調整した上でも,BCG接種が義務化されている国の方が確定患者数も死亡数も低いことが示されている。限界として,地域相関研究だからRCTが必要だとか,義務接種の国でも増加率には大きなばらつきがあるからBCG接種は魔法の弾丸ではない,と書かれているが,著者はかなり前のめりな感じだ。ただ,BCG接種が導入されたことがない国というのは,衛生観念が十分でないとかインフラ整備が遅れているといったことを含む,さまざまな公衆衛生政策も導入されていない可能性が高いし,社会格差が大きい可能性も高いし,そういったことすべての影響が調整されているわけではない以上,やはり可能性を示唆する,といった程度のものだと思う。

昨日Lipsitch教授のグループの研究に触れたが,学校閉鎖関係の論文は最近多数出ていた。米国科学工学医学学会(?)が学校(K-12なので幼小中高のこと)再開のためのガイダンス(2020年7月,メールアドレスを登録すればダウンロードできる)を発表したことと呼応しているかもしれない。2020年7月28日に,Stephenson J "National Academies Offers Guidance on Reopening Schools Amid COVID-19 Pandemic"(JAMA Health Forum)という,このガイダンスの紹介記事が,翌日,EditorialとしてDonohue JM, Miller E "COVID-19 and School Closures",視点としてDibner KA et al. "Reopening K-12 Schools During the COVID-19 Pandemic: A Report From the National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine"(ともにJAMA本誌)が出ているが,原著論文としては,Auger KA et al. "Association Between Statewide School Closure and COVID-19 Incidence and Mortality in the US."(JAMA,2020年7月29日)がある。この論文はUSAで3月9日から5月7日の間のデータを使って,小中学校の学校閉鎖がCovid-19の感染と死亡を下げるのに有効だったと論じているが,時系列データを使った地域相関なので,前述のBCGの論文と同じく工夫はされているが限界も大きい。本文にも書かれているが,最大の限界は,学校閉鎖を導入する州では,同時に他のNPIsも導入するのが普通であるため,学校閉鎖の効果だけを厳密に評価するのが困難なこと。これを克服するにはCommunity Intervention Trialという方法があるが,Covid-19に対する学校閉鎖の影響を調べるというテーマだと実行は無理だろう。

Rubin D "Association of Social Distancing, Population Density, and Temperature With the Instantaneous Reproduction Number of SARS-CoV-2 in Counties Across the United States"(JAMA Network Open,2020年7月23日)は,USAの46州211郡で対人距離,人口密度,気温と,再生産数の関連を調べたという研究。

個人ベースシミュレーションを使って,カナダのオンタリオでの学校閉鎖の効果を評価する論文も出ていて,Abdollahi E et al. "Simulating the effect of school closure during COVID-19 outbreaks in Ontario, Canada"(BMC Medicine,2020年7月24日)だが,発症前と発症後の両方でNPIsを組み合わせて実行しないと学校閉鎖には限定的な効果しか無いという結論で,ずっと前に出ていたUKのインペリグループ第9報と質的には同じか。

大学の再開についての論文も出ていて,Paltiel AD et al. "Assessment of SARS-CoV-2 Screening Strategies to Permit the Safe Reopening of College Campuses in the United States"(JAMA Network Open,2020年7月31日)という原著論文は,発症に基づいたスクリーニングでは封じ込めには不十分だが,感度70%でも2日おきに安価な迅速検査をして,厳密な行動制約と組み合わせれば,キャンパスに大学生が戻ってもCovid-19流行は抑え込めると論じているようだ。招待コメントも付いていて,Bradley EH et al. "Reopening Colleges During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic—One Size Does Not Fit All"(JAMA Network Open,2020年7月31日)は,検査は重要だとしても,この論文は行動変容やNPIsの効果を過小評価していると指摘している。

Wolfson JA et al. "Food as a Critical Social Determinant of Health Among Older Adults During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic"(JAMA Health Forum,2020年7月31日)は,Insights(洞察)というカテゴリの記事で,ざっと目を通した感じだと,USAでは2019年末,Covid-19流行前の段階で50-80歳の14%が食物が確保できないという経験をしていて,Stay-at-homeキャンペーンなどでそれがCovid-19流行によって酷くなった可能性があるのでちゃんと調べるべきと言っているようだ。

Nguyen LH et al. "Risk of COVID-19 among front-line health-care workers and the general community: a prospective cohort study"(Lancet Public Health,2020年7月31日)も,Dawood FS et al. "Observations of the global epidemiology of COVID-19 from the prepandemic period using web-based surveillance: a cross-sectional analysis"(Lancet Infectious Diseases,2020年7月29日)も面白そうな原著論文なので後で読もう。

Siemieniuk RAC et al. "Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis"(BMJ,2020年7月30日)はメタアナリシスで,糖質コルチコイドによる治療が有効だと示しているようだ。Supplementとして,メタアナリシスに使った文献データとRのコード(gemtcというパッケージを使ってネットワークメタアナリシスしている)が提供されている。

数字がおかしいこと(2020年8月5日 - 当該鐵人三國誌

大阪府知事がこのtweetで語っている会見の内容,変なところだらけだが,他の人が指摘していない根本的に変なところとして,比較した非含嗽群が*既存データ*であって比較可能性がないことと,陽性割合の数字が分母41とは合わない点を,tweetした。この2点は明らかに変だ。資料の「宿泊療養から医療機関への入院搬送をendpointとして評価」も,まったく意味が通らない。普通に考えると,今回の解析は観察研究の副産物であって,本来の研究デザインとは関係ないということか? あるいは,入院搬送例は観察対象から脱落していったという意味か(それは「エンドポイント」ではないが)? もし後者だとすると,症状が重くなった人を分母から除外していって最後に陽性割合が2/21になったのだとしても,搬送された人は陽性のままなのだろうから,陽性割合は22/41にしかなっておらず,9.5%という値には何の意味も無い。その辺り,発表資料では全然わからないが,大阪府の資料に「解析:横浜市立大学 臨床統計学 山中竹春教授」とクレジットされているので,メディアは取材してみたらどうか。

ところで,大阪府の資料には,どうして,厚労省の診療の手引きに既に掲載されている,レムデシビルとデキサメタゾンによる治療についての記述がないのだろう?

流行地域からの無症状感染者の入国に起因する感染拡大を防ぐには,PCR検査しようがしまいが,2週間の隔離検疫が有効であることは,南太平洋諸国をみれば明らか。

沖縄の状況についての高山先生のFacebook記事

Android 11では濃厚接触通知システムをOSに標準搭載へ:位置情報設定オフでも利用可能に(ケータイWatch,2020年8月5日)によると,Android 6-10の仕様で,「プライバシー保護の観点から、端末の位置情報設定をオンにしなければBluetoothのスキャンが行えない」となっていたそうだが,Android 11では位置情報設定がオフのままで良いとのこと。Google JapanのBlog記事で,Exposure Notifications System のアップデートについて (2020年8月4日)が詳しい。

かつて学生が企画した,ヨガを取り入れた軽い体操を10分くらいやってもらってストレスが軽減されるかという研究でさえ,研究者が考えたことを参加者にやって貰う介入研究だから,UMINの(でなくても良いが,何らかの公的な)介入研究データベースに登録する必要があり,それを含めた倫理審査に半年掛かって,実際の研究は1日,統計解析と文章を書くのに2週間という,不思議な卒業研究になってしまったことがあった。デザインが変だと書いたのは,センター長名で公開されている資料に,観察研究と書かれていることで,「入所者にポビドンヨード含嗽をして頂く。当該含嗽者データ、既存非含嗽例データを大阪府市から提供頂き、比較検討」ならば,対照群が既存データという,この場合には発症後日数,年齢,医療機関に掛かった経緯など,結果に影響するであろう要因が何も統制されていないため,朝も書いた通り不適切な比較をしている単群介入試験(通常,単群介入試験では介入前後の比較をするが,無症状や軽症で日が経てば介入なしでもウイルスが減ったり消えたりすることは当然起こりうるので,この場合は前後比較にも意味が無い)のはずだ。百歩譲って,もしポビドンヨード含嗽が観察研究なのだとすると,(まずありそうにないことだが)元々1日4回の含嗽をしていた人たちだけが研究参加者ということになり,軽症患者全体を代表していない可能性が高く,やはりデザインとして不適切だ。研究を主導したらしい松山センター長がリモート出演したワイドショーでは41人を25人の含嗽群と16人の非含嗽群に分けて小数点以下の陽性者が存在するという不思議な説明がされていたとtweetで教えていただいたが,これは「既存非含嗽例データ」という資料の記述と矛盾する。以上まとめると,アップロードされている資料自体,少しでも疫学の基礎知識があったら恥ずかしくて出せないくらいに無茶苦茶で,効果について真面目に検討するに値しないものなので,もし本当はこんなにデタラメなのではなく資料だけが間違っているのなら,大阪府は早く見え消しで訂正版を出すべきだと思うし,中身自体が臨床疫学的に無価値なことしかしていないものなら取り下げた方が良い。

サブサハラのHIVへの影響(2020年8月7日 - 当該鐵人三國誌

雑に作ったグラフだが,tweetしたのでリンクしておく。日本では入院患者数当たりの死亡転帰となった人数が欧米より低いとNCGMが発表したとかでメディアが騒いでいるが,まだNCGMがCOVID-19について発表した学術論文には入っていないし,先のグラフから考えると,日本はそこまで低くない。高齢化率が高いから当然だが,韓国より高い。欧米は下がってきている。CFRについて本当に何か特別な理由がありそうなのは,ぼくが見た中ではシンガポールくらい(もちろん全部の国を見たわけではないが)。

Jewell BL et al. "Potential effects of disruption to HIV programmes in sub-Saharan Africa caused by COVID-19: results from multiple mathematical models."(Lancet HIV, 2020年8月6日)は,5つのHIV流行の数理モデルを使って,サハラ以南アフリカで,2020年4月1日から半年ないし1年,COVID-19のせいでさまざまなHIV対策(予防,検査,治療)の中断が,人口の20%,50%,100%に影響した場合に何が起こるかを推定している原著論文。5つのモデルとは,GoalsOptima HIVSupplement),HIV SynthesisImperial College London ModelEpidemiological MODeling software (EMOD)GitHubの開発ページ)で,それぞれの特徴が表1にまとめられている。人口の半分についてART供給が半年止まったら1年間のPLWHIVの死亡が1.63倍になると予測され,ART供給停止は他の要因よりも大きな影響を与えること,コンドームの供給停止やピアによる教育の停止もHIV罹患リスクを上げるけれども,COVID-19対策のための対人距離の確保はハイリスクな性行動の減少に繋がる可能性があることが示された。著者たちはART供給を中断しないことが大事と提言している。このように複数の数理モデルによる結果を試してみたという論文は珍しい気がする。

何より緊急に必要なのはDCT実装の全国展開の定着(2020年8月9日 - 当該鐵人三國誌

録画しておいた7月21日のクロ現プラスを漸く見た。GOTOトラベル開始前日に流れた,頑張った番組作りだったが,国はGOTOトラベルを進めてしまい,それから2週間あまりで一日当たり新規感染確定報告数は倍以上に増えた。7月21日時点で,保健所崩壊の危険が叫ばれる状況だったのに,現在では接触者追跡はオーバーフローしている可能性が高い。春先にOxfordのFraser教授のグループがScienceに書いた論文で可能性が示されて以来,何度も書いているが,Digital Contact Tracing (DCT)として,COCOAとHER-SYSの運用を早急に増強して(COCOAのインストール率を高めて……理想的には防水ウェアラブルでソーラーパネル給電なCOCOAの機能をもったデバイスを作って全国民に無料配布したら良いと思うが,まあそれは無理だろうから,次善の策として……,HER-SYSとの連携はできる限りソフトウェア的な自動化を進めて),保健所職員による人力追跡の負担を減らしてあげないと,本当に保健所が崩壊してしまう可能性がある。経済的な危機にある人を助けるのも,確かに大切な国の仕事と思うが,防疫も国の仕事なので,保健所機能増強のためにも国は十分な金を出すべきだと思う。

New Zealandが羨ましい(2020年8月10日 - 当該鐵人三國誌

JAMAにViewpoint(視点)として,Mello MM et al. "Attacks on Public Health Officials During COVID-19"(2020年8月5日)が出ていた。公衆衛生当局が不当に攻撃されるという現象はUSAでも起こっているようだ。

NEJMのCorrespondenceとしてBaker MG, Anglemyer A "Successful Elimination of Covid-19 Transmission in New Zealand"(2020年8月7日)が出ていた。NZは3月中旬に市中感染が起こっている状態になり,それまでのまま緩和策を続けていたら検査も接触追跡も能力オーバーになることが強く示唆されたので排除戦略に切り替え,3月26日から全土をロックダウンしたが,5月上旬に最後の国内感染者が検出され隔離されてからも暫く警戒を続けたことによって,6月8日に排除に成功したと宣言するに至り,その後も入国検疫を続けることで再流行が防げている,という報告。8月26日まではコメントを付けることができ,既に1つコメントが付いている。

Scienceに原著論文として掲載された,Mateus J et al. "Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans"(2020年8月4日)は,4種類の風邪のコロナウイルスに感染した人で増えているCD4+T細胞がSARS-CoV-2にも一部交差反応性をもち,そのことがCovid-19で観察されている病態の不均質性を説明するのではないかという論文のようだ。

聴覚障碍の報告(2020年8月11日 - 当該鐵人三國誌

あさチャン,昭和大学病院が出ていて,COVID-19重症患者用ベッド5床のうち4床が既に使われていることと,4月に重症になりECMOで2ヶ月治療を受けて命が助かった60代の患者でまだ酸素吸入中の事例が紹介されていて,この病気の恐ろしさが伝わってきた。その次に紹介されていた聴覚障碍は,これまで味覚障碍や嗅覚障碍に比べると注目されてこなかった話だが,報告や短報レベルではいくつも既報で,Sriwijitalai W, Wiwanitkit V "Hearing loss and COVID-19: A note."(2020年4月2日)で報告されたタイの高齢女性1例の感音難聴はかなり早いが,たぶんあさチャンで取材されていたマンチェスターの病院での研究は,Munro KJ et al. "Persistent self-reported changes in hearing and tinnitus in post-hospitalisation COVID-19 cases"(2020年7月31日)で,Almufarrij I et al. "Does coronavirus affect the audio-vestibular system? A rapid systematic review"という自分たちのグループが6月に発表したレビューでは,MERSやSARSでは報告されてこなかった聴覚障碍が,マイナーとはいえCOVID-19には存在すると書いていたことに触れ,だから調べてみたということで臨床症例を詳細に検討し,121人(うち1人はRT-PCR未確認)の患者のうち16人に聴覚障碍が現れたこと(ただしパンデミックのせいで,聴覚についての詳細な診察や検査は遅れていて,大半の症例についてまだできていないとのこと)を報告している。

「感染症と経済学」とかクラスター事例集とか尿中L-ABFPとか(2020年8月14日 - 当該鐵人三國誌

財務省の財務総研に載っているレポートの中には,いくつか,COVID-19と経済の関係を扱ったものがあるが,最新の髙橋済「感染症と経済学」は,興味深いCovid-19のモデルのレビュー(若干用語的に?? な感じはしたが,自分が未読の経済関係のモデルが多数紹介されている)。かつて書評を書いた『人口と感染症の数理』が参考文献に入っていた。

柏野さんのtweetで紹介されている,感染研のクラスター事例集

テレビでNCGMがCOVID-19の重症化因子を見つけたという報告が取り上げられていたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についてNCGMが発表した学術論文を見たら,上から2番目に載っているKatagiri D et al. "Evaluation of Coronavirus Disease 2019 Severity Using Urine Biomarkers"(Critical Care Explorations,2020年7月31日)がそれらしい。共著者に群大の学生で,医学科の学生には珍しく熱心なRユーザになった脇本君が入っていた。尿中L-FABPは体内が低酸素だと上がるマーカーとのことなので,理に適っているとは思うが,それならパルスオキシメータでSpO2を測った方が良くないか? テレビではイムノクロマトのPOCキットで測っていたので,たぶんレナプロPOCだろうが,ランニングコストがやや高くつく。病院のルーチンとするには,SpO2とROCでのAUCを比べて欲しいところ。

新しい論文など(2020年8月17日 - 当該鐵人三國誌

Arunachalam PS et al. "Systems biological assessment of immunity to mild versus severe COVID-19 infection in humans"(Science,2020年8月11日)軽症患者と重症患者の免疫反応を分子レベルで比較した研究のようだ。

Guo C-X et al. "Epidemiological and clinical features of pediatric COVID-19"(BMC Medicine,2020年8月6日)小児症例の検討のようだ。

Kroshus E et al. "Plans of US Parents Regarding School Attendance for Their Children in the Fall of 2020: A National Survey"(JAMA Pediatrics,2020年8月14日)6月2日から5日の間に実施した5-17歳の子供をもつUSA在住の親730人へのサンプル調査で,31%が秋学期に子供を通学させず自宅におくと答えたという論文。

Passamonti F et al. "Clinical characteristics and risk factors associated with COVID-19 severity in patients with haematological malignancies in Italy: a retrospective, multicentre, cohort study"(Lancet Hematology,2020年8月13日)イタリアの血液がん患者におけるCOVID-19重症化因子の研究らしい。

Lancet Diabetes & Endocrinologyに,イングランドのコホート研究で糖尿病とCOVID-19の論文が2本同時掲載されていた。Barron E et al. "Associations of type 1 and type 2 diabetes with COVID-19-related mortality in England: a whole-population study"(2020年8月13日)と,Holman N et al. "Risk factors for COVID-19-related mortality in people with type 1 and type 2 diabetes in England: a population-based cohort study"(2020年8月13日)。後者は,糖尿病患者がCOVID-19に感染したときの死亡リスクの上昇は,心臓や腎臓の合併症だけでなく,血糖コントロールやBMIとも関連していたという報告。BMIと死亡リスク上昇の関係はU字型で,20未満も40以上も有意に上昇したとのこと。

『ウイルスVS人類』など(2020年8月19日 - 当該鐵人三國誌

昨夜のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で川端君が瀬名秀明 押谷仁 五箇公一 岡部信彦 河岡義裕 大曲貴夫 NHK取材班『ウイルスVS人類』(文春新書)を紹介していたのでKindle版を即購入し,読んでみた。元になったBS1スペシャル『ウイルスVS人類』シリーズの第1回第2回は見ていたが(見逃した人は,それぞれNHKオンデマンドで視聴できる。例えば第2回はここで,単品220円で72時間視聴可能),瀬名さんが書き下ろされた第3部が興味深く,総合知の重要性には「共感」した。

科学的根拠が明示されない日本の感染症対策の咎【対談】西浦博・京都大学大学院教授×森田朗・NFI代表理事(前編)(JBpress,2020年8月19日)。内側からみると,分科会はリスク評価組織のままリスク管理組織の下に位置づけられたのではなくて,リスク管理組織になったという認識なのか。しかし,リスク管理組織はあくまで財源と権限をもっている対策本部だ。対策本部から財源保証もつけて全権委任されたのではない限り,分科会はリスク管理組織とはいえないと思う。組織としても立場としても体よく対策本部に取り込まれてしまったというのが実態だろうし,西浦さんがこの認識だということは,分科会座長の尾身先生も,そうやって納得させられたのだろう(とくに,座長という立場上,さまざまな意見の集約を語らねばならないし)。西浦さんは,「リスク管理や政策の決断に関しては政治家の人にやっていただかないといけないということを、専門家は相当意識しています」とも言っているが,分科会がリスク管理組織であるならば,尾身先生は政治家の役割を果たさねばならないことになり,矛盾が起こってしまう。アドバイザリーボードがリスク評価組織として残ったという説明だが,厚労省のこのページをみれば(確かにリスク評価組織ではあるのだろうが),情報発信の頻度からしても量からしても,手足を失った専門家会議という感が否めない。結局,組織改革によって起こったことは,政治家が責任だけ専門家に押しつけながら,行動を政治家の制御下に封じ込めたことで,これまでにも何度も書いた通り,リスク論的にはまったくの愚行としかいえない。もう一点,及び腰過ぎると思うのは,予測を示すことも管理に踏み込んでしまうことになるという認識で,確かに「接触を8割減らしてください」と「要請」したら管理に踏み込んでいるが,「8割減らせば1ヶ月で新規感染者数を制御可能なレベルまで落とせる可能性が高い」という予測を示すことは管理ではないし,「何も対策しなければ死者42万人」という計算を提示することも管理ではない。それを管理だと誤解するのは色を付けるメディアやリテラシーが足りない受け手側の問題であって,計算結果の提示などの,評価情報の提供は管理ではない。インペリグループがさまざまな情報やモデルやシナリオに基づいた予測を含むReportを次々に公表しているのも,リスク評価であってリスク管理ではない。西浦さんは,「実効再生産数が、たとえば東京で1.4ですという時には、リスクの高い場所での全接触のうち30~40%の接触を減らすと、実効再生産数が1を割るということにつながります。でも、そうやって言及することは、対策、つまりリスク管理の方の話になってしまうので、専門家がどこまで入り込んでいいのかという葛藤をずっと抱えながらやってきました」と語っているのだけれども,Rtが1.4の時にリスクの高い場所での接触を3-4割減らしたらRtが1を切るという予測を示すことは,3-4割減らしてほしいという要請ではないので,管理ではない。講義資料に書いたように,さまざまなシナリオに基づいた予測を示すことはリスク評価であって,そこから意思決定するのが国民や,国民の意思を代表することになっている議員なので,評価情報の提供を控えることは誰の得にもならない。たぶん,今後は,予測の提示は論文という形でやります,という意図な気はするが。なお,西浦さんが「実効再生産数を計算できるダッシュボードの近日公開を目指しています。市町村等が自分のデータを使って最新の実効再生産数が分かるサイトです」と言われるのは,柏野さんがやっている仕事だと思うが,データの集約は保健所レベル以上でないとできない気がするので,政令指定都市や中核市を除けば都道府県単位で行われるのが現実的と思う。各都道府県の保健統計部門のルーチンに組み入れられたら良いのだろうから,そのために専従の職員を雇ったら良いと思うが。

岸田さんのこのtweetは示唆に富んでいて,中でも秘密が困るので,それを避けるためには,感染症法の前文に「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要」と明記されているように,運悪く感染してしまうことは誰にでも起こりうるのだから(一緒に食事に行ってマスク無しで対面で喋ることを完全に防ぐとか,どこかに触ったら自分の顔や口に入るものに触れる前には確実に石鹸手洗いかアルコール消毒することを1年も2年も常時続けることは,普通の人には不可能だから,感染防御行動を頑張ってリスクを下げることはできるがゼロにはできず,誰でも知らないうちに罹っている可能性があることを前提にするしかない),感染した人が責められたり謝罪を求められたりする風潮は廃さねばならない(既に良く言われていることだが)。もっと言ってしまえば,すべての人の道徳次元が4ならば,すべての情報は完全公開でも問題ないはずだが,それは非現実的か。

BMJのEditorialで,Shimizu K et al. "Resurgence of covid-19 in Japan"(2020年8月18日)が出ていた。著者の所属はLondon School of Econmics and Political ScienceとLondon School of Hygiene and Tropical Medicineとか東大国際保健政策とか。日本ではcovid-19が再流行し,Rtが1を超えた状態が2ヶ月続いていると書き起こし,これまで日本でとられてきた対策について,当初のクラスター対策は拡大抑制の助けになったが,3月中旬以降の感染拡大を防ぐことには失敗して4月の緊急事態宣言に至り,西太平洋地域ではオーストラリアとフィリピンに次ぐ人口当たり死者数(百万人当たり8.22)という結果になったと書き,何が悪かったのかを検討している。政府に説明と透明性が欠けていたこと,専門家会議に独立性が不十分かつ必要な専門性の代表性が不足していたことによってメッセージが歪められたこと,検査の不十分さ,効果的な接触追跡・隔離・検疫ができていないこと,PPEなどの物資調達の弱さなどを指摘し(それらを強化してデジタル技術を含む効果的な接触追跡・隔離・検疫・無症状者を含む検査を行うことが必要と述べ),政府が"cluster based countermeasures"から上述の必要な対処法へ移行し,遺伝子配列やビッグデータ解析のような先端科学を利用しない限り,日本の保健サービスは再び逼迫し多くの命が失われると述べている。うーん,大筋は間違っていないが,一つ間違っているのは,当初政府が三密回避ばかり言っていて対人距離をあけることや手洗いや在宅や保健システムを守ることの重要性が十分に伝えられてこなかったというくだり(当然ながら引用もないので,著者らの印象なのだろう)。専門家会議が三密回避を言い出したのは2月末からで,1月から手洗いやマスクは推奨されていた。一方,専門家会議が進めてきた「クラスター対策」は三密回避だけではなく接触者追跡も含むし,デジタル化を含む接触者追跡能力の拡充の必要性は3月半ばには悲鳴のように主張していた。政府がそれを採用せず金も人も出さずに行動変容要請だけしてきたのはその通りだが,それは"cluster based countermeasures"にさえなっていないと思うがなぁ。

新しい論文をいくつか(2020年8月20日 - 当該鐵人三國誌

Lancetの原著論文で,Young BE et al. "Effects of a major deletion in the SARS-CoV-2 genome on the severity of infection and the inflammatory response: an observational cohort study"(2020年8月18日)は,SARS-CoV-2ゲノムにおける欠失の感染と炎症反応の重篤度への影響というタイトル。後で読む。

Lancet Infectious Diseasesの原著論文で,Grassly NC et al. "Comparison of molecular testing strategies for COVID-19 control: a mathematical modelling study"(2020年8月18日)は,検査戦略の有効性を評価するための数理モデル研究。

Lancet Global HealthのEditorialで,Water and sanitation in a post-COVID world(2020年9月号)は,Covid-19対策では手洗いが重要なのに,そもそも清潔な水や下水へのアクセスが十分ではない国がたくさんあるので,それがCovid-19以後の世界ではどうなっていくのかという問いかけのようだ。

Lancet Digital Healthのレビュー論文,Braithwaite I et al. "Automated and partly automated contact tracing: a systematic review to inform the control of COVID-19"(2020年8月19日)は,スマホアプリなどを使った全自動または半自動の接触者追跡によるCOVID-19対策についてのシステマティックレビュー。

JAMAのResearch Letterで,Chambers C et al. "Evaluation for SARS-CoV-2 in Breast Milk From 18 Infected Women"(2020年8月19日)は,Covid-19に感染した18人の授乳中の女性からさまざまなタイミングで得た64の母乳サンプルについてRT-PCR検査をしたところ,発症日に採取された1つのサンプルでのみウイルスRNAが検出されたという報告。

Science AdvancesのResearch Articleで,Fischer EP et al. "Low-cost measurement of facemask efficacy for filtering expelled droplets during speech"Qin J et al. "Estimation of incubation period distribution of COVID-19 using disease onset forward time: A novel cross-sectional and forward follow-up study"も面白そうなので,後で読む。

悪い兆候ばかりではないが(2020年8月21-26日 - 当該鐵人三國誌

8月21日にCOCOAで濃厚接触が確認された場合は全例行政検査とするという告知が厚労省から出ていた。やっとか。

昨日からメディアで騒がれている,香港で見つかった再感染例についての論文は,To KK-W et al. "COVID-19 re-infection by a phylogenetically distinct SARS-coronavirus-2 strain confirmed by whole genome sequencing"(Clinical Infectious Diseases,2020年8月25日)だな。ついでにいくつか論文を拾っておこう。

NEJMのPerspectiveで,Agarwal SD, Sommers BD "Insurance Coverage after Job Loss — The Importance of the ACA during the Covid-Associated Recession"(2020年8月19日)は,USAの失業率が14.7%という世界恐慌以来の高水準になったことから,このコロナ不況において失業する人がスペイン系と黒人に集中していることから,いわゆるオバマケア(患者保護及び医療費負担適正化法:ACA)によって失業後のケアがカバーされていることがいかに重要かを論じている。

Science Advancesの原著論文で,Shental N et al. "Efficient high-throughput SARS-CoV-2 testing to detect asymptomatic carriers."(2020年8月21日)は,SARS-CoV-2感染者の10-30%を占める無症状者と発症前の患者からのウイルス排出を検出することが感染拡大を防ぐために重要なので,P-BEST法という,384サンプルを48のプールにして分析することによって検出効率を8倍にしてコストを1/8にする方法を考案し,144回の検査で1115人の保健医療従事者のスクリーニングを実施した,というもの。リード・ソロモン符号を応用したプールの仕方によってP-BEST法の検出効率が高くなったと書いているようだ。Fig.1にプールの仕方と説明が載っているのだが,今ひとつピンと来ないのは,ぼくの頭が悪いのだろう。

Bilinski A, Mostashari F, Salomon JA. Modeling Contact Tracing Strategies for COVID-19 in the Context of Relaxed Physical Distancing Measures. JAMA Netw Open. 2020;3(8):e2019217. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.19217(2020年8月21日)は,Research Letterで,接触者追跡戦略の効果を分岐過程のモデルで調べている。

Lancet Global Healthの原著論文で,Hamadani JD et al. "Immediate impact of stay-at-home orders to control COVID-19 transmission on socioeconomic conditions, food insecurity, mental health, and intimate partner violence in Bangladeshi women and their families: an interrupted time series"(2020年8月25日)は,バングラデシュでCOVID-19伝播対策のための在宅の,社会経済状態,食料不足,精神保健,家庭内暴力への直接影響を調べたというタイトル。後で読む。

Lancet Oncologyの原著論文で,Lee LYW et al. "COVID-19 prevalence and mortality in patients with cancer and the effect of primary tumour subtype and patient demographics: a prospective cohort study"(2020年8月24日)は,がん患者におけるCOVID-19の有病割合と死亡率というタイトル。これも後で読む。

Lancet Rheumatologyの原著論文で,Lane JCE et al. "Risk of hydroxychloroquine alone and in combination with azithromycin in the treatment of rheumatoid arthritis: a multinational, retrospective study"(2020年8月21日)。ヒドロキシクロロキンはRA治療にも普通に使われる薬だが,COVID-19治療にもいくつかの国で使われたので,ドイツ,日本,オランダ,スペイン,UK,USAの電子カルテデータを用いて(ヒドロキシクロロキン服用者100万人近い),交絡を制御するため傾向スコアで層別したコックス回帰で分析したところ,ヒドロキシクロロキンによる短期的な重篤な有害作用は見られなかったが,長期服用時に心疾患リスクなどが有意に上昇することが示されたとしている。

同じくLancet Rheumatologyの原著論文で,Manson JJ et al. "COVID-19-associated hyperinflammation and escalation of patient care: a retrospective longitudinal cohort study"(2020年8月21日)。要旨によると,COV-HIという過剰な炎症が起こっている状態を定義し(C反応タンパクやフェリチンによる),入院時にCOV-HIがあると翌日呼吸サポートが必要になるリスクが有意に高いことをマルチレベルロジスティック回帰モデルで示したとのこと。

HER-SYSが破綻しそうだとか,家庭内での感染が増えているとか,それなのに指定感染症を外して5類にすることを検討しているとか9月から東京もGoToの対象にすることを検討しているとかいうニュースが流れている。政府の公式発表は見つけていないので本当かどうかは知らないが,もし本当だとすると,どれも懸念していたことだが,この国は悪くなる一方だ。指定感染症だと軽症や無症状でも入院させねばならないというのは誤解で,都道府県知事は入院の勧告・措置をとることが可能ではあるが,感染症法の条文通りに解釈すれば,必ずしも入院措置をとらなくても良いはず(勧告・命令・措置などは必要最小限にすべきという通知が出ている)。区分自体を見直す必要は無い。逆に,5類相当にしてしまうと入院勧告・措置をとることができなくなり,全数報告でなくなるため(注:5類でも麻疹と侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに全数報告だし,他にも20の疾患が5類でも7日以内に全数報告となってはいるが)実態把握ができなくなって蔓延防止上も問題だし,検査も治療も公費医療の対象でなくなって自己負担が増え,患者の厚生上も問題だ。現在のようなやり方ではsuppressionによる終息は不可能だから,いつ患者数が急増し始めても不思議はなく,遅れて増える重症者への対応が追いつかなくなって医療崩壊する危険は否めない。政府が間違った決断をしないでくれると良いのだが。

センザンコウは無罪らしい(2020年8月27日 - 当該鐵人三國誌

Infection, Genetics and EvolutionというジャーナルへのLetter to editorで,Frutos R et al. "COVID-19: Time to exonerate the pangolin from the transmission of SARS-CoV-2 to humans"(2020年8月5日)が,このtweetで紹介されていた。SARS-CoV-2はコウモリのコロナウイルス由来という説と,マレーセンザンコウのコロナウイルス由来という説があったが,マレーセンザンコウは無罪だったという話で,ざっと目を通したところ,センザンコウとヒトではACE2受容体の類似度が低いので,センザンコウ経由でヒト=ヒト感染するようになったとは考えにくいという主旨か。

このTweetで知ったが,日本医師会COVID-19有識者会議のサイトに,愛育クリニック・錢 瓊毓医師が寄稿された台湾におけるCOVID-19対応(2020年7月16日),確かに詳しい。

インフォデミックに対する科学者やメディアの役割(2020年9月1日 - 当該鐵人三國誌

The COVID-19 infodemic(Lancet Infectious DiseasesのEditorial,2020年7月17日)は重要なことを言っている。とくに,インフォデミックの悪循環が生まれる仕組み(トランプ大統領やボルソナロ大統領のように雑で利己的で意図的に誤解をもたらすような誤った情報を流す政治家と,それを訂正せずセンセーショナルな速報に走るマスメディアによって,公共への信頼が失われ無援護感がもたらされ,今度はそのことが有害な誤情報が広がるための完璧な条件となり,さらに誤情報が流され続けるという悪循環,と書かれている。自分たちがこの悪循環の一翼を担ってしまっていることに自覚的であるメディアはどれほどあるだろうか?)への言及と,著者ら"We"(学術雑誌のエディタ,科学者,広く言えばアカデミア)の役割として,「これまで長い間,著者やメディアと協力して,一般公衆が読むのに適している,事実に基づいた正しい偏りのないストーリーを作ってきたが,今やもっと先を見越した反応を取るべき時で,誤情報自体や,誤情報の出版・流布に対する反対活動を積極的にすべき」への言及と,誤情報から3つの側面(経済的利益,政治的利益,実験的世論操作)で利益を得る者がいるという指摘は重要と思う。

都道府県別新規確定患者報告数の推移

半月ぶりに作図してみた。確かに指数増加は7月中旬で止まり,新規確定患者報告数は減少傾向だから,ちゃんと計算しなくても,多くの都道府県で実効再生産数は1を切っているだろうと思われるが,ここで5人以上の会食OKとか東京もGoToトラベルに入れるとかいったレベルの緩め方をしてしまっては,再度急速な感染拡大が始まるのはほぼ自明。ニュージーランドや台湾のように新規確定患者報告ゼロが2週間続くまで耐えれば,国内終息ということで入国検疫以外の制約はなくせるはずだが,何度も書いているように日本はそういう政策は取っておらず,そうするためのリーダーシップが取れるような政治家はいない。せめて,すぐには指数増加が始まらない,確率的な終息が期待できる状況として,1日の新規確定患者報告数が生活行動圏内に5人以下(たぶん,そのくらいが,隔離されていない総感染者数50人以下に相当すると思われる。厳密に計算したわけではないが,そんなに外れていないと思う)になるまで,強い行動制約を続けるべきだと思うが。

このtweetとそれを引用したこのtweetで触れた感染研からの超過死亡推定。要約には,「前回報告では、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)と観測死亡数の差分を超過死亡として報告したが(上記’XX-YY人’のXX値)、今回報告では、さらに予測死亡数の点推定値と観測死亡数の差分(YY値)も加えて、それぞれの差分のレンジを超過死亡として報告する。実際の超過死亡はこの範囲内に含まれると解釈できる」と書かれているのだが,本文には「例年の死亡数をもとに推定される死亡数(予測死亡数の点推定)[閾値1]およびその95%片側予測区間(上限)[閾値2]と実際の死亡数(観測死亡数)との差のレンジで提示する。」とあったので,初見時は要約が逆なのかと思ったが,よく考えると,これらの値はCOVID-19がなかった場合に起こりうる死亡数であり,実際の死亡数の方が大きいので,予測区間の上限との差の方が,点推定値との差よりも小さい値になるのは当然だった。点推定値や予測区間の上限が実際の死亡数を超えてマイナスになる場合はどうしたのかという点についてはQ&Aの最後に書かれているように,実際の死亡数に漏れがあったと想定してゼロ扱いになっているし(それが「超過死亡」を考える前提だから仕方ないが……というのは,これまで超過死亡が使われてきたのは,主にインフルエンザによる高齢者の死亡の増加を考える際に,インフルエンザを直接死因とする死亡だけではなく,それによる体力低下や合併症などその他もろもろの間接的な影響も含めて,どれくらいインフルエンザの流行によって増える死亡があるのかという意味だったので,マイナスは想定外だった。けれども,COVID-19の流行が始まってから,手洗いを頻回に行うとかマスクを付けるといった行動変容によって,インフルエンザを含むCOVID-19以外の呼吸器系感染症への罹患は減った可能性があるので,実質的にマイナスの場合も存在しても不思議はないので,定義から考え直すべきと思う),「後者については、毎週の死亡者数の偶然の変動(ばらつき)も含まれてしまっていることには注意が必要」(注:ここで後者とあるのは点推定値のこと)と書かれているので,点推定値と観測死亡数の差を,都道府県別に下限をゼロとして合計されたこの数値は過大な推定である可能性が高く,実際の超過死亡は,これら2つの値の間のどこかに入る可能性が高いと読むべきだろう(メディアは「注意事項」と「解釈」と「Q&A」をちゃんと読んで理解してから報道すべきだし,InfodemicについてのEditorialに書かれていた通り,「センセーショナルな速報に走る」べきではないし,そのためにも,学術情報について原著論文が出ていたり発表元が詳細なリリースを出している場合は,それらを明示してリンクして欲しい)。

COCOAの元となったソースコード開発プロジェクトへの厚労省の対応は,このtweetからのスレッドを見る限りまずいと思う。現行COCOAのコードベースがgithubに公開されたのは良いことと思うが。

公正なワクチン接種とか重症例での全身コルチコステロイド治療とか(2020年9月7日 - 当該鐵人三國誌

Emanuel EJ et al. "An ethical framework for global vaccine allocation"(ScienceのPolicy Forum,2020年9月3日)は,首尾良く有効なワクチンが開発できたとして,接種の公正な優先順位のモデルとして「公正優先順位モデル(Fair Priority Model)」を論じている。ターゲットとなるのは,国という枠組みを超えて公正な配布をするためにワクチンを購入しようとしているCOVAX(GAVI,WHO,CEPIによる仕組み)参考),ワクチン製造企業,各国政府の三者で,死亡や後遺症による標準化された余命損失(Standard Expected Years of Life Lost: SEYLL)を小さくするような配分の仕方を3つの段階(若い人の死亡を減らす段階,深刻な経済社会損失を減らす段階,社会が完全に機能する状態に戻る段階)に分けて提案しているようだ。

JAMA Internal Medicineの原著論文,Sehra ST et al. "Cell Phone Activity in Categories of Places and Associations With Growth in Cases of COVID-19 in the US"(2020年8月31日)は,USAでの携帯電話が使われた位置情報をGoogle Location Historyから,確定患者情報をJohns Hopkinsのレポジトリから入手して分析したという研究で,携帯電話の職場での使用が減り,居宅での使用が増えるほど患者増加が少ないという仮説が支持されたと書かれている。

JAMAの原著論文,The WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Group "Association Between Administration of Systemic Corticosteroids and Mortality Among Critically Ill Patients With COVID-19: A Meta-analysis"(2020年9月2日)は,7つの研究からのメタアナリシスによって,重症化したCOVID-19患者への全身コルチコステロイド治療は,標準治療やプラセボに比べて,28日間の全死因による死亡率低下と関連していた,と結論している。

BMJのAnalysisというカテゴリだが,Jones NR et al. "Two metres or one: what is the evidence for physical distancing in covid-19?"(2020年8月25日)は,COVID-19の伝播を防ぐための物理的な距離の証拠は何か? 2メートルか1メートルか? というタイトル。そもそも2メートルという数字はどこから出てきたのか? と語りはじめ,1メートルとか2メートルを一律基準と考えるのは単純化しすぎで,何をしているかによって違うはずなので整理してみたという筋。

文科省通知いくつか(2020年9月8日 - 当該鐵人三國誌

Variolation(2020年9月9日 - 当該鐵人三國誌

Gandhi M, Rutherford GW "Facial Masking for Covid-19 - Potential for “Variolation” as We Await a Vaccine"(NEJM,Perspective,2020年9月8日)は,ワクチンが開発されるまでの代替策として広汎なマスク着用が使えるのではないかという論考。Variolationというのは人痘接種法のことで,天然痘のワクチンとして種痘が開発されるまでの間,治癒した患者の瘡蓋を乾燥させて鼻に吹き付け,意図的に軽症の天然痘に感染させることによって免疫を付けたと説明されている。天然痘ウイルスに自然感染した場合の致命割合30%に比べ,この方法で感染させると1-2%になったという。3月にはわかっていたように,無症状感染者の鼻と口からのウイルス排出が有症状感染者と同等にあるため,広汎なマスク着用をすれば,無症状感染者からの感染拡大を防ぐことができ,ワクチンができるのを待つ間のつなぎにはなるということのようだ。

こういう楽観的な論調は,アストラゼネカと共同開発したワクチンがUSAで第三相臨床試験に入ったというオクスフォード大学のリリース(2020年9月4日)など,ワクチンが当初の予想よりも早く実用化されるかもしれないという期待が高まってきたことを反映していると思うが,昨日,そこに冷水を浴びせるニュースもあって(UKで重篤な副反応が疑われる患者が出たため,USAでの臨床試験が一時停止されたというSTATの独占記事),今日は世界中のメディアでそれも取り上げられている。

論文メモ20200910(2020年9月10日 - 当該鐵人三國誌

NEJMのClinical Implications of Basic Researchというカテゴリで,Mantovani A, Netea MG "Trained Innate Immunity, Epigenetics, and Covid-19"(2020年9月10日)は,BCGなどいくつかのワクチンや微生物への曝露によって,Covid-19の抗原への曝露によって獲得された免疫ではないのに免疫レベルが上がっている,「訓練された自然免疫」(Trained Innate Immunity)の状態が鍵であるという説についての論考のようだ。概念図がFigure 1に示されている。

JAMAのEditorialで,Rodgers GP, Gibbons GH "Obesity and Hypertension in the Time of COVID-19"(2020年9月9日)は,JAMAの同号に載っている,USAの最近約20年の肥満と高血圧のデータからみた傾向について,肥満は増加傾向にあり,コントロールできている高血圧の割合が最近急に減少したという報告だと紹介し,肥満や高血圧はCOVID-19が重症化するリスク因子だから重要な問題だと指摘している。

Lancet Global Healthの原著論文で,Edejer TT-T et al. "Projected health-care resource needs for an effective response to COVID-19 in 73 low-income and middle-income countries: a modelling study"(2020年9月9日)は,73のLMICについて,COVID-19に効果的な対応をするために必要なヘルスケア資源の需要を予測したモデル研究というタイトル。患者数予測はインペリグループ第12報がScienceに載ったもの(Walker et al. "The impact of COVID-19 and strategies for mitigation and suppression in low- and middle-income countries" Science, July 24 2020)に基づいていて,そこから戦略的準備及び応答計画(SPRP)の各項目ごとにコストなどを計算しているようだ。後でちゃんと読もう。

Archives of Disease in Childhoodの原著論文で,Larcher V et al. "Young people’s views on their role in the COVID-19 pandemic and society’s recovery from it" DOI:10.1136/archdischild-2020-320040(2020年8月31日)は,子ども病院の若者フォーラムのメンバー15人によるフォーカスグループディスカッションで,予めCOVID-19についてのブログなどを読んでおいて貰ってから,このパンデミックが彼らの生活にどう影響するか,またパンデミック下の社会において若者はどういう役割を果たしたいのかといったことを議論して貰い,録音した音声を文字起こしした「語り」をNVivoというソフトで解析している。帰納的主題分析のアプローチを使っているとのこと。研究対象が若者一般を代表していない点には注意が必要と思うが,後でちゃんと読もう。

東京が警戒レベル引き下げGoToの対象に入れるって,感染爆発させたいのか? まだHammer and DanceのDanceをするには1日当たりの新規感染者数が多すぎるということがわからないのか? 下の図に出した中では,いま緩めても良さそうなのは北海道くらいだろう。

CoCoAのパラドックス?(2020年9月15日 - 当該鐵人三國誌

堀成美さんのtweetで問題視されている件,その時点で感染リスクの高い行為があったかどうかを判断できるフローチャートを提供しておいて,症状無しかつ行為無し→自己隔離推奨,行為ありまたは症状あり→隔離+検査+陽性ならさらに接触者追跡(CoCoAとHER-SYSを使って……だが,HER-SYSがうまく動いていないのが,たぶんこのシステムがうまく動かない元凶なので,そこの改善が不可欠),陰性なら隔離継続のみとした場合の誤判定確率をいくつかシナリオ与えたシミュレーションをしたら評価できるかも。そもそもDCTは人力による接触者追跡が破綻しないように人手を掛けなくても良いようにするために導入されたのだから,導入によって余計に人手が掛かっては本末転倒だろう。

Scienceの原著論文で,Worobey M et al. "The emergence of SARS-CoV-2 in Europe and North America"(2020年9月10日)と,Cao L et al. "De novo design of picomolar SARS-CoV-2 miniprotein inhibitors"(2020年9月9日)は後で読む。

Journal of Translational Medicineの原著論文でPachetti M et al. " Impact of lockdown on Covid-19 case fatality rate and viral mutations spread in 7 countries in Europe and North America."(2020年9月2日)もロックダウンがCFRとウイルスの突然変異の広がりに与えた影響というタイトルなので後で読む。

MMWRの症例対照研究(2020年9月17日 - 当該鐵人三國誌

スラドのストーリーになっていたので知ったが,CDCのMMWRで出ている,Fisher KA, Tenforde MW, Feldstein LR, et al. Community and Close Contact Exposures Associated with COVID-19 Among Symptomatic Adults ≥18 Years in 11 Outpatient Health Care Facilities — United States, July 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020;69:1258–1264. DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6936a5(2020年9月11日)は興味深い。

症例対照研究で,いろいろ情報の出し方が不十分なので推測が必要なのは欠点だが(例えば,Table 1でp値を計算するのに使っているのが,連続性の補正無しのカイ二乗検定であることや,バー・喫茶店に行ったかどうかについて無回答が合計2としか書かれていないが,割合から計算するとPCR陽性群と対照群で1人ずつ無回答であったと推測できることなど),論文でなく週報だから仕方ないか。

過去2週間以内にレストランまたはバー・喫茶店に行ったことがある人への質問で,周囲の客がマスク着用とか距離を置くなどの推奨されている行動をしていたか? の回答が(全く・ほとんどしていない/半分くらい・多く/ほぼ全員)の3段階なのは注意が必要なところで,レストランに行ったことがあるPCR陽性者では「全く・ほとんどしていない」が対照群より遥かに多いのに対して,バー・喫茶店に行ったことがあるPCR陽性者では「半分くらい・多く」が対照群より遥かに多いという違いがある。

ちなみに,この結果のp値がレストランで0.03,バー・喫茶店で0.01というのも,連続性の補正無しのカイ二乗検定だが,これは順序尺度の分布の二群間の比較だから,理屈の上では4月23日に触れた尤度比検定が良いはず(やってみると,バー・喫茶店についてp=0.038となって5%水準で有意差があるが,レストランについてはp=0.103となって,5%水準では有意でないことになる。Rコードは下記)。

Restaurant <- matrix(c(12, 25, 26, 1, 21, 22), 3)
BarCafe <- matrix(c(4, 7, 2, 2, 0, 6), 3)
chisq.test(Restaurant, correct=FALSE)
chisq.test(BarCafe, correct=FALSE)
# When Fisher's exact test was applied?
fisher.test(Restaurant)
fisher.test(BarCafe)
# When Likelihood Ratio Test was applied?
library(MASS)
yR <- as.ordered(c(rep(1:3, Restaurant[,1]), rep(1:3, Restaurant[,2])))
xR <- c(rep(1, sum(Restaurant[,1])), rep(2, sum(Restaurant[,2])))
anova(polr(yR ~ xR), polr(yR ~ 1))
yB <- as.ordered(c(rep(1:3, BarCafe[,1]), rep(1:3, BarCafe[,2])))
xB <- c(rep(1, sum(BarCafe[,1])), rep(2, sum(BarCafe[,2])))
anova(polr(yB ~ xB), polr(yB ~ 1))

もっとも,最終的には感染者との濃厚接触がなかった人に絞ったときの,人種(スペイン系以外の白人がPCR陽性者に少ない),性別と年齢(有意差はない),少なくとも1つの基礎疾患あり(PCR陽性者に少ない! のは少し意外だった)を調整したロジスティック回帰分析では,レストランもバー・喫茶店も,オッズ比が有意に1より大きく,外食すると(たぶんマスク無しの会話をしてしまう可能性が高いので)COVID-19感染リスクが上がることを示唆する結果になっている。

本当は会話をしたかどうかとか,複数人で行ったのかといった辺りを調整して欲しいところだが,サンプルサイズが小さいせいか,その情報は出ていないのが残念。

年齢別IFRとUV-C222による不活化(2020年9月19日 - 当該鐵人三國誌

日本人口学会東日本地域部会の斎藤修先生の発表で,COVID-19について年齢別の分析が重要ということが最後に強調されていたが,年齢別IFRとしては,初期の中国のデータから求めたものとして,最初に中国CDCから出た報告(まとめ資料に引用している)と,インペリグループの推定値がよく参照されている。春先のイタリアのデータから推定した速報がPoletti et al. "Age-specific SARS-CoV-2 infection fatality ratio and associated risk factors, Italy, February to April 2020"(Eurosurveillance,2020年8月6日)で,最近CFRが下がってきたといわれているのは,多少の有効性が確認された治療法が増えてきたという本質的な理由と(そのためIFRも下がっている),軽症の感染者の把握が進んできたことの両方の理由があると思われるが,CFRのデータを見るときはどれくらいの検査体制があるかを見ないと意味が無くなる。このtweetで紹介されている,CDCの報告は,Hauser A et al. "Estimation of SARS-CoV-2 mortality during the early stages of an epidemic: A modeling study in Hubei, China, and six regions in Europe"(PLOS MEDICINE,2020年7月28日)という,中国とヨーロッパ6地域で得られたデータからの年齢群別IFR推定値を採用したとのこと。

波長222nmのUV-Cの安全性についてはFukui T et al. "Exploratory clinical trial on the safety and bactericidal effect of 222-nm ultraviolet C irradiation in healthy humans"(PLOS ONE,2020年8月12日)で示されていたが(神戸大のニュースリリース),SARS-CoV-2の不活化効果について,Kitagawa H et al. "Effectiveness of 222-nm ultraviolet light on disinfecting SARS-CoV-2 surface contamination"(American Journal of Infection Control,2020年9月4日)で示された(広大のニュースリリース)。空間除菌システムとして254 nmのUV-Cを空間照射するものが市販されているようだが,目への安全性に疑問がある

昨日までのデータでグラフを作っておく。

世界の新規確定感染者報告数の推移(2020年9月18日まで)
日本の新規確定感染者報告数の推移(2020年9月18日まで)

新しい論文メモ(2020年9月23日 - 当該鐵人三國誌

原著論文で,Shen Y et al. "Community Outbreak Investigation of SARS-CoV-2 Transmission Among Bus Riders in Eastern China"(JAMA Internal Medicine,2020年9月1日)は,3月に西浦さんたちがプレプリントサーバにアップロードした,換気の悪い閉鎖空間での感染リスクが高いことを示した論文をイントロで引用しているが,1月に中国東部で2台のバスに100分間(エアコンは室内再環流モード)乗って150分の仏教儀式に参加した人たちのうち,SARS-CoV-2に感染している人が1人混ざっていたバス2の乗客68人のうち24人(最初から感染していた1人を含む)が後日のRT-PCRでSARS-CoV-2陽性となったのに対して,バス1の乗客60人は誰もSARS-CoV-2陽性とはならなかったという報告。感染したかどうかをバス2の中の座席位置が最初から感染していた人に近かったかどうかの2群間で比べた結果,リスク差もリスク比も統計的に有意ではなかった(接触感染や飛沫感染よりもマイクロ飛沫―この論文ではエアロゾルと言っている―の滞留によることを示唆する)。仏教儀式ではなく換気の悪いバスという閉鎖空間で集団感染が起こったというエビデンスである。

これも原著論文で,Saad-Roy CM et al. "Immune life history, vaccination, and the dynamics of SARS-CoV-2 over the next 5 years"(Science,2020年9月21日)は,プリンストン大学のGrenfell BTやLevin SAといった生態学の著名人が共著者に入っている。自然感染時の免疫応答,ワクチン,NPIsなどについて条件を変え,単純な疫学モデルを使って,今後5年間のSARS-CoV-2の動態を考察しているようだ。

これも原著論文で,Whittle, R.S., Diaz-Artiles, A. An ecological study of socioeconomic predictors in detection of COVID-19 cases across neighborhoods in New York City. BMC Med 18, 271 (2020). https://doi.org/10.1186/s12916-020-01731-6(BMC Medicine,2020年9月4日)は,NYの郵便番号区別のCOVID-19陽性割合と,社会経済的条件についての地域相関研究をしている。GISを使っていて図版がきれいだが,ポアソン分布や負の二項分布を使った地理加重回帰モデルを当てはめているので,空間疫学の実例として説明に使えそう。R-4.0.0でR-INLAパッケージを使ってモデルの当てはめをしているとのことで,データはGitHubで公開されている。

JAMAへのResearch Letterというカテゴリで,Patel MM et al. "Change in Antibodies to SARS-CoV-2 Over 60 Days Among Health Care Personnel in Nashville, Tennessee"(2020年9月17日)は,ナッシュビルの保健医療従事者で成人患者と定期的に直接接触している人たち600人を対象として,60日間のSARS-CoV-2への抗体レベルの変化を調べたもの。4月のベースライン時点で抗体陽性だった19人は,60日後には全員抗体価が落ちていたというグラフが載っていて,60日後にも抗体陽性を維持していたのは8人だけだったとのこと。

Lancet Digital Healthの10月号に掲載予定の原著論文,Yadaw AS et al. "Clinical features of COVID-19 mortality: development and validation of a clinical prediction model"は,機械学習を使って,感染者のうち死亡転帰となる人の予測モデルを出し,ROC曲線のAUCが0.91となったが,他の集団にも使えるか今後の検証が必要としている。

JCMの新しい論文とか(2020年9月28日 - 当該鐵人三國誌

ちょっとJCMの特集号のチェックを怠っていたが,Lundon DJ et al. "A Decision Aide for the Risk Stratification of GU Cancer Patients at Risk of SARS-CoV-2 Infection, COVID-19 Related Hospitalization, Intubation, and Mortality"(2020年8月30日),Hayashi K et al. "Hospital Caseload Demand in the Presence of Interventions during the COVID-19 Pandemic: A Modeling Study"(2020年9月23日),Kinoshita R et al. "Containment, Contact Tracing and Asymptomatic Transmission of Novel Coronavirus Disease (COVID-19): A Modelling Study"(2020年9月27日)と,最近1ヶ月で3本も増えていた。

唾液と鼻咽腔スワブのRT-PCR結果はほぼ一致(2020年9月29日 - 当該鐵人三國誌

このtweetで知ったが,Yokota I et al. "Mass screening of asymptomatic persons for SARS-CoV-2 using saliva"(2020年9月25日)は,無症状の約2000人へのマススクリーニングとして唾液サンプルと鼻咽腔スワブサンプルでPCRを実施した結果から,統計モデルを使って真の一致度が99.8%と推定されたという論文。

NEJMの"The Editors"によるEDITORIAL(2020年10月8日 - 当該鐵人三國誌

英国で新型コロナ症例約1万6千件が一時消失。Excelの上限超過が原因というやじうまWatchの記事。Excelも2003までは65536行が扱える最大行だったが,2007以降,約100万行まで増えている。やじうまWatchの記事では「xls形式」と書かれているので,UKでは古いExcelを使っているのだろうか(2007以降はxlsx形式が標準なので)? せめてExcel2007以降を使っておくべきだったと思う。とはいえ,数万件以上のデータを扱う場合,どうせ表形式で一覧できないのだから,表計算ソフトではなく,データベースマネージャーソフト(DBMS)を使って,ちゃんとインターフェースを設計した方が良いと思う。それか,元データがcsvということだから,csvのままテキストデータとしてエディタで扱えば良いと思う。まあ何にせよ消えたデータが修復できたのは良かった。

7月24日のニュースだからもはや旧聞に属するが,ニュージーランド政府とPAHO/WHOがガラパゴス諸島のCOVID-19対策を支援しているそうだ。

このtweetを見て,出典を探したら,The Editors名義のEDITORIAL "Dying in a Leadership Vacuum"(2020年10月8日)だった。EDITORIALは普通,編集委員が順番に書くものだが,"The Editors"という名義は初めて見た。7月にLancet Infectious DiseasesのEditorialが学術雑誌はinfodemicと戦わなくてはいけないとして,トランプ大統領やボルソナロ大統領が流す誤情報とそれを無批判に流すマスメディアを明確に批判していたが(既に紹介した),NEJMも同じ旗を揚げたということだ。今後,日本の学術雑誌にとっても重要なスタンスだと思う。

橋本佳子さん('84SII/III-2組で同級だった,m3の編集長)とかも入っているコロナ民間臨調による「調査・検証報告書」が近々紙媒体と電子媒体の両方で発表されるということで,東洋経済が紹介記事を出しているのだが,最後の提言の主旨は,ぼくが4月末に書いたことと一致していた。

市民講座とか(2020年10月11日 - 当該鐵人三國誌

市民講座,自分の発表は5分長くなってしまって申し訳なかった。それでもだいぶ端折ったのだが。井澤先生のご発表に触発されて,ノートPCスタンドを買ってしまった。駒井先生の自己炎症性疾患の話は面白かったし,今進めているという研究も大変興味深かった。

ついでにCovid-19の新しい論文チェック。

Rice K et al. "Effect of school closures on mortality from coronavirus disease 2019: old and new predictions"(BMJ,2020年9月15日アクセプト,10月7日出版)は,インペリグループ第9報で使われたモデルを実装したCovidSimを使い,UK住民を想定した7000万人のシミュレーションをインペリグループとは独立に実行した結果,やはり学校閉鎖や若者の隔離だけによる介入は総死者数を増やす結果になり,提案されたどの緩和策をとってもUKの死者数は20万人以下にはならなかった,というもの。

Lancet Infectious DiseasesのCorrespondenceで出ていた,Vehreschild MJGT et al. "Beyond COVID-19—a paradigm shift in infection management?"(2020年10月9日)は,これまで多剤耐性菌の問題がありながら先進国では感染症対策の優先順位が低かったけれども,COVID-19によってヘルスケア従事者における集団感染が多発し院内感染を防ぐことの重要性に目が向いたので,感染管理のパラダイムシフトの契機となったのでは? と書いているようだ。

Brendish NJ et al. "Clinical impact of molecular point-of-care testing for suspected COVID-19 in hospital (COV-19POC): a prospective, interventional, non-randomised, controlled study"(Lancet Respiratory Medicine,2020年10月8日)は,UKの病院で,鼻と喉からのスワブサンプルを採取し,予め妥当性検証をしたPOCデバイスであるQIAstat-Dx Respiratory SARS-CoV-2 Panelでの検査をする群と通常のラボでのPCR検査をする群,それぞれ約500例程度試したところ,かかる時間の中央値が前者で1.7時間,後者で21.3時間と有意な差があったという報告。まあ,それはそうだろう。

JAMA Health Forumでは,Faherty LJ et al. "The COVID-19 “Return-to-Learning” Natural Experiment"(2020年10月7日)という"Insights"というカテゴリの論考が載っていて,USAには13000校以上のK-12の学校があるので,いろいろな方法での授業再開の結果をうまく比べれば良い自然実験になるのではないかと提案しているようだ。

European Journal of EpidemiologyのDror AA et al. "Vaccine hesitancy: the next challenge in the fight against COVID-19"(2020年8月12日)は,イスラエルでヘルスケア従事者と一般人合わせて1941人に匿名で質問紙調査を行った結果,仮に有効なワクチンが開発されたとした場合,それを接種すると答えた割合はCOVID-19陽性患者のケアをしている従事者と自らをハイリスクと思っている人で高く,患者の親やCOVID-19陽性患者のケアをしていない看護師や医療ワーカーでワクチン接種を躊躇う人が多かったという報告。

Zeberg H, Pääbo S "The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals"(Nature,2020年9月30日)は,COVID-19の重症化リスクファクターがネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子と関連しているというタイトル。面白そうだ。

Beigel JH et al. "Remdesivir for the Treatment of Covid-19 — Final Report"(NEJM,2020年10月8日)は,Covid-19治療にレムデシビルを使った結果について報告されてきた一連の研究の最終版というタイトル。1062人対象のRCTで,レムデシビル投与群はプラセボ群より回復までの時間が有意に短かったとのこと。

Laxminarayan R et al. "Epidemiology and transmission dynamics of COVID-19 in two Indian states"(Science,2020年9月30日)は,インドの2つの州で84965人の確定感染者に接触した575071人のデータを解析し,同年齢での接触での感染リスクが高いことや,CFRが5-17歳で0.05%,85歳以上で16.6%という推定値を出している。凄い人数のデータだし,後でちゃんと読もう。

10月中旬から11月中旬にメモしたこと(2020年11月21日)

日本経済学会が新型コロナウイルス感染症に関する経済学的研究を紹介するための特設サイトを開設したのでリンクしておく。(2020.10.14)

徳島大学での学生の集団感染に伴う休講だが,集団感染が起こったイベントは講義と関係なくても,全面的に対面に戻していたらそれだけ影響が大きいということだ(欧米の大学で見られているような大規模クラスターではないのは不幸中の幸いか)。神戸大学はBCPレベル1でもオンラインをメインに,実習など必要なものだけ感染リスクを低くするように変えた形で対面でとしているのは正しいと思う。文部科学大臣もそれくらいの想像力はもってくれないものだろうか。(2020.10.19)

何日か前にリンクした日本経済学会のサイトからリンクされていた小林慶一郎・奴田原健悟「感染症拡大モデルにおける行動制限政策と検査隔離政策の比較」(2020年8月20日),まだ本文は読んでいないが,要旨を見る限り定性的には当然そうだろうという結果。ただ,経済学者がSIRを経済影響と組み合わせてやったというアプローチに意味があると思う。(2020.10.20)

国内感染の状況は,自分が知っている中では,東洋経済の特設ページが一番わかりやすいと思う。(2020.10.20)

10月6日に5月の人口動態統計月報(概数)が発表されているが,5月時点では肺炎死亡は前年よりかなり少ない。検査が少ないために隠れた死亡が多かったという説への反証となりそう。しかし10月になって5月の統計がやっと発表されているので,7月の死因別死亡数が発表されるのは,残念ながら12月頃だろう。この集計の遅さが日本の大きな欠点。(2020.10.26)

Marc Lipsitch教授のtweetで知ったGoldstein E, Lipsitch M, Cevik M "On the effect of age on the transmission of SARS-CoV-2 in households, schools and the community"(Journal of Infectious Diseases,2020年10月29日)はレビュー論文で,学校再開(とくに中学校と高校)の際には緩和策,とくに18-35歳の人々が混ざることを減らす緩和策を取るべきと結論している。(2020.10.30)

(グローバルヘルス合同大会メモ)基調講演1から。うーん,NZや台湾に比べたら日本のガバナンスもダメだったので,ダメダメをダメと比べてどうする? という気もする。マスクの違いが決定的だというなら,日本が欧米ほど酷い状況に陥っていないのはガバナンスの差では無く,文化と国民の意識や態度の違いに過ぎないという話なのではなかろうか。10月8日のNEJMのEditorialには触れていたが,それに先立つ7月のLancet Infectious DiseasesのEditorialにも触れて欲しかったところ。良いガバナンスのためにはアカデミアでの議論をオープンにするだけでは不十分で,infodemic対策を積極的にしなくてはいけない,という主張まで触れて欲しかった。実際そうだと思うし。(2020.11.1)

WHOもinfodemic対策に力を入れていて,特集ページができていた。(2020.11.2)

科研の申請書を書いていて,確認してみたら,9月まで感染者ゼロだったソロモン諸島で,10月以降入国時検疫で感染検出した患者が昨日までで13名に達していた。まだ国内感染はゼロだし死者もゼロだが,今後も侵入を防ぎ続けることは難しいかもしれない。そして,一度入り込んでしまったら,オーストラリアとWHOのサポートを受けたUNDPの計画で5台供与されたのを加えても国全体で7台しか人工呼吸器が無く,ましてやECMOなどないソロモン諸島の医療体制では,死者が出ることを防ぎ続けられる可能性は低い。ライフスタイルから考えると密な状況が起こることはホニアラ以外では考えにくいので,クラスターの連鎖は起こらないかもしれないが。(2020.11.3)

(グローバルヘルス合同大会メモ)シンポジウム17は明石先生が座長で,大曲先生や押谷先生が登壇したCOVID-19テーマ。大変興味深かった。押谷先生にIHR2005が人と物への不要な妨害を避けるよう求めていることがWHOを縛っているのではないかと質問したところ,IHR2005の枠組みでも渡航制限が出せないわけでは無いというご返事をいただいたが,感染拡大の予防的な早期渡航制限をWHOが出しにくいという側面は間違いなくあって,それはやはりIHR2005の文言に依拠していると思うので,グローバリゼーションを前提とした世界の社会経済的なありよう自体の是非を問い直す必要があると,個人的には思う。Q&Aからそのように書いて送ったが,時間切れで再度の回答はいただけなかった。(2020.11.3)

ふと思い出した。感染症に対するNPIsとしての行動変容って,20年以上前にソロモン諸島のマラリア対策として長ズボンを履いたら? という仮定でシミュレーションして論文書いたのは,まさにそれだった。個人差とか確率的なぶれとかも考えていたし,文章にはしていないと思うが,靴下の方が有効だろうけれども気持ち悪いので受容可能性が低いとかいったことも考えていたので,先駆的だったと言えるかもしれない。(2020.11.4)

予想通りと言えば,COVID-19の新規患者数の増加傾向も。GoTOTravelとかGoToEatとか大学の対面授業全面解禁とかマスギャザリングイベント解禁とか,新規感染者が十分に減っていないのに,これだけ行動制約を緩めていたら増えるのが当然。昨夜尾身先生が,外食時に食べたり飲んだりするときだけマスクを片耳だけ外して口に入れ,咀嚼後はまたマスクをしてから喋ればOKと言われていたが,普通の人間には無理だろう。逆にそうまでして複数人で外食に行くメリットがない。旅先で万全の感染対策というのも,ビジネスなら別に目的があるからできるかもしれないが,観光では無理だろう。メディアは寒さと乾燥の中でも換気が大事ということを強調しているが,一人暮らしの人には意味が無いということを伝えないなあ……と思っていたら,グッとラックで三時のヒロインの福田さんが北村先生に質問して必要ないという解答を引き出していた。福田さんGood job。(2020.11.10)

ふと書いていないことを思い出したが,ファクターXを信じることと,同じワクチンや薬が世界中どこでも同じように有効だと素朴に信じることは矛盾している。たぶん矛盾に気づかない人が多いのだろうが,ある国や地域だけに特異的な病気の制御因子としてのファクターXの不在が,メタアナリシスがもたらすエビデンスが人類共通であるという普遍性の前提なのに。ただ,人類学や環境保健学の成果をみれば明らかなように(環境保健学的な考え方からすれば,体外に存在するときのウイルスの動態に大きく影響する環境条件や行動様式も地域によって違うし,それらも流行曲線に影響するが,ファクターXとはまた別の話),実際は,酵素の遺伝的多型の頻度分布には国や地域や民族による差がかなりあるので,あるという証拠もないがファクターXはあるかもしれないし,薬にしてもワクチンにしても国ごとに治験をして有効性と安全性を確かめてから使うのが常道で,それをすっ飛ばして他国で行われた治験結果を援用して承認すべきではない(原則としては)。アメリカで第三相臨床試験の結果90%「有効」とされるワクチンができても,そのまま即時全世界で接種開始すべきとは言えない。この件,本当はどこかでもっと丁寧に書くべきかも。(2020.11.10)

とはいえ,CFRに国や地域による違いはシンガポールを除けばそれほどないので,死亡を防ぐファクターXは明確にはなさそう。シンガポールは謎なのだが,もしかすると累積死亡者数に,シンガポールで感染して国外で亡くなった人が含まれていないとか? 全体としては,やはりCOVID-19は1月のWHO報告で示されたCFRとR0から示唆された通りにスペインかぜに匹敵するパンデミックと考えるべきだと思う。(2020.11.10)

NZは11月10日朝現在,感染している人が52人いるが,そのうち51人は管理施設,1人は在宅で,病院に入院中の人はゼロ。感染したのは46人が海外旅行中,4人は海外で感染した人からの感染で,2人が調査中ということで,海外で感染して帰国する人の管理にもほぼ成功していると見て良いと思う。いったん終息させればこういうやり方が可能。(2020.11.10)

(日本人口学会72回大会メモ)各国のセンサスへのCOVID-19の影響はどうなっているのかという話が出たので調べてみたところ,5月11日が最終更新だが,COVID-19が各国のセンサスに与えた影響について国連がまとめた表があった。さらに調べたところ,9月29日から10月1日に行われた会議での発表が,この表を参照して,UNFPAとUNDESAは5月の時点では調査方法の変更は推奨しないとしたと書かれていた。その後の情報は不明だが,国連は各国のセンサス実施についてガイダンスとか出さなかったのだろうか。調査員がどういうPPEを着けて配票や回収作業をすべきかというガイダンスは9月に出しているようだがなあ,と思ってリンク先の文書に目を通したら,最も慎重な立場をとれば延期を推奨するが,諸事情で実施する場合には,感染を減らすため,以下のようにPPEを着けることを優先するべきと書かれていた。(2020.11.14)

(日本人口学会72回大会メモ)アフリカセッションの討論だけ聞いていたら,COVID-19の出生力への影響という話が出ていたので,ちょっと文献検索をしてみた。生殖補助医療が抑制されることによる影響についての論文(https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2020.04.003https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2020.05.001)の他,ACE2が生殖系の組織にも存在することの影響を論じているものがいくつか(https://doi.org/10.1111/and.13654https://doi.org/10.1111/and.13791https://doi.org/10.1093/molehr/gaaa030https://doi.org/10.1152/ajpendo.00183.2020https://doi.org/10.1007/s00345-020-03208-w)あった。(2020.11.15)

存続の危機に瀕している事業者への支援としては直接給付の方が公平だし,GoToはそもそも始めるべきではなかった(当初計画されていたように復興支援であるならば,台湾やNZのように抑え込みに成功して新規国内感染者ゼロが2週間続くまでは待つべきであった)とずっと書いてきたが,延長とは……専門家会議を潰して分科会として政治家の下部組織にしたときに,この国の政府は封じ込めをする気がないとわかったが,欧米のような感染爆発は避けたいだろうと思っていた。しかし,もはや感染爆発を避ける気がないのかもしれない。感染拡大がどうなるのかという予測を見る気さえないのかも。このキャンペーンが罪深いのは,感染拡大阻止のためにNPIsをとる人に何の恩恵も無く,利用して少なくとも短期的には金銭的に得をした人が感染拡大を担う可能性が高いところだと思う。人間の本性から考えれば,全体としてNPIsを緩めるムードの中で,要点だけは締める(それなりに親しい人が集まった飲み会や会食の場で,誰からどういう目で見られようと,人前で喋る瞬間は必ずマスクをする)ことは普通の人には難しく(付記:むしろ,できるとしたら,一口ごとの着脱ではなく,飲食物が目の前にある間は無言でいるというのを新しいマナーにする方が無理がないと思う),緩める方向への同調圧力がかかるため,抗うことが大きな心理的ストレスになる。ストレス解消のための防衛機制として,リスクを考えること自体を止める人が増えそうだ。(2020.11.16)

先日のマヒドン大学とのjoint meetingでhealth literacyの専門家が,まずtrustを確立してから正確な情報発信をすることでhealth literacyが上がるしinfodemicを防げると言われていたので,Lancet Infectious Diseasesの7月17日のEditorialが指摘したような,為政者が嘘をつき,センセーショナルな情報を好むマスメディアがそれを拡散し,国民がそれに踊らされた後で為政者の嘘がわかって情報への信頼を失い,それがますます為政者が嘘をつきやすい下地になる(本当のことを言ってもどうせ国民は信じないので)という悪循環が確立してしまった状況では,そもそもどうやってtrustが確立できるのか? と尋ねたら,一人の決まった責任者が毎日正確な情報を広く発信し続けるのが鍵だという趣旨のお答えだった。他にどんな誤情報が流れても,これは大丈夫という拠り所があれば,フェイクニュースが広がることを防ぐ壁となってくれるという。タイではそういう発信があったので封じ込めに成功し,国内感染はほぼない状態が続いている(陸続きのミャンマーなどからの感染者の移動を完全に防ぐことは難しいが)。なるほど,言われてみれば,封じ込めに成功した台湾でもNZでもそうしている。日本は政府が正しい情報を継続的・定期的に発信し続ける体制を作ってさえいないので,国民がtrustを持ちようがない。Infodemic対策としては最大の武器が使えない状態なのだとすると(もちろん,政権がマトモになってくれるのが一番良いが,上記悪循環の元では不誠実な政権が多数から支持され続ける可能性も高いので),何か代替手段が必要だ。インターネットでの何の権限もない一個人の情報発信では弱い。かといって,現在のようなメディアのあり方では,メディアもこの役割を担うことができない。どうしたらこの八方塞がりな事態を打開できるだろうか。(2020.11.16)

新型コロナウイルスワクチンの接種順位等について(第41回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会,2020年11月9日)は,良い資料だと思う。(2020.11.20)

このNHKニュース,厚労省サイトにはまだ情報無いのだが(……と書いていたが,後で見つけた),優先順位を変えるよりも,ちゃんと追い切れるだけ保健所の人員を増やすのが筋だろう。まだ優先順位を下げた追跡は止めるとは書かれていないが,もし,なし崩し的に接触者追跡が完了しないでも諦めてしまうとしたら,それは終息を諦めるのと同義だろう。自公政権に終息させる気が無いことはわかっていたが,厚労省やアドヴァイザリー・ボードが降参してしまってはいけないと思う(11月19日のアドヴァイザリー・ボードの資料の15ページには,IHEATという保健師支援チームを国で整備したことや,今後も拡充することが書かれていて,決して降参したわけではないと信じたいが……同日の参考資料には,グレンジャー因果性が確認されなかったという説明をしていて,たぶん経済の専門家から出てきた資料だと思うが,次数が書かれていないので,どこまで遡った航空旅客数を見たのかわからず,感染から検出までや感染から発症までのラグが適切に考慮されたかわからないし,もっと問題なのは,時系列データとはいえ,航空旅客数に自己相関があるとは考えにくいことで,このデータにグレンジャー因果性をみるのはそもそも不適切だと思うので,こういう参考資料が出てきてしまう点で,アドヴァイザリー・ボードの信頼性にも疑問符が付く。GoToトラベルによって感染拡大した直接のエビデンスはないというけれども,行動範囲が広がって対人接触のmixtureレベルが上がれば感染拡大が加速し長くなるのは定性的には明らかで,その寄与がゼロではないのは議論の余地もないこと)。COCOAの理想は,ほぼ全員がインストールして,接触者追跡が自動化されることだったが,インストールされている割合が低い間は,非インストール者を見つけ出すために手作業の聞き取りを全員にせねばならないから(COCOAで見つかる濃厚接触者が存在した時刻のリストがあれば,その人たちについては場所などの属性情報だけ聞き取れば良く……HER-SYSとの連動がうまくできていれば,その人への感染源の属性情報についてはデータから推測できそうだが,その人から感染させたかもしれない相手については,COCOAの警告で申し出てくれていれば見つけやすいというメリットもある……,リストに無い濃厚接触者について聞き取れば良いので,多少なりとも手間は減るはずだがなあと思ったが,リストには同時刻に3人との接触が記録されているのに,記憶では4人と会っていたとかいう場合は,そのうち誰がCOCOAをインストールしていなかったかは,COCOAの警告による申し出とHER-SYSとの連動が十分に機能していないとわからないので,結局全員聞き取りをする必要がありそうだ),新規感染者が多発すると保健所の調査要員が足りなくなることは目に見えていて,人員が増えないなら優先順位を変えるしかないという発想なのだろう。(2020.11.20)

