Latest update on 2021年7月4日 (日) at 18:43:39.
【第348回】 今日は校正作業をしたい(2020年3月26日)
- 7:15起床。レトルトカレーと冷や奴とレトルトご飯で朝食。ラオスのコーヒー豆を挽いて淹れ,水筒に詰めてから出勤。今日こそは『Rで学ぶ人口分析』の校正作業をしたい。
- インペリグループから2つ(第10報と第11報),新しい論文が出ていた。Atchison C et al. "Public Response to UK Government Recommendations on COVID-19: Population Survey, 17-18 March 2020"(2020年3月20日掲載)とAinslie KEC et al. "Evidence of initial success for China exiting COVID-19 social distancing policy after achieving containment"(2020年3月24日掲載)。前者は,2020年3月16日に英国政府がアナウンスした新しい対策(不可欠でない他人との接触を止める,すべての不要な旅行を止める,可能なら在宅勤務する,パブ,クラブ,劇場などの社交場を避ける,もし家族に発熱や持続する咳を新規発症した人が出たら14日間自宅隔離することを含む)の公衆の反応を見るため,インペリのPERC(患者経験研究センター)によって行われたYouGov調査(80万人以上が登録しているパネルからランダムサンプルしてメールで協力依頼し,2020年3月17-18日に2108人の英国成人対象にオンラインインタビューされた)の結果である。77%が英国でのCOVID-19のアウトブレイクについて心配していて,陽性になっていない人の48%が将来罹ると思っていて,93%は少なくとも1つの個人防御行動をしていて(83%が手洗いをこれまでより頻繁にやっている等),88%の人は専門家に言われたら7日間は自己隔離できるしやる気があるけれども,在宅勤務が可能なのは44%(専門職等は60%だが非熟練労働者等は19%)しかおらず,政府のガイダンスがあれば行動を変えられるという人は71%いたが18-24歳に限ると53%しかおらず,屋外,就労,買い物,学校への外出を避けることなど,社会的に距離を置くことよりも,手洗い,症状のある人との接触を避ける,咳エチケットを,COVID-19の拡大防止に「非常に有効」な方法として認識している人が多かったとのこと。こういう社会調査パネルは日本でもたくさんあるはずだから,専門家会議やクラスター対策班の活動と必ずしもリンクしなくて良いので,どんどんやったら良いと思う(というか,既にやっていても不思議はないのだが,報告は見つからない)。後者は,中国がCOVID-19から脱出するための,封じ込め達成後の社会的に距離を置く政策が初期段階では成功している証拠,というタイトル。中国は,1月23日に武漢,次いで他の省でも厳密な社会的隔離政策を導入することによって,2月初期には毎日2000-4000人の新規確定患者が報告されていたアウトブレイクのピークを過ぎ,封じ込めに成功した。それは同時に経済に大きな影響を与えた。再流行させずに経済活動を再開できるのかわかっていないので,この研究では,報告された患者からの感染力(RtとしてRのEpiEstimパッケージで推定)を経済活動の代理変数として毎日の都市内移動データ(GPSトラッキングで捕捉されたBaiduの移動統計に基づく,Exante Dataから提供されたもの)と比べている。当初,流行に最も強く影響された5つの省と北京で都市内移動とRtは非常に強く相関していたが,都市内移動が増えるにつれてはっきりしなくなった。香港での同様な分析では,大きなアウトブレイクを避けつつ中程度の局所的な活動を維持できることが示された。将来再流行しないとはいえないが,非常に強力な社会的隔離政策によって封じ込めを達成した後,ある程度その厳しい隔離政策から脱出できたことを意味する。中国がパンデミックの最も進んだステージにいるので,中国での政策は,一度封じ込めを達成できた他国での意思決定にも情報を与える,としている(2月15日頃に概ね封じ込めに成功してから,中国では1ヶ月掛けて徐々に都市内移動が増えていっても,今のところ再流行はしていない,ということで,朗報ではあるが,外国からの感染者の流入があったら,結果は違ってくるかもしれないと思う)。
- 明日の夜21:00から,TWEEDEESがスタジオアコースティックライブを生配信「おもろいもんは色々あるで」。無料生配信とは太っ腹だが,「この配信はアーティスト支援サービス・bitfanによる企画で、新型コロナウイルスの影響で自粛が続くライブパフォーマンスを今後どういった形で見せていくかという課題へのトライアルとして実施される」とのことなので,将来の有料配信の可能性を探る意味もあるのだろう。凄く良い試みと思う。ぼくは会場でのライブの1/3くらいの課金なら払う。安くする分3倍の視聴者が集まれば,新しいビジネスモデルとして成り立つはず。課金システムが難しいなら,クラウドファンディングで資金を募っても良いだろうし,むしろ政府が金を出しても良いのではないか(どこまでサポートするか線引きが難しいか?)。「プリン賛歌」アコースティックバージョンとかやって欲しいなあ。
- 日本オセアニア学会の学会誌People and Culture in Oceaniaの最新号が届いた。最初の論文(Furusawa and Siburian)は,リモートセンシングの時系列データに最尤推定でモデルを当てはめて,植生の変化を伝統的な暦が予測しているかを議論するというアクロバティックなもの。福井さんの論文は,クルーズ船観光ビジネスがヴァヌアツのアネイチュム島の社会変化に与えた影響を論じていると思われるが,ご本人がtweetしていたニュースによると,クルーズ船がCOVID-19をもたらしたらしく,ロックダウンされていて,ビジネス面での影響どころではない大きな影響を受けている。古澤さんのロヴィアナ研究の単著について,Brian Allenによる書評も載っているのだが,べた褒めだな。何だか嬉しい。