締め切りのある仕事と日々の仕事に汲々としていて,COVID-19の情報をちゃんとフォローし続けていられないのだが,久しぶりに少し関連情報をチェックして書いてみる。(2020.11.21)

夏にも流行曲線のピークはあったし,いまロックダウンしている欧州各国で新規感染者数が減りつつあることを考えたら,季節要因より行動要因の方が決定的なのは自明だろう。そこに目をつぶってすべてが季節要因のせいであるかのように語る言説は全部無視して良い。(2020.11.21)

何度も書いているが,GoToはそもそも終息後の経済復興策として計画されたのを,終息しないうちに経済がもたないということで始めたのが間違い。終息までもたせるには,経済的に困窮している業種の方には直接給付するとか,感染拡大リスクが低い業態への転換を支援するのが筋(面倒だし政府周辺の中抜きをしにくいから,その関係の人にはうまみがないが,NZや台湾のように終息させる方が良いに決まっている)。人間の行動が必ずしも合理的でないことを考えたら感染拡大リスクを下げきれない形でしかない業態のまま利用者を増やしたら,感染拡大するのが当然で,いつまでも終息しない。たぶんアドヴァイザリー・ボードや分科会の人たちはわかっていても立場上明言できないのだと思っている(昨夜の会見の1時間50分辺りのところで,尾身先生は口頭ではかなりはっきり言われていたが,文書としては出てこないし,その後の発言で,危機感は専門家のコンセンサスだが具体的に何をするかはアドヴァイザリー・ボードや分科会の職掌ではないとも言われていた)。(2020.11.21)

分科会からの提言に「感染がステージII相当に戻れば再び事業を再開して頂きたい」と書かれているのを見るだけで(他の文言も奥歯に物が挟まったような表現満載で,リスコミとしては下手だと思うが,分科会は政府対策本部の下部組織なので自公政権と杉田内閣人事局長以下官僚組織の意に反することは公には言えない枠組みであり,立場上仕方が無いのだろう。これが専門家会議を廃止してアドヴァイザリー・ボードと分科会にしたことの最大の弊害だと思う),この国はCOVID-19を終息させる気が無いことがわかる。大学クラスターがいくつも出ているタイミングで,全面的に対面講義にするように文科大臣が国公立大学長に要請したと報道されているが,それからもわかる。(2020.11.21)

国民すべてが,日本も欧米のようにスペインかぜレベルの死者が出ても良いと合意しているのなら,それも仕方ないが,何か不思議な理由で日本は欧米のようにならないという幻想を振りまいておいて,感染拡大を促進するような施策を進めるのは,あまりにも不誠実だと思う。国民がアンビバレンツに陥り不幸になる。(2020.11.21)

この記事にあるように,南太平洋の島々でもCOVID-19の感染者は検出されつつあるが,今のところ輸入症例だけで,それぞれの国内での感染は確認されていないはず。つまり,検疫と隔離に成功しているのは変わりない。NZや台湾も輸入症例は報告されている。問題は国内感染が起こってしまった場合で,NZはオークランドを即時ロックダウンして接触者追跡も完了し,早期に再終息させることができたが,インフラが脆弱な南太平洋島嶼国では難しいと思う。(2020.11.21)

病原巣としてのミンクの殺処分(2020年11月23日)

11月19日のデンマークの農業大臣が,政府が国内のミンク全頭殺処分を決定したことへの批判の最中に辞職したというニュースに,多数のミンクにCOVID-19が感染していたことは間違いないので,突然変異の影響によらずミンクがリザーバーホストになるには違いなく,殺処分が正当で無かったわけではないというコメントが載っている。ニュースやワイドショーではミンクの話が良く取り上げられているので,学術情報を検索してみたところ,van Dorp L et al. "Recurrent mutations in SARS-CoV-2 genomes isolated from mink point to rapid host-adaptation"(プレプリントサーバ,2020年11月16日)を参照したNatureのニュース(Mallapaty S "COVID mink analysis shows mutations are not dangerous - yet",2020年11月13日付けだが16日訂正)で,ヒトからミンク,ミンクからヒトへのSARS-CoV-2の感染はあったし,ミンクに関連した突然変異のうちY453Fはデンマークでもオランダでも多くのヒトやミンクで見つかっているが,その変異によってウイルスの薬剤への反応性が変わった証拠はないし,既にCOVID-19から回復したヒトの抗体が細胞実験では反応しないことが多い「クラスター5」の変異ウイルスは,ヒトがデッドエンドで,そこからさらに広まることはないだろうという意見を紹介して,変異はそんなに危険ではないという題になっている。ヒトとミンクの間で相互に感染したという報告は,Munnik BBO et al. "Transmission of SARS-CoV-2 on mink farms between humans and mink and back to humans"(ScienceのReport,2020年11月10日)で,遺伝子系図を最尤推定して論じている。ヒトのSARS-CoV-2に感染しやすい動物としてのミンクへの注目自体は,Jo WK et al. "Potential zoonotic sources of SARS-CoV-2 infections"(Transboundary and Emerging Diseasesのレビュー論文, 2020年10月23日)でも示されていた。

Li M et al. "Natural Host-Environmental Media-Human: A New Potential Pathway of COVID-19 Outbreak"(EngineeringのPerspective,2020年9月5日)は,新興感染症の新しい発生経路の可能性を示したもののようだ。図がきれいだ。

NatureのNewsで,"COVID research updates: Immune responses to coronavirus persist beyond 6 months"(2020年11月20日)が,プレプリントサーバに載っている論文,Dan JM et al. "Immunological memory to SARS-CoV-2 assessed for greater than six months after infection"(2020年11月16日)を引用して,コロナウイルスへの免疫反応は6ヶ月以上続くという結果を紹介している。

11月下旬から12月上旬のメモ(2020年12月9日)

日本の東京や大阪などのCOVID-19の新規感染者数推移を縦軸を対数軸にして描画するRコードは,libusejapan.Rとしてダウンロードできる。COVID19パッケージを使って,実行する度にデータをダウンロードし,実行日の前日までをプロットするようになっている。(2020.11.24)

11月24日までのいくつかの都道府県の新規感染者数推移

昨日のコードは日本の都道府県版だったが,COVID19パッケージを使うと世界の国々についての新規感染者数推移も簡単に描ける。libuseworld.RをRで実行すれば,いつでも,その時点の1日か2日前までのグラフができる。(2020.11.25)

11月23日までの数ヶ国の新規感染者数推移

Mitjà O et al. "A Cluster-Randomized Trial of Hydroxychloroquine for Prevention of Covid-19"(NEJMの原著論文,2020年11月24日)は,ヒドロキシクロロキンには曝露後服用で他人に感染させることを予防する効果も見られなかったという研究。以前NCGMの狩野さんも入っていたグループから提言された可能性もダメだったということか。(2020.11.26)

FBでの川端君から編集長へのコメントが聞き届けられたのか,m3の西浦さんの記事がYahoo! ニュースに転載されていた。定性的には旅が感染拡大に寄与することは議論の余地もないと以前も書いたが,この記事はより詳しい説明が書かれていて参考になると思う。(2020.11.26)

Buzzfeedの西浦さんへのインタビュー。日本の緩和が早すぎるという指摘は,ぼくも7月9-10日にこのページに書いた。(2020.11.26)

北京外語大と神戸大の共同シンポジウムで発表したが,時間が足りずインフォデミックの話は端折ってしまった。次に北京大学の先生がコロナ文学の話をされ,Daytodayなどを紹介されたが,ぼくは,4月4日に発表された福田和代『繭の季節が始まる』が好きだなあ。たぶん小説ではないが,ビル・ゲイツが感染症対策を重要視する大きなきっかけになったJohn M. Barryの"The Great Influenza"も,インフォデミックへの対処としては大きなヒントになる著作だと思う。(2020.11.28)

共同シンポジウムにZoom参加しながら,学術会議のYouTube配信も横目で見ているのだが,16:15頃に出てきたMental health pandemicって凄い言葉だな。こういうことか。(2020.11.28)

Websterのサイトによると,infodemicという造語の起源は,SARS流行時のWashington Postの記事にある。現在のCOVID-19パンデミックで意味合いが変わったとも指摘されているが。(2020.11.29)

大学院生の発表の最後で,ミヤギサトシの名前を聞いたのは懐かしかった。学生時代,今は社人研の副所長をしている林玲子さんが主演女優だった冥風過劇団の「嵐が丘」を見に駒場小劇場に行って,本編は本編で良かったのだが,おまけ? だったのか,宮城さんの着物風の衣装での不思議なパフォーマンスと「あーあー,師走の日本海,越冬タラバガニー」という歌に驚愕した記憶があるが,まだ現役の演出家なのか。発表の最後で出てきた双方向性については,身体性が必要かどうかということが気になった。もし音声と映像の双方向性で良いのなら,観客席の1つ1つにPCを用意してP2Pで繋げば可能になると思うが(たぶんコスト的にもそんなに無茶苦茶なことにはならないと思う),身体性は失われたままだ。音楽のライブでもそうだが,汗とか熱とかいったものがパフォーマンスとしてのライブ体験に必須ならば,おそらくバーチャルでは乗り越えることができないので(『ヴァレンティーナ』や『三体』に出てくるような五感へのフィードバックありのVRスーツが実用化されたら話は別だが),ミヤギさんが書いていたというカニカマボコであることを脱することができない。小さな劇場に客を入れて近距離で発声を伴うパフォーマンスをすると,たぶん相当な注意を払っていても,集団感染が起こるリスクは少なからず出てしまう(「THE★JINRO」のときは実態としての注意不足を指摘する声が多かったが,たぶん観客も含めて相当な注意はしていたと思われる「RENT」でも集団感染が起こった)。ミヤギさんがいうカニが食べたかったらNZや台湾やタイのように国内終息させてからやれば良いので,絶対に無理ということではないのだが,現状では,絶品のカニカマボコを目指すしかないのかもしれない。(2020.11.29)

フランスまだ緩和するには時期尚早と思う。この新規感染者数のレベルでNPIsを緩めたら,また2ヶ月くらい(計算したわけではないので数字は勘だが)経ったら急増しそうだ。その都度ロックダウンするよりは,追跡可能なレベルまで減るまで待つ方が良いと思うが。(2020.11.29)

昨夜のtwitterのやりとりをリンクしておく(多すぎて拾いきれなかったかもしれないが)。ぼくが数日前にtweetしたHCQ残念という論文紹介へのコメントとして,日刊ゲンダイ記事の紹介記事への疑問点をご返事記事への疑問は同意するけれどもCQ/HCQが有効というエビデンスを紹介しているサイトもある(当該サイトはc19study.com)→サイト紹介感謝,ただ精査してみないと何とも(当該サイトは早期治療なら100%有効とまとめているが,この論文はRCTの結果,「軽症患者にはno benefit」と言っているし,この論文も無症状患者へのRCTで感染を減らす効果が無く有害反応発生が多いとしている)→外来患者への治験結果の論文の紹介(力尽きてご返事できなかったが,ちらっと目を通した限りでは穴が多く決定的とは思えなかった),政治的バイアスの指摘と古くから利用されている話早期からHCQを投与すれば入院しなくても済むとコメント頂いたが,眠さに負けて答えきれなかった。政治的バイアスはあるかもしれないが,マラリアの予防や治療に使われてきた用量とCOVID-19に対して治験を試みて効果があるかもしれないとされている用量は違うので,古くから使われてきたから安全とは言い切れない。もちろんぼくもCQ/HCQがマラリア予防や治療に使う用量で有効だったら安価で安全なGame Changerになると思って2月くらいから期待はしてきたが,トップジャーナルに発表される論文を追ってきた限りでは,見込みは低そうだというのが今の実感。(2020.12.3)

このプレゼン資料のスライド7のグラフからわかるように,シンガポールだけ極端にCFRが低そうなのだが(日本や韓国と欧米の差はそれほどない),そういえばチャンギ空港の売店では抗マラリア薬が簡単に買えたなあと思い出し,もしシンガポールだけCQかHCQが標準治療に使われているとしたら,かつ,それがCFRの低さを説明するとしたら,CQ/HCQの有効性を支持するかも? と思いついて調べたが,シンガポール政府保健省の公式見解では非推奨となっていたし,新聞記事でもHCQによる治療計画はないと書かれていたので,そういう説明は成り立たなそうだ。というわけで,シンガポールのCFRの低さの謎は未解明なまま。(2020.12.3)

ご恵贈御礼。西浦博(聞き手:川端裕人)『理論疫学者・西浦博の挑戦:新型コロナからいのちを守れ!』中央公論新社,ISBN 978-4-12-005359-7(Amazon | honto | e-hon)が届いていた。Amazonにも注文しているが,発売より一足先にご恵贈いただいてありがたい。(2020.12.7)

TwitterのトレンドトピックにGoTo利用者 新型コロナ症状の経験約2倍 東大チーム調査が出てきて,ほとんどのメディアは共同通信からの配信をコピーしているだけなのだが,どういう調査なのかの詳細情報が「東大チーム」だけではまったくわからない。『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の著者としてフォローしてきた,当該研究の責任著者である津川友介さんが(筆頭著者は東大の助教だが,プレプリントサーバに載っている論文を見れば責任著者が津川さんであることはわかるので,短く呼びたければ「東大チーム」ではなく「UCLAなどのチーム」と書くべきではないか? もし津川さんが東大チームとしての紹介を希望したのならその限りではないが),プレプリントサーバ掲載段階の未査読論文であることを明記した上で,内容紹介記事を書いて,それを紹介する形でTweetをしているのに,なぜ,それを紹介しないのか。津川さんに取材してから記事を書けば良いのに,大手メディアは手抜きと言わざるをえない。せめて津川さんの解説記事をリンクすべきだろう。(2020.12.8)

GoToキャンペーン(TravelだけでなくEatも)とCovid-19の感染拡大に定性的には関係があることは自明と何度か書いたけれども,定量的に関連を評価しようとすると,ちゃんとデザインして追跡調査するのは,個人でやるにはあまりにも大変だし(政府ならできると思うが,やらずに「関連があるエビデンスがない」と強弁しているということは,やりたくないのだと思われる),断面研究や後ろ向きの質問紙調査だと,この論文でも限界としてあげられているような点(→[追記]できる限りの交絡の調整は試した上でちゃんと限界を書いているから,たぶん多少の修正をした上で査読は通ると思う)への批判が想像されるので(→[追記]案の定,官房長官が「この研究でも因果関係が示されたわけではないと明記されている」と主張していた),自分で定量的な調査をしようとは思わなかった(数理モデルでやるならともかく)。が,こうして定量的にデータをとってくれる研究者グループがいて,約2倍というオッズ比の推定値を出してくれたことは,一つの目安にはなるのでありがたい。(2020.12.8)

『理論疫学者・西浦博の挑戦:新型コロナからいのちを守れ!』読了(2020年12月10日)

今こそ伝えたい新型コロナ 「隙を突くウイルス」の本質 後編が公開されていた。

これは,西浦博(聞き手:川端裕人)『理論疫学者・西浦博の挑戦:新型コロナからいのちを守れ!』中央公論新社,ISBX978-4-12-005359-7の巻末に載っている対談の後半部分が公開されたものだ。本書はAmazonからは今日届いたのだが,数日前にご恵贈いただいていて,さっき読了した。

別途感想を書く予定だが,基本的に時系列でまとめられているので,ぼくが外から書いてきたことの答え合わせができて良かった。(東京都医師会が突然積極的に取り組み始めた裏には,pp.156-158に書かれていた21:00-23:30の話し合いがあったなどの)具体的な情報は知らなかったが,だいたい想像通りだった。

これまでも書いてきたように,基本的には専門家会議がやってきたことは正しかったと思うし,感謝と尊敬の念しかないのだが,たぶん方針として唯一間違っていたと思うのは,216ページで書かれている「一線を越えないポリシー」で,補償と休業要請をセットでやるという話は政治の範囲だから口を出さないと最初から決めていたという点だ。ぼくは何度か書いているが,感染症疫学の範囲は確かに超えるかもしれないが,公衆衛生はhealth economicsも含むし,Prerequistes for healthも含めたスコープをもっているから,補償と休業要請をセットでやった場合と,補償無しの場合と,休業要請もしない場合で,それぞれいくら掛かって,感染状態がどうなるのかというシミュレーションをして,incomeがどうなる,social justice and equityがどうなる,という評価をしても良いし,CVMやCRAを使えば経済政策まで含めてリスク論でアプローチできるから,そういう分析をして政府に予測を示すことには問題がないはずだ。専門家会議には財源も権限もないから,国民に向けて直接「補償します」とは言えないし,休業命令も出せないが,政府に対して経済的な側面を含めた予測を示すことは問題なかっただろう。それが自らの線引きだったとすると,自らに枷をはめすぎたのではないか。こうしたらこうなる可能性があります,でも決定は政府がするべきことです,と明示すれば良かったのでは。

まあ,尾身先生のネゴシエーションの技の話などを読んでいると,政治家や官僚に絡め取られずに勝つことはメチャクチャ難しいことなのだろうが。

COVID-19は季節性インフルエンザとは全然違う(2020年12月18日)

(■12月11日)帰宅してTWEEDEESのオンラインライブ視聴。どの曲も心地良くて最高。1月下旬に対面のライブをするという発表があったが(リトグリのホールツアーもだが),政府が今のように感染拡大を促す方向の政策ばかり取り続けていたら,GoogleのAI予測が示すように,1月にかけて日別陽性者数は増え続ける可能性があって,1月下旬の対面でのライブは難しいかもしれない。そうなったら,取るべき対策を取らない政府の責任と思うし,政府に損害賠償請求できるのではなかろうか。

(■12月15日)COVID19パッケージでの国別の描画には3文字の国名コードが必要なのだが,この一覧表が便利かも。

(以下12月18日のメモから)

稲葉寿編著『感染症の数理モデル』の増補改訂版が出るとの情報。長らく絶版で,中古にとんでもない値段がついていたが,その不健全な状況が解消するだけではなく,COVID-19の章が加わり,各章にも加筆されるそうなので素晴らしい。

久しぶりに主要ジャーナルのCOVID-19関連論文をチェックしたのでメモ。

Majorga L et al. "A modelling study highlights the power of detecting and isolating asymptomatic or very mildly affected individuals for COVID-19 epidemic management"(BMC Public Health,2020年11月27日)は,数理モデルでの解析から,症状の有無によらずすべての感染者を検出して隔離することが抑え込みに重要,と結論している。

Fajgenbaum DC, June CH "Cytokine storm"(NEJMのレビュー論文,2020年12月3日)は,サイトカインストームという現象について現在までの知見をまとめ,COVID-19においてどうなのかを論じているようだ。

Polack FP et al. "Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine"(NEJM,2020年12月10日)は,ファイザーのmRNAワクチンの治験結果。

Sun K et al. "Transmission heterogeneities, kinetics, and controllability of SARS-CoV-2"(Science,2020年11月24日)は,数理モデルで伝播の不均質性にアプローチした論文。

Brauner JM et al. "Inferring the effectiveness of government interventions against COVID-19"(Science, 2020年12月15日)は,1月22日から5月末までの欧米を中心とする41ヶ国の各国政府のNPIsによる介入(日本は解析対象に含まれていない)の有効性を,ベイジアン階層モデルで統計解析し,感度分析もした結果,学校閉鎖と10人以上の集会禁止のRt減少効果が大きかったのに対して,それに加えて在宅命令を出してもRtはそれほど低下しなかったと結論している。インペリグループReport 9のシミュレーションとは異なり,学校閉鎖単独でも効果が大きいという結果が出ているが,考察の中で,学校閉鎖が人々にもたらした警戒感による間接効果なのか学校閉鎖自体の直接効果なのかを区別することはできないし,解析対象にしたデータでは小中高校の閉鎖と大学の閉鎖が同日に行われた場合が多かったので,その効果の区別はできないし,幼稚園保育園についてはわからないと論じている。結果が施策実施の順番の違いに左右されないかとも思ったが,感度分析でもロバストだと言っているから良いのか?

Lemieux JB et al. "Phylogenetic analysis of SARS-CoV-2 in Boston highlights the impact of superspreading events"(Science,2020年12月10日)は,ボストンで採取された772株のSARS-CoV-2の全ゲノム解析をした結果から感染経路を分析したというゲノム疫学研究。他地域のデータと同じく過分散が確認され,中でも2つの超拡散(superspreading)イベントの影響が大きかったこと,そのうち高度看護施設(skilled nursing facility)の入居者とスタッフのクラスターでは感染拡大が速く脆弱な入居者の多数が死亡したが,施設外への拡散が比較的小さかったのに対して,2月26-27日に国内外の175人が参加して行われたビジネスの国際会議のクラスターは国内他地域や他国へも広がりを見せたと結論している。

Clapp PW et al. "Evaluation of Cloth Masks and Modified Procedure Masks as Personal Protective Equipment for the Public During the COVID-19 Pandemic"(JAMA Internal Medicine,2020年12月10日)は着用者への感染防御と着用者からの感染拡大を防ぐという二重の意味をもつマスク着用の防御効果について,さまざまなマスクを試したところ,N95と普通のサージカルマスクに大差はなく,フィットを良くしたフィルター性能の良いものであれば,商用に一般に売られているものでも医療用と同等あるいは高い効果を示したという論文。

Piroth L et al. "Comparison of the characteristics, morbidity, and mortality of COVID-19 and seasonal influenza: a nationwide, population-based retrospective cohort study"(Lancet Respiratory Medicine,2020年12月17日)は,フランスの全国レベルのデータベースを使ってインフルエンザとCOVID-19の罹患率や死亡率を直接比較した後ろ向きコホート研究。入院時所見として肥満,糖尿病,高血圧,脂質異常などはCOVID-19患者に多く,心疾患,慢性呼吸器疾患,肝硬変,欠乏性貧血はインフルエンザ患者に多かったことや,入院致命リスクはCOVID-19がインフルエンザの2.9倍(年齢調整すると2.82倍)だったことなどを示している。この論文には,Petersen E "COVID-19 is not influenza"(2020年12月17日)というコメントが付いていて,2009年のパンデミックインフルエンザのUSAでの死亡率が人口10万人当たり4.1だったのに比べ,イタリアのロンバルディアではCOVID-19による死亡率が人口10万人当たり159に達していたし,COVID-19の方が入院期間も長いので医療への負荷が大きく,到底インフルエンザと比べられるようなものではない,としている。当然のコメントと思うが,こういう論文やコメントが出るところから考えると,インフルエンザと変わらないというデマは日本だけではなく世界を席巻しているのだろう。

Xie Y et al. "Comparative evaluation of clinical manifestations and risk of death in patients admitted to hospital with covid-19 and seasonal influenza: cohort study"(BMJ,2020年12月15日)は,USAの退役軍人コホートで今年のCOVID-19と2017-2019年の季節性インフルエンザの入院患者を比べ,COVID-19の方が合併症リスクが高く,致命リスクのハザード比は4.97と報告している。ほぼ同時にBMJにも同じ主旨の論文が掲載されたことから考えると,トップジャーナルの編集者たちが,如何にインフルエンザとCOVID-19が変わらないというデマの害悪を重く考えているかがわかるだろう。インフォデミック対策には,こういう地道な活動も大事ということだ。

The Lancet "Science during COVID-19: where do we go from here?"(LancetのEditorial,2020年12月19日)は編集委員の誰かではなくThe Lancetという名義で書かれている。確かにCOVID-19のパンデミックは科学のあり方に大きな影響を与えた。世界規模の研究協力やオープンデータによって物凄い速さで研究が進んだことを踏まえ,次世代の科学が「ここからどこへ?」という問いかけは,希望を含んだものと思われるが,それを進展させるのが我々の責任である,という結語は重い。

Poustchi H et al. "SARS-CoV-2 antibody seroprevalence in the general population and high-risk occupational groups across 18 cities in Iran: a population-based cross-sectional study"(Lancet Infectious Diseases,2020年12月15日)は,イランの18都市における一般住民とハイリスクな職業従事者を対象にした血清抗体検査の解析結果。PCRで確定診断がついた患者数より血清抗体陽性の人が多いというのは,まあ当然の結果(昨日だったか,森先生のグループも神戸での抗体検査の結果,やはりPCRでの確定患者数より多いと発表していた。JMA Journalにアクセプトはされていてin pressな模様)。

これ(BMJ,2020年12月17日)は,BMJで7月に出版済みの,"Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis"(BMJ,2020年7月30日)の中身がアップデートされたという告知。継続中のシステマティックレビューとメタアナリシスの結果だったので,オンライン版は更新するというのはありなのだろう。薬による治療について,コルチコステロイドは致命リスクを下げるのに有効だがアジスロマイシンやHCQやインターフェロンβはおそらく無効,と結論している。

Wang W et al. "Global, regional, and national estimates of target population sizes for covid-19 vaccination: descriptive study"(BMJ,2020年12月15日)は,WHO加盟194ヶ国について,ワクチン接種のターゲットとなる人口規模を推定した論文。筆頭著者は博士課程の院生だし,著者には修士課程の院生も含まれていて,人海戦術っぽいが,必要な研究ではある。

岩田先生の本の感想とか(2020年12月19日)

北大の医学統計学の横田先生が,RのShinyサーバでCOVID-19の単純なSEIRモデルを作って動かしてみるというページを作られていることに気がついた(たぶん4月下旬?)。そこからリンクされている,Googleのコミュニティモビリティレポートは,移動量データがCSVでダウンロードできる。日本についてのレポートを見ると,駅や公園はやや減っているが,小売店や娯楽への出足がほとんど減っていないことなどがわかるが,都道府県別など,それより細かい区分はわからないので,「やん」の拡散には使えない。

岩田健太郎『僕が「PCR」原理主義に反対する理由:幻想と欲望のコロナウイルス』集英社新書,ISBN 978-4-7976-8061-4(Amazon | honto | e-hon)を読了。扇情的なタイトルだが,前半は自叙伝,後半は岩田先生がいろいろなところで既に書かれていることで,そこまで激しい内容ではない。自叙伝の部分では韜晦的な書き方をされているが(それなのに,時々,内心もっていらっしゃるであろう自信が溢れ出てしまっているように思われるが),事実だけ見れば能力も体力も超人級であることがわかる。本書は90ページに単純ミスがあって,「閾値を下げると特異度も下がってしまうというジレンマが起きるのです」の次の文章は『「あなたは病気ではありませんよ」と判定されたけれども「実は病気だった」という人が増えてしまう,という現象が起きるのです』ではなく,『「あなたは病気ですよ」と判定されたけれども「実は病気ではなかった」という人が増えてしまう,という現象が起きるのです』が正しい。111ページの事前確率0.01%の状況下での事後確率(陽性反応的中率)の計算例は,特異度99.9%のときに8.3%と示すだけでなく,99.99%の場合,99.999%の場合にどうなるかも示した方が良かっただろう(それぞれ,47.3%,90%となる)。武漢での1000万人調査結果(Nature Communicationsで論文になっているが,この陽性例がすべて偽陽性だったと仮定しても―実際は本当に無症状感染の人もそれなりにいたと思うが―PCRの特異度は99.99%以上あることになる。本書でも何度か触れられている回復後に残っている遺伝子断片を検出してしまうことによる偽陽性は,この武漢の検査でも同等に検出されるはず)などを考えたら,99.99%での計算例を示す方が現実的意味があると思う。もっとも,特異度が低くなる原因が主に人為的ミスだとしたら,長い時間にわたって多くの施設で少しずつ検査される方が,武漢のように一斉検査するよりも人為的ミスが起こる可能性は高いかもしれないが。ちなみに,現在のように感染拡大が続いてくると事前確率も上がってくるので,事前確率を0.1%として計算すると,特異度99.9%でも事後確率47.3%となる。事後確率50%というのは,陽性か陰性かという2値判定の現象についての判断としては,ランダムに決めるのと同じだから(もちろん,ほとんどの人が陰性であるときに,この人が陽性である可能性は五分五分だとわかるのは,対象者を絞る目的で意味はあるが),その個人にとっての検査を受ける意味は微妙なところがあり,本書で岩田先生が主張されている,医師がちゃんと背景情報の聞き取りを含めて臨床的な診断を行うことが大事というロジックは揺るがないので,特異度99.99%や事前確率0.1%の計算例を出して欲しかった。マイクロ飛沫の滞留によるクラスター感染を防ぐ上で,換気の悪い複数人がいる場所で喋るときは常にマスクした方が良いという話を無視しているのもどうかと思った。以上3点が残念だったが(「数字とは主観である」というレトリックも,言いたいことはわかるがどうかと思うし,台湾やNZでうまくいった理由として対策を始めた時期の早さを挙げていたが,感染者が増えて強いNPIsをとったとき,新規検出者ゼロが2週間続くまで強い行動制限を続けた点の重要性に触れていないのも残念だった),自叙伝部分は面白かったし,「マシに間違える」という考え方はエルゴノミクス的にも重要で合理的だし,安心を求めることの害とか,個人よりもシステムが重要であるという点も概ね同感であった。

UKの新変異株の影響(2020年12月20日)

NHKが「新型コロナウイルス 格闘の証言」というサイトを作っていた。最前線で実務に当たっている方々を中心にしたインタビューという位置づけのようだ。歴史資料として役立てたいということだろうか。

時事メディカルに「コロナ変異種、ロンドン再封鎖=強い感染力、Xマス緩和撤回―英」という記事が載っていて,Twitterのトレンドにも入っていたが,相変わらず日本のメディアの記事は詳細がわからないしリンクもない。CNBCのニュースからはUK政府のアナウンスがリンクされていて,PHE investigating a novel strain of COVID-19: A new variant of the virus that causes COVID-19 (SARS-CoV-2) has been identified across the South East of England(2020年12月14日)から‘VUI-202012/01’という変異株名がわかったので,それで検索して,BMJの解説記事(2020年12月16日)に辿り着いた。これを読むとスパイクタンパクN501Yの変異によって,理屈の上ではACE2受容体に結合しやすくなり感染力が強くなっている可能性があるというメカニズムや,UKで採取されたサンプルからランダムに遺伝子配列を調べ,週報として報告している中で見つかったという経緯がわかる。

最近のBMJニュースから(2020年12月25日)

看護専攻の公衆衛生学の11回目は感染症とその予防。最後のところに個別の感染症の事例としてCOVID-19の資料をつけておいたが,喋る暇はなかったので,各自読んでくださいと言っておいた。(2020.12.21)

libusejapan.Rをpalette("Okabe-Ito")を使って色をsafe colorsで作図するように変えてみた。(2020.12.22)

2020年12月20日までの日本の新規感染報告数推移

稲葉寿編著『感染症の数理モデル 増補版』培風館,やっとhontoe-honに入ったが,出たばかりなのに,前者は「現在お取り扱いできません」,後者はお取り寄せ1-4週間となっていて残念。(2020.12.23)

報道ステーションに出ている保健所長が濃厚接触者の調査対象を絞ることを「訴えたい」としているが,それでは感染者が拡大する一方なので破滅に向かってしまう。いつまでも楽にならない。3月末に押谷先生や尾身先生が危惧していたような,保健所がパンクする状況が間近ならば,感染者を減らすための緊急事態宣言などによる接触減が必要なので,追跡を諦めるのは救いにならない。保健所長さん,訴えることを間違っている。緊急避難的な感染拡大抑制のための強いNPIsと,軽症者の宿泊施設管理など専門性が必要ない業務の補助人員の臨時増員を訴えるべきだろう。これからワクチン接種計画とオリパラ対応でますます忙しくなるというフリップが出ていたが,どうせ無理だし早くオリパラ止めてくれと訴えたかったのではなかろうか。言わなかったのはテレビへの忖度か?(2020.12.23)

変異株についてBMJのニュース解説に続報が出ていた(BMJ,2020年12月23日)。良くまとまった記事と思うが,テレビニュースを騒がしている南アフリカの変異株への言及はざっと見た限りまだなさそう。(2020.12.25)

BMJにはバーミンガム大学での学生7189人を対象にした,公式承認されている迅速抗原検査の結果,2例のみ陽性だったが,陰性者の10%を抽出してPCRをやったら6例の感染者が見つかったことから,迅速抗原検査の感度は3%しかないというニュース(BMJ,2020年12月23日,スコットランドの複数の大学の43925人の検査で陽性だった79人の試料中31個をPCRで再検査したら13個しか陽性でなく,偽陽性率が58%という情報も付記されていた)も出ていて,その迅速抗原検査はほぼ使い物にならないことが示されていた。メーカーは使い方が悪いとコメントしているようだが……(2020.12.25)

同じBMJにはBaker MG et al. "Elimination could be the optimal response strategy for covid-19 and other emerging pandemic diseases"(BMJ,2020年12月22日)も載っていた。中国,台湾,ニュージーランド,オーストラリアなどの例を出して,新興感染症への対処戦略としては,国内からの感染を排除し,検疫などで侵入を防ぐのが最適なのでは? と論じ,利点とコストなどについて検討している。排除戦略が対策成功例であることはぼくも以前から何度か書いてきたが(つまり時間があれば自分でもBMJに載るような文章が書けたかもしれないと思うとちょっと悔しいが,まあちゃんと書いてくれる人がいたのだから,自分がやらなくても良いことだったとも考えられる),ある意味当然の議論。しかし国内のメディアなどでは,なぜか,ほとんどこういう形で論じられることがない。(2020.12.25)

WHO Timeline updated(2020年12月28日)

昨夜Amazon Direct PublishingでKindle本にする手続きをした2019-nCoVについてのメモとリンクがKindleストアに入った。昨夜も書いた通り,自分がスマホのKindleアプリで読むためにやったことなので,他の人はまったく買う必要は無い。(2020.12.26)

随分前にも書いたが,渡航に関して国籍で扱いを変えるのは,感染症疫学的には意味をなさない。ウイルスは宿主の国籍を区別しない。国家安全保障上,自国民の人権制限がしにくいということなのだろうが。(2020.12.26)

変異株についての続報が感染研のサイトに載っていた。知見が出て専門家が提言してから政策実装されて執行される間のタイムラグが残念。政治家が意思決定をするという仕組みが取られている限りタイムラグを減らしにくいが,仮に保健医療専門家の多くが2009年のパンデミックインフルエンザ以前から何度も要望してきたようなCDC的な組織が今後常設されるとして,そこに指揮権を委任するような法律が日本で成立するのかわからない。本当はそういうところまで踏み込んで世間の人々の関心を高めておくことが,CDC的な組織についてメディアに期待したい役割なんだが。(2020.12.27)

WHOのCOVID-19対策のタイムラインが12月15日にアップデートされていた。WHOのタイムラインはInteractive版もあるが,単純なテキスト表示の方が読みやすい。(2020.12.28)

信濃毎日新聞からの続報によると,羽田議員はCOVID-19陽性だったと事務所が発表したとのこと。もしCOVID-19が死因ならば(陽性だったというだけで,それが死因とは限らないが)最初に発熱した時点で自分でSpO2を調べていたら軽症ではないことがわからなかっただろうか? それとも,そのときは本当に肺には行っていなかったのに,その後急速に肺を侵して死に至るほど急に増悪したのだろうか。後者だとすると本当に恐ろしい。

厚労省のCOVID-19診療の手引き4.1版,診療の手引きなので想定読者は臨床医だと思うが,きれいにまとめられていて読みやすい。出典も書かれている。

new virus variantを変異"種"とするワーディングは違和感。せめて変異株,あるいは,たぶん変異ウイルスとか変異タイプ(型)という言い方が安全。「種」という言葉は使わない方が良いと思う。ウイルスの型の呼称は,かつてインフルエンザについて調べたときも分類体系として不整合な点があると書いたが,インフルエンザウイルスはH1N1とかは亜型だし,同じ亜型の中にも微小な抗原変異をもつウイルスが多数存在するので,毎年の流行予測に基づいてワクチンを作る元にするタイプは「株」と呼んでいたはず。この辺り,メディアで大臣やタレントが「変異種」と連呼している現状を,ウイルス学者はどう考えているのだろうか? と思っていたら,ちょうどほぼ同時にインペリの免疫学者の小野昌弘さんがtweetで変異株と呼ぶべきと指摘されていた

和歌山県知事のメッセージ(2020年12月29日)

牧野さんがtweetされている和歌山県知事のメッセージは確かに素晴らしいが(なかでも,接触者追跡を諦めてはいけないというメッセージが最重要と思う),内容的には3月に専門家会議が訴えていたこととほぼ合致していると思うし,国にも他の自治体にもできたはずのことだろう。感染症対策とは別の思惑で動いた政治家が権力をもっていたのがこの国の悲劇。何度も書いたが,7月に専門家会議が一方的に廃止されたことが現状に続くレールを敷いた。

イベルメクチンのメタアナリシスをしているサイト(2021年1月2日)

年末年始に移動する人向けの高山先生の推奨条件はもっともだと思う。(2020.12.31)

川端君が今年の仕事を振り返るtweetをしていたので,自分も振り返ってみると,今年はCOVID-19パンデミックの影響でフィールドワークはできなかったし,せっかく国勢調査年に人口分析の本を出せたのに,そちらに注力できなかったのは残念。https://minato.sip21c.org/2019-nCoV-im3r.htmlを書いてきたおかげでtwitterのフォロワー数が4倍になったが,infodemic対策には蟷螂の斧なのも残念。関連で公開したまとめ資料もいろいろあるが,最新のものは公衆衛生学第11回「感染症とその予防」の講義資料で,COVID-19関係は最後にまとめてある。日本における「波」については,この資料にだけ書いた「見方」なので,もう少しちゃんとPerspectiveとして英文でまとめて投稿するべきだが時間がない。(2020.12.31)

このtweetが引用しているメタアナリシスの結果を紹介する日本語説明では,実際にどういう研究なのか詳細不明なので,どれくらいのエビデンスなのかわからないのだけれども,確かに安い薬は儲からないから製薬会社が投資しないし政府も資金援助しないという話は良くあって,それがNTDs(Neglected Tropical Diseases: 顧みられない熱帯病)を生んできた根源でもある。だからこそ世界中のフィラリア患者を救ってきたイベルメクチンは凄い発見・発明だったわけで,この連ツイでの議論は一理ある。ただ,自分の判断を下すためには,元の研究の信頼性が大事なので,元の情報源を読んでみないといけない。とくに,この情報源はPeer Reviewを通った原著論文ではなく,プレプリントと同じく,このサイトで発表されているだけだし。幸い,メタアナリシスは,方法論も確立しているし,時間さえあれば基本的に自分で追試できるので,信頼性は確認しやすい。(2021.1.2)

最近の論文やEditorialから(2021年1月4日)

Maeda JM, Nkengasong JN "The puzzle of the COVID-19 pandemic in Africa"(ScienceのPerspective,2021年1月1日)は,アフリカのCOVID-19感染者や死者数が予想よりずっと少ないという謎についての考察。献血サンプルから推定された既感染者数は報告数の30倍近いので,検査や報告が足りていない可能性はありそうだが,早期に侵入防止策を打ち出した効果もあると考えられ,もっとデータが必要だという論調。

Baden LR et al. "Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine"(NEJMの原著論文,2020年12月30日)は,Moderna社のmRNA1273ワクチンの有効性と安全性についての報告で,1ページにまとめられたResearch Summary(とくに図)がわかりやすい。

Castells MC, Phillips EJ "Maintaining Safety with SARS-CoV-2 Vaccines"(NEJMのレビュー論文,2020年12月30日)は,特例的な早期認可が行われる際にどうやってワクチンの安全性を維持するかという視点で書かれているようだ。

The Duke Program on Medical Misinformation: Guiding Principles for Partnering with PatientsのBrian Southwellにインタビューして書かれているAbbasi J "COVID-19 Conspiracies and Beyond: How Physicians Can Deal With Patients’ Misinformation"(JAMAのMedical News & Perspectives,2020年12月30日)は,誤情報によって陰謀論を信じ込んでしまった患者に対し,医師がどのように寄り添うかについての原則を述べているようだ。

時短ではダメだろう(2021年1月6日)

長期間の時短よりも短期間の休業の方が,たぶん事業者にとっても総体としての損が少なくて済むし,感染拡大への対策としての効果は大きいに違いないのだが,政府も自治体もなぜ時短に拘っているのだろう。8時間の営業を6時間に減らしても期待される接触数は3/4にしかならないので,物凄く単純化してその条件でだけの感染を考えた場合にはRtが1.34を超えていたら感染は拡大し続けてしまう。仮に1を切ってもある程度のsuppressionを達成するまでに2~3ヶ月掛かってしまうかもしれない。所得が3/4の状態が2ヶ月も続いたら辛かろう。減収分の補償という出し方もしにくい。それなら1ヶ月だけ休業補償金をきっちり出して(飲食だけでなくハイリスクな業態しかとれない業種は,エッセンシャルワーカーを除き)休業してもらう方が良い,という判断になぜ至らないのか謎。逆に,飲食でも完全に仕切られた一人ずつ別の席で完全に無言で食べるだけであれば時短の必要さえないと思う(牛丼チェーンとかで,そういう店舗を始めないだろうか?)。ブランド維持には休業より時短の方がマシといった可能性はあるのだろうか?(2021.1.5)

さっき書いたのと同主旨のことを西浦さんがBuzzfeedの取材に対して語っていらした。(2021.1.5)

昨夜JAIHのメーリングリストで案内があった,WPROからPNGへのCOVID-19対策の(GOARN関係の)技術支援に派遣されていた方のオンライン報告会に参加登録しようとしたら,既に定員の90人に達していた。関心高いんだなあ。(2021.1.6)

クリスマスに開催された第43回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会の資料1-1新型コロナウイルスワクチンの接種順位等についてだが,医療従事者が第一優先なのは良いとして,同じ発想をとるなら,高齢者施設等の従事者(利用者に直接接する職員)の優先順位の方が高齢者より上に来るべきだと思う。つまり重症化や死亡のハイリスクな当事者を守ることももちろん大事だが,そこに感染を広げてしまう可能性がある人の方に優先的に免疫を付ける方が,感染防御上有効なはずなので。(2021.1.6)

CRANの新しいパッケージとか(2021年1月10日)

高山先生が諮問メンバーになっているなら,寄付先はここがいいかな。(2021.1.7)

東京の新規感染報告数が2400人を超えたが,今日までほぼ何も対策しなかったのだから,それはこうなるよな。(2021.1.7)

昨日,一都三県緊急事態宣言が発出されたので,都道府県別新規感染者報告数推移グラフ描画コードに千葉と埼玉と神奈川を追加した。(2021.1.8)

2021年1月7日までのCOVID-19の都道府県別新規感染者報告数推移グラフ

昨日付けで,covid19jpというパッケージがcranに入っていた。GitHubに書かれている説明によると,データソースは,大変有名な東洋経済の荻原和樹さんが公開しているものとのこと。荻原さんの公開データはCSV形式なので,covid19jpパッケージは,そこにカスタマイズされたインターフェースを付け加えたということだろう。cranのCOVID19関係のパッケージも随分増えて,ぼくはこれまでも作図のためCOVID19パッケージをよく使ってきたが,日本のデータに特化した上述covid19jpパッケージやブラジルのマイクロデータを提供しているCOVIDIBGEパッケージもできてきたし,移動の傾向をさまざまなソースから引っ張ってくるcovid19mobilityパッケージ(紹介記事)もあるし,モデルについてもSPARSMODrパッケージが入院率が変化したときの感染動態の理解に使えることを示した文書が発表されたりしているし,7月にも触れたEpiEstimパッケージを使った論文はますます増えて,Cheng Q et al. "Heterogeneity and effectiveness analysis of COVID-19 prevention and control in major cities in China through time-varying reproduction number estimation"(Scientific Reports,2020年12月15日)でも使われている。(2021.1.10)

Tocilizumabは有効なのか(2021年1月11日)

tweetに書いたように,英国はトシリズマブとサリルマブが重症化してICUに入った患者に投与すると死亡を防ぐのに有効と判断したとのことだが,最近,入院患者にRCTを実施した結果死亡を防ぐ効果は有意でなかったとNEJMの論文で結論されていたばかりで,投与ステージの違いかもしれないが,いったいどういうことなのだろうと疑問に思って調べてみた。テレビで流れていた英国首相のスピーチだけではわからなかったが(このtranscriptは噛んで言い直したところまで再現されていて感心した),この記事から,プレプリントサーバに載っている段階の研究結果であることがわかった。当該論文はThe REMAP-CAP Investigators, Gordon AC (2021) "Interleukin-6 Receptor Antagonists in Critically Ill Patients with Covid-19 - Preliminary report"(medRxiv,2021年1月9日)のようだ。投与量はどちらも同じ8 mg/体重kg,最大800 mgだが,REMAP-CAP論文では半日から1日後に臨床医の裁量でもう一度繰り返し投与しても良いと書かれていたので,もしかすると投与量の違いが影響したかもしれない。REMAP-CAP論文では1時間以上かけて点滴静注したと明記されていたが,NEJM論文では書かれていなかったので,もしかするとそこも違うかも? とも思ったが,その辺は標準化されているだろうから,おそらくNEJM論文の方も同じなのではないか。どちらも6ヶ国の患者を対象としているし,やはり大きな違いはREMAP-CAP論文がICU患者だけを対象としている点か。

何度も書いているが,保健所がパンクするから追跡止めますというのは感染爆発して医療崩壊に至る道なので,逆に,強い行動制限と同時に保健所の人員増と資源の再配分によって追跡と濃厚接触者の隔離ができる体制を維持しなくてはいけない。そのための金を出し政策決定するのは政府の役割だが,あまりにも無能な政府はずっとそれをしないばかりか緩い制限でワクチン接種ができるようになるまで躱そうとしているようだ。しかし昨年3月にImperial College of LondonのReport 9が出た時点で,緩い制限では医療崩壊することはわかっていたので,その戦略は間違っている。疫学がわかっていれば自明なことなので,厚労省は追跡止めますとはならないと信じたいが。

医学のあゆみ特集号『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)-“共生”への道』が出ているのを知って,すぐにAmazonで発注した。この執筆陣は良く集めたなあという感じ。

以下未チェックだった論文などのメモ。

Geoghegan JL et al. "Genomic epidemiology reveals transmission patterns and dynamics of SARS-CoV-2 in Aotearoa New Zealand"(Nature Communications,2020年12月11日)NZのSARS-CoV-2の伝播パタンと動態について,ゲノム疫学で明らかにした,というタイトル。

Yin Y et al. "Coevolution of policy and science during the pandemic"(Science,2021年1月8日)はパンデミック下での政策と科学の共進化,というタイトル。

du Plessis L et al. "Establishment and lineage dynamics of the SARS-CoV-2 epidemic in the UK"(Science,2021年1月8日)は,5万以上のウイルスゲノム解析からウイルスの系譜を明らかにしたという論文らしい。

Voutouri C et al. "In silico dynamics of COVID-19 phenotypes for optimizing clinical management"(ProNAS,2021年1月19日号)は,症状の現れ方が多様である仕組みをコンピュータ内でシミュレートし,最適な臨床管理の方法を考察しているようだ。面白そうだが,理解するのに時間が掛かりそう。

Park SW et al. "Forward-looking serial intervals correctly link epidemic growth to reproduction numbers"(ProNAS,2021年1月12日号)は発症間隔と再生産数の関係を分析した数理モデル論文。

Brenbaum MR "On COVID-19, cognitive bias, and open access"(ProNASのEditorial,2021年1月12日号)

Soltesz K et al. "The effect of interventions on COVID-19"(NatureのMatters Arising,2020年12月23日)は,2020年6月8日に出たFlaxman S et al. "Estimating the effects of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in Europe"が示した,NPIsがRtに及ぼす影響を推定する方法論を批判的に再検討してみたものらしい。

Dai L, Gao GF "Viral targets for vaccines against COVID-19"(Nature Reviews Immunology,2020年12月18日)はCOVID-19のワクチン候補がSARS-CoV-2のどの部位を標的にしているのかを図解したFigure 1がわかりやすい。

Mody A et al. "Using Lorenz Curves to Measure Racial Inequities in COVID-19 Testing"(JAMA Network Open,2021年1月8日)は,セントルイス近辺でのCOVID-19検査の人種間不公平をローレンツ曲線で示したという研究レター。

Johansson MA et al. "SARS-CoV-2 Transmission From People Without COVID-19 Symptoms"(JAMA Network Open,2021年1月7日)は原著論文だが,少なくとも半分の感染は無症状の感染者から起こっていると結論していて,西浦さんが去年の2月上旬に外国人記者クラブで語っていたことと変わっていない。

Carr MJ et al. "Effects of the COVID-19 pandemic on primary care-recorded mental illness and self-harm episodes in the UK: a population-based cohort study"(Lancet Public Health,2021年1月11日)

Usher AD "Health systems neglected by COVID-19 donors"(LancetのWorld Report,2021年1月9日)

Kusin S, Choo E "Parenting in the time of COVID-19"(LancetのPerspective,2021年1月9日)

Kneebone R, Schlegel C "Thinking across disciplinary boundaries in a time of crisis"(LancetのPerspective,2021年1月9日)

Herzog LM et al. "Covax must go beyond proportional allocation of covid vaccines to ensure fair and equitable access"(BMJ,2021年1月5日)はワクチン接種戦略として,WHOの比例配分スキームも逆のワクチンナショナリズムともいうべき自国優先主義もダメで,Fair Priority Modelが良いので,Covaxはそれを進めるべきという主張。

稲葉寿編著『感染症の数理モデル 増補版』培風館,ISBN 978-4-563-01167-3(Amazon | honto | e-hon)が宅配ボックスに届いていた。旧版はハードカバーだったが,これはソフトカバーになっていて持ちやすい。追加された10章「COVID-19の数理モデル解析」は稲葉さんと神戸大の國谷さんの共著で基本的なところから読みやすく説明されており,さらに春の緊急事態宣言の効果の検証なども含まれていた。

2021年1月中旬のメモ(2021年1月21日)

明らかに間違っているという誤情報や偽情報はまだ対処しやすいが,概ね合っているけれども切り取り方が偏っていたり,正しいデータでも違う文脈で引用してみたり,細かいところが微妙に間違っていたり扱いが雑だったりする部分を含む情報への対処が難しい。そもそもそこに気づける人が少ないし,どこが違うのかを明確に指摘して正しい説明をするのに長い文言を要するために,それを読んでくれる人が少なくなってしまうので,指摘しても多くの人に届かない。そして実は,そういう微妙に正しくない情報の蓄積が,インフォデミックの最悪な側面である,学問や専門家への信頼が失われる悪循環の構成要件として大きい部分を占めているのかもしれない。だとしたら,どう対処するのが最適解なのだろう? 一つずつ丁寧に正して,その情報を書いた人に理解していただくしかないのか?(2021.1.13)

感染症法改正議論に関して,日本公衆衛生学会と日本疫学会の共同声明が発表された。ざっと読んだ限り,もっともだと思う。(2021.1.14)

うーん,今日付けの新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象区域拡大を踏まえた大学等における新型コロナウイルス感染症への対応に関する留意事項 について(周知)で,大学教職員の出勤等については,1月8日付けの「新型コロナウイルス感染症のまん延防止のための取組について(通知)」「新型コロナウイルス感染症のまん延防止のための取組について(周知)」に従うようにと書かれているので,神戸大教職員は出勤を7割減にしなくてはいけないはずで,事務も再び隔日出勤になるだろうか。もっとも,対応するにしても,共通テスト後だろうなあ。(追記:神戸大学活動制限指針が2021年1月13日付けでレベル1(一部レベル2)からレベル2(一部レベル1)に引き上げられていた)(2021.1.14)

『内科』1月号(南江堂)(こちらは依頼があって自分も「感染対策の数理モデル」という文章を書いた)と『医学のあゆみ 第1土曜特集 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)“共生”への道』(医歯薬出版)は,ともに税込み2,860円で,ほぼ同時に出版されたわけだが,たぶん読者層の違いからか,執筆陣もスコープもかなり違うので,読み比べると面白いかもしれない。つらつら読んでいて気づいたが,『内科』では堀成美さんが書かれた「病院内・日常生活での感染対策:感染を防ぐアイテムと工夫」だけ,学術的な論考でなくプラクティカルにわかりやすい実例を挙げることを目指したためか引用文献がないのだが,『医学のあゆみ』には3編も引用文献なしのものが含まれていた。3編とも,プラクティカルなわけではなく,論考的な書きぶりなのだが,引用文献がないので,これは論考というよりはエッセイなのだろう。大澤真幸「国民国家を超えた連帯へ――世界共和国の夢を現実に」,内田樹「ポストコロナの世界・社会の変容」,藤原辰史「過去のパンデミックからの考察――スペイン風邪を考える」の3編で,大澤さんと藤原さんは一部文章中に出典を記載しているが,ちゃんと引用文献という形で示して欲しかった。面白いだけに残念。分野による作法の違いなのか?(2021.1.15)

いくつかの都道府県の毎日の新規感染報告数の推移をプロットするRコードに二府五県の緊急事態宣言の日を示す縦棒を追加した。(2021.1.17)

都道府県別新規感染報告数推移(2021年1月15日まで)

メディアは相変わらずソースをリンクしないが(例えばYahoo!ニュースに載っている毎日新聞の記事),このtweetでソースであるLavine JS et al. "Immunological characteristics govern the transition of COVID-19 to endemicity."(ScienceのReport,2021年1月12日←は早期掲載で,正式掲載は同年2月12日)がわかったので後で読もう。(2021.1.19)

NEWS23をつけていたら,2020年11月16日に「飲食物が目の前にある間は無言でいるというのを新しいマナーにする方が無理がないと思う」と書いて推奨した行動様式に,「黙食」という名前がついたようだ(もちろん,ぼくが書いたこととはまったく無関係に思いついたのかもしれないが,指している内容は同じだろう。「三密」とか「自粛警察」とか「顎マスク」とか,メディアはキャッチフレーズを巧妙に使って人口に膾炙する言説を作りだし,それを通してぼわっとした雰囲気を作ってゆく……成功しない場合もあるが。これは,もしかするとインフォデミック対策上,重要な点かもしれない)。(2021.1.19)

WSJへのLetter(2017年4月9日)や,Asia Pacific Media Educatorに掲載されている文章(2019年4月21日)で,以前から,フェイクニュースや質の悪い情報が真の情報を上書きして広まっていく現象と貨幣におけるグレシャムの法則にアナロジーが成り立つことは指摘されていた。反グレシャムの法則,と題されたこのブログ記事(2020年4月7日)は,ScienceDailyの記事(2020年3月27日)が紹介しているこの論文(IEEE/ACM TRANSACTIONS OF NETWORKINGに掲載予定の予稿,2020年3月27日;掲載済みのバージョンはフリーではない)を紹介している。ネットワーク上の「悪い」情報を置き換えるためのより速い方法を提案しているようなので,インフォデミック対策の参考になりそう。(2021.1.20)

今日メディアで取り上げられているWHO独立委は,The Independent Panel for Pandemic Preparedness and Responseで,彼らが1月15日に発表した第二次報告書について,WHO執行委員会で共同議長が発表した内容の文字起こしで太字で強調されている。(2021.1.20)

GoToトラベルの影響についての論文(2021年1月23日)

最近,テレビの情報バラエティがパルスオキシメータを推しているが,武漢でSpO2による区分を含むフローチャートが使われたり,岸田さんがtwitterで買っておくと良いと書いていたのは去年の2月だったし,ぼくもそのときAmazonで買ったので,毎朝に近い感じでSpO2を測定している。このメモでも良く書いている○×%という数字のこと。治療の必要性を知るための指標としては,体温より良いはずだと,以前から何度も書いているが,漸く広まってきたのか。(2021.1.22)

西浦さんたちは,定性的には自明のことでも,ちゃんと計算して論文にしてくれるのが素晴らしい。Anzai A, Nishiura H "“Go To Travel” Campaign and Travel-Associated Coronavirus Disease 2019 Cases: A Descriptive Analysis, July–August 2020"(JCM, 2021年1月21日)は,GoToトラベルキャンペーン実施によって,旅行関連のCOVID-19罹患は8倍ないし2-3倍大きくなったという分析結果。数理モデルではなく,分析疫学的研究。(2021.1.22)

UK首相の変異株の発表,多くのメディアが「死亡率も高い可能性」と報じる中,AFPBB Newsが「致死率高い可能性」と報じていて流石だと思ったが,BBCによると,実は元の英語が"higher degree of mortality"だった。しかし,説明の中身は60歳以上のIFR(感染致命リスク)を指していたので(データ出典は会議録だが,ちゃんとそこにリンクしてくれているBBCは偉い),そもそも英語での人口学や疫学の用語としてmortalityは不適切で,fatalityと言うべきだった。この場合,どちらの訳が適切かは一概には言えない。翻訳を仕事とする人ならどちらを選ぶだろうか? (追記)夕方のFNN Live Newsではジョンソン首相のインタビュー動画で"mortality"と言っているところを流しながら,字幕は致死率となっていたので,AFPBB Newsと同じ立場だな。日本のマスメディアでは少数派だと思うが。(2021.1.23)

検出率?(2021年1月24日)

昨年4月,Gigazineで紹介されていたVollmer教授らの年齢調整IFRで死亡数を割って求めた感染者数と確定感染者数から検出割合を計算する方法について簡単に説明したが,最近までのデータについて,この方法を適用してみると(Rコード),下図のように,検出率が異様に高くなってしまう。こんなに捕捉されているとは考えにくいので,可能性としては,(1)昨年4月に想定されていたよりIFRが下がっている,(2)感染確定から死亡までの平均期間が長くなっている――Prof. Vollmerの方法では2週間という仮定なので,確かに短すぎるだろう,(3)見過ごされる死亡が増えている,といったことが考えられる。

Prof. Vollmerの方法により推定された検出率の推移

(追記)仮に上記3つの可能性がすべて否定されたら,日本の感染者はこれまで8割方捕捉されてきたことになる。それが意味するのは,(1)保健所の方々を中心とする接触者追跡により,感染者と濃厚接触して二次感染した人の(前向きの)リンクはほぼ辿れていたこと,(2)しかし時間遅れなどのため,その先の感染を防ぐことができていなかったこと,その結果が(3)年末年始の急激な感染拡大になってしまったこと,そして,最近いくつかの自治体が始めてしまったように接触者追跡を諦めたら,捕捉率(検出率)が急激に低下し,さらなる感染者増加に繋がるだろうということである。その意味で,今後数週間,この方法による検出率推定をしてみる価値はあるかもしれない。

WHOから,COVAXがファイザー/バイオテックのワクチン4000万回分を購入する新しい計画に合意したとアナウンスし,現在の合意に基づいて,アストラゼネカとオクスフォード大のワクチン1億5000万回分も2021年第1四半期中には利用可能になるだろうとアナウンスし,年内には92の低所得国への少なくとも13億回分の接種を提供できる見込み(2021年1月22日)というニュースリリースが出ていた。

研究と政治(2021年1月26日)

GoToに関して,個人ベースの追跡データは政府が法制化してとるか,巨額の謝金でも用意してデータ提供者を集めるかしないと得られない(そういう研究は,研究費申請してもたぶん通らない)。だから,先月の津川さんたちの論文が出たときも書いたが,西浦さんたちの論文も,集計データに基づいて疫学的な解析をするしかなく,「GoToと感染拡大の因果関係が示されたわけではない」という言い訳がされるのは見えている。しかし政府はそういうデータを取る気がない(何度も書いているように,定性的には関連がないはずがないので,個人ベースのデータをしっかり取ってしまったら因果関係が強く示唆される結果が得られる可能性がかなり高いし,調査をすること自体がGoTo利用者に負い目を感じさせるから抑制的に働きそうだからでもあるだろう)。津川さんたちも西浦さんたちもいわば火中の栗を拾ってくれたので尊敬するが,テレビのコメンテータは,強い結論を言っていない点に突っ込むのではなく,元々関連がありそうなGoToキャンペーンと感染拡大について,整合性のある疫学的な知見が出たのだから,GoTo再開は感染終息まで止めろと言えば良い(元々,感染終息後の景気浮揚策だったわけで,それを前倒しでやったのが間違っているわけだし)。(以下追記)昨日の講義のスライド8で喋った四日市喘息の時にできたことができないのは残念。疫学的知見の政策実装という意味での公衆衛生は,1970年代より後退しているということ。

ついでに書いておくと,昨日の国会で,野党から,西浦さんを国会に参考人招致しようとしたが政府から民間人なのでという理由で拒否されたというコメントがあった点について,その拒否理由がおかしい点には同意するが,研究者は,専門家として自信をもって言えることは論文に書いているので,参考人招致されても「論文に書いた通りです」しか答えられないと思う。端的に言って時間の無駄になるし,悪くすると研究者がスケープゴートになって身の安全が脅かされる(川端君のインタビュー本でも,西浦さんや尾身先生に脅迫があったと書かれていた。行き場のない怒りや苦しみを抱えた人々はストレスの代償規制としてのスケープゴートを求めてしまうので,何か突出した形で目立つ個人が標的になりやすい)。野党もこのパンデミックを終息させたいなら,そういう形で研究者を権威付けに利用しようとするのではなく,むしろちゃんと研究できるようにする方向でサポートして欲しい。(追記)ぼくがtwitterで固定しているメディア対応を原則お断りしている理由も同じことで,既に書いた以上の情報は,研究者として,あるいは専門家として自信をもって喋ることはできない。

このtweetで知ったが,WHOのAsia Pacific Observatory on Health Systems and Policiesから出ているCOVID-19 Health System Reponse Monitor: JAPAN。後で読もう。しかしこのシリーズ(日本,韓国,タイ)のページは,なぜWPROでなくSEAROにあるのだろう? WHOのHealth System Response Monitorのサイトからはリンクされていないが,これから入るのだろうか?

給付の重要性(2021年1月31日)

BMJのEditorialでSupport for self-isolation is critical in covid-19 response(2021年1月27日)という文章が出ている。ざっと目を通した感じだと,家庭内や施設内での集団感染のリスクに触れ,感染者の自己隔離の重要性を説明した後で,Wilson and Jungner (1968)のスクリーニング実施基準に触れ,どういった場合にスクリーニングが正当化されるのかという問を立てて,自己隔離への的確なサポートが政府によって提供されることが決定的だと論じているようだ。

JAMA Network Openの論文で,Raifman J et al. "Association Between Receipt of Unemployment Insurance and Food Insecurity Among People Who Lost Employment During the COVID-19 Pandemic in the United States"(2021年1月29日)は,USAではCOVID-19パンデミック以降に失業した人が5000万人を超え,食糧が確保できない人が増えていることから,全国規模のコホート研究として,失業保険給付を受けた人たちと受けていない人たちの間で,FAOが開発したFood Insecurity Experience Scaleの「過去7日間に食べるものがなくなる不安をおぼえた」や「お金やその他のリソースが足りないため,食べるべきと思う量より過去7日間に食べた量が少なかった」で評価される食糧不足の割合に差が出るかをDID (Difference in Difference)分析で評価した結果,週600ドル以上の連邦政府給付かそれ以上の失業保険給付を受けた群で,食糧不足状態がより大きく減っていた,という結果。給付は大事。

やはりJAMA Network Openの論文で,Karmakar M et al. "Association of Social and Demographic Factors With COVID-19 Incidence and Death Rates in the US"(2021年1月29日)は,USAの郡単位の集計データで,COVID-19の罹患率,死亡率と社会経済因子の関連を検討した地域相関研究で,CDCが開発したSVIスコアという社会の脆弱性指標が高い郡ほど罹患率も死亡率も高いという結果を報告している。

Tsao S-F et al. "What social media told us in the time of COVID-19: a scoping review"(Lancet Digital Health,2021年1月28日)はスコーピングレビューをした論文で,オンラインのソーシャルメディアがCOVID-19パンデミック下で伝えた内容についての81の研究をまとめている。インフォデミックにも関係ありそうなので,後で読もう。

Bubar KM et al. "Model-informed COVID-19 vaccine prioritization strategies by age and serostatus"(Science,2021年1月21日)は,有効性の異なる何種類かの感染予防ワクチンと伝播阻止ワクチンに対する年齢別の5通りの優先順位をつける接種戦略【(1)未成年,(2)50歳未満の成人,(3)成人,(4)60歳以上,(5)全員】を,集団レベルの血清検査陽性割合と個人の血清検査結果も考慮して数理モデルを使い,YLLへの効果をアウトカムとして比較している。対人接触状況によって最適戦略は異なる,という,ある意味当然の結果になったようだが,これScienceに載るんだなあ。

COVID-19パンデミック下での"New normal"は頻回な手洗いとかアルコール消毒といった衛生改善をもたらすので,腸内細菌などのヒトの常在微生物相にも影響するだろうとは思っていたが,Finlay BB et al. "The hygiene hypothesis, the COVID pandemic, and consequences for the human microbiome"(ProNAS,2021年2月9日号)は,そういう視点でのPERSPECTIVE論文。衛生的で抗生物質を多用する都市生活につれてヒトの常在微生物相の多様性が低下し,先祖がもっていた常在微生物相とは違ってきたことが糖尿病や肥満の増加といった健康影響をもたらすというのが衛生仮説(hygiene hypothesis)だが,COVID-19がもたらした社会変化がどういう経路で微生物相に影響するのかというフレームワークは興味深い。Figure 1とTable 1が面白い。

検出率再び(2021年2月3日)

この検討は簡単にできるので続けているが,Vollmer教授の方法で推定される捕捉率が異様に高いままなので(現在までのデータでカラーパレットをカラーユニバーサルデザインの"Okabe-Ito"に変えて描画したのが下図),おそらく実はもっと捕捉率が低い可能性(1)~(3)のどれかが現実だと思われる。

Vollmerの方法による検出率の推移

そこでさらに考えてみる。東洋経済サイトによると,年始の数日を除く12月下旬と1月上旬に1を超えていた見かけの(年始の数日に1を切っているのが検査数に依存する見かけの数である証拠)実効再生産数が,現在は0.8くらいになっているが,既に下げ止まっている。接触者追跡を縮小した効果は,過去の検出のうちどれくらいが現在できていない追跡からの検出なのかという割合を計算すればわかるはずなので(そのデータを探すのが最も面倒なところだし,入手可能かどうかわからないし,時間も気力も無いので自分にはできないが),その値で検出数に基づく簡易推定で得られる実効再生産数を割れば,(簡易推定のままではあるが)追跡されずに広がっている部分も含めた実効再生産数が計算できるはず。それが1を超えていたら,新規感染報告数は1月上旬より減っていても,実は新規感染者は増え続けていて,緊急事態宣言をしていてもいつか報告数も増え始めるはず。1を超えていなくても0.95とかだったら,あと1ヶ月緊急事態宣言を続けてもあまり新規感染報告数が減らないことになる。誰かやっている気もするが見つからない。

やはり文字だけだと見る人が限られてしまう気がするので,infodemic対策としては動画を作って公開した方が良いのか? 検査性能の話とか致命リスクの話とか,未だに微妙な誤解が蔓延っているトピックだけでもやってみるかなあ(どこにそんな時間が?)。

南太平洋諸国はこのプレゼンのスライド17から18で書いたように,対策資源が限られているため国内侵入を最大限防御するためのP戦略をとった。結果として,メラネシアやポリネシアの国でも,ほぼ入国者が感染していたケースを検出して制御できていて,国内での持続的感染は起こっていない。ミクロネシアの5つの国(ナウル,ミクロネシア連邦,ツバル,パラオ,キリバス)では,未だに累積感染者数ゼロを保っていて,侵入防止政策の有効性を示している。もちろん観光などは壊滅的な打撃を受けているわけで,新型コロナフリーな国相互間では検疫免除の協定を結ぶなどしても(10月時点でこの協定に入っていたマーシャル諸島は,現在の新規感染者はゼロだが,累積感染者は4人となっているので,いまマーシャル諸島と他の国での往来がどうなっているかはわからない),経済には大きな影響がでている。その意味で,DWやBBCなどが国境封鎖の有効性に疑念を表明する記事を載せたり,Natureのニュース記事が,理論疫学の研究を紹介する形で,国境封鎖は早期には有効だったが,世界中に感染が拡大したのにつれて有効性が低下したと論じるのも一理ある。けれども,小島嶼開発途上国(SIDS)は,歴史上,感染症によって壊滅的な被害を受けた例も多いし,ヒトの生存を第一に考えたら,侵入防止に最大限気をつかう戦略は正しいと思う。

CO2による換気モニタリングは草の根的にいろいろな試みがあり,換気向上委員会は,たぶんオンラインショップ向けの定型フォームを使って作られているためメニューなど若干おかしいが,「CO2の記録はこちらからどうぞ」と書かれているところをクリックするとGoogleマップ上で,さまざまな店舗などで測定したCO2濃度と状況が手動登録されている。商業的にも換気状況を見える化。プラチナマップ、二酸化炭素濃度から「密」を地図上にリアルタイム表示のようなものが開発されていて,自動計測なので自治体などで導入できそうな気がするがどうだろう。換気が十分にされている飲食店の情報提供としては,自己申告のステッカーなどより実効がありそうだが。

罰則付きの改正コロナ対策特措法,あれだけ野党から批判がありながら成立してしまったのか。過料付きの長期間の時短命令ではなく,減収分を補うに足るだけの給付または補償付きの短期間の休業要請にした方が良いのに,そういう政策にならないのは大変残念。13日施行というが,それ以前に前述のCO2測定器+プラチナマップみたいなものを整備した方が良いのに。

AndroidスマホにおけるCoCoAの不具合厚生労働省の2021年2月3日付けアナウンス)に唖然とした。かつて現在のHER-SYSを含む感染症サーベイランスシステムを内製すべきとか,基幹インフラは公営であるべきと書いたが,この資料新型コロナウイルス感染症対策 テックチーム Anti-Covid-19 Tech TeamのCoCoAについての有識者会議がこの資料が出た9月17日を最後に行われていないのも問題と思うが)によるとCoCoAもやっぱり外注の中抜きシステム(経産省からの持続化給付金の中抜き[リンク先は東京新聞の記事]で世に知られるようになったが,あれが典型例なだけで,官製談合と中抜きシステムは,政府に食い込んでいる企業群にとっては強烈な既得権益だし,たぶんその方が小泉改革以降慢性的な人手不足に陥っている官僚も救われるので,ほぼすべての政府事業でできあがってしまっていると思う)が発動していて,厚労省からパーソルプロセス&テクノロジー株式会社が開発・運用を委託され,そこから主に技術支援がマイクロソフトに,クラウド監視が株式会社FIXERに(ということは,クラウドはMS AZUREなんだな),運用・保守開発・カスタマーサポートがコンテンツ配信事業を本業としているエムティーアイ株式会社に再委託されている。せめてこの官公庁によくある子請け/孫請けシステムではなく,厚労省が責任をもって業務をユニット分けし,内製できない部分だけ直接外注した方が迅速な対応ができるし(こういう随時改良・修正が必要なものには尚更だ),責任の所在が明らかになるはずだ(あるいは,開発の経緯を考えたら,COVID-19 Radar Japanを事業化して予算をつけるとか,いっそ孫請け禁止でマイクロソフトに丸投げする方がマシだったかもしれない)。ドラマ「下町ロケット」で技術のコアとなる部分を内製することに拘っていた帝国重工の論理は,事業の信頼性と安定性を考えたらまったく正しい。しかもこれは重要な公共事業なのだから,国はシステムの開発・運用を内製できるだけの十分な予算を厚労省につけるべきだった。外注するから対応に時間がかかったり外注先の都合で対応に制限が出たりするので,必要な基幹インフラの開発・運用は,時間と予算を十分に掛けて内製できるようにした方が良い。

大濱﨑さんのtweetで知ったが,ワクチン接種管理もパーソルプロセス&テクノロジーに丸投げなのか。今からでも良いのでちゃんと人を雇って内製化してくれないものか。せめて中抜きシステムは止めて,実際の開発会社に直接発注してほしい。

フランスの研究とか(2021年2月8日)

fmsbパッケージを使ってくれている新しい論文として,Cai J et al. "The Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio Determines Clinical Efficacy of Corticosteroid Therapy in Patients with COVID-19"(Cell MetabolismのClinical and Translational Report,2021年2月2日)は,Rothmanのテキストに書かれている方法で罹患率比を求める関数rateratio()を使ってくれていて珍しい。イラストがきれいだ。論文タイトルからすると,COVID-19患者へのコルチコステロイド療法の臨床的有効性を好中球リンパ球比が決める,ということで,医師が有効な治療法選択を入院時検査データに基づいて判断するために参照できる情報の1つにはなるのだろう。(2021.2.5)

WIAS Discussion Paper No.2020-001: COVID-19死亡率の要因国際比較分析(2020年4月28日)がヒットしたが,この研究はその後のデータでアップデートされているだろうか? ……とtweetしたら,茂木さん自身は忙しくなってやっていないが,共著者の方が続けているはず,とのご返事をいただいた。(2021.2.5)

西浦さんたちが去年2月末から3月始め頃にプレプリントサーバにアップロードし,4月16日にrevised editionをアップロードしている"Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)."は,何故か未だに査読を通っていないらしいのだが,Google Scholarで被引用数を見ると88件に達していて,その多くが換気が大事という点で共通した知見を示しているように思う(全部を詳細に読んだわけではないが)。(2021.2.5)

慶應大学内のサイトで行われている,COVID-19パンデミックがもたらしたストレスについての多言語国際メンタルヘルス調査,日本語回答がまだ少ないそうだ。慶應なので一瞬宮田さんたちかと思ったが,別のチームらしい。(2021.2.7)

国内新規感染報告数の推移グラフを描くコードに今日で栃木県が緊急事態宣言解除になったことを追加した。(2021.2.8)

2021年2月7日までの国内新規感染報告数推移

Gaudart J et al. "Factors associated with the spatial heterogeneity of the first wave of COVID-19 in France: a nationwide geo-epidemiological study"(Lancet Public Health,2021年2月5日)は,フランスでのCOVID-19第一波の空間不均質性に関連する要因は何だったかというタイトルで,地域相関研究の結果,死亡率にも罹患率にもCFRにも地理的不均質性があったけれども,気温や湿度が影響するという先行研究と異なり,気候はその不均質性と有意な関連がなかったという報告。(2021.2.8)

Néant N et al. "Modeling SARS-CoV-2 viral kinetics and association with mortality in hospitalized patients from the French COVID cohort"(ProNAS,2021年2月23日号)は,フランスの入院患者の体内のウイルス動態のモデリングで入院致命リスクとウイルス動態の関連を調べているようだ。(2021.2.8)

長崎大学の5-ALA研究(2021年2月9日)

今日から国際保健医療論の集中講義で,3限と4限に北先生の講義を遠隔で聴いたが,大変興味深く今後に期待がもてる話だった。途中で何度か5-アミノレブリン酸(5-ALA)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)原因ウイルスの感染抑制が判明 ~今後の治療薬候補として期待~(この論文はvitroの結果だが,臨床での治験も始まっていて,著効があった例もあったとのこと)についての確認が入るというホットな講義であり,贅沢をさせていただいた感じ。artemisininをartemetherにできたことの意味は恥ずかしながら初めて知った。高価でないことはBOPビジネスとして成立することの必要条件だが,逆に開発に巨額投資をしている製薬会社にとっては,そういうゲームチェンジャーができてしまったらと考えると脅威であろう。想像をめぐらせるといろいろ難しいことも起こりそうだ。要整理。

なお,サプリなら安全かというと,小山先生がNPC研究でがん予防を目的としたセレノメチオニンサプリで糖尿病罹患率が上がった例についてレビューで触れておられたが(ちなみに,この話も結構ややこしく,サプリではなく食事全体からのセレン摂取を調べたコホート研究ではセレン摂取と糖尿病罹患に正の関連があったという結果だったし,結腸直腸がん予防を目的としたRCTで予防効果が有意でないのに高齢者での糖尿病リスクが有意に上がったという研究もあるが,2018年のシステマティックレビューによると,観察研究では有意に糖尿病リスクが上がっていたがRCTでは有意差がなかったとなっていて,まだ未解明なようだ),服用期間や対象者の多様性(年齢,ベースラインの食事からの摂取レベル,等々)によっては,必ずしも安全ではない場合もある。とはいえ,がん予防を目的とした長期服用に比べたら,感染症治療を目的とした短期服用ならば,比較的副作用のリスクは低そうな気はするが。

死亡転帰のマーカーとしてのフレイル(2021年2月10日)

ミクロネシアには入ってきたら医療資源がないから,ということで,かなり早期から鎖国に近い政策をとり続けることにより,いまだに感染報告ゼロの国がいくつかあり,ミクロネシア連邦もその1つだが,ワクチン接種は既に始まっていて目標カバー率を100%から70-80%に下げると報じられた。もちろん70-80%でもherd immunity thresholdは超えていると考えられるので,流行防止対策としては合理的なのだけれども,鎖国に近い戦略の理由が「入ってきたら医療資源がないから」という理由だったならば,70-80%ではダメなのではないか。

2020年5月19日のプレスリリースだが,コード・フォー・ジャパンからの「接触確認アプリのソースコード公開」。当時のGoogleとAppleの要請は,1国1アプリだけではなく,GPSとの連携禁止とか国の公衆衛生当局のみ利用可能など,さまざまな制限があったので,大濱﨑さんのこのtweetの通り,厚労省の発注が良くなかったということになる。実際にCoCoAがインストールできるようになったのは2020年6月19日のことで,それ以降も(今でも)バグを取り切れずにいる状況を考えると,コード・フォー・ジャパンが公開してくれたコードを採用せず(そちらを使っていたら問題なかったのかどうかはわからないが,開発はオープンソースで誰でもコミットできるようにして,データ管理を含む運用は厚労省が直接責任をもつという形にもできたはず),子請け・孫請けの中抜きシステムに従ってCoCoAの開発運用体制を作ってきたのは,やはり大本の厚労省の失策であるとしかいえまい。

小瀧先生がテキサス(USAでBSL4のラボが最初にできたところという話だった)で学んで来て帰国後もやってきたことの発表が最後にあったが,まだ論文になっていないらしい話も含めて大変面白かった。既にpublishされた研究については,物凄く工夫されて実験できるようにしているのは凄いのだけれども,やはりBSL3のラボがないのはウイルス学には厳しい制約だろう。

Lancet Healthy Longevityというジャーナルがあって,Sablerolles RSG et al. "Association between Clinical Frailty Scale score and hospital mortality in adult patients with COVID-19 (COMET): an international, multicentre, retrospective, observational cohort study."(2021年2月9日)という論文が出ていた。2020年3月30日から2020年7月15日までの,ヨーロッパ11ヶ国63病院でのCOVID-19の成人患者(年齢中央値68歳)を対象にして,フレイル(Appendixの最後のページに載っている9段階の尺度であるCFS尺度を使い,1-3のfitをリファレンスカテゴリにして,4-5のmildly frailと6-9のfrailにカテゴライズしている)と入院死亡(hospital mortalityという英語で,2434人中456人という数字が示されている)の関係を共変量を調整したロジスティック回帰モデルで調べた結果(つまり各患者について死亡転帰をとったかどうかを0/1で投入していて,死亡までの日数は扱っていない),65歳未満ではCFS6-9でのみ有意に死亡オッズが高くなっていたが(おそらく治療方針の決定が65歳未満だとフレイルの影響を受ける),65歳以上ではCFS4-5でもCFS6-9でも死亡オッズが高くなっていたという研究。解釈としてはフレイルは死亡転帰リスクの適切なマーカーになると言っている。まあそうだろうという研究。

ScienceのMonod M et al. "Age groups that sustain resurging COVID-19 epidemics in the United States"(2021年2月2日)は,1000万人以上の年齢別移動と年齢別死亡のデータに対して,統計解析と,離散時間の年齢別再生方程式による数理モデル(接触確率が経時変化することを考慮している)を当てはめ,USAでCOVID-19が何度も再流行したのは20-49歳が大きく影響していると論じているようだ。モデルの詳細は後でちゃんと読むつもりだが,凄いデータだな。

間接的影響(2021年2月12日)

日本医師会と日本循環器連合からの連名で,新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下の心血管病診療に関する緊急声明(2021年2月5日)が出ていることに気づいた。COVID-19の医療への影響は,基礎疾患としてこれらの疾患をもつ人がCOVID-19に罹った場合に重症化リスクや死亡リスクが高いことばかりではなく,この声明に書かれているような間接的影響を考えると非常に甚大なものになる。

予防接種開始に際して(2021年2月17日)

青学の飯島さんが鐵人三國誌を紹介してくださった。記述の親切さが足りないことは自覚しているのだけれども,そこまでするには時間が足りないのでご容赦いただきたい。中国の文献情報と状況推移の説明(よくわからないという点も含めて)はさすが飯島さんで興味深い。(2021年2月14日)

いきなり定期接種のA類に入れるわけではなく,まず医療従事者等を対象とした特定接種,次いで臨時接種という立て付けになっていたわけか(この議論を受けて予防接種法と検疫法が改正され,それぞれの施行令と施行規則も改正されて,厚労省から,医師会長宛地方自治体当局宛に通知が出ている)。根拠法が別々で,実施主体と費用負担者が異なるが,ともに自己負担はゼロで,勧奨も努力義務もあり,救済も高水準となっている。特措法46条に緊急事態宣言下での住民接種という枠組みもあるが,そちらは使われないようだ(とはいえ,実施主体,対象者,費用負担者こそ違うが,自己負担ゼロ,勧奨+努力義務,救済が高水準という点は同じなので,実体としては大差ないようにも思うが)。(2021年2月15日)

長崎大学卓越大学院プログラムの日英公開シンポジウムのオンライン参加に登録した。使用言語が英語なのだから英語での申し込みページを作っておいてくれたら留学生に紹介しやすかったのに。(2021年2月16日)

名谷駅の本屋で文藝春秋三月特別号を買って帰宅。総力特集コロナ第三波「失敗の本質」(分科会の小林慶一郎さんの寄稿や,広野真嗣さんが西浦さんや押谷先生に取材して書かれた文章もそうだが,感染した人の経験談や臨床現場からのレポートなども)や芥川賞発表を含め,かなりいろいろな意味で読み応えがある。(2021年2月16日)

人類生態学では因果関係は環境のコンテクストに依存すると考えるので,あまりにも単純化した予測モデルは(それはそれで面白いのだけれども)現実に合わなくても当然だと思う。去年の3月,割と丁寧に紹介したインペリグループのCOVID-19報告シリーズ第9報は,年齢別の地域人口や移動データも含めた100万人規模のシミュレーションなので(既に新型インフルエンザ対応のためにできていたものの改変流用なので短期間でできたのだと思うが),NPIsの評価や,それと組み合わせたさまざまなワクチン接種戦略の費用対効果の評価をするには,そういうものが必要だろう。当時,一瞬,simkobeみたいなものを作ろうかと思ったが(データは神戸市と提携するとか,コード開発はGithubとかでバザール的にやったら良いかなあ,とかいろいろ考えたが),思考実験してみると,そもそも神戸市が乗ってくれそうにないし,そういう交渉も大変だし,その壁を乗り越えたとしても,外部との往来とか不確定要素があまりにも多すぎるので,シナリオごとの予測の幅が広くなりすぎてあまり意味ないかと思って断念していた。しかし,今後,特定接種と臨時接種によるワクチン接種をする際に,優先順位付けの根拠を出すには必要なアプローチかもしれない。神戸市の全面的な協力と3桁規模のプログラマの協力が必要だと思うし,自分が主導するには他の仕事を放り出さなくてはできないので,現実的には難しいなあ,と思うと,一歩を踏み出すことができないが(アドバイザーくらいならするが)。インペリグループはCOVID-19 planning toolsからCovid-19 Scenario Analysis Toolというシミュレータを提供していて,日本も含めた世界各国について,ワクチンの有効性や持続期間や利用可能割合などを操作してプロジェクションできる。UKでもワクチンなし(グラフには"counterfactual"=反事実と表記されているがマニュアルにはワクチンなしを意味すると書かれている)だと次の冬には8000人以上の死者が出るが,日本を選ぶと,ワクチンなしだと次の冬には3万人近い死者が出るというプロジェクションは,ある意味衝撃的だ。しかし最初に書いたように,これは各国のコンテクストまで考えていないプロジェクションだから,日本について現実的な効果予測をするには,やはりsimkobeとかsimjapanみたいなものを最低限作る必要があると思う。誰かやってないのかなあ。(2021年2月17日)

この1ヶ月のメモ(2021年3月19日)

メモはしていたが,このページへの採録を1ヶ月もサボってしまった。

メモだけ。Prof. Marc Lipsitchのtweet。(2021.2.17)

ワクチン接種の国による偏りとか途上国が取り残される恐れとか報道されているが,そういうことが起こらないようにCOVAXファシリティが作られたはずなんだがなあ。2009年のインフルエンザのときよりは多少マシになっている気はするが。(2021.2.19)

学務関係の仕事が忙しすぎてニュースをちゃんとフォローできていないのだが,散見する限りでは,この状況で緊急事態宣言解除とかGoTo再開とか,蔓延させたいとしか思えない。Vollmer教授の方法による検出率を計算すると,年末年始くらいのレベルまで検出率が下がっているのは間違いなさそう。そもそも,ベッドも足りず,接触者追跡も完了できないレベルで新規感染が続いているということは,未検出の感染者が増えていることを示唆するので,ここで解除などしたら検出される数もかなりの勢いで上昇する可能性がかなり高い。(2021.2.24)

Marc Lipstich教授のグループから,Accorsi, E.K., Qiu, X., Rumpler, E. et al. How to detect and reduce potential sources of biases in studies of SARS-CoV-2 and COVID-19. Eur J Epidemiol (2021). https://doi.org/10.1007/s10654-021-00727-7(2021年2月25日)が出た。後で読むためダウンロードした。Abstractによるとレビュー論文で,COVID-19の疫学研究を大きく5つのカテゴリ(血液検査による有病割合の横断研究,縦断的血清疫学研究,感染リスク要因の研究,二次感染率を推定する研究,二次感染率を使って感染力と感受性についての推論を行う研究)に分け,それぞれのカテゴリで起こりうる潜在的なバイアスを論じて,それぞれのカテゴリごとに理想的なデザインはどうあるべきかというサマリーが付いていた。(2021.2.26)

東京や神奈川では緊急事態宣言発出に前後して積極的疫学調査の対象を絞ってきたが,昨日の東京新聞の記事によると,東京都は再びちゃんと接触者追跡をすることにしたようだ(m3の記事も参考になる。東京都の資料を探したがこの程度の記述しか見つからなかった)。ということは,報告数もこれから当然増えるだろう。(2021.2.27)

神戸市長が臨時記者会見をして,神戸市における変異株サーベイランスの状況が報告された。既に三種の変異株が複数例検出されていて,COVID-19陽性者の約60%について変異株かどうかの検査をした結果によれば,変異株の割合が増えてきていることを報告した(久元市長のtweet)。(2021.3.1)

今朝のワイドショーは一都三県の緊急事態宣言再延長要請の話をしているが,こういう緩い制約では解除できるまでに2ヶ月以上かかるのは発出前に見えていたこと(そこからリンクしてある西浦さんのシミュレーション結果を見ればより明確)だ。何をいまさら。(2021.3.3)

17:00からオンラインで長崎大学の公開シンポジウム(ウェビナー)を視聴。以下メモ(同時通訳サービスがあったが英語で聞いていた)。司会の方の声が大変聞き取りやすいと思ったらアナウンサーだった(同時通訳といい,カメラが高画質で音声もクリアだった点といい,切り替えのスムーズさといい,司会にアナウンサーを起用したことといい,相当に金が掛かっているウェビナーだと思うが,参加費無料で聞けるのは凄いと思った)。犠牲者への黙祷,有吉先生の企画組織者としての挨拶に続き,長崎大学長の挨拶,と最初のうちは挨拶が続く。挨拶が終わって,LSHTMのPeter Piot先生と岩本愛吉先生の司会でキーノートスピーチへ。(2021.3.7)

日本側は大曲先生で,COVID-19へのclinical responseという話。当初は検査能力が足りなかった,去年の3月6日からPCRが保険適応になったが試薬の供給が足りないなどの事情で検査能力は足りないままだった,民間検査については質の信頼性が不明だという話から。感染症病床も2000しかなかった,そのため東京におけるCOVID-19患者のフローは中等度から重症だと病院で,軽症なら自宅療養として,重症化したら病院へとなっていた,しかしこの流れを完全にコントロールする権限はなかった,と続く。新興・再興感染症への対処には多くのリソースと準備が必要だが,多くの先進国ではそれが理解されていなかったし,日本の医療システムはそれに対処できるように本質的な改革が必要だ,というまとめ。(2021.3.7)

ロンドン側はJohn Edmunds先生で疫学とpopulation healthの専門家と紹介された。SAGEのメンバーでもある。発表内容はUKのCovid-19流行についての科学,人々の健康,政策のレビュー。まず,Dashboardから流行曲線(7日移動平均)と検査陽性判定から28日以内の死亡の曲線を示しながらUKのロックダウン状況などと合わせて現状説明。UKは感染拡大は酷かったが,ワクチン接種カバー率はイスラエル,アラブ首長国連邦に次いで世界3位の速さで進んでいるとのこと(この図を示しながら)。次いでFlaxmanらのNature論文を引用しながら第一波の説明。ちゃんとデータや論文に基づいた説明なのが良い。次にJarvisらのBMC Medの今年の論文を引用してUKの行動制限の月次変化とか。次いでDavies Nらの今年のScience論文と同グループの投稿中論文を引用しながら変異株の話。Lopez Bernalらの投稿中論文(プレプリントサーバには公開されている)を引用しながら70歳以上でもワクチンが有効でオッズ比が有意に1より小さくなるというGood News。次いでNPIs緩和のロードマップをUK政府サイトから。緊急時の政府の意思決定が大学やNHSからもデータを得てなされるSAGEとJCVIからのアドバイスを受けてなされる仕組みの説明。Open Scienceによる科学研究の成功としてインペリグループのREACT-1,SIREN (HCW),VIVALDI,SIS,RECOVERY,OpenSAFELYなどさまざまなプロジェクト。ワクチン開発と関連政策(透明性の高さとかターゲットの絞り方とか)も成功だったと評価。経済との両立,応答速度,不整合な戦略,追跡・検査・隔離・検疫・水際対策などはあまり成功でなかったと評価。若干詰め込みすぎではあるが大変informativeなプレゼンで良かった。(2021.3.7)

3人目の演者は西浦さん。日本でモデラーがやってきたことの説明,という内容。DP号の話から始まり,EOCのCluster buster's teamができて,MDや専門家が手作業で各自治体のデータをエクセル入力するなど苦労してtransmissionのoverdispersionを確認し,superspreading eventが3Csで起こっているという発見へ。overdispersionは根絶確率が高いことを意味するのでクラスター対策を進めた,と説明し,武漢起源の第一波は根絶できた。移入数が少ない間はクラスター対策はうまく行った。けれども卒業旅行なども絡んだ欧米からの感染者の多数流入には対処しきれずvoluntary lockdownをせざるを得なくなった。そのとき80%接触削減を提言したのでScienceに「"Mr. 80%"でなく"80% uncle"として」写真が載った話。Nakajo and Nishiura投稿中論文から大阪での介入の時系列紹介。Jung et al.のin press論文(Royal Soc Open Science,2021)でheterogenietyの話。いまはワクチン接種タイミングと次の波との競争だという話。変異株の影響について準備中論文の話。都内繁華街夜間滞留人口を使った感染予測の話。政治家とのリスクコミュニケーションの失敗。No "solidarity" calls(日本の政治家は「連帯」を言わない)。(2021.3.7)

次は2つの短いトークということで,1人目は長崎大学Chris Smith教授。WHO Regions間の比較から始まり,WPROではもっとも影響が大きかったフィリピンの話。実は去年の2月から3月にフィリピン→日本→エチオピア→UK→日本に旅をしたときの経験と3月から11月までの長崎の状況。11月から12月はシンガポール経由でPNGへ行ったがレギュレーションがきわめて厳しかった。ピジンでNew NormalはNIUPELA PASINというのか。PNGからUKに飛んで2月までいたが変異株やワクチン接種開始など状況が変わっていた。その後長崎に帰ってきた。COVIDとの共生を学んでいる。今後,"Normal"に戻るのか,それとも"New Normal"に適応するのか。2人目はPeter Piot先生で,「ワクチン接種はパンデミックを終わらせることができるのか?」という意味のタイトル。これまでのワクチン開発に比べて,COVID-19のワクチン開発は動物実験,臨床試験,承認,実施にかかる時間がきわめて短くなった。LSHTM COVID-19 VACCINE TRACKERから,ワクチン候補についての開発と実施状況の紹介。mRNAワクチンの効果が極めて大きいという実施結果について多くの論文が出たことはGood News。しかしワクチン接種の進展は国家間で大きな格差があり,カバー率が高い国はすべて高所得国。低所得国はすべてカバー率が低い。GAVIとかCEPIとかCOVAXという仕組みがあるけれども格差が大きい。西浦さんのモデルでもわかるようにこれから半年くらいの間にどのようにワクチン接種を進めていくのかがきわめて重要。ワクチン接種がパンデミックを終わらせられるかという問いについて考えると,変異株に効くか? どれくらいの期間続けなくてはいけないか? 安全か? 十分あるか? 誰から先に接種するか? 人々が受容するか? という6つが上がってくる。これらに満足な答えを与えられる必要がある,とのこと。(2021.3.7)

ここまでの話を有吉先生がサマライズした後,10分の休憩を挟んでパネルディスカッション。座長は岩本先生とLSHTMのShunmay Yeung先生。パネルディスカッションといっても,パネリストが第1部のスピーカー全員で,ウェビナーのQ & A機能を使って寄せられた質問に答えるという形なので,第1部の質疑応答であった。パンデミックを終わらせるためのロードマップを短くまとめて欲しいとの座長からのリクエストでPiot先生が「まずはVaccination, Vaccination, Vaccination。それとNPIsを続けること,そして国際的な協調と連帯だ」と,まあ当然かというお答えであった。(2021.3.7)

一通り質疑が終わった後,このシンポジウムの共催だった日本医学ジャーナリスト協会の浅井会長からの挨拶ということだったが,挨拶というより,日本はワクチンが大きく遅れているのにどう貢献できるのか教えて欲しいというPiot先生への質問で,わりと当たり障りのないご返事だったように思う。それで大曲先生に話が振られたが,それはコメント難しいよなあ。次にYeung先生からメディア対応というかどうやってメディアを使うかという話題が振られ,Edmunds先生がメディアの役割は重要だしFinancial Timesの分析のようにメディアの報告でも重要なものもあったというお答え。同じ話題が西浦さんにも振られて,誤解されないようなメッセージを発するのが難しいというお答えであった。接触という言葉の意味一つとっても,モデラーと一般の人々で異なる。人々が求める情報と科学者が言えることの乖離。Science Communicationの問題。コミュニケーターもいなかったりいても十分に役割を果たせない。大曲先生に臨床から感じたことはと振られて,公衆衛生人材が足りないというお答えだった。健康か経済かという問題は難しいが当局に何が言えるかとYeung先生がEdmunds先生に振って,インパクトもモニタしているといったお答えがなされているが,それは問題設定が間違っていて,健康は経済も含めなくては評価できないだろう……と思っていたら,Edmunds先生も,疫学分析と経済分析はリンクされるべきだと語られた。ここで妻から電話が掛かってきてパネルディスカッションの最後のところは聞き逃したが,予定より30分延長してパネルディスカッションが終わり,長崎大学を代表して北先生が閉会挨拶。1000人を超える参加者というのは凄いな。Planetary healthに向けたフロントラインの話で素晴らしい内容で時間が長くなっても仕方が無いなと感じたというのは,それはそうだけれども……。その後の共催側からのコメントによると,ジャーナリストも100人以上参加していたとのこと。最後に司会の辻さんからアナウンスされたが,このウェビナーの動画は後日オンデマンド配信され,Q & Aもウェブサイトで公開されるというのも凄いな。これは恐れ入りましたというシンポジウムだった。(2021.3.7)

今日メディアを騒がせている,変異ウイルスでは「死亡率が2倍」という話は,Challen R et al. "Risk of mortality in patients infected with SARS-CoV-2 variant of concern 202012/1: matched cohort study"(BMJ,2021年3月10日)が出典。タイトルの英語もmortalityだが,調べているのはコミュニティで検査して確定診断がついてから28日以内の死亡で,VOC-202012/1(B.1.1.7と呼ばれているもの)のそれまで流行っていた型に対する,年齢を共変量として調整したコックス回帰による死亡ハザード比が1.64(95%信頼区間が1.32-2.04)とのこと。コミュニティでの検査からの検出という比較的死亡リスクの低い集団でも致命リスクが0.25%から0.41%に上がったことに相当すると書かれている。(2021.3.11)

人類生態の先輩から教えていただいた,Damialis A et al. "Higher airborne pollen concentrations correlated with increased SARS-CoV-2 infection rates, as evidenced from 31 countries across the globe"(ProNAS,2021年3月23日号)。主にヨーロッパからなる31ヶ国のデータを使った地域相関研究で,空気中花粉濃度が高いサイトの方がCOVID-19感染リスクが高いと示唆している。よくそんなところに目を付けたなという研究。メカニズムが簡単には想像できないのでDiscussionを読んでみなくては。(2021.3.11)

人類生態の先輩からBMJ論文(3月11日に触れた)以外にも変異ウイルスが強毒性という研究はあるかどうか尋ねられたので,BMJ論文のcitationを探そうと思ったが,その前にBMJ論文のページから筆頭著者であるDr. Rob Challenのtwitterアカウントにリンクがあったので,tweetを見てみたら,Davies, N.G., Jarvis, C.I., CMMID COVID-19 Working Group. et al. Increased mortality in community-tested cases of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03426-1(Nature, 2021年3月15日)を紹介しているtweetがretweetされていた。あと,複数の専門家によるBMJ論文へのコメント(2021年3月10日)があった。(2021.3.16)

同じ3月11日に触れた花粉曝露とCOVID-19の関係についてのProNAS論文,ここからExcel形式のデータがダウンロードできるんだな。(2021.3.16)

東洋経済のサイトで西浦さんがアドバイスされた簡易推定法で計算されている都道府県別実効再生産数を見ると,兵庫県や京都府は緊急事態宣言解除後に増加傾向になり,このところ1.3とか1.4といった値になっている。新規感染者数がかなりある状態で宣言解除してしまっているので再度増加するのは当然だが残念だ。東京は既に再増加が始まっている(そもそも追跡を止めたので見かけ上の新規感染者が減っただけという側面が大きいと思う)のに,21日解除などしたら,すぐに4桁になるだろう。だから時短とかじゃなくて短期間の補償セットの休業要請とヒトとの接触規制にして一気に新規感染者数を減らすべきだと書いていたのだが。(2021.3.17)

イングランドでの変異ウイルスB.1.1.7についてのモデル当てはめ論文がScienceから出ていて,Davies NG et al. "Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England"(2021年3月3日)なのだが,詳細な方法論や補足的な解析結果がSupplementary Materialで提供され,解析コードやデータが,筆頭著者のgithubプロジェクトや,"Local area reproduction numbers and S-gene target failure"というプロジェクトのgithubページで提供されている。イングランドのデータから多項スプライン回帰やロジスティック回帰によって,B.1.1.7系統のVOC 202012/01がそれまで優占していたB.1.177よりも1日当たり0.104増加率が高く(世代時間が5.5日だと仮定すると,再生産数が77%大きいことになる),他国のデータを使っても,VOC 202012/01は他の系統に比べて同様な再生産数の高さを示したこと(デンマークで55%,スイスで74%,USAで59%)から,感染力が大きい原因として5つの仮説を立てて,データへの当てはまりの良さを比べている。5つの仮説とは,(1)ウイルス排出量が多く1回の接触当たりの伝達係数が大きい,(2)ウイルス排出している期間が長い,(3)スパイクの∆H69/∆V70欠失変異により,既存ウイルスへの免疫がある人でも防御効果が低い,(4)子どもへの感染力が強い,(5)世代時間が短い,である。一連の死亡,入院,ICUベッド占有,PCR有病割合,血清陽性割合などのデータへの適合をDIC (Deviance Information Criteria)で調べたところ,仮説1が最も良く当てはまっていた(しかし,これらの仮説を組合わせてもすべてのデータに共通するメカニズムは見いだせなかった)としている。仮説1の伝達係数が高いモデルを採用すると,感染当たりの入院率や重症化率には有意な差が無く,VOC 202012/01は他の系統と重症度に差があるとは言えなかったとのこと。BMJやNatureの論文とは異なる結論で,データも違うが,方法論の違いによるところが大きいと思う(この論文の方法の方が細かく考えているが,その分仮定が多い)。(2021.3.17)

Nature Medicineに出ていた論文で,Sudre CH et al. "Attributes and predictors of long COVID"(2021年3月10日)は,4182人の患者データから,長期間症状が続く症例(28日以上が558人,8週間以上が189人,12週間以上が95人)にはどういう属性があるのかを調べ,疲れ,頭痛,呼吸困難,嗅覚障害の症状がある人,年齢やBMIが高い人や,女性に多いとしている。(2021.3.17)

Pang, MF., Liang, ZR., Cheng, ZD. et al. Spatiotemporal visualization for the global COVID-19 surveillance by balloon chart. Infect Dis Poverty 10, 21 (2021). https://doi.org/10.1186/s40249-021-00800-z(2021年3月1日)は,世界各国のCOVID-19のCFR,罹患率,死亡率の変化をバルーンチャートを使って図示している。時空間を同時に示すのにバルーンチャートが良いと言っているらしい。Johns Hopkins大学のデータを使って,Vega-LiteのJavaScript実装でバルーンチャートを描いているらしい。(2021.3.17)

JAMA Network Openの研究レターで,Perlis RH et al. "Association of Acute Symptoms of COVID-19 and Symptoms of Depression in Adults"(2021年3月12日)は,3904人の患者データから,共変量を調整したモデルで,頭痛症状が抑うつと関係していることを示したとしている。(2021.3.17)

Ladhani SN et al. "SARS-CoV-2 infection and transmission in primary schools in England in June–December, 2020 (sKIDs): an active, prospective surveillance study"(The Lancet Child & Adolescent Health,2021年3月16日)は,UKの多数の小学校で,毎週の鼻腔スワブによるPCR検査と血液抗体検査をしたグループを含む調査結果を分析し,抗体陽性はロックダウン中の登校ともスタッフと児童との接触とも有意な関連はなかったとしている。(2021.3.17)

オセアニア学会第38回大会から。例年と異なり,ほとんどの人がCOVID-19パンデミックでフィールド調査ができなかったので,文献レビューやリモートで入手できる情報から構築された発表が多かった。第2セッションの最初の演者は深山さんで,COVID-19パンデミック下でのNZマオリによるラーフイの宣言という話。"Stay in your bubble" (E noho ki to rafui)というCOVID-19排除に奏功した政府方針と先住的環境思想の「拡大」の関連。rafuiを検索してみると,これとか,これとか,これがヒットした。マオリには元々行動制限の仕組みがあったということか。宣言とCOVID-19コントロールとの実効性はわからなかったので質問してみた。rahuiは景勝地や観光地での宣言が多かったので三密を避ける方向に機能したと考えられるが,そこでクラスターが発生したとは限らないとのお答えであった。(2021.3.18)

都道府県別新規感染報告数の推移を描くコードに2月末の6府県緊急事態宣言解除の縦線を入れて再実行してみた。3月に入ってから下げ止まりどころか増加傾向なのは(緊急事態宣言継続中の東京都も含めて)明らかなように思うし,おそらく接触者追跡を制限したことによって把握された新規感染者が減ったように見えても,追跡されていない経路で増えた感染者が徐々に把握されるようになってきたとみるのが自然だと思う。(2021.3.19)
2021年3月18日までの都道府県別新規感染報告数推移

ファイザーのワクチン接種でアレルギーの副反応が見られた人が女性に多かった原因として化粧品に広く使われているPEGが原因だろうという疑いがメディアで取り上げられていた。学術雑誌に載った報告では,Cox F et al. "PEG That Reaction: A Case Series of Allergy to Polyethylene Glycol"(The Journal of Clinical Pharmacology,2021年2月5日),Garvey LH, Nasser S "Anaphylaxis to the first COVID-19 vaccine: is polyethylene glycol (PEG) the culprit?"(British Journal of Anaesthesia, 2021年3月),de Vrieze J "Suspicions grow that nanoparticles in Pfizer’s COVID-19 vaccine triggerrare allergic reactions"(Science,2020年12月)などがあった。PEGを含む薬剤がアナフィラキシーを起こす可能性は,2021年2月に出たレビュー論文を見ると以前から指摘されていたようだが,COVID-19のワクチンに使われたのは,おそらくリスクベネフィット評価をした結果であるらしいと聞いた。

まあ,もう少し知見が積み重なってPEGへのアレルギーと確実にわかったら,PEGでパッチテストをすればアナフィラキシーのリスクがあるかどうかは事前にわかるわけで,対処可能なリスクなわけだし,問題ないだろう。

NatureのCoronavirusコレクションが見やすくなった(2021年3月24日)

Gigazineの記事フェイクニュース対策には「記事の見出しが正確かどうか」を考えさせることが有効(2021年3月18日)はインフォデミック対策として興味深い(この結果を踏まえて考えると,昔書いたマスメディアへの要望の「(2)憶測を見出しにしないで欲しい」は我ながら重要な指摘だったと思う。もっとも,日本のメディアはこの点改善しないどころか悪化の一途を辿っているので,ぼくが指摘していたと言っても意味は無いのだが)。Gigazineはいつもそうだが,元論文のPennycook G et al. "Shifting attention to accuracy can reduce misinformation online"(Nature,2021年3月17日)もリンクされている。他のメディアにも追随して欲しいところ。やや長い論文だが,インフォデミック対策に参考になりそうなので,後でちゃんと読もう。(2021.3.20)

「世界一受けたい授業」というテレビ番組でバーチャル観光ツアーを紹介している。去年の7月に旅行代理店業界も救って経済を回したいなら,バーチャル観光に補助金を出すとか,ネットインフラを公費で拡充してオンラインサービスに金を使いやすくするとか,感染拡大リスクを上げない方法はいくらでもあるはずと書いたが,かなり充実してきた感じがあるので,COVID-19の終息までは観光業界はこれで食いつなげないだろうか。(2021.3.20)

まだ来年度の日程は決まっていないが,国際感染症論という講義を分担していて,感染症疫学と数理モデルの話をしているので,先日の日本人口学会関西部会で発表したプログラムをそこに掲載していたが,若干コードを改良してシミュレーションを追加したので掲載した。グラフ上,黒は感受性の人(S),赤が感染している人(I),緑が治癒後免疫がある人(R)を意味する。ちなみに,symbols()で描画する際には,inches=FALSEというオプションを付けないと,座標と正方形のサイズ指定のスケールが一致しないので変な表示になることに要注意。(2021.3.20)

Kiang MV et al. "Routine asymptomatic testing strategies for airline travel during the COVID-19 pandemic: a simulation study"(Lancet Infectious Diseases, 2021年3月22日)は,米国の国内航空旅客について誰でも利用できるデータを使って10万人のシミュレーションモデルを作り,5つの検査戦略の効果を比較したという論文。旅行前の無症状者へのPCR検査でも感染拡大防止に有効だが,流行地域から非流行地域への旅行の場合は旅行後の5日間の検疫が集団レベルでの伝播を下げるのに必要という結果とのこと。Rでコーディングしていて,各戦略について3000回のシミュレーションをしたとのこと。Rのバージョンが40.2となっているのは,明らかに4.0.2の誤植と思うが,Lancet Infectious Diseasesでもこんな誤植があるんだな。(2021.3.23)

NatureのCoronavirusコレクションが見やすくなっていて,Nature CommunicationsのKutter, J.S., de Meulder, D., Bestebroer, T.M. et al. SARS-CoV and SARS-CoV-2 are transmitted through the air between ferrets over more than one meter distance. Nat Commun 12, 1653 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-21918-6(2021年3月12日)とZhang, S., Qiao, S., Yu, J. et al. Bat and pangolin coronavirus spike glycoprotein structures provide insights into SARS-CoV-2 evolution. Nat Commun 12, 1607 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-21767-3(2021年3月11日)が目についた。前者はフェレットを使った動物実験で,SARSコロナウイルスも,SARS-CoV-2も,1メートル以上離れていても経気感染するという実験結果。後者はSARS-CoV-2に近縁なコウモリのコロナウイルスRaTG13とマレーセンザンコウのコロナウイルスPCoV_GXのスパイク糖タンパクのクライオEM構造(極低温電子顕微鏡で観察される)を決定したという分子的な研究で,PCoV_GXのスパイクはSARS-CoV-2と同じくヒトのACE2レセプターに結合するがRaTG13は違ったと書かれていた。(2021.3.23)

新規入国停止措置は継続(2021年3月18日)を周知するためのメールが事務から届いた。留学生が入国できない状態は当面続くということだ。(2021.3.23)

Brittany variantの件,まだパスツール研究所のSARS-CoV-2/COVID-19情報には載っていないし,当然論文も出ていないので,詳細がわからない。が,サンプルを変えてPCRで検出されたなら,PCRで使っている2つの配列に変異があったのではなく,鼻咽腔に存在せず肺だけで増えて死に至ったために鼻咽腔スワブでは取れなかったという話であり,高病原性鳥インフルエンザと同様,他人への感染力は弱いはずだから,それほど恐れる必要はないのではないか。(2021.3.24)

裏RjpWikiさんが,Rで都道府県別感染確定報告数の推移を描くコードを改良してくださった。(2021.3.25)

4月19日までの情報追加(2021年4月19日)

17言語でのワクチン接種予診票(Prevaccination Screening Questionnaire for COVID-19 vaccine)ワクチン接種説明書(Instructions for COVID-19 vaccination)提供(厚労省サイト)は素晴らしい。(2021.3.30)

相変わらず日本のメディア報道はDana Wolf教授にインタビューまでしておきながら経胎盤のIgGなのか授乳によるIgAなのかにも触れず要領を得ないが,イスラエルの新聞記事があった。プレプリントサーバに投稿されているだけで,未査読段階なので信頼性は不明だが,妊娠後期にワクチン接種を受けた妊婦の体内でできたIgGが経胎盤で胎児にも移行するという話らしい。一般にIgGが胎盤を超えることは既知なので,妊婦への予防接種で新生児に抗体があるのは,新生児に抗体医薬品が投与されたのと同じ状態であって,免疫記憶のあるB細胞を新生児がもっているわけではないから抗体産生能力があるわけではない。新生児に免疫をつけたければ,改めて児自身にワクチンを打たねばならないはず。新生児に打って有効なワクチンもあるが,SARS-CoV-2のワクチンではまだ子どもでの安全性や有効性が確認されていないはず。(2021.3.30)

Haruka Sakamotoさんがtweetしている尼崎のナッジは,去年の夏に出たガイダンスの話だが,なぜ読売新聞は今頃取り上げたのだろう。(2021.3.30)

フランスの変異株("Britanny variant"として触れた)の続報が,Coronaheadsup.comというCOVID-19のニュースサイトに"Breton Variant"として紹介されていた。これらの名称はブルターニュ地方の病院で採取されたサンプルから検出されたということでついているらしいが,リンク先記事にあるように,正確に特定して呼ぶには20C/H655Yという名称を使うべきだろう。この記事からは,フランス語だがフランス政府保健当局の見解がリンクされていた。いずれにせよ原著論文は未発表のようだし,このウイルスを分析しているはずのパスツール研究所のニュースにもまだ詳細が載っていない。パスツール研究所はあらぬ疑いを掛けられたせいでFAKE NEWS対策のページを作って陰謀論を否定しているが,インフォデミック対策として,デマ撲滅は重要なので,感染研のCOVID-19関連情報ページでもデマを否定するためのページを作ってトップからわかりやすくリンクしておくと良いと思う。(2021.3.30)

朝のテレビ番組でEdwards DA et al. "Exhaled aerosol increases with COVID-19 infection, age, and obesity"(PNAS,2021年2月23日)が紹介されていた。相変わらず紹介の仕方が不正確だったと思うが,この論文の表紙画像が映ったことで,視聴者が情報源である論文に目を向けるきっかけを作ってくれたとすれば悪くない。(2021.3.31)

宮田裕章『共鳴する未来:データ革命で生み出すこれからの世界』河出新書,ISBX978-4-309-63121-9を読了。COVID-19のLINE大規模アンケートへの協力で知られる宮田さん(東京大学医学部保健学科の後輩,というか助手の頃に実習指導をしたこともある)のビッグデータ共有がもたらす社会変革のパースペクティブを語った本。時間があれば後で書評を書く。(2021.3.31)

先日の日本人口学会関西部会で作ったコードに少し追加すれば,ランダム接触ではなく距離依存の接触という条件で,接触者追跡をして検出と隔離を短いタイムラグでできる場合と,接触者追跡が十分にできない場合の比較は可能だが,計算しなくても定性的には後者で(伝達係数がある程度高かったら)爆発的に感染者増加が起こることは自明だし(このコードで描ける下図の最近の大阪の急増もある程度それで説明できると思う),そもそもランダム接触で良ければ去年の2月28日に出た論文4月23日に出た論文で示されているので,教育目的以外には意味がなさそう。暇ができたらやろう。(2021.4.1)

2021年3月31日までの国内都道府県別新規感染確定報告数推移

昨日の時事通信がWHOの報告書について紹介している記事だが,たぶん当該報告書はここから本文pdfと付録をダウンロードできる。日本のメディアはなぜ情報源がweb上にあるのにリンクしないのか。手抜きなのか謎の忖度をしているのかわからないが,いずれにせよ不便すぎる。(2021.4.1)

日本全体の合計も同時にプロットするバージョンで作図してみた。(2021.4.4)

2021年4月3日までの確定報告数

まん延防止等重点措置が3府県(というより6市=大阪市,仙台市,神戸市,尼崎市,西宮市,芦屋市)で始まったが,行動抑制レベルとしては,これまでの緊急事態宣言を再開するのとほとんど同じことで,名前が違うだけ。たぶん解除してすぐ再開が行政の不手際とみられるのを嫌ったのではないか。以前から書いているが,マスク会食とか永遠に時短とか,人間というものがわかっていない机上の空論と思う。1月の緊急事態宣言発出直前,時短ではダメだろうと書いたが,短期間の補償付きの休業をなぜしないのか。あるいはせめて会食禁止にして一人客だけ無言で食べるというスタイルのみ許可にしないのか。店側だって長期の時短より短期の補償付きの休業や一人客の黙食のみ許可の方がマシと考えないか? 見回りの様子が報道されているが,人が見回って質疑すること自体,感染拡大リスクを高めるし,どうせ金を掛けるなら空気質モニタと監視カメラでも設置した方が実効が上がるのではないか?(2021.4.5)

ご恵贈御礼。浜田明範・西真如・近藤祉秋・吉田真理子(編著)『新型コロナウイルス感染症と人類学』水声社,ISBX978-4-8010-0563-1は院生も含めた多くの文化人類学者が分担執筆していて,パンデミックとは? Withとは? 医療人類学も含めた文化人類学はこのような状況下で何ができるのか? といった多様な視点からCOVID-19パンデミックにアプローチした本と思われる。(2021.4.5)

YouTubeチャンネルで公衆衛生学や疫学の普及活動をされている守山正樹先生からも著書をご恵贈いただいた。YouTubeでも紹介されている『手で考える公衆衛生学:COVID-19禍のもとでのオンライン授業』NPO法人ウェルビーイング,ISBX978-4-904997-04-8と,『統計学:COVID-19禍のもとでのオンデマンド授業』NPO法人ウェルビーイング,ISBX978-4-904997-03-1であった。どちらも日本赤十字九州国際看護大学のリポジトリからPDF版がダウンロードできるそうだが,どちらも大変ユニークな公衆衛生学と統計学のテキストと思った。副題が微妙に違うのは,公衆衛生学が「手で考える」ためにワークショップ的な学び方が必要だからだろうか。(2021.4.5)

小学校で同じクラスになって以来の友人が東久留米で居酒屋をしていて,twitterに二酸化炭素モニタを探していると書いていたので,調布・電通大が地元商店街とコラボしCO2測定実験 「密」見える化で安心感(2021年3月23日)という記事をリンクして,電通大の石垣特任准教授が企画開発して調布の商店街と組んで実証実験に使っているPocket CO2 Sensorを紹介し,リンク先ページからPaypalでも買えるし,マルツには在庫があるという情報も書いておいた。店で使うなら高輝度ディスプレイでクラウドにも対応していて拡張性があるPRO版の方が良いと思うので,PRO版をお薦めした。ちなみに先日楽天でもAmazonでもYahooでも売り切れていると書いたRATOCのWifi空気質センサー/ロガーも,マルツには在庫があるようだった。(2021.4.8)

3都府県に蔓延防止措置を適用 西村担当相が表明(産経新聞,2021年4月9日)という記事に,「政府の基本的対処方針分科会」なるものが登場するのだが,内閣官房の新型インフルエンザ等対策有識者会議のページにはそんな組織は載っていない。新しく作ったのだろうか? 紛らわしい名前の「基本的対処方針等諮問委員会」と「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は存在し,有識者会議自体も含め,すべて会長は尾身茂先生だが。いくら構成員が違っていても,尾身先生ご自身,仕事の分担について混乱しないのだろうか? と他人事ながら心配になってしまう。新聞報道が「基本的対処方針等諮問委員会」の誤記であるのなら理解できるが。なお,3都府県とは東京,京都,沖縄で,適用は4月12日からとのこと。(2021.4.9)

昨日もメモしたように学部講義は遠隔推奨のハイブリッドで準備しなくてはならないので面倒。実習以外は全部遠隔の方が落ち着いて公平にできると思うのだが。去年の春よりも今の方が新規感染者数は多いのに対面を基本にするというのは,政府の方針として早期終息を諦めているということに他ならない。終息を諦めて時短営業とかマスク会食推奨といった緩い対策を続ける限り,長期化するのは当然なので,こうした中途半端なわりに事業者にとっては苦しい対策をずっと続けねばならないのは,ほぼ政府のせいと言って良いだろう。補償とセットで,Essential Workerを除き(その人たちは優先的にワクチン接種を受けられるようにする)基本的に在宅勤務,かつ飲食店は休業か個人客の黙食のみ許可,大人数の集会は禁止(選手の感染防御が可能なスポーツイベントなどは無観客でテレビ/ラジオ放送かオンライン中継を基本とする)といった厳しい対策をとることで,1ヶ月以内に新規感染者を2桁/日まで持っていくことは今でも可能なはずで,そこまで持って行けば接触追跡が完全にできるので,再び終息を目指せると思うのだが。(2021.4.9)

今日からまん延防止等重点措置の対象に,東京都,京都府,沖縄県(ただしそのすべてではなく,いくつかの市区だけである。どの市区なのかということが新聞報道などには載っているのに,政府公式サイトには明示されていない)が入った。基本的にゴールデンウィーク明けまで。しかし何度も書いているように,時短みたいな緩い措置を長期にわたって何度もやっても,心理的負担が増すばかりで効果は薄い。(2021.4.12)

17:40頃に毎年国際保健の講義を分担していただいている大路先生がテレビで4つの終息シナリオを語っているのを偶々拝見した。最初の3つが無理なので,たぶん慣れるしかないと言われていたが,第1のシナリオは台湾やNZができたのだから無理ではない。(2021.4.13)

大阪府知事が今頃になって休業要請を言い出したが遅すぎる。時短では効果が薄いので補償とセットの休業要請にすべき,と1月の緊急事態宣言の前に書いたし,緩い制限では短期間で感染者を十分に減らせないことは当時西浦さんもインタビューに答えて語っていた。去年から書いているように,医療崩壊して多数の死者が出ることを許容するのでもない限りオリンピックなどできるわけがないのだから,聖火リレーとか,頭がおかしいのではないだろうか。また,それを嬉々として報道するマスメディアの態度も信じがたい。思考停止に陥っているのか,よほど強烈な圧力が掛かっているのか知らないが(国立大学も文科省からの対面授業圧力に耐えられずにいるので,スポンサー企業や総務省辺りから圧力が掛かっているのかもしれない。ほとんどのマスメディア自身スポンサー企業だし,と考えたらCOI案件だよなあ)。西浦さんが1年再延期の可能性をオープンに議論して欲しいと文春のインタビューで語っていたが,ぼくは去年書いたように2年延期ではパリとの間隔が短くなりすぎるし,夏のまま東京でやると熱中症多発リスクがあるので中止が良いと思っている。ただ,秋にして冬期五輪と同年連続開催にしてしまうのなら(つまりパリ以降も冬季五輪と同年にする),来年秋に東京,冬に北京というのは,ワクチン接種が進んでいることも考えれば,実施可能かもしれないと思う。たった一つの冴えたやり方かも。……と思ったが,北京の時期を勘違いしていた。来年2月だから連続にはならないのか。まあ来年2月だとまだCOVID-19が終息しているかどうか微妙なところなので,北京も1年延期して2023年2月にした方が良いと思う。そもそも五輪の思想からすれば,参加する世界中のアスリートにとって公平でフェアな開催であることが至上課題だと思うので,主に米国テレビネットの商業的要請から運営されている現状はいったんゼロに戻して再検討した方が良いと思う。(2021.4.14)

去年7月30日に出ていたSiemieniuk RAC et al. "Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis"(BMJ)は,現在までのCOVID-19治療についての研究をレビューした結果をまとめた操作もできるインフォグラフィックが提供されているのだが,これまで何度か更新されていて,現時点では2021年4月6日のversion 4.1が最新の更新となっている。2021年4月13日付けで,死亡のリスク比とリスク差について修正した,という"correction"が出ていた。コルチコステロイドとIL-6阻害剤は有効で,他は微妙という結論は変わっていないようだ。(2021.4.17)

Pirkis J et al. "Suicide trends in the early months of the COVID-19 pandemic: an interrupted time-series analysis of preliminary data from 21 countries"(Lancet Psychiatry,2021年4月13日)は,21ヶ国(高所得国16,高位中所得国5)のデータで時系列解析をして,COVID-19パンデミック早期の自殺傾向を調べたというタイトル。自殺が増えた証拠はなく,日本も含まれている12の国と地域では,時系列から期待される自殺率より統計的に有意に自殺率が低かったとしている。ただ,これはパンデミック早期の話なので,対策行動が長期化し,経済的にもより疲弊した冬以降は,また話が違ってきているであろう。Stataで分析していて,コードはSupplementary materialに含まれていた。(2021.4.17)

Letiza AG et al. "SARS-CoV-2 seropositivity and subsequent infection risk in healthy young adults: a prospective cohort study"(The Lancet Respiratory Medicine,2021年4月15日)は,若者で血清IgG抗体陽性の人と陰性の人を追跡調査して,2週間後,4週間後,6週間後にPCR検査でSARS-CoV-2罹患を調べた結果,罹患率比が0.18(95%信頼区間が0.11-0.28)だったこと,つまり抗体陽性の人は罹りにくいことを示しているようだ。(2021.4.17)

Peng Z, Jimenez JL "Exhaled CO2 as a COVID-19 Infection Risk Proxy for Different Indoor Environments and Activities"(Environ. Sci. Technol. Lett.,2021年4月5日)は屋内環境とそこでの活動のCOVID-19感染リスクの代替指標としてエアロゾルと同時に排気される二酸化炭素濃度が使えるかということを調べた論文で,エアロゾル感染の数理モデルと呼気のCO2を結びつける数式を考えているようだ。(2021.4.17)

Lopez JAM et al. "Anatomy of digital contact tracing: Role of age, transmission setting, adoption, and case detection"(Science Advances,2021年4月9日),Ning B et al. "A smartphone-read ultrasensitive and quantitative saliva test for COVID-19"(Science Advances,2021年1月8日),Bazant MZ, Bush JWM "A guideline to limit indoor airborne transmission of COVID-19"(ProNAS,2021年4月27日号)も後で読もう。(2021.4.17)

川端君のtweetで,「理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!」(西浦博 川端裕人 中央公論新社)の科学ジャーナリスト賞2021受賞を知った。おめでとうございます。(2021.4.19)

部局レベルだけではなく,可能なものは全学で順次遠隔授業に切り替えるというアナウンスが出た。(2021.4.19)

週刊医学界新聞の特集を読んだが,ぼくの理解ではリスコミってこういうことではないと思うし,それ以上に,専門家会議廃止の提案者が武藤さんだったことに唖然とした。あの日,尾身先生は何も聞いていないと発言されていたが。ぼくは,旧専門家会議の廃止は,リスク論的には下策だったと思っている。(2021.4.19)

週刊医学界新聞の座談会について上述の内容をtweetしたら,西浦さんから旧専門家会議廃止の背景については『分水嶺』に載っていると教えていただいたので,Amazonで注文した。(2021.4.19)

ピコピコハンマー(2021年4月23日)

緊急事態宣言において,補償とセットの休業要請であるべきことは当然だが,普通の飲食店だけでなく,ホテルとか結婚式の披露宴とか斎場のお通夜とか,会食の場になるところはすべて対象にすべき。逆に飲食店でもカウンターのみで席間に仕切りがあり,換気が十分にされているなら時間規制は不要(1月から書いているように,時短では対策としての意味が薄い)。大阪や東京の知事は,ちゃんとした合理的な要請をして欲しい。(2021.4.20)

合理的な,ということでは,今日Marc Lipstich教授がtweetしていたが,屋外で黙っているときのマスクも不要(ぼくは一々着脱が面倒だからしているが)。何度も書いているが,マスクは基本的に喋るときに着用してこそ意味がある。(2021.4.20)

ところで,最近のドラマは店内飲食シーンでもマスクをしていないので,同時代の話としては物凄く違和感がある。たぶん出演者全員が撮影前に隔離して感染リスクゼロという状態ではないだろうし,ワクチンを打っているはずもないと思うので,リハーサルではマスクかフェイスガードをつけるとか,PCRか抗原検査で陰性であることをチェックするくらいの対策をしてやっているのだろうが,現在の話であるなら,むしろ俳優も飲食の場ではマスクをして演技をした方が良いのではないか。制作側にどういうスタンスなのか聞いてみたい気がする。(2021.4.20)

Supercomputer shows COVID infection risk of outdoor drinking,この富岳のシミュレーション,日本語でも英語でもニュースとして多数流れているが,理研のサイト(たぶん坪倉先生のチームの仕事だと思うが……ちなみに理研には富岳を使ったCOVID-19のパンデミック現象と対策のシミュレーションチームもあるが,去年の6月17日の資料が最新なのか? というのと,中身もうーん……ちょっと富岳の計算能力を十分に生かせていない気がする)でも神戸大のサイトでもリリースを見つけられなかった。どこにいけば詳細を確認できるのだろう? これから出るのか? (2021.4.21)

それにしても緊急事態宣言要請に対して対策本部というか内閣の動きが遅すぎる。このタイムラグは致命傷になりかねない。かなり無謀で途方も無いことでも閣議決定で即決できる仕組みになっているはずなのに(去年のマスク配布とか全国一斉休校とか),肝心なことは閣議決定しないのか。(2021.4.21)

ピコピコハンマー(Squeaky Toy Hammer)という比喩を思いついた

去年の3月に発表されて30以上の言語に翻訳され,4000万人以上に読まれているHammer & Danceという考え方は,インペリグループ第9報(重要な報告なのでぼくも日本語で説明した)に基づいていて,緩い緩和策(mitigation)では長期間の制限が必要なのにトータルの被害者がそれほど減らせず医療崩壊のリスクがあるからダメで,強烈な抑え込み策(suppression)としてガツンとハンマーのように叩くことで感染を抑え込めば,暫く経済活動などダンスをすることができるし医療崩壊もせずに済むという話で,それでもそのうち感染は再燃するので,再びハンマーを叩くことを繰り返すという方策で,反復は元から織り込み済みである。ハンマーでしっかりと足場を固めればダンスをしても大丈夫だが,踊り続けたら足場がぐらつくので再びハンマーで固めなくては崩れてしまうという意味で,うまい比喩だったと思う。日本は緊急事態宣言にしても(ユニットを小さくしたがほとんど名前を変えただけの)まん延防止重点措置にしても,ほとんど緩和策レベルの制限しかしていない,いわばピコピコハンマー(squeaky toy hammer)しか使わなかったので,時間が長くかかるのは当然だし,足場がしっかり固まらないので,ダンスをしたら崩れるのは当然だろう。ピコピコハンマーでも長い時間打たれたらストレスは溜まるし,経済的負荷もじわじわと響いてくるのも当然だから,遅くとも今年1月の緊急事態宣言は時短というピコピコハンマーではなく,補償とセットにした休業という本物のハンマーを打つべきであった(と当時も書いた)。今頃になって都知事や大阪府知事がもっと強い制限をして短時間で効果が出るようになどと言い出しているが,前から書いているようにあまりにも遅すぎる。日本はせっかく文化的に対人距離が遠くて接触が少ないおかげで欧米よりRを低く保てたので,うまくすればNZや台湾のように排除(elimination)するチャンスもあったのに,変異株の場合は日本文化でも接触感染と飛沫感染だけでRが1を超え,換気が悪い場所での集団感染を加えたら現在のような増え方になるのは当然であろう。政府がいまできることは,ともかく宣言をすぐに発出し即時実行することだと思う。調整とか準備期間とか言っている場合では無い。同時に,これも以前から何度も書いているが(例えば去年の3月25日)東京五輪もすぐに中止決定すべきだと思う。決定が遅れれば遅れるほど被害は大きくなる「コンコルドの過ち」の典型例になる。ちょっと考えれば自明だと思うが。(2021.4.23)

緊急事態宣言は出たが(2021年4月28日)

明日から緊急事態宣言にともなって映画館休館というのは無意味な過剰制約だと思う。飲食と会話を禁止して,ちゃんと換気すれば,映画館などほとんど感染リスクはないはずだが。どうして政府はこんなちぐはぐなことばかりするのか。(2021.04.24)

今日から4都府県に緊急事態宣言が適用された。しかしまだ本物のハンマーとはいえないので,十分な効果が出ないまま長く続けなくてはいけないかもしれない。(2021.4.25)

水曜日に非常勤での講義をお願いしている高山先生が,NHKのあさイチにリモート出演されていた。さすが実践的で,無理ではない対策を語られている。自宅療養の際にパルスオキシメータでSpO2をモニタしておいて,4パーセントポイント以上低下して戻らなかったら受診を,という話は厚労省の診断の手引きで,93%以下で酸素投与が必要な中等症IIとしているのと整合的。(2021.4.26)

新規感染報告数の推移グラフを示す。データに欠損が多いので飛び飛びだがパプアニューギニアは最近顕著に増えている。医療体制が脆弱なので死者の増加が心配。インドの一日当たり新規報告数がUSAのピーク時を超えた。日本は片対数グラフで直線的に増えていてインドネシアに迫っているし,4都府県だけでなく各県で増えている。(2021.4.26)

各国の推移
日本の推移

高山先生の講義は実例に即していて,例年そうだが大変学ぶところが多かった。学生も真剣に受講していたようで,4件の質問があった。現場で多職種が膝をつきあわせて議論しないと見えてこないものがあるとか,多くの場面で完璧な制御は不可能だけれどもできる限りのことをきちんとすれば被害は最小限にとどめることができる場合があるなど,世界中のさまざまな現場で活動されてきた高山先生ならではの,人間の本性を踏まえた深い話で素晴らしかった。検査は目的が重要で,eliminationを目指すなら全数スクリーニング検査の反復が必要で,接待を伴う飲食店従業員に参加を呼びかけて実施するような一部のサンプルについての検査はモニタリングを目的としているという点に加え(日本の場合空港での検査もモニタリングにしかなっていないので水際対策はできていないという指摘もあった),ある角度からは良い事業であっても別の角度からみると検査対象者を逆に危険に曝すこともあるという最後の話(陰性であることがわかるとその人たちに何が起こるのかと想像してみることが重要だと思う),学生に十分伝わっていたら良いなあ。(2021.4.28)

朝,『モーニングショーでオリンピックの話をしているが,仮にCOVID-19がなかったとしても東京の夏では避けがたい熱中症リスクへの配慮がまったく出てこないのがダメだと思う。どう考えてもこの夏の開催は無理だろうに。』とtweetしたら100件以上の「いいね」が付いた。(2021.4.28)

古瀬祐気さんのtweetにあった論文は,去年5月に書いた,検査陽性率の解釈にはさまざまな仮定が必要ということを裏付けてくれている面もある。(2021.4.28)

早く中止を決断すべきと思うが(2021年4月29日)

東京五輪のPlaybookの中で,アスリートのレギュレーションについて現在のバージョンには,21ページに以下のように書かれている。原則,来日後3日間の検疫が必要だが,毎日検査して陰性確認し,かつ運営の監督下であればその間も活動を認めるということだ。別の方法として来日後14日間の検疫でも良い,とも書かれている。これだと毎日検査が全数ではないので,eliminationを維持するためにスクリーニングにはならない。

Quarantining on arrival and for the first three days
Border control measures in Japan have been revised since the first version of the Playbook released in February 2021. You must quarantine atyour accommodation on arrival (the day of arrivalis considered day 0) and for the next three days
However, as athletes and officials, you will have permission to perform your Games-related activities during these three days, if:
  • you test negative for COVID-19 every day; and
  • you operate under a higher level of supervision by Tokyo 2020
Your other option is to be quarantined at your accommodation on arrival and for the next 14 days.

メディア報道によると(例えばTBS NEWS……なぜ内閣人事局長がコメントするか謎だが),Playbookの改訂版では選手は原則毎日検査に変えると決めたそうだが(記事には書かれていないが抗原検査では感度も特異度も不十分なのでPCR検査なのだろう),厚労省によると国内の最大PCR検査能力が1日約20万しかないのに,1万人の選手+関係者に毎日検査というのは,選手村をクローズドコミュニティと考えてeliminationを維持するためのスクリーニングをするという立て付けに見えるが,現在の検査キャパで実現できるとは思えない。あるいは,東京だけオリンピック選手のために検査能力を純増させ,検査関連のさまざまな資源と資金を投入するつもりなのかもしれないが,救急搬送されても長時間待たねばならないような状況にまで医療資源が逼迫している国で,そんな政策が正当化されるのか? オリンピック憲章がうたう平和とフェアネスに反するのではないか? ……と,いろいろ考えると,こんな問題山積の状況下で強行したら,熱中症リスクの問題もあるし,医療資源に対して致命的な圧迫になることも間違いないので,早く中止決定して欲しいという結論に至る。たぶん尾身先生をはじめ専門家の皆さんも本音ではそう言いたいに違いないのだが,前から書いているように,どこかからよほど強い圧力が掛かっているのか,「中止すべき」という言い方はされない。

Ni X et al. "Automated, multiparametric monitoring of respiratory biomarkers and vital signs in clinical and home settings for COVID-19 patients"(PNAS,2021年5月11日号)は,入院中や自宅療養中のCOVID-19患者に対して,首元に装着するデバイスによって複数の呼吸器バイオマーカーとバイタルサイン(呼吸,脈拍,血圧,体温)を長期間自動モニタリングし,Bluetoothでクラウドにデータを集積するシステムを開発したという論文。サンプルサイズは小さいが,回復過程が咳の頻度と相関があったが,咳の頻度やその変化には個人差が大きく,エアロゾルの出方も個人差があるという結果が示されている。こういうデバイスを使ったモニタリングで,医療施設でないところで療養し経過観察している無症状または軽症のPCR検査陽性の人の症状が悪化する兆候があったら自動でアラートが出るようになったら,合理的な医療資源配分ができる可能性がある。

Faria NR et al. "Genomics and epidemiology of the P.1 SARS-CoV-2 lineage in Manaus, Brazil"(Science,2021年4月14日)は,2020年11月から2021年1月にかけてブラジルのマナウスでSARS-CoV-2に再感染した複数の症例から得られたウイルスをゲノム解析して,ヒトのACE2レセプターへの結合能増加と関連している3つのスパイクタンパクの変異(K417T,E484K,N501Y)を含む17の突然変異をもつリネージP1が出現しマナウスで市中流行していることを明らかにしたという論文。分子時計を使った解析によると,この変異株は2020年11月半ばに出現したと推定されたとのこと。P1以外のリネージに比べて伝播しやすさが1.7-2.4倍高く,P1以外のリネージに既感染でも感染防御能が弱いとも書かれている。これも広まって欲しくない変異だが封じ込めできるだろうか。

Mena GE et al. "Socioeconomic status determines COVID-19 incidence and related mortality in Santiago, Chile"(Science,2021年4月27日)は,社会格差が大きいチリの首都サンチャゴで34の自治体を単位とする地域相関で,社会経済状態がCOVID-19に起因する死亡率と強い負の相関を示したことや,社会経済状態が悪い自治体では若者のIFR(感染致命リスク)が高いことなどを示している。規格化死亡率マップ(Regularized Mortality MAP; RmMAP)などいろいろ新しい手法を使っていて,Supplementary Materialに説明がある。後でちゃんと読んでみなくては。

Hacisuleyman E et al. "Vaccine Breakthrough Infections with SARS-CoV-2 Variants"(NEJMの短報,2021年4月21日)は,ファイザーかモデルナのワクチンを2回接種して2週間以上経った417人を追跡したところ,51歳と65歳の2人の女性がCOVID-19の症状を呈し,検査した結果PCR陽性で,1人はE484K変異があり,2人ともT95I変異,D614G変異と142-144欠損があったとのこと。2人とも血清中和抗体は高い抗体価を示していたので,ワクチンは有効なはずなのに,変異株はワクチンを突破して感染した(vaccine breakthrough infection)と解釈されるとのこと。ワクチンを接種した後でも継続的な検査などの対策は必要だと示唆している。

Gao M et al. "Associations between body-mass index and COVID-19 severity in 6·9 million people in England: a prospective, community-based, cohort study"(The Lancet Diabetes & Endocrinology,2021年4月28日)は,英国の匿名化された大規模統合データベースであるQResearchから抽出された約690万人を対象としたコホート研究で,BMIと重症度の関係を調べたもの。2020年1月24日から2020年4月30日までにGPに登録された20歳以上の人を対象としている。対象者のうち13503人がCOVID-19で入院し,1601人がCOVID-19が重症化してICUに入り,検査陽性確認後に死亡した人は5479人だった。対象者全員の平均BMIが26.89で,BMIとCOVID-19による入院リスクや死亡リスクの間にはJ字型の関係があり,BMIが23以上だとBMIが大きいほど入院リスクや死亡リスクが上がる直線的な関係があったことと,これらの増加が2型糖尿病や高血圧や心血管疾患がある人の方がない人よりもやや小さかったので,BMIの増加による入院リスクや死亡リスクの増加は基礎疾患によるものではないと考えられること,この関係性が40歳未満の黒人でより強いことを示している。まあ,グラフからはBMIが22から28くらいではハザード比は1前後とみて差し支えないように見えるので,自分くらいの太り方ならそんなに危険ではないといえよう。

オタゴ大学Baker教授の提言(2021年5月3日)

インタビュー記録「異なる景色」(新型コロナウイルス感染禍に際する感染経験者・医療従事者へのインタビュー記録,三浦麻子・村上靖彦・平井啓(編),2021年3月20日刊行)が公開されているのは素晴らしい。素のナラティブ。いや,インタビューにおいて完全に先入観や相互作用を排除することは不可能だが,なるべく先入観なくインタビューすることを意識したらしい。(2021.5.2)

ニュージーランド・オタゴ大学のProf. Michael Bakerは,疫学・公衆衛生学の研究者で,COVID-19に関するサイエンスコミュニケーションへの貢献でアーダーン首相から表彰されている(リンク先記事によると,NZが排除(elimination)戦略をとって成功した立役者の一人と言え,「提言したことが政府に採用されて大いに救われた」と語っているとのこと)方で,最近も排除がベストな戦略だという証拠がさらに増えてきたというブログ記事を書かれているが(同ブログで紹介されていたメルボルン大学のCOVID-19 Pandemic Trade-Offsも興味深いツールだと思った),COVID-19についての査読付き論文もLancet,NEJM,BMJなどのトップジャーナルを含め25本以上発表しているから,東スポの「世界的権威」という書き方は正しい。元記事のタイトルも"Top epidemiologist"だし,決して煽りではない(NZOCの選手派遣意向に「まったくバカげていてオリンピック精神に反している」と強く反対しているのもその通りで,かつアスリートへの気遣いなども書かれていて,誠実な方なのだろうと思われる)。もっとも,東京五輪の今夏強行が平和とフェアネスに反するのは,何も世界的権威でなくても,ちょっと真面目に考えれば誰でもわかるはずだし,ぼくも以前から何度も――最近だと数日前にも書いていることだが。(2021.5.3)

『分水嶺』前半の感想(2021年5月7日)

Huang S, Yang J, Fong S, Zhao Q. Artificial intelligence in the diagnosis of COVID-19: challenges and perspectives. Int J Biol Sci 2021; 17(6):1581-1587. doi:10.7150/ijbs.58855(Int. J. Biol. Sci.,2021年4月10日)は,文献レビューから,AIを使ってcovid-19診断ができるか試みた論文。結論の冒頭,AIモデルでも熟練した医師と同じくらい正確な診断ができるかもしれない,としている。(2021.5.6)

通勤途中の地下鉄の中で『分水嶺』を読んでいると,いろいろ残念でならない。専門家会議の少なくとも一部の方は,自身の立ち位置をリスクマネージメントの一部と捉えていたのであろう。そうでなければ,専門家会議から政府への提言に政府が勝手に加筆修正を加えた上で「専門家会議からの提言」として発表されるというような状況(これは本書を読んで初めて知ったが言語道断の愚行だ)を許容できたとは思えない。夏に廃止された時に言い訳として位置づけが曖昧という理由が挙げられていたが,だからこそ専門家会議はリスクアセスメントに徹して,提言は素のまま,政府に送るのと同時に公表してしまうべきだった。リスクアセスメントはリスクマネージメントから独立していてこそ信頼性が保たれるし,健全なリスク対処ができるのだ。提言内容に対して政治判断から取捨選択するのが政府の責任であって,提言に従わない部分は理由を明確にしなくてはいけなくなるので,政策から曖昧な部分が消えて,公衆衛生行政への信頼が保たれたはずだ。本書には「たとえば専門家会議など役所に近いところのクレジットで文章が出ると,メディアや国会からはなぜできないんだと責められ,その説明に負われて,本来やるべき対策ができなくなることを役所は懸念しています」という齋藤智也さんの分析が出てくるが(p.85),そこを説明しながら進めることでしか行政への信頼は保たれない,というのがリスク対策の基本である。提言自体を変えさせるという暴挙によって,国民が専門家会議を政府と一体視するようになり,専門家への信頼が失われてしまったことが,本当に残念だ。完全に対策本部の下部に位置づけられてしまった分科会では,もはや提言すらできない。おそらく,世論から専門家会議への強い支持があれば,専門家会議もリスクアセスメントに徹して,強い提言ができた可能性はある。ぼくは当時「自分も含めて外野がやるべきことは,専門家会議への攻撃ではなくて,首相近辺に対して,勝手なことをせず,専門家会議に余計な圧力を掛けず(たぶんオリンピックについては議論するなと言われているのだと思う。憶測だが),もっと専門家会議の提言を尊重するように言うことではないのか。」と書いているが,当初から専門家会議に対して懐疑的な言論は多く,その原因の一端は,議事録が公開されていなかったこととか,(勝手に書き換えられていたのだから当然だが)政府に忖度したような提言になっていることにあったと思うので,やはり残念だとしか言いようがない。(以下追記)WHOはマネジメントまでする組織だし,そこで活躍してきた尾身先生や押谷先生は専門家会議でもマネジメントまでしなくてはいけないと考えられていたのであろうことは想像できる。しかしマネジメントは全権委任されていないとできない。台湾のように政治の中枢にいる人たち自身が専門家でマネジメントの指揮をとれば上手く行くが,日本の旧専門家会議も分科会も,感染症にもリスク管理にもド素人の政治家の指揮下でしか活動できないという立て付けでは,マネジメントがまともにできるはずがないので,先に書いたとおり,アセスメントに徹してオープンな活動をすべきだったと思う。それでもマネジメントがまともになるように,という思いだったのであろう,苦しい活動を現在でも続けられている尾身先生は凄いと思うが,リスク論的には間違っていると言わざるを得ない。(2021.5.7)

Huynh J et al. "Sex and age differences in the incidence of acute myocardial infarction during the COVID-19 pandemic in a Swedish health-care region without lockdown: a retrospective cohort study" The Lancet Healthy Longevity, 2(5): e283-e289, 2021は,ロックダウンがなかったスウェーデンで,COVID-19パンデミック中に急性心筋梗塞罹患率の性差,年齢差を調べた後ろ向きコホート研究というタイトル。2017年から2019年の3月1日から7月31日と比べて,2020年の同時期の急性心筋梗塞罹患率比を計算し,70歳以上の男性ではほとんど変わっていないが,70歳以上の女性では0.56 [0.40-0.78]と激減したことを示している。男女の罹患率比をBreslow-Day検定してp=0.0074だったので性差があると考えられる,としている。この論文では罹患率と罹患率比はOpenEpi version 3.01で,それ以外の解析はSPSSを使ったと明記されているが,サブグループ間の罹患率比の比較はBreslow-Day検定で行ったとしてBreslowとDayの教科書を引用していてソフトは書かれていないので,そこだけ手計算なのかもしれない。RではDescToolsパッケージにBreslowDayTest()という関数が実装されている。すべてのOR=1という特殊な帰無仮説については,パッケージを使わなくてもmantelhaen.test()で実行可能だが。BreslowDayTest()は,リンク先の説明を読む限りオッズ比がどの層でも均質であるという帰無仮説を検定するようだ。この論文はオッズ比ではなく罹患率比の比較なので,さらに調べてみたところ,epiRパッケージのepi.2by2()でオプションとしてmethod="cohort.count"とhomogeneity="breslow.day"を指定すれば,罹患率比についてBreslow-Day検定をしてくれるという情報があったのだが,1.0-04版でバグフィックスとしてhomogeneity=オプションが削除されていた。かつ,罹患率比はmethod="cohort.time"を使わなくては計算してくれず,そのときは層間比較をしてくれないという仕様に変わっていた。この論文で使われているのはリスクではなく罹患率で,分母としては観察人年しか与えられていないので,期首人口を計算できない(観察期間が各年最大153日なので,それで割ってみたり,さらに365.24をかけてみたりしたが,整数にならないということは,途中参加や脱落があるのだろう)。だからリスク比やその均質性は計算できないのだが,観察人年から急性心筋梗塞罹患数を引いた値を非罹患数として無理矢理計算してみると,論文掲載の値と概ね一致した(Rコード)。が,これでいいとは思われないのだがなあ。(2021.5.7)

Anti-Olympic petition gains tens of thousands of signaturesというWashington Postの記事で,BMJのEditorial宇都宮健児さんの署名活動が取り上げられていた。この署名活動については,漸く日本のメディアも報道し始めた感じ(リンク先は東京新聞の記事)か。(2021.5.7)

論文2つ(2021年5月11日)

COVID-19パンデミック以前から,東京の夏は熱中症が増えるから秋開催にするのでなければ反対と主張してきたし(日本語 / English),つい先日も熱中症リスクを考えたら早く中止を決断すべきと書いたが,それを裏付ける論文が出ていることに気づいた。東大SPH関係の坂本さんとか野村さんが著者に入っているShimizu K, Gilmour S, Mase H, Le PM, Teshima A, Sakamoto H, Nomura S. COVID-19 and Heat Illness in Tokyo, Japan: Implications for the Summer Olympic and Paralympic Games in 2021. Int J Environ Res Public Health. 2021 Mar 31;18(7):3620. doi: 10.3390/ijerph18073620. PMID: 33807268; PMCID: PMC8037344.(2021年3月31日)である。時系列解析で負荷を予測し,結論として,熱中症とCOVID-19の二重負荷を考えたら,この夏に五輪を実施したら基幹保健医療サービスの維持が困難になると書いている。

Yang Q et al. "Just 2% of SARS-CoV-2−positive individuals carry 90% of the virus circulating in communities"(ProNAS,2021年5月25日号)は,コロラド大学の無症状の学生の唾液を使ったスクリーニングといくつかの病院で得られた症状のある人のデータで,ともにウイルス量でみると総量の90%は2%の人からのウイルスで占められていることを示し(図3),superspreaderの存在を示唆している論文。無症状の学生でも多量のウイルスが唾液中に存在している人が少しだけ存在することが直接示された。ただ,感染経路を辿っているわけではないので直接Rの過分散を示せているわけではない。去年の5月22日に紹介したEndo et al.は引用しているが,overdispersion論文の流れというわけではないようだ。

インフォデミック対策も感染対策そのものと同じアプローチが使えるはず,という視点(2021年5月19日)

WHOは,いわゆるインド型B.1.617もVOCに指定した。これまでCDCもWHOもVOIとしていたが(この講義資料の38ページ参照),より強い警戒が必要な型と見たということだ。(2021.5.12)

Bernal JL et al. "Effectiveness of the Pfizer-BioNTech and Oxford-AstraZeneca vaccines on covid-19 related symptoms, hospital admissions, and mortality in older adults in England: test negative case-control study"(BMJ,2021年5月13日)は,英国の1月4日までにファイザーのワクチン接種を受けた80歳以上の人で,接種後10-13日でワクチン有効性が70%に達し,1月4日以降にファイザーのワクチン接種を受けた70歳以上の人では接種後28-34日で有効性が61%に達し,アストラゼネカのワクチン接種を受けた人では28-34日で有効性が60%,35日目以降は73%に達しており,ファイザーかアストラゼネカのワクチンを少なくとも1回受けた高齢者では発症予防と重症化予防の効果があると結論している。(2021.5.19)

Scales D et al. "The Covid-19 Infodemic --- Applying the Epidemiologic Model to Counter Misinformation"(NEJMのPerspective,2021年5月12日)は,ウイルスそのものへの対処と同様な疫学モデルのアプローチで3つの要素(リアルタイム調査,正確な診断,迅速な応答)に焦点を当てることでインフォデミック対策ができるという提言。なるほどそれはそうか。(2021.5.19)

Choe H, Farzan M "How SARS-CoV-2 first adapted in humans"(ScienceのPerspective,2021年4月30日)とZhang J et al. "Structural impact on SARS-CoV-2 spike protein by D614G substitution"(ScienceのReport,2021年4月30日)は,SARS-CoV-2はヒトの細胞に侵入するためにスパイクタンパク(ワクチンの標的でもある)があり,2020年の早期に,それを構成する1297のアミノ酸のうち614番目がアスパラギン酸からグリシンへの変異(D614G)が起こったことでヒトからヒトへの伝播が容易になり,いま流行している株のほとんどはこの変異を持っているので,どのようにこの変異が起こり,それがアンジオテンシン転換酵素2の早期脱落を防止することによってスパイク数を増やすことで感染を容易にしているという構造的仕組みを説明しているようだ。(2021.5.19)

また報告数推移グラフを作ってみた。(2021.5.19)

都道府県別COVID-19新規報告数推移

変異株とワクチンについてまとめた講義資料から(2021年5月21日)

最近のいくつかの講義のため,これまでちゃんとフォローしてこなかった変異株とワクチンの記述をまとめたので(網羅的ではないし深くもないが,基本的なところだけ),ここにも載せておく。

変異株について
■RNAウイルスなので突然変異を起こしやすい。HIVよりは遅い
■1つ以上の変異によって感染力や病原性が変わったウイルスをvariant(変異ウイルス,変異株)と呼んでいる
■マスメディアでイギリス株とかインド株とか呼ばれているのは,その変異株が最初に報告された国だが,差別や偏見を助長する恐れがあるので望ましくなく,厚生労働省の資料などでは「英国で確認された変異株(VOC-202012/01)」のような書き方がされている。
■CDCは変異株を3つのクラスに分けていて,2021年5月7日現在該当する変異株は以下(その後WHOや日本はB.1.617系統もVOCに指定したが,2021年5月21日現在,CDCの分類ではまだVOIのままである)。
  • VOI(注目すべき変異株) B.1.526 (20C/S:484K), B.1.526.1 (20C), B.1.525 (20A/S:484K), P.2 (20J), B.1.617 (20A), B.1.617.1 (20A/S:154K), B.1.617.2 (20A/S:478K), B.1.617.3 (20A)
  • VOC(懸念される変異株) B.1.1.7 (20I/501Y.V1), P.1 (20J/501Y.V3), B.1.351 (20H/501.V2), B.1.427 (20C/S:452R), B.1.429 (20C/S:452R)
  • VOHC(重大な結果をもたらす変異株)まだ該当無し
■例えばN501Yはスパイクタンパク上で変異したアミノ酸とその位置なので変異名。各変異株は複数の変異を含むことがある。
■変異株名としてはPango lineagesによるB.1.1.7やP.2のような命名とNextstrainによる20Cのような命名があるが,VOC-202012/01のような表記もある(VOC-202012/01とB.1.1.7と20I/501Y.V1は同じもの。いわゆる英国変異株)。501Y.V2(いわゆる南アフリカ変異株)や501Y.V3(いわゆるブラジル変異株)はN501Y変異とE484K変異を含む。B.1.617, B.1.617.1, B.1.617.2, B.1.617.3(いわゆるインド変異株)はL452R変異を含む。
■N501Y変異をもつと感染力が強く,E484K変異をもつと中和抗体の有効性が低くなる報告がある。
情報源
(CDC) https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/cases-updates/variant-surveillance/variant-info.html
(WHO) https://www.who.int/csr/don/31-december-2020-sars-cov2-variants/en/
(JAMA) 2021年2月9日のViewpoint "Genetic Variants of SARS-CoV-2-What Do They Mean?" https://doi.org/10.1001/jama.2020.27124
(NEJM) 2020年12月31日のClinical implications of basic research "Emergence of a Highly Fit SARS-CoV-2 Variant" https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcibr2032888
(Vaccines) 2021年3月11日の論文 "Emerging SARS-CoV-2 Variants and Impact in Global Vaccination Programs against SARS-CoV-2/COVID-19" https://dx.doi.org/10.3390%2Fvaccines9030243
(厚生労働省)2021年4月26日付け資料4「新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000774322.pdf

ワクチンは出口戦略になるか?
■NZや台湾は排除(Elimination)戦略をとり,かなり厳格な水際対策(重要!)をとると同時に,感染者が増え始めた時点でロックダウンなどの強い行動制限と接触追跡,検査,隔離を徹底して新規感染者ゼロが数日続いてから制限解除とすることで,長期間にわたって国内感染ゼロ状態を維持している→その状態なら行動制約不要。ワクチン接種を急ぐ必要もない
■ロックダウンを繰り返しても十分に抑え込めず蔓延した欧米諸国では,想定されていた中では最速で有効なワクチンが開発されたことから,ワクチン接種が進んでいる。
■国内で接種承認申請されたのは2021年5月8日現在,以下3つ[https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000707431.pdf]。PMDA承認済はファイザーのみ(追記:2021年5月21日にモデルナとアストラゼネカも特例承認された。ただし,アストラゼネカのものは,5月21日現在,薬事承認はされたが予防接種法に基づく接種には使えない)。
  • ファイザー: mRNAワクチンで約95%の発症予防効果。おそらくPEGのアレルギーの報告あり(日本アレルギー学会報告,https://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?content_id=546)。長期保存はディープフリーザー要。普通の冷凍だと最長2週間有効,その後冷蔵で解凍なら5日以内に希釈,常温で解凍なら2時間以内に希釈し,6時間以内に使用。2021年2月14日承認。
  • モデルナ: mRNAワクチンで約95%の発症予防効果。-20℃冷凍でOK。PEGの問題はありそう。2021年5月21日特例承認。
  • アストラゼネカ: ウイルスベクターワクチン。Oxford Univとの共同開発なのでUKでは多用。発症予防効果は70-80%程度。血栓形成しやすいという報告があり,EU諸国で一時使用停止になった。冷蔵で6ヶ月有効なのが利点。2021年5月21日特例承認。
(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html: 国産ワクチン開発は塩野義製薬,第一三共,アンジェス,KMバイオロジクスなどが取り組んでいるが2021年3月現在,どれも臨床試験中。実用化は2022年以降。
■ワクチン接種はイスラエル,英国などでは効果があったがチリでは奏功せず(BBCなどメディアが批判,BMJのNewsは,1回目接種の後対人接触が増えたせいと論じている。
■日本のようにワクチン確保が遅れた国や,冷蔵・冷凍運搬システムなどのインフラが未整備な途上国ではどうするか(財力の無い国にも公平に行き渡るようにCOVAXファシリティ[https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000747950.pdf]という仕組みが作られ,日本も多額の出資をしているが,ワクチン確保には明らかに国間で差がある)
■ワクチンの効果が落ちるかもしれない変異株(いわゆるブラジル株,インド株など)が出現したが大丈夫か?