- 上海でヒドロキシクロロキン+従来の治療群と従来の治療のみの群に15例ずつランダムに割り付けた研究の結果,2群間に有意差なしという論文が,Forbesで紹介されている。
- JCMに載っていたKuniya T "Prediction of the Epidemic Peak of Coronavirus Disease in Japan, 2020"(2020年3月13日)は,日本におけるCOVID-19の流行のピーク予測というタイトルで,SEIRモデルだがR0=2.6(95%CI 2.4-2.8)として初夏の時期にピークが来るとしている。感染者検出率は現実的にありうる値の範囲ではほとんどR0の推定に影響しないことも示されている。介入しない場合,10%検出できるとした場合,R0が2.6だと新規感染者報告数のピークは8月10日となり,1%しか検出できない場合,新規感染者報告数のピークは7月12日となるが,感染率β=0.26(R0=2.6に対応)を3月1日から介入実施期間中75%に下げられるとして,検出率1%の場合,1ヶ月介入だとピークは7月23日に遅れ,6ヶ月介入だと9月14日に遅れ,総感染者数は効果的に減少する,という結果が示されている。
- 相変わらずスーパーやコンビニやドラッグストアの店頭にマスクが出回らないままだ。2ヶ月以上も店頭から消えたままの商品が21世紀の日本で出現するとは想像しなかった。台湾みたいに購入制限をすれば流通が正常化しそうな気もするが,どうなんだろう。この辺りのことはマーケティングや流通の素人にはさっぱりわからない。
- 東北大の田中重人さんのtweetによると情報出して欲しいという話だが,もしかすると逐次公表するチャンネルがないだけかもしれない,とふと思った。ぼくも随分メディアからの問い合わせにはメールで答えたが,記事になったのは1割もない。自分は個人で契約しているバーチャルサーバに自力でメモを作ってアップロードし続けるという手段があるが,厚労省サイトに載せる情報の決定権が専門家会議やクラスター対策班になかったら,彼らがいろいろな形で情報を出しても,出口で取捨選択されてしまう可能性はある。リスコミがわかる広報担当を入れて専用ページを作ってそこに集約するとかしたら良いのだろうが,政府がそういう人材に声を掛けないのかもしれない。ネットやテレビでアクセス可能な情報や先日の記者会見を見ていても,敢えて隠すことはしていないと思った(明確に根拠を示すことはできないが)。
- flurryさんがクラスター対策がまだ論文として公表されていないのに信用するのかという含みのtweetをされたので以下のように返事した。「プレプリントサーバの3月3日付けの論文を見つけてから,受理された論文を毎日のように探していますが,まだ出ていないようです。クラスター対策をした効果についてのシミュレーション結果を含む論文も,まだ見つけられずにいます。査読の壁が高いのかと思っています。」「(承前)ただ,http://minato.sip21c.org/2019-nCoV-im3r.html#SPECIALISTS20200319の第1段落に書いたように,仮にスーパースプレッディングイベントとは別のメカニズムによる「市中感染者からの見えない感染がつながって同時多発的な感染者増加が起こること」があっても,クラスター対策(追跡と発生予防)をすればその分Rは落ちるでしょう」「(承前)押谷先生は孤発例は見えないクラスターと想定されていましたが,そうでなくて,クラスター感染(たぶんマイクロ飛沫の停留が鍵?)とは別に接触感染・飛沫感染で同時多発的にRが0.5~2くらいの感染が増えるのが孤発例の増加だとしても(論文ありませんが)クラスター対策の効果は変わりません」「プレプリントサーバに載っているデータと,2月15日のhttps://hopkinsidd.github.io/nCoV-Sandbox/DispersionExploration.htmlでR0のoverdispersionは十分示されているので,クラスター感染の存在を疑う理由はありません。」
- 国際協力研究科は4月20日開始,105分授業という。ぼくの講義は保健学研究科と国際協力研究科の院生に加えて現代日本プログラムに参加する交換留学生も受講するので,4月6日新学期開始(初回講義は4月9日),通常通り90分授業,かつ遠隔受講推奨,ということを知らせねばならない。が,どうやって知らせたら良いだろう? 自分が指導教員となる院生には直接メールすれば良いが,とくに交換留学生が難しいな……ということで,関係各方面にメールを打ってみた。
- Sakino Takahashiさんのtweetに対して,昨日書いた3つのシナリオをリンクして,「ぼくは先進国の都市住民にとって,1~3ヶ月のロックダウンを何度も繰り返すことは耐えがたいと思います。いまのうちに,ライフラインを確保しながらの長期間のロックダウンがどうやったら可能なのか,精緻なシミュレーションをしておく必要があると思います。」「(承前)社会システム工学とか環境科学方面でLCAをやっていた人たちにはノウハウがあるのではないでしょうか。」とtweetしたが,考えなくてはいけない間接的な影響は山のようにあるだろうから,多方面の専門家の叡智を集めなくてはできないと思う。誰か始めていないだろうか? それこそGitHubとかでオープンなプロジェクトとして進めると効率良さそうな気がするが。
- 気がつくと23:00を過ぎていたので帰途に就いた。
(list)
▼前【347】(学位記授与式など(2020年3月25日)
) ▲次【349】(会議とか(2020年3月27日)
) ●Top
Notice to cite or link here | [TOP PAGE]