性差についての仮説(2021年5月23日)

画面を6行8列に分割して都道府県別covid-19の新規報告数推移の折れ線を描くコードを動かすと下図が得られる。色分けして重ね描きするより,ある意味わかりやすいかもしれない。

都道府県別covid-19の新規報告数推移の折れ線

科学史学会のオンライン公開シンポジウムを拝聴していたところ,討論の方が,COVID-19の重症化や死亡の性差で男性のCFRが高いことを指摘し,社会的な原因かという問いかけをされていたように聞こえた。現象としては2020年2月にはいくつも指摘されていて,ほぼユニバーサルに観察されているし,大規模データでも去年2月の中国CDCの報告でわかっていたし,生物学的なメカニズムについてもいくつか仮説は出ている(Gemmati A et al. "COVID-19 and Individual Genetic Susceptibility/Receptivity: Role of ACE1/ACE2 Genes, Immunity, Inflammation and Coagulation. Might the Double X-chromosome in Females Be Protective against SARS-CoV-2 Compared to the Single X-Chromosome in Males?"Haitao T et al. "COVID-19 and Sex Differences: Mechanisms and Biomarkers"Penna C et al. "Sex-related differences in COVID-19 lethality"Viveiros A et al. "Sex differences in COVID-19: candidate pathways, genetics of ACE2, and sex hormones"など)ので,おそらく社会的な性役割の違いによるわけではないはず。

ADEが起こる可能性を示唆する研究(2021年5月25日)

毎日新聞の記事『コロナ重症化促す「感染増強抗体」発見 阪大、ワクチン開発に一石 | 』,Cell掲載予定と書かれているのは良いが,どうせなら阪大微研のリリースをリンクしたら良いのに。昨年末にプレプリントサーバに載っていた論文がCellにアクセプトされたということのようだ。ADEという現象はDENV2再感染がSevere Dengue / Dengue Shock Syndromeを起こすことで有名なので以前から知っていたし,それがデング熱ワクチン開発上の困難の一因であることも指摘されてきたが(例えばShukla R et al. "Antibody-Dependent Enhancement: A Challenge for Developing a Safe Dengue Vaccine"),抗体依存性感染増強という現象がSARS-CoV-2でも起こりうるなら,今後出現するであろう新たな変異株で要注意だなと思う。

CDCが日本への渡航中止を求めるLevel 4指定をし(確かに,"Travelers should avoid all travel to Japan.","Because of the current situation in Japan even fully vaccinated travelers may be at risk for getting and spreading COVID-19 variants and should avoid all travel to Japan."と書かれている),スリランカとともに渡航してはいけない国に入った。リンク先をみると,PNG,インド,ネパール,カンボジア,ラオス,フィジーなど多くの国が同じ扱いになっている。おそらくB.1.617系統がまだ米国では多くないためにCDCの指定もVOIのままであり,その侵入を防ぎたいということか? 米国政府としての決定はどうなるかわからないが,CDCの推奨を素直に読んだら,日本に渡航する選手や関係者はワクチン接種するし検査もするから安全だと強弁しているIOCや日本政府のロジックは瓦解するよな(しかも,その安全性強弁は熱中症リスクを無視したもので,仮にCOVID-19パンデミックがなかったとしても,熱中症リスクだけでも真夏の東京でのオリンピックは医療崩壊を起こす危険があることを踏まえたら,端から成り立たないのだが)。2ヶ月以内に状況が劇的に改善する見込みはほぼゼロだと思われるので,以前から書いているが,オリンピックはできる限り早く中止決定した方が良い。

GCP基礎論のQ&Aを掲載(2021年5月27日)

Sparrow AK et al. "Protecting Olympic Participants from Covid-19 — The Urgent Need for a Risk-Management Approach"(NEJMのPerspective,2021年5月25日)は,"With less than 2 months until the Olympic torch is lit, canceling the Games may be the safest option."までは同意。けれども,競技別に感染リスクを分けて運営可能な方法をPlaybookに掲載して実施できたら人々を繋ぐことができるという見通しは熱中症リスクを考えてないので机上の空論。

これはやっかい。SNSで間違いを指摘されたユーザーは、さらに多くの誤った情報を投稿することが判明(カラパイア,2021年5月25日)は,インフォデミック対策のために参考にすべき知見。元論文(Mosleh M et al. "Perverse Downstream Consequences of Debunking: Being Corrected by Another User for Posting False Political News Increases Subsequent Sharing of Low Quality, Partisan, and Toxic Content in a Twitter Field Experiment",2021年5月)へのリンクもあって良い記事だ。ただ,研究参加者の中に,最初から仕事として意図的にfake newsを流している人がいたら,間違いと知らずに書いた人とは行動が違いそうだが。

先週のGCP基礎論講義に学生から届いた質問への回答はわりと時間を掛けて書いたので,BEEFにも掲載されたそうだが,差し支えがない範囲で加筆修正してここにも公開しておく。

マスク着用と集団主義(2021年5月29日)

Lu JG et al. "Collectivism predicts mask use during COVID-19"(ProNAS,2021年6月8日号)は,米国内でも州ごとの集団主義傾向(Vandello and Cohenの論文によるが,Tightness-Loosenessも調整した)が,COVID-19の影響の大きさと州政府の厳格さを調整してもマスク着用頻度(NY Timesの調査による)と正の相関関係をもつことと,世界29の国と地域でも集団主義傾向(Hofstede's indexとGLOBEのin-group collectivism indexによる)とマスク着用(YouGovのデータによる)が集団単位でみても個人単位でみても正の相関関係をもつこと,FacebookとMITが協力して実施した,世界67の国と地域の人々の調査でも,国レベルと個人レベルのどちらでも,集団主義傾向と個人のマスク着用とコミュニティにおけるマスク着用についての認知の両方が正の相関関係をもつことを示している。マスク着用と文化の関係が量的にクリアに示されていて興味深いので,来週提示するMedical Anthropologyのディベートのネタに絡ませよう。

Liu Y et al. "Associations between changes in population mobility in response to the COVID-19 pandemic and socioeconomic factors at the city level in China and country level worldwide: a retrospective, observational study"(The Lancet Digital Health,2021年6月1日)は人流抑制と社会経済状態の関連の分析。

Wood SN et al. "Need for and use of contraception by women before and during COVID-19 in four sub-Saharan African geographies: results from population-based national or regional cohort surveys"(The Lancet Global Health,2021年6月1日)はサハラ以南のアフリカでCOVID-19の前と流行後の女性の避妊の必要性と使用というタイトル。

Vitale J et al. "Assessment of SARS-CoV-2 Reinfection 1 Year After Primary Infection in a Population in Lombardy, Italy"(JAMA Internal Medicine,2021年5月28日)は,1年経っても再感染はほとんどしていないというデータのようだ。

Cheng Y et al. "Face masks effectively limit the probability of SARS-CoV-2 transmission"(Science,2021年5月20日)はマスクがSARS-CoV-2の伝播確率を効果的に限定するというタイトル。最近似たような論文を読んだ気がするが気のせいか。

Jones TC et al. "Estimating infectiousness throughout SARS-CoV-2 infection course"(Science,2021年5月25日)も面白そうなので後で読む。

精神疾患リスク上昇とRNAウイルスの組み換えについて(2021年6月2日)

体調不良で休養中のLittle Glee Monster芹奈さんが双極性障害であったと発表され,プロテニスプレイヤーの大坂なおみさんがうつに苦しんできたと発表されたが,PubMedをcovid-19にmood disorderとかbipolar disorderとかdepressionを掛けて検索するとたくさんの論文が見つかる。レビュー論文も出ていて,Xiong J et al. "Impact of COVID-19 pandemic on mental health in the general population: A systematic review"(J. Affect. Disorder,2020年12月1日)などを読むと,COVID-19パンデミックで高まった社会不安や行動制約がメンタルヘルスに及ぼす悪影響が大きく,双極性障害,うつなどの気分障害の発症や再発が起こりやすくなっているのは間違いないようだ。気分障害はもともとかなり有病割合が高く,誰でもなる可能性がある。COVID-19罹患自体の影響や経済活動の制約による生活苦などに比べると,これまであまりフォーカスされてこなかった気がするが,公衆衛生行政的にもちゃんと対策をとらねばならないと思う。(2021.6.1)

メモとして。同じ座位でも違う変異なんだな。インド変異株として触れられることが多い(B.1.617.2を除く)B.1.617系統で見られるのはE484Q(グルタミン酸→グルタミン)だが,B.1.351(=20H/501.V2)やP.1(=20J/501.V3),P.2などに見られるのはE484K(グルタミン酸→リシン)。で,N501Y変異とE484K変異を含む変異株はB.1.351やP.1などこれまでもあったが,昨日から報道されているのはN501Y変異とE484Q変異を含む株ということか。変異株の系統樹は変異の蓄積を仮定して最節約原理で推定するのが基本だと思うが,これは組み換えっぽいなあ。昨年夏の時点では組み換えも既に起こっているけれど稀だろうと推定されていたが,意外に多いのかも。(2021.6.2)

両方必要(2021年6月4日)

Thorisdottir IE et al. "Depressive symptoms, mental wellbeing, and substance use among adolescents before and during the COVID-19 pandemic in Iceland: a longitudinal, population-based study"(Lancet Psychiatry,2021年6月3日)は,アイスランドでCOVID-19パンデミック前後で若者のうつ症状,精神状態良好かどうか,薬物使用について比べたのだろうというタイトル。Stephenson J "Children and Teens Struggling with Mental Health During COVID-19 Pandemic"(JAMA Health Forumのニュース解説記事,2021年6月1日)もそうだが,若者のメンタルヘルスへの影響について,どの国でも十分な配慮が必要。

Patel MD et al. "Association of Simulated COVID-19 Vaccination and Nonpharmaceutical Interventions With Infections, Hospitalizations, and Mortality"(JAMA Network Open,2021年6月1日)は,ワクチン接種とNPIsを組み合わせた介入が,感染,入院,死亡にどう影響するかを調べたシミュレーション研究で,ワクチンを打ってもNPIsを止めると感染,入院,死亡ともかなり増えるという結果が得られている。この論文には,Doroshenko A "The Combined Effect of Vaccination and Nonpharmaceutical Public Health Interventions --- Ending the COVID-19 Pandemic"(同号)というコメントが付いていて,ワクチンだけに頼るのではなく,NPIsを継続することが,パンデミック終息のためには必要だと主張されている。

Hay JS et al. "Estimating epidemiologic dynamics from cross-sectional viral load distributions"(Science,2021年6月3日)はRT-PCRのCt値を使ってウイルス排出量の分布を推定することによって,流行動態の推定を改善するという論文。日ごとに感染パラメータが変わることを許容するためSEIRよりずっと柔軟性が高い(NPIsの実施など確かに日ごとに変わりそうだから尤もな)ガウス過程モデルを使ったとのこと。ちゃんと読んでみないとわからないが,ガウス過程モデルは機械学習の一種のようだ

NEJMのcovid-19特集ページの上の方にワクチン誘導性血栓による血小板減少症(VITT)関連の報告が複数載っていて,最新の6月2日付けのCorrespondenceは,南アフリカでアデノウイルスベクターワクチンであるAd26.COV2.Sの第3b相臨床試験として50万人の医療関係者に接種した副反応の中間解析で,30万人近く接種した中で血栓関連の副反応が生じたのは5人だけで,全員が血栓塞栓症のリスク因子をもっていたとしている。アストラゼネカのウイルスベクターワクチンで血栓が問題になってから,関連データの蓄積が求められてきたので,NEJMがこういう形でまとめているのだろうと思われるが,先進国での接種に関しては,ファイザーやモデルナのmRNAワクチンが利用できるのだから,ウイルスベクターワクチンを使う必然性はあまり高くないように思った。

変異株の呼び方(2021年6月5日)

メディアのウイルス変異株の呼び方の適当さが気になって仕方がない。とくにPango Lineageの命名法の"."を省略するのは止めて欲しい。あれはRのバージョンと同じく"."で区切られた整数に意味があるので,B.1.1.1.36だったC.36をC36と書いてはいけない。TBS NEWSの記事には「国内では見つかっていなかった」とあるが,Pango Lineageによると去年の春にはエジプトで報告されていて,日本国内報告も6例あるらしいのだが,この6例って全部最近なのか?

よく参照される命名法には,Pango Lineageのものの他にNextstrainのものもあるが,2021年5月31日に,名称が複雑でわかりにくいからメディアなど非科学者コミュニティが参照しやすいようにということで,WHOがギリシャ文字のラベルを付け始めた。このWHOのラベルは,系統関係とも含まれている変異とも関係が無く,VOCとVOI別々に検出順に付けられているので(VOCについてみると,変異株として世界的に最初に注目された「英国で最初に見つかった変異株」ことB.1.1.7がAlpha,次に注目を浴びた「南アフリカで最初に見つかった変異株」ことB.1.351がBeta,次に注目を浴びた「ブラジルで最初に見つかった変異株」ことP.1がGammaとなっている),WHOの表を参照しないと何なのかがわからない(例えば,VOIであるB.1.617.1がKappa,系統的には近いがVOCであるB.1.617.2がDelta)。それでも,初めて検出された国の名前を使って「○×株」と呼ぶのに比べると,差別や偏見を避けることができるから,良いラベルなのかもしれない(VOCとVOI別々に報告順にAlpha-DeltaとEpsilon-Kappaになっているから,ずっとフォローしていればわからないこともないかもしれないし)。ただ,VOIからVOCに指定が変わったり,新たにVOCにしたい株が出てきたらどうするのだろう?

人口学会の会長講演で出てきた話として,COVID-19の出生力低下影響については,UNFPAのレポートUKのCPCという研究所のワーキングペーパーなど,いろいろ報告がでている。

日本人口学会コロナセッションメモ(2021年6月6日)

日本人口学会第73回大会2日目には,企画セッション(3)として「新型コロナ感染拡大と人口動態:何が分かり,何が起きるのか」があったので参加した。以下その一部に関連したメモ。

2020年は死因に占めるCOVID-19はとくに目立たないけれども肺炎が減って老衰が増えたという話(それ以前からのトレンドでもあるが)は,COVID-19対策のNPIsで感染経路が近い呼吸器系感染症全般のリスクが低下したためにインフルエンザの冬のピークも無く,肺炎も減ったのだとすると,それらの競合死因が減った結果として,老衰が増えたという可能性が考えられると思った。しかし,2020年12月31日時点のCOVID-19の累積検査陽性者数233,785人,累積死者数3,459人だったのに対して,その後半年も経っていない2021年6月4日現在で,累積検査陽性者数750,364人,累積死者数13,445人と,それぞれ3倍以上になっている(東洋経済のサイトによる)のが,今年になってからの日本の感染拡大状況を如実に示しているので,日本におけるCOVID-19の死因構成への影響を人口学的に分析するには,今年のデータが揃うまで待たねばならない。とはいえ,こういう事態にならず,もっと早い時点で抑え込むこともできたはずだと考えると残念でならない。

アフリカ諸国でCOVID-19による死亡報告が少ないのは,この論文で他の国について指摘されているように,実はCOVID-19による死亡であっても報告漏れが多いための過小評価なのだろうと思う。婚姻・出生への影響については昨日も書いたようにUNFPAやCPCからレポートが出ているが,岩澤さんによる日本のデータからの推定(要旨)はチャレンジングで興味深かった。婚姻が激しく落ち込んでいるので,今後出生への影響も出てこないとは考えにくいという話。次の国内人口移動(移住)への影響も興味深い話で,東京都への転入超過が大きく減っていて,とくに23区西部の転入超過の減少が顕著とのこと。住基ベースだと2020年12月までのデータが既に使えるのだな。

世界の状況をずっとフォローするのも難しいが,WHOのDashboardを見ると,インドは一時期の危機的な状況は乗り越えつつあるように見える反面,アルゼンチンやコロンビアなど南米で感染急拡大局面にあるように見える。

保健行政としてのコロナ対策の流れ(2021年6月8日)

5月31日にtweetされていた,東大仲田准教授のシミュレーションだが,開催するのに人流増加がないという非現実的な仮定でのシミュレーションに何の意味があるのか。しかも熱中症や変異株を無視した予測ではまったく意味が無い。観光旅行をしても対人接触や会食をしないという非現実的な仮定で旅行自体はリスクでないと強弁して実施されたGoToキャンペーンを思い出す。(2021.6.7)

保健行政論の講義資料をまとめた。COVID-19に絞ろうかとも一瞬思ったが,むしろ保健行政全体の流れの中でのCOVID-19対策のあり方を説明する方がわかりやすいのではないかと考え直して資料を作ってアップロードした。

ベースライン(主として都道府県ごとの対策という枠組み)
感染症法(感染症の分類,基本的枠組み,知事の権限,私権制限と公費負担)
医療法(都道府県医療計画で病床の計画的配置)
検疫法(国の水際対策)隔離・停留は新感染症ならできるが指定感染症では不可
予防接種法(A類/B類,公費負担,基本方針は国だが定期接種実施は保健所長の指示で市町村長が実施)
学校保健安全法
文科省
新型インフルエンザ等対策特別措置法(新感染症なら適用可,指定感染症には当初適用できず):ref1ref2
国際保健規則(IHR) 参考
官邸対策本部をトップとする組織(河合香織『分水嶺』岩波書店参照)
当初は専門家会議が厚労省の下に(明確な法的位置づけはなく)存在し,公衆衛生的な現状分析とリスク評価,助言をしていた(が,発表や提言は厚労省と内閣府の検閲を通ったものしかできなかった)。リスク管理とリスク評価は別主体
東大牧原教授の助言→独立した科学顧問(おそらく英国GCSAのようなイメージ)が政府対策本部と専門家の橋渡しをするために専門家会議は解散すべき→2020年7月3日専門家会議廃止。但し科学顧問は置かれず,「分科会」が対策本部の下に位置づけ=リスク評価がリスク管理からの独立性を失う枠組み
特措法改定
感染症法上の新感染症でなく指定感染症かつ検疫感染症に
1年延長
まん延等防止措置導入のための改定
その他のCOVID-19対処政策
病床確保の通知
外務省海外安全
ワクチン分科会20210531(資料1が大変参考になる)
経産省職域接種

職域接種について最後に触れたが,経産省のサイトに説明があることから明白なように,あれは経済を回したいことから始まった発想で,高齢者の重症化や死亡を防ぐことや医療従事者や対人接触が多いハイリスクな職種の人から優先的に接種するという感染症防御の考え方とは合致しない。それでもできるところから進めてカバー率を上げていけば集団免疫に寄与するからいいではないかという考え方にも一理あるかもしれないが,情報アクセスが不得手で移動も不自由な高齢者や,中小企業で働く人や個人事業主が取り残され,社会格差が広がる危険があることは忘れてはならない。仮に職域接種が進んで見かけのワクチンカバー率が上がっても,不均質なカバーだと集団免疫閾値を額面通り受け取ることができなくなるはず。(2021.6.8)

うーん,(1) 感染終息していない状態で医療人材や施設に負荷を掛けるイベントはすべきでない,(2) 仮にワクチン接種した人だけが来日するとしても遺伝的背景が多様な人が接触することによって新たな変異株が生じるリスクが高まる,(3) 国費の行き先をオリンピック関連企業に偏って投資することによる格差が拡大する,(4) 熱中症リスクが高い時期なので元々救急医療への負荷が高いのに,救急が破綻してしまう可能性がある,(5) 世界で終息していないことから国によって参加のチャンスが不公平であり,そもそもオリンピック憲章に反する大会である,くらいで,中止勧告を出す理由としては十分ではないのかなあ。(2021.6.8)

まだ安心は早い(2021年6月9日)

昨日付でCDCの日本への渡航の危険水準がLevel 4からLevel 3に下がったのはこのページに載っているincidence rateの基準によるのだとしたら,過去28日間に人口10万人当たりの新規感染報告数が500を切ったということか。

COVID research: a year of scientific milestones(NatureのNews,2021年5月5日)で,Furuse Y et al. "Clusters of Coronavirus Disease in Communities, Japan, January-April 2020"(Emerging Infectious Diseases,2020年9月)が紹介されているのは快挙と思う。クラスターの発端感染者の可能性が高い22人の多くが無症状または発症前の20-39歳の人だったという結論が大きな貢献ということだろう。

昨日久々にグラフを描いてみた。インドは減り始めたがブラジルはずっと横這い。UKやインドネシアは再び漸増傾向か。USAがワクチンのおかげで減ったと喧伝されているが,まだUKより多いので安心はできないと思う。首都圏もまだ横這いだなと思った。

これは,インフォデミックのアクセラレータというか,専門家が言ってもいない誤情報を,専門家が言ったこととして広める人は,誤情報の拡散+専門家への信頼を低下させるという二重の効果を狙っていると気づいた日の記事。

神戸市の戦略(2021年6月11日)

ここで書かれているし,1月の「1日当たり500人を下回った時点で緊急事態宣言を解除した場合、50日足らずで宣言前のレベルにまで戻るとの試算」もだいたい合っていたのに,西浦さんの予測が外れてきたというデマを喧伝するTwitterアカウントが多い。昨年4月の「何も対策しなければ42万人死亡」は感染症疫学では当然示すべきワーストシナリオの話で,緊急事態宣言を出したのだから,感染者も死者もそれよりずっと少なくなって当然である。Harvard大学のMarc Lipsitch教授も去年2月時点で準備が間に合わなければ世界人口の40-70%が感染するという予測を出している。いろいろなNPIsが行われたのと,想定外の早さでワクチンが実用化されて広く接種されたおかげで,そこまでの蔓延に至っていないのは,対策が奏功したということであって,予測が外れたのではない。だから,デマアカウントにはきちんと反論する必要がある。西浦さんのこれまでの予測がだいたい合っていたという数字をまとめておくページを作るべきか。

神戸新聞の記事によると,自分は50代の神戸市民なので7月5日から予約できるのか。神戸大学も6月下旬から職域接種を始めると昨日決まったそうだが,ワクチン接種加速によって,保健所職員の手が足りず必要な接触者追跡を諦めたことによる感染拡大効果が出てしまうのを防ぐ戦略か。間に合えばそれでも良いのかもしれないが。

シオノギとシスメックスの感染初期のTARC低値が重症化予測因子となるという発見を利用したキットの保険適用のニュース。でもメディアの報道やこのリリースだけでは予測性能がわからないなあ。既知の重症化予測因子に比べてどうなんだろう。

NPIsがなかった場合の気温や人口密度の影響(2021年6月14日)

Smith TP et al. "Temperature and population density influence SARS-CoV-2 transmission in the absence of nonpharmaceutical interventions"(ProNAS,2021年6月22日号)実際にはロックダウンなどのNPIsがあったので,もしNPIsがなかったら気温や人口密度がSARS-CoV-2の伝播にどれくらい影響したのか,直接はわからないわけだが,USAのデータに基づいて数理モデルで推定したという論文のようだ。ざっと流し読みした感じでは,州単位でみると気温と人口密度に逆相関関係が見られたので,それを補正して気温とR0の関係をみると,やはり逆相関していたという結果と思われる。ちゃんと読んでみないとわからないが(時間があったらちゃんと読んで追記するつもり)。

それでも断固この夏のオリンピックには反対(2021年6月16日)

メディアの報道を聞いていると1万人上限で観客を入れることを検討しているとか政府の世迷い言がさらに悪化しつつあるようだが,本当にそうなのかと思って,専門家会議の提言さえ一字一句チェックし差し障りのないように変えてからでないと発表させない政府ドメインを検索してみたら,2021年6月15日付けで国会に提出された「東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営の推進に関する政府の取組の状況に関する報告」が公開されていたのだが,これが酷い代物で,「はじめに」からデタラメな世迷い言だらけで唖然とした。

この期に及んで「また、同月24日、安倍内閣総理大臣等とIOCバッハ会長は電話会談を行い、大会の中止はないことについて、改めて確認した上で、世界のアスリートが最高のコンディションでプレーを行い、観客にとって安心で安全な大会とするため、遅くとも2021年の夏までに開催することで合意し、人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全な形で実施できるよう、IOCと緊密に連携していくことで一致した。」(引用者注:同月とは2020年3月のこと)と恥ずかしげもなく書いてしまって疑問を感じないのだろうか。

仮にCOVID-19パンデミックが起こらなかったとしても,酷暑の真夏に(4ページには「大会は暑さの厳しい時期に開催される」と自白してしまっていて支離滅裂である),空気も地表水も決してきれいではない東京で(とくにトライアスロンやオープンウォータースイミングを雨が降ると大腸菌が検出されることがある東京湾で)「最高なコンディション」がありえないことは明白だし,熱中症リスクを軽減できる見込みが一つもないのに(COVID-19の変異株が流行している現在では尚更だが)「観客にとって安心で安全」もありえないことが明白なのに,招致時の嘘をシャアシャアと繰り返す神経がわからない。

3ページで「大会期間中には、日本経済の中心地である東京において、多数の大会関係者及び観客の移動が見込まれるため、円滑な輸送の実現は大会成功の鍵の一つであるとともに、日本経済にとっても大きな課題となる」と書いてしまっているが,感染拡大防止策としての人流抑制のために感染リスクが低い美術館・博物館や映画館まで営業に制約を掛けている現在,「多数の大会関係者及び観客の移動」が感染リスクを上げないとでも思っているのだとしたら(感染リスクを上げない移動という人間の本性に反する行為が可能であると強弁して実施されたGoToキャンペーンで感染拡大したことは明らかだし,緊急事態宣言下での人流抑制を目的とした諸策と矛盾するわけだが),あまりにも予測能力がなさすぎる。かつてドーキンスが人間が他の動物と違う点として大きな予測能力を上げていたが,もしかすると現在の日本政府でオリパラを進めようとしている人たちは人間ではないのかもしれないと思ってしまうほどである。しかしそこまで予測能力がないとはさすがに思えないので,たぶんわかっていて嘘を書いているのだろう。だとしたら罪は重い。

この文書,証拠保全のために多くの人がダウンロードしてとっておくと良いと思う。

変異株別の分析論文(2021年6月18日)

6月15日付けで官邸サイトに載っている新型コロナウイルス感染症に関する国内外の研究開発動向については莫大な情報がまとまっている。概ねソースも示されているのが良い。

昨日付けのEurosurveillanceにCampbell Finlay, Archer Brett, Laurenson-Schafer Henry, Jinnai Yuka, Konings Franck, Batra Neale, Pavlin Boris, Vandemaele Katelijn, Van Kerkhove Maria D, Jombart Thibaut, Morgan Oliver, le Polain de Waroux Olivier. Increased transmissibility and global spread of SARS-CoV-2 variants of concern as at June 2021. Euro Surveill. 2021;26(24):pii=2100509. https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.24.2100509という速報が載っていて,変異株別の実効再生産数の増加割合が比較されているFigure 1をみると,B.1.617.2(=Delta)の強烈さが一目でわかる。

変異株別の分析ということでは,昨日の朝tweetした(物凄い数のRTといいねをいただいた),西浦さんたちのグループがどこかに投稿中の論文がプレプリントサーバに載っているのをニューロドクター乱夢さんがブログで紹介されているものも重要だと思うので,早くアクセプトされると良いなあ。

政府CIOポータルサイトに,ワクチン接種記録システム(VRS)についてというページが2021年1月25日に開設されていて,そのことは「お知らせ」でアナウンスされているのだが,そこの「更新情報」の中に2021年5月27日付けで掲載されている高齢者等の接種状況ダッシュボード(ページ内リンク)から,「ダッシュボードで接種状況を詳しく見る」とリンクされているダッシュボードにはCIOポータルサイトトップのお知らせからのリンクがないのが勿体ないと思う。医療従事者等への接種状況データへのリンクを含む,官邸のワクチン接種状況のページからリンクされているが,CIOポータルサイトのお知らせにも載せてくれた方が見つけやすいだろう。つぎはぎで作られているから仕方ない面もあるが,ワクチン接種関連情報の公開のされ方は体系立っていないので美しくないと思う。職域接種の総合窓口が官邸サイト内にあるのだが,そこからリンクされている申請ページは,goドメインの中に官邸サブドメイン内とは別のgbizサブドメインが作られていて,なぜか厚労省の管轄なようだ。まあ他人のことをとやかくいえるほど,自分のサイトも整理されているとは言いがたいが。

神戸市からCOVID-19の接種券や予診票が届いていた。基礎疾患があると(BMIが30を超えていることも含むと明記されていた)優先接種の対象になると書かれていたが,該当しないので7月5日以降しか予約できない。そうなるとたぶん職域の方が早いだろうから,その場合はこの接種券を職域の方に提出することになるらしい。

リスク管理とリスク評価が独立していなくてはいけないのは去年から書いてきたことだが,漸く西浦さんも書いてくださった

ワクチン効果の持続期間と変異株への有効性(2021年6月19日)

Doria-Rose N et al. "Antibody Persistence through 6 Months after the Second Dose of mRNA-1273 Vaccine for Covid-19"(NEJMのCorrespondence,2021年6月10日)によると,モデルナのワクチンを2回接種後の抗体は半年はある程度のレベルが維持されるようだ。

今日付けのLancetでWall EC et al. "Neutralising antibody activity against SARS-CoV-2 VOCs B.1.617.2 and B.1.351 by BNT162b2 vaccination"(LancetのCorrespondence,2021年6月19日)が出ていて,ファイザーのmRNAワクチンを2回接種してもδ株への中和抗体活性は従来株の1/6程度に落ちると書かれている。今後更なる変異株が出てくる可能性を考えると,ワクチン接種を加速するだけで切り抜けられると考える(どうも政府はそう考えているように思われる)のは楽観的すぎるだろう。

オリンピック反対提言を某学会から出したいと思って動いているのだが,科学的な根拠が欲しいと言われたので,以下のメールを出してみた。

反対の科学的な論拠としては,以下が挙げられます。

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210616/1000065831.htmlで報道されている古瀬さんたちのモデル予測結果がhttps://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000793713.pdfにあり,もっともありそうなδ株の影響大の場合68-70ページにあるように破滅的な結果になります。

https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.24.2100509https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.06.12.21258835v1など,変異株別の推移を考えると,δ株の影響を考えないことは非現実的です。

さらに,熱中症による救急搬送がただでさえ多いのに,日本の暑さに慣れていない海外からのアスリートや報道関係者が熱中症リスクが高いと考えられること,熱中症リスクとマスク着用による感染予防が両立しにくいこと,など考えると,rigidな数字は出せませんが,オリンピックを開催すると東京の救急が致命的なダメージを受けることはほぼ明白です。https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/neccyuusyounennpou.pdf

https://www.mdpi.com/1660-4601/18/7/3620として,時系列解析で負荷を予測し,結論として,熱中症とCOVID-19の二重負荷を考えたら,この夏に五輪を実施したら基幹保健医療サービスの維持が困難になるとする論文が3月31日に出ています。

正当な読み筋が大事(2021年6月20日)

部分部分は正しくても,読み筋が間違っていると主旨が変わってしまうことには注意が必要という例に出会った。ぼくがtwitterでフォローしている方の何人かがRTしていたので知った,このtweetだが,ProNASがそんな(防疫にはPCRが不適当で簡易抗原検査しかないなんていう)論説載せるかなあと思って原文を読んでみたら,まったく主旨が違っていた。おそらく"If serial RT-PCR–based viral load measurements are not feasible for population screening at a given location, then high-specificity assays that are simpler and of lower sensitivity—so that SARS-CoV-2 is only detected at viral loads that are capable of transmission—are needed for repeat testing and SARS-CoV-2 pandemic control."という一文を拡大解釈しているのだろうが,コメンタリー全体から言えば末節だし,「もしスクリーニングのために継続的なRT-PCRに基づいたウイルス負荷量の測定が受け入れにくい場所があったら,」に続く代替案が,感染力があるウイルス排出を検出するために,特異度が高くて感度が低い簡易検査を繰り返し実施することだと主張しているに過ぎない。

原文は,ぼくも先月触れた,無症状の大学生と発症した病院サンプルで大規模に実施したRT-PCR検査でCt値を使って,無症状でも症状があってもウイルス負荷の分布には差が無くて,ウイルス存在量の90%は2%の人に存在しているとしたYang et al.の論文へのコメントとして書かれたもので,ウイルス負荷の個人差と時間経過に伴う変化から考えて,一時点で採取されたサンプルで陽性/陰性という二値判定をするのではなくCt値を使ってウイルス負荷を調べるべきと主張すると同時に,大量のウイルスが体内に存在していても発症しないdisease tolerance(疾病耐性)現象の重要性に注目して,そのメカニズムが炎症性サイトカイン抑制にあるのか,組織修復能力の高さにあるのか,ILCs(自然リンパ球)の作用なのか,などを調べることが新しい抗ウイルス療法の鍵になるのではないかと提言していた。

イントロ部分で,PCRや次世代シークエンサーといった技術革新のおかげでウイルスによるパンデミックへの対応は大きく変わり,スペインかぜの病原体はアウトブレイクの後何年も経ってやっと見つかり,HIV-1はAIDS初報後2,3年で見つかったのに比べると,SARS-CoV-2は原因不明の致死的な肺炎が報告されてから何週間も経たないうちにゲノム配列がインターネットで誰でも入手できる状況になったという迅速さが,研究者やワクチン製造業者や診断ラボの活動に弾みをつけた,と書いて,Yang et al.の論文に触れるための導入部としているのが格調高くて,ProNASへのコメンタリーはこういう感じで書けばいいのかと勉強になった。

変異株情報はGISAIDをフォローしよう(2021年6月22日)

日本健康学会誌の最新号が届いたということはJ-STAGEでも公開されただろうとチェックしたら,案の定公開されていた。巻頭言として書いたパンデミック下におけるインフォデミックとアカデミアの関わりだが,一箇所誤変換があるものの(「俗に」とすべきところが「続に」となっている),学問にかかわる皆様に広くお読みいただきたい内容。この巻頭言の最後に書いたことは,既にblogで公開している内容と同じだが,ここで紹介したLancet Infectious DiseasesのEditorialはとても重要で,研究者が「誤情報自体や,誤情報の出版・流布に対する反対活動を積極的にすべき」には強く共感する。いろいろtweetしているのもそのため。

COVID-19の変異株については,GISAIDのページをチェックしておくと良いと思う。しかし各国の変異株の扱いは微妙に違っていて,いつの間にかCDCもdelta株(B.1.617.2)をVOCに指定していた。逆に,WHOはVOIに区分しているepsilon株(B.1.427/B.1.429)を,CDCはVOCに指定している。日本の感染研は変異株についてという固定ページを作っていないようで,現時点での最新報告はこれだが,COVID-19関連情報ページから随時辿るしかないようだ。変異株についてまとめた固定URLのページを作って欲しいところ。

Imai M et al. "Characterization of a new SARS-CoV-2 variant that emerged in Brazil"(ProNAS,2021年7月6日号)は,東大医科研の河岡先生のグループからの論文で,gamma株(P.1)についての詳報。この株は南米で猛威を振るっていたが,最近は減りつつある(とはいえ,GISAIDによると,ブラジルでは過去4週間の84%がgamma株らしいが)。この論文は,元々のSARS-CoV-2への感染でできる抗体も,mRNAワクチンでできる抗体も,この変異株にある程度の中和活性を示したけれども,若干抗原が違っていることを示しているようだが,世界的にみれば,delta株についてのこういう論文が欲しいところ。

副反応関連のメモ(2021年6月23日)

Dr. Eric Topolこのtweetで知ったが,Sprent J, King C "COVID-19 vaccine side effects: The positives about feeling bad"(Science Immunology,2021年6月22日)は,mRNAワクチンの2回目の接種で疲労感,頭痛,発熱などの副反応が起こる仕組みを,インターフェロンの作用と説明していて,Dr. Topolは「ワクチンは本来の仕事をしているだけ」とコメントしている。つまりダーウィン医学風に言えば,自然の生体防御反応なので,起こって当然だし,重大な副反応と考える必要は無いということ。

そういえばtweetだけして,ここには拾わなかったが,JAMAに,mRNAワクチンを打つと精子濃度も運動性のある精子数も減らず,むしろ増えるという研究報告が載っていたのは,ワクチンで不妊になるという不安を持つ人がいるからなのだろう。ワクチンは不妊化のために意図的に接種されているという陰謀論は昔からあり,World Health Report 2007 "A Safer Future"でも触れられていたように,昔ナイジェリアで経口ポリオワクチン(OPV)がムスリム不妊化のための陰謀という噂が流れて北部のムスリムの多い地方からOPV反対運動が起こって政府がOPVを止め,既にポリオ流行が止まっていた南部だけでなく周辺諸国までポリオが再流行してしまったという事例が典型的だと思う。そもそも病気が無ければ健康な状態で注射を打つ必要も無いわけで,おそらく人間には元々ワクチン忌避の傾向があるように思われるが,こういうデマが流れるとさらに不安が煽られて,ヒトは不合理な行動を取りがちなので,最初に挙げたJAMAの研究のように,デマを否定する実測データを示すことも重要なのだろう(Ghinai I et al. (2013) "Listening to the rumours: What the northern Nigeria polio vaccine boycott can tell us ten years on", Global Public Healthも参照)。

もっとも,毒性学の講義で毎年最初に喋っているが,薬もワクチンも(もっといえば食物さえも)異物を体内に取り込むわけだから,どれも効果と副反応リスクのバランスに基づいて使うかどうかを決めるのが合理的な態度であることも間違いなく,空気感染する上に感染すると免疫記憶がリセットされてしまうという報告がある麻疹や,マイクロ飛沫感染し,スペインかぜ並のCFRがあるCOVID-19については,9割以上の発症予防効果があるワクチンがあったら,Science Immunologyの論文に書かれている程度の副反応がかなりの確率で起こるとしても,受ける方が合理的な判断だと断言できるけれども,ワクチン以外の感染予防が可能な性感染症や蚊媒介感染症については,そこそこの予防効果があるワクチンを打つことが合理的かどうかは一概にはいえない。医師には,わりとその辺りの議論を雑にして何でもワクチン推奨する人が多いように見えるのだが,科学的あるいは公衆衛生上の議論としては,同一視はできない。

学生からの質問メールへの返事(2021年6月24日)

保健行政論を受講していた学生からなぜワクチン接種が義務でなく任意なのかという重要な質問メールが届いていたので返事。以下若干修正して掲載。

もって当然の疑問と思います。

自治体での接種は予防接種法第6条第1項または第2項に基づくもので,厳密に言えば任意ではなく勧奨接種で市民は接種を受ける努力義務があります。定期接種A類と同様です。だから無料だし,健康被害が起こったら補償を受けられます(定期接種A類は実費徴収可ですが)。(以下リンク先厚労省資料参照)

医療従事者対象の接種は別枠で,特定接種になりますが,やはり勧奨で努力義務ありです。

企業での接種は経産省あたりからの要請で,経済を早く回すために特例で行われているので,たぶん任意です。これを無料でやるのは変な気もするのですが,自治体の負担を減らし迅速な接種を進めるためという大義名分で政策実装されてしまったものと思います。なので,企業での接種については整合性がありませんが,現在の日本政府は,時々こういう強権を振るいます。(この段かなり主観ですが)

なぜ予防接種法に基づく臨時接種や特定接種が勧奨にとどまっていて強制でないかというと,歴史的経緯があります。かつて予防接種法に基づくインフルエンザワクチンの学童集団接種を含め,現在のA類に当たる一類(つまり蔓延防止を目的とした接種。B類は高齢者の重症化予防が目的です)の定期接種を受けることは義務でした。

https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000s2dr-att/2r9852000000s2kz.pdfに詳しく書かれていますが,接種事故や副反応に対する訴訟が相次ぎ,健康被害補償を手厚くしたものの,インフルエンザ予防接種について学童にはほぼ効果が無いとする「前橋レポート」が大きなきっかけとなり(なお,後に西浦さんが,『インフルエンザ21世紀』という本で瀬名秀明さんのインタビューに答えて,数理モデルによると学童自身の罹患が防げなくても高齢者の超過死亡を減らす効果はあったはずと指摘していますが),平成6年(1994年)インフルエンザを蔓延防止のカテゴリから高齢者の重症化予防のカテゴリに移しただけではなく,それまで蔓延防止を目的としていた接種すべてを義務から勧奨に変えてしまいました。

本当は全部勧奨にするのではなく,麻疹と風疹は定期接種の中でも義務で残すというような方法もとれたと思いますが,このとき以来,日本では予防接種を義務にできなくなってしまったのです。

厚労省が事故や副反応や訴訟を起こされることをここまで嫌うのは,その少し前,血友病患者に投与した血液製剤によるHIV/AIDS感染について,厚労省が不作為の責任を問われて世間の批判を浴び,訴訟によって巨額の賠償をしなくてはいけなくなったことも関係しているかもしれません。(この段もかなり主観です)

COVID-19のワクチン接種を義務化するには,予防接種法の改正が必要です。現在の政権は職域接種のような人気取り,あるいは経済を回すことにつながる個人の権利を制限しない政策については時折強権発動しますが(アベノマスク配布にも法的根拠がありません),社会防衛のための公衆衛生政策についてまで閣議決定だけで強権発動されることになってしまうと政府の強制力に歯止めが掛からなくなり,極端な話をすると政府が戦争をしようとしたときに国民総動員すると閣議決定することも許されてしまいます。

なので,社会防衛のための政策実装は法律に基づくことと,その法律が違憲でないことは,民主主義の砦として崩すわけにはいきません。

あと1つ懸念があり,これまでにわかっている限りでは,ファイザーやモデルナのmRNAワクチンは有効性も高く有害作用も許容可能なレベルであることがほとんどですが,mRNAワクチンという技術自体がきわめて新しいものなので,これまでの臨床試験や世界規模での接種経験や動物実験では大丈夫そうだと考えられていますが,数年以上の長期的な影響や経世代影響があるかどうかについてはデータがありません。これは今後の時間経過を待つしかありません。

おそらく可能なやり方としては,予防接種法を改正して義務接種の枠を作り(当然,健康被害への補償も勧奨より手厚くしなくてはいけません。副反応や接種時の事故による健康被害がゼロということも人間がやることである以上,ほぼありえないので),麻疹や風疹の予防接種をその枠に入れてから,COVID-19の臨時接種は勧奨の枠と義務の枠とどちらが適切かを予防接種審議会などで審議して,義務に入れるべきと決められなくてはいけません。

もう一つ論点があって,コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じく,感染初期には鼻腔や上気道の粘膜で増殖します。ワクチンによる抗体は血液中にできるものなので,粘膜での増殖はあまり防げません。肺胞で増えることは防げるので発症は防げますが。COVID-19は無症状のときに感染させる例が半分なので,粘膜経由で発話の際のマイクロ飛沫に乗って他の人に感染するかもしれません。ワクチン接種によって発症予防ができ,医療機関への負担は減らせますが,蔓延防止効果は完璧ではありません。だから,ワクチンだけですべてが解決するのではなく,NPIsも組み合わせなくてはいけないというのが世界のガイドラインになっています。

それも考えると,予防接種法を改正しても義務化できるかどうかは難しいところです。以上のことをみんなが知った上で広く世論の支持が得られたら法改正を経て義務化できるかもしれませんが,それまでは現在の「勧奨」「努力義務」で仕方ないと思います。

ただ,少なくともテレビなどメディアが任意任意と強調するのは間違っているので「勧奨」「努力義務」であることを広めるべきと思います。

さっきの返信メールに対して,職域接種は希望者にいち早く接種できるのにどこが悪いのかという再質問があったので,以下の内容を返信した。

最大の理由は,職域接種が不公平だからです。中小零細企業従事者や自営業者は申請できないわけです。

感染拡大防止のためにも自治体単位で行う面的な接種の方が有効と考えられ,ワクチン接種によって発症・重症化・死亡のリスクを下げる対象として重要な高齢者への接種が終わっていないのに,職域を先行させるのは経済活動再開のためとしか考えられません。感染症対策として優先順位が理に適っていません。

とはいえ,神戸大学は申請してしまうので,そこで受けないで市の接種を待つと頑張るのも,神戸大学が接種済み前提で何かのアクションをするときに困ると思うので,自分が職域接種を拒否するわけではありませんが。

河野大臣が職域接種の新規受付を一時停止することにしたとメディア発表したので大騒ぎになっているが,官邸サイトの職域接種のアナウンスによると,明日(2021年6月25日)の17:00までで新規申請受付を一旦休止するとのこと。上述の通り,職域接種は感染症対策的には筋が通らないので,それでワクチンが足りなくなる可能性があるのだとしたら止めるのは当然だが,そもそもの発想が悪いと思う。地域の負担を軽減するためなら,優先順位や公平性から考えたら,地域をサポートするのが本筋だったろう。

日本健康学会理事会提言(2021年6月25日)

オリパラ関係者の入国は昨秋できていたアスリートトラックに従って14日間の隔離を免除されているのだが,空港検疫陽性のときや濃厚接触者になったときにどう扱われるのかが書かれていない。その意味でアスリートトラックというのはザルなのだが,出入国在留管理庁の新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る上陸拒否について(令和3年6月21日現在)に詳しく書かれていて,まとめを見てもわかるように,いまだビジネストラックによる入国が停止されているのに,オリパラ関係者の入国が「特段の事情」として認められているのは,「入国目的に公益性が認められる者(個別事案ごとに関係省庁協議を経た上で公益性を判断)」とのことで,認めた主体の責任の所在が曖昧であり,その人々に対して防疫としてザルなアスリートトラックを適用するというやり方は暴挙と言わざるを得ない。多くの国民が反対している今夏開催されるオリパラに何の公益性があるというのか。ビジネストラックが停止中なのにオリパラ関係だけ「関係省庁」が勝手に認めた「公益性」があるとして14日間隔離をしなくて良いというザルな体制で上陸許可している現状に対して,商社とかは怒っても良いのではないか。

15:30頃,日本健康学会ウェブサイトで理事会名での東京五輪への提言が公開されたので,公式twitterでもtweetした。多くの方に読んで考えていただきたいと思う。理事会での情報共有の過程で教えていただいたが,日本疫学会が2021年6月20日付けで「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に伴う 新型コロナウイルス感染拡大防止対策に関する要望書」を出していた。日本分子生物学会からも昨日付けで理事長談話が出ていた。これら2学会は,専門家有志の会の提言を支持するというスタンス。日本健康学会の提言は,より広い視野になっている。

Creswell C et al. "Young people's mental health during the COVID-19 pandemic"(Lancet Child & Adolescent HealthのComment,2021年6月24日)は,UKのCo-SPACEで8700家族にSDQという質問紙でメンタルヘルスの調査をした結果について,便宜的サンプリングだしCOVID-19パンデミック前のデータはないけれども,毎月のデータがとれているので解釈する意味があるとして推移を見ている。ロックダウン中にメンタルヘルスの問題が大きいなどいくつかの傾向が認められたとしている。

Robinson LB et al. "Incidence of Cutaneous Reactions After Messenger RNA COVID-19 Vaccines"(JAMA DermatologyのResearch Letter,2021年6月23日)は,ファイザーかモデルナのmRNAワクチン接種を受けた約5万人のヘルスケアワーカーのうち,1回目接種のあとで皮膚の発赤や接種場所以外の痒みなどの皮膚反応が出た人が1.9%いたという報告。思ったより皮膚反応が出る人は少ないのだな。

Vasquez-Apestegui BV et al. "Association between air pollution in Lima and the high incidence of COVID-19: findings from a post hoc analysis"(BMC Public Health,2021年6月16日)は,目の付け所というか,元々大気汚染が酷いところに住んでいる人の方がCOVID-19感染リスクが高いのではないかという発想が面白い。ちょっとミアズマ説を思い出させる。もちろん大気汚染が酷いところでは低所得者も多そうだし衛生状態も悪そうだから,その辺りの共変量を調整しなくてはいけないと思うが。南米でもっとも大気汚染が酷い場所の一つであるリマ市の24の地区で2010年から2016年のPM2.5曝露レベルを測ったデータがあったので,2020年3月6日から2020年6月12日までの患者128700人とそのうち死亡転帰を辿った2382人について,年齢,性別,地区の人口密度と食品市場数を調整した上で,PM2.5曝露レベルは,患者数と死亡数を目的変数としたときの標準化偏回帰係数が0.07と0.0014で統計的に有意な正の影響を示したが,CFRへの標準化偏回帰係数は有意でなかったと書かれていた。人口密度は共変量として調整した上での話なので,接触が多いから感染しやすいという説明は成立しないが,低所得だったり低栄養だったり対人接触の多い仕事が多いのかもしれないから,大気汚染によって肺が痛んでいたとは言い切れないと思うが,この論文はそうした可能性には触れず,長期的な大気環境の改善が呼吸器系感染症対策として重要と提言している。

最近のScientific Americanに再収載されていたのだが,元々NatureのNews Featureとして書かれていたAshwanden C "How COVID is changing the study of human behaviour"(Nature,2021年5月18日)は,COVID-19パンデミックによって行動科学研究が変わりつつあるという話。

Krause PR et al. "SARS-CoV-2 Variants and Vaccines"(NEJMのSPECIAL REPORT,2021年6月23日)は要旨を直訳すると「ウイルスのVOCは,Covid-19を予防するために現在使われているワクチンによって得られる免疫に対して危険な抵抗性をもって出現するかもしれない。それ以上に,もしVOCの中に感染力や病原性が高まっているものがあったら,効果的な公衆衛生的防御手段とワクチン接種プログラムの重要性は増すだろう。世界の対応は,タイムリーでなければならないし,同時に科学に基づいていなければならない」と書かれていて,チャレンジングな内容も含んでいるように思われるので,プリントして後でちゃんと読もう。

Cai Y et al. "Structural basis for enhanced infectivity and immune evasion of SARS-CoV-2 variants"(Science,2021年6月24日)は,B.1.1.7変異株(alpha)とB.1.351変異株(beta)のスパイク分子構造を調べて,前者はACE2との結合性が高まっていて,後者はある種の中和抗体に抵抗性をもつように抗原表面がreshapeされるように進化したというメカニズムを示している。

Siegrist M, Bearth A "Worldviews, trust, and risk perceptions shape public acceptance of COVID-19 public health measures"(ProNAS,2021年6月15日号)は見逃していたが,NPIs実装に成功するかどうかは,公衆の受容に掛かっていることから,その要因を調べたところ,性別や年齢は関係なく,信頼や世界観といった心理的な変数がリスク認知とNPIsの受容に強く影響していたとしている。後でちゃんと読もう。

Hou X et al. "Intracounty modeling of COVID-19 infection with human mobility: Assessing spatial heterogeneity with business traffic, age, and race"(ProNAS,2021年6月15日号)は,ウィスコンシン州の2つの郡のデータを使って,ビジネスに伴う人流,年齢,人種についての空間不均質性を組み込んだモデル(SEIRをベースにしたメタ個体群モデルだが確率的なばらつきも考慮している)を使って,郡内の人口移動とCOVID-19の感染拡大の関係を分析している論文のようだ。これも後でちゃんと読もう。

Schmelz K, Bowles S "Overcoming COVID-19 vaccination resistance when alternative policies affect the dynamics of conformism, social norms, and crowding out"(ProNAS,2021年6月22日号)は,ドイツのパネル調査のデータを使ってモデリングを行い,どうしたらワクチン忌避を避けられるのかを探り,効果的なワクチン政策を検討している論文のようだ。匿名化したデータとコードがここで入手できる

Kang S, Kong KA "Body mass index and severity/fatality from coronavirus disease 2019: A nationwide epidemiological study in Korea"(PLoS ONE,2021年6月22日)は,韓国のナショナルデータでBMIとCOVID-19の重症度/致命リスクの関係を調べている。図の軸ラベルに誤植があるが,23.0-24.9が重症化も死亡も最も低リスクで,それより太っていても痩せていてもオッズ比が大きくなるという結果。

Kaimann D, Tanneberg I "What containment strategy leads us through the pandemic crisis? An empirical analysis of the measures against the COVID-19 pandemic"(PLoS ONE,2021年6月21日)は,68ヶ国,プエルトリコ,USA50州,オーストラリア4州,カナダ8州の封じ込め政策を比較して,学校閉鎖,必須職種以外の停止,大人数集会の禁止,旅行制限,国境封鎖などのNPIsが感染確定数の増加を抑えるのに有効だったとしている。

Purwati et al. "An in vitro study of dual drug combinations of anti-viral agents, antibiotics, and/or hydroxychloroquine against the SARS-CoV-2 virus isolated from hospitalized patients in Surabaya, Indonesia"(PLoS ONE,2021年6月18日)は,インドネシアのアイルランガ大学のラボからの報告で,in vitroだが,2種類の薬を組み合わせて培養細胞でのSARS-CoV-2への影響を調べ,細胞毒性がでない濃度でも,さまざまな組み合わせで,ウイルスコピー数の減少,炎症マーカーの産生低下が見られたと報告している。

Locatelli I, Rousson V "A first analysis of excess mortality in Switzerland in 2020"(PLoS ONE,2021年6月17日)は,スイスのデータを使って超過死亡を評価していて,2019年までの5-6年の平均死亡レベルに比べて,2020年は8.8%標準化死亡率が高かったと書かれている。平均寿命が男性9.7ヶ月,女性5.3ヶ月短縮したとのこと。

まとめリンク用新サイト(2021年6月26日)

このページhttps://minato.sip21c.org/2019-nCoV-im3r.htmlのリンク集というかまとめ部分の内容をMediaWikiで整理してhttps://covid19.sip21c.org/にするという作業に着手したのだが,サイドメニューに「アップロード」が出てこなくて,画像のアップロードができずに頓挫中。しかしこれ,誰でもユーザ登録できてしまうし,登録しなくても編集できてしまうのか。それも困るかなあ。まあいいや,とりあえず,編集に参加したい方はメールください,と注記だけしておこう。

とりあえず,現在の「リンク集」の部分に加え,ワクチンと変異株についての説明ページは作成済み。

感染研が東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けての感染症リスク評価 (更新版)(2021年6月25日公開)という文書を出しているが,感染研の立場で非現実的な仮定に基づいた許容的な記述があること自体良くないと思う。オリンピック関係でバブルが守られるわけがない(たぶん政府や大会組織委員会は,次に引用する段落が,全体としては徹底したリスク管理を求める文章であることを無視して,一文目だけ採用するだろう。GoTo Travelで旅行自体は感染リスクを高めないと専門家会議が言ってしまったことを政府がGoTo Travel推進の根拠として宣伝したことと同じ構図である。対人接触がゼロで外食もせず会話もしない観光旅行なんてあるわけがない)。「新型コロナウイルス感染症については、大会におけるリスク管理措置が徹底され、遵守された場合においては、海外からの輸入症例を起点とした国内流行が発生するリスクは低いと考えられる。しかし、特定区域内でのリスク管理措置が適切に行われない場合、特定区域からの離脱後に国内感染につながるリスクがあることから、アスリート等の大会関係者はもとより、特に、特定区域に滞在する海外報道関係者及び大会ボランティア等について、リスク管理措置を徹底することが必要である。また、市中においては、大会開催に伴う大会関係者の国内往来により密集が生じる場合、応援イベントや競技場や事前キャンプ所在地等で人が集まる機会の増加、地域内・地域間の人流の増加等が契機となり国内の感染拡大のリスクが高まる可能性があるため、警戒するとともに、大会期間中のテレワークの集中的な実施を含めた人流抑制等の対策を進めることが必要である。」とあるが,ウガンダ選手団が泉佐野市までバス移動してしまった後で2人目の陽性者が見つかったこと1つとっても,管理措置は適切に行われていないことが明白なので,この文言は既に机上の空論である。だから,感染研はリスク管理者に配慮せずリスク評価者の立場に徹して,こんな夢物語を書くのではなく,既に適切な管理ができていないから中止しなくてはいけない,と主張するべきだった。そもそも熱中症リスク評価と切り離した感染症リスク評価を単独で提示することにあまり意味が無い。国研だからリスク管理者である国からの指示があったら出さざるを得なかったのだろうが,そのこと自体,リスク論的にはリスク評価の独立性という基本ができていないダメな状況であることを意味する。

腸内細菌叢と症状の関係(2021年6月28日)

Yeoh YK et al. "Gut microbiota composition reflects disease severity and dysfunctional immune responses in patients with COVID-19"(Gut,2021年3月5日)は見逃していたが,腸内細菌叢がCOVID-19患者の重症度と免疫応答低下を反映している,というタイトル。Ngo VL, Gewitz AT "Microbiota as a potentially-modifiable factor influencing COVID-19"(Curr Opin Virol.,2021年4月21日)というレビュー論文でも取り上げられている。このレビュー論文では,潜在的な可能性として,腸内細菌叢を変えること(これについては,プロバイオティクスとか便移植とか,いろいろ検討されている方法がある)によってCOVID-19の症状を変えられるかもという仮説が検討されている。

Schmidt C "New Coronavirus Variants Are Urgently Being Tracked around the World: Genomic sequencing efforts are limited in developing countries, but scientists are mobilizing to help"(Scientific American,2021年6月21日)は,途上国ではゲノムシークエンシングが行われることが限られているので,新しい変異株の発見が遅れていて,気づいたときには広がってしまっていることがあるので,先進国の科学者は途上国でのゲノムシークエンシングを進める手助けをすべきだという論調のように思われる。とくにインドとアフリカと南米が強調されているようだ。

ロックダウンのタイミング(2021年6月29日)

シドニーで新規感染者が30人見つかった時点で2週間のロックダウンを宣言したオーストラリアの件がニュースになっているが,オークランドで検出されるまで一週間隔離もされず感染力がある状態で行動していた感染者が一人見つかった時点で1週間のロックダウンを実施したニュージーランドのように,早期にロックダウンを行えば短期間で再排除に成功するので,タイミングとしては悪くない。感染者数が増えてからのロックダウンではなかなか効果が出ないので,欧米のロックダウンは多くの場合月単位の長期間実施せざるを得なかったし,日本の緊急事態宣言も1ヶ月以上続いた(解除しても良いレベルまで新規感染者を減らすには,たぶんもう2ヶ月くらいの宣言継続が必要だったが,100人以上の新規感染者が毎日報告されている状態で解除すると決めていて,そういう報道がなされていたので,人々は解除前から行動制約を緩め,既に再増加が始まっている)。台湾ではdelta株6例を含む12人のクラスターが発見された時点で準四級ロックダウンに踏み切っているので,おそらく再排除できるだろう(delta株なので,そんなにうまく行かないかもしれないが)。Oraby T et al. "Modeling the effect of lockdown timing as a COVID-19 control measure in countries with differing social contacts"(Scientific Reports,2021年2月8日)という数理モデルを使った論文でも,タイミングが遅れるとロックダウンがなかなか奏功しないけれども,早いタイミングでロックダウンすると短期間でも入院負荷を効果的に減らせるという結果が示されている。そういうことを考えると,毎日100人以上も新規感染者が検出されているのに東京の緊急事態宣言(不公平にも一部緩い行動制約になっているせいで有効性が低いのだが)を解除したのは,終息させる気がカケラもないとしか思えない。

オーストラリア,ニュージーランド,台湾のように,いったんは排除に成功し水際対策をしっかりしている国でも再侵入を許してしまうという事実は,COVID-19を完璧に検出して侵入を防ぐことがほぼ不可能であることを意味する。オリンピックなど何を血迷っているのか。

ワクチンの安全性について(2021年6月30日)

新型コロナワクチンについてからリンクされている,一般接種(高齢者含む)医療従事者等の接種実績からすると,6月13日までにファイザーの1回接種が済んだ人は人口の1割を超えている。ネット上には接種後の死亡報告が363人であること(接種との因果関係が認められた例はなく,因果関係なしと判定されたのが5例で,残りは情報不足とのことなので,以前から海堂尊さんが指摘するように日本が死因不明社会であることが改善されておらず,せめて全例AIがされるようになって欲しいと思うが)をスライドっぽい画像の形で取り上げてワクチンが危険だと煽るサイトがあるが(明らかに不安を煽る目的で作られているサイトなのでリンクしない),人口動態統計速報(令和3年4月分;2021年6月22日発表)を見ればわかるように,ワクチン接種がなくても日本では毎月10万人以上の死者がいるので,人口の1割を考えても毎月1万人以上亡くなっているわけで,ワクチン接種によって死亡が増えているという事実はないといえる。

出生力についても,先日,mRNAワクチンを打つと精子濃度も運動性のある精子数も減らず,むしろ増えるというJAMAの研究報告を紹介したが,女性についても,Male V "Are COVID-19 vaccines safe in pregnancy?(Nature Reviews Immunology,2021年3月3日)が,治験参加後に偶然妊娠した57例の分析により,対照群でもワクチン群でも流産確率には差が無く,mRNAワクチン接種群では17の妊娠中流産はゼロであったこと,USAでは2021年2月10日までに2万人の妊娠女性がワクチン接種を受けているが「レッドフラッグ」は上がっていないこと,等を挙げ,これまでのデータが示す限り安全だと考えられるとしている。妊娠女性へのワクチン接種の安全性の一般論としては,Arora M, Lakshmi R "Maternal vaccines-safety in pregnancy"(Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol,2021年2月19日)に書かれている通り,母体を感染から守り胎児に受動免疫を与える利益がある一方,生ワクチンを妊婦に接種するとウイルスや細菌が胎児の血液中に移行するリスクがあるけれども,不活化ワクチンは一般に安全だとされている。COVID-19のmRNAワクチンもそれ自体はウイルスと違って増えないので,その意味ではおそらく安全だろう。ラットの実験でも,Bowman CJ et al. "Lack of effects on female fertility and prenatal and postnatal offspring development in rats with BNT162b2, a mRNA-based COVID-19 vaccine"(Reproductive Toxicology,2021年5月28日)が示すように,mRNAワクチンは,雌ラットの出生力にも,胎仔や生まれてからの仔ラットの成長発達にも影響が無かったという報告が出ている。

このYahoo Newsの記事はよく読まれているようだが,不安からくるのであろう批判コメントが多く付いているので,たぶん上述のような研究報告の情報が広く知られる必要があるのではないかなあ。

感染症学会のCOVID-19ワクチンに関する提言。2021年6月末現在,第3版が最新。変異株の記述など若干雑なところがあるけれども,ワクチンに関する情報がソース込みでまとまっていて参考になる。

変異株へのワクチンの有効性速報(2021年7月2日)

先週,学生から貰った質問メールへの返事に書いた理由で受けることにした(会場入口に大きく任意接種であることが明記されていた)職域接種1回目は無事完了。ほとんど感触はなかった。接種後15分,急性の副反応が出ないかどうか確かめるために接種したホールの外のコンコースに並べられた椅子に座って待機中。今のところ,とくに何も自覚される副反応はない。

Lustig Y et al. "Neutralising capacity against Delta (B.1.617.2) and other variants of concern following Comirnaty (BNT162b2, BioNTech/Pfizer) vaccination in health care workers, Israel"(Eurosurveillanceの速報,2021年7月1日)によると,イスラエルのCOVID-19罹患歴がなくファイザーのmRNAワクチンの2回接種を受けたヘルスケアワーカーについて,元株,アルファ株,ベータ株,ガンマ株,デルタ株の中和抗体価を調べたところ,アルファ株では1/1.7に低下し,デルタ株はガンマ株と同じく半分程度に低下していたが,ベータ株に対しては中和活性が1/10.4に低下していたというデータ。中和活性の低下,つまりワクチンの利きが悪くなるという点については,デルタ株よりベータ株の方が恐ろしいわけだ(とはいえ,アルファ株,ガンマ株,デルタ株でも,元株に比べると中和抗体活性が大雑把に言えば半減しているというデータなわけで甘くみてはいけないが)。ただ,この論文で調べているわけではないが,先行研究によると感染力はデルタ株の方が強いので,イスラエルのようにワクチンカバー率が高い国ではベータ株が優占することもありえるが,それ以外の国ではデルタ株の方が優占しそうだ。

もっとも,おそらく今後も次々に新たな変異株が出現するであろうから,いつまでデルタ株が優占するかはわからないが。

感染研のサイトにCOVID-19感染報告者数に基づく簡易実効再生産数推定方法(2021年6月29日)という記事が載っていた。「直近7日間の新規陽性報告者数/(世代時間)日前7日間の新規陽性報告者数」という,Bonifazi G et al. "A simplified estimate of the effective reproduction number Rt using its relation with the doubling time and application to Italian COVID-19 data"(Eur. Phys. J. Plus,2021年4月11日)が提案した方法で,世代時間を5日として計算すると,Cori A et al. "A New Framework and Software to Estimate Time-Varying Reproduction Numbers During Epidemics"(AJE,2013年9月15日)で提案されている方法で推定されたRtと良く一致するRtが簡単に得られたと書かれている。報告日ベースであるためのバイアスと,すべての感染者で世代時間が同じと仮定している方法であるという制約はあるが,簡単な計算で毎日Rt推定値を更新できるので自治体などの役に立つだろうとのこと。Rtの簡易推定法というと,2020年5月12日に行われた公開セミナーで西浦さんが(直近7日間の新規報告患者数/その前7日間の新規報告患者数)が近似的に使えるかもしれないと言われていたが,その後,東洋経済にアドバイスした方法は,(直近7日間の新規陽性者数/その前の7日間の新規陽性者数)^(平均世代時間/報告間隔);平均世代時間は5日間,報告間隔は7日間と,若干変わっていた。今回感染研のレポートに出ている方法は,そのどちらとも微妙に違っている(そんなに大きくは違わないようだが)。ちなみに,西浦さんが厚労省に提示している資料や論文では,ここに書かれているように,世代時間は4.8±2.3日,潜伏期間は5.6±3.9日とし,右側打ち切りを考慮し,Rのsurveillanceパッケージを使って確定診断日から発症日を逆推定した上で発症日から感染日を逆推定し,感染日から二次感染日までの間隔である世代時間について再生方程式を立ててRtを計算しているので,報告遅れも世代時間のばらつきも考慮できているが,コンピュータなしでは計算できないし,何日も前の値までしか推定できないという制約がある。

以上のアルゴリズムをRのコードにして(若干ちゃんと詰めずに書いている部分があるので,間違いを含んでいる可能性があり,あまり信じないで欲しいが)東京のデータについて計算させてみたところ,どの方法の結果もまあまあ合っていて,6月に緊急事態宣言を解除した頃から,どの方法でもRtは1を超えている。

2021年東京のCOVID-19のRtを4つの方法で推定した結果

平均寿命への影響(2021年7月6日)

Woolf SH et al. "Effect of the covid-19 pandemic in 2020 on life expectancy across populations in the USA and other high income countries: simulations of provisional mortality data"(BMJ,2021年6月24日)は,USAと他の高所得国における2020年covid-19パンデミックの平均余命への影響を,予測される死亡率データのシミュレーションに基づいて評価したというタイトル。

Lee-Carter法を使った論文かと思ったが,Human Mortality Databaseのトップページの枠内でCOVID-19に対応するために提供されているShort Term Mortality Fluctuation(STMF; 38ヶ国について2000年から2021年途中までの毎週の年齢0-14,15-64,65-74,75-84,85+の死亡率が男女別及び男女計について出ている)のデータを使って,2018年と2020年の年齢群別死亡率比を出して,それを2018年の年齢5歳階級の簡易生命表のmxに掛け,qx=(mx*n)/(1+mx*ax)として2020年のqxを出して平均余命を計算する,という割と単純な方法だった(ただし,推定誤差を考えるため,qxの推定値に10%の誤差があると想定し,5歳階級のqx推定を50000回シミュレーションしているので,計算時間は掛かっていると思われる。計算コードはPythonで書き,Python 3.9.1で実行したとのこと)。もちろんSTMFの中で2019年以降の死亡率はLee-Carter法で推定していると書かれているので,実はLee-Carter法を使っているのだが,そこはHMDに任せているわけだ。

USAの他に分析した国は,オーストリア,ベルギー,デンマーク,フィンランド,フランス,イスラエル,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,韓国,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,スイス,台湾,UKとなっている。台湾を国として認めていない国も多いが,と断った上で,台湾のデータを分析しているのは,HMDとSTMFに台湾が入っていることと,COVID-19の影響を低く抑えることに成功している国として当然であろう。イスラエルは2016年まで,ニュージーランドは2013年までの簡易生命表しかHMDに入っていないので,2018年のデータは,それぞれの国の統計資料から直接とったそうだ。なお,高所得国だけれども死亡率データが不完全なため,オーストラリア,カナダ,ドイツ,イタリア,日本は分析に入れられなかったと書かれているが,STMFを見ると,今ではオーストラリアとドイツとイタリアも入っていた。彼らが分析をしたときは入っていなかったのだろうか?

日本は週単位の死亡データを公表していないので,この方法を日本について適用しようと思ったら,個票データを目的外利用申請して自分でSTMFに相当するデータを求めなくてはならないが,そこさえクリアすれば後の計算は簡単なので,人口学の修論とかには良いかもしれない。

主な結果はVisual Abstractsを見るとわかりやすいと思うが,他の先進国に比べ,USAはCOVID-19による平均寿命への影響が大きく,USA全体では1.87年の短縮だったけれども,ヒスパニックでは3.88年,黒人では3.25年も短縮していたということだ。Editorialがこの論文について,COVID-19がUS社会に内在していた脆弱性を明らかにしたとコメントしているように,この論文のフォーカスはUSAなのだが,他の先進国の推定結果も平均値だけでなくそれぞれ詳しく示して欲しかったところ。たぶんニュージーランドや台湾のようにCOVID-19抑え込みに成功した国と,フランスやUKのように影響が大きかった国では大きな違いがあったのではないかと思われる。

基本的なことだが,オリパラ絡みで2つほど説明しておく。

1つは自然実験である。『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』の感染症疫学の章で詳しく説明したが,John Snowが1854年のロンドンのコレラ大流行時にした分析が有名である。Snowは,1849年のコレラ流行時に,1つの共同井戸を使っていたサリー・ビルの住人12人が感染して亡くなったのに,その井戸の水を使っていない隣の建物ではコレラ死者が出なかったことから,飲料水がコレラの原因であると発表していた。しかし,当時ロンドンの公衆衛生を掌っていたチャドウィックやファーは瘴気説を信奉していたので,サリー・ビルにだけ瘴気がこもっていたとしても説明がつくSnowの事例は飲料水が原因である証拠にはならないとした。ファーは,もし水が原因であるという証拠を示したいなら,住居の標高,生活圏,仕事が同じなのに飲み水だけが異なる2つの集団を比べなくてはいけないが,そんな実験はロンドンではできないと主張した。ところが,1854年のコレラ流行時,これを示すのに絶好の状況がたまたま存在していた。テムズ川南岸に給水していた水道会社のうち,S&V社はテムズ川下流からの取水を続けていたのに,ランベス社は1852年に上流に取水口を移していて,しかも16の教区はこれら両方の会社から複雑な配管を通って給水を受けていて,まさしくファーが仮定した条件が満たされていたのだ。Snowは各戸の水道水の塩分濃度を測ってどちらの水道会社からの給水かを判定し(下流の水の塩分濃度が4倍高かった),給水会社別にコレラ死者数を合計して,S&V社から給水を受けていた人々のコレラ死亡リスクが4093/266516と,ランベス社から給水を受けていた人々の死亡リスク461/173748の5.8倍もあったことを示すことによって,飲み水がコレラの原因であることを証明して見せたのである。これは研究者が条件を設定して行われた実験ではないが,自然に比較したい条件だけが異なっていて他の条件が同じグループができていた状況を捉えて比較することにより,実験と同等の比較可能性をもって研究が実施できたという意味で,典型的な自然実験と言える。COVID-19についても自然実験のアイディアはこれまでにもいくつか指摘されていて,例えばUKではロックダウン後に閉鎖されていた学校が再開する時期の違いが地区別の再流行時期の違いにつながるのではないかというアイディアが提案されていた。同様に,もしこのまま五輪が強行されてしまい,かつ,東京で五輪の学校観戦をする自治体としない自治体が混在していたら,典型的な自然実験となり,それぞれの学校で五輪後の在籍児童生徒数当たりの新規感染者数を比較することで,学校観戦がCOVID-19流行に寄与したかどうかを疫学的に明らかにすることができるので,学校観戦をさせた自治体にはその責任を問うことができるし,一律に学校観戦を取りやめにしなかった都教委の責任も追及することができる。このロジックが理解できたら(子どもでも分かると思うが),少なくとも学校観戦をさせる自治体や教育委員会はなくなると思うが,誰か伝えてくれないだろうか。もちろん,それ以上に,熱中症リスクを考えるだけでも,夏の東京でスポーツ大会をするのは救急医療崩壊のリスクが高いし,それに加えてCOVID-19の新規感染者数も増加中な現在の状況でオリパラを強行したら,必要な医療が受けられなくなる人が多発することは目に見えていて,それでも強行しようというのはテロに近い悪行だと思う。

もう1つは,感染症の病原体は変異を重ねると弱毒化するという説が必ずしも正しくないということだ。おそらく,長期的な宿主寄生体共進化の話とEwaldの説の半分が混ざって信じられているものと思う。前者は,エボラウイルス感染症やマールブルグ病,高病原性鳥インフルエンザなどの新興感染症に強毒のものが多いという経験的事実から補強されていると思う。マラリアでも遥か昔からヒトを宿主にしてきた三日熱マラリア原虫よりも,この数千年以内にヒトを宿主とするようになった熱帯熱マラリア原虫や,もっと最近にヒトを宿主とするようになった二日熱マラリア原虫の方が強毒である。しかし,それまでヒトを宿主としていなかった病原体がヒトを宿主とするようにホストスイッチした新興感染症のすべてが強毒性かというと,必ずしもそうではない。2009年の新型インフルエンザは新興感染症だったが,メキシコとUSAの一部で例外的に(おそらく合併症のために)季節性インフルエンザよりやや高い致命リスクが観察されたのを除けば,致命リスクは季節性インフルエンザより低かった。定性的には,強毒過ぎると宿主であるヒト個体群の存続を難しくするので,異所的に様々な毒性の変異株が流行している場合,毒性が低い株の方が生き残りやすく広まりやすいと考えることはできる。Ewaldの説は,直接接触や飛沫で感染する場合,症状が軽くて感染宿主が動き回れる方が感染力が高くなることから,感染力と病原性に逆相関が生じると主張し,毒性別に病原体の種類を数えると弱毒の病原体が圧倒的に多くなっているのがその証拠であるとしているのが半分である。残り半分は,媒介動物がいる感染症の場合,毒性が弱くても強くても病原体の種類数に差は無く,それは患者が重症で動けなくても(あるいは動けない方が)蚊による吸血など媒介動物との接触が容易であり,感染力は高くなるからと考えられるという説である。実は媒介動物がいる場合だけでなく,衛生状態が悪い生活環境で暮らしている集団の場合の糞口感染する感染症も,症状が強くて下痢などによる病原体の排出量が多いほど感染力が高くなると考えられるので,病原性と感染力はむしろ正の相関をもつ可能性があり,強毒化した変異株が優占していくかもしれない(それを防ぐには衛生状態を改善して病原性と感染力の連関を絶てば良い)。COVID-19の場合,手を介した接触感染,咳やくしゃみや大声による飛沫感染,発話に伴うマイクロ飛沫が換気の悪い環境で浮遊し感染するなど多くの経路があるが,いずれも感染者が動き回る方が感染しやすいはずであり,一見,感染力と病原性には逆相関があってもおかしくはなさそうである。ところが,COVID-19の感染の半分は発症前に起こっているので,その分に関しては病原性とはまったく関係が無い。従って,弱毒株が優占するような淘汰圧は強くは掛からない。実際,B.1.1.7ことアルファ株やB.1.617.2ことデルタ株は,元株に比べて1.4~2倍かそれ以上の感染力をもっているにもかかわらず,病原性はさほど変わらないか,むしろ若者の重症化リスクは高いという報告さえある。そう考えると今後の変異株がさらに強毒化する可能性は否定できない。それを防ぐためには,なるべくウイルスのコピー数を少なくとどめ,同一宿主内に複数系統のウイルスが入って組み換えが起こるのを防ぐために,多くの人が集まって感染を広げるような機会は避けるべきである。とくに世界中から人が集まるようなイベントを実施したら,新たな強毒株が生まれる可能性も少なくない。

情報の信頼性のためには透明性が重要(2021年7月7日)

COVID-19:ワクチンのネガティヴな特徴についての透明性のあるコミュニケーションは受容性を低下させるが、信頼性を高めるというブログ記事でニューロドクター乱夢さんが紹介している実験心理学の論文,Petersen MB et al. "Transparent communication about negative features of COVID-19 vaccines decreases acceptance but increases trust"(ProNAS,2021年7月20日号)は重要。悪いことも含め正確な情報を開示すべき。この論文の重要性についての説明の末尾に,いったん情報への信頼を失った人は,その後でいくら健康情報についてのコミュニケーションを試みてもほとんど説得されない,と書かれている。

WHO神戸センターのこのtweetで,デルタ株の感染性の高さについてはさまざまな情報源で確認できるが,重症化について出典を辿っていくと,このUK政府の資料が元のようだ。p.46にデルタ株の入院ハザード比がアルファ株より有意に高いと書かれていた。

mRNAワクチンを打つとウイルス排出も減る(2021年7月8日)

COVID-19のmRNAワクチンの発症予防効果が95%とか92%とかきわめて高いことは知られているが,感染抑制効果については証拠が少なかった。ハーバードのProf. Marc Lipsitchは,2020年2月の時点で,今後疫学研究で示す必要がある6つのエビデンスを示していて,その1つに,ウイルス排出研究による感染力のタイミングと感染強度についてのエビデンスが含まれていた。

自然に感染した人たちのウイルス排出の量や期間の分布については,2020年3月6日に紹介したOng et al.が既に大きなばらつきがあることを示しているし2020年3月14日に紹介したZhou et al.がウイルス排出期間の大きなばらつきを示しているし,Ct値を使ったウイルス排出量の分布については,無症状の学生と発症して入院した患者のサンプルを比較して,どちらも同じように右裾を長く引いた分布になっていて,排出量の多い2%の人がもっているウイルスが全体の90%にあたるというYang et al.の研究もあったが,ワクチンを打つとどうなるのかは明らかでなかった。

Regev-Yochay G et al. "Decreased infectivity following BNT162b2 vaccination: A prospective cohort study in Israel"(The Lancet Regional Health Europe,2021年8月号)は,Prof. Marc Lipsitchも共著者に入っていて,この点に答えた論文である。抗原検査陽性だったイスラエルの保健医療従事者について,ファイザーのmRNAワクチンを打った人では,打っていない人に比べて,平均Ct値が統計的に有意に高くなっていて,ウイルス排出量が少なくなっていることと,ワクチンを打つと無症状感染も減っていたこと(発症抑制効果ほど顕著ではないが)を示している。ワクチン排出が少なくて伝達係数が小さいとしても,マスク無しでの対人接触が増えたら二次感染者数は増えるかもしれないし,Yang et al.の研究同様,ウイルス排出量を感染力と同一視することはできないが,それでもmRNAワクチンを打つとウイルス排出量も減るというのは朗報だと思う。

2021年6月18日に触れた,西浦さんたちのグループが投稿中でプレプリントサーバに載っているのをニューロドクター乱夢さんがブログで紹介されていた論文が,Rapid CommunicationとしてEurosurveillanceにアクセプトされた。Ito K et al. "Predicted dominance of variant Delta of SARS-CoV-2 before Tokyo Olympic Games, Japan, July 2021"(Eurosurveillance,2021年7月8日)である。投稿から1ヶ月もかからずにアクセプトされたのは,普通に考えると十分早いのだが,COVID-19に関しては遅いくらいに感じる。このままいくとデルタ株の増え方が大変まずいことになるという予測だが,たぶんそうなってしまいそう。防ぐにはピコピコでない本物のハンマーで叩くしかないのだが。

法律上の位置づけ(2021年7月9日)

迂闊にも見逃していたが,COVID-19の法律上の位置づけについてメモしておく。

2021年2月13日から,感染症法が大きく変わって,条文の中に感染症の類型として一類から五類,指定感染症,新感染症に加えて「新型インフルエンザ等感染症」(第六条7)が入り,条文上に明記されている「新型コロナウイルス感染症」(第六条7の三で,新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう,と定義されている。ちなみに第六条7の四で,「再興型コロナウイルス感染症」も,かつて世界的規模で流行したコロナウイルスを病原体とする感染症であってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう,と定義されている)として「新型インフルエンザ等感染症」に含まれるCOVID-19は指定感染症からそちらのカテゴリに移っていたのだが(指定期限が2021年1月31日から1年間延長された直後なのに,この変更をしたので,届出様式なども変わった),それだけでなく法律の条文が全体にわたっていろいろ変わっていた。なぜ概ね二類相当の扱いであった指定感染症から二類にではなく新型インフルエンザ等感染症という新類型にCOVID-19を入れたのか考えてみると,新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下特措法)の規定に従った扱いをするためであろうが,1月末の指定期限1年延長は何のためだったのか? 特措法は所管が厚労省ではなく内閣官房なのだが,その辺に理由の一端があるのだろうか。

UKの「野蛮な実験」(2021年7月11日)

フェイクニュースや陰謀論はだんだん大がかりになってきたな。英国とWHOが協力してインフォデミック対策にあたる,と2021年4月27日にWHOから表明されていたが,ロイターのファクトチェックで花粉症がデルタ株と誤診されることは科学的にあり得ないという点1つとっても真っ赤な嘘と結論されている偽メールを和訳して流通している,Prof. Neil Ferguson陰謀論はあまりに酷い。誰が何のためにこんなことをするのだろう。陰謀論の本を売りたいのか陰謀論をメディアで流行らせることで何か儲かるのか,社会不安を煽って社会を不安定にしたいテロリストなのか知らないが,迷惑極まりない。

7月12日から東京も緊急事態宣言という告知に「都道府県を越えて感染が拡大し、又はまん延しており、それに伴い医療提供体制・公衆衛生体制に支障が生じてきている」ことが発出要件として示されているのに,その状況をさらに悪化させる向きに働く五輪強行は一種のマッチポンプ。元々2回目以降の日本の緊急事態宣言はピコピコハンマーだったが,世界中から何万人も入国し運営補助にも多くの人が関与して対人接触するオリンピック強行という,感染拡大防止や行動制限と明らかに矛盾するメッセージを出し続けていることで,より効果が薄くなりそう。こんなに支離滅裂なことをしていては,フェイクニュースがなくても社会不安がもたらされそうだ。明らかに日本政府の失策。

明日からの東京緊急事態宣言の線を入れるコードを追加して(東京のRt推移日本の都道府県別新規感染者数推移),実行させた結果をtweetした。東京のRtは明らかに上昇中(下図参照)。

東京のRt推移

UK政府が,新規感染者が全然収まっていないのにワクチンが行き渡って重症例や死亡例が減るはずだから,この夏にはロードマップ第4段階に移行して社会的接触制限などのNPIsをほぼ全面的に解除する(ただし,人混みや咳が出るときのマスクや頻回な手洗いは必要だし,無症状での検査と陽性時の自己隔離は続ける)と発表したことに対して,NZのProf. Michael Bakerがインフルエンザと違ってCOVID-19との共存などできないことを示したニュースの中で野蛮な実験(barbaric experiment)と呼んで批判していたが,ワクチンだけでは感染も入院も死亡もかなり増えることは数理モデルで既に示されているし,当然の批判と思う。ただ,もしかすると,こうしたある意味極端なアクションのトリガーは,先に紹介した陰謀論だったりするのかもしれない。もしそうだとすると,陰謀論の弊害はあまりにも大きい。

もちろん,東京オリンピック強行の方がもっと「野蛮な実験」なのは否めないし,Prof. Michael BakerはNZOCに対して,東京五輪に選手を派遣するべきでないと5月時点で指摘していたが。

4つの終息シナリオ(2021年7月12日)

メディアの「個別接種」という呼称に違和感を感じる。これは予防接種法における臨時接種のうちクリニック等の医療機関で行うものを指し,それと対比して集団接種と呼んでいるのが,やはり法律上は臨時接種だが防衛省からの人員等を使って都道府県レベルで設置された大会場で接種するものを指しているようだが,厚生労働省も5月から使っている用語なのだな。しかし予防接種法上の臨時接種は市町村長は対象者に対して接種勧奨をすることとされているとある通り,市町村ベースで行われるのが本来の法的な立て付けであって,都道府県ベースの大会場で行われる方が例外的なので,ワクチン総量が一時的に足りなくなったからといって市町村へのワクチン供給を減らすのは本末転倒だろう。「個別接種」と言われると,あたかも個人個人の要望に応じて打っているような語感をもたらすが,勧奨接種だし原則として市民は接種を受ける努力義務があるのだから,かかりつけ医等で予約して打っているのが本来の予防接種法の臨時接種であることがはっきりわかるように報道すべきと思う。ついでに書いておくと,職域接種は予防接種法附則第7条の特例規定に基づき、厚生労働大臣の指示のもと、都道府県の協力により、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において実施するものであり、接種に係る費用については、国が負担する。また、同法第6条第1項の予防接種とみなして同法の各規定(同法第26条及び第27条を除く。)が適用されることとなるとあるが,この特例規定という代物が,まさにCOVID-19のためだけに追加された規定なので,予防接種法全体の立て付けから考えると,かなり無理矢理追加されたものになっていると思う。

トップジャーナルのCOVID-19関係の新しい記事や論文を拾っておく。

Thacker PD "The covid-19 lab leak hypothesis: did the media fall victim to a misinformation campaign?"(BMJのFeature,2021年7月8日)は,なぜこうも度々,COVID-19の原因ウイルスがラボから流出したという陰謀論が真面目に取り上げられるのかについての考察。著者はジャーナリストで,これまでの経緯を具体的な研究者名やジャーナル名を挙げて説明しているが,結局,徹底的に調べていないために真相がわからないから徹底的な調査が必要だと言いたいようだ。

Souza WM et al. "Neutralisation of SARS-CoV-2 lineage P.1 by antibodies elicited through natural SARS-CoV-2 infection or vaccination with an inactivated SARS-CoV-2 vaccine: an immunological study"(THE LANCET Microbe,2021年7月8日)は,ブラジルで見つかったP.1系統の変異株(ガンマ株)が中和抗体から逃れるのかについて調べるため,マナウスの21人のかつてCOVID-19に罹患したことがある人と,53人のシノバック社不活化ワクチンCoronaVacを接種された人から採取した血漿サンプルを段階希釈してウイルスを培養し,中和力価の中央値(VNT50)を,B系統の変異株(B.1.1.7とB.1.351)に対するそれと比較したという論文。既感染者については,B系統へのVNT50が260あったのに対してガンマ株には30と,二項分布モデルで検定して有意に低かったことと,CoronaVac接種者については,ガンマ株に対して,1回接種後20-23日の人はVNT50が検出限界以下,2回目接種後17-38日の人はVNT50がP.1/28には24,P.1./30には28であり,2回目接種後134-260日の人はVNTが全員検出限界以下だったこと,B系統に対しては1回接種後20-23日の人が20,2回接種後17-38日の人が75,2回接種後134-260日の人が20と低かったことを示し,P.1系統はB系統への中和抗体から逃れるかもしれないと論じている。mRNAワクチンについての結果ではないので直接日本の状況には適用できないが。

Jassat W et al. "Difference in mortality among individuals admitted to hospital with COVID-19 during the first and second waves in South Africa: a cohort study"(THE LANCET Global Health,2021年7月9日)はベータ株が最初に見つかった南アフリカで,2020年7月にピークだった第1波と2021年1月により大きいピークを迎えた第2波の間で入院患者の入院致命リスクを比較している論文。第2波の方が罹患率も入院率も入院死亡リスクも高かったとしている。

Lane CR et al. "Genomics-informed responses in the elimination of COVID-19 in Victoria, Australia: an observational, genomic epidemiological study"(THE LANCET Public Health,2021年7月9日)とGrafton RQ et al. "Epidemiological modelling of the health and economic effects of COVID-19 control in Australia’s second wave"(Journal of Public Health,2021年6月28日)はオーストラリアでの疫学研究。前者はゲノム疫学,後者は経済影響も考慮しているようだ。後で読む。

Kofman A et al. "Potential COVID-19 Endgame Scenarios: Eradication, Elimination, Cohabitation, or Conflagration?"(JAMAのViewpoint,2021年7月8日)は,終息へのありうるシナリオを検討してみたという視点。後で時間を見つけてもう少しちゃんと紹介したい。

Padma TV "COVID vaccines to reach poorest countries in 2023 - despite recent pledges: Amid a COVID surge in Africa, vaccine promises from richer nations are not enough to bring an early end to the pandemic, experts say."(Natureのニュース記事,2021年7月5日/9日)は,COVAXファシリティの仕組みを使っても最貧国にワクチンが行き渡るのは2023年になるだろうし,その間にアフリカでもCOVID-19患者が増えるので,パンデミックの早期終結は難しいだろうという論調。

Jara A et al. "Effectiveness of an Inactivated SARS-CoV-2 Vaccine in Chile"(NEJM,2021年7月7日)は,これまで1回接種後に対人接触が増えてしまったせいで効果が無かったと言われてきたチリでのワクチン接種について,2021年2月2日から5月1日まで不活化ワクチンCovronaVacが2回接種された約417万人とワクチン接種されていない約547万人を比べ,COVID-19の予防効果が65.9%,入院予防効果が87.5%,重症化(ICUでの治療)予防効果が90.3%,COVID-19関連死予防効果が86.3%あって有効だったと結論している。

Cevik M, Baral SD "Networks of SARS-CoV-2 transmission"(ScienceのPERSPECTIVE,2021年7月9日)は,伝播経路についての考察。後でちゃんと読もう。

兵庫県は「まん延防止」を解除して良かったのか(2021年7月13日)

神戸市を含む兵庫県の5区域で昨日から「まん延防止」が解除され,「感染リバウンド防止」という,より緩い制限に移ったが,この文書に「下げ止まり」とあるのは認識が甘く,緊急事態宣言解除以降,大阪同様にRtは上昇中で,既に1を超えている(このRコードで描ける下図参照。このコードは都道府県名を変えるだけでどの都道府県にも使えるはず)。このまま緩めていたらすぐに再び3桁/日になりそう。

兵庫県の4つの簡易推定法によるRtの推移

UKのRtの推移を描くRコードも作って走らせてみた(下図)。

Changes of Rt in UK by 4 estimating methods

USAも再燃中(2021年7月14日)

tweetしたが,ニュースなどでMLB中継を見ると誰もマスクもしていないし至近距離で騒いでいるので,USAの感染は抑えられているのかと思ったら全然そうじゃなかった。UKもそうだが最近のRtは1を大きく超えている。昨日書いたように,東京も大阪も兵庫もRtが大きく1を超えているので,感染者はこれから暫く急増するだろう。tweetにつけた図を見れば,インドネシアの新規感染報告数が5月下旬からずっと指数増加していて,UKはそれより前から指数増加を続けているのは明らかだが,USAも日本も6月に入ってから増加フェーズに入っているのは間違いない。この状況でオリンピックをするのはあまりにも狂っている。

違う種類のワクチンを打つ効果?(2021年7月15日)

Normark J et al. "Heterologous ChAdOx1 nCoV-19 and mRNA-1273 Vaccination"(NEJMのCorrespondence,2021年7月14日)は,2回アストラゼネカより1回目アストラゼネカ2回目モデルナの方が中和抗体力価が高くなることを示しているが,そもそもmRNAワクチンの方がアデノウイルスベクターワクチンより防御効果は高いというのがこれまでの知見なので,1回目と2回目で違うワクチンを接種すると同じワクチンを打ったときより効果が上がると言えたわけではない点に要注意。Appendixを見たら,統計ソフトはJamoviを使っていて,多群間の比較はKruskal-Wallis検定,多重比較はDunnの方法だった。Jamoviを使ってもNEJMに載るんだな。Dunnの方法を使っているのもちょっと珍しい。

超過死亡再び(2021年7月17日)

米権威が警告:東京五輪は世界的感染のクラスターになる:今からでも競技施設を再点検する実践専門家委員会を作れ(JBpress,2021年7月17日)は,Sparrow AK et al. "Protecting Olympic Participants from Covid-19 --- The Urgent Need for a Risk-Management Approach"(NEJMのPerspective,2021年5月25日)へのリンクがある良記事。"The IOC’s playbooks are not built on scientifically rigorous risk assessment, and they fail to consider the ways in which exposure occurs, the factors that contribute to exposure, and which participants may be at highest risk."と書かれている。もっとも,既に批判したように,このPerspectiveは,熱中症リスクを考えていないため東京五輪がもたらす医療負荷を過小評価していて,リスク評価としては甘すぎるのだが。なお,JBpressが今頃5月下旬のPerspectiveを取り上げたのは,これも当該JBpress記事からリンクされているが,Scientific Americanの記事(2021年7月13日)がこの5月25日のNEJMのPerspectiveを取り上げて,現在の東京五輪における感染拡大予防策は不十分だから,大会中にCOVID-19感染者が出たらワクチン接種者と未接種者の分布は国によって差があるので,接種が進んでいない国からの参加者により広まりやすいだろうと論じていることを受けてのことで,古い記事を掘り起こしてきたわけではない。

たぶん見落としていたが,Tokuda Y, Kuniya T "Prediction of COVID-19 cases during Tokyo's Olympic and Paralympic Games"(J Gen Fam Med,2021年5月24日)は,4月21日にプレプリントサーバに載っていた論文で,ワクチン接種が大幅に拡充されない限りオリンピック中止を決断することも受容可能な選択肢だとしていた。単純なSEIRモデルによる推定で,デルタ株が主流になることを考慮していないこともあり,ワクチン接種が拡充したときの抑制効果を過大評価していたが,5月時点で条件を出してオリンピック中止の可能性に触れた論文として記録しておこう。

Sanmarchi F et al. "Exploring the Gap Between Excess Mortality and COVID-19 Deaths in 67 Countries"(JAMA Network Open,2021年7月16日)は,世界67ヶ国について,HMDやEurostatから作られたWorld Mortality Dataset(詳細はKalinsky A, Kobak D "Tracking excess mortality across countries during the COVID-19 pandemic with the World Mortality Dataset"参照)から2015-2020年の総死亡データ,Our World in DataからCOVID-19の死亡(CCM),確定患者数,検査数,人口のデータを得て,2015-2019年の総死亡から2020年の期待死亡を過分散を考慮するため一般化負の二項回帰(Generalized Negative Binomial Regression)で推定し,実際の死亡との差として超過死亡(EM)を推定し,CCMとの差を評価して各国のCOVID-19データの信頼性を考察したという研究レター。南米や東欧の多くの国はEMがCCMより遥かに大きく,主に東アジアの国ではEMが負でCCMもきわめて小さく,その他の多様な地域の国ではEMがCCMよりある程度上回っていた,としている。個人情報を一切使わない公表データの分析だから個別の倫理審査は必要ないしインフォームドコンセントも必要ないことを明記した上で,STROBEガイドラインに従っている,と書いている。この手の二次資料を解析して論文を書きたい人には書き方が参考になると思う。なお,この論文で使われている超過死亡は,2020年5月14日に触れた日本で感染研が示してきたインフルエンザ様疾患による超過死亡とは概念も方法論もまったく別物なので要注意だが,最近,感染研は宮田さんや野村さんやホクソエムなど多くの研究者と協力して日本の超過および過少死亡数ダッシュボードというページを作っていて,そこではFarringtonアルゴリズムを使っているので(その経緯はこのページに書かれている),死亡数に仮定している分布が準ポアソン分布で負の二項分布ではないけれども,概ね比較可能と思われる。

Rochman ND et al. "Ongoing global and regional adaptive evolution of SARS-CoV-2"(ProNAS,2021年7月20日号)は,地球レベルと地域レベルで現在進行中のSARS-CoV-2の適応進化についてシークエンス解析からこれまでの推移と今後どうなるかを論じていて,国際交通は激減しているのに,ヒトの国境を越えた接触による影響がウイルス進化に出ていることと,各地域で独自に多様化し,安定した地域特異的な変異株が形成される可能性を示して,変異株ごとにワクチンが必要になる可能性にまで言及している。

4つのゲーム終了シナリオの視点論文について再び(2021年7月18日)

女性に副反応が多いと言われる件,アレルギーに関しては,ファイザーのワクチンに入っているPEGが多くの化粧品に使われているため,日常的に化粧品を使っている女性の方が起こりやすいことは有名だが,他の副反応については,女性の方が若干多く報告されているけれども,たぶんレポーティングバイアスで説明つくという論考があって,そうかもしれないと思っている。

感染症数理モデルで西浦さんの師匠筋の一人である稲葉さんがtweetされていた応用数理のフォーラムの原稿「感染症数理モデルとCOVID-19」は,相変わらず容赦なく数学的に高度な記述だが(なので,数学プロパーな人でないと,これを読んだだけでは理解できない部分も残るが),それだけに,コンパクトな紙幅の中で要点(とくにホスト人口の異質性の議論とか)が概ね網羅されていて凄いと思った。

先週紹介したKofman A et al. "Potential COVID-19 Endgame Scenarios: Eradication, Elimination, Cohabitation, or Conflagration?"(JAMAのViewpoint,2021年7月8日)について要約しておく。

ビジネストラックやレジデンストラックが止まっていて,世界のほとんどの国と地域について渡航中止勧告が出ているにもかかわらず,日本政府観光局の資料によると,今年の1月から5月の間に,入国した外国人が87100人,出国した日本人が168400人もいる。もちろん観光目的の入国は止まっているはずで,例えば去年3月には1ヶ月で12万人近い観光目的の外国人と13544人の商用目的の外国人が入国していたこと(もちろん2019年3月にはそれぞれ約240万人と約16万人だったわけだが)を考えると,観光客がいないことで国際人流はかなり抑えられているのだが,アスリートトラック以外にもそれなりの規模の人流があることは,COVID-19感染について無視できない要因かもしれない。デルタ株はそうやって入ってきたに違いないわけだし。

フェイクニュース研究(2021年7月19日)

フェイクニュースについての研究をいくつか拾っておく(注:必ずしもCOVID-19関連に限らないが,方法論などは参考になると思うので,鐵人三國誌からそのまま掲載する)。

日経の記事で最近取り上げられた筑波大学佐野幸恵助教の研究の元となった研究は,おそらくZhao Z et al. "Fake news propagates differently from real news even at early stages of spreading"(EPJ Data Science,2020年4月3日)だろう。中国のWeibo(2011年から2016年)と日本のTwitter(2011年3月11日から17日)のデータを,信頼できる証拠に基づいてファクトチェックして真のニュースとフェイクニュースに分け,それぞれが伝播する経路についてネットワーク解析したもの。ネットワークトポロジーの違いを視覚的に示した図が印象強い。今年になってから佐野助教が筆頭著者でSano Y et al. "Simulation of Information Spreading on Twitter Concerning Radiation After the Fukushima Nuclear Power Plant Accident"(Frontiers in Physics,2021年6月23日)という論文も出ているが,これも東日本大震災後の福島原発事故後の放射線についてのtweetsにおける情報拡散のシミュレーションということで,Pythonでコードを書いて解析しているもの。

Covid-19について目に付いたのは,Apuke OD, Omar B "Fake news and COVID-19: modelling the predictors of fake news sharing among social media users"(Telematics and Informatics,2020年7月30日)は,2020年2月から5月に掛けて,Google Formを使って385人のナイジェリア人をchain referralと呼ばれる方法でサンプリングし,利他性,面白さなど,それぞれ3-8問からなるいくつかの軸で,COVID-19に関する情報をSNSで共有するときの理由についての同意の程度を5件法で答えて貰い,同時にフェイクニュースを共有した経験についての5問(1. COVID-19のウイルスについ関連した情報を共有して後で嘘だとわかったことがある,2. その時は正しいと思ったCOVID-19に関連したソーシャルメディアの内容を共有して,後で作り物だとわかったことがある,3. 誇張されているCOVID-19に関連したソーシャルメディアの内容を共有したけれども,そのときは誇張されていることに気づかなかったことがある,4. 信頼している情報源を通したファクトチェックをせずにCOVID-19に関連したソーシャルメディアの内容を共有している,5. 全文を読まずにCOVID-19に関連したソーシャルメディアの内容を共有した)についても5件法で尋ね,それぞれクロンバックのα係数が0.7より高いことを示した上で,SEMを使って,利他性や情報共有を理由としていることに高得点を示すことがフェイクニュースの共有経験と比較的強く関連していることを示している。面白いから情報共有するという軸はフェイクニュースの共有経験とほとんど関係がなかったという結果が興味深い。

Khan T et al. "Fake news outbreak 2021: Can we stop the viral spread?"(Journal of Network and Computer Applications,2021年6月4日)はフェイクニュースの早期検出を論じた先行研究,機械学習ツール,オンラインのフェイクニュース検出競争,フェイクニュース検出あるいは軽減機能をもったオンラインのウェブブラウジングツールを比較した大変長大なレビュー論文で,ツールの情報源として役立ちそう。

Cheng M et al. "Deciphering the laws of social network-transcendent COVID-19 misinformation dynamics and implications for combating misinformation phenomena"(Scientific Reports,2021年5月17日)は,2020年3月1日から2020年5月3日に収集されたtweetsからなるCOVID-19の誤情報のネットワークデータ(Coronavirus on Social Media: Misinformation Analysisから得られる)を分析して,誤情報の中心にあるノードを正しく抑えられれば,誤情報の拡散をかなり抑えられると提案している。

Murayama T et al. "Modeling the spread of fake news on Twitter"(PLOS ONE,2021年4月22日)は,Twitterにおけるフェイクニュースの拡散について2段階モデルを提案している。第1段階は普通のニュースと同様に拡散し,第2段階は多くのユーザがそのニュースの虚偽性を認識してから,そのこと自体が別のニュースストーリーとして拡散するというモデルで,2種類のtweetsデータセット(2019年3月から5月の,ファクトチェックサイトから得た10のフェイクニュースについてTwitterのAPIを使って収集したものと,2011年の東日本大震災と津波に関するフェイクニュースについて2011年3月12日から24日のTwitter APIのサンプルストリーム)を使って検証したとのこと。

Dr. Brian McCloskeyのコメントについて(2021年7月20日)

抗体医薬品の特例承認自体は,COVID-19の治療が公費医療の対象である限り喜ばしいことだが,患者申出療養という枠組みがあるので,ハイリスクでなく厳密に適応でなくても処方を希望する人が出てきた場合,供給が限られているという理由で医師は処方を拒否できるかが問題か。この辺の話は保健行政論第6回講義資料を参照されたい。

熱中症,関連クラスタ発生を含むCOVID-19感染リスク,新変異株出現リスクの問題を別にしても,フェアじゃないオリンピックなんてオリンピックじゃない。その意味で,IOCはいったん解体した方が良いし,茂木健一郎氏のペルパタオ第130回 [2021年6月某日 オリンピックの語られ方]はナイーブすぎる見方。主催者自身が価値を破壊した。中止する方が平和とフェアネスを旗印にするオリンピック憲章に代表されるオリンピックブランドは守れたはず。何度でも書くが,今からでも東京五輪は中止して欲しい。

IOCの独立専門家パネルの議長,Dr. Brian McCloskeyという人は,McCloskey B et al. "A risk-based approach is best for decision making on holding mass gathering events"(LancetのCorrespondence,2020年4月18日)とかSciAmの"COVID Risks at the Tokyo Olympics Aren’t Being Managed, Experts Say: Current prevention measures may not be enough to prevent an outbreak"という記事(7月17日にも取り上げた,2021年7月13日の記事)でインタビューに答えて発言していることから考えると,真っ当なリスク評価の重要性をわかっているはずで,本当に「選手村は安全です」と断言なんてするだろうかと疑問に思ったが,英語記事でも,"McCloskey gave a firm "yes" when asked if the Olympic village is still safe with the rising number of virus infections."とあったから,現在の感染者数上昇ならまだ選手村は安全と「断言」したのは間違いないようだ。ただ,この英語記事でも,クラスター発生を防ぐことが何より大事だし,"with all the countermeasures in places, particularly the robust testing measures and quick response of isolation, the infections will not pose risks to others."(頻回な検査と迅速な隔離をすれば他の人に感染させるリスクはない)と言っているので,無条件に絶対安全と言っているわけではないのだが,おそらく偽陰性を軽視しているようだ。たとえ抗原エピトープ1コピーを確実に検出できるくらい増幅を何度もやったとしても,体内のどこかにウイルスがいるときに,それが採取したサンプルに偶々入らない可能性は否めないという意味で,偽陰性は一定の確率で存在するし,そう考えると,この対策では万全ではない。Dr. McCloskeyは決して感染制御の素人ではなく,エボラやMERSの対策でも活躍しリオ五輪のときのZikaのリスクにも対処したとのことだが,エボラやMERSは感染力が弱く感染制御のプロのチームによる対策だし,Zikaは蚊媒介だったので,経気で感染するCovid-19の感染力を甘く見ているのではないか。選手村の相部屋の現状やリスクを十分にわかった上での発言なのだろうか。それと,多くの素人がかかわっている日本の体制を過信しているように思う。日本には「名目上できていることになっているけれども実はできていない」ことが珍しくないこともわかっていない気がする。かつ,熱中症リスクも考えていないとしたら致命的だ。

Dyer O "Covid-19: Indonesia becomes Asia’s new pandemic epicentre as delta variant spreads"というBMJのニュース記事(2021年7月16日),インドネシアでのデルタ株大流行を報じている。

昨日から英国は行動制限を解除してしまったが,Gurdasani D et al. "Mass infection is not an option: we must do more to protect our young"(LancetのCorrespondence,2021年7月7日)が,集団感染はオプションの1つではない,と反対声明を出していた。5つの論点を上げ,英国政府は青少年を含む誰もがワクチン接種の機会を提供されて接種率が高くなり,換気施設(二酸化炭素モニタとフィルター)や教室の生徒数を減らすなどしてスペースを取ることなどの緩和策がとられるまで,完全な制限解除は延期すべきと主張している。それまでは,WHOが呼びかけているワクチン接種済みの人も含めた屋内での常時マスク着用,SAGEやUSAのCDCが呼びかけている換気と空気フィルター,SAGEが独自に呼びかけている検査+追跡と隔離+サポートという有効な国境検疫といった公衆衛生的対策が必要としている。

Radtke T et al. "Long-term Symptoms After SARS-CoV-2 Infection in Children and Adolescents"(JAMAの研究レター,2021年7月15日)は,青少年にSARS-CoV-2が感染した後の長期間続く症状についての報告。静脈血を採取してABCORA 2.0 testというキットでSARS-CoV-2に対する免疫グロブリンを測定し,陽性と陰性の2値判定をして,2群間で症状を比べている。2020年10-11月から2021年3-4月で,抗体陽性だった109人のうち4人,抗体陰性だった1246人のうち28人が,少なくとも1つの症状が12週間を超えて続いていた。抗体陽性の子どもで多く見られた症状は疲労感(3人)と集中困難(2人),睡眠の必要の増加(2人)だったとのこと。

新たな変異株についてのワクチン有効性評価方法(2021年7月27日)

ハーバードのProf. Marc Lipstichがtweetしていたので知った,彼自身も著者に入っているGuidance on conducting vaccine effectiveness evaluations in the setting of new SARS-CoV-2 variants: Interim guidance, 22 July 2021. Addendum to Evaluation of COVID-19 vaccine effectiveness: Interim guidance(WHO,2021年7月23日)は,新しい変異株が出現した際にどうやってワクチンの有効性を評価するかについての,中間的なガイダンス。まずワクチンの有効性評価の式や必要なサンプルサイズについての一般的な説明があって,その後に,症例のみのデータから推定する方法が提案されている。変異株陽性例におけるワクチン接種の有無と,発症日を合わせた,ワクチンが有効であることがわかっている従来株陽性例におけるワクチン接種の有無で,年齢や居住地の影響を調整して条件付きロジスティック回帰でオッズ比を計算するとか,マッチングしてマクネマーの検定をするとか。その次に説明されている「篩分析」(? Sieve analysis)は,パッと見ただけでは理解できなかったので,引用文献29(Rolland M, Gilbert PB "Sieve analysis to understand how SARS-CoV-2 diversity can impact vaccine protection",PLoS Pathogens,2021年3月25日)も含めてちゃんと読んでみないと。

今日の東京の新規感染報告数は2000人は超えるだろうと思っていたが3000人近いのか(四連休と月曜の過小報告分も含まれているだろうとはいえ)。社会システムに余計な負荷をかけ感染拡大に拍車を掛ける可能性が高いオリンピックを,これでもまだ止めないのか? 普通に考えたら首都圏の医療従事者が気の毒すぎるし,人道的に許されないだろう。大阪も741人,沖縄も354人と増加の勢いが衰えない。沖縄も世界遺産登録を喜んでいる場合ではないと思う。もう少しまともな対処ができるのに(オリンピックを中止してメディアが本気で危機意識を高めることと,ピコピコハンマーな時短ではなく全面的な補償を伴う比較的短期間な休業要請をするなど)しないせいで感染者や死者が増えていくのはやりきれない。

なお,東京都の重症者が少ないというコメントをSNSなどで目にするが,この文書この文書に書かれている通り,東京都は人工呼吸管理またはECMOを使用している患者のみを重症者として計上しているので,国の基準(国際標準)の重症者数より1桁小さく報告されていることを知った上で書いているとは思えない。いずれにせよ現状で医療キャパを超えそうなのは確かだろう。早くオリンピックは中止してくれないか。

いくつか論文を拾っておく。

Crook H et al. "Long covid --- mechanisms, risk factors, and management"(BMJのClinical Review,2021年7月26日)は長期間症状が続くCOVID-19についてのレビュー論文。

Kvalsvig A et al. "Expansion of a national Covid-19 alert level system to improve population health and uphold the values of Indigenous peoples"(THE LANCET Regional Health Western PacificのCommentary,2021年7月11日)は,ラストオーサーがオタゴ大学のBaker教授で,NZマオリの集団レベルの健康を改善し価値を守るために国のCOVID-19警報システムを拡張しようという提案。わかりやすい表が載っている。

Caldwell JM et al. "Understanding COVID-19 dynamics and the effects of interventions in the Philippines: A mathematical modelling study"(THE LANCET Regional Health Western Pacific,2021年7月14日)は,フィリピンでのCOVID-19の動態と介入効果を理解するための数理モデル研究というタイトルで,基本はSEIRなのだが,発症の有無,検出の有無,入院の有無や年齢などで細かくコンパートメントを分けたモデルを作ってさまざまなNPIsのシナリオについて計算し,現実データに適合していたことから,フィリピンの地域別の流行状況の違いが,年齢や対人接触構造や政策に影響を受けていることで説明できることを示したとしている。ワクチンとNPIsの組み合わせが最適戦略なのは明らかだが,ワクチン供給が十分でない低所得国でも,フィリピンがとった戦略の有効性は役に立つだろうと結論しているようだ。

Simon P et al. "Trends in Mortality From COVID-19 and Other Leading Causes of Death Among Latino vs White Individuals in Los Angeles County, 2011-2020"(JAMA,2021年7月19日)はロサンゼルス郡のラティノと白人の2011年から2020年までのCOVID-19と他の主要死因による死亡のトレンドを分析した論文で,California Comprehensive Death Files (CCDF)のデータを分析して,2020年にはロサンゼルス郡のラティノのCOVID-19による死亡は人口10万人当たり160.1と主要死因になており,この値は白人の人口10万人当たり51.7に比べて約3倍あり,ラティノでは心疾患や糖尿病があると死亡リスクが有意に大きくなっていたが白人ではその関係が有意でなかったと報告している。二次資料の人口分析でJAMAに載るのだな。

Bernal JL et al. "Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2 (Delta) Variant"(NEJM,2021年7月21日)は,UKでアルファ株とデルタ株について,ファイザーのmRNAワクチン(BNT162b2)とアストラゼネカのウイルスベクターワクチン(ChadOX1 nCoV-19)を1回または2回接種した人での有効性を評価した論文。アルファ株に対しては1回接種でも50%近い有効性があり,2回接種ならファイザーで93.7%,アストラゼネカで74.5%の有効性があったが,デルタ株に対しては1回接種だとファイザーで35.6%,アストラゼネカで30.0%の有効性しかなく,2回接種でもファイザーで88.0%,アストラゼネカでは67.0%の有効性にとどまっていたという報告。

Kraemer MUG et al. "Spatiotemporal invasion dynamics of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 emergence"(Science,2021年7月22日)は,UKの人流データとウイルス遺伝子解析のデータからB.1.1.7(アルファ株)系統の変異株の出現と時空的な侵入ダイナミクスを検討した報告のようだが,かなり複雑なことをしているようで,ざっと目を通しただけでは良くわからない。後でちゃんと読もう。

Kushalnagar P et al. "Self-infection with speech aerosol may contribute to COVID-19 severity"(Journal of Internal Medicine,2021年7月15日)は,個人情報を除いたデータが公開されているが,アメリカの音声発話より手話を主に使っている聴覚障害者団体を対象にして,症状の重篤度の自己評価と音声発話の程度やマスク着用その他の共変量の関連を分析して,上気道や唾液にウイルスが存在している感染者が,喋るときにマスクをしているとウイルス粒子をほとんど含まない極小のエアロゾルしか下気道まで吸い込まないが,マスクをせずに喋るとさまざまな粒径のエアロゾルの雲の中に長時間いることになるのでウイルス粒子を含む大きめのエアロゾルも下気道に吸い込むことになって重症度が高くなるのではないかと議論している。

ロナプリーブ(2021年7月28日)

昨日のニュース(リンク先は東京新聞記事)で首相が「重症化リスクを7割減らす新たな治療薬を政府で確保」と言っているのは,まず間違いなく先日特例承認された中外製薬の抗体医薬品ロナプリーブのこと(Regeneron社のREGEN-COVを輸入している)。

メカニズムからいってワクチンが有効な感染症ならば抗体医薬品が有効であろうことは当然考えられるわけだし,2020年2月の時点で上海では回復期患者から採血して抗体を含むと考えられる血漿を患者に輸液するという治療法が試みられていたし,米イーライリリー社が2020年11月に抗体医薬品として入院患者への投与をFDAから承認されることになるバリシチニブの治験を始めたのは2020年4月だったし,2020年6月のScienceに回復期患者の血液から4種類の中和抗体を精製したという論文が載っていたので,有効性については驚くことではない。

ただ,ロナプリーブについての東洋経済の詳細記事によると,抗体医薬品は,生産量も限られ,適応も限られ,高価で,ロシュがやった第III相臨床試験REGN-COV 2067の結果では,入院または死亡のリスクが(プラセボ群の1/3以下になっているとはいえ)1%残っているので,決して,この薬ができたからすべて問題解決というわけにはいかない。

なお,「入院または死亡のリスクを70%減らす」という中外製薬のプレスリリースは2021年4月2日に出ているのだけれども,数日前に触れた特例承認は世界初だったわけで,既に世界中で使われているワクチンと違って,広く使った場合にどうなるかはまだわからない。

今日も昨日以上に新規感染報告数が増え,最多を更新した。熱中症も増えてきているので,首都圏の医療体制は破綻寸前だ。

日本のいくつかの都道府県の新規感染報告数推移を示す片対数グラフ
日本の都道府県別新規報告数推移片対数グラフ

4府県緊急事態宣言追加(2021年7月30日)

もちろん中止するのが感染拡大対策としては望ましいのだが,世間一般の人が危機意識を共有して接触抑制してくれるためには,テレビがオリンピック中継を止めスポーツニュースで淡々と結果を伝えるだけにするだけでも効果はあるかもしれない。いつどのチャンネルでもお祭り騒ぎでは緊急事態宣言が無効になるほど開放感と昂揚感が人々の意識を覆ってしまう。それと合わせて短期間で良いから補償とセットにした休業要請(時短ではなく)をしてくれたら,緊急事態宣言の効果が出てくれる可能性はまだあると思う。

たぶんあと数日放置すると,8月には本当に危機的な医療崩壊に陥ってしまうので,面子がどうなろうがちゃんと対策して欲しい。

アストラ製40歳以上に使用 ワクチン接種、公費負担に―厚労省(時事通信,2021年07月30日16時11分)という記事だが,相変わらずソースをリンクしないよなあ。第65回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第14回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料をリンクしておいてくれたら,誰でもすぐに詳細情報に辿り着けるのに。時事通信の記事では触れられていないが,資料2には,予防接種法施行規則と実施規則の一部改正省令案が載っていて,アストラゼネカ製のアデノウイルスベクターワクチンでは既に知られているように副反応として血栓症が起こる可能性が指摘されているため,予防接種法に定める臨時接種としての自治体での接種において,これまでのファイザーやモデルナのmRNAワクチンに加えて,アストラゼネカのウイルスベクターワクチンを使っても良いことにするなら,ここに書かれているように,有害作用について「mRNAワクチンと異なり、頻度不明だが特筆すべきもの:血栓症・血栓塞栓症(脳静脈血栓症・脳静脈洞血栓症、内臓静脈血栓症等)」と指摘されており,EUは「アストラゼネカ社のワクチン接種者における血栓症関連事象の発生は稀であるが自然発生率を超えており、PRACは当該ワクチン接種と血小板減少症を伴う血栓症との因果関係は妥当と結論付けた。 (4/7時点)」けれども「アストラゼネカ社のワクチンは新型コロナウイルス感染症の予防に有効である」と結論していることから,血管性浮腫等28日以内の血栓症が副反応疑い報告対象に含まれるように施行規則や実施規則が改正されたのも当然だろう。とはいえ,副反応にも発症予防効果にも差があるものを同時に臨時接種に使えることにしても,副反応多めで発症予防効果少なめな方を受けたがる人はいない気もするし,そこでの優先順位をどうやってつけるのか,倫理的・人道的に難しいことになりそうだが。

なお,この文書によると,これまでの定期接種や任意接種について紙に書いてFAXで提出していた副反応疑い報告が,専用webサイトから報告可能になることも,今日の調査会で議論されたようだ。

神奈川,埼玉,千葉,大阪にも緊急事態宣言が出て,東京と沖縄の宣言も8月31日まで継続するという首相発言があったので,それを入れて再作図した(Rコードも更新した)。内容が相変わらずピコピコハンマーだからこんなに長期化するので,何度も書いているように,オリンピックお祭り騒ぎの開放感を抑えて,補償とともに広く休業要請をすれば,1回目の緊急事態宣言と同じくらいの接触減が起こって3週間くらいで効果が出るはずだが,なぜ誰もそれを指摘しないのだろうか。

日本のいくつかの都道府県の新規報告数の推移の片対数グラフ

CDC報告からの誤情報拡散について(2021年7月31日)

CDCが,MMWRでデルタ株のワクチン突破感染が大人数集会と関連していた報告が出たことを受けて,ワクチン2回接種済みでも屋内ではマスクをするようにガイダンスを変更したことについてリリースを出していた。これについてDr. Walensky所長にインタビューしたCNNが英語記事で,麻疹,水痘,デルタ株(の感染力)はすべて高い水準にある(all up thereというのが英文)と語ったと紹介されているが,日本語記事ではそれが「同水準」と誤訳されている。デルタ株のR0は5-9程度と推定されているので,感染力が水痘(この論文によると,R0は不均質性を考慮して英国のデータで5.3 [95%CI 3.5-10.5],ポーランドのデータで10.9 [5.7-33]となっていて,この論文によるとノルウェーのデータで3.7-5.0となっている)と同水準というのはわかるが,麻疹は飛沫核感染(空気感染)するためR0が15くらいあると昔から言われていて(この論文にも,しばしば12-18と引用される,と書かれている。この論文は国による違いを考えるともっと幅があると指摘しているが),麻疹と同じ感染力と思い込んでしまうと誤解になる。

それとは別のCDCの報告について,誤読して書かれたtweetがいくつかあり,それを拡散しているtweetが山のようにあって,元のcdcの文章を読まずに誤読の方を日本語で紹介しているtweetもあって,典型的なinfodemic事例の1つとして分析できそう。個々の誤解を指摘する人がいても別のスレッドの下流には届きにくい。例えば,スレッドの1つとして,*UGMの名誉教授による誤読*そのまま引用*日本語で引用して川上さんに文句つけてるというのがあるが,他にもこういうスレッドが多数拡散している。CDCの元文書は,RT-PCRがCOVID-19とインフルエンザを区別できないなんて一言も書いてない。最初のUGM名誉教授の誤読に対して誤りを指摘するtweetはわりとすぐに入っているが(例えばこれ),別スレッドのそれを知らずにいる人たちが(たぶん善意の連鎖で)誤情報を拡散している。CDCのページから直接誤読してtweetした人は少数と思われるが(そこを網羅的に見つけたい),今では拡散しすぎて止めるのが難しそうだ。こういう誤情報の連鎖に引っ掛からないためには,孫引きのような言及で常識に反することが書かれていたら,元に遡って自分で読んでみるべきだろう。

Bin-Naeem S, Kamel-Boulos MN "COVID-19 Misinformation Online and Health Literacy: A Brief Overview"(IJERPH,2021年7月30日)は,COVID-19絡みの誤情報の拡散例とヘルスリテラシーについての主観的レビューで,それ自体は特に新しい知見を示しているわけではないが,参考になりそうなサイトがたくさん紹介されている(残念ながらまったく網羅的ではないが)。問題は,MythbusterやFactcheckを名乗りながら,それ自体が不適切だったり間違った解釈をしている場合だと思うが,ざっと見た感じだと,この論文で紹介されているサイトにはデタラメなものはないようだ。Table 1にはCOVID-19のMythbusterサイトの例が示されている。

Table 2にはファクトチェックサイトの例が示されている(ここはReuterのReuters Fact Checkも入れて欲しかったところ。日本だとFIJの新型コロナウイルス特設サイトが有名で,概要がわかる紹介資料もある)。

CDCからの発表を誤読したtweetsからの誤情報の拡散の件,AFPのファクトチェックでも取り上げられていた

東京の救急が崩壊しそうな感じが救急関係の医師のtweets(これとか)からヒシヒシと伝わってきて辛い。真夏の東京でオリンピックをしたら(仮にCOVID-19がなかったとしてもリスクはあったが,COVID-19のデルタ株流行によりまず間違いなく)こうなることはわかっていて,何度も警告は書いてきたが,何の力にもならなかった。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第5.1 版(厚労省,2021年7月5日)には,確かに呼吸不全があってNasal high flowで酸素投与していても中等症IIと書いてあるな。国の基準はICUに入室または人工呼吸器が必要なら重症で,重症のうちH型になったらECMO導入を検討とも書かれているが,東京都はICUに入室していても人工呼吸器を使っておらずECMO装着もしていない患者は重症としていないので,東京都の重症者報告数はかなり過小評価になっていることに注意が必要。濃厚接触の定義がまだ15分以上となっていて,CoCoAでも15分以上の近接を検出しているが,デルタ株の感染力を考えたら3分くらいからチェックした方が良いと思う。保健所の人手不足でもはや十分に追跡できていないので,今更言っても無意味かもしれないが。

4府県の緊急事態宣言発出は8/2からだったのでコードを直し,グラフを描き直した。

日本のいくつかの都道府県の新規報告数の推移の片対数グラフ

東京のRt推移/抗原検査の感度/症状からの早期検出/排除戦略の経済的優位性(2021年8月1日)

東京のRt推移について,若干Rコードをアップデートして再び走らせてみた。(1)第3波と第4波では緊急事態宣言で(感染から報告までのラグを考えるとそのやや前から)Rt低下,(2)第5波への緊急事態宣言は無効,(3)五輪開幕から(たぶんその少し前からの開放感と期待感とデルタ株で)Rt急上昇中,が見える。

4つの方法で簡易推定した東京の実効再生産数(Rt)推移

Schuit E et al. "Diagnostic accuracy of rapid antigen tests in asymptomatic and presymptomatic close contacts of individuals with confirmed SARS-CoV-2 infection: cross sectional study"(BMJ,2021年7月27日)は,オランダで確定感染者と濃厚接触して5日目以降の無症状か発症前の状態の対象者4274人に対して,BDのVeritor(但しPlus Analyzerは使わず視覚的判定)またはロシュのBiosensorという抗原検査キットを使った迅速検査とRT-PCRによる検査を実施して,症状がない段階での抗原検査の感度を評価した研究。Veritorを使った2678人のうち,RT-PCRで陽性だった233人のうちVeritor陽性だったのは149人で,感度は63.9%(95%CI:57.4-70.1%),Biosensorを使った1596人のうち,RT-PCRで陽性だった132人のうちBiosensor陽性だったのは83人で,感度は62.9%(95%CI:54.0-71.1%)だったが,サンプリング期間を通じて無症状を維持した対象者に限ると,どちらのキットの感度も60%をやや下回った一方,サンプリング後に発症した人だけに限ると,Veritorの感度が84.2%,Biosensorの感度が73.3%となったと報告されている。特筆すべき点は,RT-PCRで検出されるウイルス量が1 mL当たりのSARS-CoV-2のE遺伝子コピー数の常用対数をとった値が5.2以上という,他人に感染させるレベルを検出することをアウトカムとした場合,Veritorの感度が90.1%,Biosensorの感度が86.8%となり,ずっと無症状の対象者に限っても,どちらのキットも85%以上の感度を示したという点であろう。特異度は常に99%を超えていたとも書かれているので,これらのキットを使って抗原検査をして陽性なら自己隔離すれば,1割は見逃すかもしれないが,他人に感染させる可能性がある状態で出歩くリスクがかなり下がる効果があるといえる。日本でよく使われている富士レビオのエスプラインで同じ性能が得られるかどうかはわからないが,この資料に出ている「陽性一致率」をみると,そこまで高くないかもしれない。Corman VM et al. "Comparison of seven commercial SARS-CoV-2 rapid point-of-care antigen tests: a single-centre laboratory evaluation study"(THE LANCET Microbe,2021年7月1日)を見ると,キット間の差はそれほど大きくないようだが,中には感度が低いキットもあることが示されているので,どのキットを使うのかは大事で,日本で市販されている抗原検査キットについてもこういう性能比較をした情報が示されるべきだろう。国立食品医薬品研究所は抗体検査キットについての一斉性能評価試験結果(担当部局は生物薬品部)を公開しているが,抗原検査キットについても同様の試験結果を提供して欲しいところ。

Canas LS et al. "Early detection of COVID-19 in the UK using self-reported symptoms: a large-scale, prospective, epidemiological surveillance study"(THE LANCET Digital Health,2021年7月29日)はUKでCOVID-19 Symptom Studyというスマホアプリを使って,2020年4月29日から2020年10月15日までの間に19種類の症状についての発症後連続3日間の報告とRT-PCR検査結果により感染の有無がわかっている182991人のトレーニングデータから,3種類の方法(NHSのアルゴリズム,ロジスティック回帰,階層的ガウス過程モデル)で,2020年10月16日から2020年11月30日までに症状報告があった15049人について,症状から感染の早期検出ができるかを調べたという論文。階層的ガウス過程モデルの性能が良く,ROCのAUCが0.8だったのに対して,ロジスティック回帰が0.74,NHSのアルゴリズムでは0.67だったという結果。

Blakely T et al. "Association of Simulated COVID-19 Policy Responses for Social Restrictions and Lockdowns With Health-Adjusted Life-Years and Costs in Victoria, Australia"(JAMA Health Forum,2021年7月30日)は,オーストラリア・ビクトリア州のデータを使って,5段階の社会的行動制限と,4種類の政策応答と,確率比例多状態生命表(Proportional Multistate Life Table)を使って,個人ベースモデルでシミュレーションした,COVID-19に関連した健康余命(HALYs)とコスト(保健医療システム単独とそれにGDP変化を加えたものについて)を比較し,健康余命を1年延ばす価値を仮想評価法の支払い意思額(WTP)として値段に換算し,NMB(純経済利益)をNMB = HALYs x WTP - costとして計算したという研究で,排除戦略が健康損失もGDP損失も最小で済むという結果を示している。まだざっとしか見ていないが面白そうなので,後でちゃんと読もう。

ごく大雑把なCFRの見積もり(2021年8月2日)

イベルメクチンについて,"Ivermectin and mortality in patients with COVID-19: A systematic review, meta-analysis, and meta-regression of randomized controlled trials"(Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews,2021年7-8月号,あまりこの雑誌のスコープには合っていない論文な気がするが……)は,9個の研究データのメタアナリシスの結果,死亡リスクを統計的に有意に下げるといえるけれどもエビデンスの確からしさは低いと結論している。ただこれ,対照群がヒドロキシクロロキンまたはクロロキンやプラセボのものが多くて,既に標準治療に使うことが承認されているデキサメタゾンとかではないのだよなあ。標準治療に比べて死亡リスクを下げるかどうかが大事なので,このメタアナリシスからはイベルメクチンが良いと言えるかどうかはわからないし,少なくとも画期的な特効薬とはならない。SNSとかではイベルメクチンを持ち上げている人が散見されるが,学問的にはまだこのくらいのレベル。

以前も示したことがあるが,このコードで累積死亡数と20日前までの累積確定感染者報告数の関係を両対数グラフにプロットすると,ごく大雑把なCFRを見積もれる(下図)。シンガポールを除けばどの国でもだいたい1%から5%くらいの幅に収束しそうで,日本はこのところ2%くらい。まだ死者が急増していなくても甘く見てはいけない。

数ヶ国の累積死者数と20日前までの累積感染報告数の関係の両対数グラフ

ワクチンの効果が無いのかというとそうではなく,ワクチンには発症予防効果は明らかにある。けれども,日本では接触追跡ができていないため,行政検査で見つかる検査陽性者には発症している人が多く(そのため検査陽性割合がとても高く),たぶんその多くはワクチン未接種者なので,年齢構成の変化の影響でおそらく若干CFRは下がる傾向に転じるとは思うが,そこまで劇的には下がらないはず。であるからには,なるべくかからないように,ワクチンを打ってもNPIsを続けるべきだということは,2ヶ月前に紹介した論文に書かれていた通り。

中等症を自宅療養にするのは医療崩壊(2021年8月3日)

数日前に5.1版を引用したが,その直後に厚労省の「診療の手引き」5.2版,2021年7月30日が出ていた。ただ,5.2版でも,医療従事者が評価する基準としての重症度分類(p.34)は5.1版と同じく,肺炎所見なしを軽症とし,肺炎所見があれば中等症としているのは変わらなかったし,SpO2の基準値も変わらなかった。となると,官邸サイトで公開されている,総理が昨日の関係閣僚会議を開いた際のコメント「ワクチン接種の進行と、感染者の状況の変化を踏まえて、医療提供体制を確保し、重症者、中等症者、軽症者のそれぞれの方が、症状に応じて必要な医療を受けられるよう、方針を取りまとめました。重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。パルスオキシメーターを配布し、身近な地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします。そのため、往診の診療報酬を拡充します。」は,2つの理由で,肺炎所見のある中等症者(少なくともその一部)について「自宅での療養を基本」としたとしか読めない。COVID-19でなくても肺炎所見があれば入院治療というのが日本の医療水準で期待される医療だったわけで(2009年パンデミックインフルエンザのとき,日本のCFRはUSAやメキシコに比べて圧倒的に低かったのだが,もしかするとその理由の一つは医師が肺炎所見から必要と思えば入院適応にできたことにあったかもしれない),それを止めるしかないという状況は,去年旧専門家会議が懸念していた「オーバーシュート」だし,医療崩壊が起こってしまったことを意味する。

この状態でさまざまな資源(とくに医療従事者)を使ってオリンピックのお祭り騒ぎを続けるのは正気の沙汰ではない。

ちなみに上記2つの理由とは,(1)この文脈でいう「重症化リスクの特に高い方」は,中等症のことではなく,「診療の手引き」の2章の表2-1に載っている重症化リスク因子のある方(高齢者,慢性腎臓病やNIDDM,高血圧などの基礎疾患がある方,BMI30以上の肥満者等)か,表2-3に示されている重症化マーカー(Dダイマー高値とかIL6高値とか,以前から臨床疫学研究結果がいくつもでている)に引っ掛かる方を指すと解釈されることと,(2)仮に中等症の方を「重症化リスクの特に高い方」に含むのならば,とくにこれまでと「重症者、中等症者、軽症者」に対する医療的対処は変化しないことになるので,この言明をする意味がない(し病床確保もできない),という2点である。

なお,米国NIHの重症度分類に相当する「臨床スペクトラム(Clinical Spectrum)」は,無症状または発症前感染(asymptomatic or presymptomatic infection),軽症(mild illness),中等症(moderate illness),重症(severe illness),危篤(critical illness)の5段階で,基本的に重症以上が入院治療となっているが,この重症は,SpO2が94%未満,1分間の呼吸数が30回以上,PaO2/FiO2が300 mm Hg未満,または肺浸潤50%超という基準で,鼻からのカニューレか高流量デバイスを使って酸素吸入しなくてはいけないとあるので,日本の分類でいえば概ね中等症IIに相当する(日本の重症は概ね米国基準の危篤に相当する)。日本の中等症IはSpO2が93-96%となっているので,SpO2だけで考えると中等症Iでも米国基準の重症に該当する場合が出てしまいそうだが,日本の中等症IとIIの区分は呼吸不全の有無が鍵で,中等症IIで酸素投与が必要となっているので,SpO2だけで考えることはできない。そのため,「診療の手引き」には中等症Iの患者について「入院の上で慎重に観察」「低酸素血症があっても呼吸困難を訴えないことがある」と書かれていて,「パルスオキシメーターを配布」するだけで,かかりつけ医がオンライン診療で判定できるとは到底思えない。誰が作文したのか知らないが,やはり昨日の首相発言は酷いと思う。

もう1点指摘しておくと,「診療の手引き 5.2版」のp.49には中外製薬の抗体医薬品ロナプリーブについて,「臨床試験における主な投与経験を踏まえ,SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し,酸素投与を要しない患者(本手引きにおける軽症から中等症I)を対象に投与を行うこと」とあり,p.51には,医療機関がロナプリーブを入手する方法について書かれているのだが,その書き出しが「本剤は安定的な供給が難しいことから,当面の間,入院治療を要する者を投与対象者として配分される」とある。つまり,基礎疾患があるか高齢,肥満などの重症化リスク因子がある軽症から中等症Iの患者が入院していない限り,投与できないわけだ。総理コメントの後半,「さらに、重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬について、50代以上や基礎疾患のある方に積極的に投与し、在宅患者も含めた取組を進めます」とあるのと見事に矛盾している(ロナプリーブ以外に「重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬」など存在しない)。現在までの科学的知見と明らかに矛盾することを公の場で首相が口にするとは,もはやデタラメを超えて支離滅裂である。この状況を英語で書いてどこかのジャーナルのコメンタリーにでも投稿してやろうかと思うほど。

提案(2021年8月4日)

8月2日の首相コメントが何より酷いのは,病床の空きを作るための施策であって感染拡大防止の施策になっていないところだ。家庭内感染が(経路が判明した)新規感染者の半分以上を占めている現在,自宅療養なんか増やしたら感染拡大はさらに加速こそすれ,抑制できないだろう。首相は(おそらく無自覚に)医療崩壊を宣言してしまったのだから,この際,(1)医療崩壊したので,オリパラは即時中断し,残っている競技については状況が落ち着くまで,たぶん晩秋かそれ以降まで延期します,(2)満額の補償をするので,エッセンシャルワーカーを除き全業種,2週間で良いので休業(時短ではなく)または必要経費は出すのでリモートワークにしてください,(3)対人接触は必要最低限にしてください,と宣言すべきだと思う。これができれば遅くとも10日後から新規感染報告数は減り始めると思う。

Dr. Eric Topolがtweetで触れている,Molteni E et al. "Illness duration and symptom profile in symptomatic UK school-aged children tested for SARS-CoV-2"(THE LANCET Child & Adolescent Health,2021年8月3日)はUKのSARS-CoV-2の検査を受けた有症状の学童25万人以上について,症状ごとに持続期間をまとめた論文で,Dr. Topolのtweetには,4週間を超えて症状が残る学童は4.4%と低かった,とあった。

Dr. KucharskiのグループのDr. Akira Endoがtweetしている,デルタ株の二次感染者数分布は,ワクチン接種済みの人については(20人以上に感染させたケースの山を除けば)従来株と同じような過分散だが,未接種の人については従来株よりずっと裾が長いという報告は興味深い。引用を辿っていくと英語でないtweetになってしまって論文に辿り着けなかったので,ちゃんとpublishされるのを待ちたいが。

Case-control study is possible(2021年8月8日)

8月4日付け産経新聞記事の「英紙テレグラフによると、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の専門家も、英人口の87%が免疫を獲得し、デルタ株の感染抑制に必要な93%に近づいていると分析している」についてtwitterでご質問いただいたので,昨日返事したのを拾っておく。

この記事のUCLの専門家はProf. Fristonで,https://londonnewstime.com/herd-immunity-is-within-reach-as-young-people-encouraged-the-covid-vaccine/379515/で確かに93%と言ってますが,どの研究が元か不明です。

https://minato.sip21c.org/tiid/infection-models-epidemiology-2021.pdfのp.34に示した単純なモデルだと,デルタ株のR0が6でワクチン接種後や感染後でも10%感染すると仮定すると(1-1/6)/0.9=0.93なので,そういう計算かも。

東京新聞の五輪のお祭りムード、コロナ感染拡大に影響か…バッハ会長「数字的な裏付けない」総括会見で一蹴という記事を見て,感染症疫学に無知なバッハ氏はともかく,Dr. McCloskeyがそんなこと言っちゃいかんだろうと思って,「研究デザインとして難しいから,どうせそんなデータ取れないと開き直っているのだろうが,いまケースコントロールで研究すればデータ取れるはず。保健師が聞き取りのときにオリンピック開催絡みで行動を変えたかどうかを聞き取っておけば,非感染対照に対して同様な聞き取りをしてオッズ比だせる」とtweetしたら,多くの「いいね」とRTをいただいている。さらにこのtweetへの返信として"Rather Dr. McCloskey should lead the IOC to conduct such case-control study. In addition to the effect of mood on behavior, the bubble was broken, and the medical care is overwhelmed outside the bubble, why they don't feel responsibility to cause heavy burden in medical care?"と英語でもtweetしたのだが,そちらは「いいね」もRTも10件くらいだ。たぶん英語圏の人に自分がフォローされていないということだろう。最初のtweetに対して「難しいのでは?」というコメントがあったので,「データを取ってみないと結果はわかりませんが,IOCは「エビデンスはない」と嘯くのではなく,ちゃんとしたデザインで十分なサイズのデータを取ったけれども有意な関連は見られなかったことを示して,初めて免責されるはずという主旨です。第一波以来の日本人の行動を考えると,関連あると思っていますが」と返信したが,こちらはあまりRTされない。どういうtweetがRTを集めるのか,いまだに良くわからない。

Yahooニュースに載っていた東スポの東京五輪の開催費用で買えたモノ「300の病院」「1200の学校」 米紙が皮肉報道は,カタカナで「米紙」が何なのかと,その元になった論文がOxford大学からのものであることには触れてくれていたが,残念ながら,Illinois News Todayの元記事へのリンクがなかった。元記事は,ちゃんとOxfordの研究者による論文をリンクしてくれている。以前から批判しているが,日本語のメディアは学術情報の出典をリンクしないのがダメ。

岩波書店『科学』9月号の巻頭エッセイ渡辺知保「健康情報の共有と意思決定プロセスの透明化を ――「東京五輪開催についての日本健康学会としての提言」をふまえて」が公開されていた。

キューバ製のワクチンとCOVAX(2021年8月10日)

SARS-CoV-2の検査キット承認情報(厚労省)。先日触れたBDのVeritorもロシュのキットも承認済みなんだな。しかしFrediani JK et al. "Multidisciplinary assessment of the Abbott BinaxNOW SARS-CoV-2 point-of-care antigen test in the context of emerging viral variants and self-administration"(Scientific Reports,2021年7月16日)で,BD Veritorに劣らない感度を示した(けれども,Figure 2を見ると,自己採取だけの場合に比べて自己検査ではCt値が20-24.9のときの感度がやや劣る)とされているAbbottのBinaxNOWがWalmartで2テスト20ドルで市販されている(医療機関用には単価5ドルだったようだが,市販品はそれより若干高くなったのだと思われる)米国の状況に比べると,抗原検査キットは日本では入手しにくいし高い(ちなみに,この記事によると,EUで認可されたPanbioがBinaxNOWの同等品らしく,厚労省が認可したのもPanbioだが,逆にUSAではPanbioは買えないそうだ。PanbioでもBinaxNOWでも,この値段で市販してくれたら良いのに)。西村大臣が移動が必要な場合は検査を受けて(この言い方ではRT-PCRなのか抗原検査でも良いのか不明だが)と言っても,自費検査についてで示されている機関は限られているし,値段も高いので実効が上がりにくい。移動に先立って検査をして貰うこと自体は悪くない方針だと思うが,安く簡単に検査できる体制を整えるのが先だろう。

東京の新規感染報告数が昨日と今日は3000人を切っているが,昨日までの三連休で検査数が少ないので,減少傾向になったと考えるのは早計だろう。

Taylor L "Covid-19: WHO calls for booster shot ban until end of September"(BMJのNews,2021年8月5日)は,ワクチン接種が進んでいるイスラエルや欧米で3回目接種(Booster shot)をしようとしているのを,せっかくCOVAXファシリティを作って途上国にもワクチンが公平に行き渡るようにしたかったのに,Boosterのためにワクチンを優先使用されたら,ますます低所得国のワクチン接種が遅れてしまって世界のCOVID-19終息が遠くなる(アフリカでは7月下旬にCOVID-19による死亡が80%増えたが,ワクチン2回接種受けた人は2%しかいない)ということで,WHOのアダノム事務総長が9月末までBooster shotは待ってくれと呼びかけた話。しかしたぶんイスラエルや欧米はこの呼びかけを無視して3回目接種に走りそう。日本は2回目接種が終わらないので9月末までならBooster shotはしないと思うが。このようにCOVAXファシリティによって世界に公平にワクチンを行き渡らせる構想は画餅に帰したことを考えると,Taylor L "Why Cuba developed its own covid vaccine---and what happened next"(BMJのFeature,2021年8月5日)で同じジャーナリストLuke Taylorが,キューバがワクチンを独自開発した理由を読み解いているのに合点がいく。そもそもキューバはGDPの割に医療水準は高くて,チェルノブイリで被爆して白血病や甲状腺がんになった子どもの治療を引き受けたりしてきたし,HIV/AIDSのARTでも安価な薬の開発へのブラジルとタイの貢献は有名だが,実はキューバもARTに使える薬を独自開発してきた国だが,この記事でTaylorは,キューバはワクチンについても国家ワクチン接種プログラムに入っている11種類のワクチンのうち8種類を国内生産していて,ポリオ,ジフテリア,麻疹,風疹,百日咳は排除に成功しているし,血清群B髄膜炎菌ワクチンは40ヶ国以上に輸出していると書いている。そういう背景の元に,キューバ政府はCOVID-19のワクチンとしてAbdala(第三相臨床試験の結果,3回接種で92.28%の発症予防効果があり,重症化や死亡は100%防げるとCIGBが発表している)を7月9日に認可し,中南米で最初にCOVID-19のワクチン開発に成功した国となったとのこと。その後もSoberana 1,Soberana 2,Soberana Plus,Mambisaというワクチン候補を開発しているそうで,これらはすべてNovavaxと同じくタンパクサブユニットのワクチンで,mRNAワクチンと違って極端な低温保管は必要なく,製造コストも安いとのこと。ただ,ベネズエラが6月24日からキューバのワクチン輸入を開始したが,他のワクチンが足りないにもかかわらず拒否する人が多いので,PAHOが,キューバ政府に対して,もしAbdalaについて第一相から第三相までの臨床試験が完了しているのなら,学術雑誌にデータを公表することが非常に重要で,それができればCOVAXのスキームを通して他の低中所得国にAbdalaを配布することができると勧めているとのこと。まあ確かに学術雑誌に論文が載っていないとなあ。

Rüdiger S et al. "Predicting the SARS-CoV-2 effective reproduction number using bulk contact data from mobile phones"(ProNAS,2021年8月3日)は,スマホから得られた接触データを使って実効再生産数を予測するというタイトル。ざっと目を通したところでは,ドイツでGPSの位置情報を使って2020年3月から11月までの接触情報を得て,接触の回数と異質性の指標としてのcontact index (CX)を推定し,超拡散(superspreading)イベントもそれで捕捉でき,CXの7日平均からRが線形回帰できると主張しているようだが,CXについてちゃんと読まないとわからないな。

de Lima LF et al. "Minute-scale detection of SARS-CoV-2 using a low-cost biosensor composed of pencil graphite electrodes"(ProNAS,2021年7月27日)は,ヒトACE2と鉛筆型グラファイト電極など低コストな材料を使って,229 fg/mLまでのSARS-CoV-2スパイクタンパクを6.5分で検出できるデバイスを開発したと言っている。単価1.5ドルとのことだから,抗原検査キットより安い。ただ,鼻咽腔スワブでは感度88.7%,特異度86.0%と,多くの抗原検査キットより劣っていて,唾液サンプルでは感度も特異度も100%と書かれているが10サンプル(陽性3例,陰性7例)しか調べていないので,実用化されるとしても当分先のことになりそうな技術と思われた。

イベルメクチンは特効薬にはならない(2021年8月11日)

先週も触れたイベルメクチンについて。

Hellwig MD, Maia A "A COVID-19 prophylaxis? Lower incidence associated with prophylactic administration of ivermectin"(Int. J. Antimicrobial Agents,2021年1月)みたいな地域相関研究で効果が期待された予防内服(地域相関研究で効果が期待されたという点ではBCG接種と同様)だが,多くのRCTでは有効とも無効とも言いがたい微妙な結果で,中には著効があったという報告が出ても取り下げられたり(このニュースに出てくるエジプトの研究とか),それを含めて行われたメタアナリシスからもその研究に関連した部分は除くと発表されたり,混乱が続いている。

そもそもCOVID-19関係の論文の取り下げが多すぎるのは,あまりにも査読を急がせすぎているからではないかという議論は日本健康学会誌の巻頭言に書いた通り。

話をイベルメクチンに戻すと,最近出たRavikirti et al. "Evaluation of Ivermectin as a Potential Treatment for Mild to Moderate COVID-19: A Double-Blind Randomized Placebo Controlled Trial in Eastern India"(J. Pharmacy & Pharmaceutical Sci,2021年7月15日)は,インド東部で二重盲検のプラセボ対照の臨床試験で軽症から中等度のCOVID-19へのイベルメクチンの治療効果を調べた研究だが,退院のみ有意に改善するが,その他の効果は何も有意でなかったと結論している(それに,既にいろいろな段階で有効性が示されている薬はあるので,先週も書いたように,今後の臨床試験は,それらの薬を使った標準治療を対照として,治療効果の優越性を示すか,コストが格段に安くて非劣性であることを示さねばならない)。最近の日本では,割と著名な臨床医でもイベルメクチンに期待する発言をする方が散見されるが,これまで査読付き学術論文として発表された研究結果をみる限り,少なくとも特効薬と言えるほどの効果は,残念ながらまず期待できない。

藁にも縋りたい気持ちはわかるが。

C.37(Lambda)変異株についてメディアが取り上げているようだが,WHOの分類でもVOIだし,去年の終わりに見つかっているのにそこまで増えたことがないので,感染力はそんなに強くないと思われる。免疫逃避はあると報告されているけれども。

西村大臣とかはオリンピックをやっておきながら帰省は極力控えて欲しいなどと平仄の合っていない要請をするからダメなのだが,WHO神戸センターのメッセージは,「長引く移動制限や自粛によって、高齢者は特に孤独を感じやすくなります。帰省が難しい場合でも、電話やメール、手紙などでつながりを保ちましょう」と高齢者に寄り添っていて重要。

昨日の抗原検査の話の続き。東亜産業の抗原検査キットは値段的には近い水準なんだが,「研究用」限定で体外診断用医薬品審査は通っていない。陽性と出たときは無料でPCR検査してくれるのは良心的だが(ということは,感染者と濃厚接触した心当たりがあるか,何らかの症状が出ているときに,保健所か医療機関経由の検査にアクセスできなかった場合に使うことは想定内なのだろう),無症状感染者サンプルでの感度がわからないと結果が陰性だったとき解釈不能なので,残念だが陰性確認に使ってはいけないと思う(東亜産業のサイトにその旨明記されているし)。

5類にしても何も解決せず,多くの人が不幸になることがわかりきっているのに,なぜ5類にすれば何かが良くなると錯覚している人が多いのか謎だったが,少なくともこの記事に書かれていることくらいは踏まえていないと,この件について語る資格がないと言って良い。ここで言われている「ウィズコロナ」は以前紹介した「共存」ではなく「大炎上」のことなので,人道的に到底受け入れられない。いま必要なことは感染症法の区分変更ではなく,ともかく新規感染者が減るような対策を取ることだと思う。

電気通信大が粗悪なCO2センサの見分け方を公開。安価な製品の多くは消毒用アルコールに反応(Engadget日本版,2021年8月11日)はソースへのリンクがあって偉いが,記事そのものは電通大のリリースの方がわかりやすかった。しかしなぜEngadgetの記事は,Pocket CO2 Sensorの企画監修をしている石垣陽特任准教授の名前を出さなかったのだろう(電通大のリリースにはあるのに)? ちなみに,ぼくはpocket-co2のPro版を私費購入してラボに置いて連続モニタしているが,院生が1人ラボに来ると空調付けていても数十ppm上がることが研究室にいてもわかるので便利だ。

災害準備性(2021年8月18日)

江川紹子さんが墨田区についてのルポを書いていて,いろいろ示唆に富んでいるとは思う。ただ,あまり強調されていないポイントとして,災害対応として捉えると,preparednessとmitigationができていることが重要なので理に適っている点が挙げられる。東日本大震災後に石巻市民病院を拠点として地域の災害医療を担った石井正先生の著書に,被災前に顔の見える関係性で連携するチームができていたことが有効だったと書かれていたと思うが,墨田区も同様に,事前に災害対応ができる組織になっていたことが大事(災害保健分担分の講義資料参照)。

ハイチ地震は7.2というマグニチュードからは想像しにくいほど被害が大きい(Relief Webの特集ページ)。建築のレギュレーションとか防災インフラが先進国基準からすると不十分なのだと思うが,ニュースから見る限り自力復興は不可能なレベルの大災害なので,海外からの支援が必要……なのだが,COVID-19パンデミックのせいで海外からの支援というのが平時のようにはやりにくいのが問題だなあ。いずれにせよ自分には募金くらいしかできないが,国際赤十字が1000万スイスフランの緊急救援アピールをしているので,赤十字に募金しようと思ったが,まだ受付ページがないなあ。既に救援活動を始めているAMDAにするか。それにしても地上波テレビのニュースはあまり取り上げないなあ。

NZが市中感染1人でロックダウンという報道だが,アーダーン首相の会見の文字起こしがあるので,メディアは報道するときにここをリンクして欲しいところ。翌朝結果が出るまでわからないが,それまでデルタ株であるという想定の下に対策を考えたと何度も強調されている。感染経路不明の人が1人いるということは,その背後に何人もの無症状感染者がいるということだし,強力な水際対策をしているNZならば,オークランドとコロマンデル半島では7日間,それ以外の国内全土は3日間,警戒レベル4に移行するという決断をして,それを理由付けとともに首相が言葉を尽くして記者会見するというのが素晴らしい。

日本の首相には,感染抑え込みのためにはワクチン接種カバー率上昇とNPIsと両方必要という論文を読んで理解して欲しい。

6月末に書いたように,ロックダウンはなるべく早いタイミングで(補償とともに)強力な行動制約を掛ければ短期間で済むことが既知なのに,まん延してから緩い制約を掛ける日本のやり方では長期間になってもなかなか奏功しない。NZや台湾の成功例に学ぶことがなぜできないのか?

経産省が業態転換を支援するというニュースが流れたが,事業再構築補助金の第3回募集のことか? 三密不可避かつエッセンシャルワークでない業種には業態転換を支援するべきと去年の4月に書いたが,これはもっと拡充したら良いと思う。

Dr. Eric Topolがtweetしていたので知った,Lytras S et al. "The animal origin of SARS-CoV-2"(ScienceのPerspective,2021年8月17日)は興味深い。SARS-CoV-2はコウモリから直接ヒトに感染したのかもしれないが,多くの動物がホストとなりうるので,養殖されたアメリカミンク,アカギツネ,タヌキや,罠で捕まえた野生のタヌキやアナグマが生きたまま武漢の海鮮市場で売られていて,コウモリは売られていなかったことを考えると,これらの動物からヒトに感染した可能性がある。この可能性自体は以前から言われていたが,ASFV(アフリカ豚熱ウイルス)の蔓延によって中国では1億5千万頭の豚が殺処分され,豚肉の供給が大幅に減少したことと,それによって豚肉の市場価格が2019年11月には前年比2.3倍と史上最高を記録したことに加え,2016年以来中国の養豚が南部から北部に移転していて,ASFVのせいで生きた豚と豚肉の移動が制限されたことによって,東部や南部ではさらに豚肉が不足し,価格上昇がさらに急になったことから,南部の人々が豚肉の代わりに伝統的な肉類を求めるようになったことで,それらの家畜や野生動物の交易が増え,ヒトとSARS-CoVsを含む人獣共通感染症の病原体をもっているそれらの動物との接触が増えて,ホストスイッチのリスクが高まったかもしれないという推論には一理ある。

古瀬さんのtweetで知ったが,Furuse Y et al. "COVID-19 case-clusters and transmission chains in the communities in Japan"(Journal of InfectionのLetter to Editor,2021年8月11日)は,古瀬さん自身がtweetに書いているように,「飲み会クラスター、家庭内感染、病院クラスターがどのようにつながっているのか、日本の実例28個を紹介する論文」。大事な注釈として,次のtweetで古瀬さんが注意喚起しているが,この情報から個人や地域を特定しようとしてはいけない。このLetterのFindingは,これも古瀬さん自身がこれを含む3つのtweetsで明確に説明されている。

NZの警戒レベル4について補足(2021年8月19日)

ロックダウンのタイミングは早いほど短期間で感染抑え込みが可能なことが既知と昨日tweetしたところ,たくさんのRTといいねをいただいているが,補償は関係ないとか罰則が必要とかいった見当外れなコメントも付いている。補償なしに休業したら生活が成り立たないから時短要請にさえ従わない人が出てくるわけで,生活保障のための休業補償とセットにすることは公衆衛生政策としては必然で,それがわからないようなコメントは無視して差し支えないと思うし,そういうコメントを書く人の場合,一部は業務でやっているのかもしれないが往々にして説明しても理解しないことが多く面倒なので,原則として一々応答しないことにした。

New ZealandのLockdownとはAlert Level 4のこと。去年4月に出た,Alert Level 4での警察ガイドラインを見ると,確かに罰則規定もあるのだが,警察が何をできるのかをこのように細かく決めておけば,それに従わない場合は公務執行妨害という対応がとれるので十分なのではないか? また,去年3月末からの第一波に対して去年4月に出た最初の緊急事態宣言で日本政府が求めた行動制限は,ほぼこのNew ZealandのAlert Level 4に近いものだったし,加えて全国民一律に10万円を給付するという方法で最低生活保障をしたことによって行動制限が機能したので,今のような,多くの人が普通に通勤していて,オリンピックのようなマスギャザリングイベントもやっていて(パラリンピックの学校連携観戦も中止になっておらず,というかパラリンピック自体,首都圏の医療崩壊状態にもかかわらず強行予定なのが信じがたいが),部活もやっていて,学校も9月から対面とか言っていて,クラスター感染リスクが高い業種にだけ時短要請をするような,名ばかりの「緊急事態宣言」ではない,New ZealandのAlert Level 4に近い行動制限は,去年の春の日本でもできていたわけだ。つまり,いま必要かつ有効な政策としては,欧米のようなロックダウンとまで言わずとも,「緊急事態宣言」の中身を去年4月に出した初回のものに戻すだけでも良い。まずは事実を踏まえることが重要だろう。

ちなみにNew Zealandの休業や休職関連の補償に関しては,COVID-19 financial support: Current financial support schemes for businesses, employers and employees.Leave and pay entitlements during COVID-19 response and recovery: Your rights and responsibilities regarding pay and leave during COVID-19 response and recovery.に書かれているようだ。New Zealandの場合,こういう方針が出されるとともに,アーダーン首相が,ちゃんと中身を理解した上で自分の言葉で語りかけているのも,国民が行政への信頼を失わないために重要なポイントと思う。

窓開けの効果(2021年8月21日)

和歌山県知事のメッセージ(2021年8月17日)。行政当局がすべてこういう認識でいてくれると良いのだが。

Dr. Eric Topolがこのtweetで紹介しているプレプリント論文は,20万回のシミュレーションをした結果で,学校セッティングで冬期に6つの窓を一日中フルオープンしておくとウイルス曝露量が1/14になると期待されるという話。tweetを見たときは,一瞬,換気で感染リスクが1/14になったのかと思ったが,そういうわけではない。

FDAがファイザーのmRNAワクチンを正式承認(2021年8月24日)

ファイザーのmRNAワクチンがFDAにより正式承認されたというニュースが流れているが,相変わらずソースへのリンクがない。メディアは,FDAの発表そのニュースリリースをリンクして欲しい。

関連して,mRNAワクチンの研究開発の歴史は実は何十年もあるのだ,というレビュー論文(Hou X et al. "Lipid nanoparticles for mRNA delivery.",Nature Reviews Materials,2021年8月10日)を紹介するtweets(これこれ)をDr. Eric Topolがしていて,うまい紹介の仕方だと思った。

2回のmRNAワクチン接種を受けて2週間以上経過した人を指す略称として何人かの医師が使っている下ネタ的なものについて揉めているようだが,ぼくは別に嫌悪感は無いけれども,何が嬉しくてああいう略称を使いたがる人がいるのかわからない(誰得? というやつ)。英語でもFully vaccinatedをFully vaxedと略記するので,「フルヴァックス」と呼べば良いのではないか。その方が英語圏の人にも通じそうだし音の響きも格好良いし。字面として短くしたければFVAXなら半角4文字で済む。なお,このfullyは一連の規定の予防接種を完了したという意味であって(ワクチンごとに異なるが,例えば3回接種が必要なワクチンであれば2回終わった段階ではfully vaccinatedではない),完全に免疫になったということは意味しない。防御の有効性が100%なワクチンなど世の中にほとんど存在しないので当然のことだが,誤解しないように注意が必要。WHOCDCも"fully vaccinated"は"full protection"を意味しないと明記している。

Mikszewski A et al. "The airborne contagiousness of respiratory viruses: A comparative analysis and implications for mitigation"(Geoscience Frontiers,2021年8月11日)は,さまざまな経気感染する病原体の感染者からの排出量を,休んで口呼吸しているとき,立って喋っているとき,軽作業をして大声で喋っているときについて,それぞれ対数正規分布を仮定して推定しているが,SARS-CoV-1,MERS,治療中の結核,インフルエンザウイルスなどに比べて,SARS-CoV-2は,喉風邪を起こすアデノウイルスや未治療の結核と同じく1桁排出量が多く,麻疹はそれよりさらに1桁多いことが一目瞭然。

子どもの病気として常在化するシナリオの論文(2021年8月26日)

現代ビジネスの記事,西浦博教授が考える「ワクチン接種が進む日本」でこれから先に見込まれる”展開”: 明るい未来を切り開くために(2021年8月26日)の5ページ目で「一部の進化生物学者は既に本感染症は数年から5年程度のタイムスパンで、子どもの病気へと変わっていくものと予測している」と西浦さんが紹介してリンクされているLavine JS et al. "Immunological characteristics govern the transition of COVID-19 to endemicity"(Scienceのreport,2021年2月12日),Supplementary Materialにモデルの詳細が載っているが,年齢構造と免疫喪失を考慮したSIRモデルを使っている。

このSupplementに載っているコードはRで書かれていて,githubのページがあった(Zenodoにアーカイブされているとして,Referencesの35番になっていた。Zenodoというサービスは初めて知ったが,オープンサイエンスのためのプラットフォームとのことで,コードやデータをまとめてdoiが付くのは有用と思われる)。

また,Lavine JSがこの論文を含め"What is the endgame of the covid pandemic? Will covid become endemic?"というテーマで鼎談しているYouTube動画があった。

実は1月にメモして「後で読もう」と書いていた論文だったが,忙しさに紛れて読み忘れていた。

経気感染のレビュー論文(2021年8月31日)

27日にRTしたのだが拾い忘れていた(というか目を通す暇も無かった),Dr. Eric Topolのtweetで紹介されている,Wang CC et al. "Airborne transmission of respiratory viruses"(Scienceのレビュー論文,2021年8月27日)は,ざっと見た感じでは図版が多くて良くまとまっていると思うし,パワーポイント図版がダウンロードできるのが嬉しい。

モデルナワクチンへの異物混入(2021年9月2日)

Tweetだけして,ここには拾っていなかった件。

モデルナワクチン、異物は金属か 製造過程で混入の見方:朝日新聞デジタルを見て,厚労省の報告は新聞記事より情報量が少なく情報公開不足。金属アレルギーが起こっていたら予防接種健康被害救済制度を適用すべきだろう,と8月29日にtweetしたが,今日見たら厚労省ページに情報が追加されていて,モデルナ社と武田薬品の共同ステートメントがpdfとして掲載されていたが,金属部品の設置不具合による摩擦でSUS316の破片が混入したという説明。物質がわかったので,副反応が出たと報告している人がSUS316でパッチテストをして陽性なら,因果関係が証明できそう(目視で弾いたサイズの破片が混入していたということは,同じ摩耗で目視できないようなサイズの微片や微粉が入っていて注射されてしまった可能性は否定できないので,回収は当然として,被害を訴えた人にパッチテストの機会を提供するのは製造物責任と思う)。もっとも,これはRovi社の製造ラインにおける事故なので,この事例をもってモデルナのmRNAワクチン全般を疑う必要は無いと思うが。

B.1.621系がVOIとなってミュー株というWHO呼称が付いた件(2021年9月3日)

教会でマスク無しで賛美歌を歌うことがクラスター感染のハイリスクであることは周知の事実なのに(例えば,Miller SL et al. "Transmission of SARS-CoV-2 by inhalation of respiratory aerosol in the Skagit Valley Chorale superspreading event", Indoor Air, 26 Sep 2020とか,Kateralis AL et al. "Epidemiologic Evidence for Airborne Transmission of SARS-CoV-2 during Church Singing, Australia, 2020", Emerging Infectious Diseases, June 2021とか),全世界で繰り返し起こっている。今日様々なメディアが報道しているが,別府市のフルゴスペル大分教会クラスターもその1つ。

WHOがB.1.621.1を含むB.1.621系統(Pango Lineageの分類で)をMu(=μ)株としてVOIに含めた件については,8月31日付けのCOVID-19 Weekly Epidemiological Updateからリンクされているpdfに書かれているが,まだ詳細はわからず今後の研究が必要であるものの,免疫逃避能をもつ潜在的可能性があり,回復期患者やワクチン接種後の中和活性能の低下が示されていて,コロンビアで2021年1月に初めて見つかり,南米とヨーロッパで大規模なアウトブレイクがいくつか報告されていて,配列を決定された株に占める割合は世界中で低下中で0.1%未満だが,コロンビアでは39%,エクアドルは13%と増加を続けているとのこと。

Wang L et al. "Ultrapotent antibodies against diverse and highly transmissible SARS-CoV-2 variants"(Science,2021年8月13日; オンライン出版は7月1日)は,7月1日にダウンロードしていたのだが読んでいなかった。変異株の性質について理解するためには読んでおかないといけないかも。

院生の研究計画の関連で,ソロモン諸島の学校で,どのようなCOVID-19感染対策が行われているか調べてみたところ,UNICEFとWHOと赤十字が共同で去年3月に出したソロモン諸島の学校宛のガイダンスがあって,石鹸ときれいな水を使った定期的な手洗いとか,ソーシャルディスタンスを保つことなどが書かれているが,実際にどの程度守られているのかはわからない。去年の8月にはやはりUNICEFからソロモン諸島への緊急時の教育を保ちリスク緩和するための追加支援が入っていた。2021年にはUNICEFがSafe Schools Trainingという教員研修を24回実施予定とのことだが,先月発表された,NDIとUSAIDのCOVID-19パンデミックからの復興に関する世論調査報告によると,DVの悪化,失業,生活費の上昇などが大きな問題になっているようで,それらに比べれば学校の問題はあまり上がってきていない。

まあ,ソロモン諸島はこれまでの確定感染者報告数が累積20人で,死者はゼロ,とNZなどと同様に,今のところEliminationを保っているのだが。

さっきマスク無しで教会で賛美歌を歌うことがクラスター感染のリスクと書いたが,キリバスの子どもが,学校で歌を通してCOVID-19予防方法を学んでいるという報告を,「歌の力」と題してUNICEFが出している。日本でも手洗い動画は流行ったが(ピコ太郎とかとか)。

シンガポールの戦略(2021年9月8日)

数日ぶりにグラフを描いてみた

シンガポールといえばCFRが世界の中でも例外的に低いことで知られている。たぶんほぼ完璧に接触者追跡ができていてCFRがIFRにきわめて近いためだろうと思うが,ワクチン接種率が80%に達したことから,8月30日からいろいろな行動制限を緩和するという発表が8月19日になされていた。ところが感染者が急増してしまったため,迅速抗原検査キットを9月中に全世帯に配布し,免疫不全の人と高齢者等にブースター接種をするという発表が9月3日になされ,9月13日から義務的な検査の頻度を2週間ごとから毎週に上げ,対象もケアサービス従事者やジム・フィットネススタジオ勤務者から,小売店モールやスーパーや配送業などの従事者やタクシー運転手に拡大し,他業種にも迅速抗原検査キットを配布し,今後2週間は不可欠でない社会接触を減らすことを強く奨励するという発表が9月6日に出た。デルタ株流行下では,80%がFully vaxedでも行動制限を緩めたら感染急拡大することが,このシンガポールの経験からも示された。イスラエル,UK,USAでわかっていたことだが(→追記:2021年9月16日に,田口善弘さんがtweetでご指摘くださった通り,これは不正確で,R0が5-9のデルタ株ではFully vaxedが80%でも集団免疫閾値に達しないことがほぼわかかっていたのはシミュレーションを含む数理モデルからであって,これらの国はワクチン接種は80%よりは低い時点で制限緩和したので,シンガポール政府は80%なら大丈夫だろうと期待して制限緩和したのだろうが,やはりダメだった,というのが正確です)。ただ,シンガポールはスマホアプリのTraceTogetherを去年春から実用化しているだけでなく,スマホをもっていない高齢者や子どもでも使えるTOKEN GO WHEREを配布するなどのデジタルトレーシング手法も活用して追跡と隔離をちゃんと続けているので,イスラエル,UK,USAほどの感染拡大にはならないと思う。

昨日からのTweetsを拾っておく。水野さんのワクチン接種率ごとのRt<1に必要な自粛率のグラフに対して,pはワクチン接種率ではなく接種率と感染予防の有効性の積になるはずとコメントしたところ,有効性を90%と仮定した修正グラフを作ってくださったので,90%は少し高すぎる点と異質性議論について余計なことをコメントしてしまったところ,(1)西浦さんから異質性についてツッコミが入ったので元からこの文脈で触れるべきではなかったと応答し,(2)水野さんから90%が何故高すぎるのかとご質問いただいたので,発症予防なら90%でも良いが,いくつかの文献を見るとデルタ株に対する感染予防の有効性は60%くらいではないかとご返事した(参照した文献は,Harder T et al. "Efficacy and effectiveness of COVID-19 vaccines against SARS-CoV-2 infection: interim results of a living systematic review, 1 January to 14 May 2021"という2021年7月15日のEurosurveillanceに載っていたシステマティックレビューとFowlkes A, Gaglani M, Groover K, et al. Effectiveness of COVID-19 Vaccines in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Frontline Workers Before and During B.1.617.2 (Delta) Variant Predominance — Eight U.S. Locations, December 2020–August 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2021;70:1167-1169.)。

Fully vaxedの人でも鼻腔感染はするという実験的研究が出たという日経/ナショジオの記事があったが,ソースがプレプリントでmedrxivに載っていると書いておきながら当該論文へのリンクがなくdoiも書かれていないのが惜しい。当該論文を読むと,デルタ株が優占しているウィスコンシン州で,自己申告を接種登録で確認した(うち33人は自己申告では未接種だったのに接種登録があったが)ワクチン未接種の人と2回接種終了後2週間以上経った人から得たスワブ試料を採取してウイルス排出量を比較したところ,Ct値が25未満という感染力のある量のウイルスが検出された割合もCt値の分布も,2群間で統計的に有意な差が無かったとのこと。

9月中旬のメモ(2021年9月14日)

Weiner 3rd J et al. "Increased risk of severe clinical course of COVID-19 in carriers of HLA-C*04:01"(eClinicalMedicine,2021年9月1日)は,ゲノムワイドな解析で,HLA-C*04:01をもっている人はCOVID-19感染時の重症化リスクが高いことを示した論文のようだ。(9月9日)

Dr. Eric Topolがこのtweetで紹介している,フランスのグループがプレプリントサーバに載せた論文によると,ウイルス様粒子を使った室温保管可能な経口ワクチンは喉の粘膜への感染も防御する効果がありそう,という話。まだ実用化はかなり先と思うが期待できるかも。(9月10日)

9月6日に再燃について触れたシンガポールだが,シンガポール政府のCOVID=19ページを見ると,感染者数だけでなく酸素投与が必要な患者数も増え続けているし,"Over the last 28 days, among the infected persons, the percentage of unvaccinated who became severely ill or died is 5.4%, while that for the fully vaccinated is 1.0%."と,2回接種後2週間経った人でも感染したら1%は重症化または死亡していて,もちろん未接種者の5.4%よりずっと低いが,C(S|F)Rが1%という値はWith Coronaを認められないほど高い。(注:この値は「重症化または」なのでCFRではない。略記するならCase (Severity OR Fatality) Riskという意味でC(S|F)Rとでも書くしかないように思う。重症化が確認されていないのに,例えば自宅待機中や宿泊施設での観察中に死亡する方がいるから,こういう書き方になっているのだろう。本邦と違ってシンガポールにはそういう方は少ないはずだが)(9月14日)

飲食店認証での換気条件は二酸化炭素モニタが必要ではないか(2021年9月15日)

また十分に感染が収まっていないのにGo To Eat再開の可能性について報道されているが,農水省のサイトで書かれている飲食店へのガイドのうち,換気の条件が甘いというか,本当に十分な換気ができているのか,見かけだけなのかがわからない。二酸化炭素濃度モニタをして600 ppm未満であることを条件にしたらどうか(一般に1000 ppmが換気の基準として言われているが,E501をずっとモニタしている感じからすると,誰もいなければ400 ppm前後なのが,1人部屋に入ると換気をしていても470 ppmくらいになり,複数人が入ると換気をしていても500 ppmを超えることが多いが,600 ppmはまず超えないのに対して,換気扇や空調を付け忘れていると,1人でも30分くらいで600 ppmを超えることがあるため)。

ワクチン接種しても感染時の入院リスクや死亡リスクに影響を与える因子の種類は変わらないがリスクは下がる(2021年9月19日)

Hippisley-Cox J et al. "Risk prediction of covid-19 related death and hospital admission in adults after covid-19 vaccination: national prospective cohort study"(BMJ,2021年9月17日)は,QResearchのデータベースからデータを取りだし,数百万人のワクチン2回接種を受けた人について,2回接種後2週間経過してからの入院や死亡と関連していたリスク因子を調べたところ,ワクチン未接種の場合と種類は変わらないが(ダウン症,腎移植,鎌状赤血球貧血など),入院リスクや死亡リスクが低下していた,という論文。

マスク着用についてのコミュニティ介入試験(2021年9月29日)

三重大学の奥村先生がRTしていたこのtweetで知ったバングラデシュでのCommunity Intervention Trialによるマスク着用奨励の効果について。tweetからリンクされているのは紹介記事で,そこで「詳細はこちら」という形でacademic paperとしてリンクされているのがAbaluck J et al. "The Impact of Community Masking on COVID-19: A Cluster-Randomized Trial in Bangladesh"(Innovations for Poverty Action Working Paper,2021年9月1日;たぶんYale大のサイトに載っている,COWLES FOUNDATION DISCUSSION PAPER NO. 2284Rと同じもの)。研究を実施したIPAという国際NPOのワーキングペーパーなので(2021年4月にNBERワーキングペーパーとして発表されたものの改訂版として8月31日付けで作られ,翌日付けでIPAから公開されたという経緯のようだ),これ自体は査読付き学術雑誌に載っているわけではないが,介入試験としてClinicalTrials.govという公的なプロトコルデータベースにNCT04630054で登録されているし,Yale大学のIRBとバングラデシュ医学研究カウンシル研究倫理委員会の倫理審査で承認されている(それぞれIDは2000028482と330 26 08 2020)。NatureでNEWSとしてこの研究を紹介している記事も,Johns Hopkins大学の公衆衛生学のチームによる紹介記事も研究としての価値を認めているようだ。

日曜の保全生態学フォーラムで知った,Soga M et al. "A room with a green view: the importance of nearby nature for mental health during the COVID-19 pandemic"(Ecological Applications,2020年11月17日)は,COVID-19パンデミック中のメンタルヘルスのために,身近な自然が重要で,そのためには部屋から緑地が見えると良いというタイトルだが,行動への制約が長引いていることで蔓延している閉塞感からか,自分の知り合いでも精神状態が悪化している人が少なくないので,重要な視点だと思う。東京で3000人にオンライン質問紙調査をして, 5つのメンタルヘルス尺度(GHQ-12でうつと不安,Liang (1984)版の生活満足度尺度Aで生活満足度,Lyubomiskyの主観的幸福感尺度で主観的幸福感,Rosembergの自尊感情尺度で自尊感情,UCLA孤独感尺度第3版で孤独感)と2つの自然経験評価値(「先月,あなたは近所の緑地に合計何回行きましたか」「先月,あなたは週平均どれくらいの時間,近所の緑地で過ごしましたか」「自宅でもっとも長時間いる部屋の窓から緑地が見えますか」の3問を尋ねたが,緑地滞在時間と緑地訪問回数はr=0.696と高度に相関していたので訪問回数だけを分析で使った)の関連について,社会人口学的な変数やライフスタイルの変数を考慮し,すべての変数を標準化して線形回帰モデルを当てはめ,偏回帰係数を効果量として考えると,Figure 3に示されているように,緑地訪問回数と窓からの緑地の眺めと所得(と生活満足度を除き年齢)が自尊感情,生活満足度,主観的幸福感に正の影響,孤独感,うつと不安に負の影響をもつことが示されたとしている。これらの変数から考えると,個人の対処というよりも,都市緑化政策を推進するためのエビデンスの1つということだな。グループレベルの変数として居住地の緑被率とかソーシャルキャピタル的なものとか調整すべきではないかとか,このようなまとめ方にするなら,2つの潜在因子を介した共分散構造モデルにした方が良くないか,とか思うところはあるが,興味深い研究と思う。

緊急事態宣言解除(2021年9月30日)

今日で19都道府県に出ていた緊急事態宣言が解除されるが,政府対策本部サイトの緊急事態宣言のページに書かれている「緊急事態宣言は9月30日をもって終了しますが、緊急事態措置区域から除外された都道府県では、感染の再拡大を防止する観点から、対策の緩和については段階的に行い、必要な対策はステージⅡ相当以下に下がるまで継続します。国民の皆さまにおかれましては、引き続き感染拡大の防止にご協力をお願いいたします」が等閑にされて一気に緩んでしまうと(人情として自然なので,おそらくそうなるだろうが),すぐに急な感染再拡大が起こりそうだ。もっとも,グラフを描いてみると(下図)昨年4月の最初の緊急事態宣言のときと同じくらいの急減だったし,まだ減少傾向が止まったようには見えないので,第2波から第4波の解除の時よりはマシだと思うが。

日本のいくつかの都道府県のCOVID-19新規報告数の推移の片対数グラフ

新規報告患者数が激減したとはいえ,去年4月に最初の緊急事態宣言が発出された時より,まだずっと多いということもわかるグラフだが。

10月以降今日までのアップデート(2021年12月8日)

1964年の東京オリンピックは10月10日開幕だった。今年行われたオリンピックも,今日開幕だったら,そこまで暑くもないし,日本のCOVID-19感染状況も医療負荷もそこまで高くないので(もっとも,これから開幕となったら感染拡大していたかもしれないが),素直に応援できたかもしれない。(2021.10.10)

ご恵贈御礼。西浦博(編著)『感染症疫学のためのデータ分析入門』金芳堂,ISBX978-4-7653-1882-2が届いていた。(2021.10.12)

南アフリカで検出されたB.1.1.529変異株が,WHOによってVOC認定され,オミクロン株という名前が付いた。ミクロネシア諸国と違って日本は貿易依存度が高いし,おそらく政府も諦めているので,たぶん有効な水際対策は取れないと思われるし,要注意だろう。これまで有効だったワクチンの有効性が低いかもしれないという点がとくに心配。(2021.11.27)

昼はランチタイムセミナーとして児玉龍彦先生がセルフケアについて語るという企画だが,ビデオ放映のためQ & Aはなし。変異株の話をいろいろされているが,11月4日収録だったので,昨日から問題になっているオミクロン株の話がないのは残念。とはいえ,複数の変異型が1人の患者内で見つかることがあるという話(とくに免疫不全の場合)など興味深い。Ratcliff et al. 2021 Virologyの論文に書かれているという,ウイルスにC→Uの変異を起こすAPOBEC酵素がコウモリと霊長目に多いという話も興味深かった。11月3日時点でUSA,ロシア,UKなどの1日当たり死亡数が再びかなり高い水準になってきていることを踏まえて考えると,ワクチンの重症化防止効果は4ヶ月で低下するので,8ヶ月など待たずに3回目接種をすべき,というメッセージが最後に強調されたのが印象的だった。感染防止か経済かではなく,感染をしっかり抑えた上で経済を回すことが大事,という主張は尤もだ。(2021.11.27)

28 Nov 2021付けで,WHOからオミクロン株情報アップデートが出ていた。別のページで,準備性を高めるための技術短報と優先施策というのも出ていて,pdfがダウンロードできるのが便利だ。(2021.11.29)

EUのCDCによるオミクロン株の脅威の評価も,免疫回避能力と潜在的にはデルタ株以上の伝播力からVOCと位置づけたし,昨日のテドロス・アダノムWHO事務総長の会見も変異株が生まれるメカニズムを示唆しCOVAXを含む国際協調の重要性を強調しているし,COVID-19のパンデミックは,まだ大変な状況が当分続きそうだ。(2021.11.30)

この資料の16240(pp.2-5)に故・木下雄介投手の最終報告が出ていて,8月に紹介した報告で,最初の心生検の結果心筋炎の所見無しとしたのは「サンプリングエラー」で,実は劇症型心筋炎だったと書かれていたので,大変驚いた。2021年12月3日の厚労省の「副反応疑い報告の状況について」にも27歳男性の死亡例として算入されていて,23ページの表によると,モデルナ接種後の心筋炎関連事象に関わる10-39歳の死亡率比は一般母集団より有意に高い(にもかかわらず,24ページには「注視すべき状況にある」としか書かれていないが)。Rで計算するには,library(fmsb); rateratio(2, 13, 15305552*21, 38291000*365); rateratio(2, 13, 15305552*30, 38291000*365)としてみればよいが,観察期間30日とした場合で率比4.68(95%CI 1.06-20.75; p-value=0.025),観察期間21日とした場合で率比6.69(95%CI 1.51-29.6; p-value=0.004)で,偶然ではほぼありえないほど死亡リスクが上がっていると言って良いと思う。絶対リスクとしては,ratedifference(2, 13, 15305552*21, 38291000*365)とすればわかるように,死亡率の絶対値がきわめて低いこともあって統計的に有意な増加とはいえないから,この年齢層でもワクチン接種によって感染した際の死亡リスク低下が統計的に有意であり続けるなら,公衆衛生政策としては引き続き接種を進めることにも合理性があるとしても,劇症型心筋炎を発症して亡くなった方に対しては補償をすべきと思う。「副反応疑い報告の状況について」のpp.55からの図と添付文書改訂案を見ると,ファイザーでもモデルナでも10代,20代男性でのmRNAワクチン接種後の副反応として28日以内に起こる心筋炎,心膜炎の増加は明らかと認められたわけだから,予防接種健康被害救済制度で補償すべきだろう(ここにも臨時接種はA類と同じ扱いと書かれているし)。(2021.12.5)

COVID19パッケージのアルファベット3文字国名コードを示す変数名がidからiso_alpha_3という変数名に変わっていたので(変数名idはまだ存在しているが,意味不明の文字列になっていた),かつて作ったCOVID-19の毎日の感染確定報告数の推移を示す折れ線グラフを描くコードが動作しなくなっていた。変数名を書き換え,南アフリカを追加したコードに書き換えてグラフを作ってみた。8月下旬から11月上旬くらいまで日本とインドネシアと南アフリカがほぼ同じような動きなのに,11月中旬以降の南アフリカの報告数急増が凄い。B.1.1.529変異株が南アフリカからWHOに報告されたのは11月24日だったが,それ以前から増えていたということだろう。(2021.12.8)

Daily new reported cases of covid-19 in some countries

2021年12月9日以降今日までのアップデート(2022年1月4日)

下水疫学論文(2021年12月9日)

McMahan CS et al. "COVID-19 wastewater epidemiology: a model to estimate infected populations" Lancet Planetary Health, 5(12): e874-e881.がアプローチとして面白そうなので後で読んでみよう。(2021.12.9)

ワクチン接種証明(2021年12月14日)

12月20日リリース予定の接種証明書アプリを使うには,マイナンバーカードとNFC Type Bに対応したスマホが必要とのこと。Zenfone7はNFC Type A/Bに対応しているので,それはOKなのだが,ぼくは500円払って作った写真付き住基カードの有効期限が切れるまで使い続けようと思っているので,それまでマイナンバーカードが申請できないことになる。マイナンバーカードを取得する際に住基カードを返却しなくてはいけないのが癪なので耐えてきたが,最近,いろいろとマイナンバーカードが要求される場面が増えてきて,通知カードと住基カードの複写を組み合わせて乗り越えているが,不便なので心が折れそうになっている。

ところで,今朝ぼくが目にしたテレビ報道はマイナンバーカードの「読み取り」にはNFC Type B対応が必要なことに触れていないように思うが大丈夫か? まあマイナンバーカードのNFCがFelicaの技術であるType F(SuicaやEdyも採用している)を採用せず,低速だがサポート端末が多いType B(Type A/Bが世界標準らしい)を採用していたのは良かったが。

新しい変異株への細胞性免疫(2021年12月15日)

新しい変異株に対する細胞性免疫としてのキラーT細胞(CD8+T細胞)の作用の話は2月にNatureに載っていたHow ‘killer’ T cells could boost COVID immunity in face of new variantsという記事辺りから読むと良いかも。

オミクロン株論文(2021年12月17日)

オミクロン変異株について,Google Scholarでomicronを検索して日付順表示し,新しいところを拾ってみた。とりあえず以下5編ほど目を通してみよう。

Modelling suggests rapid spread of Omicron in England but same severity as Delta(2021年12月16日,Imperial College Londonグループ49報)で,Ferguson et al.がオミクロン株をデルタ株と比べると再感染リスクが5.41倍(95%CI 4.87-6.00)だが重症度は同等と書いている。それを報じるニュースリリースもわかりやすい。

業務上疾病(休業4日以上)の増加(2021年12月17日)

公衆衛生学の資料を作っていて気づいたが,2019年に比べて2020年は休業4日以上の業務上疾病が激増していた。主な原因はCOVID-19。

4日以上の業務上疾病による休業件数の2019年~2020年の変化
オミクロン株の入院リスクはデルタ株より低い(2021年12月24日)

昨日から報道されている,オミクロン株の入院リスクがデルタ株より低いというインペリグループのレポートNo.50はFergusonが筆頭著者で,ハザード比推定値の詳細はpdfファイルのTable 2に載っている。

ブースター接種の効果(2022年1月3日)

ファイザーは先月上旬にオミクロン株に対してもmRNAワクチン2回接種で誘導される細胞性免疫は有効,抗体による中和能は顕著に低くなっているが,3回目接種をすると中和抗体価が25倍になるという発表をしている。

NEJMのEditorial(Patel MK "Booster Doses and Prioritizing Lives Saved",2021年12月23日付けだが2021年12月8日掲載,以下同様)が,「本誌でブースター接種の有効性について必要とされていた証拠を提供する」と紹介している2つの原著論文が,Arbel R et al. "BNT162b2 Vaccine Booster and Mortality Due to Covid-19"Bar-On YM et al. "Protection against Covid-19 by BNT162b2 Booster across Age Groups"である。

後者ではイスラエルのデータで,12日以上前にブースター接種を受けたグループの重症化リスクや死亡リスクを,最初の分析としてブースター接種を受けていないグループと比較し,二番目の分析として3-7日前にブースター接種を受けたグループと比較している。罹患率比を出しているのだが,単純に素データで出しているのではなく,ポアソン回帰を使って性別,年齢層,民族(demographic groupという用語で,一般ユダヤ人,アラブ人,厳格正当主義ユダヤ人[=ultraorthodox Jewish]の区分を指している),2回目接種を受けた日を共変量として,過去7日間の感染確定報告数に基づく居住地別曝露リスク指数を時間依存する共変量として調整して計算していて,全年齢層でブースター接種は重症化リスクや死亡リスクを下げるのに有効であることを示している。とはいえ,効果には年齢差があって,40-59歳では60歳以上よりも効果は小さくなっている。ちなみに,Table 3に載っている,ポアソン回帰で求めた率比は,12日以上前にブースター接種を受けたグループに対するブースター接種を受けていないグループの重症化率比は,60歳以上で17.9(95%CI: 15.1-21.2),40-59歳で21.7(95%CI: 10.6-44.2)となっているが,単純に観察人日当たりの重症化数の比を計算する率比では,library(fmsb); rateratio(977 ,166, 22135011, 46668795)とすると,60歳以上で12.4(95%CI: 10.5-14.6),rateratio(168, 8, 27599399, 25890717)とすると,40-59歳で19.7(95%CI: 9.7-40.0)なので,共変量に入れた変数の交絡によって差が薄められていることがわかる。

同誌には2021年12月29日付けで2本のCorrespondenceも載っていた("Third BNT162b2 Vaccination Neutralization of SARS-CoV-2 Omicron Infection""Effectiveness of BNT162b2 Vaccine against Omicron Variant in South Africa")。

第6波(2022年1月4日)

久々に作図して「既に第6波に入ってしまっているようだ。傾きが第2波,第5波並みに急だが,大事と受け止められていない気がする」というコメントを付けてtweetした。

2022年1月2日までのCOVID-19新規報告数推移

オミクロン株の起源?(2022年1月6日)

Rの作図コードをまた走らせてみた。昨日まで3日間の増加(傾きの急さ)はこれまで無かったレベル。正月休みのための検査や報告の遅れを考慮しても,やはりオミクロン株の影響と思われる。

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月5日まで)

Gigazineの学術記事はちゃんとソースがリンクされているのが良い。「新型コロナのオミクロン株はマウスで変異して人に感染したのが起源だと判明」(見出しの「判明」は言い過ぎだと思うが)もそうで,Wei C et al. (2021) "Evidence for a mouse origin of the SARS-CoV-2 Omicron variant" Journal of Genetics and Genomics, doi:10.1016/j.jgg.2021.12.003(2021年12月24日掲載)がリンクされていた。たしかに,齧歯類の体内で変異して人に戻ってきたのなら,変異部位の多さにも納得がいく。

急増(2022年1月7日)

昨日に続いてRコードを動かし,グラフを描いてみた。さらに新規感染確定報告数が増えた。局地的というよりは全国で増加中であるように見える。増加速度が大変まずい。

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月6日まで)
47都道府県別COVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月6日まで)

3県蔓延防止だけでは不十分(2022年1月9日)

さすがに少し傾きが緩くなったが,昨日が土曜だったことを考えると,物凄い増え方が続いている。強い行動制約は早く掛けるほど有効なので,蔓延防止3県だけではまったく不十分と思うが。

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月8日まで)

従来のワクチン接種の有無でオミクロン株のウイルス排出量には差が無いという報告(2022年1月14日)

[コロナ禍の2年間]古瀬先生とウイルス学の情報発信を振り返るで最も驚いたのは,サーバ維持に月額6,000円払っているという点。shinyapps.ioって無料だと思っていたが意外に高いなと思って調べたら,サイトには,無料コースもあるけれども,BASICで月39$と書かれていた(ちなみにぼくが契約しているレンタルサーバCoreMINI+ドメインは合計年間約4,500円)。いくらRコードをwebで簡単に実行できるといっても,ちょっと高すぎるかなあ。学生参加無料のVRウイルス学セミナーは良い企画と思った。亀岡先生にお知らせしておくべきか。あと,『コロナ禍で科学者の発信がうまく行っている国ってあるんですか?』という問いかけに対して,古瀬さんは『ないですね。というかサイエンスコミュニケーションなどの問題ではなくなってきていて、「人はどう生きるべきか」とかそんなレベルの話になってますよね』と答えているが,そのレベルの話に答えるのが本来の公衆衛生学や保健学,あるいは人類生態学であるはずなので,この指摘は,換言すれば,公衆衛生学が未熟であったということを意味する。ただ,少なくとも2020年の間は,オタゴ大学のマイケル・ベーカー教授がニュージーランドでアーダーン首相と連携して行っていた発信は,かなりうまく行っていたと思うし,台湾もかなりうまく行っていたと思うが。(2022.1.11)

昨日米国から来日したビシエド選手,検疫で隔離中だったが,オミクロン株感染が判明したと新聞で報道された。昨日の空港検疫陽性者は全国で251人と報告されているが,その1人ということだな。たぶん用心はしていたと思うが,オミクロン株の感染力の高さと米国のまん延状況からすれば,罹っていても不思議はない。キャンプまでに回復してくれればよいなあ。(2022.1.12)

『SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査:新型コロナワクチン未接種者におけるウイルス排出期間(第2報)』(感染研,2022年1月13日)によると,ワクチン接種者と未接種者でオミクロン株感染時のウイルス排出量に差が無かったという。サンプルサイズが小さいので検出力が足りないだけかもしれないが,もし,この結果が一般化できるなら,従来のワクチン接種にはオミクロン株の感染拡大防止効果が期待できないということで,かなり悲報。インフルエンザウイルスのように上気道粘膜で増えるとしたらワクチンの効果が出にくくても当然であろう。しかも,これまでの株よりは低くなったとはいえ(というか,上気道で増えるケースが増えただけで,実は絶対レベルとしては変わっていないのかもしれないが),インフルエンザウイルスよりはかなり高い確率で肺に達して重症化してしまうのが辛い。既に報じられていることからも示唆されてきたが,ワクチン接種は重症化や死亡を防ぐには意味があるが,感染拡大予防効果は薄いということが,オミクロン株ではより顕著になったということだと考えられる。(2022.1.13,2022.1.15追記)

西浦さんのtweetで知った,関なおみ『保健所の「コロナ戦記」 TOKYO2020‐2021』光文社新書(Kindle版)を買って流し読みしてみた。保健所を筆頭にした保健医療行政の現場で必死に活動した公衆衛生医師が,時系列で残したメモを書籍として整備したもの。よほど映画がお好きなのか,小見出しの出典の多くが映画のタイトルだったり文学にあったりする。時系列メモはぼくも書いてきたが,保健医療行政の現場で活動してきた視点で書かれた本は初めてだと思う。HER-SYS,G-MIS,CoCoAを並立させることの問題点は現場でも最初からわかっていたのか。ぼくはHER-SYSという新システムを別立てするのではなく,NESID全体をオンライン化するのが王道だったはずと2020年7月に書いたが,現場の感じでは全然その方向には動いていないようで悲しい。最後の方で「もしも五類になったなら」という小見出しで,麻疹などと同じ五類の全数把握にすれば保健所業務がボトルネックになっている現状が改善されると書かれていて,現場の悲鳴であるとは思ったが,既に何度も書いたように,五類にすると感染拡大速度上昇に繋がるので救われない。最近でもマスメディアは「二類相当から変更」と変なことを言っているが,ぼくも書いたし本書にも書かれていたように,COVID-19は感染症法上,2021年2月13日から「新型コロナウイルス感染症」として「新型インフルエンザ等感染症」という一類から五類とは別の枠に入っていて,特措法によって対処される(それ以前は指定感染症として概ね二類に準ずる扱いをすることとなっていたが)ものなので,そもそも二類ではない。たぶん特措法の運用法次第で保健医療資源の効率的な配分は可能なはずで,敢えて五類にするメリットは何もない。テレビに出て何か語る人は,その辺ちゃんと認識して欲しい。(2022.1.13)

2022年1月13日新規感染者報告数が18,858人とのこと。日本に先行してオミクロン株による急速な感染拡大が起こっていたオーストラリアで死者が急増したというtweetがあったので,日本のいくつかの都道府県だけでなく,世界のいくつかの国の新規感染者報告数の推移と,同じ国の日毎のCOVID-19による死者数の推移のグラフを描いてみた。上記考察の通りならばCFRが1%前後(せいぜいそこから1桁以内の違いという意味で)であり続けているので,感染者数が急増すれば,そこから3週間後くらいに死者数が急増することは避けがたい。安価でどこでも多人数に適用できるような画期的な治療法が見つかるまでは,(欧米は諦めてしまったように見えるけれども)感染者数をなるべく抑える努力をすべきと思う。(2022.1.13)

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月13日まで)
世界のいくつかの国のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月10日まで)
世界のいくつかの国のCOVID-19日毎の死者数の推移(2022年1月11日まで)

2021年11月24日に南アフリカから報告があったB.1.1.529は世界中で瞬く間に急増し,2日後の11月26日にはWHOからオミクロン株というラベルが付与されてVOCとなったわけだが,Ito K et al. "Relative instantaneous reproduction number of Omicron SARS‐CoV‐2 variant with respect to the Delta variant in Denmark"(Journal of Medical VirologyのShort Communication,2021年12月30日)でGISAIDにあるデンマークのデータから推定した結果ではRtがデルタ株の3.19倍(95%CI: 2.82-3.61),Nishiura H et al. "Relative Reproduction Number of SARS-CoV-2 Omicron (B.1.1.529) Compared with Delta Variant in South Africa"(JCMのEditorial,2021年12月23日)で南アフリカのデータから推定された結果ではRtがデルタ株の4.2倍(95%CI: 2.1-9.1)とされていて,流行初期のデータからの推定なので過大な可能性はあるが,それでもRtより大きいはずのR0が麻疹や風疹なみに大きいと考えられ(訂正:ここで考えられているデルタ株のRtはオミクロン株流行時の値なので,さまざまな原因で低くなっている可能性があり,オミクロン株のR0が麻疹や風疹なみに大きいとは限らない。もちろんR0はRtより大きいはずだが,オミクロン株の急増はRの大きさではなく世代時間や発症間隔が短いことが主な原因と考えられる),世界の国々で優占的に流行している株はあっという間にオミクロン株に置き換わりつつある。(2022.1.14)

1都12県まん延防止等重点措置(2022年1月19日)

2022年1月17日,再びグラフを作ってみた。やや傾きは緩くなったが,相変わらず急増中。日本より遥かに高いレベルで流行しているUSAとオーストラリアも増え続けている。

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月16日まで)
世界のいくつかの国のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月13日まで)

ソロモン諸島が出した短期間の徹底的な行動制限の方が感染拡大防止には有効だと思う。業種を絞った制限とか会食の人数制限みたいな制約だから長期間やらなくてはいけなくなる。とくにオミクロン株は平均世代時間が短いので,例えば4日間,ロックダウンに近い行動制限を掛ければ(もちろん休業補償もして),劇的に新規感染者数は低下に向かうはず。(2022.1.19)

西浦さんのインタビュー記事で,「アレックス・セルビーさんが分析」とリンクされているページにはちゃんと数理モデルが説明されていて,単純化してはいるものの,とてもクリアなロジックだと思う(コードはPythonで書かれている)。Alex SelbyさんのサイトのCOVID-19関係のトップページはこれで,世界のいくつかの国の新規感染者数と死者数のトレンドグラフと,UKの年齢層別新規感染者数の推移グラフが毎日更新されている。Alexさんはtwitterもやっていて,このアカウント。変異株間の実効再生産数比は,現在の比を示す値として求めると,若干誤解を生みやすいな。ピーク時の比でないので,変異株ごとの感染力の大小を示さない。ということで,14日の記述を修正した。(2022.1.19)

岸田首相の会見によると,1都12県に1/21-2/13の3週間ちょっとの間,まん延防止等重点措置を適用する(リンク先は昨日の会見だが,今日の対策本部会議の資料の資料2を見ると,ほぼそのまま通ったようだ)とのこと。関西3府県は現時点では要請しないが要請するときは足並みを揃えるという話だが,京都新聞の記事日経新聞の記事神戸新聞の記事では,同じオンライン会合を取材したとは思えないほどトーンが違う。京都新聞のtwitterアカウントが同記事を報じているtweetについているコメントの多くが雇われているのでもなければ信じられないほど楽観的なのだが(何度も書いているように,感染者が増えてから2~3週間経ってから死亡者が増えるのは,発症間隔や世代時間が短いオミクロン株でも変わらないし,そのことはUSAやオーストラリアの死者数増加を見ればわかる),日経新聞や神戸新聞の記事が正しいとすれば今週中には関西3府県も間違いなく要請するだろうから,この人たちの反応が見物だ(コメントしているアカウントを一々チェックしておくほど暇ではないが)。(2022.1.19)

対策成功例としてのブータン(2022年1月20日)

岸田さんのtweetで知ったが,札幌市保健所のサイト内にある施設などが自ら行う疫学調査の手順。手順そのものはpdfファイルにまとめられている。

午前中の講義終了。ブータンのCOVID-19ワクチン接種が90%を遥かに超えていて対策に成功しているのは何故なのかというオピニオンペーパー(Tsheten, T., Tenzin, P., Clements, A.C.A. et al. The COVID-19 vaccination campaign in Bhutan: strategy and enablers. Infect Dis Poverty 11, 6 (2022). https://doi.org/10.1186/s40249-021-00929-x)が興味深かった。院生が紹介してくれたAl Jazeeraの動画では,海外から供与されたワクチンをヘリで空輸して接種していたのが印象的だった。国民が協力的なのは,首相と保健相のリーダーシップに加え,国王や中央仏教寺院やリンポチェ(ってチベット仏教でダライラマに使われる「猊下」だと思うが,spiritual mastersと書かれていた)に導かれている他の寺院が,ワクチンや他のCOVID-19対策への信頼を確立するのに大きな役割を果たしたためという説明は納得がいった。隣国のネパールとは国境通過が容易なのに,ネパールでは多くの感染者が出ていてブータンでここまで抑えられているのは,これが理由だという。ただ,ワクチン供給源を援助に頼っている以上,最近の,おそらくオミクロン株による感染者急増に対して,簡単にはブースター接種はできないだろうし,これからどうなるか。国民が政府の対策を信頼して,適切なNPIsをとれば,ブースター接種なしでもオミクロン株を抑えられる,となったら朗報なのだが。

感染研のオミクロン株レポート第6報を見ると,B.1.1.529には下位系統BA.1,BA.2,BA.3があって,現在世界の主流はBA.1だが,デンマーク,フィリピン,インド等で増えつつあるBA.2はBA.1より変異部位が少なくスパイクタンパクの欠失もないと書かれている。下位系統といっても別の変異株くらいの扱いをした方が良いのではないだろうか。国によって検出の仕方が違っているとも書かれていて,今後データを見るときにより注意が必要だな。

mdpiからHealthcare誌のSpecial Issueとして"COVID-19: Impact on Public Health and Healthcare: Volume 2"が出版され,pdfはオープンアクセスであるというメールが来た。Volume 1は2021年10月に出ていて,そちらにはUMINの木内先生がラストオーサ-になっている論文が入っていたが。

日本の第6波は半ば人災だと思う。

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月20日まで)
世界のいくつかの国のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月17日まで)

妊婦には使える薬が少ない(2022年1月22日)

大島選手をリーダーとして日本生命グラウンドで合同自主トレをしていた髙橋周平選手と根尾選手が,一緒に練習していたマリーンズの藤原選手がCOVID-19に感染したので濃厚接触者として自宅待機していたが,検査の結果陰性だったとのこと。このところプロ野球選手にも感染者が激増しているが,これだけ世間が緩い雰囲気であれば,プロ野球選手の感染防御行動も甘くなってしまっても当然と思われる。重症化や後遺症のリスクが心配。(2022.1.21)

妊婦には使える薬が少ないという神戸新聞の記事。厚労省の診療の手引きは現在6.1版が最新だが、確かにp.51とp.56に、モルヌピラビルは妊婦には禁忌と書かれていた。(2022.1.22)

Accorsi EK, Britton A, Fleming-Dutra KE, et al. Association Between 3 Doses of mRNA COVID-19 Vaccine and Symptomatic Infection Caused by the SARS-CoV-2 Omicron and Delta Variants. JAMA. Published online January 21, 2022. doi:10.1001/jama.2022.0470(JAMAの原著論文, 2022年1月21日)は、mRNAワクチン3回接種者と未接種者または2回接種者を比較し、デルタ株とオミクロン株(これらの判別はS遺伝子欠失で行っているので、BA.2はオミクロン株扱いされていないようだ)の発症リスクを多変量多項ロジスティック回帰分析で比較した論文で、未接種者に対する3回接種者の調整済み発症オッズ比は、オミクロン株に対して0.33 (95% CI, 0.31-0.35)、デルタ株に対して0.065 (95% CI, 0.059-0.071)、2回接種者に対する3回接種者の調整済み発症オッズ比は、オミクロン株に対して0.34 (95% CI, 0.32-0.36)、デルタ株に対して0.16 (95% CI, 0.14-0.17)とのこと。

日本の空港検疫の結果では、下位系統の情報は遅れて出てくるので、今日現在では、1月12日までに見つかった感染者についての情報を含む新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について(空港検疫)(2022年1月20日)が最新だが、インドからの入国者ではBA.2が多くなっているように思う。ちなみに、BA.1とBA.2の区分は、このページで提案されたもので、現在のBA.2の情報については、このページや、そこからリンクされているOutbreak.infoの"BA.2 Lineage Report"が詳しい。

カーネギーメロン大学のcovidcastは、PythonとRのAPIが提供されているが、その辺りの情報を含む論文が、随分前にProNASに出ていた。Reinhart A et al. "An open repository of real-time COVID-19 indicators"(ProNAS, 2021年10月18日)

引き続きオミクロン株を中心とする第6波拡大中(2022年1月28日)

昨日も増えた。(2022.1.23)

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月22日まで)

新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置に関する公示の全部を変更する公示(2022年1月19日)という形で発出されるのがまん延防止で、メディアでは木曜からさらに18道府県に拡大されると報道されているが、たぶん火曜か水曜には公示が出るはず。(2022.1.24)

オミクロン株の下位系統であるBA.2を定義する変異を変えようという提案が出ていた。昨日の提案なのに、既に多くのコメントがついている。感染者数をみる上で、まずcase definitionが決定的に重要なのは感染症疫学の基本なので、この辺り、変異株の分析、とくに下位系統の分析は難しいよなあ。(2022.1.25)

修論発表会には、とりあえず研究室からオンライン参加している。で、院生諸氏の発表を聞きながら、提出ファイルの仕上げ作業を続けている。キャンパスアジアの基調報告なので、韓国、中国、タイ、シンガポール、インドネシアのデータを入れねばならないが、公衆衛生対応としては、ミクロネシア連邦、ブータン、台湾、ニュージーランドに(先日のソロモン諸島のロックダウンのやり方にも)触れるべきだし、他の災害との相互作用を考える上で、トンガにも触れねばならない。比較のために欧米とブラジル、インドも示すべきだろう。しかしそうやって増やしていると、規定時間内で講演が終わるのかという問題があるなあ。かといって感染症疫学の専門家相手でもないので、基礎的な概念やデータもある程度は説明しないと公衆衛生対応の説明がピンと来ないだろうし。(2022.1.26)

ワクチンについては、各国の認可状況などはWHO vaccine tracker、接種状況はOurworld in dataのvaccinationsページがわかりやすいか。後者でブースター接種済み人口割合(%、MetricをVaccine booster dosesにする)のグラフを表示させ、CountryでSouth Koreaにもチェックを入れて、Downloadでpngをダウンロードすると下図が表示される。日本は2回接種済み割合は高いが、ブースター接種は始まったのが遅い。(2022.1.26)

COVID-19 vaccine boosters administered per 100 people [https://ourworldindata.org/covid-vaccinations]

神戸大学のブースター接種のアナウンス。会場が鶴甲第一キャンパスの体育館で、接種期間が3月14日~25日ということなので、もしかすると神戸市の方が早いかもしれない。神戸市からもまだ接種券は届いていないが。(2022.1.26)

中央日報からYahoo Newsに転載されていたオミクロン株はオリジナルのSARS-CoV-2や他の変異株よりも人の皮膚表面やプラスティック表面で長生きするという記事だが、当該論文(bioRxivというプレプリントサーバ掲載)を紹介する英語メディア、例えばTWC Indiaの記事にはリンクがあるが、Yahooに転載されている記事には論文へのリンクがない。元論文を見たら、使われたオミクロン株はTY38-873だったので、BA.1と同じくT547K変異があり、BA.2では違う結果になるかも。(2022.1.26)

NHK首都圏のtweetに書かれているのが事実だとしたら、横浜市長は公衆衛生の素人と断定して良い。WHO加盟国である日本は、WHO全加盟国が受諾しているIHR2005には従わなくてはいけないのだし、IHR2005の枠組みの中で2020年1月23日にCOVID-19をPHEICであると宣言したステートメントに、積極的サーベイランスを行い全データをWHOと共有する("all countries should be prepared for containment, including active surveillance, early detection, isolation and case management, contact tracing and prevention of onward spread of 2019-nCoV infection, and to share full data with WHO. Countries are required to share information with WHO according to the IHR.")と明記され、2022年1月19日のステートメントでも、サーベイランスは強化するように書かれているのに、全数届出を止められるわけがないではないか。しかし1月19日のステートメント、よく読んでみると、結構凄いことが"Temporary Recommendation"として書かれているなあ(項目だけ下に引用しておく。雑な粗訳なので、原文を読むことをお薦めする)。IHR2005という枠組みを機能させてPHEICへの対処を継続できるのかどうかギリギリのところ。オミクロン株はそれくらい性質が悪い。(2022.1.26)

  1. 根拠を知らせた上での公衆衛生対策と社会政策、治療、診断、ワクチンは継続し、経験をWHOと共有する(リスクベースアプローチで、社会機能維持のために、検査と組み合わせて、国ごとに隔離・検疫期間を変える必要があるかもしれない[States Parties may need to modify isolation and quarantine periods, with the introduction of testing, to balance the risks with the continuation of key functions, using a risk-based approach]、とも書かれているところにギリギリな感じが現れている。オミクロン株の発症間隔や世代時間が短いことも考えてのことだろうが)
  2. マスギャザリングについては、WHOのガイドラインに沿ったリスク評価、緩和策、リスコミをしてリスクベースのアプローチをする
  3. 2022年7月初めまでに各国最低でも全人口の70%がワクチン接種を済ませるとしたWHOの要請を達成し、COVID-19のワクチン接種をルーティンの接種に組み込む。ハイリスクな人から優先接種する
  4. サーベイランスを強化し、結果をWHOに報告し続け、変異株の迅速な同定と追跡と評価を可能にする("Enhance surveillance of SARS-CoV-2 and continue to report to WHO to enable rapid identification, tracking, and evaluation of variants and continued monitoring of the pandemic’s evolution and its control.")―疾病負荷のデータ収集と共有のシステム強化を含む
  5. 感染者急増時の対処能力が十分であることを確保する
  6. 経済的、社会的ストレスを与え続けているのに、付加的な効果が無いので、国際交通制限を解除あるいは緩和する(中澤注:ミクロネシア連邦のように鎖国に近い政策によって患者発生を防いでいる国には、この項は適用されるべきではないと思うが)
  7. 海外旅行を許可する唯一の条件としてのワクチン接種証明を要求しない
  8. WHOが認証したすべてのワクチンを異種ワクチン推奨スケジュールに従って行う
  9. コミュニティの関与を促しインフォデミックによって起こったコミュニケーションギャップや難点に対処する
  10. WHOが推奨する治療法を随時取り込みモニタリングする
  11. 人獣感染と潜在的な病原巣としての動物への疫学研究を実施する

推移グラフも示しておく。(2022.1.26)

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月26日まで)
日本の全都道府県別のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年1月26日まで)

産業保健関連のトピックとして院生が紹介してくれたデンマークの医療従事者の職種別のCOVID-19に対するIgGとIgM陽性割合の違いをみた研究。2020年4月に行われた研究なのでワクチン接種前で、抗体陽性割合は感染リスクを反映すると考えられるが、医学生のリスクが最も高いという結果で、国際比較したら医療システム論的に面白いんじゃないだろうか。COVID-19感染後のIgGとIgMの変化のタイムコースは既に多数の研究があるので、発表した院生に、これとか、これを読むように薦めておいた。(2022.1.27)

ところで、年齢別のオミクロン株感染者の広がり方がインフルエンザに似ているなら、伝播経路もインフルエンザに近くなっているのではなかろうか。皮膚やfomite上での生存期間が長いというオミクロン株の特徴を考えれば、手洗いやアルコール消毒がデルタ株まで以上に重要になっているのだと思う。(2022.1.27)

デルタ株もそれ以前のものより潜伏期間が短いという報告があった。もしそれが正しいなら制御しやすいはず。(2022.1.27)

FNNプライムニュースのtweetに載っている図は誤解を生む。この鐵人三國誌では、先週初めて下位系統についてメモしたが、そのときリンクした感染研のページ(その後も何度か更新されている)に書かれている通り、SGTFでオミクロン株判定している国ではBA.2がオミクロン株扱いされないという意味で「ステルス」と言った人がいるのだろうが、BA.2であっても、RT-PCRでCOVID-19感染とは判定されるので「ステルス」ではないし、日本はL452R陰性のCOVID-19をオミクロン株と判定しているのでBA.2もオミクロン株としてカウントされていて、まったく「ステルス」ではない。BA.2が怖いかもしれないのは、先週も書いたようにBA.1とは違ってスパイクタンパクの欠失が少ない点にあって、むしろ感染力よりも重症化リスクの方が気になる。(2022.1.27)

Twitterのトレンドワードになっていた「デルタ変異」って何のことかと思ってリンクを辿ったが、Yahoo!ニュースに転載された日刊ゲンダイの記事では要領を得なかった。リンクがなかったが検索して見つけた、元の2022年1月23日付け新型コロナウイルス抗体測定協議会のレポートを読んだら、『検査機関からの報告で2種類のPCR検査試薬のうちでN2プライマーセットの働かない変異株が12月中旬から東京を中心に発見されています。L452R変異を持つところから、デルタ株の変異型と思われます。現時点でのゲノム解析からはN2プライマーが用いている配列内に変異(C29144T)が起こっていることがわかりました。この変異はアミノ酸配列は変わらないため臨床的な意味は不明です。』と書かれていた。同義置換であるなら性質は同じと考えられ、下位系統として区別する必要はないと思うので、日刊ゲンダイの記事は端的に言って煽りすぎ。(注:L452Rという表記はアミノ酸配列における変異(452番目のアミノ酸がロイシンからアルギニンに変わったことを意味する。1文字略語の表を参照)を示しているが、C29144Tというのは塩基配列における変異を示している。TはDNAだよなあと思ったが、RNA配列の変異を書くときはウラシルのUではなくTを使うらしい)(2022.1.28)

UK政府の2021年12月31日のTechnical Briefでは、ワクチン2回接種後25週以上経った人の入院リスクはデルタ株で0.15倍、オミクロン株では0.49倍、ブースター接種後2週間以上経った人の入院リスクはデルタ株で0.11倍、オミクロン株で0.32倍(Table 5)となっていた。2022年1月27日付けの「COVID Vaccine Surveillance Report Week 4 2022」では、全COVID-19について2回接種での発症オッズ比は0.93、死亡ハザード比は0.45、死亡を防ぐワクチン有効性は59%、これが3回接種後だとそれぞれ0.41、0.12、95%に改善するが(Table 1)、オミクロン株の下位系統BA.1とBA.2については、発症を防ぐワクチン有効性が、2回接種後25週以上でそれぞれ9%と13%、3回接種後2週以上で63%と70%となっていた(Table 3)。BA.2の方がスパイクタンパクの欠損が少なくて、BA.1よりは従来株に近いからか、むしろワクチン有効性は高いようにみえる。とはいえ、3回接種後で発症予防効果が60-70%しかないというのは、従来株に対しての有効性に比べるとかなり低いので、オミクロン株用の新しいワクチン開発が必要だろう(とはいえ、たぶんBA.1やBA.2の流行が始まってから期間が短くてまだ十分に評価できないのであろう、入院予防や死亡を防ぐ効果はもう少し高いと思われるので、一般論としてブースター接種は受けた方が良いと思うが)。(2022.1.28)

以前から書いているように、日本の人口動態統計は発表までに時間が掛かるのが難点で、現時点での最新発表は、1月25日に出た、2021年8月分までの概数である。これの第7表を見ると、欧米に比べるとマシだとはいえ、日本でも2021年の感染症死亡の中ではCOVID-19による死亡が桁違いに多かったことが目立つ。2020年の1~8月では1,232人の死亡だったのが、2021年の1~8月では14,427人も亡くなっている。感染症の中では同期間の死因2位の感染性胃腸炎が2020年1~8月の1,503人から2021年1~8月には1,277人に減少し、死因3位の結核が2020年1~8月の1,246人から2021年1~8月の1,229人へと減少している。インフルエンザによる死亡は2020年1~8月の935人から2021年1~8月には15人に激減している。これはコロナ対策のための行動変容によってインフルエンザ流行が徹底的に抑えられたからだろう。(2022.1.28)

最近のADB資料と感染研オミクロン株第7報(2022年1月30日)

去年の8月にPMDAが抗体検査キットの性能比較を公表していることに触れて、抗原検査キットについても同様な試験結果を公表して欲しいと書いたが、いまだにPMDAのサイトには情報がない(認可したキットの一覧はあるが)。ただし、アドヴァイザリーボードの第60回会議(2021年11月25日)に提出された舘田委員提出資料によると、やはり抗原検査キット間の差はかなりあって、特異度がほぼ100%のものもあれば、70%程度しかなくて使えないなというものもある(ただし、すべて検査対象が違うので厳密な比較にならない。同じ条件で比較するためには、やはりPMDAが抗体検査キットと同様な比較試験をすべきと思う)。

同じ回に提出された北野宏明委員提出資料を見ると、オミクロン株が見つかる前のモデルなので仕方ないのだけれども(けれども、同時にそれは、2ヶ月以上先の予測など何の意味も無いことの証拠にもなるが)、大澤先生のSEIRS回路格子モデルのブースター接種なしの場合だけが第6波を正しく予測していて、他のモデル(AIとか経済学者のものとか、疫学的知見によらないもの)はすべて読みが甘かったことが事後的にわかる。ちなみに、アドヴァイザリーボードにオミクロン株のデンマークと南アフリカでの急増から倍加時間がきわめて短いという分析結果を西浦さんが提出したのは2021年12月16日の第63回のことだった。世界のどこかで感染者がある程度増えるまでは疫学的分析はできないので、WHOに南アフリカでのB.1.1.529発生が報告されてから3週間でここまで分析できたのは凄いと思う。その時点でアドヴァイザリーボード全体と政府がオミクロン株による第6波リスクを正しく受け止めてくれていたら、年末年始の人の動きをもう少し制限するような対策がとれたかもしれない。2021年12月28日のアドヴァイザリーボードへの西浦さんの提出資料には、南アフリカでのピークアウトを説明する仕組みとして、オミクロン株の世代時間が短く基本再生産数はそこまで大きくない可能性が指摘されていたので、遅くともこの時点で1週間の厳しい緊急事態宣言を出すことができれば、第6波がここまで大きくならないように防ぐことは可能だったはずだ。日本は、これまで緩い制限を長く掛けるというやり方しかしていないが、世代時間が短いことで伝播性が高いオミクロン株には、エピカーブ早期の厳しいNPIsを1週間とかの短期間掛ける方が有効なことは、ほぼ自明なんだがなあ。

感染研のサイトに、SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第7報)がアップロードされていた。表内にUK HSAはBA.2をVUIに指定したと書かれているのは、Technical Briefing 35のBA.2の冒頭に"The Omicron variant sub-lineage BA.2 was designated a variant under investigation (VUI-22JAN-01) by the UK Health Security Agency (UKHSA) Variant Technical Group on 19 January 2022."と書かれている通り。UKは既にBA.2のリスクアセスメント結果も発表している。重症度はまだデータ不十分で不明だが、感染力がBA.1より高いことはほぼ確実とのこと(ということは、南アフリカの早期ピークアウトはBA.2がなかっただけという可能性もあるのか?)。

2022年1月27日付けで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第6.2版が出ていた。昨年11月2日の6.0版、12月28日の6.1版と更新されてきている。厚労省の指針としては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第 4.1版というものも、2021年10月5日付けで出ていた。最新かどうかはわからないが、検体自己採取ガイドラインは、この版から含まれたとのこと。

文部科学省衛生管理マニュアル「学校における新しい生活様式」(2022年2月2日)

晩飯を済ませてから作業を続け、プレゼンファイルができて送信が終わったら2:30だった。しかし、この内容を40分で喋れるはずがないので、どれをスキップするかを決めなくてはいけない。基調講演をするのは2月15日のはずなので、まだ少し余裕があるが。

文科省が出している衛生管理マニュアル「学校における新しい生活様式」は、(2021.11.22 Ver.7)が最新だろうか? 日経新聞のこの記事では、現在の休校基準は2021年8月に策定されたもの(相変わらずリンクされていないが、この文書だと思う)で、オミクロン株の急拡大を受けた状況の変化を踏まえて見直すと文科大臣が語ったとのこと。学校保健安全法第20条でCOVID-19に限らず臨時休業は学校の設置者(公立の小中高であれば各自治体の教育委員会)が決定することになっていて、学校保健安全法施行規則で、感染症法で新型インフルエンザ等感染症に含まれることになったCOVID-19は第一種学校感染症と同じ扱いをすることになっているのだから、文科省の通知を待たなくても教育委員会単位で迅速な決定ができるはず。たぶん安倍首相が専門家会議に相談もせずに突然決めた全国一斉休校という暴挙(オミクロン株と違って児童生徒の感染はほぼなかったのに)に従って2020年2月3月に臨時休業したことに対して猛烈な反発を食らったのが尾を引いていて、臨時休校の決定に及び腰になっている気がする。COVID-19以前もインフルエンザ流行時に学級閉鎖とか学校閉鎖はあったわけだから、それこそ学校での感染拡大を防ぐための措置は、文科省からの基準の提示を待たなくてもできるはず。

トンガでCOVID-19の市中感染者が2名見つかったので、翌日からロックダウンを決めたとのこと。火山噴火と津波で被災して、人々の体力や気力も低下し、日常生活においても水も不足しているであろうし、避難所は密な状態である可能性が高く、感染防御体制を保つのが難しかったところ(被災地では暫く時間が経ってから感染症流行が起こりやすくなることは、ハイチ地震後のコレラ流行などでよく知られている。これは公衆衛生学の講義資料にも書いたように、とくに避難所では感染症成立の3要因すべてが流行に適した状態になってしまうことによる)、海外からの人や物がたくさん入ってきたから、完全に侵入を食い止めるのは、やはり無理だった。けれども、医療インフラが脆弱な国だからこそ、先日のソロモン諸島と同様、早期にロックダウンするのは適切な対応だと思う。

177ヶ国における準備性と感染リスク、致命リスクとの関係についての論文(2022年2月3日)

Omicron sub-lineage BA.2 may have “substantial growth advantage,” UKHSA reports(BMJのニュース、2022年1月28日)は、先日メモしたUK HSAのTechnical Briefing No.35の紹介記事。Hawksbee L et al. "Don’t worry about the drug industry’s profits when considering a waiver on covid-19 intellectual property rights"(BMJのAnalysis、2022年1月31日)は、知的所有権と製薬会社の利益という、世間で心配される問題を取り上げ、COVID-19関連の薬やワクチンについては知的所有権を放棄してくれるだろうから心配要らないのではないかと議論しているようだ。"People carrying excess weight have an increased risk of severe covid-19"(BMJのPractice、2022年2月2日)は、EditorのSaul Hが、ここでもかつて触れたことがあるGao H et al. "Associations between body-mass index and COVID-19 severity in 6·9 million people in England: a prospective, community-based, cohort study"(Lancet Diabetes Endocrinology、2021年4月28日)に基づく2021年11月25日のNIHRのレポートについて何か書いているらしい(Practiceの本文が読めないので何を書いているのかはわからない)。

COVID-19 National Preparedness Collaborators "Pandemic preparedness and COVID-19: an exploratory analysis of infection and fatality rates, and contextual factors associated with preparedness in 177 countries, from Jan 1, 2020, to Sept 30, 2021"(Lancetの原著論文、2022年2月1日)はタイトルからして凄い。公衆衛生的に重要な論文と思う。ちゃんと読まねば。

Izikson R et al. "Safety and immunogenicity of a high-dose quadrivalent influenza vaccine administered concomitantly with a third dose of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 vaccine in adults aged ≥65 years: a phase 2, randomised, open-label study"(Lancet Respiratory Medicineの原著論文、2022年1月31日)は、高齢者にCOVID-19のブースター接種と4価インフルエンザ予防接種を同時にした場合の安全性と免疫原性についての第2相臨床試験の結果。Bechman N et al. "Sexual dimorphism in COVID-19: potential clinical and public health implications"(Lancet Diabetes & EndocrinologyのPERSONAL VIEW、2022年1月31日)は、重症化と致死リスクが男性で高く、後遺症が女性に多いという性差についての考察。

Woloshin S et al. "Assessing How Consumers Interpret and Act on Results From At-Home COVID-19 Self-test KitsA Randomized Clinical Trial"(JAMA Internal Medicineの原著論文、2022年1月31日)は、ボランティア360人を3種類の指示と4種類の結果シナリオの組み合わせについてランダムに割り付け、家庭での迅速検査結果をどう解釈しどう行動するのかを調べたというRCTとのこと。流行状況によっても結果は変わってきそうだが。Koda S et al. "Reasons for Suicide During the COVID-19 Pandemic in Japan"(JAMA Network Openの原著論文、2022年1月31日)は、警察庁の自殺統計データを厚労省がまとめたものを使って、2014年12月から2020年6月までと2020年1月から2021年5月までの自殺の原因を時系列で比較したという研究のようだ。結論としては、男性における学校関連の自殺を除いて、すべての原因カテゴリで超過自殺が見られたとしている。

Bhattacharyya RP et al. "Challenges in Inferring Intrinsic Severity of the SARS-CoV-2 Omicron Variant"(NEJMのPerspective、2022年2月2日)も読まねばなるまい。McCallum M et al. "Structural basis of SARS-CoV-2 Omicron immune evasion and receptor engagement"(Scienceの原著論文、2022年1月25日)もオミクロン株の分子生物学的な論文と思われるがpdfが公開されていないようだ。Wikle NB et al. "SARS-CoV-2 epidemic after social and economic reopening in three U.S. states reveals shifts in age structure and clinical characteristics"(Scienceの原著論文、2022年1月26日)も面白そうな論文。後で読もう。

プレプリントというか審査中だが、倫理的にはどうかと思う(本当にこの手法でないと得られない重要なデータなのか、という意味で)一方、やはり重要な気もする研究が出ていた。Killingly B et al. "Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge"(2022年2月1日投稿、審査中)で、若くて健康なワクチン未接種のボランティアの鼻腔内にCOVID-19ウイルス(SARS-CoV-2/human/GBR/484861/2020)を入れて感染実験をしたという論文。いくら有効な薬が揃ってきたといっても100%治癒するとは限らないわけだし、よく応募する人がいたなあと思うし、よく倫理審査通ったなあと思う。

tweetしたが、「みなし陽性」という言葉について、この神戸新聞の記事が正しいならば、「医師が診断」しているので診断書は出せるはず。たぶん遠隔診療でも医師法20条に抵触しないという方向性を厚労省はこれまでも出してきているので、それを拡大適用することになるのでは? 2020年5月に紹介したインペリグループReport No.16で、症状のある濃厚接触者なら確定診断が出る前でも隔離してしまう方が拡大を防ぐには有効とわかっているので、医師が診断する「みなし陽性」自体は悪い策ではなく、その人たちを自宅放置するのが問題、というか、医療崩壊状態なのだと思う。

次期サーベイランスシステム(2022年2月4日)

発熱外来補助金はインフルエンザ流行期に設置が必要という立て付けだったから、季節性インフルエンザがほぼ流行していない以上、この冬にないのは理屈は通っている。検査の保険点数引き下げも、実勢価格の低下に合わせるということで理屈は通っている。しかし、それで医療機関の対応が危機に陥るのだとしたら、もっと根本的なレベルでの問題があるのだと思う。

モーニングショーでHER-SYSの問題が取り上げられていたが、日本の情報集約と公表システムの遅さは2020年3月11日に指摘して全体をオンライン化すべきと書いたし、HER-SYSができたときも、NESID全体をオンライン化するのが王道だったのに迅速導入のためにHER-SYSを別途作っておきながら導入が遅いことを批判した。拙速な弥縫策が失敗するのは良くあることで、ちゃんと金と時間を掛けてNESID全体をオンライン化すべきだったと思う。人口動態統計のシステムと合わせて、今からでも良いので、ちゃんとシステム設計して、全体をオンライン化すべき(次期感染症サーベイランスシステムについての2021年6月の資料を見ると、SoEとSoRと分けてSoEを多元化するという設計で、FAXも残っているなど、NESID全体をオンライン化するという発想にはなっていないようだが。システム的には全医療機関にシンクライアント―と、できれば専用線も欲しいところだが、予算的に難しければ登大遊さんが開発されたようなセキュアなVPNでも良いと思う。もっと言えば、シン・テレワークシステムを使えば、シンクライアントを配らなくても既存の病院情報システムをつなぐこともできると思うが―を無料で配備して厚労省か感染研が管理するサーバあるいはクローズドなクラウドで強力なRDBを運用するのがベストだと思う。たぶん予算規模としてはそんなに変わらないのではないか)。2021年7月に書いたように、Human Mortality Database (HMD)の中で38ヶ国について提供されているShort Term Mortality Fluctuations(リンク先はShinyアプリでインタラクティブな操作で視覚化を可能にしているサイトだが、Natureのscientific dataの中に詳細なデータ記述がある)に日本のデータがないのは大変残念なことだ。長期的な死亡統計自体はHMDにちゃんと入っているのに、死亡率の短期的な変動を示すデータが利用できないのは、この遅れのせいだろう。

自主療養届出システムとはバカげている(2022年2月7日)

神奈川県の自主療養届出システムは明確にサーベイランスの信頼性を低下させるし、隠れた感染のチェーンを拡大する方向にしか働かないので、感染拡大防止にもマイナスだし、感染している可能性があってこのシステムを利用する本人(ボランティア)自身にとっても、急変したときに医療機関に優先的にコンタクトがとれるわけでもないから人道的にもダメな、誰も得をしないシステム。なんでこんなバカげたことを考えたのか謎。見なし陽性と混同している人が散見されるが、真逆なもの。

以前も書いたが、見なし陽性は、保健所の接触者追跡能力が飽和して対処指示が得られるまでの待ち時間が長い上に、検査オーダーが出てからもロジスティクスが不十分な日本の現状においては、濃厚接触があった有症状者を確定のための検査無しで医師が陽性と診断することにより、検査待ちのタイムラグの間の感染拡大を防ぐ方向に働くし、蔓延状態であればかなり高い確率で本当に陽性だろうと見込まれるし、サーベイランスにも捕捉されるので、感染者が多すぎて崩壊寸前の医療システムへの弥縫策としては悪くない。

東洋経済のサイトのRtの計算が、現在でも平均世代時間5日で計算されているため、ピークが異常に高くなってしまっている。オミクロン株が主だとすると、例えば韓国の接触追跡データから平均世代時間を推定したSong JS, Lee J, Kim M, Jeong HS, Kim MS, Kim SG, et al. Serial intervals and household transmission of SARS-CoV-2 Omicron variant, South Korea, 2021. Emerg Infect Dis. 2022 Apr [2022年2月7日参照].(Emerging Infectious DiseasesのResearch Letter、2022年2月2日)によると、オミクロン株の平均発症間隔が2.9±1.6日、中央値が3日なので、これが世代時間の代わりに使えるとしたらCoriら(2013)の方法でRtが推定できるし、東洋経済の方法で平均世代時間3日にして計算することもできる。やってみると、ピークのRtが3より少し低いくらいの値になる。また、Coriらの方法で最後Rtが1を下回っているように見えるのは検査の遅れによる過少報告の影響の可能性が高いので、収束し始めたと考えるのは早計だろう。

2021年12月から2022年2月の東京のRt推定、オミクロン株の世代時間の短さを考慮

Fox SJ et al. "Real-time pandemic surveillance using hospital admissions and mobility data"(ProNAS、2022年2月15日号)は、SEIRのバリエーション(発症前感染力あり状態とか、無症状感染力あり状態といったコンパートメントを考えている)のモデルを開発し、テキサス州オースティンでの入院データと携帯電話の移動データを使って、COVID-19のリアルタイム伝播と入院予測システムを作ったという報告。Appendixにモデルの詳細が書かれていて、データとコードはGitHubで公開されている。3/4はRで、1/4はC++で開発されたもののようなので、後で暇があったら試してみよう。

WHOのインフォデミック対策キャンペーン(2022年2月8日)

WHOのtweetによると、今日はSafer Internet Dayだそうだ。インフォデミックのカーブを平らにするための7つのTipsが載っていた。どれも尤もだと思う。

  1. Assess the source(情報源を評価せよ)
  2. Go beyond headlines(見出しだけ読まずに本文を読め)
  3. Identify the author(著者の身元確認をせよ)
  4. Check the date(日付を確認せよ)
  5. Examine the supporting evidence(支持する根拠を吟味せよ)
  6. Check your biases(自分にバイアスがないかチェックせよ)
  7. Turn to fact-checkers(ファクトチェッカーに掛けてみよ)

WHOは、有名なネットサービスに対する誤情報の報告方法も公開している。これ日本ローカルなマスメディアやネットメディアに対してのバージョンが欲しいところだな。すべてのメディアにそういう窓口があるのかどうか知らないが。

新規感染者数と死者数の推移は、やはり20日くらいずれているようなので、累積死者数と20日前までの累積感染者数の両対数グラフからラフなCFRの推移をみるというやり方は悪くないアイディアだったと思う。

日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年2月8日まで)
日本全体といくつかの都道府県のCOVID-19新規死者数の推移(2022年2月8日まで)
国別の累積死者数と20日前までの累積感染者数の推移の両対数グラフ

その社会にとって望ましい対策(2022年2月12日)

UK HSAのTechnical Briefing No.36に載っている、接触者追跡データから推定されたオミクロン株の発症間隔は、BA.1が平均3.72日(95%CI:3.62-3.80)、中央値3.27日(95%CI: 3.17-3.36)なのに対して、BA.2は平均3.27日(95%CI: 3.09-3.46)、中央値2.68日(95%CI: 2.50-2.87)であった。いずれもかなり右裾の長い分布になっているが、BA.2の方がBA.1よりも明らかに世代時間も短そう。しかし、BA.1からBA.2への置き換わりがすべての国で起きているわけではない(USAではBA.2は広まっていない)。

デンマークがほぼすべてのNPIsをliftしたという話(リンク先はBBCニュース)、ノルウェーやスウェーデンなどスカンディナビア諸国が追随しているようだが、Ourworld in Dataで新規感染者と死者のグラフを描いてみると、デンマークでは新規感染者だけでなく死者も(傾きは緩いが高いレベルで)直線的に増え続けているので、BBCの記事に載っているProf. Lone Simonsen(業績を見るとインフルエンザの論文が多い)の「オミクロンはワクチン接種済みの人には重篤でなくなっている」というコメントは正しくない。インフルエンザよりCFRは高いままだが、政策的判断としてNPIsを取り続けることを諦めた、というのが北欧諸国のスタンスなのだと思う。

それにしても、Ourworld in Dataで描いた片対数グラフの日本(グラフ上でJapanと書かれた左のボックスの上にマウスカーソルを重ねると、他の国の色が灰色になるので見やすくなる)の傾きが、感染者も死者も急すぎる。遅くとも、年明けすぐの時点で緊急事態宣言を出しておけば、今頃はsuppressされているはずだったのに残念。

とはいえ、市中感染が見つかってすぐにロックダウンしたソロモン諸島でも、新規感染者数増加はすぐには収まっていないし、医療インフラが未整備なため、人口当たりの一日死者数は既に日本を上回ってしまっているが(在ソロモン諸島日本大使館のtweetと、そこからリンクされているソロモン諸島政府のCOVID-19アップデートも参照)。

サプリメントとしての5-ALAの可能性について、長崎大学から新しい論文(リンク先は1月11日に長崎大学が出したプレスリリース)が出ていた。Ngwe Tun, M.M., Sakura, T., Sakurai, Y. et al. Antiviral activity of 5-aminolevulinic acid against variants of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2. Trop Med Health 50, 6 (2022)である。日本熱帯医学会と日本国際保健医療学会の公式英文誌だが、vitroの実験(Vero-E6細胞)だし、まあ妥当な狙いか。

van Kessel SAM et al. "Post-acute and long-COVID-19 symptoms in patients with mild diseases: a systematic review"(Family Practice、2022年1月19日)は軽症患者の後遺症のレビュー……なのだが、文献9つでレビュー論文になるのだな。10-35%に長く続く後遺症があり、中では疲労感が最も高頻度で、呼吸困難、咳、胸部痛、頭痛、精神機能と認知機能の低下、嗅覚異常に加え、労働や日常生活機能低下もありうることがわかった、というのがabstractに書かれている結果。

都道府県別死者数と20日前までの感染者数の関係の軌跡(2022年2月18日)

COVID-19の累積死者数と20日前までの累積感染報告数の関係の軌跡は、国レベルの作図をこれまでしてきたが、都道府県レベルでもやってみた。tweetしたように、最近はどこでも20日前の感染報告数当たりの死者数(CFRの簡易推定値)が低下傾向だが、都道府県によって差があり、大阪や兵庫が高く沖縄が低いことがわかる。(2022.2.15)

16日の早朝にtweetした図を作るRコードとグラフを、ここにも貼っておく。tweetしたときの傾向は今も続いていて、大阪や兵庫の簡易推定CFRは1%を上回っているが、沖縄は0.5%を切った。感染者が少なくて簡易推定CFRが1%を上回っている岩手は、たぶん高齢の感染者が多いのではないか。(2022.2.18)

いくつかの都道府県についてのCOVID-19による累積死者数と20日前までの累積感染者数の関係の軌跡

マスクのJIS規格など(2022年2月24日)

Huffpostのマスクの記事、N95が高性能な点は当然だが、あれを正しく着けたら息苦しくて生活できないので、普段使いは不可能という点への言及もないし、布やウレタンでは性能不足なんて当たり前のことで、今頃? と思ったが、よく読むと2020年12月の記事に加筆・再編集したものとのこと。いま書かれるなら、せめてKN94のデータも出すべきであろう、という点で、1月のGigazineの記事の方が役に立つ。マスクは虚偽表示が多いのも問題で、2021年夏のジェトロの知財ニュースに載っていた検査結果は目を覆うばかりの惨状だったが、実は2021年6月にJIS規格が細かく定められている。リンク先は厚労省のプレスリリースだが、そこで示されている日本衛生材料工業連合会(JHPIA)のサイトには、JIS T9001に関する医療用マスク、一般用マスクの表示・広告ガイドラインに加えて、マスクについて>マスクの効果と選び方編という記事があって参考になる(自分に合ったサイズの測り方がわかりやすくて良い)。JHPIAはマスクの種類と使用時の注意という資料も作っていて、環境省のサイトに載っているので、マスクの基礎知識として読んでおくと役に立つと思う。花王がJIS T9001規格を紹介しているページも参考になる。この辺りの知識を踏まえると、JIS T9001規格のPFEやVFEが99%以上なら1%未満しかウイルス粒子を通さないことになるのだが、楽天とかで探すと、それを謳っているKN94マスクでも30枚680円とかいうのがあって、かなり安いのだよなあ。あと、JIS T9001規格の認証済みのマスクインナー(他のマスクの内側に両面テープで貼り付けるタイプのマスク)というものが売られていたので、試しに買ってみた。(2022.2.19)

Gigazineは相変わらず着眼点が良くて、新型コロナに感染したハムスターは「精巣が小さくなる」と判明、精子数と男性ホルモン量も大幅減という記事で、Li C et al. "Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) infections by intranasal or testicular inoculation induces testicular damage preventable by vaccination in golden Syrian hamsters."(Clinical Infectious Diseases、2022年2月18日)を紹介している。ハムスターにSARS-CoV-2を感染させ、42日後と120日後(感染○×日後を○×dpiと表記しているのだが、普通dpiというとdots per inchなので違和感があった)に解剖してみたという写真で見られるセルトリ細胞やライディヒ細胞の萎縮が衝撃的だ(多数tweetされている)。対照として、2009年のパンデミックインフルエンザウイルスへの感染実験もしたが精巣への影響はなかったことから、ウイルス感染なら何でもというわけではなく、SARS-CoV-2が精巣に影響したというロジックだが、インフルエンザウイルスよりもコロナウイルスの方が多くの動物を宿主にできるのではないかと思うので、ハムスターではあまりインフルエンザウイルスが増殖しないだけという可能性もあるし、逆に見れば、ハムスターで起こったことがヒトに起こるとは限らない。ただ、これまでも精巣にはACE2が多いことが男性の方が女性よりも重症化リスクが高い理由ではないかという仮説(リンク先はGigazineの記事。Al-Benna S "Angiotensin-converting enzyme 2 gene expression in human male urological tissues: implications for pathogenesis and virus transmission pathways"(African Journal of Urology、2021年7月1日)や、Edenfield RC, Easley CA "Implications of testicular ACE2 and the renin–angiotensin system for SARS-CoV-2 on testis function."(Nature Reviews of Urology、2021年11月26日)や、Fan C et al. "ACE2 Expression in Kidney and Testis May Cause Kidney and Testis Infection in COVID-19 Patients."(Frontiers in Medicine、2021年1月13日)など、それを示す論文は多数出ている)はあったが、それによって精巣が萎縮するかもしれないという動物実験結果が出たということだ。(2022.2.22)

東大医科研の佐藤佳准教授へのインタビューがこの数日テレビなどで取り上げられているが、彼らの研究グループはNatureでオミクロン株は病原性が低いという論文を載せたので、BA.2ではBA.1と違って病原性が従来株と変わらず、感染力は高いという論文をプレプリントサーバに載せたので、BA.2の潜在的危険性自体は、海外では先月から指摘されていたことだし、このページでも先月書いた。BA.2が主流だったデンマークが、流行が収まっていないのにすべてのNPIsを止めてしまったし、北欧諸国が追随したかと思ったらUKも追随しそうだし、まずい流れにある。稲葉さんがtweetしていた日経の記事は、22日付けのWHOの発表16日の感染研の発表を紹介していて悪くないが、相変わらず原文をリンクしないのが残念。最大の問題は、西浦さんがtweetされているように、現在のBA.2の正確な感染状況がわからなくなってしまっていることだと思う。(2022.2.24)

先日触れたJIS T9001でPFEとVFEが99%以上となっているマスクとマスクインナーが届いたので試してみた。マスクの方は30枚入りで700円もしなかったが、以前購入したKN94と形はほぼ同じで、不織布の密度がより高くて、少し息苦しさを感じるくらいだった。マスクインナーは50枚入りで2000円弱、ウレタンマスクの内側に貼り付けて着用すると耳も痛くないし、内側に湿気が籠もる感じからすると、標榜している通りの性能はありそうだ。ただ、外見的にただウレタンマスクをしているだけに見えてしまう点が若干気が引ける。インナー不織布つけていますシールみたいなものを作れば良いのか?(2022.2.24)

平均世代時間の推定は使えるデータを取るのが難しい(2022年3月1日)

人口動態統計の2020年確定数が出た。fmsbパッケージ内のJvitalデータを更新しなくてはならないので、ついでにRose Chartをフルスクラッチで書いてみるか? それより大事なことは、0.7.2で入れ損なった、spearman.ci.sas()の欠損値対応を忘れないようにしないと。もっとも、締め切りを延長して貰った採点と成績入力を完了するのが先決だし、3月上旬に第23回完全生命表が発表されるはずなので、Jlifeも同時に更新したいところだが。2020年だとあまり顕著でないが、2021年9月の月報速報を見ると、2021年の死亡増加はかなり顕著なので(2020年9月の月報速報を見ると、2019年と2020年の月別死亡数はほぼ変わっていない)、たぶん最近5年くらいの死因別死亡のレーダーチャートを描くと2021年のCOVID-19の影響がはっきり見えると思う。平均寿命がはっきり短縮した欧米ほどではないにしても、旧専門家会議を解体して分科会を発足させて以降、日本もCOVID-19対策には失敗している。(2022.2.25)

Hart WS et al. "Generation time of the alpha and delta SARS-CoV-2 variants: an epidemiological analysis"(Lancet Infectious Diseases、2022年2月14日)は、西浦さんが2022年1月13日のアドバイザリーボードに提出した資料の1ページ目に、プレプリントサーバにアップロードされている未査読論文としてリンクしているHart et alが、査読を通ってpublishされた論文。UKHSAの前向き世帯追跡データに数理モデルを当てはめ、2020年12月から2021年5月までは優占していたアルファ株が減ってデルタ株優占になったことを(2021年12月にはオミクロン株優占に変わったが)、それぞれの株の世代時間を推定して、その違いで説明している。平均内的世代時間[mean intrinsic generation time]がデルタ株で4.7日(95%信用区間[credible interval]が4.1-5.6日、以下括弧内は同様)と、アルファ株で5.5日(4.7-6.5日)より短く、平均世帯内世代時間[mean household generation time]がデルタ株で3.2日(2.5-4·2日)、アルファ株で4.5日(3.7-5.4日)と28%短い、とSummaryにある。方法論の詳細は読んでみないとわからないが。(2022.3.1)

接触追跡は日本の感染研もやっているので観察データに基づく発症間隔の推定はしているし(例えばオミクロン株についての推定、2022年1月31日や、沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告(続報)、2022年2月18日)、家庭内二次感染率の推定もしているが、こういう世帯単位で協力を募って前向き追跡するようなことはしていないのか、Rtの推定に必要な世代時間については(発症間隔と大差ないとして発症間隔で代替することも良く行われてきたが)海外のデータを使っているようだ。それにしても感染研の新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況等(2022年2月24日現在)からリンクされている感染状況分析・評価グラフ等を見ると、沖縄に再増加の兆しがあるのに蔓延防止を2月21日で解除してしまったことは暴挙だったと思うが、それ以上に検査陽性割合があり得ないほど高い(報告遅れと見なし陽性によって100%を超えている)県がいくつもあるのが目に付く。とくに神奈川の150%超は酷い。これでは日毎の新規確定患者数の数字がまったく使い物にならない。(2022.3.1)

ECDCの"Communicable disease threats report, 20-26 February 2022, week 8"からリンクされているpdfファイルに、北京五輪のリスク評価が書かれている。雑に訳すと、「北京冬季五輪は、夏季五輪に比べて観衆も選手も少なかったしオミクロン株の広がりと中国の制圧・予防政策によって観衆は厳しく行動制限されたし、重要な公衆衛生的手段もとられたが、オミクロン株の伝播性の高さとマスギャザリングイベントという文脈から、SARS-CoV-2伝播のリスクは増えた」。まあそうだろう。(2022.3.1)

脳へのダメージ(2022年3月10日)

2日前に漸く神戸市から3回目接種の接種券が届いたのだが、神戸大学の職域接種申込は2月6日締め切りだったので、今回は神戸市の集団接種会場に行こう。神戸市のサイトを見たら、2月28日に発送されていたようだ。接種予約ページから手続きせねばならないが、接種券を家に置いてきてしまったので、帰宅してからだな。(2022.3.4)

第23回完全生命表(2020年)が発表済みだった。欧米では2020年に軒並み1~2年平均寿命が短くなったことが一目瞭然な概況版の図5が、わかっていたけれども衝撃的。fmsbのJlifeを更新しなくてはいけないが、0.7.3をcranに載せてしまったばかりなので、すぐにはできないな。ちなみに、2020年の簡易生命表(推計人口と人口動態統計月報年計に基づくので毎年発表)は2021年7月30日に発表済みで、平均寿命は男性81.64年、女性87.74年。完全生命表は国勢調査と人口動態統計確定数に基づくので5年ごとの発表で、それだけ正確な計算といえる。平均寿命は男性81.56年、女性87.71年となっていて、簡易生命表の計算値とだいたい一致している。なので、2022年7月末頃に発表されるはずの、令和3年簡易生命表を見れば、2021年における日本でのCOVID-19が平均寿命に与えた影響を読み取ることはできるはず。(2022.3.4)

国際保健医療学会第40回西日本地方会のシンポジウム1「COVID-19とグローバルヘルス」は西浦さんと谷口先生。大変わかりやすい話だったので、事実確認の質問は求めなくても良かったと思う。それと、さすがにIHRについてはこの学会の参加者なら既知だと思うが、谷口先生の説明があまりに丁寧だったのは、教育講演的なつもりだったのだろうか。総合討論の時間のほとんどが日本のサーベイランスシステムが破綻していることに終始してしまったが、それは皆分かっていることで、この場で議論しても仕方ないのではないか。このページでも何度か書いたが、NESID自体のオンライン化は一度ちゃんと金と人をつぎこんで本気でやればできるはずなのに、それをせずに中途半端な金だけつけて外注してHER-SYSを作ったのが間違いの元。それは学会の地方会ではなく、国会の予算委員会でちゃんと議論して貰わないと解決しない。だから20年前から専門家は誰でもわかっている問題なのに解決していないわけで。季節性インフルエンザがCFR0.03%台で予防接種B類である状況が社会的に受容可能な水準であるとして、A類並みの臨時接種で多くの人に接種をした条件下でCFRが0.1%まで下がってきたからといってNPIsを止めること(デンマークや英国がやろうとしているが)に正当性はなかろう。では半年に一度の臨時接種を続けた状態でCFRがどこまで下がったらNPIsをリフトして良いのか? は別の問題。ここにアプローチする方法はあるのか尋ねたかったが、時間切れになってしまって質問できなかった。(2022.3.5)

このページでも書いてきたように、2020年2月の時点で、確定診断患者の10倍程度は感染者がいるであろうことや感染の半分以上が発症前に起こっていることは既知で、再生産数のoverdispersionからクラスター対策で中国から日本に入ってきた最初の感染の波(所謂第1波より前の)は封じ込めることに成功し、接触者追跡と強力なNPIsによって中国やNZや台湾でも封じ込めに成功できたにもかかわらず、欧米が封じ込めに失敗し、2020年3月中旬以降のパンデミックが制御不能になってしまったわけだが、なぜ欧米は初期の封じ込めに失敗したのか? も総括が必要だと思う。WHOがやるべき。それと同時に、台湾はまだ抑え込みに成功しているが、NZでとうとう感染確定報告数も死亡者も爆発的に増加してしまった(Ourworld in Dataで片対数グラフを描くとこんな感じ)。ワクチン2回接種者は95%、ブースター接種も60%以上の人が済ませているが、オミクロン株対策フェーズ3として、蔓延してしまったからか濃厚接触者の自己隔離を止めてしまった。それは感染拡大するし、それに遅れて死者も増えることになるというのが現状だろう。(2022.3.5)

COVID-19感染が脳に器質的影響を与え、認知機能にも影響するというショッキングな報告がでた。Douaud G et al. "SARS-CoV-2 is associated with changes in brain structure in UK Biobank."(Nature、2022年3月7日)である。UKのBiobankに登録している、MRIで脳のイメージを2回撮影している785人のうち、2回の撮影の間にSARS-CoV-2陽性があった401人と、そうではない対照群384人の間で脳イメージの変化を比較したという論文。スキャンの間隔はコロナ陽性群も対照群も3.2±1.6年で差はなかったのに、コロナ陽性群の方が、(1)灰白質の厚さ、眼窩前頭皮質と海馬傍回の組織コントラストがより大きく減少していた、(2)一次嗅皮質に機能的に結合した部位の組織の損傷マーカーがより大きく変化していた、(3)脳全体の大きさがより減少していたことと、認知機能の平均値も低下していたことが示されたとのこと。多重比較をした場合はFDR法で調整している。陽性群も大半は入院していないが、入院しなかった人だけを対照群と比較した結果では、有意差がある項目はかなり減る。Lillieforsの検定で有意だったので2群の比較はノンパラでやったと書かれていたので、Lillieforsの検定を検索してみたら、Rではnortestパッケージにlillie.test()として実装されていて、コルモゴロフ=スミルノフ検定(それ自体はR本体にks.test()として実装されていて、例えばxという数値ベクトルオブジェクトが標準正規分布と差が無いという帰無仮説の検定は、ks.test(x, "pnorm")でできる。xが平均0分散1でないときは標準化すれば良い)の改良版らしい。一般論としては、正規性の検定で有意だからノンパラというロジックはお薦めできないが、どちらかといえば保守的になるはずなので、差があったという結果は正しいのだろう。(2022.3.8)

エンデミックシナリオ(2022年4月17日)

21日に「まん延防止等重点措置」を全都道府県で解除する予定との報道があった。作図してみると、第5波までのピークよりも多い新規感染者が続いている状況。これで(デンマークのようなすべてのNPIs解除ではないにせよ)行動制限を解除するということは、欧米のようなCOVID-19常在化を受け入れるということだし、それは1~3年くらいの平均寿命短縮リスクを受け入れることを意味する。本当にそれで良いのか? 少なくとも、そのリスクを広く国民に説明した上で信を問うべきではないのか?(2022.3.19)

2022年3月18日までの都道府県別COVID-19新規感染報告数の推移

世間が徐々に感染者数の桁に麻痺しつつある(慣らされてきた?)ので、このままいくと欧米並みにすべての行動制約が解除されることになりそうな雰囲気だが、それは日本社会が感染症によって年間2万人から悪くすると5万人くらいの死者が出ることを受け入れることを意味する。公衆衛生的には敗北である。もし世間の潮目が変わるとしたら、夏に2021年の簡易生命表が出て、日本でも平均寿命が短縮したことが明らかになるときだろう。それでも2020年の欧米諸国が軒並み1~3年の寿命短縮を経験したのに比べると幅は小さいと思うが、すべてのNPIsを解除したら2022年の年間死者数は2021年を超えると思われるので、来年の夏に出る簡易生命表では寿命はさらに短縮することになる。それを是とするのか? と問われたら、嫌だと答える人が多いのではないだろうか。(2022.3.29)

今日から職域での3回目接種の追加募集受付が始まった。前回募集は接種会場が鶴甲だったが、今回は百年記念館で便利なので、これで応募した。神戸市の大規模接種会場であるノエビアで22日金曜日に予約した方が早く接種できるし、副反応が起きても次が土日の方が安心なのだが、まあ何となく職域で接種することにした。水曜午後に予約したのだが、問題は、副反応が出たときに、木曜の丸一日講義を無事に遂行できるかどうかだなあ。(2022.4.12)

3月末に書いた話を少し説明してみる。日本のCOVID-19流行状況を作図してみると、ある意味エンデミックな(=常在)状況になったようにも見える。ただし、このエンデミックな状態は、2009年パンデミックインフルエンザが「季節性インフルエンザと変わらなくなったから」という理由で2011年3月31日に終息宣言されたのとはまったく違っていて、新規感染確定者は毎日数万人だから年間2,000-3,000万人に到達する可能性があり(たぶん感染した人の検出率がインフルエンザより高いので、たぶん感染者数はかつての季節性インフルエンザと同等になると思われ)、死亡数が毎日50-150人として年間2万人から5万人になる可能性があり、2019年シーズンまでの季節性インフルエンザの10倍に達する。他の病気の年間死者数は、大雑把に言って、1位のがんが約30万人、2位の心疾患が約10万人なので、下手をすると感染症で心疾患の半分も人が死んでしまうことになる。NPIsとワクチンを併用し続けていれば、日本では2021年と同程度まで被害を抑えられるかもしれないのに、欧米のようにNPIsを止めてしまって今以上に感染拡大したら、そうした常在化は十分にありうるシナリオである。ワクチンを適切に使いながら、長期間にわたって継続可能なNPIsを維持することで、常在化のレベルをもっとずっと低くすることが、公衆衛生行政として必要だと思う。(2022.4.16)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数の推移2022年4月14日まで
日本のCOVID-19により新規死者数の推移2022年4月14日まで

予想通りだがこれで良いのか?(2022年5月20日)

厚労省のニュースリリースで、Novavax製の組み換えワクチンが、ファイザーとモデルナのmRNAワクチン、アストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチンに続き、日本で4つめのCOVID-19ワクチンとして承認されたことが確認できた。今朝からメディアでは取り上げられているが、有効性がmRNAワクチンよりやや劣る代わりに発熱や怠さなどの副反応が少ないという報道で、確かに厚労省が公開した添付文書でも、発熱が1-10%の頻度と書かれている。(2022.4.19)

午前中のPublic HealthのトピックがIHRだったので、これまでずっと感染症対策の目標はelimination、できればeradicationであったという歴史から語り、オミクロン株が世界を席巻している現在、"With corona"という言葉でendemic化を許容する変換点にあるのかもしれないという話をしたところ、なぜオミクロン株流行でeliminationを諦めているように見える国が増えているのかという質問が出たので、"In my opinion, at least three factors triggered this. First, ..."という形で熱く語ってしまった(雑に言えば、対策が長引いて社会経済的側面への負荷が高くなっていることと、ワクチンカバー率が上がりCFRが下がったことから、NPIsをしようという意欲が低下したことと、オミクロン株の世代時間があまりに短いために隔離を含む対処をする前に伝播が起こってしまいがちであることが大きいように思う)。気がついたら15分も延長していた。昼休みが短くなってしまって申し訳ない。(2022.5.12)

先週木曜に書いたことと関連するが、高山先生の講義を拝聴していて、EUのCDCは無症状感染者の把握の徹底は止めることにしたという報告を知った。台湾もとうとうWith Coronaに方針を切り替えた(リンク先はTIMEの記事)そうだ。しかし、多くの感染者と死亡者を出しながらWith Coronaに舵を切ったという話であることを踏まえないと是非は論じることができない。国内メディアや政治家はその辺を等閑にしたままで、日本が遅れているという雰囲気を出そうとしているように見える点が気にかかる。(2022.5.18)

昨日までの新規感染報告数のグラフを作ってみると(下図)、やはり日本でもエンデミックな状況が既成事実化しつつあるように思う。(2022.5.20)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数の推移2022年5月19日まで

現在の水際対策(2022年6月2日)

交換留学についての話の中で、現在の出入国の際の隔離等の規定が確認された。外務省の「国際的な人の往来再開に向けた措置について」(令和4年5月26日)では渡航対象国が3つに区分され、赤の国は有効なワクチン接種証明書(ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ等の3回以上の接種について、日本語または英語で書かれていること―ただし翻訳が添付されていて記載内容が判別できればOKとのこと―と、外国で発行された場合は政府等公的な機関で発行されたものであることが「有効」な条件で、シノバックなどは「有効」と見なすものに含まれていない)なしだと入国後3日間の検疫施設待機と施設検査陰性が必要、赤の国でも有効なワクチン接種証明があれば入国後3日間自宅等待機と自主検査陰性が必要という黄色の国の有効なワクチン接種証明無しと同じ扱いになり、黄色の国の有効なワクチン接種証明ありの人は、青の国(ワクチン接種証明の有無にかかわらず)と同じく入国時検査も入国後待機も免除されるという、物凄く緩い規制に今日から変わった。そこからリンクされている水際対策強化に係る新たな措置(28)に基づく国・地域の区分について(令和4年5月26日時点)を見ると、保健学研究科の学生が交換留学する主な相手国であるインドネシア、カンボジア、タイ、台湾、中国、香港、ラオスは、すべて青の区分だったので、これらの国とは、出国前72時間以内の検査陰性は必要だが、接種証明も入国後待機も不要ということで、短期交換留学事業にとっては再開するための障壁が相当に低くなったといえる。デンマークも含めていまだに新規感染者は多数報告され続けているヨーロッパ諸国がほぼ青の区分なので、これは本格的に日本政府も"With Corona"で行く腹を固めたということだろう。先日書いたような予測される感染者数と死者数についての議論が十分にされているとは思えないが。太平洋諸国だとフィジーが赤区分で(赤区分の国はフィジーも含めて世界で4ヶ国しかない)、ソロモン諸島やサモア、トンガ、バヌアツが黄色区分、パプアニューギニアとオーストラリアとニュージーランドが青区分になっている。不思議なのは、累積感染者数が30人しかいなくて、最近の新規感染者数がゼロ、死者も1人も出ていないミクロネシア連邦が黄色区分なこと。感染者ゼロの国から来る人に3日間の自宅等待機を要請する根拠は何なのだろう? 自分が指導している留学生の何人かがネパール出身なのだが、ネパールも黄色区分。(2022.6.1)

第7波ではなく常在化(2022年7月12日)

日経新聞記事(のtweet)は、ちょっと憶測を書きすぎな面もあるものの、比較的良い記事と思ったが、記事データの元になった人口動態統計の今年3月の速報はリンクして欲しかった。他の人口動態指標は去年と変わりがないのに、今年2月、3月には死亡だけが約2万人ずつ多い。この間COVID-19によると確定している死亡の約4倍なのは、いわゆる関連死が増えるほか、実はCOVID-19による死亡だったとしても、その確定診断をせず死亡診断書に従来治療中の疾病を記載する医師もいることの反映では?(とtweetした)(2022.6.5)

WHO神戸センターのtweetで、WHOが感染対策のための生活ガイドラインの2022年4月25日版を出していることを知った。(2022.6.5)

コーディネータの林さんからオンライン講演会「ウイズ・コロナ時代のIoTによる換気向上 ~きれいな空気と健康~」の案内メールが届いたのでリンクしておく。今のところ参加できそうなのでフォームから申し込んだ。(2022.6.6)

いつの間にかCoCoAがバージョン2.0.1になっていた(厚労省のCoCoAのページによると、2022年6月9日付けで更新されたそうだ)。(2022.6.17)

厚労省サイトに今日付で、新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き別冊「罹患後症状のマネジメント」第1.1版が載っていた。診療の手引き本体の方は、5月9日付けで第7.2版が載っている(7.2版での更新の概要)。(2022.6.17)

2日前に報道されていたことだが、今日、首相官邸の新型コロナウイルス感染症対策本部会議(第93回)厚労大臣会見で、感染研とNCGMを統合する件が明言された。感染研もNCGMもコメントを出しているが、統合の中身が不明な以上、こういうコメントにならざるを得ないだろう。しかし常勤職員約2000人のNCGMと常勤職員400人に満たない感染研の統合でCDCってどうなんだろうか。(2022.6.17)

久々に作図してみたが、接触追跡をしていないために見逃されている感染者を考えたら、3月に書いたように、ほぼ常在状態になってしまった感じだ。(2022.6.26)

いくつかの都道府県におけるCOVID-19の新規感染報告数推移(2022年6月25日まで)

いつの間にか、大それたタイトルで喋ることになってしまっている。いや確かにOKはしたのだけれども。(2022.6.28)

この数日BA.5という変異株についての報道が多いが、マスメディアよりも、まずは感染研の『感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第18報)』(2022年7月1日)を見ておくべきであろう。ウィズコロナというかエンデミック許容政策を取り続ける限り、原理的に次々に新変異株が出てくることは避けられないので、こうして置き換わりながらCOVID-19が常在するというのが世界のあり方になる。去年までにNZと台湾に全世界が同調して封じ込め政策をとっていれば排除できた可能性はあったが、オミクロン株の世代時間が短すぎるため、排除がきわめて困難になってしまった現在、この流れを逆転させることは難しいのが残念。可能性としては、現行の発症予防を主目的とする注射ワクチンではなく、鼻と喉にスプレーするタイプの感染予防ワクチンができて広まるくらいしか、将来の排除や根絶という出口は見えない。しかしこのまま発症予防や重症化・死亡予防だけ社会が許容可能なレベルに抑えるために半年ごとにワクチン接種を続けるというエンデミックな社会が続くと、ワクチンのメリットが減ってデメリットが増えるので、どこかで逆転してしまう可能性もあって、もしそうなったら詰みなんだがなあ。各国政府がそれを真剣に考えているようには見えないのもまた辛い。(2022.7.5)

いくつかの都道府県におけるCOVID-19の新規感染報告数推移(2022年7月3日まで)

メールボックスを見に行ったら、西浦博(編著)、小林鉄郎、安齋麻美、合原一幸、ナタリー・リントン(著)『感染症流行を読み解く数理』日本評論社(出版社の紹介ページ)、ISBN 978-4-535-78759-9(Amazon | honto | e-hon)をご恵贈いただいたのが届いていた。まえがきに名前を挙げていただいたのは面映ゆいが嬉しい。本書は、昨年秋に金芳堂から出た『感染症疫学のためのデータ分析入門』に続く西浦研の成果物であり、いまだに医療専門職者や公衆衛生の専門家でさえ十分に理解していない人が多い(ましてや世間一般の方はいうまでもない)感染症疫学の中でも理論疫学にフォーカスした入門書である。前著が調査方法なども含めた感染症疫学全体の入門書という色合いが強かったのに対して、本書は数セミの記事をベースにしてまとめられたらしく、エボラウイルス感染症、新型インフルエンザ、デング熱、MERS、等々、感染症流行のさまざまな具体的事例に対して数理モデルを適用する方法を列挙している。「第21章 あとがきにかえて:感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」で書かれている内容が大変重要で、本書のメインターゲットとなる読者が数理畑の人になるであろうと考えると、重く受け止めて欲しいところ。なお、「第18章 汚れた空気はキレイにできるのか」がとても面白く、インフルエンザの接触感染と飛沫感染のリスクが既知である場合のairborneの寄与の推定モデルや、フィルターの効果の評価などに触れられているが、おそらく今後膨大なデータが出てくる可能性があるCO2濃度と関連付けるモデルの説明があれば尚良かった。ともあれ、素晴らしい本をご恵贈くださりありがとうございます>西浦研の皆様。(2022.7.8)

西浦さんのBA.5増加分析についての解説記事(第1回)。欧米でも信頼できるデータがなくなったというのは最近ではなく今年に入ってわりとすぐではなかろうか。日本も第6波から接触追跡をちゃんとやらなくなったし。もはや中国以外は対策を諦めエンデミックな状況を受け入れたように見えるが、そうなると毎年国民の1/4が感染しその0.1-0.2%が亡くなる状況をもたらし、年間2-5万人くらいが亡くなる(エンデミックな状況では変異が起こり続けるので抗体の効きが悪くなるとか、これまである程度の有効性が見られた薬が効かなくなるような状況もいつでもありうるが、仮にそれがないとしても)という、感染症としては1950年代までの結核のような状況に陥ることを、どれくらいの人が真面目に考えているのか疑問。平均寿命も1~2年短縮する可能性が高い(欧米では2020年に既にそうなっていたが、東アジアやNZは感染者を相対的には低く抑え込んでいたし、行動変容などによると思われるがさまざまな死因別死亡が低下したので、欧米とは逆に2020年には平均寿命が延びていた)のだが、それで良いのだろうか?(2022.7.11)

ProNASの論文いくつか(2022年7月18日)

オミクロン株では再感染が広く見られているが、再感染だからといって有害性が低いとは限らないというTIMEの記事の良いところは、ちゃんと典拠となる論文の学術誌を明記し、その論文にリンクしている点だ。Scienceに6月14日付けで掲載された、Reynolds CJ et al. "Immune boosting by B.1.1.529 (Omicron) depends on previous SARS-CoV-2 exposure"(オミクロン株(B.1.1.529)感染は、すべての他の株への免疫を増強するが、オミクロン株自身への免疫はミュートされる、とabstractにある論文)や、Natureに5月18日付けで掲載された、Suryawanshi RK et al. "Limited cross-variant immunity from SARS-CoV-2 Omicron without vaccination."(オミクロン株感染によって、既にワクチンで誘導されている免疫は増強されるが、ワクチン接種していない人ではオミクロン株以外の株への免疫はつかない、とabstractにある論文)を正しく引用して記事を書いているのが素晴らしい。どうして日本のメディアはこれができないのか? というと、真っ当なサイエンスライターが少ないことと、マスメディア界に蔓延っている、出典を重視しないため度々省略されるという慣行を是正できずにいるからだろう。学術的な内容に限っては、典拠が明示されていないとまったく無価値であることが一般常識になれば、マスメディア界の慣行も変わってくれるだろうか。(2022.7.15)

このところ忙しくてチェックを怠っていたが、ProNASのCOVID-19関連論文を拾っておく。

ついでにProNASではないが、Gazit S et al. "Short term, relative effectiveness of four doses versus three doses of BNT162b2 vaccine in people aged 60 years and older in Israel: retrospective, test negative, case-control study"(BMJ, 2022年5月24日)は、イスラエルのデータを使って、60歳以上の人への4回目ワクチン接種の効果を3回接種と比較した結果、4回目接種済みの方が感染・重症化・死亡リスクが3回接種者より低くなるが、相対的有効性は接種3週後がピークでその後低下していき、接種10週後には22%しか相対的ワクチン有効性が残っていないという研究。先日も書いたように、BA.5で免疫の有効性が低下しているという研究や、今後も新たな変異株が出現し続けることを考えると、どう考えても「ウィズコロナ」には暗い未来しか見えない。

寄生虫学の准教授である入子先生がタイ出張から帰国する際に検査陽性になってバンコクに滞留していたが、漸く陰性になって帰国できるとのことで良かった。このtweetからの情報は役に立ちそう。推奨事項として、★海外旅行保険加入→フライト変更や自己隔離の宿泊費などカバー、ただし感染判明時点で保険期間延長申請必須★航空会社の海外支店が閉鎖されている場合があるのでフライト変更の対応窓口要確認→タイ航空日本支店土日祝日閉、バンコク窓口は英語、タイ語で対応★自己隔離中洗濯のため旅行用品として売られている1回分の液体洗剤パックより粉末洗剤をビニール袋に入れて持参(少量の洗濯の際に調節可)100均ハンガー優秀★物資調達にはGrabアプリ(参考:ベトナムでの使い方詳細説明最初はタクシー配車アプリだったがCOVID-19で打撃を受けて食料配送メインに転換し、更にフィンテック化したというForbesの記事)だがクレジットカードの二段階認証との相性悪い、等、大変参考になる。

日本の都道府県別COVID-19新規感染確定報告数の推移

2月の死因別死亡データ(2022年7月29日)

WHOはこれまで2回、IHR2005に基づくmonkeypox検討会合をしているが、7月23日の第2回でもPHEIC宣言はしなかった。そもそもmonkeypoxは以前から人獣共通感染症として知られていて、主に接触感染と飛沫感染が伝播経路だというのが常識だったし、感染力がそれほど高くない感じの広がり方であることを考えても、たぶん封じ込めは可能だと思われる。昨今の国境を越えた感染拡大については、airborneという伝播経路を無視すべきではないのでは?というレターが2022年7月5日にInternational Journal of Surgeryに載っていて、ウイルス疾患だしそういう変異が起きる可能性は常にあるが、仮にairborneだとしてもCOVID-19の対策と同じだから、取り立てて追加で行えるNPIsはない。これまでもmonkeypoxが動物からヒトに感染してアウトブレイクが起こることは何度かあって、2018年には第3世代の天然痘ワクチンをコンゴ民主共和国(DRC)でヘルスケアワーカーに接種したこともあり、もう少し感染が広がったとしても対処するための知見や手段は蓄えられていて、2020年初めに新興感染症として出現したCOVID-19とはまったく違う。そんなに騒ぐようなものではないと思う。むしろ、各国政府が常在化した感染症としてなし崩し的に受入れさせようとしているCOVID-19が、日本の人口規模からすると、毎年1000万人以上が感染して5万人以上亡くなるような病気となって定着しても良いのか? をちゃんと議論すべきではないか。そういうロングスパンの見通しをもたずに日々の感染状況に対する対処だけ考えるのは無理がある。

COVID-19の新規感染確定報告数の推移グラフを提示しておく。確かに現在の日本の状況は、片対数グラフで直線的に増えているから、指数関数的増加中ではあるのだが、その前の底だった時点でも第4波までのピークより多い新規感染報告数があった点に注目すべき。周期的な流行の間はほとんど患者がいないという意味での流行病(季節性インフルエンザとか水痘とか麻疹といった多くの感染症は、日本ではそうなっている)ではなく、増減はあるものの常に一定の新規感染者がいる(ほとんど重症になったり死亡するリスクがないため誰も受診しないので確定診断はついていないが、「ただの風邪」はそう)という意味で常在化したと言えそう。一週間の新規感染者数が先進諸国中トップになったと報道されているが、欧米も抑え込みや終息に成功したわけではなく常在化の中で変動しているだけで、トップかどうかにはあまり意味は無いと思う。台湾はピークアウトしたようにも見えるが、実情をちゃんと見てみないと何ともいえない(なぜかいつの間にかUKのグラフが作れなくなっているのだが、原因はまだ調べていない)。

日本の都道府県別COVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年7月25日まで)
世界のいくつかの国のCOVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年7月24日まで)

Dr. Eric Topolが4回目接種をすると3回接種までの人に比べて死亡率が下がるという論文5本をまとめたtweetsをしている。元論文を読んでみないとどう解釈べきかはわからないが。

7月22日付けで人口動態統計の5月速報2月月報(概数)が出ていた。速報では2月と3月に前年より大幅に増えていた死亡が、4月と5月には例年並みになったことがわかる。これがCOVID-19の感染者数急増による医療キャパオーバーと連動しているとしたら、7月の死亡数も例年より大幅に多くなってしまう可能性がある(12月になればデータが公表されるので確認できるはず)。月報に掲載されている死因別死亡を見ると、COVID-19による2月の死亡者数が2021年の2,159人から2022年には6,503人に増えている(1ヶ月だけで、2019年までのインフルエンザの年間死亡数の倍以上に達している)のが目に付くが、他の死因では(数が少ないため偶然変動が大きい死因を別にすれば)、高血圧性を除く心疾患が前年の18,804人から22,670人に増えていること、呼吸器系疾患が14,333人から16,180人に増えていること、老衰が11,769人から14,923人に増えていることが目に付く。割合としては不慮の事故も増えていて、ある程度、医療キャパオーバーによる治療の遅れが影響した可能性を裏付けていると思う。ワクチン接種のおかげもあってCFRが下がったとはいえ現在程度の高さがある状態では、「ただの風邪」のように医療を受けないことにするわけにもいかず、かなり八方塞がりなのだが、こういう事態を招かないためには、やはり感染者数を一定程度以下に抑えるしかないのではないか。欧米が対策を諦めても、それに追随すべきではないと思う。

とうとうミクロネシアでもアウトブレイク(2022年8月10日;11日追記)

オンライン会議で知った論文。Sasanami M et al. "Monitoring the COVID-19 immune landscape in Japan"(Int J Infect Dis, 2022年6月8日オンライン)とHayashi K et al. "Assessing Public Health and Social Measures Against COVID-19 in Japan From March to June 2021"(Frontiers in Medicine, 2022年7月12日オンライン)。(2022.7.29)

2021年の簡易生命表が7月末という予告通り発表されていた。男性0.09年、女性0.14年と、欧米で2020年に見られた下がり幅に比べれば小さいとはいえ、日本でもとうとう平均寿命が短縮した。欧米は2021年に若干持ち直したけれども依然として2019年までより平均寿命が短く、COVID-19の影響がでている。日本でのCOVID-19による死亡の本格化は今年からなので、たぶん来年7月末に発表される今年の平均寿命は、たぶん1年、下手をすると2年くらい短縮していることになる可能性がある。(2022.7.30)

全数把握を止めるというのは対策を諦めるのと同義だから、欧米に足並みを揃えるのと整合的だが、それならアドヴァイザリーボードとか分科会も要らないってことだよなあ。自らの存在意義を否定してどうする? もう辞めたいということか。それならそう言えば良いのに。しかしWHOがPHEICを取り下げていないのに先進国が全数把握・報告を止めてしまったら、IHR2005という枠組みは崩壊したということになる。人類はもう少し賢く振る舞えると思っていたのだが。確率的なばらつきの幅も考慮しつつ論理的かつ厳密に考えなくてはいけないところ、いわゆる専門家も含めて雑な扱いで済ませてしまっている部分が多すぎる。(2022.8.3)

WHO神戸センターによる、WHOのCOVID-19治療暫定ガイドライン2022年4月22日版の非公式日本語訳(2022年7月29日)。厚労省によるCOVID-19診療の手引きは2022年7月22日に発表された第8.0版が最新。COVID-19の薬に限らず、自分や家族が病気に罹ったときに投与する薬について医師から説明されるとき、薬の名前はたいてい商品名なので、こういう文書を見ないと一般名がわからない。まあ、商品名の方が剤型や質まで特定したことになるから正確といえば正確な情報にはなるわけだが。(2022.8.3)

東大医科研の佐藤佳教授のグループからのプレプリント論文で、BA.2.75が、RtがBA.5の1.2倍あり、BA.5に感染後回復したハムスターの血清抗体には強い抵抗性があったと報告されている(日本語英語から連ツイで内容紹介されている)。エンデミック/常在/ウィズコロナのまま行動制約せずに社会を回すという政策は、こうした感染力や病原性が異なる変異株が毎年いくつも出現し続けるリスクを許容するということ。現在進行中の第6波の再燃(が実情だが、一般には第7波と呼ばれている)にもかかわらず、緊急事態宣言どころかまん延防止等重点措置もしないのだから、日本は欧米と同じくこのリスクを受け入れたということだ。(2022.8.9)

もっとも、中国のように諦めずに国内からの排除戦略をとっていても、海外で出現した変異株のリスクには曝され続けるわけだから、先月までのミクロネシア連邦のように鎖国に近い施策をとらない限り、国内だけで厳しい制約をしても無効かもしれない。(2022.8.9)

ミクロネシア連邦は、オミクロン株が主流になっている現在、これまでにわかった対策をとれば大丈夫だから8月1日から開国すると宣言したばかりだったが、WHOの統計資料を見ればわかるように、7月19日にポンペイ州とコスラエ州で最初の市中感染が見つかって以降――ほぼ鎖国しているのにその人がどこで感染したのか謎で、7月28日の大統領声明でもわからないと書かれているが、7月19日のレポートでは、グアムからコスラエへの帰還フライトという言及があるから、空港検疫してチェックしていても、それをすり抜けて無症状既感染者がどこからか帰国したのではないかと思われる――、爆発的に感染が広まり、既に6700人が感染し16人が亡くなっている。7月末のレポートによると、社会距離を取るなどPHIsはするけれども、国内移動制限やロックダウンはしないとのことだが大丈夫だろうか?(2022.8.9)

ちなみに、国内の推移グラフを描いてみると、何の対策も打ち出していないだけあって新規感染者数はまだ減る気配がない。

日本の都道府県別COVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年8月9日まで)

2022年8月5日付けで人口動態統計月報(概数)(令和4年3月分)が発表されていた。2月に続いて前年より1.5万人以上死亡が増えていた3月の死因別死亡がわかったわけだが、COVID-19以外の死因としては、心疾患、老衰、不慮の事故が大きく増えていたので、やはり救急医療を必要なタイミングで受けられなかった人が多かった(近年の日本の医療水準からすれば医療崩壊していたといえる)ことが強く示唆される。公衆衛生の視点からすれば、関連死は従来より広い見方をすべきといえる。(2022.8.11)

感染症法の抜け道か(2022年8月28日;29日追記)

Dr. Eric Topolのtweetで知ったが、Taquet M et al. "Neurological and psychiatric risk trajectories after SARS-CoV-2 infection: an analysis of 2-year retrospective cohort studies including 1284437 patients"(Lancet Psychiatry, 2022年8月17日)は、100万人以上の患者について後ろ向きコホート研究から、COVID-19の神経と精神への後遺症を調べたもの。気分障害や不安は他の呼吸器感染症と変わらないが、"the increased risk of psychotic disorder, cognitive deficit, dementia, and epilepsy or seizures persisted throughout"とのこと。(2022.8.18)

何度も書いているように、WHOがPHEICを継続しているのに全数把握を止めるというのはIHR2005の崩壊で、人類がCOVID-19に負けたことを意味するのだが。(2022.8.18)

大雑把なところは3月頃から書いてきたエンデミックがもたらす人口学的影響について、Buzzfeedに西浦さんへのインタビュー記事(前編後編)が載っていた。こうやって詳細な計算で示されるとやはり思った通りだったとも感じるが、それが悪い方向であることが悔しい。相変わらずマスメディアも医療関係者も一般市民も目を向けていない話だが、誰もが巻き込まれるのだから真面目に考えて欲しい。(2022.8.21)

8月10日に出ていたFSMのCOVID-19現況報告だが、5歳未満はワクチンを打たなくても良いとか、ポンペイとコスラエは既に市中感染が広がっているから検査陰性確認しなくても入れるといったことが書かれている。当時既にCOVID-19に直接起因する死者が18人いたが、すべてワクチン接種が不十分だったり基礎疾患があった人だとのことで、USAの影響が強いFSMでは、入ってしまったらそういう政策になるのだろうなあ、とは思うが。ところで、ここには州単位での渡航制限しか書かれていないのだが、ポンペイ州やコスラエ州にも離島があって、離島にはまだ感染者がいないのではないかとも思うので、州単位では不十分ではないか。例えばポンペイ島からピンゲラップ島への渡航条件などはどうなっているのかについての情報が欲しいが見つからない。(2022.8.23)

ぼくは感染症で年間5万人亡くなる日本は受け入れたくない。流行状況に対応して有効かつそれほど無理のない行動制限はすべきだと思う。受容可能かどうかの議論がされないまま、なし崩し的にエンデミックな状況を受入れさせる政策は不誠実。(2022.8.23)

このところCOVID-19を五類にするとか全数届出を止めるとか届出判断を自治体に委ねるといったことを政府が発表するというような報道がされているが、感染症法で、COVID-19は「新型インフルエンザ等感染症」に含まれていて(第6条7項)、新型インフルエンザ等感染症を医師が診断したときは直ちに氏名・性別等を保健所に届け出る(第12条)ことになっているから、国会が行われておらず法改正もできない以上、そんなことは不可能で、何を馬鹿なことを言っているのだと思っていた。ところが、感染症法第12条(下枠内に引用する)をよく読むと「厚生労働省令で定める場合を除き」という抜け道があることに漸く気づき、自分が間抜けであったことがわかった。第6条7項(下枠内に引用する)の方も括弧書きで注釈がついているのがくせ者で、運用次第ではCOVID-19はある時点から新型コロナウイルス感染症には当たらないと見做すことができてしまう。もちろん十分に弱毒化してCFRが例えば0.02%以下で、かつ60歳未満では0.002%以下くらいの水準になればそれで良いのかもしれないが、CFRが0.5%もあるのにそういう扱いにしてしまうのは、自分には受け入れがたい。この話は量的な線引きをどこにすると良いのかという大変難しい基準について、社会的合意を明示的に議論しなくては判断できないはずだが、政府にそれをする気配はない。第12条については、後付けで厚生労働省令による例外規定を適用するのは法の趣旨に反しているんじゃなかろうか? というか、そんな運用を許したら法治国家といえないと思う。COVID-19の扱いを、常在感染症として毎年1000万人以上が感染し5万人前後が死亡する状態を受け入れる形にするとどうしてもいうのなら(まだそれを防ぐ手段がある以上、昨日も書いた通り、ぼくは断固反対だが)、せめてちゃんと国会で審議して法改正しなくてはいけない。(2022.8.24)

第十二条 医師は、次に掲げる者を診断したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、第一号に掲げる者については直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を、第二号に掲げる者については七日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区(以下「保健所設置市等」という。)にあっては、その長。以下この章(次項及び第三項、次条第三項及び第四項、第十四条第一項及び第六項、第十四条の二第一項及び第八項並びに第十五条第十三項を除く。)において同じ。)に届け出なければならない。

一 一類感染症の患者、二類感染症、三類感染症又は四類感染症の患者又は無症状病原体保有者、厚生労働省令で定める五類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者及び新感染症にかかっていると疑われる者

二 厚生労働省令で定める五類感染症の患者(厚生労働省令で定める五類感染症の無症状病原体保有者を含む。)


第六条 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
(中略)
三 新型コロナウイルス感染症(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
(後略)

あと、よくメディアに5類にすれば全数報告はないという話が出てくるが、そんなことはなくて、麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は5類だが直ちに全数報告することになっている。テレビや新聞は不正確な情報が多すぎて困る。(2022.8.24)

厚労省のオープンデータをダウンロードして8/1-8/26のCOVID-19による死者数を合計すると5,937人に達している。7月は1,304人だったので激増といえる。2月と3月にCOVID-19感染が急拡大し救急医療が逼迫して心疾患、老衰、不慮の事故による死亡が増え、2月も3月も1.5万人以上の超過死亡があったこと(8月11日に書いた)を考えると、今月の超過死亡は大変なことになりそうだ。まだデータが出ていないのでちゃんと計算することはできないが、今年の平均寿命は前年比1年以上短縮するかもしれない。欧米の多くの国では2020年に既に起こっていた事態だが、せっかくこれまでそうなるのを防いできたのに、ちゃんとした説明もなく対策を取らないことにしてしまった現政府のやり口は残念でならない。ちなみに日本の新規感染者の現況を作図してみると、エンデミックな状態で定常化したように見える。(2022.8.28)

日本の都道府県別COVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年8月27日まで)

感染症法の抜け道的な厚生労働省令による届出限定(以前も書いたが、そもそも別立てでHER-SYSを作るのではなく、NESID全体をオンライン化し、電子カルテのNESID対応を厚労省が強く推奨して補助金を出すとかしたら医療者の負担も減ったはずなのに、別立てでHER-SYSを作って入力や報告に付加的な人手が掛かるようなシステム構築にしたのが間違いだった)が、救急体制や医療体制を立て直すための緊急避難措置として機能してくれれば良いが、その後では届出制度は全数に戻してくれるのかも気になる。(2022.8.28)

昨日触れた緊急避難措置だが、様式2の年齢区分で医療機関が集計してから紙をファックスでまたはExcelファイルをメール添付で毎日提出するくらいなら、COVID-19と診断された人の氏名、年齢、性別そのものを全数報告する方がむしろ楽ではないか? 年齢区分の集計ミスが出そうな悪いシステム設計だと思う。(2022.8.29)

一般流通は一般販売ではない(2022年9月10日)

Dr. Eric Topolがこのtweetで褒めていたCOVID-19ワクチンのレビュー論文、Barouch DH "Covid-19 Vaccines — Immunity, Variants, Boosters"(NEJM, 2022年8月31日)。後で読む。(2022.9.2)

同じくDr. Eric Topolがこのtweetで褒めているCOVID-19後遺症についての紹介記事、Shaffer L "Lots of long COVID treatment leads, but few are proven"(ProNAS, 2022年9月1日)も後で読もう。(2022.9.2)

UPの9月号が届いたが、今回は読み応えある記事が多い。法学者がCOVID-19に関する感染症法、検疫法、新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定を論じている「Covid-19規制と比例の原則」とか。(2022.9.6)

COVID-19の新規報告確定患者数の推移グラフを作ってみると、若干減少傾向とはいえ、まだ2月のピーク時並みであることに注意。(2022.9.9)

日本の都道府県別COVID-19新規感染確定報告数の推移(2022年9月5日まで)

マスメディアのニュースを受けて、ラゲプリオの「一般流通」を「一般販売」と勘違いしたようなtweetが散見されるが、これは8月10日にアナウンスされていた話の開始日が決まったというだけで、一般販売ではない。一般流通というのは、これまで国(厚労省)が一括買い上げして配分していたのをやめて、普通の医薬品と同様に医師が診察して処方(したら調剤薬局で処方箋に基づいて入手)できるようになるという意味で、市販薬(OTC)になるわけではないし、全額公費負担も変わらない。(2022.9.9)

経鼻ワクチン(2022年9月13日)

THE TIME(正しくは「THE TIME,」または「THE TIME、」なのか? 「藤岡 弘、」みたいに)で三重大学の野阪教授がCOVID-19経鼻ワクチン開発の話をしていて、発症予防や重症化予防だけではなく感染自体を予防できるので、あと3年くらいで実用化して全世界で一斉に使えば根絶できるはずと主張していた。

ぼくも何度か触れたが、確かに経鼻か喉に噴霧するワクチンで感染自体を予防できるようになれば、根絶の可能性はある。論文を検索したら、東大医科研の河岡義裕教授たちとも共著で、Ohtsuka J et al. "Non-propagative human parainfluenza virus type 2 nasal vaccine robustly protects the upper and lower airways against SARS-CoV-2"(iScience、2021年11月17日)が出ていた(野阪教授自身による日本語解説)。これは動物実験だったが、その後どこまで進んだのかは今日のテレビではわからなかった(動物実験段階から3年で実用化できるのか?)。

経鼻ワクチンの開発状況については、Alu A et al. "Intranasal COVID-19 vaccines: From bench to bed"(eBioMedicine、2022年1月24日)というレビュー論文が出ていて、そこでも野阪教授らの論文は引用されていたが、他にも動物実験段階のものや臨床試験に入ったものも含めて世界中でたくさんの経鼻ワクチンの開発が進められていることがわかる。Muzio LL, Spirito F "Nasal vaccine or monoclonal therapy: Which is winning weapon against SARS-CoV-2 variants in 2022?"(Journal of Global Health、2022年5月14日)でも、マウスの実験では安定なRNAとして異所性遺伝子を運び中和抗体としてのIgGと粘膜のIgAを高レベルで誘導したと引用されていたが、まだ臨床試験で有効性が示されたものはなさそうだ……と思っていたら、7:10頃に経鼻ワクチンについて再び触れられ、Natureに記事が載り(2022年9月6日)、中国とインドでは臨床使用が緊急承認された(Nature、2022年9月7日)という話も紹介された。野阪教授らのグループのものがどうなるかはわからないが、経鼻ワクチンという「感染を防御できるワクチン」は、そう遠くない将来に実用化される可能性はありそうだ。

なお、インフルエンザのFluMistは弱毒生ワクチン(LAIV)だったが、COVID-19の経鼻ワクチンはそれに限らないようだ。

CoCoAの機能停止を河野太郎デジタル担当大臣が発表したという報道が流れているが、CoCoAの担当は厚労省じゃないのか? 全数把握を止めるからという理由付けはHER-SYSと一体運用するという制約下でのみ意味をなすので、これはむしろHER-SYSを止めるから設計上CoCoAも機能しなくなってしまうという意味だろう。最初からNESIDのオンライン化という王道とともに、CoCoAのスマホIDの登録も医療機関で診断と同時にサーバに伝えられる設計にしておけば良かったのに。

WHO治療指針が更新されたことなど(2022年9月18日)

このtweet、現在の段階で1万RT、2万いいねが付いているが、図の引用元が明示されていない。出典は2021年2月20日の東京新聞の記事で、その図の上半分までは2020年9月17日の厚労省資料に出ていて、2021年2月3日にぼくも、少なくも基幹部分は内製すべきだったとコメントした。ただ機能不十分だった原因の根本は、外注中抜きシステム以上に、HER-SYSへの依存が前提となっているのにそのHER-SYSがまともに稼働しなかったという設計ミスにあると思う。HER-SYSを作るのではなくNESIDをオンライン化することと、医師が診断して電カル記入したら自動的にNESIDに登録されると同時に、患者のスマホからBluetoothで自動的にCoCoAのIDがサーバに行くようにしておけば、手間も増えず完璧なDCTができたはず。(2022.9.14)

東大の佐藤佳教授のグループから、Kimura I et al. "Virological characteristics of the SARS-CoV-2 Omicron BA.2 subvariants including BA.4 and BA.5"(Cell, 2022年9月13日)が出ていた。BA.4とBA.5のウイルス学的性状が明らかにされた論文とのこと。(2022.9.16)

COVID-19の治療指針は各種公的機関が出しているが、WHOの治療指針が9月16日付けで更新された。そのvisual summaryがBMJで2020年にpublishされたが随時更新されていて、既に反映されていて、それを和訳してtweetした医師がいて、医薬品名が商品名になっていてわかりやすい。厚労省の診療の手引きはまだ第8.0版(2022年7月22日)から更新されておらず、今回WHOが重症度分類のNon-severe、Severe、Criticalのすべての人に対して強く非推奨(Strong recommendations against)としたCasirivimab and imdevimab(商品名ロナプリーブ)とSotrovimab(商品名ゼビュディ)という2種類の中和抗体薬は掲載されたままだ。ただし、これらは去年特例承認されているが、既に「本剤はオミクロン株(B1.1.529 系統 /BA.2 系統,BA.4 系統および BA.5 系統)に対して有効性が減弱するおそれがあることから,他の治療薬が使用できない場合に本剤の投与を検討すること」と注記があるので、オミクロン株が占める割合が高くなってしまった現在、それほど使われていないのではないかと思われる。臨床現場がどれほど忠実に「手引き」に従うのかどうかは知らないが。ウイルスが変異し続けているので、ワクチンや治療薬の有効性も流行している株が変わるのとともに変化し続けることになり、情報の不断のアップデートが重要になる。(2022.9.18)

「これからのCOVID-19対策」~個体群生態学会での発表(2022年10月1日)

このtweetを見て、風呂場? と思って元ツイを見たら、確かに"all the way to a single set of bathrooms."だったが、Marc Johnsonさんが連ツイで語っていたのは下水疫学の話だったので、たぶんトイレの意味が強い。連ツイから引用されていたロックフェラー財団のサイトの記事([1][2])にも目を通したが、全体としては、人獣共通感染症だから変異株が動物起源と思っていたが下水疫学からヒト起源と考え直したという話であった。ただ、[1]の下の方には、下水疫学は強力だけれどもエアサンプリングの方がもっと強力と考える理由がいくつかあるという説明があるが。(2022.9.19)

Dr. Eric Topolのこのtweetで紹介されていた、Yang K et al. "Nanomolar inhibition of SARS-CoV-2 infection by an unmodified peptide targeting the prehairpin intermediate of the spike protein."(ProNAS、2022年9月19日)は、SARS-CoV-2の細胞への侵入を阻害するペプチドを見つけたという論文らしいが(in vitroの培養細胞の実験のようだ)、将来的には、例えばジェルタイプののどスプレーのようなものに混ぜて、外出前に予防的に噴霧したりするという実用化の方向性はありうるのだろうか? もしそうなら素晴らしい発見だが。(2022.9.20)

西浦さんのtweetで知ったが、メタコビという、感染情報収集プロジェクトが始まっている。感染症法の抜け道を突いて厚労省令で全数報告が緩められたことを反映しているわけだが、研究者が独自に情報収集する必要がある現状は残念。ちなみにRのCOVID19パッケージの日本の都道府県データの元はこのcsvファイルだが、2022年9月5日が最終更新になっている。ディレクトリリストを見ると厚労省のデータがそれ以降取れなくなっているようだ。厚労省のデータからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-は更新されていて、その元になっているオープンデータも更新されているので、COVID19パッケージで厚労省データが取れなくなった原因はわからないが、現在のところ、日本の都道府県別新規感染確定者数の推移をRで描くには、描画RコードでCOVID19パッケージを使っていたところを、直接オープンデータを読み込むように書き換えれば描画はできる。もっとも、このオープンデータもいつまで続くかわからないし、データの信頼性も低下中だが。(2022.9.27)

夜になってからCOVID-19の新規確定感染者数の推移描画Rコードを厚労省オープンデータを直接読むバージョンに書き換えた。(2022.9.27)

日本の都道府県別COVID-19新規確定感染者数の2022年9月27日までの推移(厚労省オープンデータによる)

稲葉さんのtweetで知った、ナショジオの記事では、風土病的な意味でのendemicが解説されているが、COVID-19の常在化は一定地域に限らないので、いわば全世界エンデミックになり、それはパンデミックの「深刻な状態」と何が違うのか? 現在の米国の1日300-400人の死者が続くと年間10万人の死者であり死因別死亡の上位なわけで、終息ではなく敗北宣言。(2022.9.28)

Dr. Eric TopolがUSAではBA4.6変異株が感染者の12%を超えたとLancet Infectious DiseaseのこのCorrespondenceをリンクしてtweetしている。全世界エンデミック的な状況が続く以上、新たな変異株(従来の抗体医薬品はやがて効かなくなる)が生まれ続け、ローカルな感染者急増ピークが出続けるのはほぼ必然で、いまの政策はそれを許容しようとしている。世界中の人がそれを理解した上で受け入れるというのなら仕方が無いのかもしれないが、たぶんちゃんと理解している人はあまりいないように思う。悔しい。(2022.9.28)

奥村さんのこのtweetからリンクされているブログ記事によると、7桁郵便番号から都道府県を特定することは不可能。もっとも、きわめて例外的なところだから、統計解析に使う上では無視できるレベルの誤分類ではないか? メタコビでも無視できる誤分類と判断したようだ。(2022.9.28)

西浦さんがこのtweetで、Knight R et al. "Association of COVID-19 With Major Arterial and Venous Thrombotic Diseases: A Population-Wide Cohort Study of 48 Million Adults in England and Wales."(Circulation、2022年9月20日)をリンクし、COVID-19罹患後に血栓症による死亡リスクの上昇が、かなり長い間続くことと、実際に日本でも観察された心疾患死亡の増加がこれで説明できるかもしれないことについて触れている。以前からその可能性を示唆する研究はいくつもあったが、UKの4800万人コホート研究で実証されたという論文で、たぶん他国でもデータがあれば実証可能であろう。(2022.9.28)

9:00から個体群生態学会の企画セッション1「COVID-19の個体群生態学」で発表するためZoomミーティングに参加開始。梯さんと喋る内容があまり被らなくて良かった。順応的管理でシナリオ別の複数の評価指標が出てきたとして、それを同時に眺めて良いシナリオを選ぶという話は尤もだが、何を根拠にどうやってベストシナリオを選ぶのかという方法論は示されなかった。以前、人口学会の関西部会で喋るためにやったシミュレーションは、個体群生態学ではpoint pattern dynamicsの解析というのか。次は自分の発表。短く収めようとしたのだが、20分には収まらなくて申し訳なかった。「これからのCOVID-19対策」プレゼン後に若干加筆修正した資料を公開しておく。(2022.10.1)

同時流行は防げるはずだが(2022年10月15日)

Dr. Eric Topolが、以前Economistの記事をtweetしていたが、その後ブログ記事にもして、それを紹介tweetしていた。世界で最も高齢化が進んでいる日本(人口ピラミッドから一目瞭然、という示し方)で、COVID-19による死者がUSAよりずっと低く抑えられてきたのは、マスク以外にも3Cs(三密対策)が大きかったと書いている。当時の専門家会議とクラスター対策班は誇って良いと思うし、2020年夏で専門家会議が廃止されたのは痛かった。(2022.10.9)

今日から全国旅行支援が始まってしまうので作図してみた。第5波のピークかそれ以上の新規感染者が毎日報告されていて、海外ではまた新しい変異株による置き換わりが報告されているのに、GoToみたいなことを再開し、それをテレビで宣伝すると同時に、マスク外しましょうキャンペーンまでするとは、よほど蔓延させたいのだとしか思えない。円安のマイナスをプラスに転じさせるために海外からの観光客をどうしても増やしたいのだろうが(マスクをしていることが求められる状況は安全に観光を楽しめますというムードと矛盾するので、マスクを外させたいのだろう)、それで感染者が激増したら、一部とはいえ一定の割合で医療を要するのだから、いくら医療を適用する範囲を狭めても一日20万人くらいの感染者が出る状況になれば医療崩壊に近くなることは見えている。しかも感染者が多いことは新たな変異株が誕生するリスクを上げる。そこまでのリスクを考えた上で国民の多くが選ぶなら仕方ないが、とてもそうは思えない。(2022.10.11)

日本の都道府県別COVID-19新規確定感染者数の2022年10月10日までの推移(厚労省オープンデータによる)

ところで、インフルエンザとコロナの同時流行を懸念した対策が検討されているようだが、元々インフルエンザのR0は学校などで密な接触がある状況を除けば1.2くらいだし、今くらいのマスク着用が続けばRが1を下回るので、インフルエンザは流行しないと思う。この2年間流行しなかったように。逆に、マスクも換気も止めるようなキャンペーンを展開して国民がそれに従ったら、いくらワクチン接種しても同時流行が起こるのはほぼ必定。オーストラリアで流行したから、というのはオーストラリアでは行動制約がほぼゼロになっているからインフルエンザのRが1を超えたことを意味するだけなので、厚労省で会議をしている人たちはそこで思考停止してはいけないだろう。(2022.10.11)

以下、最近のCOVID-19関係の論文を拾っておく。(2022.10.14)

またinfodemic(2022年10月29日)

昨日西浦さんがm3でCOVID-19の平均寿命への影響に言及していたが、今日のDr. Eric Topolのこのtweetで紹介されている論文(Schöley  J et al. "Life expectancy changes since COVID-19"、Nature Behavioral Medicine、2022年10月17日)も同テーマ。半分くらいは去年の夏にわかっていたことだし、日本でも今年は1-3年は平均寿命の短縮が起こるであろうことは4月に書いた通りで、新しい話ではないのだが、世間はたぶんその重大さに気づいていないのか、無視されてきた。西浦さんがm3で触れたことで多少SNSやメディアが取り上げたが、たぶん多くの人はまだちゃんと考えていないのだろう。ちゃんと考えたら無視できるはずはない大問題だと思うが。(2022.10.17)

一昨日のDr. Eric Topolのtweetには続きがあって、このtweetではLife expectancy losses and bounce-backs during the COVID-19 pandemic(Nature Human BehaviorのResearch Briefing、2022年10月17日)を引用して、「ワクチンカバー率が高い国は寿命損失が最小で済み、2021年にはUSAでは80歳以上の余命はバウンスバックした(2020年に死亡が増えすぎたが2021年に取り戻したという意味)」と書いている。(2022.10.19)

9月19日に、それまで動物由来だと考えられていたウィスコンシンの謎の変異株は、下水疫学から考えてヒト由来というtweetに触れたが、Dr. Eric Topolのこのtweetで紹介されているZhang W et al. "Structural basis for mouse receptor recognition by SARS-CoV-2 omicron variant"(ProNAS、2022年10月18日)は、オミクロン株がマウス由来であることを示唆している。(2022.10.19)

これもDr. Eric Topolのtweetで知った、Hansen CH et al. "Risk of reinfection, vaccine protection, and severity of infection with the BA.5 omicron subvariant: a nation-wide population-based study in Denmark"(Lancet Infectious Diseases、2022年10月18日)は、デンマークでのオミクロン株の派生変異株であるBA.5の再感染、ワクチンによる防御、重症度についての論文。(2022.10.19)

UKの数理生物学者のDr. Kit Yalesが、理研で作られたairborne transmissionのシミュレーション動画(From RIKENと書かれているだけでソースが明示されていないので特定できなかったが、たぶん坪倉先生のページにある動画のどれかからの切り出し?)が好きだというtweetをしていた。坪倉先生のチームはオミクロン株のパラメータで計算し直したシミュレーション結果を報告し、YouTubeで動画公開していた。不織布マスクを着用して、かつ1つ空席を間において座っていれば、1時間喋っていても感染リスクはかなり低いと説明されていた。(2022.10.19)

第8波が来るとか来たとか議論している方々に申し上げたいのは、確かに波と言えば波なのかもしれないが、それ以上にむしろ、今年初めに第6波に入ってから収束と言えるほどの収束はしていないので、かなり高い伝播レベルが維持されている常在(=2021年にKofmanが示した4つのシナリオの中の「大炎上」状態)の中での振幅に過ぎないと見るべきということ。下のグラフの全体像を見て欲しい。(2022.10.19)

日本の都道府県別COVID-19新規確定感染者数の2022年10月18日までの推移(厚労省オープンデータによる)

2022年10月20日からUS-CDCのCOVID-19新規感染者/死者報告が日報から週報に変わっていた。(2022.10.24)

Manica M et al. "Estimating SARS-CoV-2 transmission in educational settings: A retrospective cohort study"(Influenza and Other Respiratory Viruses、2022年9月20日)は接触追跡データの分析から、SARS-CoV-2の伝播の50%が家庭、21%が学校、29%がコミュニティで起こっていたことと、75-80%の感染は陽性者の20%から起こっていたことを明らかにしたという論文で、Figure 3の接触ネットワークの図がきれいだ。(2022.10.24)

Keller MD et al. "Skin colour affects the accuracy of medical oxygen sensors"(NatureのNEWS & VIEWS FORUM、2022年10月19日)はCOVID-19で普及したパルスオキシメータの正確さが皮膚の色によって影響を受けるという話題。USA黒人の酸素飽和度が過大推定されると書かれている。(2022.10.24)

昨日付けで人口動態統計2022年8月速報が出ていた。あれだけ感染者が増えれば救急の逼迫による超過死亡もあるし、8月28日に「今月の超過死亡は大変なことになりそうだ」と書いたが、その通りだった。Twitterで「超過死亡」がトレンド入りしているが、人口学の素養があれば当然わかっていたことで、問題意識をもつのが2ヶ月遅いのだが、当時オミクロンは弱毒だから問題ないと信じ込まされた人々にとってはショックなのかもしれない。ちなみに、死者の増加をワクチン接種と関連付けるデマが飛んでいるが、厚労省のオープンデータから一目瞭然だし、これまでも書いてきたように、新規感染者が激増すると暫くして死者が激増している(変異株の特性か、タイムラグはパンデミック当初の約3週間より若干短くなっているように見えるが)ので、いまだにインフルエンザより一桁大きいCFRによる直接COVID-19による死亡と、救急の逼迫による心疾患や事故などからなるいわゆる超過死亡の増加で説明がつくので、ワクチン接種によるなどという陰謀論は考える余地も無いし、逆に3回目接種が今よりも遅れていたら感染者全体でのCFRが高くなっていたはずなので、もっと死亡数は増えていただろうと考えられる(正確な見積もりは難しいが、たぶんCFRが数倍以上になっていたと思われるので、全死因による死者も数万人上積みされていた可能性がある)。トンデモ陰謀論を発する人もそれを拡散する人も、罪の意識は感じないのだろうか? 感じないからやるのだろうが。(2022.10.26)

上述厚労省オープンデータのページから、日別の死者数のCSVファイルを読んで、新規感染確定報告数のCSVファイルと約3週間ずらした推移グラフを描けばわかりやすいか。(2022.10.26)

自分が昔書いたマラリア伝播の行動防御モデルの論文も引用されていたのに見逃していたJones JH et al. "Transmission-dynamics models for the SARS Coronavirus-2"(AJHB、2020年9月25日)は、COVID-19の伝播動態についての数理モデルにおいて人間の行動や環境要因をどのように考慮していくべきか論じたCommentaryで、2年前の時点で書かれていたのだなあ。これまでに蓄積されたデータで検証できるかも。(2022.10.28)

COVID-19の致命リスクや重症化割合が季節性インフルエンザと差がなくなったというデマがまた広まっていて、致命リスクの数字として季節性インフルエンザが0.09%、静岡県のオミクロン株が0.08%と並べた表が、季節性インフルエンザについて第74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料を出典とする形で掲げられている。厚労省のアドバイザリーボードに出た数字という権威だけで信じてしまう人が多そうで頭を抱えている。季節性インフルエンザの致命リスクがそんなに高いわけなかろうと思って出典とされる会議資料3-10を見てみたら、3年間のレセプトデータの分析から、季節性インフルエンザで保険診療を受けた人を分母(たぶん抗原検査キットで確定診断がついた人、ということになるので、CFRの分母と同じ)、受診後28日以内に死亡した人の総数を分子(つまり、受診後28日以内の死亡であれば死因を問わずがんや心疾患や老衰で亡くなった人をすべて含む死者数)とする値だった。CFRより遥かに大きい値(日本の季節性インフルエンザのCFRは0.02から0.03%)になるのは当然だ。当該資料自体にも、「本研究の重症化等の指標である全死亡や全入院には、季節性インフルエンザ以外の理由での死亡や入院が含まれることに留意が必要」という注釈がついていた。そんな値をなぜ計算したのか謎だが、季節性インフルエンザの病原性を示す数字ではない。一方のオミクロン株については、おそらく静岡県のこの資料が出典と思われるが、分子はCOVID-19による死者数、分母は無症状感染者も含む検査陽性者数なので、IFRに近い値であり、観察期間のずれによる過小評価も含めて考えたら、オミクロン株でもまだ季節性インフルエンザよりは1桁近く大きなCFRであるといえ、ただの風邪とみなすことはできない。静岡県の資料でもわかることは、重症化リスクより死亡リスクの方が高いということで、軽症や中等症からICUや人工呼吸器での治療というプロセスを経ずにいきなり亡くなる方が相当数いたという、その方がよほど怖いことだと思うが、正常化バイアスをもってデマを信じ込んでいる人々が多いことに愕然とする。間違った形での引用が拡散されていくインフォデミックの悪しき実例がまた1つ。(2022.10.29)

「ユニバーサル中和抗体」の件、相変わらずメディアはソースにリンクしないが、神戸大学のプレスリリースを見ればわかるように、これはまだ査読を通る前のプレプリントサーバに載せた段階なので、少なくともそのことは注記すべき。森先生たちは2020年2月からCOVID-19関連の研究助成は受けているので、そろそろ大きな成果を出したいところだろう。プレスリリースによると、できた抗体MO1が「これまでに流行してきた変異株では変異していない部分を中心に結合している」だけなので、その部位が今後もずっと変異しない保証はないわけだが、まあ確かに変異しにくい部位ではあるのだろう。これまでの抗体医薬品は、新しい変異株が流行を置き換えていくたびに従来株に対して開発されたものの有効性が激減するということを繰り返してきたので、本当に「ユニバーサル」ならば大発見だが。(2022.10.29)

「大炎上」継続中(2022年11月21日)

Dr. Eric Topolのこのtweetからリンクされている論文、Bernard-Raichon, L et al. "Gut microbiome dysbiosis in antibiotic-treated COVID-19 patients is associated with microbial translocation and bacteremia."(Nature Communications、2022年11月1日)は、抗生物質を投与されたCOVID-19患者では腸内細菌叢が機能不全を起こすという話のようだ。そもそもCOVID-19だけでなくコロナウイルスには抗生物質は効かないはずだが。(2022.11.2)

久々に作図をしたが、Zenbookのフルスクリーンに表示して縮小したため、以前とは縦横比が変わった。以前から書いているように常在の中での振幅だが、旅行補助が始まってから増加しているのが一目瞭然と思う。(2022.11.5)

日本の都道府県別COVID-19新規確定感染者数の2022年11月5日までの推移(厚労省オープンデータによる)

昨日のついでに、厚労省のオープンデータから全国だけの新規感染報告数と新規死者数の推移の片対数グラフを描くRコードを作り、描画してみた。10月26日に「3週間ずらしてプロットすれば」と書いたが、横軸がわかりにくくなりそうなので、そのままプロットした。それでも、感染者が増えたらそれに伴って死者も増えることは一目瞭然であろう。(2022.11.6)

日本のCOVID-19新規感染報告数と新規死者数の2022年11月5日までの推移(厚労省オープンデータによる)

Taisuke Nakataさんがこのtweetで紹介している大竹文雄氏が分科会で発言した内容のNoteが、先日コメントした財務省の資料に基づいた過大な季節性インフルエンザの「致死率」(CFRより遥かに過大)に基づいた立論を展開していたので、「季節性インフルエンザについての数字がCOVID-19の数字と比較するには不適切な過大なものなので、立論の根拠が崩れています。アドヴァイザリーボードの資料の元を辿ってみてください」とtweetしたら、NakataさんからZoom説明会へのお誘いメールが来た。10月29日に書いたことを読めば、口頭で説明しなくてもわかると思うが。(2022.11.12)

厚労省のサイトにあるCOVID-19治療の手引8.1版によると、抗ウイルス薬としてはモルヌピラビル(ラゲプリオ)が一般流通しているので第一選択になるのだろうが、表5-2に載っている治験結果によると、29日目までの入院・死亡を減らす効果が5%有意になっているのは、モルヌピラビルの治験だけプラセボ群の入院・死亡が高いからで、レムデシビルやニルマトレルビル/リトナビルの入院・死亡予防効果の高さに比べると微妙な感じだな。これラゲプリオが第一選択のままで良いのだろうか。かといって、抗体医薬品もオミクロン株には効きが悪いし。(2022.11.15)

某メディアから致命リスク絡みの取材依頼メールが届いたので、4つ書かれていた質問にざっくりとメールで答えてみた。もっと丁寧な説明を求められたら時間がかかるので困ったなあ。たぶん疫学と公衆衛生学について教科書レベルの知識をもっていてくれたらわかるくらいには書いたが。(2022.11.16)

Verheyen CA, Bourouiba L "Associations between indoor relative humidity and global COVID-19 outcomes"(JRSI, 2022年11月16日)は環境保健の講義で紹介したいような内容。(2022.11.17)

感染研の感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について(第22報)(2022年11月18日9:00時点)によると、オミクロン系の変異株は一括してVOCに分類されているが、世界的にも国内でも多数の変異株が同時並行で流行していて、主要変異株がスイッチしてきたこれまでの状況とは違うようだ。昨年夏にKofmanが書いていた「大炎上」状態においては、こういうことが起こっても不思議はない。なんとかして新規感染者数そのものをshrinkさせないと「共存」に持っていける可能性は低いと思うのだが、日本を含む世界は何らかの理由で大炎上から逃れられる僥倖を期待しているのだろうか。(2022.11.18)

2週間ぶりに厚労省のオープンデータからグラフを作ってみたので載せておく。(2022.11.20)

日本の都道府県別COVID-19新規確定感染者数の2022年11月20日までの推移(厚労省オープンデータによる)
日本のCOVID-19新規確定感染者数とCOVID-19による新規死者数の2022年11月20日までの推移(厚労省オープンデータによる)

とうとう中国も諦めたか(2022年12月10日)

共同通信がtweetで独自集計の結果、今年のCOVID-19死者が3万人を超えたと書いているが、これは3月に書いていた通りの事態。悔しい。(2022.11.22)

COMMENTARY: Navigating COVID language trapsは、リスコミの専門家であるPeter Sandmanによる、公衆衛生の専門家はもっと用語法に敏感であるべきという記事で、8月に出ていたが、見逃していた。マスクはN95レスピレータが有効なのだからrespiratorと呼ぶべきだというのは極端な気がするが、布マスクやウレタンマスクや隙間が空いた着用では無意味だから、それらを同じマスクという呼び方で触れるべきではないという主張は一理あるかもしれない。(2022.11.22)

来週の公衆衛生学の講義資料(疾病統計・慢性疾患の予防という話で、統計資料が色々更新されるので毎年のアップデートが大変な回の1つ)を作った。昨年作ってしまった、死因別死亡に占めるCOVID-19に起因する死亡の割合を日米で比べると、昨年までの日本はうまく対策できていたのだなあとわかる。というか、2020年も2021年もUSAではCOVID-19が死因の第3位を占めていて(その次が不慮の事故というのも残念な話だが)、2020年からずっとUSAでは「大炎上」状態が継続しているのだとわかる。(2022.11.29)

このtweetでは、Ourworld in dataのCOVID-19 Data Explorerをリンクして、「多くの先進国では常在化してしまったということだと思う。中国でもとうとう防ぎきれなくなったか?」と書いたが、Ourworld in dataのリンク先は随時更新されて最新データで表示されるので、コメントの意味がわからなくなってしまうかもと思い、固定画像を含めて引用RTし、「このtweetのリンクをクリックすると今日時点で表示される画像を貼っておく」と書いた。(2022.12.6)

世界が「大炎上」状態に甘んじているのは公衆衛生の敗北であり、これまで何度も封じ込める機会はあったのにできなかったのは欧米の失政なので、決してこれまで"Zero-COVID"を目指してきた中国が科学的に間違っていたわけではないのだが、こういう状況になってしまうと軟着陸は難しそうだ(BBCの報道)。とはいえ、最近まで都市機能封鎖もできた国だから、人々の不満や衝突はあっても、それなりに統制はできてしまうのだろうが。

Linsey Marr教授のこのtweetは、まだ本文が全公開されていないが査読を通ったらしい論文をリンクし、イタリアの学校での換気率を上げるとCOVID-19感染リスクが下がるというグラフを提示して、1人1秒当たり10L以上の換気を薦めている。(2022.12.6)

Kurhade, C., Zou, J., Xia, H. et al. Low neutralization of SARS-CoV-2 Omicron BA.2.75.2, BQ.1.1, and XBB.1 by parental mRNA vaccine or a BA.5-bivalent booster. Nat Med (2022). は、BA.2.75.2やBQ.1.1やXBB.1という新しい変異株には2価ワクチンのブースター接種の効きが悪いというタイトルだが、一度感染した後で2価ワクチンでブースター接種をすると中和抗体産生が多くなることから、mRNAワクチンは新しい抗原に合わせた開発をすることが迅速にできるという特徴を生かして、将来的には新しく流行する変異株を予測してブースター接種用のワクチンを開発できるかが鍵だという結び。それはそうだろうが……。(2022.12.7)

多数の変異株が同時に常在する状態(2023年1月7日;8日追記;10日追記)

Dr. Eric TopolのこのtweetからリンクされているMsemburi W et al."The WHO estimates of excess mortality associated with the COVID-19 pandemic"(Nature、2022年12月14日)で、インドの超過死亡が途轍も無いレベルになっていると知った。おそらくCOVID-19の感染者数や死者数に数え落としがあるということは、以前からいろいろなところで指摘されていた。"Mortality and Death Registration in India: The many holes in the data"(The India Forum, 2022年8月18日)とか、Prabhat JHA et al. "COVID mortality in India: National survey data and health facility deaths"(Science, 2022年1月6日)とか。(2022.12.16)

2020年1月からいままでの経験で子供も含めて手洗いとマスクを徹底すればインフルエンザ流行をほぼ完全に防げることがわかったのに、インフルエンザの「致死率」と称する過大な推定値を作り出してCOVID-19の弱毒化を強調し、マスクを外させようとする動きには呆れる。年間2000-3000人くらいの死者が出るのを諦観していたとはいえ、予防接種法のB類というくくりでコストを掛け、なるべくインフルエンザによる死者を減らそうとはしてきたのであり、毎冬の季節性インフルエンザ流行に問題がなかったのではない。手洗いとマスクでインフルエンザ流行を防げるなら、たとえCOVID-19予防効果が限定的であっても、とくに冬季に手洗いとマスク着用の励行を継続するのは公衆衛生政策的には合理的だろう。(2022.12.19)

10月までの人口動態統計速報が公開されていた。8月以降前年比で1万人以上死亡が上回る状態が続いているが、COVID-19の新規感染者数も高止まりしているから当然であろう。出生は3月から7月に低くて、8月以降はほぼ去年並であるように見える。9ヶ月前に何があったか考えると、3月から7月の9ヶ月前は2021年6月から10月で、タイミングとしては東京五輪と符合しそうな気もするが、とくに五輪があったからといって避妊しない性交渉が減る理由も無いので、偶然変動のようにも思われる。(2022.12.20)

Dr. Eric Topolのtweetで知ったKeeton R et al. "Impact of SARS-CoV-2 exposure history on the T cell and IgG response"(Cell Reports Medicine、2022年12月20日)は、感染を繰り返したりブースター接種を受けても、抗体レベルが上がるのに比べると、スパイク特異的なキラーT細胞への影響は小さい、という論文のようだ。とりあえず抗体価が上昇すればワクチン接種の意味はあるし、それが数ヶ月で下がってしまうなら延々とブースター接種を受け続けなくてはいけないということが確認されただけだが。(2022.12.21)

昨日付けで、令和2年の都道府県別生命表が発表されていた(pdf版)。参考資料2の特定死因を除去した場合の平均寿命の延び(一般に損失余命あるいはYLL [=Years of Life Lost]という略称で示される指標だが、厚労省は一目でわかるタイトルにしているのだろうと思われ、それはそれでありだと思う)を見ると、COVID-19による損失余命は、0.1年程度ではあるが男女とも大阪、沖縄、東京がトップ3を占めているのが目立つ。2020年でこうだったのだから、2021年や2022年を計算したらもっと都道府県間格差は拡大しているだろう。公式統計としては都道府県別生命表は5年毎にしか出ないが、人口動態統計の個票を申請して都道府県別の男女年齢各歳別の死亡数と都道府県別のCOVID-19による男女年齢別死亡数を集計し、都道府県別男女年齢別年央人口として推計人口を使えば(国勢調査人口は5年毎にしか出ず、たぶんそれが5年毎にしか率に関する集計結果が報告されない理由)計算できるはず。かなり大変な作業だが、力技でできるので、誰かやらないかなあ。論文にすれば、人口学研究や日本健康学会誌や日本公衆衛生雑誌なら採択される可能性が高いと思うが。(2022.12.24)

RコードのX軸の範囲を少し拡大して、COVID-19の新規感染確定報告数と新規死者数の推移を示す片対数グラフを描いてみた。新規感染確定者の増加の傾きよりも新規死者の増加の傾きの方が若干急な気がする。報告漏れが増えているせいだとしたら、もはや感染拡大制御が不可能な状況だということを意味するのだが、あまりその恐ろしさが知られていないように思う。(2022.12.25)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数とCOVID-19による新規死者数の2022年12月25日までの推移(厚労省オープンデータによる)

まだfmsb-0.7.5はcranで審査中だが、このサーバ内のページにはアップロードしてあるので、それをダウンロードしてローカルファイルからのパッケージインストールをすれば、このコード(実は、このコードを書いている途中で、fmsbのPrefYLL2020データフレームのexample()で"covid-19"とすべきところが"tuberculosis"のままだったことに気づいた……ドキュメントの説明そのものは直したのに、我ながら不注意だった)を実行することで、次のグラフができる。大阪は、COVID-19と肺炎による損失余命が大きいことが目立つ。おそらく肺炎の中にCOVID-19が見逃されたケースや、医療崩壊で治療が間に合わなかったケースが多いのではないか。(2022.12.28)

男女別都道府県別損失余命(赤:大阪、灰:他都道府県)

米国CDCの最新情報(現在は2023年1月6日更新の情報が載っているが、リンク先は随時更新されるので、この内容はおそらく次回更新時にはアーカイブに移動されるはず)によると、年が明けても相変わらずUSAの主要変異株はXBB.1.5であるようだ。感染研の変異株情報は2022年12月16日に公開された「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について(第23報)」が最新なままで、XBB.1.5のヤバさが強調されていないが、WHOの2023年1月4日のニュース「TAG-VE statement on the meeting of 3 January on the COVID-19 situation in China」には、「At this time, the TAG-VE is also evaluating the rapidly increasing proportion of XBB.1.5 in the United States and other countries. An updated risk-assessment of XBB.1.5, beyond the previous statement, is in progress.」と、XBB.1.5が拡大中であることが指摘されている。東京都の「世界の新型コロナウイルス変異株流行状況(1月5日更新)」(随時更新されるので、以下の内容は2023年1月5日に更新された現時点での情報についてのコメントであることに注意)を見ると、多種多様な変異株が世界中で同時並行して流行中であることがわかる。熱帯熱マラリア原虫のmultistrain仮説と同様なメカニズムで免疫逃避が起こりやすくても不思議はないなあと思う。XBBのような組み換えによる変異株もますます発生しやすくなるだろう。相変わらずまずい状況に拍車がかかっている。(2023.1.7)

自分の2019-nCoVについてのメモとリンク■政府機関・国際機関等から感染研のCOVID-19ポータルへのリンクが、2019-nCoVと呼ばれていた頃のままデッドリンクになっていたことに気づいたので、現在のポータルに直した。(2023.1.7)

新規死者数が過去最高を更新したというニュースを見たので、グラフを描いてみた。病原性が強いというよりは新規感染者数が過少報告なのだろう。(2023.1.7)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数と新規死者数の2023年1月7日までの推移(厚労省オープンデータによる)

このtweetからリンクされていたAbbasi J "The COVID Heart—One Year After SARS-CoV-2 Infection, Patients Have an Array of Increased Cardiovascular Risks"(JAMAのMedical News & Perspectives、2022年3月2日)は、COVID-19感染の1年後に心疾患リスクが上がっているという話。ワクチン接種後に若年男性での心筋炎リスクが有意に上がっている(ただし絶対リスクとしてはきわめて小さい)という話は知られているが、感染後の心疾患リスク上昇も以前から言われていて、Luo J et al. "Cardiovascular disease in patients with COVID-19: evidence from cardiovascular pathology to treatment"(ABBS、2021年1月11日)でSARS-CoV-2がACE2レセプターを通して心筋細胞に感染するということと、後遺症としての心血管疾患リスクの可能性は指摘されていたし、(BMJのNews、2022年2月14日)がXie Y et al. "Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19"(Nature Medicine、2022年2月10日)を紹介して、より詳細に長期的な心疾患リスク上昇を報告しているし、Raman B et al. "Long COVID: post-acute sequelae of COVID-19 with a cardiovascular focus"(European Heart Journal、2022年2月18日)やLiuzzo G, Volpe M "SARS-CoV-2 infection markedly increases long-term cardiovascular risk"(European Heart Journal、2022年4月1日)でも報告がある。箱根駅伝で駒澤大学の絶対的エース田澤廉選手がたぶん本調子ではなく2区で3位だったことがコロナ感染の影響ではないかという話があるが、Śliż D et al. "COVID-19 and athletes: Endurance sport and activity resilience study-CAESAR study"(Frontiers in Physiology、2022年12月16日)という論文が出ていて、軽症の感染であっても持久系アスリートの心肺機能低下をもたらし、とくに酸素摂取量と心拍への影響が大きいと報告しているので、おそらくそうなのだろう。循環器系と呼吸器系の臓器への長期影響は注視する必要がある。(2023.1.8)

某クローズドなオンライン会議で報告と質疑(報告概要)。(2023.1.8)

インフルエンザ感染状況を見ると、過去2年よりは微妙に増えているが、COVID-19パンデミック以前に比べると、今冬も感染は低レベルで推移しているようだ。(2023.1.10)

夏頃から広まっている季節性インフルエンザの致命リスクを過大評価する酷いインフォデミックについて、アーカイブ目的も兼ねて出典付き、説明付きのスクリーンショット資料を作ってみた。さすがにこれなら誰でも一目瞭然ではなかろうか?(2023.1.10)

WHO OPEN DATAによる作図(2023年1月16日)

XBB.1.5についてのナショジオのニュース記事。インタビューされた一人である東大の佐藤さんのtweetによると、本家の記事の和訳版とのこと。(2023.1.11)

COVID-19 Data Hubの更新が止まってから、COVID19パッケージを使うコードが使えなくなって、COVID-19の感染者数や死者数の国際比較はOurWorld in Dataで作図していたが、IHR2005に基づいて加盟国から毎日の感染者数と死者数がWHOに報告されるという仕組みは生きていて(検査が十分にされていないなどの理由で報告数自体が過少報告になっている可能性は高いが、この定義に基づく一律の症例定義で報告されているはず)、WHOのサイトからCSVをダウンロードできるので、そのデータを使うコードに書き換えて(変数名が違うし、国名コードがCOVID19パッケージではISO3桁コードだったのが、WHO Open DataではISO2桁コードになっていたため、その辺りを直した)作図してみた。やはり2022年2月以降は全世界でエンデミック化して「大炎上」状態と見做さざるをえない。(2023.1.15)

Daily reported cases of covid-19 by WHO Open Data until 13 Jan 2023
Daily reported deaths of covid-19 by WHO Open Data until 13 Jan 2023

対策放棄するならすると言うべき(2023年1月31日)

季節性インフルエンザとCOVID-19が同等というインフォデミックに基づいた各種提言を受け入れた政府が、COVID-19を5月から5類にすると決めたという、絶望的な発表がテレビで報道されている。それが意味するのは大炎上が続いて、COVID-19が死因の5位か6位になるということなのだが、わかっているのだろうか。5類といっても麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症の3つは直ちに全数報告だし、他に21疾患は7日以内に全数報告だし、25疾患は定点機関の医師には報告義務があるので、5類というだけで医療機関の負担が軽減するとも限らないのだが、その辺り触れてくれるメディアがない。HER-SYSという報告システムを運用していることが医療機関や保健所の負担を増やしているので、たとえ5類にしてもHER-SYSを止めてNESIDでの一元的な報告で良いとしないと、彼らは楽にはならないはずで、この変化を支持している医療関係者や保健所関係者は、たぶんこんなはずじゃなかったと後悔するのだろう。(2023.1.27)

感染症法に基づく就業制限や入院勧告、検疫法に基づく隔離や停留といった私権の制限が許されているのは社会防衛のためだから、それらが適用されている前提として公費医療が適用されるという建付けになっているわけで、防衛費を倍増させるために公費医療を続けられないとなったら、私権の制限を課せる根拠が失われることになり、5類にせざるを得ない、というのが政府の実情なのだと思うが、それなら金がないので社会防衛のための公費による対策は止めますとオープンに言うべきで、インフルエンザの致命リスクを水増しして過大に見せることによってCOVID-19の弱毒化を誇張する手口は不誠実。これまでのやり方だと保健・医療関係者だけの負担が高いままであり続けることになって、もう耐えられないという不満が溜まっているという側面もあるだろうし、既に対策を諦めた欧米に迎合し、日本でも一切の対策を止めることでインバウンドを加速するといった狙いもあるのだろうが、弱毒化を信じて対策を止めた人たちが何万人も亡くなることを容認するのは公衆衛生の敗北。防衛費なんて原発に弾道ミサイルを打ち込まれたら無効なのだから、アメリカにいい顔をするために倍増することは国益を損なうことにしかならないはずだが、日本には真の意味での外交能力がないので打破できないのだろう。(2023.1.27)

医療法に定める医療計画の第8次計画から、6事業目として新興感染症発生・蔓延時における医療が入ることになっているが、それに対する検討会が2月2日13:00-15:00に行われYouTubeで配信されるそうだ。(2023.1.27)

公衆衛生ねっとというメーリングリストで、全国保健所長会が厚労省に提出した意見書へのリンクが紹介されていて、ざっと目を通してみたが、インフルエンザの超過死亡の最大値とCOVID-19を死因とする死亡を比べて同等としている、まったくナンセンスな比較に基づく意見書で話にならない。これが政府の決定に影響していたとすると酷い話だ。(2023.1.28)

心疾患とCOVID-19の関連については1月8日にも触れたが、Yeo YH et al, "Excess risk for acute myocardial infarction mortality during the COVID-19 pandemic."(Journal of Medical Virology、2022年9月29日)は、2012年から2019年までの急性心筋梗塞による性別・年齢層(25-44、45-64、65歳以上の3層)別の年齢調整死亡のトレンドを、k近傍法、移動平均の自己回帰、線形回帰、多項式回帰など複数のモデルを当てはめて外挿して2020年と2021年の予測値を算出し、実際の急性心筋梗塞による性別・年齢層別の年齢調整死亡との差(を予測値で割った、相対的な差)を超過死亡として考察した研究。COVID-19パンデミックの状況下で急性心筋梗塞による超過死亡が12-34%あり、絶対値としては小さいけれども相対的な差は25-44歳が大きかったことが示されている。日本の人口動態統計でみても、2022年2月、3月、8月に前年比で大きく増えた死因はCOVID-19の次に高血圧を除く心疾患が目立っていたし、後遺症でも心臓の症状はよく報告されているから、知見としては一貫性がある。(2023.1.30)

日本のデータについて久々に作図してみた。(2023.1.30)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数と新規死者数の2023年1月30日までの推移(厚労省オープンデータによる)

ワクチン誤情報尺度(2023年2月9日)

コクラン・レビューのマスク論文で大騒ぎしている人は、明らかに言いすぎなtweetsを鵜呑みにせず、せめて元論文を読むべき(それを敷衍すると、このブログも鵜呑みにせず、元論文を読んで欲しいが)。結論部分でさらなる研究が必要と書いているのは、決して決まり文句というだけではなく、それこそがこの論文が公刊された意義なはず。そもそもサージカルマスクとマスクなしの比較研究12のうち10個がクラスターRCTで、個人ベースのRCTは2個しかないのだから、きちんとデザインされた研究が足りないというのは事実で、結論は出せないとしかいえない。(2023.2.8)

西浦さんがこのtweetで紹介している、昨日付けのアドバイザリーボード提出資料「マスク着用の有用性に関する科学的知見」は、きちんと論文を引用して書かれている点は有用。ただ、引用文献にdoiをつけてくれたら、もっと有用だったのにと思う。デンマークで行われたRCTでは有意差がなかったという文献6は、ざっと目を通してみると、個人ベースのRCTではあるのだけれども、(1)1ヶ月の罹患リスクを、セルフサンプリングによる抗体検査でIgGかIgGの陽性、有症状時のRT-PCR陽性、臨床診断のどれか1つでも満たされた場合という複合診断にしている、(2)コントロール群がマスクをまったく着用しなかったのかが不明、(3)介入群のマスク(ヨーロッパの医療用マスク規格EN14683のType IIのものを供与しているが、配布された手順書には、鼻と顎下までを覆うようにとしか書かれておらず、隙間がないように着用できたか不明)着用遵守が推奨通りにできた人が46%、部分的に遵守した人が47%、遵守しなかった人が7%となっており、ITTで解析した場合と遵守しなかった7%をコントロール群に含めた解析では統計的な有意差がなかったと書かれているが、47%を除くかコントロール群に含めた場合にどうなるかが書かれていない、といった弱点があり、検出力が低下している可能性は否めない。2020年4月から5月に行われた研究なので、全員に週2回のRT-PCRを受けてもらうというデザインは不可能だったのかもしれないが、RCTだからといって強力なエビデンスと言えるかはわからない。(2023.2.9)

Dr. Eric Topolがこのtweetからのスレッドで紹介している、発症後7日以内のPEG化(ポリエチレングリコールに結合させた)インターフェロンλ投与(マンニトール、Lヒスチジン、界面活性剤ポリソルベート80、塩酸を含む水溶液の0.45 mL皮下注)をプラセボ投与群(生理食塩水の皮下注またはカプセルか錠剤の内服による)と比べたRCTでCOVID-19の入院を50%減らせたという論文、Reis G et al. "Early Treatment with Pegylated Interferon Lambda for Covid-19"(NEJMの原著論文、2023年2月9日)からすると、この薬はもしかすると有望かも。微量皮下注で良いのは大きい。(2023.2.9)

同じくDr. Eric Topolがこのtweetで紹介している短報、Levin JM et al. "The political polarization of COVID-19 treatments among physicians and laypeople in the United States"(ProNAS、2023年2月8日)は、米国ではリベラルと保守が事実について合意しない現実があり、専門家はこの不一致を弱めるべきであるという立場から、一般人と救命救急医の間でCOVID-19治療について信じていることの両極端度を比較し、政治的スタンスなどその他の質問項目との関連を分析している。補足資料にプロトコルや質問文の詳細が載っていて興味深い。共変量を多数調整した上でも、一般人でも救命救急医でも、政治的イデオロギーからCOVID-19治療について信じていることが予測できると結論している。臨床医ではなく公衆衛生を学んでいるはずの産業医だったらどうなったかが知りたいところ。(2023.2.9)

コロナワクチン誤情報スケール(CVMSと名付けられている)を開発し、ワクチン忌避と関連していることがわかったという論文が出ていたので、ざっと目を通してみた。Bok S et al. "Psychometric development of the COVID-19 vaccine misinformation scale and effects on vaccine hesitancy"(Preventive Medicine Reports、2022年12月6日)である。米国で行われた2つの研究ではクロンバックのαが0.95を超えていて、重回帰分析で性別、年齢、世帯規模、所得、学位を調整した上でもワクチン忌避尺度(SAGEのワーキンググループで開発され、いくつかの国で試して妥当性検証済み)と正の関連を示したとのこと。仮に日本語版を作ったとしても、翻訳に伴う問題や、文化的バックグラウンドや(質問項目に入っているがエルダーベリーなんて聞いたことなかったし……いやこうやって警告が出るくらいだから、日本でも有効だと言っている人はいるのだろうが)、世間一般の人々のヘルスリテラシーレベルなど、いろいろな違いがあるので、日本で使えるかどうかはわからないが興味深い。ちなみに質問文は以下の通り(カッコ内は適当な私訳。これはどれも誤情報であることに注意)で、それぞれ「絶対違う」という1点から「絶対正しい」という5点までの5件法での回答が求められている。(2023.2.9)

  1. A COVID-19 vaccine will cause someone to be more susceptible to other diseases
    (COVID-19ワクチンを打つと他の病気に罹りやすくなる)
  2. Vitamin and mineral supplements are just as effective as a COVID-19 vaccine
    (ビタミンやミネラルのサプリメントはCOVID-19ワクチンとまったく同じくらい効果的だ)
  3. Microchips are inserted during COVID-19 vaccination
    (COVID-19のワクチン接種中にマイクロチップが挿入される)
  4. A COVID-19 vaccine alters someone's DNA
    (COVID-19ワクチンはDNAを変化させる)
  5. COVID-19 vaccines cause autism
    (COVID-19ワクチンは自閉症を引き起こす)
  6. Herbs like thyme are a natural COVID-19 vaccine
    (タイムのようなハーブは天然のCOVID-19ワクチンである)
  7. COVID-19 vaccines cause neurological damage
    (COVID-19ワクチンは神経学的な障害を引き起こす)
  8. Elderberry is a natural COVID-19 vaccine
    (エルダーベリーは天然のCOVID-19ワクチンである)
  9. People COVID-19 vaccinated endanger the lives of others
    (COVID-19ワクチン接種を受けた人は他人の生命を危険に晒す)
  10. COVID-19 vaccines will damage someone's spinal cord
    (COVID-19ワクチンは脊髄に障害を与える)

YouTubeに載っている、真相討論 脱コロナへの道 ゲスト 宮沢孝幸 / 奥村 康 / 小林祥泰という動画が、58万回も再生されているが、司会者が持っているフリップの季節性インフルエンザ致死率は、アドバイザリーボードに提出されたこの資料のp.4の数字で、注釈に小さい字で書かれている通り、元は例のインフォデミック。2022年3月に奈良県立医大の野田准教授が提出した、レセプトデータを使って計算されたインフルエンザ受診から28日以内の全死因死亡なのに、そこにまったく触れず新型コロナの致命リスクと比較可能な数字として話を進めてしまっている点で全然ダメ(オミクロン株の計算値が茨城・石川・広島という救急が逼迫していない3県による点には触れているが、そんな制約とはレベルが違う比較不可能性をスルーしている)。こうしてインフォデミックは拡大していく。(2023.2.10)

ちなみに、野田准教授たちは、このデータを使って日本臨床疫学会の英文誌に短報を掲載していて、分子の計算のやり方はアドバイザリーボード提出資料と同じでインフルエンザ受診後28日以内の全死因だが、致命リスクではなく、分母を推計人口からの人年にして死亡率を計算していて、オミクロン株になっても40歳以上ではCOVID-19と統計的に有意な死亡率差があると結論している(Discussionでは当然分子の計算の仕方が違うので比較可能性に問題があるとも書いている)。(2023.2.10)

簡易CFR視覚化コード更新など(2023年2月17日)

世間的には波が収まりつつあると思われているようだが、作図してみると、相変わらず常在の振幅の範囲内に過ぎない。死者数の減少の方が傾きが緩いので、たぶん新規感染者の把握率の減少の寄与もあると思われる。(2023.2.13)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数と新規死者数の2023年2月12日までの推移(厚労省オープンデータによる)

人口動態統計の昨年9月の月報が2月3日に出ていたことに気づいた。前年と比較した死亡数は8月から11月まで1万人以上多い(昨年1月から11月までの累計で10万人以上多い)のだが、死因別で見ると、増分11,256人のうち、約3分の1がCOVID-19死亡の増加による。次が老衰、誤嚥性肺炎、高血圧性以外の心疾患と続く。9月分だけで死因別死亡数を見ると、多い順に、がん(3.2万)、高血圧性以外の心疾患(1.6万)、老衰(1.5万)、脳血管疾患(0.8万)、肺炎(0.6万)、COVID-19(0.5万)、間質性肺炎(0.5万)という順序になっている。これは人口動態統計の集計だから周産期を除き原死因によるもので、過去の死因別死亡と比較可能。(2023.2.15)

累積死亡数と20日前までの累積報告患者数との関係の軌跡を両対数グラフで描くコードを、WHO OPEN DATAを使うように書き換えてみた。このコードを実行すると、下に示すグラフがpngファイルとしてできあがる。(2023.2.15)

世界数カ国の累積死亡数と20日前までの累積報告患者数との関係の軌跡の両対数グラフ

2023年春の状況(2023年5月5日)

このtweetを何気なくしたら、かなりの数のいいねとRTがついた。ここにも再録しておくと、以下の内容(2023.3.27)。

学校のマスク着用 ”感染者数抑制などに効果“ 米研究グループ | NHKこの記事が今日RTされているのを複数見たが、2022年11月のもので、元論文はこれで、以前触れた西浦さんたちのマスク着用の有効性に関する科学的知見でも引用されてる。

5月8日には5類に移行するというので、世間はコロナ禍が終息したことにしたいようだが、感染者も死者も2020年の1回目の緊急事態宣言のときより多く出ていて、2009年のパンデミックインフルエンザが2011年3月に「季節性インフルエンザと変わるところがなくなったので」終息したような意味では終息していない。社会がKofman(2021)がいう「大炎上(conflagration)」を受容して対策を諦めただけだということを共通認識としておかないと、後で「こんなはずじゃなかった」と思う人が多くなってまずい気がする。久々にグラフを描いてみた。(2023.4.22)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数と新規死者数の2023年4月21日までの推移(厚労省オープンデータによる)

既に過少報告になっているが、5月8日以降もデータが出てくるのかわからないグラフを再び描いてみた。こういうタイムスパンで眺めてみると、マスク任意になってから新規感染確定報告数が片対数グラフで直線的に増加傾向になっていることがわかる。(2023.5.2)

日本のCOVID-19新規感染確定報告数と新規死者数の2023年5月1日までの推移(厚労省オープンデータによる)

ついでにいくつかCOVID-19関連の情報を拾っておく。"A living WHO guideline on drugs to prevent covid-19"(BMJ、2021年3月2日、最新の更新は2023年3月24日)は、患者以外に対する予防薬についてのWHOの現行ガイドラインを示していて、ヒドロキシクロロキンは強く非推奨、Tixagevimab-cilgavimabは条件付き非推奨なので、今のところ推奨できる予防薬は存在しない。Sosin AN, Lincoln M "The covid public health emergency is ending: it now joins the ordinary emergency that is American health"(BMJ、2023年4月26日)はオピニオンペーパーで、バイデン大統領が2023年4月10日に、2020年3月から続いていた国家緊急事態を終わらせる文書にサインしたことを受け、依然として死因の第3位ではあるが、2021年冬に毎日3000人の死亡があったのに比べると、現在は毎週1500人まで減り、このまま行けば死因の9位に落ち着きそうだが、平均寿命は2.7年も短くなったし、緊急事態宣言が終わっても手放しで喜べないので、まずは公衆衛生の諦め感を治すことから始めるべきだ、と主張している。しかし実際、平均寿命は短縮したままの状態で対策を諦めたのだから、諦め感を治すことはできないのではないだろうか。Nab L et al. "Changes in COVID-19-related mortality across key demographic and clinical subgroups in England from 2020 to 2022: a retrospective cohort study using the OpenSAFELY platform"(Lancet Public Health、2023年5月)は、英国を襲った5つの波について後ろ向きコホート研究をして、COVID-19関連死は大きく減少したけれども、ワクチン接種率が低いとか免疫不全のような脆弱な層では依然として高リスクなので、公衆衛生政策はその層をターゲットとしていくべきと提言しているようだ。Dixit AK et al. "Airborne disease transmission during indoor gatherings over multiple time scales: Modeling framework and policy implications"(ProNAS、2023年4月10日)は、屋内で人が集まったときに経気で伝播する疾患について、さまざまなタイムスケールでのモデリングのフレームワークを提供し、それに基づく政策への示唆をしている論文のようだ。データが蓄積してきたので、こういうミクロなモデリングも可能になったということかも。Easterlin RA, O'Conner KJ "Three years of COVID-19 and life satisfaction in Europe: A macro view"(ProNAS、2023年5月1日)は、ヨーロッパ25カ国で半年ごとに行われている「ユーロバロメータ調査」の“On the whole, are you very satisfied, fairly satisfied, not very satisfied, or not at all satisfied with the life you lead?”という質問への回答を分析し、ヨーロッパ各国はCOVID-19パンデミックの3年間にさまざまな悪影響を受けたが、2022年夏の生活満足度は、コロナ前の2019年秋とほぼ同じだったという論文。2021年に最も深刻な影響があり、2022年はワクチン接種の進展とオミクロン株への置き換えによって影響が緩和された、という要旨。2020年に激しく落ち込んだ実質GDPが、2022年には2019年と同水準かそれ以上まで回復したことによる影響も大きいのではないかなあ、と思うが。(2023.5.2)

今日の読売新聞記事を引用して多数のtweetがされているが、FFHSを使わずに急遽開発されたHER-SYSが導入されたことの問題点については、去年9月の日経クロステック記事で指摘されていたことで、新事実というわけではない。FFHSを開発した奥村教授のCOVID-19関連の研究班の分担報告書も既に出ている。そもそも、2020年夏のHER-SYS導入時トラブル情報を見たときに書いたように、HER-SYSかFFHSかという問題よりも、特定の感染症についての別システムを立ち上げるのではなく、NESID全体をオンライン化することが王道の解決策だったと思うのだが……。(2023.5.4)

東京大学Sato Labから、Yamasoba D et al. "Virological characteristics of the SARS-CoV-2 omicron XBB.1.16 variant"(Lancet Infectious Diseases、2023年5月3日)が出ていた。(2023.5.4)

PHEICから長期管理へ移行(2023年5月6日)

今朝からテレビニュースが、Statement on the fifteenth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the coronavirus disease (COVID-19) pandemicで持ちきりだ。

これは、IHR2005に基づく緊急事態委員会の15回会合のレポートで(2020年1月23日の第1回会合ではPHIECの宣言に至らず、2020年1月30日の第2回会合でPHIECが宣言されてから、3年以上PHEICが続いてきたわけだが)、専門委員からの3つの現状認識報告(死亡の減少傾向、入院とICU治療の減少、罹患やワクチン接種による集団免疫レベルの高さ)を受けて、テドロス・アダノム事務総長がそれに同調し、COVID-19は既に確立して進行中の健康問題であって、もはやPHEICの構成要件を満たさないと決定し、ウイルス進化の潜在的可能性に起因する不確実性はあるが、緊急事態対応から長期的管理に移行する時期だとして、臨時ガイドラインを遵守することをWHO加盟各国に求めた、と書かれている。

去年の春以前から欧米や日本では常在化していたので、長期的管理をすべきフェーズに入ったというのは、別に新しい話ではないが、IHR2005の下ではWHOの宣言には大きな意味がある。臨時ガイドラインの要点も15回会合報告に含まれていて、カッコ内に引用する英文をざっくり訳すと以下の通り。

  1. パニックと無視の悪循環を避けるために、加盟各国の対処能力向上を維持し、将来起こりうるイベントに対して準備せよ。(Sustain the national capacity gains and prepare for future events to avoid the occurrence of a cycle of panic and neglect)
  2. COVID-19のワクチン接種を、生涯の定期ワクチン接種計画に統合せよ。(Integrate COVID-19 vaccination into life course vaccination programmes)
  3. さまざまな呼吸器系感染症病原体サーベイランスデータ情報源からの情報を一緒にまとめて、包括的な状況認識ができるようにせよ。(Bring together information from diverse respiratory pathogen surveillance data sources to allow for a comprehensive situational awareness)
  4. 各国の規制枠組みのなかで認可された医療的対処手段を準備し、その長期的な利用可能性と供給を確保せよ。(Prepare for medical countermeasures to be authorized within national regulatory frameworks to ensure long-term availability and supply)
  5. 強力で回復力が高く包含的なリスコミとコミュニティ関与(RCCE)とインフォデミック管理計画を達成するためにコミュニティ及びそのリーダーとともに活動し続けよ。(Continue to work with communities and their leaders to achieve strong, resilient, and inclusive risk communications and community engagement (RCCE) and infodemic management programmes)
  6. リスク評価に基づいて、COVID-19の海外旅行関連の健康手段規制を解除し続け、海外旅行の前提条件としてCOVID-19のワクチン接種証明を要求しないようにし続けよ。(Continue to lift COVID-19 international travel related health measures, based on risk assessments, and to not require any proof of vaccination against COVID-19 as a prerequisite for international travel)
  7. 伝播を減らし適用可能対象が広いワクチン改良研究、免疫不全集団におけるSARS-CoV-2の全体像、罹患率、COVID-19パンデミック後の条件下での影響、ウイルス進化を理解するための研究、COVID-19関連の統合ケア経路を開発するための研究への支援を継続せよ。(Continue to support research to improve vaccines that reduce transmission and have broad applicability; to understand the full spectrum, incidence and impact of post COVID-19 condition and the evolution of SARS-COV-2 in immunocompromised populations; and to develop relevant integrated care pathways)

PHEICが解除されると、各国政府の対応当局とWHOの毎日の連絡体制は解除されるので、世界の感染者数と死者数が公開されているサイトの更新も毎日ではなくなりそうだが、各国で、あるいは世界インフルエンザ対策計画チームやRSVのチームが進めてきた呼吸器感染症サーベイランスなどと統合することによってCOVID-19も含めた呼吸器系感染症全体の動向をカバーしていこう、というのが3番目の項目の主旨だと思われる。理屈は通っているが、各国でのサーベイランスシステムに統合されるよりも抜け落ちる国が多いことがほぼ確実な状況では画餅に過ぎないように思う。

この件について、NHKニュースは、3つの現状認識報告に基づいて、会見でテドロス事務局長は「緊急対応の状態からほかの感染症とあわせて管理する段階に移行する時期が来た」と述べて、新型コロナが存在することを前提にした対応を進めるよう、各国に求めました。一方で「ウイルスは命を奪い続け、変異も続けている。宣言の終了をもって各国は国民に、新型コロナは心配ないというメッセージを送ってはいけない」とも述べ、今後も警戒を続けるよう、各国に呼びかけました。と概ね正しい報道をしているが、臨時ガイドラインの中身までは紹介していないようだ。

厚労省オープンデータ更新終了(2023年5月9日)

COVID-19が昨日から5類になったという話だが、5類でも麻疹のように直ちに(=24時間以内に)全数報告するものもあれば、季節性インフルエンザのように1週間ごとに定点医療施設からだけ報告というものもあるので、COVID-19はどちらなのか調べたら後者だった。この点もテレビはあまり報じていないように思う。厚労省サイトの新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応についてからリンクされている厚生労働大臣公表文書(2023年4月27日)に、「患者の発生動向等の把握については、位置づけ変更後は、感染症法に基づく定点医療機関による新規感染者数の報告が基本となりますが、これに加えて、血清疫学調査(抗体保有率調査)や下水サーベイランス研究等を含め、重層的な確認を行っていきます」と書かれていて、全数ではなく定点把握になったことがわかる。たぶん「重層的な確認」が、WHOの臨時暫定ガイドラインの第3項に書かれていた「包括的な状況認識」に対応するという建付けなのだろうが、血清疫学調査や下水サーベイランス研究では広域すぎて、施設や大規模集会等での局所クラスター発生を見逃すリスクがありそうだ。感染症法施行規則の第3条を見ると、感染症法第十二条第一項に規定する「厚生労働省令で定める場合(=ぼくの日本語解釈が間違っていなければ、報告しなくても良い場合)」に該当するのが、入院を要しない場合や重症化のおそれがない場合となっているので、医師が診断しても報告されない症例が増えることは否めない。季節性インフルエンザ定点にはこのような除外条項はないので感染者数が過小評価されないが、この規定だとCOVID-19の感染者数はかなり過小評価されてしまい、CFRがとんでもなく大きな値になってしまいそうで心配になる。あと、e-govの感染症法第6条第6項9号と、感染症法施行規則第1条に書かれている疾患が5類なのだが、現時点では、どちらにもCOVID-19が含まれていない。どちらに入るのかわからないが、早く更新してほしい。大臣公表文書にも参考資料にも、5類にするとは書かれているが、どちらにするのか明記されていないのは残念だ。

もっとも、感染症法第6条第7項第3号で、新型コロナウイルス感染症(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)が新型インフルエンザ等感染症に含まれると書かれてしまっているので、COVID-19が「国民の多くが免疫を獲得したことで全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれ」が無くなって新型コロナウイルス感染症に該当しなくなったという建付けにするしかないはずなので、感染症法第6条第6項第9号か感染症法施行規則第1条のどちらに入れるにせよ、新型コロナウイルス感染症とは書けないことになり、どういう病名表記にするかが議論になっているのかもしれない。施行規則第3条の「新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。)」という表記も混乱の元だし。法律の文言でもCOVID-19と書くことになるのだろうか。

感染者数等の情報の公表スケジュールを見て、データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-を確認したら、「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけ変更に伴い、2023年5月7日分のデータが、本サイトの最終集計値となっております。最終更新日(2023年5月9日16時)以降、本サイトのデータは更新されていません。」というメッセージが赤バックに白抜きで表示されていた。感染研の定点サーベイランスの1つとして何週間か遅れで公表されることになるのだろうが、それではアウトブレイク時の対策には間に合わない懸念が大きい。大炎上の常在状態を受け入れることを決めたのだとしても、この体制は脆弱すぎると思う。せめて感染症法施行規則第3条の除外事項は設定しないで欲しかったし、できれば麻疹と同じく直ちに全数報告を維持して欲しかった。見逃していたが、2023年4月11日最終改正の事務連絡で、「HER-SYS については、位置づけ変更後も、都道府県内において入院調整に必要となる事項に限り、患者情報の共有を可能とするため、「発生届対象外者」として登録することを可能(健康観察機能は停止する)とする。本患者情報については、あくまで患者の基本情報、基礎疾患等の有無について、入院調整の際の補足的情報としての活用とし、位置づけ変更後は、新規で発生届の入力や入院調整に関わらない用途での使用はできない」と書かれていたので、ほぼ廃止ということだなあ。費用対効果の事後解析をして欲しいところ。

COVID-19のDALYsとか(2023年6月25日)

人口動態統計の公表予定は、令和4年の月報年計(概数)が6月上旬なのに、12月分月報(概数)はなぜか6月下旬になっている。平均寿命が2022年にどれほど短縮したのかは、7月頃となっている令和4年簡易生命表の発表待ちだが。(2023.5.14)

モデルナの推計値は、m3がもっているJAMDASの約4100定点データからの推計値だそうだ。感染症サーベイランス事業のCOVID-19定点は約5000とのことだが、よほどどちらかが偏っていなければ、感染者数推定値も推定精度も同じくらいになると思われる。感染症サーベイランス事業からの感染者数推定値の報告は、リアルタイムでもできるはずだが、かなり遅くなると思われるので、モデルナは偉いと思う。(2023.5.21)

モデルナによる独自の4,100定点から推定されたCOVID-19患者の毎日報告は大変ありがたい試みだが、縦軸を対数軸にできるオプションがあればいいのになあ。あるいは数字を出してくれれば、自分で作図できるんだが。(2023.5.27)

2009年のパンデミックインフルエンザはCFRは極めて低かったが、H1N1とはいえそれまでヒトに感染したことがない「新型」だったのでほとんど免疫がなく感染者数のピークが夏に来ていたことを思い出せば、コロナ対策の行動変容のおかげで冬にインフルエンザも流行しなかったために抗体をもっていない人が大多数なわけで、コロナ対策の行動変容をいきなり完全にリフトしてしまっては、感染経路が半分くらい同じインフルエンザも(とくに学校で唾液が付着したボールとか机とかを経由して)流行するのは当然だと思う。学校での手洗いうがいは徹底し続けることと、換気が悪い場所ではマスク着用を続けることで、大流行は防げるはずだが。今の状況は、流行するべくしてしているのだといえるだろう。インフルエンザだけでなく、COVID-19と感染経路が一部でも共通する、免疫が長続きしない呼吸器感染症すべてに当てはまる話だが。(2023.5.30)

2日金曜に人口動態統計の2022年月報年計(概数)が発表されていて(詳しくはこの概況pdf参照)、世間ではTFRが1.26と2005年以来の過去最低タイとなったことが騒がれているが、都道府県別の死因別死亡を見ると、COVID-19が死因の7位になっていたことが確定した。6位か7位だろうと思っていたが誤嚥性肺炎より少なかった。米国では2020年以来、心疾患、悪性新生物に次ぐ第3位で、それに比べたらCOVID-19による死亡への影響は、日本では行動変容などのNPIsをきっちりやっていたおかげで、2022年までは少なかったといえる。とはいえ、2019年までは存在しなかった病気による死亡が死因の7位で5万人近く亡くなっているということは重く受け止めるべきだと思う。もっというと、死因別死亡のうち前年からの増加数でいえば、COVID-19が3万人を超えて1位で、2位が老衰の約2万7千人、3位が心疾患の約1万8千人と、おそらくどちらもCOVID-19の間接的影響を含んでいる(2021年、2022年と加速度的に増えていることが、概況の図6を見るとわかる)。(2023.6.3)

人口学会2日目に参加した企画セッション1「新型コロナウイルス感染症パンデミックに伴う死亡の分析」についてのメモはリンク先参照。(2023.6.11)

飯島先生からメールで、大疫考現学―新型コロナの資料や記録、記憶を残すための台湾・成功大学の試み(2023年5月20日)をお教えいただいた。(2023.6.23)

モデルナの4000定点からの推定値を見ると、COVID-19の新規感染者数は直線的に増加中で、既に5万人/日近いレベルに達している。なぜ指数増加でないのかは謎だが、定点からの推定は、感染者が定点医療機関を受診して確定診断がついた数に基づくわけで、感染しても受診しない(あるいはできない)とか、医療機関で検査しないとかいった事例が増えると、検出漏れが増えているため過少推定になっている可能性はあるかもしれない。世間では収束したとか夏には第9波といった甘い見方が広まっているが、何度も書いてきたように、世界中ほぼすべての地域で、現状は、Kofmanらのいう「大炎上」であって収束でも共存でもないので、常在する中で新規感染者数が上ブレしたら医療資源が逼迫する(現在の沖縄のように)リスクは常にあって、それが何度も繰り返されるという事実から目をそらすべきではない。政府は対策を諦めただけであって、問題が収束したわけではない。この現状を踏まえたら、個人ができることは、3回のワクチン接種を受け、無理のない範囲での行動変容を続けることだと思うし、自分は頻回な手洗いと換気と人混みでのマスクは続ける。(2023.6.24)

ふと、COVID-19によるDALYs(障碍調整生存年)ってどういう計算が出ているのだろう? と思って検索してみたら、いろいろ論文が出ていた。リファレンスリストがまとめられているサイトもあった。Singh BB et al. "Disability-adjusted life years (DALYs) due to the direct health impact of COVID-19 in India, 2020." Sci Rep 12, 2454 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-06505-z(インド)、Shedrawy J et al. "The burden of disease due to COVID-19 in Sweden: a disability-adjusted life years (DALY) study", European Journal of Public Health, 32(Supplement_3) https://doi.org/10.1093/eurpub/ckac131.568(スウェーデン)、Tsai H-C et al. "Disease burden due to COVID-19 in Taiwan: Disability-adjusted life years (DALYs) with implication of Monte Carlo simulations" Journal of Infection and Public Health, 16(6): 884-892, 2023. https://doi.org/10.1016/j.jiph.2023.03.028.(台湾)など、各国で行われた計算もあったが、Gebeyehu DT et al. "Disability-adjusted life years (DALYs) based COVID-19 health impact assessment: A systematic review protocol" PLOS ONE, 2022. https://doi.org/10.1371%2Fjournal.pone.0274468にプロトコルが示されたレビュー論文も既にpublishされていた。Gebeyehu DT et al. "Disability-adjusted life years (DALYs) based COVID-19 health impact assessment: a systematic review." BMC Public Health 23, 334 (2023). https://doi.org/10.1186/s12889-023-15239-0である。PRISMA 2020ガイドラインに従って検索したら1459文献がヒットし、そのうち基準に当てはまった12論文をレビューしている。全世界でみると、COVID-19によるDALYsは他の感染症によるDALYsに比べてずっと大きく、その大部分はYLDsではなくYLLsによるとしている。Long Covidの問題や、救急の逼迫やCOVID-19によって持病が悪化したり老衰が加速して亡くなるなどの関連死が十分に考慮されているのか若干気になったが、これらの研究のポイントは、2020年春には既にわかっていたように、基本的にはCOVID-19は急性感染症であって2、3週間以内に治るか亡くなるか決まってしまうというところだと思われる。(2023.6.24)

Long Covidは発症者の1/3(2023年8月12日)

Puthussery, J.V., Ghumra, D.P., McBrearty, K.R. et al. Real-time environmental surveillance of SARS-CoV-2 aerosols. Nat Commun 14, 3692 (2023).はとても面白いアイディアの論文。空気をポンプで引きこみ、バッファに溶かすところを示したMethod 1は実用性高そうだが、鍵となるMIEバイオセンサーが検出限界はかなり低いのは良いとして、Supplementary Method 2の(b) Specificityとして示されている、SARS-CoV-1にはほとんど反応しないが、SARS-CoV-2には濃度依存的に応答するというデータだけでは特異度の情報としては不十分であるように思う。なぜ普通にカットオフを決めて、同所で別途連続採取したものを個別にRT-PCRで陽性/陰性判定したものをgold standardとして普通に計算すれば得られるはずの特異度を示さないのかがわからない。(2023.7.17)

Twitterで流れていたBejaoui Y et al. "Epigenetic Age Acceleration in Surviving versus Deceased COVID-19 Patients with Acute Respiratory Distress Syndrome following Hospitalization"というプレプリントサーバに載っている論文、まだちゃんと読んでいないが、COVID-19に限らず、体細胞に蓄積する損傷を増やす感染症は他にもあるので、我々のヒトの死亡の病因論モデル論文を考えればありそうなことだと、英文でtweetしてみた。(2023.7.25)

Public Health Seminarはワクチン接種の話を扱ったが、ちょうど昨日付でWHOからThe Big Catch-Up: An Essential Immunization Recovery Plan for 2023 and Beyond(WHO、2023年7月26日)という報告書が出ていて、COVID-19パンデミック下で麻疹やDTP三種混合ワクチン未接種のまま2歳を過ぎてしまった子供が増えたことにどう対処すべきかという戦略を論じていたので紹介し、COVID-19ワクチンの接種戦略についてもCOVAX FacilityGlobal COVID-19 Vaccination Strategy in a Changing World: July 2022 updateWHO SAGE Roadmap for prioritizing uses of COVID-19 vaccines: An approach to optimize the global impact of COVID-19 vaccines, based on public health goals, global and national equity, and vaccine access and coverage scenarios(2023年3月30日)や発表当時の日本語メモでも触れたTemporary Recommendations issued by the WHO Director-General to all States Parties(2023年5月5日)を紹介しながら解説していたら、International Travel and Healthや他のワクチンの各論に触れる時間がなくなってしまったので、各自読んでおくことを推奨しておいた。(2023.7.27)

7月28日に去年の簡易生命表が発表されていた。2019年まで存在しなかったCOVID-19による死者が前年比3万人くらい増えているので当然のこととはいえ、平均余命は2年連続で短縮していた。もっとも、高齢者の死亡が多いので(後で年齢別qxのグラフを最近5年分くらい描いてみようと思う)、死因別損失余命の表でみると、COVID-19によるゼロ歳損失余命は去年でも男性0.24年/女性0.20年と、悪性新生物の男性3.19年/女性2.74年、心疾患の男性1.41年/女性1.19年、脳血管疾患の男性0.66年/女性0.58年、自殺の男性0.60年/女性0.34年に比べるとかなり小さい。とはいえ、これはまだ去年のさまざまな対策をしていた時点での話なので、ほとんどすべての対策をやめてしまった(5月に書いた通り、WHOはPHEICから長期管理への移行を提唱したのだが、日本政府は長期管理として示されたことはほとんど何もせず、単純に対策をやめてしまった)今年5月以降にどうなるかは注意しておくべきだろう。ちなみに、生命表と同日に発表された人口動態統計2023年5月速報では、5月の死者数は前年とほぼ同じだったが、6月以降の推移も注意しておくべきと思う。(2023.7.31)

このtweetを見て、WHOがlong term managementの3番目の包括的モニタリングの1つとして推奨した下水中のSARS-CoV-2のRNAモニタリングを米国では政府がやっているのかと思って探してみたが、Officialなものはわからず、The Biobot Network of Wastewater Treatment Plants: Advancing Wastewater as a Public Health Platformが見つかった。現在の米国での下水のSARS-CoV-2濃度は、数百コピー/mLで、一日当たりの新規感染者数推定値は数十万ということなので、日本と同様に常在化しているのは間違いない。日本の下水モニタリングはを調べてみたら、検討会とかAMED研究班とかはいくつかあったが、現在は、国交省の事業としていくつかの自治体で週単位の更新がされている状態のようだ。少し謎なのは、札幌横浜では検出できている1万コピー/Lという濃度レベルが仙台では検出限界以下になっていること。なぜ測定方法を揃えないのだろう。ちなみに、日本の下水中SARS-CoV-2濃度は米国より一桁低い感じだが、日本と米国で雨水や一般生活排水の扱いが同じかどうかわからないので、これだけでは現在の日米のCOVID-19市中流行状況を比較することはできなそう。何かキャリブレーションする物質があれば良いのだが。(2023.8.5)

いま全世界で急速拡大中のEG.5.1という変異株は、日本でも急速拡大中のようだ。とくに重症化率が上がっているという情報はないが、long covidのリスクがどうなっているかはまだわからない。(2023.8.5)

UCLA HealthBritish Heart Foundationの情報によると、COVID-19は大抵の人は1~2週間で回復するけれども完治には3ヶ月と書かれている。12週以上症状が直らなかったらlong covidとしてケアが必要だが、肺と脳神経系へのダメージなので投薬やリハビリをしても治癒には相当な時間がかかるようだ。しかも発症した人の3人に1人はlong covidになるというのだから、やはり罹らない方が良く、人混みや換気が悪い場所でのマスクや手洗いなどの感染予防は継続すべきだろう。しかもそれは従来の株の話なので、EG.5.1や今後発生するであろう変異株でもそのままなのかはわからないというのが最も恐ろしい点。(2023.8.5)

ナショジオ日本語版では情報源の書誌情報もリンクもないのが解せないが、英語版の元記事では原著論文へのリンクがあって詳細を辿れる、COVID-19と心疾患の関連についての記事。後でちゃんと読もう。けれども今日の昼間はR虎の穴こと応用統計学集中講義2日目なので暇がない。(2023.8.11)

神戸市の新型コロナウイルスの基礎知識(2023年8月8日が現時点で最新のアップデート)は、情報源のリンクも多いし、比較的よくまとまっていると思う。科学的知見に反するこんな通知(2023年8月9日付け)を出してしまう厚労省よりずっとまともだと思う。(2023.8.11)

感染研の新型コロナウイルス感染症サーベイランス速報・週報:発生動向の状況把握は、変異株の情報も含めてまとまっているが、1週間以上前の状況しかわからないのが痛い。(2023.8.12)

ピロラの性状(2023年9月20日)

G2P-Japanの新しい研究成果として、プレプリントだが、「BA.2.86の伝播力、感染性、免疫抵抗性」。EG.5.1同様、これまでのワクチンによって誘導される抗体はほとんど効かないとのこと。(2023.9.8)

いわゆる第9波はEG.5とEG.5.1(エリス)が主流と報道されているが、既存の株からの変異箇所が多いBA.2.86(ピロラ)も国内に侵入しているし、政府が一切のNPIsをしていない現状では、まだ新規感染者は増え続けるだろう。パンデミックの着地点としてKofmanのいう大炎上(conflagration)になってしまった今年5月以来、こうした事態が反復されることは見えていたが、残念でならない。最近相次いで認可されたファイザーやモデルナのXBB対応1価ワクチンはエリスやピロラにも有効とのことで、厚労省の資料によると2023年9月20日からの接種をこれで行うとのこと。重症化予防を目的に公費で接種が勧奨されるのは65歳以上の高齢者と基礎疾患ありの方だけだが、厚労省の告知では希望者全てが受けられるとなっていて、神戸市では最初のシリーズを接種済みの人は受けられる(ただし、これから初回接種の人については明記されていない)ので、職域接種もそれなりに実施されそうだ(神戸大で実施されるなら申し込むつもり)。WHOの今年8月時点の推奨でも健常な成人は3回接種まででOK、それ以上の追加接種は高齢者、基礎疾患ありか極度な肥満の成人、生後5ヶ月以上の免疫不全者、妊婦、最前線の医療従事者を含む優先順位の高いグループ対象とのことなので、概ね合っている(日本では医療従事者は4回目以降の追加接種「しうる」けれども、なぜか英独仏と違って推奨はされていない点が異なる)。(2023.9.14)

このポストから始まるXのスレッドで、G2P-Japanの新しい論文(ただし、Original Research ArticleとしてではなくCorrespondenceであり、図表や詳細データはSupplementary Materialとしてダウンロードする必要がある)が紹介されているが、これは9月8日にメモしたプレプリント論文が早くもアクセプトされてLancet Infectious Diseaseに載ったということだ。医科研のサイトに日本語プレスリリースも出ていて、日経新聞も取り上げている。日経の記事では日本のマスメディアには珍しく、プレスリリースのpdfファイルがリンクされていた。潜在的関心は高いということか。(2023.9.19)

参考

JN.1の波など(2024年1月21日;23日追記)

既に出版されてから随分経つ論文だが、Ueda M et al. "Identifying High-Risk Events for COVID-19 Transmission: Estimating the Risk of Clustering Using Nationwide Data"(Viruses, 6 Feb 2023)は手間のかかるデータ解析により、率比70を超える場所を指摘している。(2023.9.21)

12月のR研究集会に「COVID-19関連の情報整理におけるRの利用」というタイトルで演題申込した。湊川隊道見学よりもR研究集会を取ることにした以上、発表もしておきたい。まあ採択されるかどうかわからないが。(2023.10.14)

Sacco PL, Valle F, De Domenico M. Proactive vs. reactive country responses to the COVID-19 pandemic shock. PLOS Glob Public Health. 2023 Jan 24;3(1):e0001345. doi: 10.1371/journal.pgph.0001345. PMID: 36962977; PMCID: PMC10021818.に、遅ればせながら目を通してみた。たぶんGlobal Public Healthとしてはこういうアプローチが重要なので、掲載誌にも納得がいった。(2023.10.14)

2年前の論文だが、Demichev V et al. "A time-resolved proteomic and prognostic map of COVID-19" Cell Systems, 12(8): 780-794.e7, 2021は、総当りで時間経過に伴うタンパクの変化を調べて予後との関連を機械学習で探った研究のようだ。2020年の春先にはD-Dimerが重症化と関連しているとかいう論文があったが、こういう方向への発展もあったんだな。それが最近の研究だと、Potts M et al. "Proteomic analysis of circulating immune cells identifies cellular phenotypes associated with COVID-19 severity" Cell Reports, 42(6), 112613, 2023とか、Figueirêdo Leite GG et al. "Understanding COVID-19 progression with longitudinal peripheral blood mononuclear cell proteomics: Changes in the cellular proteome over time." iScience, 26(10):107824, 2023とか、Hanson BA et al. "Plasma proteomics show altered inflammatory and mitochondrial proteins in patients with neurologic symptoms of post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection." Brain Behav Immun., 114: 462-474, 2023につながってくるのか。正直これだけたくさんの要因が関係していると言われると、もはや個人ごとに違うというのと変わらない気がしてくるが、そうでもないのだろうか。(2023.11.8)

たぶん基礎知識として、Li Y et al. Both simulation and sequencing data reveal coinfections with multiple SARS-CoV-2 variants in the COVID-19 pandemic. Computational and Structural Biotechnology Journal, 20: 1389-1401 (2022)Campos C, Colomer-Castell S, Garcia-Cehic D et al. The frequency of defective genomes in Omicron differs from that of the Alpha, Beta and Delta variants. Sci Rep 12, 22571 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-24918-8Markov PV, Ghafari M, Beer M et al. The evolution of SARS-CoV-2. Nat Rev Microbiol 21, 361–379 (2023). https://doi.org/10.1038/s41579-023-00878-2くらいは読んでおかねばならないだろう。(2023.12.2)

統計数理研究所のR研究集会での自分の発表(リンク先はプレゼンに使ったpdf)は、まあ無事に終わった。(2023.12.16)

何度か書いたように(例えば鐵人三國誌2022年9月13日とか、「これからのCOVID-19対策」スライドの最後とか)、COVID-19パンデミックを「終息」させるためには、重症化予防が主な効果である現行ワクチンでは不十分で、高い感染防御効果のある経鼻スプレーワクチンが広く実用化されることが1つの可能性として存在する。一昨日のDr. Eric TopolのXへのポストで、"Robust mucosal immunity vs Covid, which can achieved by an inhalation vaccine (IT below), in non-human primates, provided near complete protection for blocking infections, greatly exceeding that of shots."とあったので原著のNature論文 McMahan, K., Wegmann, F., Aid, M. et al. Mucosal boosting enhances vaccine protection against SARS-CoV-2 in macaques. Nature (2023)にざっと目を通してみたら、たしかにまだサルの実験レベルで、残念なことに経鼻では粘膜への免疫は筋注とそれほど変わらない感じの結果だったが、気管内(intratracheal)の噴霧(内視鏡で直接気管に吹き付けたと419行目に書かれていた)ではかなり高い免疫が粘膜についたように見える。経鼻スプレーが有効だったら良かったのだが、たぶん何かもうひと工夫必要ということだろう。(2023.12.18)

『疲労とはなにか』(講談社ブルーバックス)を第4章まで読み進めて衝撃に震えている。long covidとの共通性ということで、(数日前に期待していると書いたばかりなのだけれども)COVID-19の経鼻スプレーワクチンにそんな潜在的な問題点があるとは(もちろんスパイクタンパク抗原を工夫すれば良いとも書かれているが)想定外だった。ご自身の研究成果については図やオッズ比が明記されているのである程度裏付けも示されているが、それ以外の部分もあまりに衝撃的なので、引用情報については原著論文を読んでみたいと強く思った。そこで気づいたのだけれども、残念なことに出典が明記されておらず、文献リストもついていないのでちょっと検索したくらいでは見つからないのだった。講談社ブルーバックスのサイトで文献リストを提供してくれないだろうか。(2023.12.21)

モデルナのサイトを見ると、COVID-19の新規感染者数は11月中旬から増加中で、5万人/日に近づいている。感染研のサイトでは変異株情報は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株 BA.2.86系統について 第2報(2023年11月16日)が最新だが、WHOの変異株情報を見ると、BA.2.86にさらにS:L455Sという変異が加わったJN.1がVOIsに指定されている。JN.1の初期リスク評価(WHO、2023年12月18日)によると、世界ではJN.1が新規感染者に占める割合は27%まで増えていて、これまで広まっていたXBB.1.5やEG.5.1からの高い免疫回避能をもつが、重症度が高まっていることを示す証拠はないので、全体としてのリスク評価はまだLowとなっている。しかしこうやって新たな変異が加わりながら再流行を続けていく限り、COVID-19はいつまでも終わらず常在して大炎上(conflagration)を続けるのだし、いつか重症度が高まるような変異が起こるかもしれないし、後遺症リスクを下げる方法も判然としないので、当面、常時マスク(とくに室内の面談の場で)はやめるわけにはいかない。(2023.12.28)

独立したフリーのローカルメディアであるヒューストンプレスの記者、Faith BugenhagenさんがXにポストした、Dr. Peter HotezとDr. Louis Ostroskyへの取材記事。Dr. Hotezが、ヒューストンではJN.1が減らず、インフルエンザが増加中だが、XBB1.5変異株の成分を含む新しいワクチンはJN.1に有効だというプレプリント論文が出ているし、JN.1が2月頃には減ることを期待していると語ったとのこと。海外のメディアには珍しくソースへのリンクが見当たらないが、Dr. Hotezが触れたプレプリント論文は、たぶんTartof SY et al. "BNT162b2 XBB1.5-adapted Vaccine and COVID-19 Hospital Admissions and Ambulatory Visits in US Adults"か?(2024.1.4)

プレプリントといえば、Huang Y et al. "Association between Cardiovascular Disease Risk and long COVID-19: A Systematic Review and Meta-analysis"も気になる。メタアナリシスの結果、long covid患者で心疾患リスクが1.68倍(95%信頼区間が1.55から1.81倍)になっていることが示されている。(2024.1.4)

Dr. Eric Topolが半信半疑で? ポストしているが、BMJ Nutrition, Prevention and Healthというジャーナルに載っているこの論文(https://doi.org/10.1136/bmjnph-2023-000629)は、2022年にブラジルで行われたPandora Projectという前向きコホート研究の結果、ベジタリアンと植物ベースの食事をするとCOVID-19の罹患率が約40%下がるとのこと。読んでみないと。まだアップロードされていないようだが、解析を再現可能なデータもSupplementary Informationとして公開されるらしい。(2024.1.10)

モデルナのサイトを見ると、年明け直後に微減していたCOVID-19の推定新規感染者数が急増中。おそらく多くはJN.1と思われる(感染研の週報2024年第1週によると、2023年第52週のゲノムサーベイランスによると約1/4がJN.1)。とはいえ、個人ができる日常対策は常時マスクと手洗いくらいとできるだけ三密を避けるという、2020年から続けていることしかないのだが。年末にiScienceに出た理研グループの研究(プレスリリース)は、iPS由来の培養細胞を使って、SARS-CoV-2が心筋組織に持続感染する可能性があり、低酸素ストレス曝露によってウイルスが再活性化し血管網の損傷を招く可能性が示唆されたというもので、感染経験者で心疾患の潜在的リスクが上がっている可能性を示しているとのこと。mRNAワクチンとは何の関係もないのに、これを参照した形にしてワクチン忌避を煽るinfodemicにつながりそうなメッセージが散見されるが、惑わされないようにして欲しい。(2024.1.19)

G2P-Japanグループから、JN.1のウイルス学的特性についての論文(リンク先は東大医科研のプレスリリース)が出ていた。免疫回避能が相当に上がっているため、GISAIDによると欧米では既に新規感染者の60-80%程度がJN.1とそれがさらに変異したもので占められているので、おそらく日本でも遠からずそうなるだろう。(2024.1.23)

岩波書店からの封筒が届いていたので何だろうと思ったら、飯島渉『感染症の歴史学』岩波新書、ISBN 978-4-00-432004-3(Amazon | honto | e-hon)の謹呈であった。ご恵贈ありがとうございます。COVID-19、天然痘、ペスト、マラリアの流行と対策事例を歴史学の立場から論じた本で、コンパクトにまとまっていて読みやすい。ぼくも同じ基盤Aの研究班に入っているので、感染症データ・アーカイブについては関わっているのだが、たぶん意図的にぼくが書いてきたページを含むネット上の言説への言及を省いたのだろうと思われる(YouTubeから百万本以上の誤情報動画が削除されたけれども、歴史学の立場からはそれも何らかの形で保存されるべき、という新聞記事を引用する形での言及はあるが)。もっとも、典拠を出版物に絞ったおかげで、ちゃんとした文献リストがついているわけで、それはそれで一理あるのかもしれない。コロナ文学の可能性として犬養楓『トリアージ』、夏川草介『臨床の砦』『レッドゾーン』がわりと詳しく取り上げられており、読んでみたくなったが、福田和代『繭の季節が始まる』のようなSFへの言及はなかった。たぶん川端裕人『エピデミック』の流れを汲むコロナSFもいくつもあったはず。あと、海堂尊の『コロナ黙示録』『コロナ狂騒録』はあまりにエゲツナイので言及を避けたのだろうか、読まれていないのだろうか?

一点だけ、pp.10に『二〇二三年五月八日、新型コロナを季節性インフルエンザと同等の感染症と見做し、医療体制などを平常に戻しました。これが事実上の「収束宣言」で。五月五日、WHOも緊急事態宣言を解除しました』とあるのはミスリーディングだと思う。当時も書いたが、WHOの宣言はPHEICから長期管理への移行であって、包括的なデータ収集は続けなくてはいけないのに、日本は臨時に確立していたデータ収集体制をとりやめてしまうと集計も推計も遅くなりすぎて即時対応ができない。しかも「季節性インフルエンザと同等」というのは2022年夏頃から(たぶん意図的に作られた)誤情報に基づく政府決定であって、現状は大炎上が続いている。JN.1を見てもわかるように、感染の半分は発症前に起こってしまうCOVID-19では弱毒化の淘汰圧がかからないので、変異に弱毒化の傾向が維持される保証はまったくない。まだ過去ではない、という点は強調しておきたい。(2024.1.23)


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